真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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今回はチヒロ主役の回となります


見る物は変われど、生き方は変わらず

 彼方の御国が拠点とする葛葉の里。

 晴天の下では今日も彼らが活動していた。

 

 訓練場では若手の召喚師達が武器の扱いを鍛錬。

 経験を積んだ者達は新たな仲魔との連携を学び直している。

 

 研究棟では技術者達が武器COMP等の改良を行う。

 現行周回で得られたデータや資材。

 それらは技術の発展に大いに役立っていた。

 

 外観は古めかしいながらも内部の建物は用途毎に最新に近い設備を採用している里。

 まだ滅んでいない世界の、新たな地で皆精力的に活動を続けていた。

 

「今日はありがとうございました。

 また検査の時にはお願いします」

「検査以外で診る機会がない事を祈っているわ」

 

 その内の一つ、治療や検査を担当する医療棟の扉が開き出てくる者が一人。

 

 群青色の髪をした理知的な面持ちの、少女と女性の中間にいる彼女は各務(かがみ)チヒロ。

 彼方の御国に属する主力召喚師の一人であり、優れたセキュリティ技術を持つハッカー。

 付け加えるならば頭頂に光輪(ヘイロー)を浮かべた悪魔人間である。

 

 和風の家並みが続く里をチヒロは歩いていく。

 里の景色は前のシェルターとは違う。

 

 以前のシェルターも生活に深刻な支障はなかった。

 食料や電気水等の共有は万全で、居住スペースもそれぞれ充分に割り当てられた。

 かつての世界の進んだ技術の結晶たる箱庭といえただろう。

 

 最もその居住性の高さは、本来護国に割り当てるべきリソースを、どれだけ当時のヤタガラス元老院が自分達の為に使っていたかの証左なのだが。

 

 そんなシェルターと比べると今住んでいるのは人の住処という気がする。

 里も特殊な環境だがチヒロはそう感じるのだ。

 滅んでいない人の生きる世界は閉じた箱庭と違う。

 

(……その代わり変な環境になっているけど)

 

 現在のチヒロのLVは60と、この世界に来る前より20以上高くなった。

 以前ならカンナやクサカベといったヤタガラスやファントムでも最高クラスの領域。

 しかしこの世界には同等かそれ以上のLVのDBも悪魔も数多い。

 GPの上昇に過酷な戦況へ適応したした結果だが、恐るべきインフレである。

 

(まだまだ強くなる必要があるわね。

 手間はかかったけど仲魔は揃えた。

 装備も更新して後は)

 

 ふとチヒロは足を止めた。

 視線の先にはいたのはレイ。

 どうも電話で誰かと話しているようだ。

 

「今度時間が空いたら会いましょう。

 ロゼも連れて行くからそれじゃあね」

 

 電話を切ったレイはチヒロに気付いた。

 

「ちょっとカブ……夕海子と話してて。

 チヒロさんは検査の帰り?」

「うん、予定がようやく空いたからね」

 

 チヒロはレイの言葉へ頷く。

 新世塾戦からの多忙な日々にも一区切り。

 空いた時間で延び延びになっていた検査を受けに来たのだ。

 

「結果は良好だったよ。

 精神的な変異は特になし。

 肉体的には」

 

 チヒロは取り出したペンをひょいと放る。

 回転するペンはすぐに重力に惹かれて落ち。

 

「目が良くなったって所かな」

 

 特に目で追う事もなく掴み取った。

 

「それ以外は外も中も変化なし。

 元から伊達眼鏡だから変える必要なくて良かった」

「そのデザイン気に入っていましたからねー」

 

 蒼いアンダーフレームの眼鏡*1の奥の、チヒロの目はいつも通り。

 レイの言葉に、チヒロはそうだねと軽く頷いた。

 

 チヒロが今回受けた検査は、病や怪我に関する物ではない。

 LVの上昇に顕現者への霊格の上昇。

 それらに伴い使えるようになった力の数々。

 他にも変異、特に心身に悪影響を及ぼす物はないか調べる必要があった。

 

