真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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割と難産で苦労しましたが投稿します。
なお新キャラの名前が2話前に出したアイリからアイリスに変更されていますが、こっちの方がいいかと思い変更したのでよろしくお願いします。


再会に希望を伝えよう

 第XXX周回 冷迷の東京・千代田区 】

 

 

 

 雪に閉ざされた帝都東京が燃えていた。

 

 悪魔が蔓延っていた世界にとどめを刺すように。

 突如天より凶星(アリラト)がユーラシアに落下し、地球が寒冷化し早数年。

 数多の悪魔によって社会が崩壊し世界が凍えた後も東京は存在し続けていた。

 

 常冬の寒さに凍え、活路を見出す事なく惑い、<冷迷の東京>と呼ばれながらもなお人の住む街であった。

 

 科学技術のみならず悪魔の力も活用し、インフラを維持し都市を運営し。

 悪魔討伐隊や人外ハンターが奮闘し悪魔や反乱分子を討伐する。

 人々の努力もあって、薄氷の平和は保たれていた。

 それも、長くは続かなかったが。

 

 そこかしこで燃え盛る炎。

 照り返しで赤く染まる雪の中、アイリスは走る。

 鳴くような風に、弾ける火の音が響く中。

 大地を闊歩する強大な悪魔の影を背に。

 

\カカカッ/

邪鬼奈落の守護者ヘカトンケイルLV82

 

 恐らくガイア再生機構と関係があるのだろうか? 

 機械的な邪鬼が闊歩し、東京に現れた<多神連合>なる組織の悪魔──巨大な蛇に拳を振り下ろす。

 強大極まりない両者の戦いに巻き込まれ、街が砕かれていく。

 

 あの周辺ではもう誰も、ガイア再生機構のエターナル(戦闘員)以外は生きていないだろう。

 強大な力を持ち、東京に住まう者達に牙を剥いた彼等のみが意気揚々と動いている。

 

 次の瞬間には死んでもおかしくない状況。

 それでもアイリスは瓦礫になりゆく街を走り。

 ようやく見つける事が出来た。

 

「……雨柳様!」

 

 メシア教が壊滅した後一人あてどなく彷徨っていた自分を保護し、護り育てて来た師を。

 

「アイリス、か。

 避難しろと、いったのに」

「貴方様を置いて避難など……!」

 

\カカカッ/

デビルサマナ―雨柳巧LV50

 

 雨柳の姿は文字通り満身創痍。

 全身血に濡れ右腕が吹き飛び刀も折れている。

 この分だと仲魔も全滅だろう。

 

 それでも男はまだ生きていた。

 傍らにはガイア再生機構らしき装備の残滓。

 さらにもう一つ、両断された死体があった。

 

「突出した馬鹿を待伏せして何とか、裏切った野郎も殺した」

 

 悪魔討伐隊最強の一角にして、ガイア再生機構に寝返った裏切り者。

 霞が関にあった本部を壊滅させ、女子供も殺した憎むべき敵。

 憎悪と共に吐き捨てて、雨柳はうなだれる。

 

「……だけど黛は恐らく、駄目だ。

 多神連合の<クリシュナ>に何処かへ連れていかれてそれきり。

 俺以外の奴等も」

 

 そうここで死んでいるのはガイア再生機構側の戦闘員だけでない。

 むしろその数倍以上の悪魔討伐隊や人外ハンター達の損壊した死体が転がっていた。

 蘇生不能な死体の中にはアイリスが知る顔もある。

 

 無惨な死に、アイリスは苦痛を堪え顔をそらす。

 他方雨柳は最後の宝玉を使い傷を癒し、予備の刀を手にして立ち上がる。

 

「神田明神の準備は出来ているな?」

「はい。先程<葦舟>の準備が完了したと連絡が。

 今から戻ればまだ間に合います」

 

 悪魔討伐隊が用意した最終手段葦舟。

 ターミナルを改造した転移装置を、国津神スクナヒコナの加護を受けた船に搭載。

 現代のノアの箱舟と言うべき技術者たちの必死の努力もあり何とか起動出来た。

 後は残存の隊員や逃げ遅れた人を回収するのみ。

 

 滅びゆく東京から脱出し此処ではない何処かへ行くことができる。

 強く想う恩人と一緒に生き延びる事が出来るのだ。

 

「だから雨柳様も早く……!」

「いいや俺は残って時間を稼ぐ」

「────────」

 

 だけど、雨柳の返答はアイリスの望まぬ物で、何処か予想通りだった。

 

「ガイア再生機構の奴等どうやら生き残りを出さないつもりらしい。

 進行速度からすると転移前に捕捉される。

 だから足止め役が必要だ。

 アイツら相手に多少は時間を稼げる奴が」

 

 仲魔を蘇生させ戦闘準備。

 常通りの振る舞いをする雨柳の眼には決意。

 

 男はそうすると、アイリスにもわかっていた。

 奴等は強く速い。

 だから足止め、時間を稼ぐ殿が必要だと。

 

『悪魔討伐隊なめんなよ! 

