真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は可愛い銀ちゃんも出ます。
たん、たたんと軽快な音が響く。
彼方の御国の拠点たる里にある訓練室。
体重を感じさせない軽やかな動きで撥ねるのはロゼだ。
普段一緒にいるレイはカンナと共に地方へ出張中。
今日は任務のない少女は鍛錬に精を出していた。
「はぁっ!」
跳躍からの踏み込んで一閃。
斬撃は気が籠り、目に見えぬ何かを斬り裂けそうな程に鋭い。
其処から片手をついて旋転し、立つや否や刀型COMP<閃刀弐式>を再度構え。
片手での斬撃を繰り出した後、蹴りを拳を放ち、スムーズに
今は銃こそ持っていないが、実戦になれば必要となる事もあるはずだ。
一連の動作を終えたロゼはふぅ、と息を吐く。
少女が見るのは自分の拳。
「う~ん……どうも迫力がないなあ」
ロゼも超人に相応しい身体能力を有しているが、年相応の背丈でどうにも迫力がない。
仕方ない事ではあるが、リーチも足りないのが気がかりだ。
(格闘技は期待できないし、鞭とかサブの武器練習した方がいいかな?)
自分達の周回のヤタガラスではすでに失伝した知識だが、実は近接武器でも種類によって悪魔への効果が結構違うらしい。
物理と銃撃、斬撃と打撃と言った分類だけでない。
例えば地霊は斧が効くという風にアナライズでは出ない違いはある。
ロゼも学んではいるが、嵩張らない武器をサブで備える事も思案中だ。
仲魔に連携、武器に防具にアイテム。
各種の有用な知識。
学ぶべき事は両手の指よりある。
特にこれから装備や道具も新規に開発されたり、改良されたりするのだろうし。
(この<デジタライズ>っていうのはかなり良さそう。
力がみなぎるって感じ)
ロゼの纏う黒い衣装は以前と一部が異なっていた。
銀色の装甲と、巫女を思わせる清純な白が足された強化仕様。
これはデジタライズによる効果だ。
<デジタライズ>とは悪魔プログラムを以て人の身に悪魔を
神をその心身に降ろす限られた者のみの業を限定的に再現。
無論各種の条件は厳しいが、悪魔の情報を鎧や武具に変換し使用する事で、ステータスを悪魔並に引き上げる事が出来る。
使いこなせれば、女子供でも悪魔と戦える驚異的な物である。
何というと何やら難しく思えるが、ロゼは最近のウルトラマンが他のウルトラマンの能力を纏うあれと同じ感じかな? と思っている。
説明マニュアルを読み返したが、まあ的外れではない……はず。
ロゼや今此処にはいないレイが使用するのは、現行のヤタガラスの少女達が使う物の亜種と言うべき、新開発の仕様。
スキル等は付与されない代わり、ステータスの上昇と耐性付与を重点。
召喚師の生存能力強化を目的としていた。
ロゼが纏うのは<猛将 ケンシン>。
戦国時代で圧倒的な強さを誇った武将の逸話に依る悪魔。
物理や電撃に耐性を持ち、その代わりに精神に弱いがガネーシャリングでカバー可能。
ステータスの上昇といい、有用な力であった。
一先ず今日である程度デジタライズは馴らせた。
明日も任務あるし帰ろうか──と思った所で扉が開いた。
「やっぱり此処にいたんだ」
「チヒロさんも鍛錬してたんですね」
入ってきたのはチヒロ。
タオルを肩に掛けた首には汗が一滴。
彼女もまたガンルームで自主練していたようだ。
ちょうどいいと二人してさっと汗を流し着替え休憩室へ。
座布団付きの椅子に、邪魔にならぬ程度の大きさの冷蔵庫。
小休止には持ってこいの空間。
冷蔵庫からチヒロは紙箱を取り出し、中身を悟ったロゼの目が輝きを帯びる。
「幾つか買ってきたけどロゼは何味がいい?」
「ありがとうチヒロさん!
