真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回から延び延びになっていたロゼ主役の回となります。
帝都にある葛葉の里が一つ。
護国に携わる者達の拠点は、賑わっている。
大被害に伴う組織再編もあり、ここ数年間空里となっていた里には今再び住人が戻っている。
ただし、その顔触れはかつてと異なっていた。
新たな入居者は<彼方の御国>なる組織の者達。
帝都ヤタガラスの傘下、というよりも協力組織の彼らの住処となりつつある。
過去周回より来訪した亡国の者達の。
彼方の御国の来歴は複雑である。
これまで滅んできた数多の周回の中でも、彼らの周回の特徴は高い技術と停滞した社会、そして護国組織<超國家貴関ヤタガラス>の腐敗。
悲嘆を踏み付け人倫を冒涜し、名ばかりの護国を続けてきた腐敗した組織。
立場に関わらず、その有様に思う所がある者は組織内部に少なからずいた。
彼等はシュバルツバースの拡大及び邪神セトという、世界を滅ぼす災厄にも保身を続ける組織を見限り彼方の御国として行動を開始。
レイブンと呼ばれた男の策謀によって組織上層部が壊滅した事もあり、シェルターを奪取し、少数ながらも民間人を救助。
2年の潜航の後に、帝都ヤタガラスと接触し交流を持つに至った。
調査や実戦投入でのテスト、交渉の後に彼方の御国は帝都ヤタガラス、正確に言えば葛葉一族傘下への組み込みが決定。
当面の住居として幾つかの空里から、この里が選定されたという訳である。
正式な協力関係の締結により、拠点を手に入れた彼等は動き出している。
この世界で根付き、再びの護国を行う為に。
そんな彼らの一部は里でも一際大きい建物──仮の本部とされた建物の一室に集まっていた。
今回集まった者達の多くは若手から中堅の実務担当者。
トップとその側近はおらず、会議と言うよりは意見交換会というべき集まり。
肩肘張らない積極的な意見が出せる様に図っているが、その目は真剣である。
照明を落した一室のスクリーンに投影されるのは鮮明な映像。
一人称視点からの悪魔との市街地での、戦闘記録が再生されていた。
先日彼方の御国の構成員が関わった事件。
カジュアルを殺してレルム付近に潜伏した悪魔の討伐。
その記録映像であった。
AIによる自動補正により、ブレを極限まで減らされた映像に映るは赤い眼。
路地裏にて仁王立ちする血に飢えた悪魔。
『ニンゲン風情が……! 大人しく軟肉とMagを寄こせっ!』
血に飢えるは紫色の身体に蛮刀を携えた闘鬼ヤクシャ──機械式測定にしてLV57の怪物。*1
彼等からすれば例外を除き埒外の怪物は、蛮刀を掲げ斬撃を繰り出す。
『野蛮な誘いはお断りね』
斬撃に対して撮影者の仲魔がカバー。
物理耐性と弱体化で耐え、距離を取りつつ銃撃。
瞬時の二連射が闘鬼を撃ち抜くが、傷は浅く鼻で笑い。
『馬鹿め。その程度で俺が、ころ、せ』
膝から崩れ落ちうなだれる。即ち気絶状態。*2
GUMPに搭載されたチャンドラー*3による銃撃への気絶効果付与。
敵を蝕む効果が功を奏した形だ。
『とどめ、お願いします!』
『オーケー。油断せず行きましょう』
『グッ! しまっ』
気絶していたのは時間にすれば僅かだが、高速での戦闘には命とり。
冷気を宿した斬撃に切り裂かれ、とどめの銃撃に撃ち抜かれて闘鬼は斃れた。
悪魔の死体がマグネタイトに変換されるのを映し、映像は終了し照明が戻る。
「以上が二日前の戦闘の記録映像となります」
「……一先ずは負傷なく格上を倒した事を祝うべきだな。
おめでとう各務君」
「ありがとうございます」
厳めしい男の言葉に頭を下げたのは年若い女性。
群青色の首元で緩く揃えられた髪に、アンダーフレームの眼鏡、水色の瞳には確かな知性。
整った顔立ちは、冷たさを感じさせずぞれで居て大人びている。
キッチリと着込んだ服を押し上げる、質量のある双丘を始めとする魅力的なスタイル。
