真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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ガイア再生機構戦の導入となる話です。
今回雨柳は意外な人と会ったりします。


寒月の戦への前奏曲

<混沌の奇禍>から数日後、街から阿修羅会側の勢力は駆逐され、人々は日常を再開しつつある。

 

 とは言え事件の衝撃は大きい行きかう人々の顔にはどこか不安が、異変に備える重装備の警察官の顔には緊張が見られた。

 損壊した建物や設備の撤去もまだ始まったばかりで、さながら消えない傷跡の様。

 総じて人々が本当に日常に戻るには────直近に控えるセプテントリオン戦への対処も含めて、まだまだ時間がかかると思われる。

 

 それでもDB達は決戦の後始末や今後の準備、あるいは予期せぬ事態への備えを続けている。

 当然その中には護国関係、ひいては彼方の御国のメンバーもいる。

 しかし人間である以上休憩時間は必要な訳で、年少者を中心にローテで休息を取っていた。

 ロゼも今日は雨柳の事務所で休息中だ。

 

「ロゼちゃんご飯作ったけど大盛の方がいい?」

「大盛でお願いします」

 

 今夜雨柳は人と会う用事があり、レイは千束と異界調査。

 雨柳事務所周辺のDBも多くが出払っている事もあり、彼方の御国の事務所ではなくこちらで待機していた。

 万が一の事態への備えという訳だ。

 

 最初は戸惑ったが雨柳の事務所に泊まるのは初めてではない。

 これまで遅くなった時や留守番代わりに宿泊した事もあり今では慣れた物だ。

 

「食後のデザート用意しておいたからね。

 喉つまらせないように気を付けて食べてね」

「昼の内にお布団干しておいたからね。

 気持ちよくフカフカになってるよー」

 

 それにロゼを可愛がって世話を焼いてくれるお姉さんが三人もいる。

 

(皆いい人達だなー)

 

 ちょっと前から親しくなった御影以外にもこのビルには三人女性が住んでいる。

 金髪でギャル(快活な)あかりに、礼儀正しい姉の奏と砕けた印象の響の双子。

 三人共大体高校生位の年齢らしいが、突然出てきた自分達に良くしてくれている。

 

 最近は三人共社会復帰しつつあり、料理学校に行き始めたり道具作りを学び始めたりと色々やる事があって忙しくなったらしい。

 それでもこういう時にレイやロゼの世話を焼いてくれる親切な人達だ。

 最初は双方遠慮があったが今では親戚のお姉さんの様な関係にまでなっている。

 

(おじさんと仲良しなのも分かる気がするね。

 ……レイは最初おじさんに"絶対零度"してたけど)

 

 ではるが、この三人へはともかく雨柳へのレイの対応は無慈悲だった。

 

 この世界へ来て暫くして、ロゼがレイとこのビルに来た時の事だ。

 スクルドをお供に帰ってきた三人とバッタリ鉢合わせしてしまったのである。

 

 三人を一瞥したレイは挨拶をすると、雨柳にこう告げた。

 

『ねえレイブン。この方達私の幾つか上……高校生位よね。

なのに一緒に住んでるんだ』

 

 氷点下の声で告げるレイに、雨柳は青ざめ。

 

『いや……その……色々とあって、さ』

 

 "小さくなる"を使いなんとか逃れようとするが。

 

『レイブン、正座』

『ハイ』

 

 レイの容赦なき"見破る"。

 後は……悲惨であったとしか言えぬ。

 

(あれは恐るべき体験であった……)

 

 ロゼにとって雨柳は世話になっている親切なおじさんである。

 悪魔召喚師としての腕もキリギリス屈指でロゼもよく参考にしている。

 

 だが近くに自称ダクサマ(もっと凄い人)がいるせいで目立たないが、えっちなおじさんである事に違いない。

 詳しい事を聞くと塩をかけたナメクジになりそうなので聞けてないけど色々とは何があったのだろうか。

 

(その上脳破壊って……なんだろう?)

