真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
後に<混沌の奇禍>と呼ばれる動乱の日。
帝都のみならず、各地でも激戦が続いていた。
全国33か所の非合法レルムに住人を生贄にした新化秘神が出現。
膨大な霊力によって周囲を
歴戦のDB達ですら容易に攻略できない存在となり暴れまわっていた。
仙台の片隅にある非合法レルムでもそれは同じ。
全盛期以上の力を得た秘神が荒れ狂う。
「我が名は猿田毘古之男神。
削られ矮小化されし忌名はサタヒコなり!」
\カカカッ/
| 秘神 | 新化サルタヒコ | LV83 |
花鳥風月の手で強化された悪魔は国津神の名を名乗る。
宙を舞う巨大な天狗、その朱い顔には傲岸な意思。
「今こそ我が太陽として君臨する時!」
天狗の羽根が散る中魔力が集中。
眼下のDB達へ放たれる。
| 太陽神の鼓動*1 | 火炎属性魔法 | 敵全体に火炎属性特大ダメージを与え、攻撃力・防御力を一段階低下 |
| 火炎準貫通 | 自動効果 | 火炎耐性を貫通するが、敵の耐性が無効・吸収・反射の場合ダメージが70%減少する |
2度に渡り、歪な炎が地を満たした。
歪曲された神は、本来習得せざる炎で血を灼く。
さながら天より睥睨する太陽神の如く。
準貫通効果を載せた事で
圧倒的な力は神と人の差を誇示するかの如し。
睥睨する秘神は満足げではあるが。
「極大相手には置きメディアラハンに限るな!」
「デクンダ済んだらバフいくぞー。
そろそろ叩き落すとしよう」
「反射状態にはならんがこの手の貫通持ちには使えるなあこれ」
炎の中から次々とDB達が抜けだしてくる。
火障石や火炎ブロック*2により1発目を軽減。
2発目は体力増強やバフ、更には宝石や食事で強化された
彼等は出現する悪魔を瞬時に駆逐しながら、サルタヒコへ迫る。
「ダメージは着実に蓄積している!
そろそろ地に堕とさせてもらうよ!」
DB達の中には汐音もいた。
黒と灰のデモニカは多少損傷しつつも未だ稼働中。
シュバルツバースで戦った先人達から、自分達現行のテスターが集めたデータ。
それらは現行の戦いでも有効に活用されている。
≪トリガーハッピー≫*3
蓄積されたマグネタイトを放出する事によって生成される特殊フィールド。
手番を消費せずに展開され、DB達を包む。
「手羽先の調理開始だ。
地面に叩き落としてやれ!」
観測及び指揮担当のDBの号令と共に一斉砲火。
魔法や銃撃を中心にサルタヒコに着弾。
苦悶の声をあげさせた。
「ムゥ……こざかしい!」
だが秘神も頑丈でしぶとい。
よろめきながらも、ビルを蹴り。
反動をつけてさらなる上空へ舞い上がる。
(高空からの攻撃は必中を期待できん。
だが奴等が民を護るならばやりようはある)
非合法レルムから離れ、市街地へ移らんとする。
上空から炎を振り注がせれば大量の犠牲者と共に混乱は必至。
DB共は防御に手を取られ、先程の様な畳みかける攻撃を行えまい。
阿修羅会の、花鳥風月の力により秘神となった神には良心の呵責もない。
敵対者の信仰を絶やし自身の存在を確立。
そうしてやがては太陽神として主神の座に登る、それこそがすべて。
歪んだ神のエゴが剥き出しになっていた。
(諸共に焼き滅ぼしてくれるわ!)