あークソ腕が取れた、マジ痛え』

『後しばらく我慢しろ! 

再生機構のクソボケ共が死んだら叫べ!』

『最高の死に場所だ!

 最後までカッコつけるぞ!』

 

 通信機から聞こえるにもう最後の戦いを始めている者達がいる。

 生還する気も可能性も元よりない、自分ではない誰かを生かす為の戦い。

 これまでの日々の終点となる戦いを。

 

(……分かっていた。この人ならそうする。

 最後まで私や誰かを生かす為に戦うって)

 

「もう時間がない。アイリス。

 君は戻って」

「……嫌だ。嫌です!」

 

 自分でも子供みたいな受け答えだと思う。

 だけど嫌だ認めたくない。

 

 頭を振って、涙を流してアイリスは否定する。

 

「私だけ生き残るなんてっ嫌です! 

 貴方様が残るなら私も! 

 せめて一緒に……!」

 

 みっともなく嗚咽して止めようとする。

 この人に死んでほしくないから。

 

 忘れる事等できない。

 瓦礫と死体の中で倒れ伏した自分に、手を差し伸べた男を。

 悪魔との死闘の狭間にあった日常を。

 人間らしく笑った時を。

 忘れる事等できやしない。

 

「私はまだ……貴方に何も返せていないのに」

「それは違うぞアイリス。

 逆なんだよ」

 

 血を拭った手で柔らかく雨柳はアイリスに触れる。

 確実に最後になる会話。

 だからこそ伝えたい事があった。

 

「君が居てくれたから俺は生きてこられた。

 何も護れなかった役立たずが今日まで生きてこれたのは君のお陰だ」

 

 雨柳巧の人生は後悔ばかりだ。

 愛する人も、後輩の少女達も護れず生き恥を晒し、世界の崩壊に呆然と立ち尽くした。

 それでもなおアイリスと出会った事で、今日この日まで生きていく意味が産まれた。

 生き恥を晒す価値があった。

 本当に救われたのは自分なのだと雨柳は思う。

 

「だから君は生きていてくれ。

 神田明神に集まった人達には護衛が必要、だろ?」

 

 遠くからの喧騒が徐々に近づいてくる。

 速度からするとガイア再生機構だろう。

 

「さ、神田明神へ行くんだアイリス。

 炎のせいで視界も悪いし地面の感覚も違う。

 それと何処へ着くかは知らないが、くれぐれも体調を崩さないようにな」

「……はいっ!」

 

 背中を押されアイリスは神田明神へ向かう。

 雪と炎の中、視界を滲ませ息を乱し、足をもつらせながらもなお。

 彼女は生きる為に走り出した。

 

 背後で時間を稼ぐ為に戦いを挑む、雨柳と別れて。

 

 

 

 ────結局奇跡的に雨柳が生還する、なんて事はなかった。

 

 避難民とアイリス達悪魔討伐隊の生き残りを載せた葦舟は何とか転移に成功。

 何処とも知れぬ空間を漂った後東京の山中に漂着。

 キリギリス及び東京郊外の家に保護された。

 

 葦舟の避難民はある者は政府の元で職業訓練を受け、またある者は技能を活かし就業した。

 アイリスの様なDBは支援を受けてインフレに苦しみつつも、元の様に悪魔と戦い始めた。

 元の世界から逃げ延びて、天国のようなこの世界での生活を始めた。

 

 漂流者ならば何処にでもある、そんな話だった。

 

 

 


 

 

 

 東京都23区、杉並レルムは今日も賑わっている。

 

 他のレルムと異なり、<神>の襲来と、付随する被害がなかったレルム。

 小規模だが黄金の花園や護国系の影響が強い街。

 今日も多くの覚醒者や漂流者がいるが、見る限りではもめ事は起きていない。

 武装した者も多いが、それでも雰囲気は明るい。

 