 

 詳しくは今忙しい盛りの銀ちゃんに聞くほかない。

 

「そう言えばロゼちゃん、アイリスさんともう話した?」

「レイの方が話してるけどいい人ですよー。

 僕みたいな子供にも優しいですし」

 

 一部疑問を挟みながらも少女達の夜は更けていく。

 

 

 


 

 

 

 都内の下町の一角にある和風喫茶リコリコ。

 店の売りは上品な和風の内装とマッチした上質な珈琲に甘味。

 それと美少女の看板娘。

 大繁盛とまではいかないが安定した人気のある店である。

 

 夜を迎えCLOSEの掛札がかかった店は、まだ店員が残っているのか照明が灯っている。

 中でテーブルを挟み、杯を片手に向き合っているのは近い髪色の少女二人。

 

 異界の調査を終えて戻ったのはレイと千束、彼方の御国とリコリスのエースである少女達。

 

「……そう。こっちの真島も死んだのね」

「LV高い分大分手こずったけどさ。

 最後もう一人にシュートしたらやーらしいネバネバになったね。

 いやあアレはえぐかった」

「ぱっと見強いからって外法に手を出す物じゃないわよね本当」

 

 肩の荷を降ろすかの様に息を吐き、レイは珈琲を口に運ぶ。

 程好い苦みが茶菓子とマッチしていて美味しい。

 千束の保護者だというミカ氏は余程珈琲を淹れる腕が良いのだろう。

 

「レイの世界()でもバランスを取るんだーとか言って大暴れしてたんだ?」

「私が物心つく前の話だけどね。

 先輩方から悪名は良く聞いていたわ」

 

 あの男はかつての世界でも、この世界でも無様に死んで終わった。

 だからといって引き起こされた死と破壊はなかった事にならない。

 そしてそれはレイにとって決して他人事ではない。

 

(何せアイツはレイブンが刀を置いたガイア過激派の動乱、その首謀者だったもの)

 

 レイがかつて生きていた世界でも真島は動乱を引き起こした。

 ガイア教大幹部になり、穏健派を粛清後組織の実権を握り既存社会の破壊を宣言。

 自身の手勢のみならず魔人や、かつてのファントム最凶(シド・デイビス)の遺志を継ぐとして一部ファントムの召喚師までも引き抜いた大攻勢をかけた。

 日毎に積み上がっていく犠牲者と破壊は甚大で、ヤタガラスでも多くの戦士が死亡。

 最終的に葛葉マンゲツが真島以外の幹部を、雨柳(レイブン)が真島を倒した事で何とか鎮圧した。

 

 しかし失った物、事件の悪影響は大きい。

 真島による武器COMPの拡散による粗製サマナーの乱立に、戦死した構成員の穴埋めや、テロによる社会不安。

 さらに()()()()()()()()()の後、英雄たるレイブンは摩耗して刀を置いた。

 そうして失意の中こまどりで子供達の面倒を見初め、レイと出会った訳だ。

 

(今の政府もヤタガラスもあの時より遥かにまとも。

 それこそ比べたら失礼なくらいだけど……ガイア系の乱って嫌な事をつい考えちゃうわ)

 

 苦みを飲み下す様に茶菓子を食べ、再度珈琲を口にする。

 今は味に集中すべきだろう。

 こんな美味な物をあんなテロ屋の事を考えながら等と勿体ない。

 

「ま、あのろくでなしの事はいいわ。

 所でここ数日DDCの方除けてないけどどう? 

 結構荒れてる?」

 

 話題を切り替えて問いかけてみる。

 すると千束は納得したようにスマホを取り出す。

 

「皆セプテントリオン(アレの件)は流石に動揺してるみたい。

 たーだ三回目になると割と落ち着いてる人も多いかな。

 漂流者とか……ちょっと騒いでる人もいる感じ」

 

 言葉を濁したのはやや不振に思える内容、逃亡や政府への抗議に誘導する内容。

 ある程度事情を知っていれば不自然に思える程度には多い。

 

「緊張する気持ちはわからないでもないけどね。

 顔が見えない分真意が分からないってのは良し悪しだわ」

「しっかしレイの師匠凄い高評価だねー。

 キリギリス最強議論で話題に出てるよ」

 

 ほらと千束が見せたのは昨日書き込まれていたDDC内のスレ。

 セプテンから話題が逸れ、そのままキリギリス内の腕利きへ話題が移り。

 最終的に数名のDBが最強候補として名を挙げられていた。

 

 異質魔法を操り強大な仲魔を従える久遠フェイ。

 

 大悪魔を斬り魔人とも渡り合う剣士八瀬宗吾。

 

 技研に属する逆襲の野生児琴葉ジエン。

 

 元ゲイリン候補筆頭の管使い雨柳巧。

 

 レイ自身話した事はまだないが、同じ作戦に参加したり遠目に戦いを見た彼等三人。

 彼等と並び強者と語られた雨柳はかつてレイの師匠であり、この世界でも幾度なく共闘している。

 

 無論葛葉キョウジ等組織付の最精鋭は除外されており、DATの新人やラスキン老、シロエ等その他にも話題に上がった者もいる。

 しかしそれでもこの4人は幾多の戦いを得て、キリギリス内で評価されていた。

 