憤怒と共に羽ばたきの方向を転換。
戦士達に比べ脆弱な唯人達が住まう区域へ。
「我をてこずらせた報いだ。
悔恨の中で死す」
呵々大笑する秘神、その翼を。
「が、いぃ……っ!?」
幻魔の
◇
バランスを崩し、真っ逆さまに墜落する秘神を見て、汐音はほうと息を吐いた。
「デバフとダメージ重ねてたのが良かったね。
下準備をした甲斐はあったかな?」
自身も≪力のドナム≫で仲魔を支援した汐音。
その傍らには白い鎧の幻魔。
「左様です我がサマナー。
我がゲイ・ボルグの真価存分に発揮できたかと」
飛来した魔槍を掴み取る姿はアルスターが英雄。
幻魔クー・フーリンに他ならぬ。
\カカカッ/
| 幻魔 | クー・フーリン*4 | LV66(52+14) | 物理耐性 衝撃無効 電撃吸収*5 |
代名詞たる魔槍には風の力が渦巻く。
クー・フーリンという著名な悪魔の中でも、ごく最近扱う個体が発見されたスキル。
| ゲイ・ボルグ*6 | 衝撃属性スキル | 敵単体に力依存の貫通付き衝撃属性中ダメージ。このスキルは必ず命中しクリティカルする |
強力なスキルを活かす為に合体で
以前遭遇した三人組、その中の犬を連れた青年から購入した悪魔は実に頼もしい。
強靭なる幻魔の魔槍は格上の悪魔だろうと貫き、屠りうる威力を有していた。
「阿修羅会担当のDBも合流してきた。
一気に片付けて安全を確保していくよ」
幻魔と共に墜落した秘神めがけて走る。
仙台での秘神戦の趨勢はこちらに傾いていた。
だけど油断は出来ない。
(東鳳学園付近の阿修羅会は既に対処済み。
けど聖華学園には多数の戦力が攻め込んでいる。
東京の方も気がかりだね)
此処に来るまでに汐音の母校でもある東鳳学園を襲う気配を見せた極道達は倒してきた。
だがその時聞いた情報だと聖華学園に投入された敵戦力は東鳳学園の比ではなく、警備員のみならず生徒も防衛に当たっているという。
それ以外にも帝都は秘神に加え、強大な悪魔や魔丞との戦闘が現在も今も続く地獄絵図。
想い人や顔見知りもいる汐音としては実に気がかりなジョイ強打。
(……ああいう曲解された姿の神って嫌ね本当に。
せめて地元だけでも安全にしないと)
この仙台は汐音が10年近く暮らし、今も家族に友人、最近だと妹分まで暮らす街だ。
その街をこれ以上阿修羅会や秘神共に穢させる訳にはいかない。
「秘神の動きは鈍って来ている。
頭を押さえつつ着実に削っていこう!」
仲魔と仲間を鼓舞し、立ち上がる秘神を視界へ。
如何に強かろうが今は自分達が護る側。
歪な神に人殺しなどさせやしない。
六本木の一角にあるありふれた雑居ビル。
それは阿修羅会がフロント企業を通じて買収した拠点の一つ。
この拠点の極道達が従事するのは情報戦。
欺瞞情報をばらまき、味方に適切な情報を与える。
極道の勝利の為、重要な仕事に携わっていた。
故に相応に戦力が割かれており、彼方の御国やその他のDBも未だ攻略できていない。
ビルの内部では未だに激しい戦闘が続いていた。
「チッ……邪魔が多い」
苛立たし気に腕を振るう、武骨な面持ちの男。
骨の如き外骨格を纏うは阿修羅会側の番人。
\カカカッ/
| 悪魔人間 | 竪琴マコト | LV82(62+20) |
返り血──邪魔な所に居た下っ端極道の血に濡れた顔は不満気。
戦闘の高揚はあるがそれ以上に感情が出ていた。
(一対一の崇高な決闘……それには余燼が多すぎる)
竪琴が望むのは一対一の、どちらかが死ぬまで続く決闘。
レルム闘技場ですら生温い、極限の戦いは未だ味わっておらぬ。
加われば法が、倫理が、否定した行いが存分に可能だと言われたからこそ。
阿修羅会に加わり面倒な殺しをしてきたのに。
眼前の敵──仲間にはクサカベと呼ばれていた男は中々に良い。
だが最悪な事に仲魔を連れていた。
つまりは
その上仲間の眼鏡の女が
小細工を弄して戦いを更に貶めていた。
(つまらない……!)