「上がるとは思っていたが、宝石需要がここまで鰻登りとはな……」

「本当に予想外でした。私も人の欲望の強さを見誤っていたかもしれません……」

 

 時刻は夕刻前。レルムの中心部近くにあるカフェのテラス席の一角には雨柳とアイリス。

 先日のレイドで縁が出来た事もあり、彼らはここ数日今回の依頼──島田家からの宝石集めに勤しんでいた。

 

 一時的なGPの停滞という隙間の時期。

 半年から三か月程の短い期間に今後の備えをしておきたい者も多い。

 先日の掲示板で効果が周知された宝石の収集もその一つと言う訳だ。

 

 数日間東京各地の異界を巡り、目当ての悪魔と交渉し場合によっては倒し。

「ホウセキー」「ジュエルー」と鳴き声を上げるDBと同士討ちを避けつつ、目当ての宝石に加え自分用の宝石を集めていった。

 根気がいる作業だったが、何とか指定分に加え自分達の分を確保できた。

 

ルビーボーナス:体3
 

 

アクアマリンボーナス:知1、魔1、運3

 

 雨柳はルビーを、アイリスはアクアマリンを9個取得しステータスが上昇。

 まだまだ揃えられるが一先ずの目標は達成できた。

 

 手に入れた宝石を引き渡し依頼は完了。

 後は分かれて帰るだけといいたいが、宝石集めの過程で予想以上の武器防具が手に入った。

 

 質としては現在前線に出ているDBには物足りないが、漂流者や中堅には丁度良い程度。

 そんな訳で近くにある杉並レルムへ売却しに来て、現在は査定待ちと言った所だ。

 

 なおシロガネは用があるとの事なので先に帰った。

 アイリスに見えない角度からグッとサムズアップしていたので、後で脳破壊以外の報復を行う。

 

「マンティコア*1とグルル*2を効率よく倒せたのが良かったな。

 今回はいてくれて助かったよ」

「ありがとうございます。

 衝撃と銃撃が私の取り柄ですので、この様な機会にお役に立てて幸いです」

 

 スッと頭を下げるアイリス。

 その所作は淀みなく、育ちの良さを感じさせる。

 連動して、ふわりと淡い色の髪が揺れた。

 

(レイドの時も感じたが動きに無駄がない。

 自分のするべき立ち回りと、複数人での互いを邪魔しない動き方を良く分かっていた)

 

 聞けば元はメシア教のクラリックで、メシア教壊滅後は悪魔討伐隊なるDB部隊で長い事戦っていたらしい。

 事実銃器の扱いに優れた彼女の動きは洗練され、精度も高い。

 動きの節々に自分と似た物が混じっていたのは考え物だが。

 

(それに────強力な大天使の力を持っている。

 元メシアンの悪魔人間なら天使付きと思ったがここまでとはな)

 

 アイリスはさる大天使の因子を宿している。

 破魔と回復に長けた力は間違いなく現行の環境でも有用。

 現に雨柳とは入れ違いになったが、以前派遣された四国では随分と活躍したらしい。

 

(立場を築きつつあるのはいい事だ。

 超人失踪事件もある、あまり目立ちすぎて欲しくはないが)

 

 仕事の話はそこそこにして話を振ってみる。

 気がかりなのは彼女の現況。

 

「優秀な後衛がいてくれると随分違うからな。

 所で島田家の人達とはどうだ? 

 俺はそう縁がないが、娘さんが一人いると聞いた事がある」

「愛理寿様は奥様によく似た可愛らしいお方で。

 素性の知れない私にも奥様と一緒に良くしていただいています」

「そうか。良い人達に巡り合えたんだな」

 

 雨柳は内心安堵する。

 漂流者には生活が安定していない者も多い。

 だがアイリスの身なりは整っていて、肌艶も良い。

 表情を見ても悪い扱いは受けていなさそうだ。

 

(あちらにも打算はあるんだろうが、今の所はうまく行っているか)

 

 帝都ヤタガラスが彼方の御国と協力関係を築いた様に、一部の家も漂流者と協力関係を築こうとしているようだ。

 漂流者の中でも試験と調査を重ね、信頼できると判断した者を支援。

 低LV帯の覚醒者にはアイテム作成等の仕事を斡旋し、ある程度LVの高い覚醒者はキリギリス等との協同依頼でこの世界の戦い方を学ばせつつLVを上げる。

 ガイアメシアなどの襲撃で大きく損なった戦力を補充する為にあちらも必死という事だろう。

 

