真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は本スレのJC'sもちょっと出ます
……こないだの本スレであったあの子の本来の性癖はびっくりしたんだよね
思わず素で「なにっ」「なんだあっ」って口に出しちゃったんだ
──―その悪魔はまさに、巌という表現が最も適した存在であった。
広い部屋の隅に四葉の護衛として立つその悪魔は黄色を基調とした衣装を着込み長く豊かな髭を蓄えている。
素人目にも立ち姿だけでその身に秘めた強大な力を思わせる威容。
されど悪魔が今どのような表情を浮かべているかは覗うことができない。
僅かに見える赤い顔は武骨な兜で覆われているからだ。
円筒状の兜からはこれまた飾り気のないアンテナが伸び、悪魔とは対照的な無機質さ。
恐らく何らかの精神制御を行う機能があるのだろう。
現に悪魔は彫像めいて微動だにせず仮初の主君の姿から目を空さない。
まだ幼い少女に対して悍ましい欲望を発散する暗君の姿から。
「んっひ、あ……! や、あああ……!」
汚らしい手で四葉は安那に触れる。
自分の娘程年の離れた少女が泣いて拒絶しようとお構いなし。
その有様は静止に耐えない程に不快である。
「はぁっはあ……君をかどわかして、本当に良かったよ。
最近攫った子の中でも一番かもしれないな……私の人生はね、他人にとってはどうだか知らないが虚無としか言いようがない物だったんだ」
目を閉じ嫌悪感に身を震わせ涙を流す安那をよそに四葉は語る。
彼の異能によって少女を閉じ込めたカードを弄びながら平然と。
己の抗えぬ衝動の根源を。
「私は旧華族の血を引く資産家の家に両親の美貌と才能を引き継いで産まれた。
何でもできたし努力することも苦にならない。人間関係でも幼少の頃より良き友人と理解者にに恵まれていた。
成長してからは父の会社を引き継ぎ規模を大きくし、本業の医学博士としての活動においても功績を上げている。
客観的に見て完璧な人生だと思うよ」
客観的に見て、それは本人からして完璧という事ではない。
「しかしねどれも私には面白くない、当たり前の事ばかりで達成感が感じられない。
企業経営は多少の情報収集を行い、適切な手を打てば容易に利益を上げられる。
打ち込んだ研究活動も独創性がなく、先人の発見を系統立てただけ。
私が喜びを感じられたのは中学生の頃付き合った同年代の少女との性行為だけだ」
あの頃はよかったと四葉は遠い目で思い返す。
対人能力に優れた自分にとって女性に股を開かせるのは容易い事であり、多少の手間をかければ幾らでも欲望を満たせた。
「だから影で少女達を買い始めた。
ファントムソサエティの娼館に通うようになってからは、万が一の為悪魔の扱いを覚えた。
それ以外にも合法都市にも渡りをつけて何度も通ったね」
ファントムソサエティはダークサマナーを多数抱える秘密結社であり、合法都市は北海道にかつて存在していた現代のソドムともいうべき超退廃都市である。
そんな危険極まりない組織や都市に異常性癖を満たす為に接触する四葉の異常性は常軌を逸していた。
「些衛生には疑問がある都市だったが刺激的だったな。
あの子は艶めかしい体つきだったが見立てだと13、14……シスターの様な子は15あたりか。
13歳4人と乱交出来た時は天にも昇る心地。ああ15歳の純潔を奪ったのも良い思い出だ」
もう、どちらも滅んでしまったんだけどねと続ける四葉は心から悲しげなのが吐き気がする。
「だから私は自分の手で少女を手に入れる事をした。
リスクはあるが自分の手で選んで、手入れしながら犯すのは中々良い。
もっと早くしておけばよかったよ。
そんな所かな。私が────」
「おかしいよ、あなた」
四葉の言葉を安那はさえぎる。
涙がうっすらと浮かぶその目には嫌悪感と恐怖、それ以上の怒りが込められていた。
「おかしい? ああ確かに世間一般の常識では」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ!
なんであなたは周りの人に愛されて尊敬されて、そうして生きてきたのにどうして相手の事を考えられないの!?」
安那は思う。この男は人間じゃない。
性癖という本能と偶然で決定される要素ではなく、それ以前に人間ならば当然備えてしかるべき他者を慮る能力が欠けている。
況や男の環境は劣悪とは程遠い物なのに、決定的に共感性が欠けている。
「あなたがやっている事は沢山の人を傷つける事なんだよ!?