僕はイチゴ味いただきます」
菓子は大きめの駅に良くある洋菓子チェーンのエクレア。
チヒロはモカ味、ロゼはイチゴ味を選んで食べる。
「ご馳走様でした。
このチェーン安くて美味しくていいですよね」
「うん、私も好き。
前の時もあって父さんに買ってもらった事もあったから」
だから懐かしかったなあというチヒロの表情は穏やか。
面倒見のいい彼女はには弟妹がいて家族仲も良好。
ではあるが、中々に過酷な経歴を辿っていた。
腐敗したヤタガラスにおける悪魔混じりの多くの扱いは酷。
扱いは奴隷と言っても過言ではなく、カンナなど最たる物だろう。
チヒロもまた孤児院から霊的素養と高い知性を見出され、ヤタガラスに拾い上げられたが尊重される訳でもない。
有用な能力を持っていようが重んじられるのは、護国の伝統を受け継ぐ元老院の貴人達。
戦闘員か後方支援いずれにせよ、年若くして使い潰されていたはずだ。
しかし彼女の義父、各務家の当主が彼女を引き取った。
名目上は実子の
チヒロの義父は元老院を構成する名家に連なる者としては稀な、良識的見解を持つ者であった。
幾つかの非主流派名家と陰ながら協力して、チヒロの様に立場のない孤児をヤタガラスから護っていたという。
陰ながらの奮闘にはレイブンと呼ばれた男も協力していたそうだ。
複雑な経緯を経て自分を引き取った両親にチヒロは深く感謝し、本当の親だと思っている。
ロゼからすれば眩しさを感じる程に。
「デジタライズはどう?
使った後にひどく疲れたりとかしてない?」
「ううん全然大丈夫。
むしろ調子いいくらいだしレイも僕も銀ちゃんみたいに巫女の素質あるのかも」
「銀ちゃん、か。
あの子も凄い頑張っているよね。
まだ小さいのに、前線に出て……」
ロゼから少し視線を背けたチヒロの言葉には、まだ子供と呼ぶべき年齢の少女が戦う事への苦悩が乗っている。
自分にとっては年上で、一度遊んでもらった、幼くして戦死した少女。
そんな銀がこの世界では自分より何歳も年下で、熾烈な戦いの中にいる。
レイやロゼと同年代なのも相まって、どうにも複雑だ。
特にロゼはまだ産まれて2年。
心身共に外見と同程度といえまだ未熟。
チヒロはそんな子を戦わせる是非を考えている。
彼方の御国の多くと同じ様に。
「チヒロさんやっぱり僕とか前線に出て欲しくない感じ?」
「当然でしょ。過酷な前線なんてそうそう子供に向かわせるじゃないって」
「そういうものなんですかねー。
でも今は色んな人が協力してくれてるから意外と平気です」
そんな心情を知ってか知らずかロゼは軽く答えた。
「何も戦えるのが僕や銀ちゃん他、数人って訳じゃないから。
おじさんやヤタガラスの人達と協力して。
自分に出来る範囲で頑張っていくつもりなんです」
実を言うとロゼもこの世界に来た当初は、それなりに悩んでいた。
人造人間で葛葉マンゲツの自分は、来るべき時に決戦兵器として先陣を切り戦果を出す必要があるのではないかと。
レイ達は自分にそう求めなかったが確かな気負いを感じていた。
そうして自分と如何にもそれっぽい一人称で任務に出て────あっけなく負けて凹んだ。
自分は別に凄くないという事実は結構堪える。
生後2歳にしてロゼは知った。
まあ落ち込んだわけだが、この世界の事を知り。
色んな人と知り合って頑張ろうと素直に思えた。
それでいいのだとロゼは思っている。
「今は選ばれた英雄だけじゃなくて、みんなで頑張る時代だ。
平和は遠いし、出来る事には限界があるけど。
それでも協力して未来を目指すんだ」
「……昔より強くなったわねロゼ」
穏やかな目で再度ロゼを見るチヒロ。
対してロゼは照れたのかあははーと笑った。
「おじさんの受け売りも多いんですけどね」
「レイブン……雨柳さんね。
あの人面倒見結構良さそうだし、色々話してるんだ」
「うん、お世話になってます。
ただ────」
おじさんには世話になっている。
世話になっているのだが。
「
銀ちゃん達どころかレイや僕の事まで超気にしてるんです……」
「この場合……佐々木さんと雨柳さん、どちらを半目で見るべきかな?」
「さあ……?」
ロゼちゃん2ちゃいだから分かんない。
あくる日の午後、ロゼは帝都ヤタガラスの施設に居た。
今日の任務は物資輸送の護衛と、チヒロの付き添い。
この施設は悪魔と人間の心身の相関についての研究施設。
各種の貴重な設備がある他、研究のみならず悪魔人間向けの病棟も付随している。
過日の攻勢においても帝都ヤタガラスが秘匿し、今日この日まで稼働してきた施設。
特に最近は
(思ったより新しい感じだねこの施設。
設備も……整っている、かな?)