(んんー……複雑ね)

 

 師匠が注目されて嬉しいという気持ちもある。

 ただ注目は良い物だけでなく、悪い物も引き寄せるのが世の常だ。

 雨柳がまた名を得てどうなるかは分からないのだ。

 

「……思った以上の高評価ね。

 LV80越えってなるとキリギリスでもかなり強いんだ」

「おおー富士山の様な高さだ。

 弟子としては鼻が高い感じ?」

「まあこれで普段からもっとシャキッとするといいんだけどねー」

 

 今の雨柳はレイの知る雨柳と殆ど同じ人間性。

 だけど女関係は独り身だったあの時と随分違う。

 

(まさか舞弓博士と事実上結婚しているなんて、ね。

 あの人とは一度か二度あった位だけど)

 

 それ以外にもなんかJKは3人いるしまだ会ってはいないが仙台にも汐音(通い妻)もいる。

 

『確かにあの男は、どんなやつにも親切で

ハリウッド映画のヒーローみてえな態度で

女をひっかけては、勘違いを深まらせる迷惑な奴でしたが……』*1

 

 等とも評されていたがいざこうなると驚きで一体どういう事だと言いたくなる。

 

「キリギリスだと脳破壊芸人として定評があるし。

 Jkから幼馴染まで囲うハーレム人間になってるしで、どうなっているのかしら」

「人間生きてりゃ色々あるって事じゃない? 

 だけど私はだめだぞー。

 ダーリンいるからね❤」

 

 にへへへと笑う千束を、レイはそっと制止する。

 

「迂闊な言動は脳破壊に繋がるからやめて。

 思わぬ所に影響が────」

「……!」

 

 レイも千束も気づき振り向く。

 席の近く、ドアの向こうの気配に。

 醸し出されるじっとりしたオーラに。

 

(た……たきなっ)

 

 JCのみならずJK関係でも脳破壊される者は、確かにいるのだ。

 具体的には千束の相棒であるたきなとか。無惨。

 

 

 


 

 

 

 帝都の繁華街の一角にひそかに営業を続ける店がある。

Clubクレティシャス、この店の扉を開く者はそう多くない。

 悪魔に絡んだ依頼がある者か、あるいは悪魔を従える召喚師か。

 

「ようこそお客様」

 

 悪魔を模した石像が飾られた店内で客を迎えるのは黒衣の麗人マダム銀子。

 深みのある男性の声音をした女主人は穏やかで理知的な人柄で信望を集めており。

 それでなおその立ち居振る舞いは洗練され隙がなく、宿す力の程を思わせる。

 

「お待ちしておりましたわレイブン」

「お久しぶりですマダム」

 

 マダム銀子に迎えられたのは雨柳。

 長身をかがめ、丁寧に頭を下げる。

 

 雨柳はマダム銀子と以前より面識がある。

 ヤタガラスを辞めたと言っても葛葉一族の端くれ。

 刀を取り再起した後も何度か依頼を受けていた。

 

 最近────レイを始めとする彼方の御国が来た後は会う機会もなかったが、相手は帝都ヤタガラスの特別顧問の様な存在。

 一体何者なのだろうと思う時もあるが、自身が礼を尽くす存在である事には変わりはない。

 

「帝都ヤタガラスからの書類です。

 お確かめください」

「相変わらず優秀な事務の方が揃っていますね。

 実に良い事です」

 

 悪魔組織であると事務等後方の動きは当然重要。

 古来より後方をおろそかにした組織が生き延びた試しはなし。

 LVが高かろうと才能があろうと彼等に敬意を払えねば腐るだけだ。

 

(しかしこの方も忙しいだろうに何故俺を呼んだんだろうな? 

 今回も依頼がありそうだが)

 

 今回クレティシャスに来たのは帝都ヤタガラスからの情報の繋ぎ。

 なお他の人員が多忙な事もあるが、雨柳が選ばれたのはマダムの指名らしい。

 

「富士山の一件は些か気がかりですが、阿修羅会の一件も順調に処理が進んでいるようですね」

「ヤタガラスや自衛隊、多くのDBが戦った甲斐がありました。

 俺が知る限り彼方の御国の召喚師も良く戦っていましたよ」

「ええ、実に見事な戦いぶりでした」

 

 雨柳の言葉をマダム銀子は首肯する。

 事実彼方の御国の召喚師達は大きく力を増した。

 レイもロゼも今やLV70前後。

 見違える程に鍛え上げられた。

 

「レイブン、貴方はレイとロゼをどう思います? 

