真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は珍しく漂流者も交えた日常回となります。
帝都の一角、あるレルムの内にて。
<神>が破壊をなしていた。
『ォォォオオオオオオオオオオ!!!』
神の名は<無垢なる祈りに呼ばれしユルング>。
政府公認レルムに出現した超巨大悪魔は破壊と殺戮をまき散らす。
愚かな人間への神罰の如く、圧倒的に。
ユルング降臨の裏には<ガイア再生機構>なるこの世界に降り立った組織が手を引いていた。
幾多の周回にて収奪を続ける彼らはすでにこの世界にも手をのばしている。
社会と経済の不安定化の為、インヴォークシステムなるアプリを利用してユルングを召喚。
大量虐殺の惨禍を引き起こしたのだ。
かつて世界をも砕くと言われた神が、レルムを瓦礫に変えていく。
深き悪意のまま、彼らは弱きと無知をあざ笑う。
穢れなき高貴な、殿上人の如く。
「
遠慮なく強化弱体をMAXまであげてやれ!」
「幾らデカいってもこっちにはマークあんのよ!
脳天ぶち抜いてやるわ!」
「君達は逃げ遅れた人の避難を頼む。
心配するな瓦礫はこの大楯で防いでやるさ。
私自身も頑丈だからな」
「この程度、フェクダの大軍勢に比べれば、猪口才な物である!」
────だが、この世界のDB達は普通ではない。
幾多の理不尽に抗い続けてきた者達はしぶとい。
彼らに続く戦士達も行動を開始。
情報を集め、経験を積み、鍛え上げてきた彼等は神へ立ち向かう。
最初の不意打ちさえ凌げば、始まるのは反撃の時間だ。
神を弱らせ、自身や仲間を強化し、有効な攻撃を続ける。
飽くなき意思で、戦意の灯を絶やさず。
≪メギドラ≫
≪メギドラ≫
≪メギドラ≫
だが、戦士達の奮戦に水を差すように、周囲が吹き飛ばされた。
三連続の
殆どが防げない万能魔法の連打は単純明快な最善手。
万能は少数の悪魔*1を除けば防げないからこそ万能である。
理不尽な連打に再び趨勢が神に傾いたように思えたが。
あるDBがキリギリス掲示板に書き込んだワード。
その意味に気付いた者達はあるアイテムを急場で入手。
そのアイテムとはバルーンシールド。
ジャンク屋が細々と作っているこのアイテムは驚くべき事に万能すら防ぐ。
脆き風船はこの場では堅牢な盾となる。
猶予が得られれば始まるのは再度の反撃。
「スクカジャ足してくぞ!
ヘビ公をひっかきまわしてやれ!」
「嬢ちゃんは無理するなよ、回避最優先で行ってくれ」
「1回死んだぞ詫び素材寄こせオラァ!」
炎に、万能に、銃撃。
痛烈な攻撃がユルングの命を削る。
巨体を蹂躙し、勝利へと近づく。
されど、彼等には試練が付け足された。
≪ワンスモア、龍の眼光≫
ユルングが再動し、人外の眼が輝きを増す。
理不尽は神の裁きとして、何度でも人を襲う。
≪メギドラ≫
≪メギドラ≫
≪メギドラ≫
≪メギドラ≫
万能の光が4度瞬き、一面を薙ぎ払う。
防ぎ躱し切れずに、痛撃を受ける戦士達。
その中で最も不幸だったのは、灰色の髪をした少女だろう。
悪魔の血が混じっているのか、頭頂に光輪を浮かべ獣耳を生やした少女。
しかし不運にも、少女はユルングと目が合ってしまった。
まだ一撃、万能魔法を放てる悪魔と。
待ち受ける死に対して少女は動けない。否、動かない。
周囲が少女に気付き、声をかけ、助けようとするが間に合わない。
死を覚悟した少女を万能魔法が焼き尽くす────事はなかった。
「君は死んだら駄目だから」
一人の青年が少女を
少女が悲痛な叫び声をあげる。
限界を超えた心をそのまま表した叫び。
狼の遠吠えの様響く叫びは、人々の心に刺さる。
此処で終わればありふれた悲劇。
過去の周回で、この世界で繰り返されてきた死別に過ぎない。
だが、この場ではそうならない。
「────死ねるかよ、こんなところで」
「死んでたら誰も守れねえんでな。