「明後日からはスキルの検証進めないとね。

 テトラカーンの仕様が1ターン持続型なのは分かったけど。

 それ以外のスキルはまだだから」

「ロゼのサラスヴァティも使ってましたけど便利ですよねあれ。

 マカラカーンと一緒に使えますし*2

 

 年頃の少女がするには込み入った話をしつつ歩く。

 多少年齢は離れているがチヒロとレイは話が合う。

 Light-Law(善にして秩序)の有り様や、面倒見の良さといった共通点もあるが、それ以上に数年間肩を並べ苦楽を共にした者同士。

 互いに通じ合っていると見えた。

 

「レイの方は<錬剣刀身>の件? 

 ハレがそろそろ調整終わるって言ってた奴」

「今日の内に受け取っておこうと思いまして」

 

 彼方の御国は武器COMPについて以前から高い技術を持っており、現行周回のデータや資材を元に更なる改良が続けられている。

<錬剣刀身>はその一つであり、速くも導入が開始されていた。

 

 新世塾の人型戦車が携えていた刀の素材は、魔鉱もしくは錬剣術にて鍛造された退魔刀。

 前回の作戦で大量に押収したそれらを元に錬剣術を用いて、刀剣型武器COMPの刀身を作成しようという試みだ。

 何分錬剣術という既に確立された技術がベースの為、製造から実験はスムーズに進んだ。

 レイを始め何人かは既に刀身の感想を始めている。

 

 錬剣術で創られた刀身は能力(ステータス)向上と、パッシブ(加護)の恩恵をもたらす。

 更なる激戦に向けて大いに役立つ事だろう。

 

「明日行く異界でテストする予定なんです。

 試験は終わってもまだまだデータが必要ですから」

「レイは頑張っているね」

「チヒロさんも目が良くなったからって無理しちゃだめですよ」

「分かってる分かってる」

 

 微かに風──シェルターにはなかったそれが吹く中チヒロとレイは歩く。

 

「そうだ銀のご実家からお菓子貰ったんですけどチヒロさんもどうです?」

「銀の? 数に余裕あるなら有難く貰っておく」

 

 今の世界は過酷だが人間らしい生活は悪くない。

 少なくともチヒロはそう思っている。

 

(しかし銀、三ノ輪銀さん、か)

 

 だからこそ以前の世界と比べ奇妙に想う事もある。

 かつて自分より年上で、一度遊んでもらった少女がレイと同年代で。

 喜ばしい事に生きていて、婚約までしているとは。

 

 微かな胸の痛みと共に、奇妙だなと想ってしまう。

 

 

 


 

 

 

 ────チヒロも稀に、夢を見る事がある。

 

 前の世界の、まだ子供の頃。

 

 広い庭のある武家屋敷の中庭。

 居丈高に話す男がいた。

 

「兎に角だ。護国の為にゆめゆめ油断するなよ。

 程度の低い者達は電網の裏に蔓延る。

 駆除を忘れるな」

 

 説教を続ける和服姿の男。

 その腕には恋人の様に少女が縋り付いている。

 親子程年齢が離れているのに、恋人の様に。

 

「当然ですとも兄上殿。

 我らの仇敵たるファントムのみならず市井の者も監視しております」

 

 阿る様に答えるのはスーツ姿の男。

 兄上殿と言った通り血縁者なのだろう。

 客観的に見れば顔の造りが幾分か似ている。

 

 最も居丈高な男と裏腹な物腰の柔らかさ。

 与える印象はだいぶ異なっていたが。

 

()()()()。そろそろ帰りませんこと? 