インカムからの情報によると敵は召喚師が中心。
全く以て面白みが微塵もない戦場だ。
何処から響く、微かに聞き覚えのある断末魔。
敵は順調にこの拠点を攻略中なのだろう。
最早この場の趨勢は完全に相手側に傾いている。
逃亡せねば多勢に無勢で死ぬのみ。
(なんてつまらない連中だ!)
憤激しつつも竪琴は敵の位置を把握。
支援する女を殺せば逃走に丁度いいだろう。
おあつらえ向きにテトラカーンは無し。
実にいい頃合いだ。
「これ以上の邪魔をするな」
| 地獄突き*7 | 物理スキル | 敵1体に物理大ダメージを与え反射耐性までを貫通する |
渾身の力を込めた、マグネタイトを纏う拳の一撃。
燃費故に温存して物を本命でもない相手に使うのは不本意だが。
この場に至っては致し方なし。
(殺った!)
踏み込み、力を存分に乗せた拳。
それを────チヒロはするりと躱した。
「分かっていたら躱す事ぐらいできるわよ」
如何に鍛えた技と悪魔の力があろうとチヒロも又
すれ違いざまに身を投げ出す様に、そのまま前転。
| 暗夜剣*8 | 物理スキル | 敵単体へ物理中ダメージを2回与え、低確率で魔封状態にする |
| 火炎クリティカル化*9 | 魔晶効果 | 状態異常スキル | 火炎属性スキルでのクリティカルが発生するようになる |
| 火炎高揚*10 | 刀自動効果 | 火炎属性攻撃のダメージが大幅に増加 武器COMPの刀身を錬剣術で製造された刀身に換装する事で習得したスキル |
紅蓮真剣によって焔を宿した剣が、竪琴の肉体を切り裂く。
灼けた切断面はさながら烙印の如く。
片腕が飛び、外骨格の多くが砕け吐血。
精彩を欠いた動きは"魔封"された証。*11
「ぐっが、貴様、ら」
此処に至れば竪琴も気づく。
スキルか装備か知らないがチヒロの勘の良さ。
物理を明らかに誘って行動を潰したのだ。
それが一対一での駆け引きなら構わない。
だが連携による小細工など。
「何処までもつまらなく、不快だ……!
崇高な戦いを理解しないふざけた」
「ふざけているのはお前だよ」
竪琴の妄言を断ち切るのはクサカベ。
「確かに自身の命を懸け、全力を出す事に楽しさを感じる事もあるだろう」
例えばレーサーや格闘家、彼らは命を賭して挑み充実を感じている。
紛れもなく人の性であり、悪い事ではない。
「だが賭けるのあくまで自分の命だ。
勝手に他者の命を天秤に賭けて弄ぶんじゃない」
「人の命を軽んずるようになったら人間終わりよ」
クサカベに同意する様にチヒロが言葉を重ねる。
彼等は前の周回で、この世界で嫌という程人命が軽んじられる光景を見てきたが故に。
他者の命を軽んじ、生きるべきではないと思う。
「戯言を────!」
瞬間的に激昂し拳を振るう。
乱れた技が届くよりも早く撃ち抜かれ。
クサカベの一閃で首を転げ落ちた。
「これで阿修羅会側の警備戦力は壊滅か。
人間性はともかく厄介な奴だったな」
「LVは他の極道と段違いで技も鋭い。
思ったより時間がかかりましたね」
チヒロの顔にある擦り傷を見て、クサカベは魔石を渡しつつ奥へと視線を向ける。
この奥の電算室にはカンナが先行したはずだが。
「そちらも終わったか」
心配はどうやら杞憂だったようだ。
カンナは多少の装備に汚れは見えるが他の召喚師と共に健在。
従えた仲魔に石像を抱えさせていた。
先行していたカンナ達は主目的たる電算室へ迅速に侵攻。
配備されていた防衛戦力と激突した。
敵主力は武闘派悪魔人間のコッカトリス。
蛇に変じさせた両腕の不規則な攻撃にバステや状態異常。
