真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
呪詛の波動を以て死闘が始まった。
≪マハムドオン≫
会話によって行動機会を消費しつつも、ミクトランテクトリは強大な黒き波動を放つ。
敵の心身を蝕み、弱みがあれば即座に死に至らしめる呪詛。
威力を大幅に引き上げられた一撃は強烈だが。
「その程度じゃ死なないよ!」
彼女含めて全員が無効以上の耐性持ち。
防備を固め耐えしのいだ。
(チッ準貫通*1ではな。
電子的な手段……データリンクって奴で情報共有したか、それとも種族から読んだか)
死神は内心舌打ちする。
仲魔も無効以上とは。
(
死神は少女と仲魔達を一瞥。
少女の自身の力は未知数だが、仲魔は良く練れている。
そう簡単に勝てる相手ではないだろう。
≪アクセラレート≫
他方ロゼは閃刀弐式の演算能力を駆使し加速。
チヒロからの情報の通り敵の手札は呪殺と物理が中心と推測。
この二つを可能な限り防いで攻める。
(援軍は……無理そうだしね)
糸の結界は構築に時間はかかるが強固な物。
自分のみならず敵にすら増援は無理。
この場にいる自分達だけで対処せねばならない。
そうであるならば────慎重に、大胆に攻めるのみ!
「基本通り行くよ! ドミニオン!」
「あなたの仰せの通りに」
≪
主天使が印を結び死神のマグネタイトに干渉。
パラメータが大幅に変動する。
「これは……?」
敵のマグネタイトに干渉し、攻撃力を最大まで上げる代わりに防御力を四段階低下。
リスキーだが強力な初見の補助に目を見開く。
其処へロゼが投擲するのはデ・カジャ珠。*2
攻撃力の上昇が打ち消された。
「そういう、やり方か!」
「ハオマはテトラジャ、シークフリードGO!」
砕けたデ・カジャ珠の欠片を払いのけた死神が見たのは、突貫するジークフリード。
神樹のテトラジャによる防護を得た英傑の竜殺しの大剣が振り下ろされる。
≪雄渾撃≫*3
輝く大剣による、円を描く力強い斬撃。
空を薙ぐ一撃は死神に確かに敵を捉えた。
「っ物理耐性くらいはあるよね……!」
だが強烈な斬撃の勢いで後退するもそれだけ。
反応からすると恐らく25%~10%まで減衰する強力な耐性を持っている。
なれば英傑の攻撃手段の多くは有効ではない。
だろうと置物では終わらないし、終わらせない。
「ミクトランテクトリの弱点は……電撃です!」
「援護するわ。
せめて弱体化だけでも!」
英傑が自身の身体で塞いでいた射線を開け、不意を突かれた死神に直撃。
死神は黒髪と白髪の女性を一瞥。
白髪の方はあまつさえ、先ほど投げ入れられた回復アイテムを使い、ロゼ達を回復させていた。
その事に死神はふぅ、と息を吐く。
自身と王の配下だった彼女達は自身の能力について知る。
ならばこそ情報を出したのだろう。
死神はかつて電撃弱点であったと。
自身の胸に抱く子の為に。
「……そうか、お前達が教えたか。
まあいい、その子達を取り落とすなよ」
怒りや殺意はない。
ただ多くが変わってしまったと思うだけだ。
自身の力も、他者との関係も。
チヒロの仲魔の神獣が
物理よりの死神からすればうまくない展開。
数と連携、人と仲魔の組み合わせで優位を取られている。
(────だろうとも勝つのは俺だ)
この程度で負けてなどいられないのは、こちらも同じだ。
蒼黒の身体が動く。
強烈な存在感が空気を揺らがせる。
赤い残光を残して、死神の本領が機動。
≪
左腕に装備した漆黒の武器。
そこへ赤が足されまるで血のように赤黒く変化。
ロゼの頬をつう、と汗が流れた。
動きの威圧感からすれば
先程の武器へのエンチャントは手数に含まれないとすると、此処からが本番。
恐るべき悪魔の力に肌が泡立つ。
(仲魔に気を配らなくていいのもあるんだろうけど……さっきとは力の入れ方を変えた?
チヒロさんの時と違う短期決戦仕様みたいな?)