床は清潔で塗装も欠けた所は見当たらない。
そういえば園子ちゃんのご実家がスポンサーとか聞いた気がする。
あと一、二時間程ロゼは暇だ。
チヒロはこの施設に検査か、はたまた電子関係の仕事があるらしい。
専門的な事は分からないけど、そう時間はかからない。
ならばとロゼは見学も兼ねて、この施設を巡回していた。
(防人さん達の方は異常なしかな)
吹き抜けの下を見て、丁度眼が合った小柄な防人と挨拶。
あの人は確か加賀城といったはずだ。
弥勒お姉さんとも仲がいいと前聞いた。
以前の病院程ではないが、施設の警備は強化されていた。
幾度かの戦闘や調査で分かったが、つい最近京都ヤタガラス──この世界では腐敗していたらしい奴等の残党や関連組織が帝都に来たらしい。
排除された者もいるが一部は潜伏し、逆襲の機会を狙っている。
彼等が仮にこの施設を特定した場合、襲撃をかけてくる事は十分にあり得た。
(この間のヤクザもだけど本当に訳の分からない奴等が多いね。
変な悪事するよりもいいやり方が幾らでもあるのに)
なんてことを想いつつ施設内を歩き、病棟エリアに到達。
明るい色調でまとめられた空間は穏やかな雰囲気。
特に何か起こった様子はなさそうだ。
病院は平和が一番、良い事だ。
「おや?」
ふとロゼとまだ二十歳程の女性二人と目が合った。
二人は黒髪の落ち着いた長身と、白髪の小柄な対象的な容姿。
それぞれまだ髪が生えたばかりの、1歳程の赤子を抱いている。
「あなたは……あの時の?」
「助けに来てくれた人たちの中に居た子だね。
あの時は本当にありがとう」
何処かで見覚えがあったがそう言われるとロゼにもわかった。
数週間前ロゼが雨柳達と一緒に異界の中で助けた漂流者達。*1
あの中には怪我人や幼児もいて、多くが病院に送られたと聞いてはいたが此処にいたとは。
「いやいや。僕はサポートで助けたのは他の人達ですから」
「それでもあなた達のお陰で生き延びられました。
私も、この子達も」
「あそこまで強い敵は久々だったからねー。
こっちは主力、全滅してたし……」
礼を述べながらも白髪の少女の言葉は浮かない。
あの時戦った悪魔は確か機械式で70クラス。
この人達はそれほどの敵と戦っていたのだろうか。
ロゼの見立てだと黒髪の女性はLV30手前、白髪の女性はLV40程。
口ぶりからすると彼女達は支援で、主力はもっと強かった?
(考えても仕方ない、というか聞かない方がいっか。
必要な事はもう上の人に話してるだろうし、聞かれたくない事もあるよね)
他人に話したくない事は、そっとしておくのが一番。
ロゼとてそれくらいは分かる。
(それにしても……)
すやすやと眠る二人の赤子。
自分とは実年齢が一つ程しか誓わない存在。
この子達を護るのに少しは自分が役立ったと思うと。
(ちょっと、嬉しいかも)
自分が戦った意味が分かるような気がしてくる。
少なくとも悪い気持じゃなかった。
「僕もこの子達を助けられて良かったです。
赤ちゃんには生き、て」
油断していただろうか。
赤子が二人共起きて、同時に泣き始めた。
お腹が空いたのか、それとも話事し声がうるさかったのか。
それは分からない。何分赤子のやる事だから。
「うわわわ、どうしよう?