なのに自分の欲望に負けて、それを正当化して何を語ってるんだよ!
あなたがやっている事は下劣な犯罪で、馬鹿みたいな言い訳に過ぎないよ!」
「黙れっ! お前の様な小娘に私の絶望が分かるか!」
四葉は感情に任せて安那の頬を叩く。
遊び道具を壊したくないという思いから手加減はあった物の、倍近いレベルの相手からの暴力に安那は血を流すがそれでも糾弾の言葉を止めない。
「分かんないよ! でもそれでも、叶えちゃいけない欲望だってあるって知っているはずでしょっ!
罪には罰が下る事だって────」
「一つ教えてやるよ小娘。罪なんて金や力があれば簡単に踏み倒せるんだよ……!」
何年か前悪魔や悪魔業界について知った時の事を四葉は思い出す。
ああ、くだらない法や倫理になぜ自分は縛られていたのか。
その外側へ踏み入いる事は凡人ならいざ知らず自分なら簡単な事であり、そこには求め続けていた快楽があったのに。
金や力こそが法や倫理に優越する事を確信していなかったせいで、貴重な時間を無駄にし続けていた。
「ひと時はそうかもしれない。
でもこの世にはあなたみたいな悪を許さない人がいるって私は知っている。
警察やヤタガラスだけじゃない、いつかきっとヒーローがあなたの罪を裁きに来る」
濁った眼を正面から安那は見返す。
彼女の中にはヒーローからもらった勇気がある。
もう何年も前の事であるが安那は一人でいる所を悪魔に襲われた事がある。
一人でいた所を安那は訳も分からない内に喰われかけ、泣きながらもどうする事も出来ない時に駆け付けてきた男が居た。
白と黒が入り混じった髪をした若い男は素手で悪魔を殴り殺すと泣いている安那をそっと慰めて、安全な所まで連れて行ってくれた。
何処か寂しげなあの笑顔と端正な顔つきに似合わないごつごつとしていて、それでいて暖かい手を安那は決して忘れない。
だから怖くて気持ち悪くてたまらないけどこんな奴には負けない。
絶対に負けない。
「なら分からせてやるよ。
この私がたっぷりと教えてやる。お前が誰に歯向かったのかをな。
私の物を見れば条件反射で口を開くまで」
下衆な欲望を吐露する四葉の口をふさぐように轟音が鳴り響く。
轟音の元は蹴破られた扉だ。重々しい音を立ててたたきつけられた扉を踏みしめるのは戦闘用の頑丈な靴。
広い部屋へ真っ先に飛び込んでくるのはコート姿の帯刀した男。
充分な警備がしてあるはずのこの屋敷の中枢へと気づかせる事無く突入してきた男へ四葉は目を見開く。
「っ何だ貴様は何者だ! 何の権利があって私の邪魔をするっ!?」
「――――権利なんて知らねえよ。俺なんぞは正義の味方なんて言えるほど高尚じゃねえ」
護衛の悪魔の影に隠れた四葉に対して雨柳巧は怒りを込めて宣言する。
蓮の葉に乗った悪魔に続き、彼の背後に立つのは安那と同じ年頃、赤、緑、黄色と鮮やかな衣装を纏った少女達。
悪に正しき怒りを抱くこの世の何よりも美しく気高い花々をかばうように先頭に立ち、雨柳は備前長船を抜き放つ。
「テメエを許さねえ程度には良心がある、ただ一人の男だよ」
今はただ少女達を護る為にある一人の男は刀を突きつけた。
背徳の宴が行われていた陰惨な屋敷の一室の中、雨柳は敵と切り結ぶ。
旋回する巨大な刃はギロチンの刃の如し。
その一撃をもろに受ければ人間等木っ端微塵にされかねない大破壊力。
「ククノチ!」
「存じておりますとも!」
後衛となるククノチがテトラカーン*1を発動し、自らの攻撃が因果を成す事を嫌って敵悪魔が飛びのく。
それを逃がすものかと雨柳は風属性の付与を得た備前長船を一閃。
風属性の刃が伸びて悪魔の裏小手から血をしぶかせる。
「……コソ泥の分際で良く粘る。回復しろ」
「はい召喚師様。奴が万全じゃないと困りますものね」
四葉が命じた夜魔の回復魔法によって悪魔が回復する。
風属性の刃で幾重にもつけられた傷が一瞬にして治癒。
普段は頼もしい回復魔法という物も敵に使われると腹立たしい物である。