(島田流や他の家の評判も悪くない。

 資金力や能力もそうだが、真っ当で筋を通す形で動いている)

 

 京都は極端な例だが悪魔業界は人として真っ当とは言えない家も多い。

 家の力で立場の弱い者への無理強いや、依頼を受けたDBへの不誠実な対応など少なくない。

 そんな家は北海道の土着がいい例だろう。多くが没落しているがアイリ達を支援している家々はそれとは異なるようだ。

 自分達が人である事を忘れていないが為に。

 

「お互いこの社会で生きる人間同士。

 うまくやっていきたい所だな」

「はい。この世界は元と違って滅びていませんから。

 ……インフレが激しくて困惑していますけど」

「何処でおかしくなったんだろうなーこの世界」

 

 幾度なく思うがこの世界のインフレは激しい。

 生きていれば嫌でも強くなってしまう程に。

 

 アイリスの元いた世界の雨柳の最高LVは50、この世界の雨柳も全盛期はLv54。

 それが今やLV78というかつては想像もしなかった領域へ突入している。

 アイリスとて以前は40半ばだったのが今やLV62。

 過酷で狂った世界だからこそ成長を続けている。

 

「お待たせしましたー」

 

 過酷な世界に思いを巡らせた所で飲み物が届いた。

 互いに注文した飲み物の杯を手に取り口を付ける。

 

(しかし……まさか過去周回から俺を知っている子がまた来るとは)

 

 寒冷化した冷迷の東京と呼ばれる街で生きていたせいなのだろうか? 

 暑くなってきた時期にもかかわらず、アイリスが注文したのは暖かい飲み物。

 

 先日助けられた事もあり、彼女の事を迷惑とは微塵も感じていない。

 ただ色々と困惑は感じている。

 

(どうしたもんかなー本当になあ……)

 

 聞けば世界が崩壊してからの数年は自分がアイリスの面倒を見ていたらしい。

 しかもその果てには彼女を逃がして<ガイア再生機構>へ特攻したという。

 その周回で何があったのか、過去周回の自分を問い詰めたいが無理なのが残念に過ぎる。

 

(だけどまあ、折角の縁だ。

 出来る限りの繋がりは保っていこう)

 

 驚きはしたがこのご時世味方となりうる人間は多い方がいい。

 彼女や他の悪魔討伐隊の生き残りも協力し、護る側として戦ってくれるなら良しだ。

 頼もしい味方が増える事は素直に喜ばしい。

 

 ふとアイリスの方を見ると斜め向かいの喫茶店を見ていた。

 洒落た感じの若い女性から好まれそうな店。 

 あの店は確か……佐々木の事務所で話していた子がいたはず。

 

(パフェが高めだが美味いって話だったか。

 運ばれて来るまでも早い。

 優良店だって言っていたな)

 

 店があったのは中野レルムのはずだったが、杉並にも2号店だか3号店が出来たようだ。

 半壊した中野レルムからの避難もあるのかもしれないが実に繁盛している。

 外見からすると恐らく成人前後のアイリスも気になっているのだろうか。

 

(そろそろ武具の鑑定終わるし、提案してみるか? 

 まだ夕方前で時間も余裕がある)

 

 なんて事を思ってたらアイリスは喫茶店の方を見なくなった。

 心なしか耳が赤い気がする。

 

(やべっ気づかれたか!?)

 

 会話も途切れたし、どうにも気まずい。

 自分は30を超えて何をやっているのだろう。

 

 それもまあ無理はない。

 二人共出会いが出会いだったせいでどうも探り合いのような雰囲気になる。

 レイの時はあっちから来て、こちらも動揺し受け身になっていた。

 まさか二度目があるとは思わなかったが、予期せぬ事は起きる物だ。

 

「そ、そろそろ時間だし代金を受け取りに行こう。

 金額は予定通り山分けで」

「そうですね」

 

 表面上を取り繕い席を立つ。

 互いの椅子が予期せぬ音をがたり、と立てた。

 きっと材質か床のせいに違いない。

 そうに違いない。

 

 平静を装い勘定をして武器屋へ向かう。

 自然と歩幅の違いでアイリスが雨柳に続く形になり、歩調を合わせようとしても半歩下がった位置を崩さない。

 少しばかり気にかかるが、どうもしっくり来るような気もしなくはない。

 