ロゼの思考に割り入る様にギラリと、
≪マハムドオン≫
≪暴れまくり≫
呪殺も物理も、テトラジャとテトラカーンに阻まれる。
だが死神の動きに揺るぎはない。
体幹は少々のダメージにも
左腕を振ると腕を覆う赤黒の鋼が変形。
変形はロゼの動体視力を以ても過程が見切れない複雑かつ高速。
瞬時に形成されるは蜘蛛糸を弦としたクロスボウ。
凶悪な獲物はロゼ達に向けられていた。
「──────っ!?」
ロゼは咄嗟に身をひねり閃刀を盾に。
流れる汗が凍り付くのすら感じる。
悍ましく不吉な、本能を貫く戦慄。
「邪魔をするなら死あるのみだ。
速やかに息絶えろ」
放たれるは必中必殺の呪いの矢。
| ヤブサメショット*4 | 物理スキル | 敵全体に物理呪殺属性小威力攻撃を行う 反射を含む耐性を貫通し必ずクリティカルする |
| 呪殺ギガプロレマ | 自動効果 | 呪殺属性攻撃の威力を大幅に上昇させる |
| 会心専心*5 | 自動効果 | 通常時のダメージが減少する代わりに会心時のダメージが大きく増加 |
赤黒の矢がロゼ達を射抜き、鮮血を迸らせる。
無惨な光景であるが死神は容赦をしない。
会心により生まれた隙に乗じもう一射。
絶大な威力の一撃で相手を蹂躙する。
「ぎ、ぃ……ああ!」
少女の悲鳴が悲痛に響いた。
凄惨な光景にチヒロの顔が青ざめ、黒髪と白髪の女性が息をのむ。
赤子を抱く腕がこわばっていた。
圧倒的な威力のスキル。
それは戦闘の趨勢を容易く傾ける。
「そんな、技を……?」
「隠していたの?」
「別にお前達を疑っていたわけじゃないぞ。
敵も大勢力になるにつれて偵察や遠視、その他諜報をしてたからな。
様々な可能性を考えて手札は幾つか隠していた。
調整に時間もかかったしな」
────ヤブサメショットはミクトランテクトリが基から持っていたスキルではない。
死神の生きていた世界は<異界神話>と呼ばれる強力な悪魔を主神に掲げた勢力が、生存のために殺しあっていた世界。
過酷な戦いの中で死神とサマナーは、ある時<軍神シユウ>*6という強大な主神と死闘を繰り広げ、深手を負いながらも打倒した。
結果敬意と共に軍神の心臓を喰らい、得たスキルがこれだ。
武を司る戦の王の権能が一端。
それを取り込んだスキルの具現化がクロスボウ。
呪詛により属性を呪殺に変更し、強化を載せた一撃は必殺と言うほかない。
「このスキルを2発。
普通なら全滅するところだが────」
ぽた、ぽたと血が床に滴る。
結合がほどけたマグネタイトが蛍の光の様に宙を舞う。
荒い呼吸音が響く。
「強化に弱体化に、耐性装備か。
滅びてない世界は勝手が違い面倒だな」
必殺の一撃にもなお、少女召喚師は生きていた。
「最初……に、言ったでしょ。
これくらいじゃ……死なないって」
「サマナー……申し訳ありません」
「大丈夫だよドミニオン。
さっきは、ありがとうね」
主天使は砕かれてCOMPに帰還するが、ロゼと残り2体は重傷ながらも健在。
少女の傷は特に重いが、デジタライズによる
それと仲魔の主天使がその身を以て射線をずらしたのも大きいだろう。
さらにはチヒロの咄嗟の射撃も功を奏した。
(2射目の前に
タイミング事態は反撃系スキルのそれだが低下も付与とは)
| リーダースキル | 仲間が会心攻撃を受けた時低確率でタルンダが発動 |
あれで2射目の勢いが僅かに殺された。
一手毎に面倒は続く。
面白くはないが抵抗者達に見事とも感じられた。
か細い希望を掴み、護り生きぬこうとするソウルの強さ。
かつての契約者とは質が異なる強靭さを少女に感じられた。
「まだまだ……粘るよっ!」
血を拭い宣言したロゼはCOMPを駆動。
高い技術による、優れた演算能力によって高速召喚されるのは女神。
「お困りの様ですわねサマナー。
私の力を以て助力いたしましょう」
\カカカッ/
| 女神 | サラスヴァティ*8 | LV49 | ガン・四属性等にやや強い 破魔・呪殺無効 |
美しい女神を召喚したロゼの目には意思。
まだまだ少女の戦意は萎えていない。
(アイツの攻撃はとても強い……!
だけどもし僕の予想通りなら!)
「ハオマは回復、ジークフリードは叫んで、サラスヴァティはテトラカーンを!