よしよし、大丈夫だからねー」
三人してオロオロ、オロオロ。
古い言葉で泣く子と赤子には地頭には勝てぬという言葉がある様に。
母親である二人も、ロゼも手の付けようがなかった。
「────アタシに任せて」
其処へ来てくれたのは
少女は赤ちゃんを受け取ると、二人共すぐにあやして見せた。
うって変わってきゃっきゃっと笑う赤子達。
感謝の礼を述べる女性達に大した事じゃないってと笑う少女。
彼女の事をロゼは知っている。
くすんだ色の髪に、乙女の可憐さと勇者の意気の両方を感じさせる顔立ち。
ただ傍にいるだけで、話すだけで、笑いかけるだけで相手を元気にしそうな素敵な少女。
「ありがとうね銀ちゃん。
やっぱり赤ちゃんの相手慣れてるね」
「弟の面倒見るのは馴れてるからな~。
アタシにとってはお手のモンよ」
少女の名は
帝都ヤタガラス所属の勇者である。
・
・
・
先程の部屋から離れ、ロゼは銀と話していた。
今日はちょっとしたデータの受け渡しで、イザボーと共にできたらしい。
自分達彼方の御国だけでなく彼女達の方も色々改良を進めているようだ。
ドリンクの入った紙コップを置いて銀が話すのは弟の事。
彼女は自分の弟たちをとても大切に想っているようだ。
「最近久しぶりに会ったんだけど下の弟大分大きくなっててさ。
うわー成長見逃したーってちょっと残念感じだわ」
「分かるよ。僕が言うのも何だけど赤ちゃんって大きくなるの速いよねえ」
二人がいるのは休憩室。
簡易的な自販機と椅子に机。
簡素だからこそ、雑談にはちょうどいい。
「姉がいなくても弟は育つって所かな~。
ちょっと寂しくはあるかも。
まあ、アタシ思ったより早く嫁入りしそうだからその方がいいんだけど」
「嫁入り……!」
強烈なワードを聞きロゼの脳裏に電流が奔る。
嫁入り、齢13の銀には尚早な言葉。
「相手はその、佐々木さん?」
「うん。あの人のお嫁さんになる予定だ。
園子達と一緒になー」
少し照れたように笑う銀。
彼女の表情はだいぶ大人に見えた。
帝都ヤタガラスの首脳部、銀達の親も含めて佐々木への嫁入りは数年後の理想的な展開だった。
最終的に少女達と子を成し、縁もあって自分達と良好な協力関係を長く続けられればいい。
少女達にも青年にも無理強いはするまい。それが当初の方針だったのだが。
実体は銀と園子を筆頭に予想以上に乗り気だったという訳だ。
それこそ彼の子を産んでいいと思う程には。
「夏凜や美森はまだ表面上ツンデレしてるけど心は大分堕ちてる。
皆あの人で不満はないさ。
当然アタシも全くない!」
「おお~皆大人なんだね」
かなり進んだ話に、ロゼからすると思わず感心してしまう。
前話した園子達もそうだが皆見かけは自分と同じくらいなのに大人だ。
「あっでもロゼってこういう話してよかあった?
苦手だったりしない?」
「いや全然大丈夫だよ。
レイ達から色々教わったし」
その手の知識を自分は十分に持っているとロゼは自認している。
かつてレイやカンナ達から外に出た時の為に色々教わった。
ヤタガラスやファントム、そうじゃなくても質の悪い奴等に騙されない為。
「それに……僕は子供だから……そういう話が……好きなんだぜ……!」
「はははませてるなあロゼは」
二人共あはははと軽やかに笑い合う。
他に人影がないから出来る話だが、こういうのも悪くない。
女の子同士の秘密の話である。
「ちょっと早い気もするけどまあ、アタシは幸せだな。
好きな人と結婚して可愛いお嫁さんになるの夢だったんだ」
「銀ちゃんは佐々木さんの事好きなんだねえ」
「……ん。好き。大好き。超好き」
頬を紅潮させながらも、少女は即答した。
「優しいしカッコいいしその、夜も優しく満足させてくれる人ヤバいくらい好きになっちゃうよ。
殆ど一目惚れみたいな感じだったけど、初めて会った時からずっと好き」
────三ノ輪銀が辿ってきた人生は、短くも過酷。
少し前までのヤタガラスはここ数年続く戦力の低下に加え、魔人や各勢力から集中攻撃、さらには京都の裏切りにより半壊状態にすら陥っていた。
死しても復活し尚戦える四天王の
少女達を戦わせざるを得なかった大人達の苦悩は如何程か。
四天王の一柱、ゾウチョウテンに選ばれた銀は立派に戦った。
何度死のうとも復活し、傷濡れ血塗れになりながら。
常に終わりを意識して戦って戦って。
敵の策略により魔界に堕ちて、死にそうになっていた所で、初恋の人と出会った。
自分を救い、思い出にと純潔を捧げたあの人とは一緒に暮らすようになった。
彼と共に戦う中で彼は、自分の親友たちも救ってくれた。
今ではみんな一緒に居て、笑い合う事が出来る。
生きている事も、親友達と笑い合える事、それ自体が奇跡。
素直にそう思える人生を銀は歩んできたからこそ。
勇気ある少女は自分の抱く愛を肯定する。
「だから俳世さんのお嫁さんに成れるのが嬉しいんだ」
えへへへへと照れ笑いする銀。
彼女に対してロゼが覚えた感情は、言うなれば感動。
「凄い、凄いよ銀ちゃんは……!