 わたくし飽きてしまいましたわ」

「おおそうか。では、私は帰る。

 よく励むのだぞ。それと」

 

 厭わし気に和服の男は視線を下ろす。

 参勤交代めいて土下座を続ける少女を。

 その頭頂に浮かぶは悪魔人間の証(ヘイロー)

 

「其処の奴婢をよく躾けておけ。

 お前の嫡子達の弾除けとしてな」

 

 そう言って男は()を伴い帰っていった。

 車が発車する音がしてしばし。

 見送りに行ったスーツの男が戻ってきた。

 

「……もう大丈夫だチヒロ」

「よいしょっと。叔父上殿今日は一段と長かったね。

 何か不快な事でもあったのかな?」

 

 ぽんぽんと汚れを払い立ち上がったチヒロは、うんざりとため息をつく。

 よくもまあ似たような事を毎回と思う。

 

「戦力の再編で何か支障があったのかもしれないな。

 ……長くなったが傷はついてないかい?」

「平気だって父さん。

 せいぜい跡が付いたくらい。

 すぐに消えるよ」

 

 ほらね、と掌をチヒロは見せる。

 薄く赤くなっているが特に傷もない。

 

「すまないねチヒロ。

 私達が不甲斐ないばかりに」

「別にいいよ。あの人だって半年に一度程度しか来ないし。

 父さんが睨まれた方が他の子達が困るでしょ」

 

 まだ幼い年頃ではあるが、チヒロはそのあたりの機微を理解している。

 

 孤児であった自分を引き取った家は、ヤタガラス元老院に席を持つ各務家の分家。

 電脳部門の一部を統括する義父は当主程の権力はない。

 問題が起きれば技能を見込み雇用(理不尽な扱いから保護)している人員にも塁が及ぶだろう。

 

 それどころか場合によっては父がファントムの襲撃に会う────正確には()()()()()()()()可能性もあり得る。

 

「チヒロは賢いな。

 流石は私達の娘だ」

「いい教育受けさせてもらってるからね」

 

 チヒロは名目上この家の使用人となっている。

 主な職務は嫡子達(弟妹達)弾除け(護衛)、悪魔人間の扱いとはそんな物だ。

 

 とは言っても実質的な扱いはこの家の養子。

 学校にも行かせてもらってるし、誕生日にはプレゼントも貰っている。

 今日の様に時たま体裁を取り繕う必要があるのはまあ面倒だが。

 引き取られたのがこの家で良かったとチヒロは思っている。

 

 弟妹の面倒を見るのは大変な時もあるが嫌いじゃないと、自信を持って言える。

 

 ふと、髪に汚れが付いているのに気づいてチヒロは払った。

 あの"娘"が去り際軽く蹴立てた名残だろう。

 見ていた父へごまかすように笑う。

 

「あの子性格悪いね」

「ああ、そうだね」

 

 今度はごまかす様に父が笑った。

 

 チヒロも薄々ではあるが気付いている。

 恐らく父の兄────呼びたくないが叔父と娘の関係は、元老院の多くと同様に尋常ではない。

 幼い娘の目から遠ざけたい、悍ましい何かがある。

 

 結局の所、有形無形の良からぬ物から、チヒロは護られているのだ。

 だから父の事を情けないとは思わない。

 

「予期しない事があったが折角の休日だ。

 のんびりと過ごそう」

「うん、読みたい本もあるしね」

 

 少なくとも平穏な時間を過ごせた事は、チヒロのその後の人生で貴重な財産だった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「んー……よく寝た、かな」

 

 拠点の自室の中、仮眠から起きたチヒロは軽く髪をすく。

 眼鏡をかけ直して水を飲み一息入れ、頭がすっきりしてからPCを起動する。

 

 異界での地震や仲魔の調整に、セキュリティの確認。

 多少寝不足だった為仮眠したが、時間はまだ夕方。

 夕食までもう少し、

 PCが起動する僅かな間、脳裏に浮かぶ考えがあり。

 先日レイから貰った菓子の関係で話したせいか、三ノ輪銀の事が思い浮かんだ。

 

(良くも悪くもあの頃は何も知らなかったなあ……)

 

 まだ子供であったチヒロはヤタガラスがどうなっているか等何も知らなかった。

 父は仕事の事を家庭に持ち込まなかったし、当然機密もある。

 

 それでも召喚師やハッカーとして本格的に活動し、彼方の御国に参加し、この世界に来くるまでに多くの事を知った。

 その中には知れて良かった事もあれば、知って気が重くなった事もある。

 