数と連携で行くよ!」
少女の指示の通り仲魔達は動き出す。
「斃れては元も子もないからのぉ」
≪メ・ディアラマ≫
神樹が味方全体を回復。
合体で付与された回復ハイブースタの効果により、ロゼ達は回復。
「蛮行には剣を以て応えるのみ!」
≪雄叫び≫*9
英傑ジークフリードが怒りと共に咆哮。
彼等の物理攻撃力を引き上げた。
「サマナーを護る。
それが仲魔の使命でしょう」
≪テトラカーン≫
女神サラスヴァティが流麗に結界を構築。
物理攻撃を反射する障壁が少女達を覆う。
「これで!」
回復し血に濡れながらも十全な状態を取り戻したロゼはCOMPを掲げる。
閃刀弐式より迸るは白熱する雷。
≪ペルーンの雷≫*10
武器COMP用魔晶により放たれた雷は、死神よりマグネタイトを奪い傷を癒す。
まるで葛葉の召喚師が敵を斬って回復するかのように。
「電撃弱点なら殴り続けるだけよ!」
僅かに傾いだ死神。
其処へ突き刺さるのはチヒロが放つ電撃弾。
仲魔の力を載せた弱点への銃撃は、かすかに強大な死神を微かに呻かせた。
(やってくれる……!)
ロゼ達の手番が終わり、動く死神。
赤い眼の奥で冷徹な計算を回す。
ロゼ達が動けるのは6手に対して、ミクトランテクトリは3手。
テトラジャやテトラカーンでこちらの手数を削り、強化低下を積み重ねる。
数の差を活かした立ち回りと予測。
(ならば4手目に
全盛期より弱くはなったがマグネタイトに不足はあらず、十分に継戦可能。
相手の勝ち筋を潰し消耗させ、高威力のスキルで潰す。
(覚悟のうえでの邪魔だ。
容赦なく叩きのめしてやるよ)
慢心する事なく、死神は動いた。
≪マハムドオン≫
呪殺魔法で防護結界を。
≪暴れまくり≫
物理攻撃で物理反射結界を消費させた。
強引だが敵の守りを剥がし、必殺の一撃を当てる為の手順。
先程と同じ様に呪い殴り、当然のごとく来る衝撃に耐えようとして。
「──────な、に?」
予想を遥かに超える衝撃の連打に正面から殴り飛ばされた。
減衰されていない障壁がなければ敵に与えていたのと同等の衝撃。
全身を打ち据えられた死神は驚愕に目を見開く。
(これは物理攻撃の手ごたえじゃない!?
テトラカーンだというのにどういうことだ!?)
テトラカーンと呼ばれる物理反射魔法を使う悪魔は数多い。
全体単体と対象に差があれど、力依存の物理攻撃を1ターンに1回そのまま反射する。
多くのDBや悪魔がそう効果を認識している。
ロゼの召喚した女神サラスヴァティを含む何種類かの悪魔。
それらの扱うテトラカーンは、相性を無視し与えたはずのダメージをそのまま反射する。*11
故に強力な物理耐性を持つミクトランテクトリは、自身の攻撃が与えたのと同等のダメージを喰らった。
高い力のステータスによる連撃に相応しい痛烈なダメージ。
それだけでも怖ろしいものだが。
「どういう仕様だそれは……≪デクンダ≫」
ヤブサメショットを放とうとした死神は諦め自身への能力低下を解除。
3手目を消極的に消費した悪魔の目は憎々し気に見ていた。
先述したテトラカーンの恐ろしい点はもう一つ。
1度攻撃を反射しても、消滅する事なく1ターンは残り続ける。
味方からすれば頼もしい、敵からすれば呪わしい障壁だ。
(良かった……!
強引に殴って解除したから行けるかなとは思ってたけど。
うまくはまってくれた……!)
顔に出すことなくロゼは一息。
ミクトランテクトリの予測通り、ロゼ達は強化低下を意識して立ち回りを考えていた。
しかし死神の奥義による高火力は細かな立ち回りを蹂躙しかねない。
だから何らかの手段で防ぐ必要があった。
少女の予想は見事に的中。
外した時の事を考えると背筋が凍るが正解を引けて良かった。
(ありがとうサラスヴァティ!
ありがとうキリギリス掲示板!
ありがとうおじさん……!)
この状況を自分にもたらしたすべてに感謝。
素直な気持ちを抱きつつ────好機を逃さず反撃だ!