佐々木さんの事、真剣に愛してるんだ。
銀ちゃんなら世界一可愛いお嫁さんになれるよ!」
「お、大げさじゃないかそれ」
この世に生を受けて2歳程のロゼからすると、感動的で衝撃的。
ここまで真剣に深く人を愛せるなんて。
素敵で凄いと思ってしまう。
「僕思うよ銀ちゃんはいずれ良妻賢母オブザ良妻賢母ズになるんだって」
「さてはギーツ見たなー。
でもそう言ってくれるのは嬉しいよ」
「僕は姉みたいな人はいるけど両親はいないから、分からないけど。
銀ちゃんみたいなお母さんに愛されて産まれた子は幸せだと思うよ」
「ありがとう! 今の言葉で嬉しさ二倍!」
其処まで言った所で銀は思った事があり、言葉をつづけた。
銀もまたロゼが何やら複雑な生い立ちらしいという事は知っている。
「アタシ詳しい事知らないけど、ロゼも愛されて産まれたんだと思うぜ?
めっちゃ感情豊かだし、いい奴だし」
「そうかなあ?」
「自分は誰かに望まれて産まれたんだって。
そう思う事は自由さ。
少なくとも今生きているのはそういう事なんじゃないかな?」
「うーん銀ちゃんが言うと説得力を感じかも」
ロゼからしても銀には裏表がない。
いつも明るく、真っすぐ。
そんな彼女の言葉は、素直に信じられそうだ。
(銀ちゃんは幸せ、佐々木さんも幸せ。
いつか──割と近いかもだけど産まれてくる子も幸せ。
とても幸せな家族になれそう)
だからロゼも素直にそう思えた。
同時にさっきの赤子達も幸せになれればいいなと。
ごく普通の、善良な人間らしく。
「あ、そうだ。まだロゼ達連絡先交換してなかったな。
「やってるよ。
折角だし交換しようか。
これからも必要になりそうだし」
「だな!」
互いのスマホにインストールされたアプリを起動。
連絡先交換は数秒で終了。
独特の音が鳴って、その音に爆音が覆いかぶさった。
「っ!?」
「爆発音……襲撃か!?」
連れだって休憩室から出て、遮蔽をとりながら近づく。
正門前で炎上するのは大型のトラック。
炸裂する炎と煙を目くらましにして飛翔する影あり。
≪跳躍≫*2
軽やかに降り立つは猿面をした幻魔。
剣の一閃で門を破壊し、見えを切る。
「粛清の時来たれり! 出でませい!」
\カカカッ/
| 幻魔 | ハヌマーン*3 | LV63 | 破魔・呪殺・精神・神経に強い。 |
更にもう一体、
「闇より出でて紅蓮に染めん」
\カカカッ/
| 魔王 | スルト*5 | LV65 | 状態異常に強い 破魔・呪殺無効 火炎吸収 |
幻魔と魔王に、何人か古びた戦闘装備の人間。
ロゼに馴染みのないそれらに、京都系列かと銀は呟いた。
「逆賊帝都ヤタガラスに天誅を下す!
まずは我らより奪った資材で、惰眠を貪る愚者共からだ!」
独善的な言葉を上げる彼等の進みは遅い。
対して幻魔と、魔王は左右に分かれて進撃を開始せんとする。
彼等は<ガイア再生機構>の支援を受けた京都系組織の残党である。
余剰人員を
ガイア再生機構から道具及び情報の見返りとして受け取ったハヌマーン。
この事態を軸とした襲撃。
彼等のとった手段は単純ではある。
魔法による隠蔽処理をした爆発物搭載のトラックを先頭にして突貫。
迎撃による爆風と衝撃で視界を遮り、その隙にハヌマーンを送り込む。
突破口を開いたなら魔王をも前面に立てて、二方向から進撃。
警備が敷かれているとはいえ後方施設。
正確な位置が協力者により特定されている以上容易な作戦。
予定通りに進行していたが────誤算が二つあった。
「二方向から来るか。
スクンダで速度を下げつつ、足止めするぞ」
「両方物理寄り、耐性持ちを用意しろ」
「動きからすると使役して間もない。
分断を狙っていきましょう」
第一に警備部隊が予想以上に精強な事。
警備部隊は士気が高く、困難な格上相手の対処も心得ている。
高位悪魔二体だろうと非戦闘員、とりわけ入院患者もいるならば、臆して等いられない。
的確な対処に悪魔二体の進軍が半端に止まる。
さらに襲い掛かるのは、第二の誤算。
「アタシは右のスルトを倒す!
須美は左の支援と対空よろしくっ!」
「はいです!」
遠方より放たれたメギドラがハヌマーンを後退させ、気を取られたスルト。
魔王に対して、勇ましく躍りかかるのは銀。
第二に今日この場には
幼くして歴戦となった彼女達という強力な戦力。
須美は高所に上がり援護射撃、銀は最前線で魔王と渡り合う。
「此処から後ろには通さない!