街を歩けば多くの異性の興味を引くであろう彼女もまた彼方の御国の構成員。
\カカカッ/
| 悪魔召喚師/ハッカー | LV43 | 装備:ライフル型武器COMP<バックドア> |
彼方の御国の電子防御を担当する彼女は、同時に優秀な召喚師でもある。
共にこの会議に出席しているレイとロゼに続き、彼女も又戦力として鍛錬を重ね。
つい先日もレイと共に市街地に出没した悪魔を倒し
持ち前の優秀な能力でこの世界に適応しつつあるが。
「ですがまだまだ足切りラインと言われるLV50には遠い。
支援を中心にするにしても、可能な限り早くLVを上げなくてはいけませんね」
「ううむ……」
「足切りラインが、50かあ……」
会議に出席した面々の多くが息を吐く。
この世界のレベルは、かつてからすると冗談のように高い。
足切りラインと信じがたい事に言われるLV50は彼方の御国では、レイ達数名のみ。
戦闘要員後方組問わず、敷居の高さに困惑を感じていた。
「魔丞と呼ばれる強大な元人間の悪魔か……高いLVにマガツヒスキルと呼ばれる独自のスキル。
こんな化物が何体も暴れているとは一体どうなってるんだこの世界は?」
「この間の病院防衛戦も大概だな。
レイやロゼが防衛した病院もそうだが、LV60以上がどうしてこんなワラワラ出て来る?」
「魔丞も結構な数狩られたらしいです。
各地で活動している最前線組がこれ幸いと狩っているとか」
「病院襲ったヤクザも殆ど返り討ちにされたんですよねー」
彼等の手にしたデータに並ぶのは数々の凶悪な敵性存在。
戦闘データを一目見ただけでも危険だと分かるが、その多くは死亡済み。
対する防衛側、ヤタガラスや社会維持に協力する
「ミスリルの方でも似たようなことは思っているだろうが、いつから世界はこの様な有様になったんだろうなあ……」
事務方の男の言葉に出席者の面々が同意する。
彼方の御国やミスリルを始めとする
それは現行世界のLVの高さである。
2度にわたるセプテントリオン戦を乗り越えたこの世界のDB達は精強極まりない。
知識や装備をアップデートし、LVを上げても過酷な前線で彼らに並ぶのは難しい。
護国側に加わった彼方の御国としては歯がゆい所だが。
「だが技術的な貢献は可能だ。
武器COMP等こちらから提供できる技術もある」
そう発現したのは厳めしい顔をした男。
頑健そうな体躯に見合わず、COMP等多方面の技術を修めた優秀な技術者だ。
「ヤタガラスの若手の試験結果も悪くない。
供与されたデジタライズの調整もほぼ完了。
レイやロゼの力になれるだろう」
「私も武器COMPの調整を進めています。
まだ時間がかかりそうですが経過は良好です」
彼方の御国の強みの一つは技術の高さ。
停滞し閉塞していた社会とはいえ高度に発展した各種技術。
武器COMPのみならず、各種の工学的技術は確かに有用。
それらはある程度の成果をすでに出している。
「この調子で帝都ヤタガラスとの協力を進めていきたいところです。
ただ────」
誠実そうな細面の男、かつてのヤタガラスで人員関係の調整担当。
彼の言わんとしている事は、皆分かる。
彼等の世界のヤタガラスは腐りきっていた。
年少者を含む人員の使い捨てに、人倫を無視した一族の強化、悪魔混じりを含む下級構成員の劣悪な扱い、その他非協力的勢力への暗殺破壊工作etc……悪行など挙げればきりがない。
シェルター内で育ったロゼを除けば、彼ら彼方の御国はかつてのヤタガラスに叛意を抱いたからこそ此処にいるのだ。
故に彼らの多くはこの世界のヤタガラスを完全に信じきる事はできていない。
過去の絶望と怒りを忘れていないからこそ。
「過去があるからこそ完全には信頼できない。
それでも同じ人間として、可能な限り手を取り合うべきでしょうな」
参加者の中でも年配の男が呟いた言葉に、幾人かが頷いた。