「ジークフリード!」
「かつての召喚師がもたらした力。
今こそ貴殿に!」
≪雷電真剣≫
英傑ジークフリードがロゼの閃刀弐式に雷の力を付与。
瞬間、雷光をなびかせ少女は疾走。
回避せんとする死神の動きに追随し、地を蹴って飛び上がる。
鋭く速く敵の圏内に乱入する斬撃。
少女召喚師が放つは華麗なる乱舞。
「せいやあああああっ!」
≪乱入剣≫*12
下から上に切り上げ、防御しようとした腕を蹴って飛び上がり回転。
斜め後ろからの一撃を放つ。
「がっ……!」
少女の連撃はミクトランテクトリへ確かな痛打を与えた。
防御をすり抜けた二撃目はまさに
視界が痛撃でぶれ、定まらない。PANIC!
ミクトランテクトリがよろめき、後ずさる。
不利に陥った中、さらに畳みかけていく。
「あなたの意気に答えましょう」
≪テトラカーン≫
女神サラスヴァティが再度物理反射結界を展開。
「念には念を入れねばのう」
≪テトラジャ≫
神樹ハオマがテトラジャを発動。
「マカミはロゼを回復。
私はもう一度アイツの腕を」
チヒロが再度電撃弾を腕へ撃ち込み死神の攻撃力を低下。
神獣がロゼを回復し、体力は万全。
まだまだ戦えるロゼ達と対象的に体力を残しながらも弱った死神。
1ターンの、1手の手筋が戦いの趨勢を決める。
恐るべき戦いの論理が現れていた。
(────認められるものかよ)
定まらぬ視界の中、死神は唸る。
ミクトランテクトリのサマナーは劣悪な環境で育った男だった。
貧困と虐待に無関心。
ありふれた不幸だがいずれもが子供の成育には致命的極まりない。
負なる物しか与えられなかった少年にまともな人間性等芽生えるはずもない。
高校に入る頃にはひどく粗暴で、冷酷な人間になっていた。
治安も学力も良からぬ高校でも男は恐れられた。
体格に秀で喧嘩が強く、それ以上に他者への容赦がなかったから。
荒神を祀り上げるように、彼を畏れた周囲の不良は彼に阿った。
それが楽しいとは特に感じなかったようだが。
男は高校進学後も喧嘩や抗争に明け暮れ、悪名を高めていた。
そのままならば犯罪者となり紙面を賑わせ、いつかやると思っていたと周囲に溜息交じりに言われるような人間になっていただろう。
転機が起きたのは高校三年の時。
世界が悪魔が蔓延り滅びたのだ。
「死にたくなければ俺と組めニンゲン。
満月の悪魔は凶暴だぞ?」
「……いいだろう。
分からねえ事ばかりで情報が欲しい。
乗ってやるよアクマ」
「判断が早いな、いい事だ。
お前に敬意を表して俺の名を教えよう。
俺は死神ミクトランテクトリ。
コンゴトモヨロシク……」
送信された悪魔召喚アプリを通じて死神と男は契約した。
満月の夜、人魔の血が匂い立つ中。
戦いの日々が始まった。
悪魔の軍勢を撃退し生き延び、拠点となる異界を創り、<異界神話>という勢力を創った。
恭順した神と人々を配下に加え、敵対した邪神を滅ぼし下衆への復讐を手伝った。
他の異界神話や相いれない勢力と戦い滅ぼし、さらに勢力を大きくした。
戦いに次ぐ戦いの、血に濡れた日々。
壮絶な生き様は現代の常識からすれば悪とも言えよう。
それでも価値はあったと死神は想う。
男は父親となる事が出来たから。
あの赤子達の実母の事は良く知っている。
片方は無力さと迷い故に自分達に恭順した少女。
もう片方は邪神と下衆に苛まれ、復讐の為に身を捧げた少女。
二人共男に比べたら弱い存在だった。
前者は過去を想い涙し、後者は己が穢れているのではないかと苦しみ続けた。
彼女達はこの世界に子を産み落とす事を迷い続けていた。
何せかつての世界で周りから愛されて育っていたから。
凄惨な世界に産み落としても良いのかと。
「毎日毎日頭から離れねえんだこの疑問が。
俺は……父親になって良いのか?」
他方男もまた悩んでいた。
過酷な戦いの中で他者との関係を構築していった事で得た人間性。
あればこそ男は二人の妊娠を知り苦悩していた。
愛を知らなかった男が知ってしまったから。
己が親になって良いのかと。
だからこそミクトランテクトリは忘れない。
子が産まれた時彼らは喜んでいた事を。
三人共泣き笑いの様な顔で、それでも我が子を祝福していた事を。
死神である存在にすら尊く守りたいと思える美しき光景。
だがサマナーの男も、その妻となった二人ももういない。
彼等は<新しき神話>に敗北して、死んだ。
「後は任せておけサマナー。
あの子達だけでも、俺が守って見せる。
強く、過酷な世界でも生き残れるようにする。
だから、共に行こう」
サマナーの残滓を喰らい包囲を抜け死に物狂いでたどり着いた世界。
狂おしい焦燥を押さえつけ準備を整え今日ようやく再会した。
義母となった二人にも、ロゼやチヒロにも憎しみはない。
(認めない。認めてなる物か……!)