(……ううむ)

 

 一分ほど歩くと武器屋が見えてきた。

 武器屋のある路地は人で混みあっている。

 周辺のレルムが被害に遭ったからか、このレルムに人が集まっているのだろうか。

 多種多様な恰好をした人間に、その仲魔が歩き回っている。

 

「……人と悪魔が協同する領域。

 悪魔討伐隊が健在だった頃を思い出します」

「へえ、そっちも此処と似た感じだったのか。

 活気があったんだな」

 

 少なくとも人らしい営みはあったのだろうか。

 それはいい事だと素直に思える。

 

 しかし成程、アイリスが感嘆するだけあって杉並レルムは活気がある。

 古式から最新装備に、軍装から平服に魔術師的なローブまで服装も様々。

 悪魔人間までもが散見される混合具合。

 

 人ごみに分断されていない事を確認して、目的地に向き直り。

 

 

「饗宴の時は来たれり!!」

 

 

 恍惚に満ちた声が響き、白い光が瞬いた。

 

 驚きと悲鳴が、波の様に伝播した。

 

 

 


 

 

 

 ────メシア救世主派、通称性癖メシア。

 

 沿う呼称されるメシア過激派の二大派閥が一つに与した者達が如何なる意図を以て、杉並レルムにおけるテロを行ったのかは定かではない。

 彼等なりの思惑があったか、上からの指示か。あるいは何らかの者達の暗躍があったか。

 

 兎にも角にも杉並レルムにいる者達にとって、目的よりも遥かに重要な事がある。

 

 強力な悪魔がレルム全域で10体近く出現した事だ。

 

\カカカッ/

墜天使カスピエル*3LV66??? 

 

 悪魔の如く歪曲した二本角に穢れた黒い翼。

 大剣を手にした姿は紛れもなく、メシア教救世主達の眷属たる墜天使。

 

「機械式70越えだと……嘘、だろ?」

「ぼさっとしてんじゃねえにげろぉおおお!」

「ブラックフィエンドはまだなの!? 誰か呼んでよぉ!」

 

 悍ましい墜天使から、人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 彼等の多くは立ち向かう意思を持たない。

 

 LV66の天使。成程、強力な悪魔ではあるが、足切りラインが50と言われる現行の戦況では対処可能なDBは多い。

 少々の格上なら装備に道具、仲間及び仲魔、戦闘経験で幾らでもひっくり返しうる。

 況や天使よりLVで勝るDBもこのレルム内だけで何人もいるのだ。

 

 だが、皆が皆強き者と言う訳でない。

 まだLVの低い漂流者に地方からの避難民。

 その様な者達もまたレルムで身を寄せ合う故に。

 

 悪魔を識り覚醒しようとも強力な悪魔と戦う意思と力があるかはまた別。

 彼等からすれば機械式LV70越えの悪魔等天災にも等しい。

 

 だから彼らはわき目も降らずに逃げる。

 それだけが自分の命を拾う術であり。

 逃げられなかった者には、目を覆うばかりの悲惨な末路が待っているから。

 

「ひ……あ……」

 

 墜天使が一瞥するのは、逃げそびれた不運な少女。

 逃げる人間にぶつかり転んだ哀れな者。

 

 覚醒こそしているが少女は無力である。

 強力な悪魔の出没する地方から疎開してきた力持たざる者。

 墜天使の獰悪な目には蛇ににらまれた蛙と同じ。

 

「あー……」

 

 呆けた悲鳴に同調するかの如く、墜天使がくるりと剣を回し。

 差し貫いて振り回し、血肉をまき散らす事で恐慌を加速させる。

 そんな邪悪な意図を込めて軽く振った。

 

「スクルド頼む!」

「ええ、あなたの意思の通りに」

 

 重い金属音を響かせてスクルドの槍がカスピエルの剣を受け止める。

 物理無効の耐性を持つ軍神へは、それ以上1㎜も押し込めない。

 

 刹那、動きを止めた墜天使。

 其処へ割り込み少女を抱えるのは、雨柳。

 

「慌てなくていい、ゆっくりでいいから逃げるんだ」

「は、はぃいっ」

 

 柔らかく少女の背中を押し、腰のホルスターからGUMP<六六式召喚拳銃・改>を引き抜く。

 

(避難はまだ、アドラメレクは過剰火力、なら)

 

 視界を広げ瞬時に状況判断。

 引き金を引き、神獣を召喚する。

 