厄介であり一人は首を飛ばされかけた程だ。
だが殺した。連携で厄介な両腕の攻撃を封じ、最期はカンナが的確に急所を撃ち貫いた。
後に残るのは今更になって喚きちらすハッカー共。
余計な真似をされる前に射殺するのは容易かった。
「確かHNはロボ太と言ったか。
奴ら側のハッカーは石化済みだ。
端末は可能な限り傷つけないでおいたがどうだ?」
「搬出用の車両はあと5分かかるそうです」
それまで多少私が見ておきます」
「なら俺は援軍の警戒だな」
クサカベが他の召喚師と共に部屋から出て、チヒロはカンナと共に端末の搬出と調査。
前の世界から戦い続けてきた彼らは流石に手慣れている。
帝都東京での決戦の最中、彼等彼方の御国の召喚師達も着実に役割を果たしていた。
街中に響き渡る金属音に、爆音に怒号。
霞が関に隣接する浜松町での避難も、戦いも終わっていない。
葛葉キョウジを始めとするDBの活躍により、早期に魔丞を始めとする阿修羅会側戦力を駆逐。
早期に比較的安定した状態を構築出来た事で、避難所の開設もスムーズに進んだ。
今も最激戦区たる千代田区からの避難者が送られてきている。
しかし、残存する阿修羅会側の戦力も目を光らせている。
元より弱者を虐げる事こそが生業にして本懐。
霞が関へ向かう避難者達は格好の獲物と見えた。
「チッ! 何処からかウジャウジャ湧いてきやがる」
「とは言っても通させはしねえよ!
くたばれ怪人共がァ!」
「実に私怨を感じるのであるな!」
阿修羅会に対するは
「七時の方向から敵悪魔来ます!」
「火炎ガードキルもう一度行くよ!」
愛する少女や妹の支援を受け、彼らは押し寄せる極道へ対処する。
また1体、腰から真っ二つにされた悪魔化ヤクザが地に転がった。
歴戦の彼等は強い戦意を以て凌ぎ、跳ね返す。
その勇ましさは遠からずこの区域における勝利を、見る者に確信させた。
奮戦によりヤクザ達は避難民に近づく事ができない。
警官隊の誘導を受けて避難所へ向かう。
──その背中へひっそりと近づく者がいた。
(避難してる人に近づけた。
近くにDBはいない。ならこれで……)
避難民の列に裏道から近づくのは年若い女性。
その目は期待に輝いていた。
(たくさん人を殺せる♡)
\カカカッ/
| 外道 | トキワコ | LV55(25+30) |
阿修羅会傘下の
トキワコは殺人、厳密に言えばものといきものの中間が好きである。
なので阿修羅会からスカウトされた時は嬉しかった。
自分でも自覚しているが顔がいいので処刑ショーとかの執行役とかに良かったらしい。
短いが充実した日を送る事が出来た。
最も働いていた闇闘技場は休みの日に潰されてしまったが。
それからはこの日に備え禁欲の日々。
ようやく欲望を満たせるかと思えば外はDBだらけ。
戦いなんて趣味じゃないのにあんまりだ。
(激しく沢山殺して名前を残さなきゃ)
流石にトキワコ自身も己の性が人間からかけ離れているのは自覚している。
でも良いのだ。この戦いが修羅界の勝ちで終わろうが負けで終わろうが関係ない。
今日自分が他の極道や悪魔に負けないくらい殺して、ネットの読み物にでもなれれば満足。
人間にはなれなくても物語になれれば幸福だと、心から思っていた。
だからトキワコは本性を現し外骨格を纏う。
狙うは自分と同じような女子供。
その方が
「止まれ!」
「え、いや、今更とまりませんよ?」
警官に銃撃され一瞬驚いたが、それはそれ。
丁度よさげな姉弟を狙おうとして。
「させませんわよ!」