あの赤子達もいつかは死ぬ。
それは人間だろうと悪魔だろうと避けられない運命。
だろうと、だろうともし、あの子達が何も残さずに死んだら。
(アイツも! あの子達も! 産まれてこない方が良かったみてえだろうがッ!!)
赤子達の母である二人は、家柄も容姿も頭も何もかも良かった。
もし世界が滅ばなかったなら、死神のサマナーと結ばれるどころか袖すり合う事すらない。
全く別の人生を送る事になっていただろう。
なれば当然あの子達は、祝福された子達は産まれる事はない。
何よりも────あの子達の父であるサマナーだった男は魂すら砕け、この世界には生まれ変わる事はなかった。
かつての世界で死んだ者達の様に、赤子達には生まれ変わり等はない。
死んでしまえばそこで終わり。
彼等の生きた証は、希望はそこで途切れる。
まるで、何の価値もなかったかのように。
(ふざけるなふざけるなふざけるな!
アイツ等の人生が、希望が、出来損ないの、失敗作の様に消えていくだと!?
そんな事認められるものか! させるものか!)
ミクトランテクトリが宿すは怒り。
例えそれがこの世の理だとしても認められない理不尽への反逆。
この身が灰になろうとも抗ってみせる。
人の形をした悪魔にあの子達をしようとも。
生きた証を残せるような生を歩ましてやる!
「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」
全身を赤熱させ、死神は≪憤怒≫に吼える。
マグネタイトを励起し、状態異常を解除。
「何あれ……ここでパワーアップ形態!?」
ロゼの言葉に応えるかの如くミクトランテクトリは変化。
青黒い体の多くを赤く染め、より鋭角で攻撃的な全身像。
右腕の爪は不吉な処刑刀の如く太く長く鋭く。
牙をのぞかせる口元は憤怒の形相。
己の■恵たるサマナーを喰らい得た■■神たる力の片鱗。
本来の力からすれば微々たる物。
されど死神にさらなる
「お前を砕き俺はあの子達を未来へ進ませる!」
右腕の爪より放たれるのは鮮血色の波動。
幾筋にも分かれ、鋭角に曲がり殺到。
回避も防御も間に合わずロゼを貫いた。
| 魂砕波*13 | 万能スキル | 敵単体のHPを1にする |
「────────あ」
チヒロや仲魔の自分を呼ぶ声も遠く、ロゼは膝から崩れ落ちる。
これこそが死神ミクトランテクトリの最後の奥義、魂を砕く万能の一撃。
かつて<大天使アバドン>を喰らい得た凶悪な万能スキル。
発動には自壊を招きかねない負担がかかる故に封印していたが、この状況で出し惜しみはしていられない。
この場で敵の中核たる少女を、こ確実に殺す!
「終わりだッ!」
| エナジードレイン*14 | 万能スキル | 敵全体のHP・MPに小ダメージを与えHPを吸収 |
続けて放つは防ぎようのないスキル。
文字通り風前の灯火である少女の魂をも踏みにじる一撃。
赤熱したミクトランテクトリの目が輝く。
チヒロや黒髪と白髪の女性が息をのむ。
貪欲なる力場が動けないロゼを捉えて咀嚼──する直前に英傑が割って入った。
| 身代わり*15 | 自動効果 | リーダーが受けるダメージを、代わりに術者が受ける |
誇り高き英傑の守護の意思。
もっとも発揮されるのは極限の場にて。
「我が召喚師をこれ以上傷つけるのは許さぬよ」
力を奪われながらも英傑は堂々と己の召喚師を護り立つ。
かつて死神がそうであったように。
「……そんなスキルがあるのか。
あの時もっていりゃあ、な」
ミクトランテクトリの口からは血が流れる。
スキルを使う為の消耗は、重い。
「あの子を護る為に知人に頼み組み込んだのだ。
召喚師には長生きしてもらいたい物だろう?」
「ああ、そうだな」
英傑の背後で少女が立ち上がる。
神樹の回復を得た少女の表情には疲弊が浮かび。
それでもなお力強く閃刀を振るった。
「そうだったな」
異郷の蜘蛛神を、少女召喚師の雷刃が十文字に斬り裂く。
此処に戦いの趨勢は決した。
・
・
・
カラン、とマガタマが床に落ちた。
ロゼとミクトランテクトリの死闘は終わった。