(チッ予想外なこたぁこの業界にはありがちとは言え、これは流石にな)
四葉と奴の操る悪魔と戦う雨柳。その状況は芳しくない。
その理由としては三つの理由があげられる。
第一にキリギリスメンバーの参加が限定されている事。
雨柳はともかく、共に突入した少女達の所属するキリギリスの本隊ともいうべきチームは現在別件に対応中である。
リーダーである男が先日の事件で強大な悪魔の呪を受け治療に当たっている影響がでており、動かせる人間は限定されている。
少女三人とも本来小規模な異界潰しが今日の仕事だった所から急遽連絡を聞きつけこの件に参加したのである。
雨柳が良く組む水神もいない為、個々の強さはともかく数には不安がある。
第二に雨柳と同行してきた少女達は被害者の保護に当たっている事。
安那以外も被害者は数多く、この部屋での戦いに巻き込みかねない。
こうした場合の被害者救助は共倒れを防ぐため望ましくないが、四葉は生身の被害者もカード化して飾った被害者も構わず魔法を撃ってきやがった。
幸いククノチのメタモディ*2によりカード化は解呪出来た物の、裸のまま戦場に晒すわけにもいかず少女達が救助及び輸送に当たっているわけだ。
そして第三に敵の強さである。
四葉の霊格は40弱。覚醒してからの年月の短さを感じると高いが雨柳よりははるかに低い。
使役する悪魔は四体。霊鳥に夜魔といった後衛に、自身を含む後衛の護衛役として外道が二体。
それらは雨柳にとって容易い相手である。
問題なのは────
「まさかあの武神関羽とやり合う羽目になるたあな! 武人冥利に尽きるなんて言ってられねえ!
速度も力も技も、弱体化してこれかよ!?」
無機質な鉄仮面をかぶる悪魔は紛れもなく英傑カンセイテイクンであった。
| 英傑 | カンセイテイクン | LV65 | 物理・銃撃耐性 破魔・呪殺・精神無効 ???? |
アナライズ結果はレベル65と本来より弱体化している物の、強力な耐性をしている。
詳細な解析は雨柳のアナライズではこれ以上は無理故、実地での検証が必要となるがそんな隙を武神は与えなどしない。
無慈悲な攻撃を雨柳に対して加え続ける。
突きと斬撃、その二つを変幻自在に組み合わせた連続攻撃を凌ぎながら雨柳は思考する。
(クソ野郎に従っている上に無言な原因は恐らくあの兜で精神を制御していることによる物。
形としては陸軍が大戦時に造った『必殺の霊的国防兵器』が近いか?
コイツは中国か中華系の組織が作ったんだろうが、んな物騒な物流出させるんじゃねえっての!)
武神らしき気概を見せる事無くカンセイテイクンは無言のままに代名詞たる青龍偃月刀を振るう。
悪魔といえど、いや悪魔だからこそ今代までに続く伝承によって保障された武力は一級品。
青龍偃月刀の刃は悍ましい程に鋭く速く力強い。
英傑と呼ばれるその強大な力を最悪な形で発揮していた。
「随分といい買い物したもんだなァ。高かっただろ幾らした?」
「さあてな、凡人には縁のない額とだけ言っておこう。
まあ私の資産からするとそう買えない額ではなかったが。……支援を絶やすなバフを続けろ」
また四葉も木偶ではなく、堅実な行動を心掛けている。
通常の交戦距離からすると遠巻きといえる距離を保ち積極性に欠ける動きをしている物の、それはカンセイテイクンという最強の駒を活かす為だろう。
夜魔が回復を行い霊鳥が風の通り道を作り加速させ、壁となるに肉塊のような醜悪な外道が状態異常と魔法をばらまく。
「レギオン召喚、穴を埋めろ。そのままカンセイテイクンを使い倒せ」
例え召喚師を狙おうと取り巻きの悪魔を倒しても召喚や回復アイテムにより穴埋めがなされる。
いやそもそも恐らくカンセイテイクンはMagの補給さえあれば動く自立式。
仮に四葉を殺してもこの武神はMagが尽きるまで殺戮を辞めないであろう。
(だが絶望なんて一丁前にしてられねえ。この館にはあの子達が居るんだからなあ!)