 例えば──かつての世界で三ノ輪銀どうなったか。

 

 チヒロの感覚で言えば10年ほど前、ガイア過激派が暴れまわっていた頃の事。

 多数のガイア教徒や悪魔、<魔人 ヘルズエンジェル>もが加わった軍勢が、ヤタガラスの本拠を襲撃する事件があった。

 少女の身であった彼女は少数の召喚師と共に、防衛に当たった結果戦死したという。

 元老院を構成する者達の脱出時間を稼ぎ、更には付近の民間人を救う為に。

 満身創痍になるまで戦い続けたらしい。

 

(やりきれない、話よね)

 

 ヘルズエンジェルはレイブン、当時の雨柳が倒したらしい。

 だけどそれで死んだ者が生き返る訳もなく。

 勇敢な少女は永久に失われた。

 

 更にここからもまた酷かった事を、チヒロは知っている。

 

 シェルターに退避し全てが終わった後、チヒロは父から聞いた事がある。

 レイブンが元老院を滅ぼした事に、父は驚きつつも納得した様だったから。

 だから秘密だと珍しく念を押されて明かされた。

 三ノ輪銀の葬式での眉を顰める様な出来事を。

 

 チヒロのいた世界においては三ノ輪家は元老院を構成するさる家の分家筋であり、本家からは常に煙たがられる立場。

 それが長女が本拠防衛に多大な貢献をし、護国の英霊となった事で名を挙げた。

 本家の者達からすれば、面白い事ではない。

 

 血の通った人間からすればあまりにもグロテスクな論理。

 子が死んで得た栄光を親が享受等出来る物か。

 ましては大切に愛情を注いできた子であるならば。

 

 だが本家の、特に長老は分家の功績が気に食わなかったようだ。

 故に銀の両親に、娘の死に悲しみに暮れる人達にこう言ったと。

 

「護国の務めを果たした故、三ノ輪の名誉はこれからも語られる」

 

「銀は実に親孝行な娘であったのう」

 

「ほら、おぬしら喜べ。誉ある立場となったのだから」

 

 余りにも残酷で醜悪な言葉。

 有り得てはいけない内容だった。

 

 流石に父を含む何人かは制止しようとしたという。

 だが次の言葉を吐く前に動いた者がいた。

 

「それ以上はよしましょう。

葬送の場では故人を静かに送るべきかと」

 

 静かな言葉で、殺意に満ちた目で、止めたのはレイブンだったそうだ。

 

 そんな事があったから、レイ達を大切にしていたから、父を含む一部の彼方の御国の者達は、鉄仮面の正体がレイブンと知って納得したそうだ。

 同時に自分達がやるべき事を背負わせてしまったと後悔したとも。

 

(だけどこの世界では、違ったのよね)

 

 チヒロがこれまで聞いた所では、ヤタガラスを離れた雨柳と銀はある時出会い。

 それをきっかけに雨柳は再び戦い始め、同時期に銀は絶体絶命の危機を救われたらしい。

 

 キリギリスの発起人であるDB──佐々木氏に。

 

 この先行き不透明な世界は少なくとも、断たれなかった可能性があり、醜悪さに淀んだ絶望がない。

 それは良い事だとチヒロは考えている。

 

 同時に自分が如何に生きていくべきかも。

 そんな事を考えるには年を取りすぎたとも、まだ若いととも思えるが。

 世界に多少なりとも適応してきたからこそ。

 

 とは言っても答えは決まっている。

 今更翻す理由も必要もない。

 

(それにしても……雨柳さん意外と意外というかなんというか)

 

 銀と佐々木氏やその他JCの事もあり、キリギリスで着いたあだ名は脳破壊おじさん。

 不名誉度最高位魔法(バリオン)級な言われようだが、それはそうとして周りには女性が多い。

 御影のみならずなんかチヒロと同年代の子もいるし、仙台にも通い妻がいて、さらにレイの様に過去周回からも更なる知り合いが来たようだ。*3

 先日も仙台に行く際レイに白い目で見られていた。

 