結界は解除され息を荒げながらも立つ少女と対象的に、膝をついた死神。
炭化し切り裂かれ、全身に罅が入った姿は紛れもなく瀕死。
スキルどころか通常攻撃すらしようとした時点で死ぬ。
戦闘音も最早聞こえない。
外の戦力も鎮圧され、死神の最後の仲魔であった凶鳥グルルも倒れた。
端的に言えば積みである。
にも拘らず双方ともに動かない。
なぜならば赤子の鳴き声が響いているから。
先程まで静かだった赤子の元気な泣き声。
戦場には場違いな、生命を感じさせて。
「二人共……元気そうでなによりだ」
「うん。あの子達は元気に生きているよ。
この世界で。奪わなくても強くなくても生きていける世界で」
まだ滅びてない世界であなたの大切な子達は生きている。
このまま世界が続いていけば、文明のゆりかごに守られてすくすくと育つ。
どんな人生を歩むか分からないけど、未来への希望は確かにある。
言外にそう意図を込めて、ロゼはそう言った。
「そうか。……新しき神話は強いぞ。
お前達は奴らに立ち向かうのか?」
「未来の事だから分からないけど、僕は護るよ」
この世界には確かに続く価値があると思うから。
「とは言っても僕より強い人なんて5万とはいかなくても5千ぐらいはいるからねー。
強い人達のサポートにまわる事になりそうだけど」
「大概な世界だな此処は」
呆れを込めて呟いたミクトランテクトリは、黒髪と白髪の女性に声をかける。
死にゆく蜘蛛神の脳裏には一つの想い。
自分は負けて死に、赤子達は人修羅になる事無く人間のまま生き続ける。
ならばあと数十秒で、何をすべきか、何を言うべきかは決まっている。
「その子達の食べ物にはよく気を付けろ。
水遊びは危ないから目を離すな。
後は本でも何でも芝居でも色々経験させてやれ」
悪魔らしくもない事を、悪魔は言い。
二人は深く頷いた。
会話の間にも死神の身体は崩れていく。
言葉通りの今際の際。
最後に一つだけ、言葉を紡いだ。
「──幸せに、長生きしろよ」
ミクトランテクトリにとって輝かしい時間はもう終わっていた。
戦場を駆け抜けたサマナーも、彼の妻二人も、それ以外の仲間の多くも既にこの世にはいない。
敗北し神話が崩壊し、今はもう残滓すらない。
どれ程戻りたくても戻れやしない。
全ては終わってしまった物語だ。
だけどそれでも何も残らなかった訳じゃない。
あの子達が望まれて生まれてきた事を知っているから。
最後に祝福を残して、ミクトランテクトリは死んでいった。
空を舞う遅咲きの桜の花びら。
儚く美しいそれを自室の窓から少し眺めると、ロゼは端末に目を戻した。
端末のアプリに表示される名前は先日あった黒髪と白髪の女性。
今は別の施設に移ったそうだが、赤子達も健康その物らしい。
人間元気が一番、何よりだ。
数日前の襲撃はほぼ完全な防衛に成功した。
襲撃側を殲滅し主な被害は施設の破損。
最もダメージが重かったのはロゼとチヒロというぐらいだ。
傷は痕も残さず癒えたが、魂砕波など強力な攻撃を植えた事もありロゼはここ数日静養中。
自宅でゆったりと過ごしていた。
なお今回の休みにはロゼがこの世界に来てから忙しい日々を送っていた事を考慮した、彼方の御国と帝都ヤタガラス双方の意図もあるらしい。
痛みが引いたのを実感しつつ、彼女はゆったりと過ごしていた。
「どうぞー」
コン、コンとなるノックに答えると、入ってくるのはレイ。
姉の様な少女は端末を見ているロゼの頭に、トンと自分の顔を乗っける。
そうして持っている端末の画面に目を向けると、ふっと微笑んだ。
「ロゼの知り合い、大分増えたね」
「うん。短い相手だったけどずいぶん増えたよ」
自分と同じ漂流者以外にも銀達の様なヤタガラスの同世代。
シェルターの中では知り合う事なかった知人が増えていく。
それは良い事だとレイもロゼ自身も感じていた。
「銀ちゃんやイザボーちゃんの仲間も同年代の子が沢山いるんだって。
その内会えるかな?」
「何処かで一緒に仕事する機会もあるだろうし。
だけどあっちの拠点に行くのは」
「むずかしい……!」
あちらの機密上の問題もあるがどっかのおっさんが佐々木氏とレイロゼの接触に、凄まじく神経質なのである。