雨柳は長きにわたる戦いで蓄積された戦闘経験は最適解を、生き延びるための術を探し続ける。
己が生き延びる為に、それ以上に囚われていた安那を始めとする少女達を、今日共にこの館に救助に出向いた少女達を危険から遠ざける為に。
「31のおっさんでもやってやるぜ、武神殺し!」
カンセイテイクンが斬撃を見舞う直前にククノチがテトラカーンを発動。
物理攻撃を反射する障壁が雨柳を包む。
敵がモーションに入った瞬間を逃さず捉えた絶妙のタイミング。
これまでの戦闘から読み取った動きに見事合わせた熟練の業である。
この障壁でもってカンセイテイクンの攻撃を反射し、隙が出来た所へと痛撃を見舞う。
またカンセイテイクンの巨躯が壁となり四葉達も援護が出来ない角度。
それは不利なまま固定された固定された戦局を覆す一手であったが、雨柳の脳裏に怖気が奔る。
「────ッ!!」
雨柳は身を長出すように前転、其処へ飛来するは雷の刃。
雷龍撃*3と呼ばれる雷の刃による斬撃は、電撃属性らしく物理反射障壁の対象とならない。
「っがああああっ!!」
最早質量すら感じる密度の雷撃の刃。
悪魔特有の物理法則を無視した一撃に晒された雨柳は何メートルも吹き飛ばされ受け身をとれずに転がる。
「っサマナー! 今回復します!」
幸いにも直撃は避けられた為回復魔法を受ければ戦闘続行可能な程度の重傷。
されど武神の一撃による体の奥底に響くダメージは深く、それ以上に驚きがあった。
一般的に英雄・英傑と呼ばれる特殊な悪魔はそれぞれ強力な専用スキルを持ち、伝承に保証された武威を誇るが属性攻撃は得手ではない物が殆ど。
にも拘らずカンセイテイクンは雷を用いた攻撃を行使した。
これはあの精神制御と同様に何らかの改造、恐らくスキルカードかそれに類する技術でスキルを付与したと予想。
抑々これ程の悪魔を入手し改造したうえで販売できる組織は幾つか思い当たるが底知れない物だと雨柳は感じる。
(体力は大分削られたがまだ動ける。これまで使わなかったあたり消費MPの増加といった制約があるんだろうがテトラカーンじゃ防げん。
なら立ち回りを────)
「ところで君は、私に雇われる気はないか?」
「ハア?」
余裕を持った四葉の言葉。
カンセイテイクンの絶対的な力を背景に交渉を持ちかける癪に障る態度。
息を整えつつある雨柳は怪訝な反応を返す。
「恥ずかしながら世界崩壊への備えが進んでいなくてね。
設備の購入などの為まだまだ悪魔業界へ関わらなくてはいけないがカンセイテイクンは動かしにくい。
だから君の様な腕利きが私の右腕となってくれると非常に助かるんだ。
ああ報酬は可能な限り言い分を聞こう。13~15歳の娘は私が独占するがそれ以外は」
「うるせえ死ね。クズ特有のクソ妄想はあの世で獄卒にカマ掘られながらでもやってろ」
ふざけた言葉を当然の如く一刀両断。
「何故だ? 君の人生を一気に豊かにするチャンスだというのに。
もう滅びかけのヤタガラスの依頼なんぞよりも私の元にいた方が良い暮らしができるぞ?」
「……お前さ、子供の泣き声聞いて辛くなったことあるか?」
「? いや全くないが」
「俺は辛えよ、10年近くたつのにいまだにクソ見てえな気分になる。胸をかきむしられるよ」
雨柳巧という男はかつて罪を犯した。
騙されたから、任務だからいいわけがない。あの子達よりも幼い子供を彼は殺そうとした。
親から不要とされた子の人生を、何も良い事がないままに終わらせようとしたのは事実。
最終的にクズノハの介入により子供の命は助かった。
けれどあの子の心身には癒えない傷が付けられたはずだ。
事件の後介入したクズノハの男は少女の境遇に同情しており、現在も前線に立つ長老格と協議しその子の遠縁にあたる子供のいない地方の家に送ったのだとか。
元の親と違って至極まともな義理の両親は少女を深く愛情を注ぎ、今では幸せに暮らしている。
と、一度だけあった先代クズノハ四天王の男は言っていた。
だからといって己の罪は消えていいはずがない。
10年以上も続く堕落は見苦しさここに極まれりといったところ。
折れた心を言い訳にして、いつまで被害者ぶる気でいたのだこの男は?