皆で護るんだ!」
勇ましい少女の言葉を背に、小柄な影が病棟へ向かう。
黒い装束に黒い髪の少女。彼女はロゼ。
(奴等はアタシ達で倒す。
けれど多分病院の時みたいに何処からか新手が来る。
だからロゼは病棟の方へ向かって、あの子達を護ってやってくれ)
銀の言葉を信じ、ロゼは病棟に向かう。
自分自身の役目を果たそうと。
病棟の無力な患者達を、赤子達を護ろうと。
案の定というべきか、施設には別の戦力が迫っていた。
接近するのは飛行可能な悪魔が十数体。
一網打尽を避けて分散し迫る悪魔達。
厄介な存在ではあるが。
≪メギドラ≫
矢の形に収束された万能魔法が、散弾の様に拡散。
広範囲を覆う万能の雨が悪魔達の大半を穿った。
「侵入などさせませんよ!」
狙撃により防衛部隊の支援を続けるイザボー。
相互の位置を計算し、最も的確な点を撃ち抜く的確な狙撃。
幼い容姿に見合わない歴戦の少女はさりげない絶技を見せていた。
動揺し乱れた悪魔達へ殺到する銃撃や魔法。
防人や警備員が残存を駆除していく。
空からの攻撃は失敗し、地下は立地上の問題で無理。
裏口からの増援も来る気配を見せず、後は正門からの部隊の討滅。
油断は出来ないが警備部隊の意識と戦力はそちらに向く。
「第二陣の奴らが迎撃された。
そろそろ行きやすぜ旦那」
「頼むぞ」
ミクトランテクトリの、予測通りの展開だった。
ガイア再生機構の取次で組んだ京都系組織。
施設の正確な位置を教える代わりに、自身の襲撃への協力を取り付けさせた。
最も元から利用し合う関係。
信頼等皆無で、互いに嘘をついている。
死神の場合には攻撃する位置やタイミングとか。
「任せて下せえ。
低空飛行はお手の物でさあ。
旦那だって知ってるでしょ?」
病棟のある施設の北東側。
森の中より飛び出すのはこれまた飛行型の悪魔。
ただし速度も高度も全く違う。
ミクトランテクトリを載せた凶鳥グルルは、疾く巧妙。
「飛ぶことにかけて、年季が違いまさぁっ!」
\カカカッ/
| 凶鳥 | グルル*6 | LV54(弱体化) | 呪殺反射 神経・精神無効 破魔に弱い |
地面スレスレから気流を利用し壁際で一気に上昇。
流星の如き速度で高度を上げ行く。
当然ながら集中的に殺到する迎撃。
高所を取った防人に、正門付近の戦力。
ハヌマーンがダウンした隙を突いた少女の矢。
弾幕と呼べる密度と威力。
さしものグルルも躱し切れない。
体表で爆炎が咲き、左の翼が半ばから千切れる。
それでもなお飛ぶのをやめない。
ミクトランテクトリが魂を以て導く行き先。
其処へたどり着くまであと僅か。
傷を負った自身を顧みず、飛ぶ。
「旦那! 今ですぜ!」
「……恩に着る」
傷を負ったグルルからミクトランテクトリが飛翔。
吐いた糸を手すりへ括りつけ、不規則な軌道で動きそのまま病棟へ突貫。
窓を壁毎ぶち破って突入した。
勢い任せに部屋をぶち抜き、壁材と硝子を振り落とす死神。
その目は血のように赤く輝いた。
不穏な目で見据えるのはそれぞれ赤子を抱いた黒髪と白髪の女性。
それと彼女達を護ろうとする眼鏡の女性──チヒロだ。
「っ! 足元に気を付けて避難を!」
閉所故に近接に長けた仲魔2体で時間を稼がんとする。
(あの子達の汚染について問題はないと聞いてはいるけど……!
それよりも問題はこの悪魔の強さ)
ライフル型COMP<バックドア>を持つ腕が微かに震えた。
青黒い体に赤い複眼をした、蜘蛛の悪魔。
襲撃者は正門の連中と比べても明らかに強い。
(せめてこの人達が避難する時間を……!)