一体何故レイブンなるおっさんはああなったのだろうか。
このままだとダークサマナー封鎖機構とか作りそうな勢いである。
「ま、まあそれはいいわ。
レイブンと御影さんもうすぐ着くって」
「本当? なら行こうか」
レイブンのみならず御影──最近乃木グループ系のIT企業に再就職したらしい彼女も、今日この里に来る。
二人共別々の仕事があるそうだが、少し早く来るそうだ。
御影もまた三大勢力関係はともかく彼方の御国についてある程度知らされたらしい。
自分が葛葉マンゲツの助手でロゼをこの世に産み出した一人とか。
自分を創った彼女と会うのはロゼにとって怖いような嬉しい様な。
何方かといえば後者の気持ちが強い気がする。
それは銀の言葉のお陰か、あの死神が見せた祝福のお陰か。
なんて事を考えつつロゼ達は里の中を歩く。
それなりの広さはあるが勝手知ったる里だ。
すぐに落ち合える──と思いきや曲がり角でレイがロゼを止めた。
(ロゼ、チラッとだけ頭出さずに見て)
(うん? ……ああー)
あちらは気づいていないようだが里を歩いているのは間違いなく雨柳と御影。
だけど雨柳の視線は思い切り、御影の視点は微妙に左に傾いている。
原因は明白だ。
彼等の右側には里でも立派な屋敷──先日佐々木氏が宿泊していた屋敷があった。
そう、銀を含むJCJS5人と一緒に宿泊していた場所である。
「俺は見ていない。何も右側にはない」
「ううー、ちっちゃくて可愛い銀ちゃんに先を越されるなんてぇ……」
自分の半分の年齢の少女がママになる気満々だったのは流石にインパクトがあったようだ。
レイもロゼも二人共気づかれる前に無言で距離を取った。
武士の情けである。
しばし待ち足音がかすかに聞こえてきたタイミングで歩み寄る。
いい感じにばったりと会えたのを演出。
少し風が舞う中、ロゼは雨柳と御影と会った。
「こんにちはレイブン、御影さん。
私が葛葉レイでこの子が葛葉ロゼ」
「初めまして御影さんっ」
ロゼは勢いよく頭を下げた。
対する御影も微笑みを返した。
「初めましてロゼちゃん。
舞弓御影です」
ロゼは御影を見て、綺麗な人だと思った。
御影はロゼを見て、可愛い子だと思った。
二人の縁は深くそれでいて生きて会うのはこの時が初めて。
かつての世界で何があったのか、どんな思いを抱いていたか知る事が出来ないが。
「仕事までまだ時間があるしお話ししましょう」
「……はいっ!」
ロゼはこの人に、生誕を祝福されたのだと、素直に信じる事が出来た。
少女にとってそれで十分だった。
酷く損壊し研究所室内に二人の男がいた。
片や知的な面持ちの老人<葛葉マンゲツ>。
かつてヤタガラス最強と讃えられた現存する唯一のクズノハ四天王。
今は元老院に下された特命に従い、造魔の研究を重ねていた男。
片や苦難が刻まれた壮年の男<レイブン>。
数多くの護国の敵を切り続けた歴戦の召喚師。
前線を退き、後進を守り育てていたはずの男。
二人は相容れぬ存在として殺しあった。
全盛期を過ぎた者同士ではあるが、召喚師としての技量を極めた二人の戦いは熾烈極まりない。
研究所を破壊しながらの悪魔を交えた死闘。
血がしぶき肉が抉れ、骨が砕け手足が飛ぶ。
現にレイブンの左腕は飛び、顔には深い傷が刻まれている。
「あなたの研究は此処で終わりだ。
葛葉マンゲツ」
「どう、やら……その通りの様だ、な」
最終的に勝利したのはレイブンであった。
勝因はマンゲツの衰えか傍に控えるゼノンなる強力な造魔か。
それとも狂気的な執念か。
子供にもわかる致命傷を負ったマンゲツは息を荒げながらも言葉を紡ぐ。
「望み通り、ロゼは君に預けよう。
あの子が目覚める時間も近づいてる。
くれぐれも醜い物を見せないよう、に」
「……分かっています。
避けられない苦悩があってもあの子には、生きる意味があると感じて欲しい」
両者の視線の先には、棺の様に見えるポッドで眠るロゼ。
造魔技術を応用して作られた少女。
男達の間にはいかなる結果になろうとも少女を傷つけず戦うという無言の合意があった。
ポッドの生命維持機能にも問題はなし。