「俺はクズだよ。傍から見ればお前とそう変わらないだろうさ。けどな」
それでも、それでもだ。
「テメエらの域まで成り下がれるかよ────!」
子供を傷つけて、穢して。それを平然と肯定できる域にまで、支えてくれる御影たちに誓って堕ちれるものか。
罪人であろうとも、譲れぬ域はある。
「またくだらない倫理で私を愚弄するか。ならば程度の低い人間らしく屍を晒すがいい!
カンセイテイクン、そこの雑魚を殺せ!」
会話が終わり再開する戦闘。
戦闘の天秤は明白にカンセイテイクンを有する四葉の側に傾いている。
このままでは長くても雨柳は数分で屍を晒す事になるだろう。
それは残酷な事実である。
「よーし行くぞハイピクシー! 打合せ通り雨柳のおっちゃんを援護するんだ!」
「分かってるよサマナー!」
カンセイテイクンを避けて四葉や使役悪魔に殺到するのは
範囲を緻密に計算された魔法の網は、弱点を突かれた外道とレベルの低い霊鳥はほぼ即死した。
「よぉしドンピシャ!見たかアタシ達の超ファインプレー!」
それを成すのは紅い衣装の少女と仲魔だ。
普段は巨大な双斧剣を振り回し前衛の印象が強い少女であるが、魔法についても日々精進しているようだ。
狙いすました魔法は奇襲性も相まって効果は抜群。
「ほっほ若くないの。牛黄丹*4はいるかの?」
そのうえでもう一体の少女の仲魔は道具の知恵・癒*5によって癒し切れない雨柳の体力を回復。
援護射撃と回復を同時に行うお手本のような支援。
それは少女の受けた教育と経験の確かさを証明していた。
「何だと!? リリム、私を守れ体勢を」
「往生せいやあああああっ!」
回復役のリリムに対して黄色い衣装の少女が切りかかる。
裂帛の気合と共に振り下ろされた炎を纏う大剣は魔法で弱っていた夜魔を真っ二つにした。
「馬鹿な! これ程早く戻ってくるだと!?
先程の様な奇襲ならともかく足手まといを背負って門番のヘカトンケイルをそう簡単にぬけられるものか!」
「わりいな。大人としては恥ずかしくてしょうがねえがこの子達の仲間は多いんだ。それに強い」
多数の人間を運ぶというのは異能者であったとしても非常に手のかかる事である。
その上門番役であるヘカトンケイルは武神には劣る物のレベル55の強力な悪魔であり、足手纏いを抱えたまま楽に勝てる相手ではない。
だが、戦闘に集中していた四葉は知らない。
魔導針とその助手、そして姉妹の親友である何処か桜を思わせる少女が後詰としてこの館に突入し、要救助者の救出に協力した事を。
自らの転生元である酒呑童子へと変神した少女が
穢された少女達を見た酒呑童子の少女が、拳に込めた怒りの
「雨柳さん! 聞こえていますか? カンセイテイクンは、氷結が弱点になってます!」
| 英傑 | カンセイテイクン | LV65 | 物理・銃撃耐性 破魔・呪殺・精神無効 氷結弱点 |
先程の二人よりも後方から登場した緑色の衣装の少女(大剣で夜魔を切り捨てた少女の妹でもある)が手でメガホンを作って声を張り上げる。
彼女の特技の一つであるハイ・アナライズ*6によるカンセイテイクンの解析結果。
大人しそうな外見とは裏腹なよく通る声は闘いの喧噪の中でも雨柳に良く聞こえた。
「氷結弱点……改造の弊害か!」
恐らく多数の改造による霊基のバランスが崩れたことによるのだろう。
歴史的に火に弱いジャンヌダルクならいざ知らず本来ないはずの弱点が出来てしまっている。
相手の欠陥に助けられた形ではあるが突破口は見えてきた。
「舐めるな小娘が、消費物共が……!私の、私の幸福を邪魔するなあああッ!!