武器を振るう前に、自分とそう年の変わらない艶やかな髪をした少女に阻まれた。
\カカカッ/
| 悪魔召喚師 | 弥勒夕海子 | LV51 |
若草色の
当然阿修羅会やその他不審者への対応は職務の範囲内。
トキワコを見つけ迅速に割って入ったのだ。
少女の乱入にトキワコは悲しくなった。
明らかに戦い慣れた気配。
これは自分の獲物になってくれない。
「ああ、どうして世の中は私に厳しいんでしょう」
もっとこう、拘束された人間が一面ずらっと並んで、自分は後刃物を振り下ろすだけの様な。
そんな素晴らしいシチュエーションはこの世の何処かにない物か。
「頭おかしい人間の戯言は聞き飽きましたわ!」
「あ、わあっ」
襲い来る銃撃、小銃によるそれはトキワコを傷つける事はない。
「そうだ、今の私銃効かないんだった」
トキワコの合体した悪魔は幽鬼マンイーター*12。
銃や氷結が無効等、多くの属性に耐性を持つ。
忘れていたがこの場においても有効なはず。
何とかこの少女のガードを搔い潜って人を殺そう。
そう思い強化された身体能力で壁を蹴り、獲物の列へ接近せんとして。
トキワコは返礼の刃に切り裂かれた。
「そう簡単に逃がすと思ったの?」
≪ギロチンカット≫*13
「痛……!」
左腕を深く切り裂く刃は銃剣による一撃。
奮ったのは勝気そうな少女。
確固たる修練を伺わせる動きで振るったのだ。
「物理弱耐性確認! さっきの奴と同じタイプかも!」
「なら火炎か衝撃ですわね!」
的確に連携する二人の防人。
他方トキワコは動けない。否、動けない。
(こんな、簡単に動きが……!?)
雑多な群れですらなく単独で動き、判断は遅く、欲望へ囚われ敵への警戒を怠った。
その報いは皮肉にも理想の如く、身動きできない状態で最期を待つだけの状況。
成程トキワコは異常者であり殺人鬼である。
常人からすれば極めて恐ろしい存在だ。
しかし悪魔業界の過酷な戦いで異常性等なんら勝敗に寄与しない。
互いが完全に死ぬまで動きを止めない修羅の闘争が常となる故に。
勝ち抜くために必要なのは浅薄な狂気ではなく、修練と連携が故に。
「コイツはこのまま私が処理する。
弥勒さんは溢れてきたスイコを!」
「了解ですわ! わたくしのメデューサと共に電撃中心でいきます!」
戦場を広い目で見て、部下に指示を出し、仲魔と共に戦う。
地味な裏方だろうと関係ない、鍛錬を絶やさず仲間と共に任務を果たしてきた証。
今日も又帝都にて少女達は闘い続ける。
夕海子はかつての周回で色々あった、今は仲間のレイを。
もう一人の少女、
今何処で戦っているのだろうと思いつつ。
仲間にも民間人にも、死者を出さない事を第一に。
────少女達の誠実さはこの度も報われた。
混沌の奇禍事変による非合法レルム及び極道を中心とした膨大な死者・行方不明者。
後に第三のセプテントリオンの惨禍に飲み込まれた犠牲者の中に。
防人を冠する部隊の少女達の名が刻まれる事は、無かった。
「テメェおガ、ギャッ」
「護国のクソ共……が!」
怨嗟の声と共に地面へ崩れ落ちた。
霞が関の路地に、広がるのは罪に汚れた薄汚い血。
ザナドゥ・ユニオンに属する闇召喚師達の末路。
「周囲のエネミーサーチは
悪魔も極道も大体倒し終えたかな」
「そのようね」
敵の血を振り捨てつつ、レイとロゼは短く言葉を交わす。
渋谷の魔丞戦を終えた二人はまだまだ戦闘可能。
故にリコリスの運転する車両で霞が関へ移動。
そのまま戦列に加わった。
「HQ、霞が関全体の戦況はどう?」
『HQよりサマナー01へ。
んー悪くはないと思う』