いい加減仕留めさせてもらう」
青年は不屈であった。
邪悪に蹂躙され、最愛の人を失い、幾度なく悲劇に悲しみ苦しみ絶望しようとも。
なおも立ち上がり誰かのために戦い続けている。
これまでも、これからも理不尽を殴り倒すと、仲間に信じられている男。
≪金剛二式≫
少女を護り、<不屈の闘志>で立ち上がった青年は渾身の力を籠め、金剛の如き拳で神たるユルングを殴りぬいた。
全身全霊の一撃は最後の一押しとなり神を砕き、殺す。
頭部を砕かれ、地響きと共に消滅する巨体。
戦闘は終わり、一泊遅れて響くのは生者達の歓声。
神を殺すのは、英霊の集いではなく、理不尽に抗う人間達。
少なくとも今日この場においては、そうであった。
ユルング襲来の後も、仮初の平和は続いていた。
超巨大悪魔の襲来という災厄もあくまでレルムの一つで起きた事。
表社会には影響を与えず、他のレルムで同様の事件は起きていない。
予期せぬ惨禍を気に留めながらも、人々はこれまで通りの日常を送る。
先日の事件で被害を受けた者もいるだろうが、大多数はそうしている。
天災や大悪魔の出現を経てきたこの国では、そういう物だ。
悪魔業界に生きる人々はそれぞれの日常を歩み続ける。
この過酷な世界でなおも人間として生きていく為に。
・
・
・
帝都東京にあるレルムの一つ。
後発の分護国や穏健派の影響が強く治安が良いとされる地区。
国際色豊かで行きかう人も多様だ。
街並みを行く人々の顔は明るく、その多くは若い。
別のレルムで一週間前に起きたユルング襲来の悪影響による揺らぎは見当たらなかった。
それでも前来た時よりは警備員も増えたし、完全武装のDBも多い。
\カカカッ/
| デビルアームズ | 水神恵都 | LV57 | 物理・呪殺に強い 銃撃・神経・破魔無効 |
普段は名古屋で活動している彼女だが、ここ数日は東京に来ていた。
依頼や不要なアイテムの売却、顔合わせ。
用事は大体終わったので今は帰るまでの小休止と言った所だ。
まだ真新しい小綺麗な中華料理店の中、恵都はお冷のグラスを傾ける。
注文した料理は食べ終わり、デザートの杏仁豆腐を待つ間。
行きかう人々は多彩で見てて飽きないが、物々しくも感じられた。
「流石に増えたねいつでも武装している人」
「昨日の今日だからな。
何せあの悪魔と来たら未だに何故出現したか分からないのだ。
理由が分からなければ皆目安心できんだろう」
恵都の言葉に応えるのは薄い茶髪にサイドテールの少女。
男勝りな口調と裏腹に可憐な顔立ちと、花を模した髪飾り。
淡い色の衣装に今は外している籠手と、具足の装い。
総じて姫騎士という形容の似合う少女の名は、アリシアという。
\カカカッ/
| アリシア | LV50 |
アリシアはここしばらく恵都が組んでいる仲間だ。
ある依頼で一緒になった事から組み始めたが相性は中々良い。
槍使いで電撃も得意な彼女が前衛となり、恵都が支援する。
中々バランスの良い組み合わせだと、二人共自負していた。
「日常を楽しむ為にこそ備えるべしだ。
そうだろう?」
「違わないねー。いい事いうじゃんアリシア」
「楽しむべき日常がある事は悪くないから、な」
アリシアもまた
何でも元いた日本で改造を受けて兵士となり、様々な敵と過酷な戦いを繰り広げてたという。
その頃に色々あったらしく語りたがらないが、当時の隊長の事は深く尊敬しているようだ。
「私も杏仁豆腐、後ゴマ団子を頼むとしよう」
アリシアも恵都に続きデザートを頼む。
昨日の依頼は損耗を抑えた上に稼ぎも上々。
懐具合が暖かいというのはいいものだ。
「昨日組んだあの子に感謝だね」
「ああ、良く働いていくれた」
アリシアと恵都が組んだのは砂狼シロコという少女。
支援も破魔呪殺による攻撃も的確にこなし、ボス相手にも臆せず戦っていた。
自分達とそう変わらない年齢の少女の有能さに、二人は素直に称賛を覚える。