「アヌビス、魔法からカバーを」

「愚行の鎮圧か。いいじゃろう」

 

 秤を掲げ鎮座するアヌビス。

 俺以外元は言わずもがなだ。

 

 瞬時の動きに反応し、羽ばたき対応する墜天使。

 其処へアイリスが抜き放った槍を突きこんだ。

 

 雨柳に気を取られた隙をついた一撃。

 さしたる抵抗はなく羽を貫く。

 

 アイリスはそのまま走り抜け救助へ向かう。

 まだ転んだりして逃げ遅れた人が何人かいる。

 

「物理耐性なし! 近接で制圧する!」

 

 雨柳が声を張り上げ、情報を伝達。

 混乱のせいで警備員の到着はまだ。

 ならば、近接戦闘に持ち込み被害を押しとどめる。

 

 刀を抜き放つと同時に、カスピエルが魔法を行使。

 放たれるは高位疾風魔法(ガルダイン)

 強烈な一撃をアヌビスが体を張って防ぐ。

 

「今じゃサマナー……まずい!」

 

 体力を削られながらも盾になったアヌビスが目を見開く。

 急降下するのはもう一体の墜天使。

 

≪ガルダイン≫

 

 アイリスたちを巻き込む角度で疾風が迫る。

 宙を割き、駆けるは鋼鉄の兵器だろうと両断しかねない暴威の塊。

 

 対する雨柳は刀を盾に真っ向から受け止めた。

 

 一瞬の硬直、それ以上の反応はなく雨柳は動く。

 装備と宝石に経験に鍛錬。

 全てが男を当然のごとく駆動せしめる。

 

≪乱入剣≫

 

 低姿勢から月の如き光を放ちバルムンクが旋回。

 2体のカスピエルを薙ぎ、2体目が傾ぐ。PANIC! 

 

 会心の手ごたえに雨柳は高揚(ニヤリ)

 常以上の集中状態に入り。

 

 雨柳の創った隙に呼応して、後方のアイリスが右腕を掲げる。

 

(この射角なら魔法が撃てる。

 邪悪な異形とはいえ天使に破魔が効くかは賭け。

 疾風を使う事と合わせると)

 

 魔力のうねりは瞬時に電撃に変換。

 

(放つべきは、電撃!)

 

≪ジオダイン!≫

 

 高位電撃魔法(ジオダイン)の雷撃により1体目の墜天使は感電。

 弱点を突かれ、ガクガクと痙攣した。

 

(呼吸が乗った、なら!)

 

 敵の呼吸が乱れ、こちらが攻撃の呼吸に乗る。

 即ち追撃の機会なり。

 

「スクルド、斬り込むぞ」

 アイリスは回復頼む」

「反撃の時間ね」

「承知しました」

 

 攻撃の呼吸に乗った雨柳は、スクルドと共にさらに動く。

 地を蹴り、力を逃がすことなく振りかざした刀を脳天から叩き込む。

 

≪デスサイズカット≫

 

モータルジハード(磁霊金剛壊)

 

 切り裂かれ、真っ向から脳天を砕かれて1体目のカスピエルは死亡。

 大量のマグネタイトを吹き出して、汚らわしき体はマグネタイトに分解。

 

≪ディアラハン≫

 

 対照的に雨柳は、アイリスの発動した単体全回復魔法(ディアラハン)で回復。

 傷を癒し体力を取り戻し、万全の状態となった。

 

 フッと短い息を吐くアイリス。

 雨柳へ向けて掲げた手には柔らかな燐光。

 

 アイリスが宿すは、大天使スラオシャ。

 ゾロアスター教に謳われる中級神霊(ヤザタ)が一柱であり、その名は聞く事を意味する。

 破魔と回復の力に長けた大天使、さらに個体によっては念動*4や電撃*5を扱う強力な大天使。

 

 かつてメシア教に居た際の実験で手に入れた力であり、過去の戦いで何度も雨柳や他の悪魔討伐隊を援護してきた力。

 それは今日この世界においても、効果を発揮する。

 

(……どうしても、懐かしさを感じてしまいますね)

 

 戦闘の中でも感じてしまうかつてへの郷愁。

 されど今は前を向かなくてはいけない。

 

 混乱し動きを鈍らせた墜天使へ、横合いから魔法に銃撃が襲い掛かる。

 避難が完了し自由に動き出した警備員達が加勢に駆け付けたようだ。

 

「そこのキモさ100%の天使! 