レイ達の傍に浮く球体はハレ謹製のドローン。
情報支援を行う彼女が寄こした機体は強力な通信機能を備えている。
その他にもEMPやカメラ等の機能もあるらしい。
実にハレらしい仕様のドローンである。
『三大化骸はすべて倒されて眷属の悪魔もほぼ壊滅。
魔丞も過半数が討伐済みだって凄いね』
そう、戦局はおおむね秩序側が有利だ。
『だけど霞が関地下に向かった阿修羅会の主力はまだ壊滅してない。
それと新世塾の抑えに回った奴等が霞が関駅近くに戻ってるって」
霞ヶ関駅周辺の戦況は先程と様相を変えている。
三大化骸とトップDB達が戦う隙をついて、阿修羅会の増援が浸透。
負けじと秩序側も増援を送り込んだ。
その結果三大化骸討伐直後より、霞が関駅周辺で第2ラウンドというべき戦いが始まっていた。
レイ達より先に雨柳達も駅周辺に辿り着き抗戦を開始しているらしい。
なお、交戦しているのは阿修羅会主力ではなくその傘下の勢力が中心のようだ。
「今倒したザナドゥ・ユニオンとかだね」
ロゼが顔をしかめる。
先程の奴等は実に口汚かった。
「阿修羅会についたダークサマナーの集まり……。
どいつもこいつもろくでなしとは聞いていたけど此処まで下衆だとはね」
ロゼの言葉に同意しレイもふん、と鼻を鳴らす。
かつての世界で相対したファントムの召喚師の多くより質が悪い。
事前に聞いた評判に違わない醜悪さだ。
────ザナドゥ・ユニオンは、良く言えば新進気鋭、悪く言えば成り上がりのサマナーが集まった組織である。
組織の設立は十年前のバブル期に遡る。
悪魔召喚プログラムの流通に、悪魔素材への投資による大量の資金流入。
そんな時勢のせいか、当時悪魔業界に参入する者達は多かったらしい。
ある者は志半ばで斃れ、ある者は護国なりメシアガイアなりに合流した中、一部の召喚師達は独自に寄り集まるようになった。
歴史があり知識や戦力を揃えた組織に対抗するには、協力しなくてはならない。
自明の理により結成された組織の一つがザナドゥ・ユニオンだったと言う。
無論それ自体は悪い事ではない。
だがザナドゥ・ユニオンの召喚師達はあまりにも己の欲に忠実だった。
悪魔業界ですらある倫理道徳、を躊躇なく踏みにじる程に。
古ければそれ故の歪みもあるだろう。
だがなまじ才覚がある故に、悪魔業界の理を無視した者達。
彼らが集まり、悪性を増していった。
人身売買や薬物を始めとする違法物資の取引、更には構成員が各自に行った各種犯罪の隠蔽。
やりすぎた事により一度忍者によって壊滅させられるも、しぶとく政財界との繋がりを持ち、この半年の動乱でも命脈を保った。
その果てに阿修羅会傘下となり今日この日も被害を出している。
彼らの欲望の犠牲になった者は多いはずだ。
「今日で引導を渡してやらないと」
「逃がしたら何してかすか分からないしね」
主戦場たる霞が関地下の支援の為にも、迅速に排除すべき敵。
レイとロゼが歩調を早める中、ハレがあ、と声を上げた。
『二人共急いだほうがいいかも。
レイブンさん達が敵のボスっぽい奴と接触したよ』
◇
霞が関のホームは最早戦場以外の何物でもない有様だった。
大量の血のりに装備や機械の残骸。
無惨さを上書きする様に、更に死体が転がった。
「────ったく足止めも出来ねえのかよ。
折角阿修羅会の旦那方が来てるってのに」
煩わし気に振り返るのはペストマスクの男。
新世塾の兵士らしき頭部を放り捨てた。
「カラス共を挟み撃ちにしようってのに、ヤなタイミングだよなあ」
顔覆うペストマスクの先、降りてくるのは雨柳。