「詮索はならないがあの子も私と同じ漂流者だろう。
共にこれからも腕を上げていきたいものだ」
「あの事件でレベル上げた人多いらしいね。
レルムだし漂流者も大分多かったんじゃないかな」
スタートラインは異なれども、知識を積み準備し、経験を積めば強くなるのは誰だって同じ。
「私もここ一年で大分強くなったから。
脚の方も新調したし。
さしずめ水神恵都
たははと笑う恵都の金属質な脚は以前と違い、赤ではなく暗い青色。
何処か槍のような印象も脚は魔晶変化武器『モリ―アンの具足』に変更されていた。
実の父親に改造された脚は、数々の激戦と恵都自身の霊格の上昇に伴い限界を迎えていた。
そこでこの激動の時代における急速な技術の進歩、また一部キリギリスの協力もあり、魔晶変化武器をほぼ一から新造。
信頼できる医者や技術者によって、脚の置換手術をしてもらったのだ。
マッハの姉であるモリ―アンの力は相性良く、今では完全に自分の脚として馴染んでいる。
自らの辿った道筋に、まだ心残りはある。
今の技術ならきちんとした人間の脚にも戻れるかもしれない。
日進月歩の技術は後少しで、彼女を救うところまで来ている。
それでも好きな音楽はあるこの世界に続いて欲しいから、今はまだ戦いを続ける。
銃を置き普通の女性に戻る事があるとすれば、その後だ。
「恵都や私の様に他の漂流者達も強くなっていくだろう。
ましてや元の世界で強者だった者ならなおさら。
ブレイド隊長の様な方ならばきっと」
「とてもいい隊長さんだったんだね、その人」
「当然だとも、強く誠実で、愛深い人だった」
アリシアの目は穏やかに遠くを見ていた。
凄惨なな世界でも、尊敬できる人に出会えた事は悪くなかった。
「私がこの世界に辿り着けたのもあの人のお陰だ。
あの人ならばこの世界でも、きっと」
そこまで言った所で二人分のデザートが運ばれてきた。
濃い目の料理の最後に来るあっさりとしたデザートは実に口当たりがいい。
二人共名古屋へ還る前の穏やかな時間を楽しんでいた。
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時刻は夜。葛葉の里にある自室にてレイへノートはペンを走らせていた。
真新しい机の左側にはPC。
画面に表示されるのはキリギリス掲示板。
先日のユルング襲来もあって掲示板は賑わいを見せている。
激戦でLVを上げ、悪魔合体や装備の更新を計画する者が多いようだ。
レイもまたヤタガラスを通じて入手した記録映像を基に、あれこれと対策を考えている。
「やっぱり、万能対策が鬼門よねえ……」
天井を仰ぎ、ふぅと息を吐く。
万能は如何なる状況でも力を発揮するが故に万能。
かつてならいざ知らずこの世界ではそうでないとしてもやはり対策は困難。
それが格上からの連打となればなおさらだ。
(万能反射タイプの夜魔はアテがあるけど、育成の時間短縮に魔導書*2用意した方がいいかしら?
それと次回の合体にはサイコブラスト*3を継承させて。
他の人、場合によっては非戦闘員もカバー出来る様にヴリトラ以外の盾役も用意しなきゃ)
あの場にいたわけではないが、レイも少なからず超巨大悪魔の出現と討伐に影響を受けている。
この世界に来てからLV70を超す外道との戦闘も経験してきた。
だがこれからは超巨大悪魔相手の多人数での
そうなれば気心の知れた相手との連携だけでなく、周囲のDBとの瞬時の連携も必要となる。
自身の準備のみならず、他者にも目を向けなくてはいけない。
(機密の問題で難しいけど可能な限り色々なDBと組めたらいい。
後は掲示板見てこの世界の人々の思考を知らないと)
他者を理解することを怠り、独りよがりに陥れば待ち受けるのは腐敗と破滅。
レイは悪しき前例から良く分かっている。
(明日は……午後美森達とレルムの調査だったわね)