(いい人、なんだけどね……)

 

 自分の周りの人間は何故こうも個性的なのか。

 それが生き残っている秘訣なのかもしれないが、どうしてもため息が出る。

 

 やれやれと、チヒロは息を吐いた。

 

 

 


 

 

 

 どぉと腹底を震わす音が響いた。

 

 とあるレルム近くの路地を怒声や銃声が満たす。

 それは言うまでもなく戦闘が起きた証。

 

 此処へ出動したのは彼方の御国の召喚師達。

 今日の彼らの任務は阿修羅会の人攫い(マンハント)阻止。

 

 戦力を終結させつつあるという阿修羅会。

 その一部は未だにマンハントに精を出している。

 今回彼方の御国が掴んだ襲撃の兆候もその一部だ。

 

「クソ! コイツ等召喚師が多かィぎァっ!」

「悪魔じゃなくて人間を狙え! 

 いつまでも埒が明かねえぞ!?」

 

 動員された人狩り共を、彼方の御国やキリギリスの者達は倒していく。

 とは言っても緊急の出動故、味方の数は少ない。

 ターゲットを逃がす為に割く人員を想えば、そう余裕はなかった。

 

 故にチヒロも今、敵と単独で対峙している。

 共に来た仲間はターゲット達を連れて後退中。

 目の前の敵は自分と仲魔で倒す事になるだろう。

 

 単独で敵と戦う、この世界に来てからは久しくなかったシチュエーション。

 しかも敵も一蹴出来る弱敵ではない。

 

「何処の誰だか知らんが邪魔立てするならば容赦はせんぞ。

 ましてや愚昧なるクズノハの者ならば」

 

 太刀を携えた和装の男。

 気配には悪魔のそれも混じっていた。

 

\カカカッ/

悪魔人間アシュラ剣士LV65??? 

 

「……和装に時代がかかった言葉使い。

 もしかして貴方京都系?」

 

 格上ではあるがチヒロは臆する事はない。

 冷静に敵を観察し、敵を押しとどめるのみである。

 

「口の利き方を知らん小娘だ。

 ましてや悪魔混じりが」

 

 憎々し気に男は吐き捨てる。

 ああやはりか、とチヒロは納得する。

 嬉しくない懐かしさすら感じる言動。

 

「雑種に道理をわきまえぬ餓鬼共。

 どれもこれも粛清が必要だ。

 愚者()共に阿るクズノハ同様に」

「ありがちな意見だね。

 人攫いが言う事じゃないと思うけど」

 

 男の言葉をチヒロが冷ややかに遮る。

 こういう人間は嫌という程見てきた。

 その低俗さは世界をまたいでも変わらない。

 

「黙れ! 奴隷(私財)の回収をするのは当然の権利だ! 

 貴様の無礼、その命で償ってもらおう!」

 

 怒気を増す男は太刀を持つ手を震わせる。

 無駄な程のプライドの高さ。

 

(私財……ならさっきの子達は逃げた関係者あたり? 

 大方家の使用人が逃げ出したってあたりか)

 

 後々背景含めて調査する必要があるだろう。

 だがまずチヒロがすべきはこの男を。

 

「────止めさせてもらうわ」

 

 手に馴染む、ライフル型武器COMP<バックドア>の引き金を引く。

 召喚されるのは追加の仲魔。

 

 前の世界からチヒロはハッカーとしてのみならず、召喚師としても鍛え続けてきた。

 ファントムや悪魔のみならず、腐敗したヤタガラスの理不尽に抗う為に。

 自分以外にも年少の者や立場の弱い者を護る為に。

 積み重ねてきた物はこの世界でも繋がっている。

 

 自分の生き方は、この世界でも変わる事はない。

 元よりそんな生き方が嫌いでもないのだし。

 

「あの子達に危害を加えるなら、阿修羅会に与するなら、実力を以て排除するわ」

「抜かせ雑種が!」

 