帝都ヤタガラスは今の所、かつての元老院の様に口先だけでなく、護国を成している。
独善に浸るのではなく、他者と協力し平穏を護らんとしていた。
『
『助け合える、協力できる、傷つけてこないだけで十分な人間が欲しい、どこまでも、もっともっと、たくさん欲しい』
『この
先日の会議で三好という男が言った通り、狂い腐ってないならば同じ人間として協力できる。
彼方の御国からは人と技術を、帝都ヤタガラスからは社会基盤と強さを提供し、この社会を維持し平和を護る為に共に活動する。
その過程で予期せぬ困難もあるだろうが、良好な関係を続けていきたい。
「……そう、ですよね。あの人達に人の心があると信じたいです」
「油断は禁物ですが、子供を使い捨てにはしていないようです。
元老院の盾にするような事は」
「えーっと僕も仲良くできたらいいと思います」
レイやチヒロも同意し、ロゼも頷く。
人間であるならば、協力出来る方が良い。
「その通りだ。
少なくともこの世界の帝都ヤタガラスは外道ではない。
前線には出ているが、あの子達も生きている」
「防人と言いましたか? 防衛部隊の子達にも良質な装備を供している。
幼子を使い潰す事はしまいとしているようです」
「ええ我々も護国以前に、人として励まねば」
出席者の中でも年長の者達が、何処か自分に言い聞かせるように呟く。
後悔の感情を滲ませて。
それぞれ内に秘める思いは違っても、たどり着いた楽園ならざる世界で生きる者として彼方の御国の面々は歩み始めていた。
当然ではあるが、レイやロゼもこの里に住まう葛葉一族として家を与えられている。
二人には丁度良い大きさの日本家屋。
外観こそ古式ゆかしいが、中には電化製品が設置されていた。
Wi-Fi等ネット関係設備も高品質で、セキュリティも完備。
高度な技術で創られたとはいえ、制限のあるシェルター産まれのロゼは不便さは感じない。
住み始めて間もないが、もうすでに自室として寛げる様になっていた。
「ロゼー入っていい?」
「どうぞー」
レイが扉を開けて入ると、ロゼはリモコン片手にTVを見ている。
自室用にしては大きいTV画面に映るのは特撮番組。
「ジードじゃなくてゼットっていうの見てるんだ」
「うん。ジードの客演回があるからね。
ファンとして見ておかないと」
ロゼはシェルター時代からアーカイブに有ったウルトラシリーズを視聴していたが、この世界では数年前に放映されたジードが非常に好きである。
かつての世界ではなかった──2010年代前半より映像作品が長く潰えていたものの、数年前からウルトラマンは連続してヒットを飛ばし、何度目かの全盛期を迎えているという。
故に全く知らなかったウルトラマンにロゼは興味を覚え、ジードを見た結果ドハマリし他のシリーズも見だしていた。
(ちょこっと見てみたけど確かに面白そうよね。
それにロゼからするとジードって……共感できるのかしら)
レイがざっと調べたところによると、ウルトラマンジードは強大な悪のウルトラマンベリアルに反魂香の様な回復アイテムとして生み出された存在。
そんな彼が仲間や先輩ウルトラマンのゼロと共に最高のヒーローになる物語だという。
奇をてらったようでいて王道の物語は人気が高く、この作品が近年のシリーズでは一番好きと言う人も多いらしい。
それらの要素を除いても、ロゼからすればウルトラマンジードという物語は輝かしく見えるのかもしれない。
彼女もまた人為的に産み出された存在であるのだから。
ロゼの実年齢は2歳。心身は実年齢より10歳以上成熟しているが、純然たる人ではない。
かつての<超國家貴関ヤタガラス>によって製造された人造人間であるのだから。
常ならぬ出自故の共感を感じているのかも。
なんてことを感じさせずロゼは一旦サイトを閉じてレイに向き直る。
最近忙しかったからこういう時間は久しぶりだ。
「レイはファフナーThe Beyondどう?