確かめると、死を前にしても泰然としてマンゲツは続ける。
「私を殺しても気にする事はないぞ。
君と私、未来に何を残すかの意見が分かれただけだ。
この様な老僕の事等気にせず、あの子達の未来の事だけを考えろ」
揺ぎ無き眼差しのマンゲツに死への恐怖など毛頭ない。
子供が生半ばで死ぬ中、敵とされた更生の余地ある若者を切り捨て、組織の腐敗を咎めはしても粛清し正す事なく生きてきた。
その上で例え人と造魔の良き未来を目指していたとしても、自分が行っている研究を考えればどうして自分の命を惜しめるか。
それに──レイブンには
(せめて舞弓君を生かしたかったが。
……あの子もロゼが生きる事を望んでいたな)
後悔はある。だが、ロゼはこの後も生きる。
レイブンの計画の詳細は知らないが、きっと人らしく生きれる事だろう。
ならばそれでいい。
「さあ私を殺せレイブン。
この様な老人に時間を使っている暇はないぞ。
君の全ては子供達の為に使うと決めたのだろう?」
「……はい」
退魔刀を一閃。マンゲツは斬り裂かれ絶命した。
「────────―」
刀を鞘に納めたレイブンは、荒く息を吸う。
今自分は葛葉マンゲツを殺した。
かつて憧れた最強の召喚師を、幾度か教えを受けた尊敬すべき先人を。
己が望むまま殺した。
一秒、二秒、三秒。
事実を受け止めて動きを止め。
手を奮わせながらも動き出した。
仮初の部下である<カブラギ>からの着信。
こちらへ近づくヤタガラスと、レイ達彼方の御国の部隊を発見したという。
レイブンはファントム幹部の鉄仮面を殺し身分を奪っている。
故にカブラギといったファントムの召喚師を手駒として運用可能。
世界が荒廃していく中、どうしても不足する手数を補うために重宝していた。
まだ子供のカブラギを利用することに胸の痛みを覚えながらも指示を出す。
指示の内容はヤタガラスの足止めに注力させ、レイ達は通させる。
理由は自分が止めるからとしておいた。
「レイ達が来る前に施設を破壊しなきゃな……」
偽装の為の鉄仮面を被り直す。
ゼノンや他の仲魔周辺の記録を電子物理問わず壊させる。
ロゼの眠るポッドの周辺は除いて。
「…………そうだ。俺は護るんだ」
幽鬼のような足取りでレイブンはロゼのポッドに近づく。
苦悩し絶望に苛まれながらも、確固たる揺ぎ無き意志が男にあった。
「あの子達の様に、腐ったヤタガラスとファントムの犠牲にしないように。
レイを、こまどりの子達を、ロゼを」
────ロゼは単なる人造人間ではない。
ロゼはある重大な目的のために特別に製造された人造少女。
とある人物の細胞を培養したクローン素体に、葛葉マンゲツが確立した造魔関連技術がフル活用されたハイエンド。
投入された多数のリソースの中でも重要なのは、葛葉一族の因子。
彼女を葛葉一族の一人として血で縛り、兵器として制御する為に。
此処で問題となるのは、葛葉一族の誰の因子を混ぜるかである。
熟慮の末選ばれたのは現役時代高い実力を発揮し、地位が高くなく問題にならない元召喚師。
ロゼの父として選ばれたのは、すなわち。
「俺の娘を──────!」
レイブン、雨柳巧の静かな決意は、最後まで曲がる事はなかった。
その悲壮な真意を、今週回のレイもロゼも、雨柳も知らない。
今は、まだ。
何故過去周回の雨柳がロゼを気にかけていたかというとそういう事なんですね。
血と苦悩はあれどロゼは自分を創った人に、父たる男に祝福されてこの世に生まれた、それだけは確かな事。
ちなみにインモラル展開は今後もないのでご安心ください。
◎主人公紹介
・葛葉ロゼ <悪魔召喚師> LV60
シリーズポジション:ナナ(ソウルハッカーズ2)
今回まさかの血縁関係が明らかになった実年齢2歳の悪魔召喚師。
天賦の才もあり一気に伸びたが本人は慢心せず、色んな人と協力して出来る範囲で頑張っていくつもり。
主要ジャンルはジャンルを問わない食事にウルトラシリーズを始めとする特撮、最近は水星の魔女の影響でロボにも興味があるとの事。
今回ガッツリ長めのエピソードだったので次回は軽めのを早めに投稿したいと思います。