 男は太刀を、チヒロは武器COMPを互いへ向ける。

 戦闘が始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 チヒロの前に立つは三体の仲魔達。

 いずれも合体で強化し鍛えてきた。

 

\カカカッ/

幻魔ハヌマーン*4LV60精神・神経・魔力耐性 破魔・呪殺無効

 

\カカカッ/

技芸属(魔神)トート*5LV51(31+20)破魔・呪殺耐性 四属性・精神吸収 物理に弱い

 

\カカカッ/

英雄ロンギヌス*6LV60(65-5)魔力耐性 物理*7・破魔・呪殺・精神・神経無効

 

 風神の息子たる神猿にエジプト神話の知恵の神。

 かつての世界の造魔技術を元に創られし、全身装甲の聖槍士。

 

「敵は格上。

 防御重視で慎重に行くよ」

 

 戦闘開始と同時、チヒロ達の防御力が引き上げられる。

 

ラクカオート自動効果戦闘開始から5ターン*8の間、味方全体の防御力が上昇する
 

 

 チヒロが覚醒したスキルの一つは守りを固める物。

 まず自分達が崩れず、死なない為のそれは自分に会っている。

 

「御意なり召喚師よ」

 

 さらに幻魔がラク・カジャ*9を重ねた。

 防御を固めれば次に行うのは無論攻撃。

 処理高速化(アクセラレート)で加速したチヒロと魔神が仕掛ける。

 

≪ショックウェーブ≫*10

 

≪ザンダイン≫

 

 雷と衝撃が剣士を打ち据える。

 噛みしめた歯の間からは確かな苦鳴。

 無効吸収反射は無し。

 

 反撃に備えロンギヌスをパス(控え)させつつもチヒロは結果を観察。

 マンハント相手である事から銃撃ではなく衝撃魔法を選択したがあたりだったようだ。

 

(問題は敵の攻撃だけど)

 

 敵がどう動くかは実際に体験せねば分からない。

 故にチヒロは手数で上回ろうとも、油断はない。

 

ターンが回る。

 

 剣士の瞳孔が見開かれた。

 獣の眼光、心身を活性化し行動を高速化。

 

≪ヒートライザ≫

 

 全能力強化によるバフ、其処から繰り出されるのは破空の剣閃。

 

「何もできぬまま躯を晒すがいい!」

 

≪虚空斬波≫

 

 破壊的な斬撃は剣士の奥義が一つ。

 悪魔の力を宿しようやく到達した業。

 絶対の自信を胸に太刀を振るう。

 

 幻魔を切り裂き、魔神を庇った英雄には無効。

 されど全体を対象とした斬撃は止まらず、召喚師へと向かう。

 

 男の口元には嗜虐の笑み。

 血と死を予感し嗤う。

 

 ────対するチヒロはただただ、見た。

 

 鈍く煌く刃、男の目線、手足の躍動、etc。

 多数の要素を見、瞬間的な計算の元、身体に反映。

 刃を文字通りの紙一重にて、躱す。

 

「何だと!?」

「うん……全部見えた」

 

 極・物理見切り。*11そう呼ばれる物理回避の技により、斬撃を見事に躱した。

 一撃を回避された剣士は驚愕し、チヒロは冷静なままにターンが回る。

 

「トートは魔法に備え待機。

 物理への対処は私がやる」

 

 チヒロは手を軽く動かしテトラカーン(物理反射障壁)*12を展開。

 タル・カジャ珠を使用し、さらにそこへ幻魔がタル・カジャ*13を重ねる。

 

「ぬぅん!」

 

 続いて動くのは英雄ロンギヌス。

 裂帛の気合いと共に聖槍が繰り出され。

 彗星の如き突きが突き刺さる。

 

「ぎっ……ちぃぃっ!」

「通常攻撃には耐性なしか。

 そういう装備か耐性かな?」

 

 見た目通りの物理型ならば物理耐性等の備えがあると見たが通常攻撃は素通し。

 恐らく悪魔攻撃は対象外(スプリガンベスト)あたりか、斬撃等はともかく貫通耐性はない(槍が有効)か。

 もう少し検証の必要があるだろう。

 

「下郎めが……! 