殺せカンセイテイクン! こいつ等を殺せ! 殺しつくせええええっっ!」
憤怒のままに四葉はカンセイテイクンへ怒号を飛ばす。
長年にわたって世の中に貢献してきた、並外れて優れた人間である私がようやく望みをかなえようとしたところを邪魔するというのか!
お前達偶々良い見目で生まれてきた凡人はおとなしく私に消費されてしまえば良いというに!
そんな身勝手な憤怒を受けたカンセイテイクンは無言で加速。
青龍偃月刀に灼熱の業火を宿し振るうは火龍撃*7と名付けられし一撃。
脆い人間に対しては危険に過ぎる一撃であるが。
「……ククノチ、頼むわ」
「お安い御用ですよ。構わずやりなさい」
一瞬にしてカンセイテイクンの前に現れたククノチがマハザンマを暴発同然に放ちその一撃を食い止める。
機動力に秀でているとは言えないククノチの瞬間移動のからくりは単純である。
クズノハでも四天王の系列に伝わる悪魔の構成Magを動かす召し寄せと呼ばれる技の応用である。
かつて雨柳が受けた手ほどきと十六代目クズノハゲイリンの仲魔であったククノチの技術・経験が合わさってできる奇襲技。
相手に特攻同然に仲魔をぶつける異形のカバーリングであった。
(デメリットのある人間と違い悪魔の死等道具一つで完治する物。
その程度恐れていては仲魔なんぞ務まりませんよ。いやそれ以上に)
御霊合体により弱点は消したとはいえカンセイテイクンの一撃をもろに受けたククノチの身は霧散していく。
構成マグネタイトが血のようにはじけ、仮初の死を迎えんとするククノチ。
されどその双眸はしっかりと雨柳を見据える。
(悪魔の身とて意地がある。人々を、幼子を護れずして
挫け立ち直ったあなたもそうでしょう、雨柳巧!)
神樹の意思を受け継ぐようにフッと短く息を吐いた雨柳は走り出す。
先程のマハザンマで四葉はノックアウトされ奴の悪魔もカンセイテイクン以外全滅。
今が、その時だ!
「おおおおおおおおッ!」
極度の精神集中により会心の覇気*8を込めて疾走する。
緑色の衣装の少女が
ああそうだ。程度の低い男の勝手な思いだ。
けれどこの子達には悪魔の蠢く陰惨な世界に関わらないで、ずっと笑顔で喜びが続く人生を生きて欲しかった。
紅い衣装の少女は雨柳が現役時代お世話になった恩人の娘である。
一目見てわかる程度には母親に似た少女は、何度傷ついても平和の為に戦い続けている。
小さくて可愛らしくて誰からも愛される少女が、心身や命の危険に身を晒して誰かを護る為に続けているのだ。
その勇敢さを発揮し続けている事こそが、哀しい。
黄色と緑の衣装の少女はとても仲の良い姉妹であるが雨柳と交流は深くない。
だけど雨柳は彼女達がかつて居た
誰も助けてくれない中、お互いを自分以上に大切にしあう姉妹が揃って受けた傷がどれほど深いか、身内にも双子がいるからこそ推測できる。
踏みにじられて、声もなく泣いていたあの子達の為に何かができたはずだという後悔が、今も残り続けている。
哀しみが、後悔が積み重なっていく。
それは雨柳をかつて壊した物であり今なお忌避する物だ。
だけど、雨柳巧は止まることがない。
(俺たちは大人で、戦士で、己の力を誰かの為に使う事を選んだんだ。
なら、やらねえといけねえよなァ!)
今この場にいないあの男のように。
雨柳巧は成すべきことを成さねばならぬ。
それは
故に雨柳は迷わない。一撃で武神を殺す!