死神と目が合った刹那、両者が動いた。
女神が合体にて継承した継承した
チヒロもまた、女性達の盾になりつつ銃撃。
対して死神はただその腕、機械で禍々しい鋼で鎧った腕を掲げる。
「────見つけたぞ!」
放たれるは死神らしい、強大な呪詛の波動。
| マハムドオン | 呪殺属性スキル | 敵全体に呪殺属性大威力攻撃 弱点の場合低確率で即死させる |
| 呪殺ギガプロレマ*9 | 自動効果 | 呪殺属性攻撃の威力を大幅に上昇させる |
黒き波動は女神と妖魔を捉え、さらにチヒロを蝕む。
女神が砕かれ帰還するが、ヴァルキリーは付与された耐性で何とか耐えて。
すでに走り出した死神に相対。
単純ながら、高速での攻防。
戦乙女の剣を真っ向から死神は受け止めて。
「邪魔だ、どいてろ」
≪暴れまくり≫
強引に薙ぎ払い、真っ二つにしてチヒロをも叩きのめした。
「が、ぁっ……!」
「食いしばったか、見かけによらず頑丈だな」
壁に叩きつけられたチヒロは血を吐き、崩れ落ちる。
だがその命は食いしばりによって潰えていない。
聖明神符*10と物理耐性装備によりダメージを軽減。
20以上のLV差のある相手の攻撃から命を護った。
「だがそれだけだ。
俺を止める事等できない」
≪逃がさずの蜘蛛神≫
ミクトランテクトリの複眼からの赤い光。
光は瞬時に実体化し、糸の様に解けて周囲を覆う。
まるで蜘蛛の巣の様に獲物を逃さないという様に。
「俺特製の領域だ。
お前達もよく知っているだろう?」
| 特徴 | NINEのゲートキーパーと同様の効果 敵味方問わず増援の行動を禁ずる |
構築されていく領域。
逃げる事を許さないそれは絶望的である。
それでもチヒロは経ち上がりすらせず銃の引き金を引く。
銃弾が次々に死神へ殺到するが大した痛手はない。
ただ、煩わしいだけだ。
「お前一人何をしようがもう無駄だ。
余計なことはせず静かにしていろ。
そうすれば危害は加えない」
「余計な、お世話、よ」
血を吐き瀕死の状態でチヒロは笑った。
「無駄には、ならない、わ。だって」
構築されゆく領域。
シャッターの様に閉ざされていく中に滑り込む影あり。
「どぉりゃあああああっ!」
黒装束の少女は、ロゼ。
閉じ行く糸の結界にスライディングで強引に入った。
「間一髪、間に合った、かな?
チヒロさん大丈夫!?」
「血の味が最悪だけどなんとか、ね」
ロゼは宝玉でチヒロを回復。
さらに近づく硬質な足音あり。
「わたくし達は間に合わない、ですが! 雀さん!」
「了解だよ弥勒先輩! ええいっ!」
≪ラクカジャ・オン≫*11
結界が閉ざされる寸前、駆け付けてきた防人の防御魔法が発動。
小柄な防人は
臆病ではあるが防人随一の回避・防御能力を持つ少女。
心身を集中すればこの様な魔法すらも使えた名前通りの防人。
「せめてもの援護です。
受け取って!」
≪タル・カジャ≫
同時に夕海子が仲魔の幻魔にタル・カジャを唱えさせる。
咄嗟ではあるが、ロゼの支援を的確に行った。
直後に蜘蛛糸の結界が完成。
異界の様に空間を膨張させ、そのまま安定。
時間にして数秒、短くも長い時間。
ロゼと言う乱入者を前に、死神は嘆息する。
「構築完了に数秒か。
以前は半分以下で終わったというに。
俺も弱くなったものだな」
赤い眼で女性達を一瞥した。
「弱いっていうのは悲しいな。
そう思わないかお前達?」
「ミクトランテクトリ……!」
赤子を抱えた二人は息をのむ。
その目には驚愕と恐怖。
そしてそれ以外の、懐かしさと言うべき感情も。
「お二人共、あの悪魔と知り合いなんですか?」
「……ええ。私達はあの悪魔を知っている。
あれは死神ミクトランテクトリ」
「私達のいた<異界神話>の主神。
王であるサマナーの仲魔。
敵を殺し私達を護り続けていた最強の悪魔」
異界神話、耳慣れない言葉である。
だがそれ以上に重要なのは。
「────はどうしたの?