 よくも私を傷つけあまつさえ剣を躱すなど……!」

 

 心底から湧き上がる憤怒と共に歯をきしませる。

 寄りによって年若い、女が、自分に歯向かう等。

 あってはならなかった。

 

(あの乃木若葉の様に、不快にさせてくれる!)

 

 以前京都へ訪れた時、粗相をした少女を虐待(折檻)しようとしたのを止めた忌まわしき少女。

 凛とした雰囲気の彼女は、男の一撃を容易く躱して見せた。

 それは武を誇り生きてきた男にとって屈辱の一幕。

 経緯等関係なく、清算すべき汚点である。

 

 阿修羅会に身を寄せ悪魔の力を手にした後、乃木若葉について溜飲が下がる話を聞きもした。

 されど完全に鬱屈が解消されたわけでなし。

 歯向かう者を蹂躙せねば気が済まぬ。

 

(テトラカーンで刃は届かん。

 ──ならばこれでどうだ!)

 

 放射されるのは混沌の波動。

 無価値な秩序を駆逐する万能の混沌。

 

混沌の海*14万能魔法敵全体に万能ダメージを与える 敵の属性がLAWの場合威力激化
 

 

 混沌の海が2度、チヒロたちを飲み込む。

 秩序を尊ぶ護国の者達への切り札となる万能魔法。

 

「どうだこの威力は! 

 無様に砕け────」

 

 言葉を切った男の視線の先、チヒロ達は全員健在。

 確かにダメージは受けているが、特にチヒロは体力に余裕がありそうだ。

 

「万能は確かに多くの悪魔も人間も耐性を持たない。

 だけど防ぐ手段も軽減する手段もあるんだ」

 

 確かに秩序に属するチヒロに、混沌の海は特攻となるスキルである。

 しかしカラミティスーツ*15により充分に威力は軽減可能だ。

 1撃目を高い魔力を持つトートにカバーさせれば充分に耐えられる。

 

(それに……私は全体攻撃には強いしね)

 

 ──チヒロはある神と融合した悪魔人間である。

 

 名はギリシャ神話に謡われる百眼の神アルゴス

 激戦を経てチヒロは身に宿す力を覚醒させた。

 死して世界をまたごうとも離れぬ神の因子は、祝福か呪いか。

 

 それは未だにチヒロには分からぬ。

 だが神の力は、戦場に立ち続ける事を可能としている一因。

 今日も自他の命を護り続けていた。

 

 その力の一つが全体攻撃に対する防護能力、番人たる巨神の権能。

 

百眼の番人*16自動効果このスキルを持つ者が生存中、味方全体は全体攻撃スキルで受けるダメージが15%減少する

 

 チヒロの眼鏡の奥、知性を湛えた目は敵を見通す。

 敵の猛攻に対処し、自分や仲間を守る為に。

 

「横槍に警戒しつつ、順当に制圧していこう」

 

 仲魔に一声かけ、回復してからテトラカーン。

 主の指示に応じて仲魔達が的確に動く。

 その動きに動揺した男は対処しきれない。

 

 防御を固め、的確に攻め、戦線を維持したチヒロ達が、順当に勝つまで時間はかからなかった。

 

 

 


 

 

 

 夜の拠点の中、ふぅと長めの息をチヒロは吐く。

 流石に今日は疲れた。

 

 戦闘して倒した剣士をヤタガラスへ引き渡した後に、今回保護した少女達を説得した。

 何でもヤタガラスへの不信感からレルムに隠れ住んでいたらしい。

 京都の腐り具合を味わっていたため、帝都も信用できないと。

 

 彼女達をヤタガラスの担当者と共に説得し、ヤタガラスが信用できないなら聖華学園なり系列校なりで庇護を受けて欲しいと説得するのは骨が折れた。

 最終的には自分達を護ったチヒロ達の言葉を聞き入れてくれたのでよかったが。

 

 とは言っても関係各所の連絡も多少は手伝ったので骨が折れた。

 目はまだまだ醒めてるが肩が凝った感じもする。

 