「──────アアアアッ!!!」
ホルスター内の管が射出されると同時に現れるのは龍王ユルング。
強力な氷の魔力の全てを行使し青龍偃月刀に匹敵する長さの氷の刃を形作る。
対するカンセイテイクンもこちらへと突進、少女二人の援護をものともせずに偃月青龍刀を引き渾身の斬撃に備える。
両者の疾走はほぼ同時に弾かれるように円運動へ変化。
弧を描くようにして半周を回ると同時に弾かれたように円の中央へ翔ぶ。
重く響く床を踏みしめる音。
X字を描くようにして宙に現れる二筋の閃光。
遅れて響く風切り音。固い物が断たれる音。
そして、一瞬重なりあった影がまた二つに分かれた。
数メートルの距離をとって背中合わせに立つ雨柳とカンセイテイクン。
残身を決め微動だにしない二者。
永く感じられる一秒の後にカランと、音を立てて青龍偃月刀が床へ転がった。
「…………大銀氷、忠義斬!」
かすれた声で己の業をつぶやく雨柳。
お前を屠った技はこれだと宣言するかのような言葉の背後でカンセイテイクンの首筋に朱線が引かれ血が噴き出す。
血が残存する冷気によって凍り付き赤い花弁となる中、仮面が外れる。
中から現れるのは予想通りの厳めしい顔立ち。
「美事、なり」
余語は不要と言わんばかりの短い言葉。
それだけ言うと、カンセイテイクンの首は転がり落ちた。
武神殺しは此処に成った。
雨柳の所有する異界の空は現実と同じように夜空となっている。
現実と同じような一日を再現する仕様は、長い時間をかけた調整の賜物。
偽物とはいえほのかに照らす星々が瞬く、曇りなき夜空は現実のそれよりも何処か優しい。
「さてと、巧さんはと。もう帰ってきているかな?」
異界の中にある建物の中でもただ一つの和風の平屋。
雨柳達のメインとなる住居へと御影は車椅子を押して向かう。
その道は車椅子でも移動が苦にならないように念入りにならされており快適だった。
茅野安那の誘拐事件解決から数日がたっていた。
カンセイテイクンを始めとする戦力を全滅させられた四葉は、念入りに無力化(この作業は当然ながら雨柳が少女達から見えないところで行った)された上で警察へ引き渡された。
これから悪魔の入手ルートや合法都市についての情報を洗いざらい吐かされた上で地獄に堕ちる事になるだろう。
また四葉が拉致していた被害者は安那を含め、全員生きたままで保護されたのは不幸中の幸いと言えよう。
拉致を始めてからの日が短い分悪魔を使った被害を受けておらず、身体の治療がしやすく記憶もある少女の魔剣によって切除できるとの事だ。
ただし安那は記憶処置を受けずキリギリスに協力するという。
流石に前線には出ないがこまめに連絡を取り周辺地域の情報を伝えるとか。
無論本人は安全を最優先するとの事だが、なんとも気丈な事である。
雨柳は普段己の仕事に就いて語らない為、御影は上気の内容について安那に関すること以外はほとんど知らされていない。
ただ彼が本人も仲間も死なせる事無く悪を倒し、少女を救ったという事実すらあればそれで十分だった。
「そういうところだけは頑固なんだから。まあ頑固さが普段とのギャップでいいのも確かなんですが。……あら」
平屋の前に行くと奏と響の天城姉妹、それとあかりが中をのぞいている。
こっそりといった感じではあるがどうにも三人に差し迫った様子がない。
「あっ御影さん。よかったちょうどいいとこに来たっすね~」
メイン盾来たとばかりにテンションを上げるあかり。
その反応を見てああまたかと御影は見当をつけ、溜息を吐く。
「キリギリス本部で何かあったようでございます。リュウ叔父様の背中が煤けてました」
「漫画的表現だとチーンて音がしそうな魂の抜けた形相だったよね」
「「ねー」」
「ああやっぱりまたアレですかぁ……。一体いつになったら馴れるのやら」
仲の良い双子である天城姉妹があららといった感じに二人同意する。
その様子を見て私に任せてと御影は進み出て室内にエントリーすると案の定雨柳の部屋に灯。
(あーこの感じは今回も重傷ですねえ……何て困った人なんでしょう)
引き戸を開けると畳敷の和室にいるのは雨柳である。
レベル60近い剣士兼神道式悪魔召喚師。
東京緑化会の討伐戦で活躍し、カンセイテイクンとも戦ったあの男である。
その男は今。
「──ちゃん……」