あの人は、この子達の父親は?」
白髪の女性が男の名前をつぶやいた。
ミクトランテクトリは主神と言えど仲魔である。
ならば契約したサマナーがいるはず。
当然の疑問、死神はしばし間を持って答えた。
「…………喰らったよ。
死んで魂も砕けて、蘇生が無理になったからな」
悪魔らしからぬ哀切に満ちた声だった。
死神はかつての世界で敗北し死したサマナーを喰らった。
かけがえのない者を失いながらも得た物もある。
例えばサマナーの子である赤子の位置を特定する能力だとか。
「二人共その子達の世話を良くしてくれた。
後はもう大丈夫だ。俺に渡せ」
「一つ、聞いていいかな?」
チヒロと共に、女性達の盾になる位置を維持しロゼは動く。
悪魔のプレッシャーが肌に痛く、彼らの事情も呑み込めない。
だけど重要な事がある。
「赤ちゃん達をどうするつもりなの?」
「この<マガタマ>を使って、人の心を持った悪魔に、人修羅にするんだよ」
当然の如く悪魔は告げ、ロゼ達は息をのんだ。
赤子の母たる女性はその意味を知るが故に。
ロゼとチヒロは意味は知らずとも、言葉から推察し。
非人道的な意図に、反発した。
「そんな事をしたらこの子達は……!」
「心配するな。その子達は悪魔への耐性が極めて高い。
アイツの子供だ。きっと強くなるだろう」
抵抗力のない幼児にとって悪魔は存在そのものが劇薬。
だが特異な耐性を有するならばと死神は考えていた。
「何よりも────悠長な事していたら死ぬだろうが」
怒りすら浮かべて吐き捨てた。
「俺は見てきたぞ。万物を蹂躙する神々の軍団。
狡猾なガイア再生機構。
それ以外にも天使や悪魔とこの世界の脅威は山積みだ」
ミクトランテクトリは敗残者である。
かつて神々に、<新しき神話>に敗北し、全てを失った。
故に悪魔は求める。幼子達に力を。
尤も無力な赤子だからこそ、強くならなければ死ぬと。奪い生きれないと。
「弱ければ奪われ踏みにじられる。
お前達は良く知っているだろう?
……いや、これは失言だったなすまない」
死神は素直に謝罪した。
二人が友人、赤子達の生母と共に味わった恐怖と屈辱。
それを多少なりとも知るから。
「兎にも角にもだ。
その子達を俺に渡せ」
「っ……!」
だが決然として死神は赤子達に歩み寄ろうとする。
壁までまだ距離はあるが、どのみち逃げられない。
自身も増援を呼べぬ代りに何者の侵入を拒む堅牢さ。
逃げる事はかなわない。
己の知る中でも最も強大な悪魔の一柱が迫り、我が子を奪おうとする恐怖。
死神の庇護下に居たが為に抗いがたく。全て
「大丈夫です。此処は僕に任せて」
────武器COMPを構えたロゼが割って入った。
「言ったはずだぞ。邪魔しなければ何もしないと。
裏を返せばどうなるか分かるよな?」
「僕はあなた達の事情をしらない」
後ろにいる自分と年齢のそう変わらない赤子達。
あの子達にも、これから人らしい幸福な人生があっていいはずだ。
血に塗れ奪い続けるのではなく、協力し共存し、生きる喜びのある人間らしい人生が。
人造人間の自分でも、悪魔混じりの人間でも今の世界は受け入れられる余裕がある。
強さだけが全てではない社会が維持されている。
「だからそんな事はさせないよ」
≪≪≪SUMMON≫≫≫
刀型武器COMP<閃刀弐式>が起動。
プリセットの通りに一息に召喚されるのは三体の仲魔。
「この力はサマナー、あなたが護り生きる為に」
\カカカッ/
| 天使 | 月夜の翼 ドミニオン*12 | LV52 | 四属性・魔力に強い 破魔・呪殺無効*13 物理に弱い |
「魔王にも勝る悪魔か。だろうとも我が力を奮うのみ」
\カカカッ/
| 英傑 | ジークフリード*14 | LV56 | 物理・火炎・氷結・電撃・衝撃に強い 呪殺・精神無効 |
「これは実に厄介。老骨に鞭打たねばならんか」
\カカカッ/
| 神樹 | ハオマ*15 | LV55 | 銃撃にかなり強い 火炎*16・破魔・呪殺・精神無効 |
以前より仲魔であったパワーが
過去のマンゲツから受け継いだ竜殺しの英傑。
ゾロアスターの古き伝承に名を遺す癒しに長けた神樹。
「私は
……ごめんねロゼ」
「気にしないでください。
それよりも流れ弾が行かないように」
残り一体の仲魔を召喚したチヒロが背後で動き、自身は仲魔三体と並び立つ。
畏れも不安もあるが、自分は葛葉の一員だ。
(なら、あの子達を護るんだ)
「────参るよ」
\カカカッ/
| 悪魔召喚師 | 葛葉ロゼ | LV57 | デジタライズ <猛将 ケンシン> |
「なら全力で来い。
貴様を踏みにじり俺はその子達を未来へ連れていく……!」
構えるロゼに対してミクトランテクトリも戦闘態勢。
不穏な赤い目の照り返しを受けて腕の鋼も又輝く。
少女召喚師と、孤独なる神の死闘が始まった。
次回も9月中に投稿したいと思います。