僕はエクソダスまで見たんだけど……やっぱりなんか、酷いことになってる?」
背徳的な生まれではあるがロゼは喜怒哀楽の感情を持ち、今日も生きている。
この世界に来てからはなおさらに。
前より強く、人間らしくなって来た。
「……ノーコメントと、しておくわ……うん」*4
「ああうん、エクソダスの後だもんね……」
「ただ人類軍も大人しくなったし、あのアルゴス小隊みたいなのは出てこなくなったわ」
シュッシュッとシャドーボクシングするレイ。
その目はまだ多少荒んでいた。
「レイは嫌いだねーアルゴス小隊」
「アイツ等見てると色々思い出すのよ。
下の方にもろくでもない奴結構いたからね」
レイの表情は少しばかり嫌そうだ。
かつての事を語る時の、いつもの表情。
(そういえば僕当時のヤタガラスについて知らないことも多いなあ)
実を言うとロゼは当時のヤタガラスの具体的悪行をそれ程は知らない。
何せ産まれる前の話である上に、レイ達がロゼの心理的健康を慮ってある程度渡す情報を絞っているようだ。
再度の接触時に備え、身を護る為の情報はよく教育されたが、当時について知らない事も多い。
「下の方もアレな人いたんだ。
悪名高い元老院だけが腐ってた訳じゃなかったんだね」
「ろくでなしにはろくでなしが集まるのよ。
ほら、前も言ったけど武器COMPが拡散してサマナーが粗製乱造されたじゃない。
アイツ等もよくやらかしていたわ」
レイがまだ子供、レイブンが前線を退いて間もない頃の事。
ガイア過激派の大規模蜂起の鎮圧に成功したものの、大被害を受けたヤタガラスの前に現れたのは武器COMPを手にした多数の
欲望に忠実な彼等は社会秩序の悪化、ひいては悪魔の露見を引き起こしかねない。
その為ファントムのみならずヤタガラスも多くを自組織へと吸収する事になった。
しかし吸収したサマナーは、組織への忠誠心も、力への矜持も持たない半端物。
当時のヤタガラスの
人手不足で指導及び監督は行き届いていたと言えなかった。
元老院に媚を売り私腹を肥やす者、
レイの記憶にある者達だけでも、随分とろくでなしが多かった。
「……最大のクズは元老院の奴等だけどね。
アイツ等の悪行数えてたら日が暮れちゃうわ」
「話してて楽しくない話ばかりだからねー」
ロゼからしても気分が良くない話だ。
聖遺物等から情報を復元し造魔ベースで造った母体の利用。
人造人間のロゼからすると、肌が泡立つような嫌悪感を感じる。
(だからレイやカンナさん達は僕の前であまり話さないのかな?)
姉のような存在であるレイや、怖そうでいて誠実親切なカンナに感謝。
少女は改めてそう思った。
「この世界のヤタガラスはそれよりはまともだと思うし、思いたいけど。
三ノ輪さんや東郷さんも生きているし。
配下の子供を
レイが知る限りでは帝都ヤタガラスの戦士である少女達は実に生き生きとしている。
洗脳しかり、思考誘導された様子もなし。
数年前よりの戦力不足の為前線に出ているが、家族からも大切にされているようだ。
親御さんの何人かは、傘下の自分達に同年代だからと挨拶にまで来た。
前の世界では考えられない事だ。
この間も先日所用あってこの里に来た東郷さんのお母さんが、娘と仲良くしてやってくださいとお菓子まで貰ってしまった。
ちなみにちょっと雑談した所東郷さんのお母さんは若く見えるが三十X歳らしい。
東郷さんは大人びているが、現在十X歳。という事はつまり……。
「oh……利家」
「やめなさいっ」
世の中あまり考えない方がいい事もある。
「よそ様の家庭の事情を知ろうとするのは良くないわよ。
まあ、その、ね。気になるのは分かるけどね」
年頃の少女として気になる事がある。
皆とてもいい子で仲良くなれそうではあるが。
「夏凜や乃木さん達全員、佐々木さんと────」
「エッチな事してるんだ……!」
二人は顔を寄せ、他に誰もいないのに声を潜めて話す。
この間知ってしまった、恐るべき事実について。
佐々木というのは先日の会議*5に出席していたキリギリスの有力サマナーだ。
外見からすると20代半ば程に見える美青年。
物腰は柔らかいのに、一目では計り知れぬ強靭な印象のある、何処か不思議な人だった。
彼はレイブン──この世界の雨柳と同様に帝都ヤタガラスとつながりの強いフリーだという。
詳細な事情は知らないが、彼女達の婚約者同然の扱いを受けているらしい。
三ノ輪銀、乃木園子、三好夏凜に、東郷美森、鷲尾須美の二人。
いずれもヤタガラス所属か、あるいは縁深い少女達の。