(寝る前に珈琲でも飲もう……おや)

 

 休憩室前でふと足を止めると声が聞こえる。

 どうやら今日異界へ行っていたロゼとハレの様だ。

 

「二人共どうかした?」

「あーチヒロさん。

 ハレちゃんがまたしてもエナドリを隠し持っていたんです」

「またあ?」

 

 まさかシェルターで緩和したエナドリ中毒がぶり返しているというのか。

 チヒロもハレを半目で見てしまう。

 

「うう―……今日は異界で支援頑張ったんだからいいじゃん。

 こういう時はご褒美が欲しい~」

 

 机に突っ伏し饅頭の様に潰れるハレ。

 ロゼは腕組をして答える。

 

「エナドリはね、そんな水みたいに飲むものじゃないんだよ?」

「ううーいけずー」

 

 誠に残念な事にハレは10代後半、ロゼは実年齢2歳である。

 普通逆ではないのかこの関係は。

 

「しょうがない子ね……。

 エナドリは駄目だけどコーヒー淹れてあげるから待ってて」

 

 前の世界から面倒を見ていた間柄。

 この手の言動にも慣れた物だ。

 

 自販機は保安の都合でないが豆はいい物を揃えられている。

 さっと淹れても中々美味しい珈琲になるだろう。

 

「ならおじさんから貰ったお土産の菓子あるから食べましょう」

「もう夜だけどいいの?」

「僕は覚醒者なので大丈夫かと」

「んぐー甘い物も好き」

 

 腕を組み自信満々に答えるロゼ、当たり前の様に菓子を口にしようとするハレにチヒロは思わず笑ってしまう。

 まだまだレイ達と一緒にこの子達の面倒を見なくてはなるまい。

 そう思っているのに方が少し軽くなった気がした。

 

「ロゼはお湯沸かしてて。

 ハレはお皿とコップ出しておいて」

「はーい」

「ういー」

 

 手間がかかる事があるが、後輩も弟妹も、面倒を見るのがチヒロは嫌いではなかった。

 

 

 


 

 ◎登場人物紹介

 ・各務チヒロ <ハッカー><悪魔人間><悪魔召喚師> LV62

 彼方の御国に所属する召喚師にしてハッカー。

 魔神アルゴスの力を持つ悪魔人間であり、防御に長けたスキルを使いこなす他、銃撃による気絶等の状態異常を使いこなす。

 孤児の所を各務家分家に引き取られた後義理の両親から愛情を受け育ち、この世界でもなおも彼方の御国で活動を続けている。

 年下への面倒見が良いが、この世界でのレイブンの脳破壊等には少し困惑中。

 

*1
SH2のサイゾー専用装備品ヴィンテージライターと同様の性能を持つ特注品 HP+180 MP+100の効果を持つ

*2
SH2では物理反射状態と魔法反射状態は重複させられない

*3
なお更にブラックフィエンドの紅葉もいる

*4
ソウルハッカーズ無印仕様

*5
アバドン王仕様

*6
種族はSH2のヨシツネ等に準じ英雄 それ以外はソウルハッカーズ無印仕様

*7
セイテンソースから継承

*8
武器COMP搭載の魔晶<補助効果延長Ⅱ>により2ターン効果時間が延長されている

*9
ソウルハッカーズ無印の高倍率 2段階目で150%の倍率

*10
アバドン王出典 直線状の敵に複数回電撃属性ダメージを与える

*11
SH2出典 物理攻撃の回避率を大幅に上昇させる

*12
真1の1ターン持続仕様

*13
2回目であり倍率250%

*14
真ⅣF仕様

*15
デビルサマナー出典の女性用防具 全対応耐性を持ち万能をも軽減する

*16
D2においてヘカトンケイルが持つタルタロスの牢番と同様の効果




次回は1話別の話を挟むかもしれませんがVS阿修羅会篇に入る予定です
大規模戦闘を迎えた本スレの盛り上がりに私もついていかなくては……どうなるか気になる子もいますしネ
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