 テメェ宝石は持ってんのか!」

「魔匠さんに打っていただいた武器の試し切りよっ」

「何でもいいからドロップ品寄こせえ!」

「睡眠妨害の罪で殺す! 慈悲はない!」

 

 さらに方々で居合わせたDB達が墜天使へ襲い掛かっている。

 それぞれの理由で勝手に襲い掛かっているが、妙に統制が取れていた。

 先日のレイドで連携の精度も上がったのだろうか。

 

「順当に残り1体を潰すぞ。

 後は不測の事態に備えつつ救助だ」

「はい。私は奇襲への備えを」

 

 返り血を振り捨てて再度刀を構える雨柳。

 仲魔と共に立つ男を、後列より不測の事態へ備えつつ援護。

 油断なく敵を倒し、周囲の人間を救う。

 

 発生からわずか数分、メシア教過激派による杉並レルムにおけるテロは順当に制圧された。

 

 

 


 

 

 

 雲を通して星がうっすらと輝く夜。

 雨柳とアイリスは二十三区外の道を歩いていた。

 

(結局夜になっちまったなー……)

 

 杉並レルムでの騒動は短時間で終息した。

 当初の混乱で怪我人が出たものの、警備員や居合わせたDBが迅速に対応。

 殺戮や破壊を行う暇もなく墜天使は殲滅された。

 

 とは言っても怪我人等の被害は出たし、火事場泥棒の心配もあった。

 故に雨柳とアイリスは多少の後始末に加わったのだった。

 

 更に帰りの電車は遅延していて、ただでさえ杉並から距離がある為遅くなってしまった。

 最も待ち時間には思わぬ収穫もあったが。

 

(趣味嗜好って周回跨いでも変わらない物なのか)

 

 雨柳とアイリスの手には駅にある書店の袋。

 中に入っているのは何ら変哲のない漫画。

 

黒博物館と呼ばれる中短篇シリーズ。

 雨柳が学生時代から愛好する幾つもの名作を世の中に送り出してきた漫画家。

 2007年から発表されているシリーズの第三作、最終巻の発売日が調度今日だった。

 

 かつての雨柳の影響でアイリスもこのシリーズを楽しみにしていたらしい。

 彼女の周回が滅んだのは2013年、以前読む事が出来なかった作品に対して興味津々だ。*6

 

 少し話したがこの世界に来てから過去作も買い直したらしい。

 そう言う彼女の顔は嬉しそうだった。

 

 漫画等の文化を楽しむゆとりがあるのはいい事だ。

 雨柳はそう思う。

 

(正直驚いたが、レイやロゼの様に生き延びてこの世界まで来てくれたんだ。

 元と同じように戦う事を選んでいるにしても、それ以外では楽しく幸福に暮らして欲しいが)

 

 無論まだ完全に信頼する事は出来ない。

 ガイア再生機構──エデン等の組織の暗躍もある。

 互いに立場も護る者もある以上、流石にまだ拠点を教えるまではいかない。

 

 だが依頼用と、緊急時の連絡先は渡しておいた。

 何せ、だ。

 

「君の家はこの近くだったか」

「はい」

 

 先には街灯で照らされた人通りの多い道が続く。

 彼女はこの近くに住んでいるらしいが、そろそろお別れだ。

 

 街灯に照らされるアイリスの顔は少し寂し気。

 雨柳と再会して、知らない人間だと反応された時もそうだった。

 

 大切な人間がこの世界で生きていたからって、喪失の痛みは消えない。

 一度死別したからこそ、また死別する事が怖い。

 そんな気持ちは雨柳にも理解できる物だ。

 

 ましてやかつての雨柳がかけがえのない人間だったならその痛みも一際辛いだろう。

 それこそ理知的な彼女でも隠しきれない程に。

 

「それじゃあ一先ずお別れだ。

 また依頼があった時に頼むよ。

 ──────またな」

 

 だから雨柳はこう言った。

 今日だけじゃなくてまた会おうと。

 

「……はいっ!」

 

 寂しげな雰囲気が少し消えた顔でアイリスは答えてくれた。

 

 危険の多い世界だが死ななければまた会える。

 そう思ってくれたなら一先ずはこれでいい。

 雨柳はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜の……LV、ひゃく……」

 

 なお雨柳は数日後、またしても脳破壊されていた。

 