しかも彼女達も程度に差こそあれど、彼に好意を抱いているとか。
其処までならめでたい話だが。
問題は────全員佐々木氏と契っちゃってる事である。
先日の会議の翌日も、何処か破れかぶれな笑顔の佐々木と艶やかな笑顔の5人が、一緒の家から出て来た。
三好兄と脳破壊おじさんと神造魔人の脳は壊れた。あーあ。
レイやロゼが見た時には分からなかったが、後でちらりと見た光景──頭を抱える佐々木や親御さんに説教される園子を見て。
秘かに聞いてみた所大体の事情は把握した。
いやこの世界の
「婚約者とは聞いていたけどあそこまで行っているとは……一体何があったのかしら」
「四国行った時夏凜ちゃん随分と惚気ていたけどあれで一番佐々木さんとの、なんというかキャリア短いはずなのに?」
「いや私も分からないわよ。
ただもう純愛ならいいんじゃないかしら。
私はレイブンが妻一人にJK三人、通い妻一人いるの聞いて開き直ったわ。
脳破壊おじさん扱いは見なかったことにする」
「おじさん意外とモテるんだねえ」
世の中色々な事情があるんだなあとロゼは思う。
まあその程度の理解にしておいた方が色々良さそうだ。
「あ、そうだレイブンで思い出したけどはいこれ」
レイが取り出したのは電子書籍用のタブレット。
最新式の容量良し、カラー有りの優れ物だ。
「さっき届いたんだけど私とあなたに一つずつ。
御影さんが選んだのをレイブンが買ってきてくれたんだって」
「軽いし僕の手でも不自由しなさそう。
今度おじさんと、御影さんにも会えたらお礼言わないと」
ロゼは目を輝かせてタブレットを見る。
人からの贈り物は自分で選んで買うのと違う嬉しさがある。
この広い世界に来てからはなおさらに。
「そうね。贈り物するなら何がいいかしら」
「クッキーの詰め合わせとかかな?」
この場合は百貨店のサイトとかで買うべきかとロゼは考える。
まだまだそのあたりの経験は少ないが、自分は美味しい物には直感が働くのだ。
レイト相談すればよい物が買えるはず。
「夕飯食べたら二人で選ぶとしますか。
今日はあさりの貝汁とチキンソテーよ」
「貝汁に最近見た物の影響を感じるね。
……でもなんなんだろうねあのおじさん*6」
「さあ……?」
なんて話が一区切りした所でそれじゃあね、とレイもまた自室に戻っていった。
まだ夕飯まで時間があるし、停止していた番組を見直す──前にベッドへごろりと転がる。
タブレットを丁寧にサイドテーブルに置き、クッションを抱え天井を見た。
そして年相応の顔で「ううむ」と唸る。
(おじさんに……御影さんかぁ)
ロゼが自身の出生について知る事は多くない。
何分滅びた世界の事だし、彼方の御国の人達と自分と知る範囲は変わらないだろう。
だが、幾つかの事実は判明し、ロゼにも知らされている。
実を言えば、ロゼは他の人造聖女とは幾分異なる存在らしい。
≪ロストナンバーズ計画≫、そう名付けられた計画によって自分は産み出された。
ヤタガラス元老院が当代一の造魔研究者でもあった葛葉マンゲツに命じ、多数のリソースを投入し製造させたハイエンド人造人間。
シュバルツバースが発生し世界が滅びに向かう中、自国の──正確には自分達の安寧のみを考えた元老院がなおも欲した力。
縁もゆかりもないはずの自分を何故か雨柳は気にかけ、
そしてこの周回では雨柳の幼馴染で実質的妻である御影──
二人が一緒にいるのは奇妙な感じだ。
だからこそロゼは時たま、考えてしまうのかもしれない。
(あの人たちは……僕にどんな
今となっては分からない事だからこそ、少女は自分をこの世に送り出した人を。
彼らの想いをつい考えてしまう。
帝都某所にある非合法レルム。
先日の病院襲撃事件より幾つかは捜査の手が入ったが、依然として残っている場所もあった。
非合法だけあって雰囲気は薄暗く、治安も悪い。
覚醒者であっても、非力な女子供は近づかない方が良いだろう。
レルムだけでなくその周辺にも。
非合法レルムの外れにある雑居ビルの一つ。
此処はこの時世でも活動を続けるマンハントの拠点となっていた。
ビルの上階にはゲラゲラと品のない声が響く。
悪相の者達の手には酒杯と雑多なつまみ。
ヤクザがバックについた彼らマンハントの一団は上機嫌だった。
同業者が次々と消えていく中、対照的に最近の彼らは大漁。
何人も女を捕まえられただけでなく、同業者から高そうな呪具も奪えた。
これらを売却した利益を考えれば、自然と頬が緩むという物だ。
「っしそろそろお楽しみと行こうか!