わなわなと震える雨柳がつぶやくのは御影も一度あった事のあるとある少女の名前。
彼が名古屋に派遣された際に救ったウィッチドクターの少女である、
ふわふわとした髪の毛で、笑うと可愛らしい少女性があって、それでいて出る所はしっかりと出ているそんな御影とちょっと似た少女だ。
今日キリギリス本部(仮)に集団のリーダー格たる『佐々木』が受けた呪が一先ず安定した事の確認と、先日の加勢に対する少女達への礼を兼ねて訪れた雨柳。
そこで彼は見てしまったのだ。件の少女が佐々木へ向ける何処かとろりと、陶然とした顔を。
佐々木という男は腹が立つほどのイケメンである。
初対面の人に「読モやっています」といえば信じられるであろう程に。
だから傍目には少女が身近にいるカッコいい大人に憧れているだけとも見えるだろう。
だが彼には分かってしまう。あれは、あれはそんなものではない。
少女が青年に向ける純粋な慕情が浮かんだ顔ではない。
「だっ……だめだ……君まで!」
かつて自分が再び歩き出すきっかけとなった小さく可愛らしい少女の雌顔。
気品と天真爛漫さを併せ持った、将来の絶対的な美しさを想像させる少女の雌顔。
そして実は本来
禁断の雌顔三度打ちに
「いよっ」
限界を超えていた────!
「てい!」
「ぐへえああっ!」
名状しがたい様子の男に御影は腹パン。
すると精神的に弱っていた雨柳は情けなく崩れ落ちる。
この人、再起したら変な方向に駄目になっていないだろうか。
「全く何をやっているんですかあなたは……。事情は知ってますけどしつこいとあの子達から本当に嫌われますよ?」
「そうはいってもさあ、佐々木の野郎さあ! なんか知らない巨乳まで増えてんだけど!?
会うたびに未成年増えてんだけどぉ!? しかもその多くがががが」
「未成年三人囲っているあなたが言える事でもないでしょうに」
ゴロゴロと転がり苦悩する30代は見苦しさここに極まれり。
「ほら、今日はもう寝てください。明日は安那ちゃんを水神さんに紹介しなきゃいけないんですから。
あの子にとっては出来るだけカッコいいおじさんいてくださいね」
「……ん、そうだな。ちゃんとしておかないとな」
少しだけしゃきっとする雨柳を見て御影は苦笑する。
本当に変な所で繊細で引きずる癖に、他者に対する責任感を捨てきれない誠実さ。
この味わい深い人を自分はずっと好きでいるんだろうなと思う。
世界が救われた後、この人が今度こそ憂いなく平穏に暮らせたらいい。
それが長年過ごしてきた御影の願いだった。
「……なあ御影さん。俺なんとかおじさんじゃなくてお兄さんってことにできないかな?
ほら、今の時代31なんてまだまだ若」
「安那ちゃん中学生ですよ? 彼女からしたら完全におっさんです」
「……そうですね」
ただもう少し、締まらないとこを改善しないかなーとは思う。
そこもまた良いのだが。
◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV59
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
一応本作のメイン主人公である31歳。
哀しみも後悔もあるが、それでも護るべき物を見定めて戦い続けるキリギリスの構成員。
なおJCの雌落ちによる脳破壊は加速する模様。
◎キリギリス構成員紹介
・佐々木/レッドアイ・ホーク LV 86
漫画好きの自称ダークサマナー。
緑化会との死闘の末呪を受けた為、このエピソードの最中は魔女達から治療を受けていた。
その最中に魔女達が治療の加減を間違った結果凄い事になったとか。
・ウィッチドクターの少女 Lv40
前エピソードで雨柳と恵都が救出したウィッチドクターの少女。
紆余曲折を経て東京のキリギリスに参加したが、緑化会との戦闘により前世であるペルセポネーの力に覚醒し戦局を決定づける切り札となった。
その後先輩である魔女達と佐々木の治療に取り組み……結果としてダークサマナーに性癖を塗り替えられた。合掌。
本スレ登場記念に雨柳を主役としたエピソードを投稿しましたがいかがだったでしょうか?
次回はまた雨柳が登場するエピソードか、新たなキリギリス構成員を主役としたエピソードを投稿したいと思います。
どちらにせよ投稿は年度内になると思うのでその際にはよろしくお願いします。