仲魔とアイリスに礼一郎、彼等と共にまだ戦い続けていた。
「見た感じザナドゥ・ユニオンの悪魔使いか」
「如何にも。俺はザナドゥ・ユニオンの
一応だが組織の総領をやっている」
礼一郎と雨柳は目くばせ。事前情報の通り。
組織毎阿修羅会へ与しているようだ。
「能書きはイイからさっさとやろうぜ。
外と違ってここにはつまんねー物しかないからな。
さっさと奥でお手伝いと行きたいんだよ」
「外と違って?」
訝しむアイリスに、カイリンは気取って手を振り応えた。
「そりゃあ楽しいさ。
東京のど真ん中での悪魔と覚醒者の特大規模の殺し合い。
選ばれし者達のマジカルパーティナイトって奴さ」
「人が死ぬのがそんなに楽しいか。
噂通りの下衆だな。
聞いてるだけで程度の低さが分かって来るぜ」
雨柳の目には特大の軽蔑。
ザナドゥ・ユニオンがここ半年近くの動乱で行った数々の悪行。
多岐にわたる犯罪で目立つのはメシア穏健派や地方勢力に対する襲撃。
悪魔業界基準でも醜悪と言える人や物の略奪。
反撃で被害を出しつつも、己等の欲望を満たす為執拗に行ってきたという。
そして近頃阿修羅会の傘下になった後も行状は変わらず。
むしろ計画性を増して続けられた。
(奴等は愛里寿様にすら手を出そうとした最低のド外道です。
慈悲も人間扱いも必要のない相手でしょう)
作戦前のブリーフィングで、珍しく殺意に満ちた目でアイリスは言っていた。
彼女達が防いだ島田家長女の誘拐未遂、それ以外にも行ってきた反吐が出るような犯罪を悪びれる様子もない。
「ハハハッ育ちの悪さは良く知ってるさ。
…………だからかね、好きなんだよお嬢様とか」
にやにやと笑うカイリンに隙は無く、されど大仰に告げる。
「誰でも
そう言う人間を犯して、貶めて殺して、そういうのが楽しいんだ」
あまりにも浅ましく、純度の高い悪性。
それが己だとカイリンは誇っていた。
「この先にいるのはヤタガラスの精鋭で聞いた感じ雌餓鬼らしいな。
だから楽しみでなあ。オーバーホールの旦那と」
「そうかそうか、お前はそういう類の生き物か」
雨柳が厭わしい言葉を遮った。
成程、敵は阿修羅会の手によって強化されている。
恐らく生半可な相手ではない。
だが、その有り方はありふれた、薄っぺらい物だ。
「お前さ、人を笑って殺せて、平然と奪い犯せるのが優れた証だって思ってくる口だろ?
10年前からよく見て来たよそういうマヌケは」
「ああ?」
その悪性は雨柳からすれば既知の物。
警戒はともかく恐れる必要などない。
「お前達みたいな
自制心も共感もない人間未満が掴めるものかよ」
当然の摂理だと雨柳は侮蔑を込めて告げる。
「雨柳様と右に同じです。
投降しないならこのまま死んでもらいましょう」
「これ以上構う価値もない相手だしなあ」
アイリスと礼一郎もまた軽蔑と共に構える。
元より交渉の余地はない相手。
さっさと潰して先行組の応援に駆け付けるべきだろう。
「……言ってくれるじゃねえか雑魚共。
お礼に蘇生も出来ねえやり方で嬲り殺してやんよ!」
「あいにくお前と違って待つ人のある身でな。
スマートに始末して残りも片付させてもらう」
カイリンと雨柳は同時に構える。
対照的な悪魔使役者は精神を研ぎ澄ませ。
使役悪魔が、共に戦う仲魔と仲間が指示を待つ。
ダークサマナー、さらに英雄の魂を持つ少女が阿修羅会の棟梁と相まみえるのとほぼ同刻。
霞が関駅にて、デビルサマナーとダークサマナーが相まみえる。
まるで忍者と極道の如く、両者は名乗った。
次回は阿修羅会篇のラスト、8月中には投稿したいと思います。