お前達下から女共を連れてこい」
「うっす」
マンハントのボス、見るべきところのない卑しい顔付きの男が部下に指示を下す。
奪い犯す事の痛痒はなく、心から楽しむ性根。
小物であるが、人の道を外れた紛れもない外道。
その部下たちも同じような物だ。
「もう一回男の味を教えてやるとしようぜぇ。
そうすりゃヤクザの旦那方の手間も省けるしな」
「痛めつけるなら手足折るくらいにしておけよ?
回復すんの面倒だしよ」
「そういえばあのガキまだヤってなかったぜ。
最後だし派手にやっておくか」
「俺は口を貰う。アイツいい顔するんだわ」
彼等にとって捕まえた女達は遊び道具。
愉しく弄んで、明日売る前にもう一回欲望のはけ口にする。
最悪の行為も彼等にとっては面白半分だ。
下劣極まりない者達は、下に閉じ込められた者達が連れられてくるのをニヤニヤと待つ。
一分、二分。少し遅い何をしてるんだ、と思った所で足音が聞こえた。
パーティの第二幕の始まりに、期待を高めるが。
「……はあ?」
ボスの男は思わず間抜けな声を上げた。
彼等の期待は裏切られた。
部屋に入ってきたのは見覚えのない存在。
その手には連れに行った者達の生首。
「邪魔するぜ……ったく予想はしていたが汚ねえな」
侵入者は生首を投げ捨てると、吐き捨てた。
その姿を正確に測る事は出来ない。
妙に膨らんだシルエットのコート姿に、認識阻害の術のせいか顔はマーカーで塗りつぶされた様に見えない。
だがマンハンター達にも分かる事がある。
それは強力な、自分達を脅かす存在だと。
「テメっ何もぺぎゃっ」
「愚鈍で不細工な面してるなお前」
咎めようとした男の頸をへし折り、侵入者はマンハントのボスをあざ笑う。
「
品性下劣だと似たような顔に成んのかね?」
見下しながら侵入者は肩をすくめる。
余裕を持った動きに、呆然としていたマンハントが弾かれたように動く。
「こ、殺せ! その野郎をクズ肉にしろ!」
「死ねクソが!」
「お楽しみを邪魔しやがってよぉ!」
集まっていた者達の内半数が、銃を抜き射撃。
後の半数は宴の最中であり銃を手放していたが、それでも弾幕は張れる。
軽快な射撃音と共に銃弾が次々と放たれた。
「うん」
肉を穿ち骨を砕く鋼鉄の雨。
対する侵入者は、ふと息を吐くと。
「遅いし、甘い」
身に秘めた暴力を解き放った。
| 暴れまくり*7 | 物理スキル | 敵全体2~5回の物理大威力攻撃を行う 命中率は低い |
銃弾を突っ切り、手足を振る。
尋常ならざる速度と力で。
拳が頭部をスイカの様に粉砕する。
足が胴から真っ二つにする。
体当たり、人体を壁飾りに変える。
シンプルな暴力の発露が、外道を人の残骸に変換していった。
血が壁や床に流れ、否叩きつけられ。
およそ人体が立てるとは思えない重々しい湿った音が連続して響く。
ただ一度の物理スキルの行使で、マンハントの大半が肉塊になった。
≪暴れまくり≫
再演の如く二度目のスキル行使。
残りのマンハントもほぼ全てが肉塊にされた。
だが、ボスのみは攻撃を弾いた。
「はっ……ははは!
俺は
物理攻撃が効くか!」
得意げに笑うボスはアプリより悪魔を召喚。
呼び出されるのは棺に封ぜられし破壊神。
\カカカッ/
| 破壊神 | モト(自我なし)*8 | LV63 | 物理耐性 四属性にやや強い 破魔・呪殺無効 |
「合体事故で出来た俺の切り札だ!