自身の準備以外にも情報を得るための調査も重要だ。
数日前復帰したロゼやチヒロ、レイもまたヤタガラスと協同して動いている。
未だ判明していないユルングの出現理由について、レルムの地脈などを調査し糸口を僅かなりとも掴みたいという思い多くの組織に共通している。
事件を予防できるのが最善なのだから。
「……今日はこの辺にしておきますか。
さて、と」
ひと段落ついたところでノートを閉じPCの電源を落とす。
代わりに起動するのはPS5。
テレビの液晶画面に映し出されたゲームのタイトルは。
一部で根強い人気を誇っていたロボットゲームの新作。
本作はやりがいのあるゲームデザインに爽快感のある戦闘、魅力的なキャラクター達といった要素から今や世界的人気作になっている。
キリギリスや関わりのあるDB達でもドハマリする者が続出。
掲示板に専門スレが連日幾つも立っていた。
レイの知り合いも何人もこのゲームをプレイしている。
特にアルファ4という漂流者はこの世界に来た当初から楽しみにしていただけあり、念願かなって大興奮。
プレイの実況スレまで立てている程楽しんでいる。
ちなみにレイは知らないが、この時ロゼの方もこのACⅥをプレイしていた。
まだ1週目中盤のレイと違って、休みの間に攻略を進めてもう2週目終盤まで来ているが。
「むぅ……敵ながら格好いい登場するわね。
名前はちょっと複雑だけど」
夕日の中たたずんでいた敵機が振り返り、特徴的なバイザーを稼働。
オペレーターの言葉と共に、戦闘モードへ入りこちらへ接近。
これから始まる戦いへの機体を感じさせる見事な演出だ。
「うわっ近接の反応つよっ。
これ距離取って戦わないと事故る……!」
ブレードで斬りかかったレイの機体を躱し、敵機が蹴りを入れさらにパイルバンカーを叩き込む。
近接戦闘での高速の攻防。
ハイスピードロボットアクション此処に極まれり。
爽快感のある息抜きをレイという少女は楽しんでいた。
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・
仙台にある
表向きは高い人気を持つエスカレーター式名門校。
此処は聖華学園と同様に覚醒者の保護及び育成を行っている。
当然ながら保護の対象は年少の漂流者にも及ぶ。
東北圏を中心にキリギリスや護国組織に保護された生徒たちは、学力や適性を鑑みてクラスを振り分けられている。
その人数は結構な物で、事情を知らない生徒からは何があったのか噂される事もあったほどだ。
此処で問題となるのは保護された漂流者生徒たちの生活用品。
学内の購買があるとしても、生徒が増加するなら不足する。
そもそも漂流者達の来訪以前から京都からの保護民等で生徒数が増えていたのだ。
どうしても学外で揃える必要が出てくる。
また漂流者の中には買い物、少なくとも現代社会基準の店で買い物をするという経験が極めて少ない者もいる。
一例を上げれば店員と金網で仕切られた店で、アイテムを買った事があるのみという者とまで。
「チョコレートが1つ120円……本当にこんな値段でいいのか?」
「ええと、タオルはこれでいいとして。
残ったお金で本買っていいの、かな?」
「電気ケトル買うなら、どれがいいんだろ」
故に彼らの一部は現代社会に馴染む訓練を兼ねて教師や警備員同伴の元、付近のデパートで買い物を行っている。
少しばかり遅れたがまだまだ新生活の季節。
現代社会の量販店の品ぞろえは豊富だ。
「わたしのおすすめはこれかな。
掃除も簡単だし長持ちするよ」
東鳳学園OBの
不測の事態に備えつつも、生徒達に親切に助言をしている。
礼を言いレジへ商品を持って行く生徒に返事しつつ、汐音は少し遠くを見やる。
彼女が面倒を見ている
どうやら買い物についての質問に答えているようだが、中々良い関係が築けているようだ。
(恋璃ちゃんも大分馴染んできたかな?)