「えーっと……雨柳さん、って大丈夫?」

「うーんまあ、多分だけどね」

 

 事務所に来た際に、佐々木の仲魔である女神フレイア(フリッグ)とスクルドが会話していた所、フリッグが口に出したある内容。

 それは即ち────夜戦で自身が忠誠を捧げる召喚師に完敗した事。*7

 

 一見駄目人間だが雨柳の頭の回転は悪くない。

 各種の情報を統合し論理的に思考する能力は、戦闘で必要な為に。

 それなり以上の能力は持っている。

 

 で、それなり以上の雨柳ブレインが、フリッグの言葉から導き出した結論は以下のようになる。

 

佐々木は性を司る女神フリッグすらアヘらせる夜のLV100。

 

 

そんな男に銀ちゃん達JCは日夜抱かれている。

 

 

て事は滅茶苦茶に気持ちよくされ開発され────

 

「ひぎゃっ」

 

 雨柳巧は卒倒した。

 後少しでJC達が帰ってくるにも拘らず。

 

「この状態にパトラって効いたっけ?」

「この状態だとちょっと微妙かも」

 

 スクルドははあとため息を吐く。

 ダメージが脳に来るのは分かるがどうしたものか。

 

(この醜態にレイロゼは慣れたけど、あのアイリスが見たらどう思うかしら)

 

 印象は悪くない女性の事を思いつつスクルドは、頭痛を堪える様に頭に手を遣る。

 悪い事ばかりではないが、何故悪魔がこの様な心配をしているのだろう。

 普段は頼れるのにこういう時は手のかかるサマナーだと、スクルドは改めて感じた。

 

 

 


 

 

◎登場人物紹介

・アイリス・ビショップ <クラリック><天使人間> LV63

 

かつてある周回で雨柳と共に悪魔討伐隊に所属し戦っていたDB。

メシア教によって大天使の因子を移植されたクラリックであり、世界滅亡と前後してメシア教が壊滅し呆然としていた所を雨柳に拾われた。

現行周回に漂着した後は島田家等の支援を受けつつ、DBと活動中。

主要ジャンルは雨柳から教わった漫画関係に趣味のレベルだが幾つか楽器の演奏等も好き。

 

 

・Tips:冷迷の東京について

 

 アイリスやかつての雨柳が生きて居た周回。

 崩壊前の世界は真Ⅳ系に近い形だが、メシアではなくガイアが優勢の世界。

 各地でガイア過激派が事件を起こし霊地暴走によるGP上昇で不穏な状況が数年間続いていた。

 

 転機があったのはアリラトの襲来。

 世界各地を爆撃したアリラトがユーラシア大陸に落着。

 それによる地球の寒冷化と神格暴走により世界は滅亡した。

 

 尚長い事低GPの環境が続いていた為ヤタガラスは現行周回に比して小規模であり、帝都の都市機能を護り切ったものの壊滅。

 自衛隊の対悪魔部隊に出向していた雨柳は呆然とするしかなかった。

 

 その後東京は世界滅亡と前後して各治安組織のDB達から結成された悪魔討伐隊の奮闘もあり、数年間治安が維持されていた。

 だが最終的に上昇を続けたGPとガイア再生機構の暗躍、更に多神連合によってこの都市も滅亡。

 雨柳達討伐隊のベテランによる決死の戦闘の結果、少数の市民と討伐隊員がターミナル技術を転用し創った避難船葦舟で転移しこの世界へとたどり着いた。

 

 葦舟の漂流者達は一般市民は政府の保護の元社会への適応を始め、アイリス達生き残った討伐隊員は島田家等の支援を受けこの世界でDBとして活動を開始。

 その最中アイリスは偶然上野でのレイドに参加し────雨柳巧と再会した。

*1
真Ⅱでアクアマリンを持っている悪魔 なお弱点は衝撃である

*2
こちらも真Ⅱでアクアマリンを持っている 銃撃弱点

*3
DSJのカズフェルと同等

*4
デビルサマナー マハ・サイオを使用

*5
ペルソナ4 ジオダインを使用

*6
現実での黒博物館シリーズ第2作『ゴーストアンドレディ』の連載開始が2014年、第3作『三日月よ、怪物と踊れ』の連載開始が2022年

*7
本スレ【 セ イ ズ 開始 】 ダークサマナーは強かった。




次回は悪魔合体回を予定しています。
合体内容は大体考えているので遅くとも年内には投稿予定です。
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