後悔しながら死ねよゴミカス! ぎゃははは!」
下品に哄笑するマンハントのボス。
成程、偶然の産物とはいえこれ程の悪魔。
初撃を凌げばどうとなるとも思うだろう。
「物理反射付与の防具に高位悪魔……この程度の奴でも持っているのか」
他方侵入者は興味深そうな様子で己の手を見る。
耐性により反射ダメージを受けていないのもあるだろうが、モトという強敵にも拘わらず平然としていた。
「おい無視してんじゃねえぞ! 今なら土下」
「なら、これで行くか」
≪
侵入者は左手を打ち振る。
布を引き裂き現れるは、明らかに人ならざる腕。
同時に認識阻害が乱れ、一瞬だが隠された赤い眼が垣間見えた。
悪魔らしい人ならざる眼が。
悪魔は異形の左腕を敵へと向ける。
禍禍しき鋼を備えた腕を。
「────死ね」
≪■■■■■■■■≫
・
・
・
「約束の物だ」
「うん、うん、確かに揃ってるね。
ごくろーさまでしたっと」
非合法レルム近くのビル屋上。
先程の悪魔と少女が向かい合っていた。
「で、試作品のコートどうだった?」
「強度はそれなりだが、全力を出したら認識阻害が乱れてたぞ。
まだ改善の余地があるんじゃないか?」
「あらら残念。まっ試作品だから仕方ないね」
薄紫色の髪をした少女は生意気ながらも可愛らしい顔立ち。
しかしその立ち振る舞いからすると、少なくとも見た目通りの年齢ではないはずだ。
彼女は社会の裏で暗躍する<ガイア再生機構>のエージェント。
まだこの世界に現れて間もない謎の組織ではあるが、悪魔にとっては役に立つ存在。
悪魔は彼等とつながりを持ち、彼らの依頼を達成する事で必要とする物資や情報を得ていた。
時たまこの新奇な組織に、悪魔とて興味を感じる事がある。
尤も悪魔にとって重要なのは彼女ではなく、もたらされる物なので興味を持つだけだが。
「じゃ前置きはこれくらいにして。
あなたへの報酬ね」
「ありがたく頂こう」
悪魔が受け取るのは幾つかの情報に、手駒となる組織への紹介。
そして────欲してやまなかったアイテム。
「そうだ、これだ。
これが欲しかった……!」
「ふーん良かったね」
興味なさげに呟いた少女はふと、遠方の光景へ目を止める。
悪魔とマンハントの戦闘の結果半壊したビル。
到着した警察とDBが通報を受け到着したようだ。
ビルから運び出される少女達は、生きているように見えた。
「拉致られてた子達殺さなかったんだ?」
「ん、ああ。
地下に居たから俺の戦いも見られなかった。
それに……そうだな。ゲン担ぎってところだ」
「ゲン担ぎ~? 悪魔なのに妙なこと言うね」
まあ確かにそうかもしれんと、悪魔は肯定した。
「状況に懐かしさを感じていたのもある。
復讐に燃える女……薄汚い小物……敵である神。
俺にとっては既視感の光景だ。
あれは死闘だったな……」
郷愁に似た感情をこめて悪魔は呟く。
此処ではない何処かを想う様に。
「ま、何でもいいや。
これからもガイア再生機構を御贔屓に」
少女は飽きたのか、転移していった。
後に残された悪魔は気にせず、彼方を見据える。
屋上に立つは蜘蛛を可能な限り禍禍しく、人型に整形したかの如き悪魔。
青黒い体に、点在する血の如き斑点。
羽の飾られた骸骨めいた頭部には、鮮血色の複眼が鈍く輝く。
「────待っていろ二人共。
俺がお前達を、
決意を込めて悪魔は宣言する。
それはアステカ神話に名を遺す神。
最下層の冥府ミクトランの王。
昏き世界にて死者を支配する者の名は、ミクトランテクトリ。
\カカカッ/
| 死神 | ミクトランテクトリ | LV66 | 装備:????? |
「お前達を、アイツの様に死なせない為に……!」
その複眼にはすさまじき決意が燃えていた。
悪魔と召喚師の、戦いの日は近い。
今が充実していて大切な人達もやるべき事もあるからこそ、己が誰に何を願われたのか気になるという想い。それは当たり前の人らしい心の動き。
次回も八月中に投稿したいと思います。