大分落ち着いてきた恋璃は周囲の生徒とうまくやっているようだ。
生来の面倒見の良さか、はたまた誰かの真似をしたのか他の漂流者に親切にしている。
妹分の様な少女が良い方向に変わっていくのを見るのは嬉しい。
(後は買い物で困っている子は……いなさそうかな。
聖華学園の子が書いてくれたガイドブックが役立ってくれているようだね)
聖華学園に保護されたある漂流者が翻訳したTOKYOサバイバルガイド*4に続き、日常生活適応の為のガイドブックも東鳳学園の漂流者に配布された。
平易な表現と図解付きで書かれたそれは不慣れな者達への確かな標となっている。
東京でもこちらでも漂流者達を受け入れる下地が急速に整えられつつある。
無論色々な思惑もあるのだろうが、社会のルールを護るならば社会の一員として迎える。
おおむねその様な指針がこの国では取られている。
当然ながら東鳳学園においても。
困っている生徒がいない事を確認した汐音の耳に、がさりとビニール袋の立てる音がかすかに聞こえた。
こちらへ歩いてくるのは何人かの生徒と引率の教師。
「お目当ての品は買えました?」
「それはもう十分に。
これだけあれば当面は活動に差し支えないでしょう」
丸眼鏡をかけた教師が提げる袋に入っているのは風船やバネ。
「100円ショップで手に入る素材も中々役立つ。
コストは抑えるに越したことがありませんから」
彼が顧問を務める手芸部の活動の一つは、簡易的なアイテム作成。
安価で入手した素材を基にアイテムを創り、コストに応じた安価で販売する。
今回入手した材料はバルーンシールドやパンチガン*5の作成に利用される。
前者はユルング戦で活躍し注目された事から、後者は予期せぬ強敵との戦闘回避に役立つ事から需要は高い。
販売されたアイテムは、今後の異能者生徒達の活動を支える事だろう。
「お使いも終わりましたし君達も予算の範囲で買い物をしてみましょう。
必要な物だけじゃなく欲しい物を買うのも現代社会の勉強の一つですよ」
教師の言葉に生徒たちが元気よく返事をして、店へ向かっていく。
先んじて買い物していた生徒と合流して和気藹々とした雰囲気が流れていた。
「皆楽しそうで良かったね」
「若いうちに経験しておくのは程々の苦労に、他愛のない失敗。
後は楽しい日常」
汐音も教師も、良く教えられた事だ。
身寄りのない自分達を引き取った義祖父から。
「教わった事を改めて実感しますね汐音」
「そうだねえ義兄さん」
日常という平穏で楽しい日々を、苦難に備えつつ歩んでいく。
それは漂流者も元からこの世界で生きる者も同じだった。
何処とも知れぬ空間。
空間は高級ホテルの談話室の様な豪奢な内装。
適切な程度の証明に照らされる室内の家具は格調高くいかにも高級。
木彫りのテーブルには酒杯と丁寧にカットされた果物の皿が載せられている。
北欧のバイキングが夢見たヴァルハラ、それを近代の人間の感覚に沿う様に調整すればこの様な空間になるだろうか。
「へえ……珍しい事もあるものだ。
現地民が自力でインヴォーク産を倒すとは」
「文明が残っている周回だそういう事もあるだろ」
「前例もない訳じゃないしな」
室内でくつろぐのは十数人程。
悪魔人間や鎧姿、フードにその他にも様々な装い。
多様なバックボーンを伺わせる彼等に統一性は一見みられない。
だが、
彼等はガイア再生機構の構成員たる
自らを選ばれし者と自負する戦士達である。
「おっ、あの銀髪顔も体もなかなかいいな。
素質も最低限はありそうだ」
「おいおい、もっとスキルとか注目したりしねえのか?」
「まあ、所詮は有象無象の群れ。
対して注目すべき者もいないでしょう」
先日のインヴォークシステムを用いたユルング襲撃の映像を見る彼等の態度は気楽だ。
サイトで配信されている戦争映画を見ているかのように。
彼等は悠然と、他人事の如く見下ろす。
「とは言ってもいつもの猿共よりレベルは高い。
ワンチャン防止に多少は備えをしておくか」
「多少遊べる奴いればいいけどなー」
彼等の半数以上は数日後の依頼へ参加予定。
依頼主は伝手を駆使してこちらへ接触したさる大金持ち──その正体はある神の転生体の男。
依頼内容は大金を積まれての依頼内容はある少女二人の拉致。
指定された標的以外の護衛等は全て排除。
酷薄な依頼内容だが、彼らは平然としていた。
「ねえ、この子こっそり連れてきてくれないかな?
どうせ殺すんなら再利用してもいいでしょ」
椅子に座る一人が見ていた端末の画面を後ろから覗いた、若い男が提案した。
外見は少年にすら見える男が指さすのは、クリーム色の髪をした柔らかな雰囲気の少女。
添えられた説明を読むにターゲットの一人──茶髪の小柄で快活な、名前の通り何処か猫の様な印象の少女の仲間らしい。
外見もレベルもなかなかに高水準で目に留まったようだ。
「だーめ。指定は皆殺しなんだから殺っておかないと」
「そうそう、代わりは幾らでもいるんだしさ。
丁度いつもより大分質も量もいいし」
「それもそうか。良さげなの見つけたら現地の
駄目だったら暇な時直接出てさ」
「そ、そ。折角の機会だ。
たまには虐殺じゃなくて戦闘しようぜ。
じゃないと俺の獲物が錆びちまうよ」
人を人と思わない内容の会話も彼等にとっては当然の事。
自らの強さと、特別性を信じているが故に。
虹去りし後の何処かで、少女達への悪意が蠢動していた。
次の投稿はまだ未定ですが、VSガイア再生機構とかやっていきたいと思います。