 あの子達がこの世界に来てから見守ってきた貴方は」

「見守って来たという程ではありませんが……そうですね、二人共善良な子でとても優秀です」

 

 雨柳の二人への評価への評価に嘘はない。

 

「LVが高くスキルや悪魔が強化されただけじゃない。

 学んだ知識をうまく活用して、前はいなかったペルソナ使い等の異能者とも連携。

 今の異常で過酷な戦況にも対応できています」

 

 病院防衛戦に始まり、新世塾の基地襲撃でも渋谷での阿修羅会と魔丞相手の戦いでも、二人は果敢に戦い戦果を挙げた。

 激戦で成長し新たなスキルを得て、さらに仲魔を強化しこれからも強くなっていく。

 JCビルの少女達同様将来有望で可憐な少女達だ。

 

(俺が師匠面出来るのはいつまでになるんだか。

 ……セプテン全部倒し終える辺りにはもう追い抜かれてそうだな)

 

 恐らくその時が来るのはそう遠くないはずだ。

 直に自信を追い抜くと雨柳は予測している。

 

「成程貴方の目からみても優秀だと。

 それにしてもあの子達を随分と気にかけているようですね」

「初めて会った時は面食らった物ですが……。

 今は俺が必要なら多少の事はすべきかと」

 

 ただと前置きして雨柳は言葉を紡ぐ。

 

「こんな時代じゃなかったら、学校に行っていて欲しい所です。

 力を持った子にはいつの時代も難しい話ですが」

「子供達には平和で楽しい生活を送って欲しいと?」

「甘いかもしれませんがそれが良く生きる為に必要だと思います」

 

 雨柳と彼女達を比べるのは間違っているのかもしれない。

 しかし悪魔業界で生きるからこそありふれた思い出や、力に関係なく親しい人間。

 生きる礎となる諸々が人を支えるのだ雨柳は考えている。

 若い二人にはそうする機会があっていいはず。

 

「ただでさえ人死にが多い業界だからこそ、人並みの幸福はあって欲しいですね」

 

 ここ数年の異変で悪魔業界人は多数の死者を出したが帝都ヤタガラスも例外ではない。

 シュバルツバースでのライドウ・ゲイリンの死亡を皮切りに、東京封鎖に霊脈の活性化、更にはファントムソサエティを始めとする勢力による総攻撃。

 結果として戦闘員の多くを失い幹部もレベルダウンで弱体化。

 更には戦線維持の為育成予定の子供も前線へ出す事にすらなった。

 

(……まさか轟のおっさんまで戦死したとは、な)

 

 帝都ヤタガラスの実質的トップに次ぐ炎使い、それ以外にも雨柳の知る者達は何人も鬼籍に入っている。

 過酷な状況を傍観していた自分が今更表舞台に立とう等思い上がりもいい事。

 護国を語る資格等ないが、少女達や知り合った者達の幸せの為、自分にも出来る事があるならやるべきだろう。

 

「以前よりも随分と前向きになりましたねレイブン」

 

 そんな雨柳の言葉を、マダム銀子は笑わなかった。

 

「奪い壊し愉しむ為ではなく護る為に戦う時力になるのは、周りの人と過ごした日常の記憶。

 機械の如き護国の刀剣ではなく人として戦い生きるなら必要な物です。

 それが理解できている貴方は良き出会いがあったのでしょう」

「ええ。今も昔も……周りの人に恵まれています」

 

 雨柳はふと、マダム銀子もそうだったのだろうかと思った。

 長い戦いの中、周りの人に支えられた経験があったのだろうかと。

 

「ならばこれからも周りの人を大切に。

 ……さて、そろそろ仕事の依頼に入りましょう」

 

 マダム銀子が差し出すのは依頼概要が書き込まれた書類

 

「レイブンにお任せしたいのは京都ヤタガラスからの依頼。

 場所は北海道となります」

 

 依頼の内容は複数の勢力での合同となる物。

 実に油断ならない戦場になりそうであった。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

「二人共気をつけてな」

「レイブンも気を付けてね。

 多少落ち着いたといえまだまだ荒れてるから」

 

 マダム銀子と会った二日後、朝方の東京で雨柳はレイ達と言葉を交わす。

 今日から雨柳は依頼の為北海道へ赴き、レイとロゼは今後の戦いに備えた準備。

 お互い忙しい身だが出発前に会っておこうといった所だ。

 

「僕から貰ったロールケーキ渡しておくからねー」

 

 ロゼが手に持つのはロールケーキの包み。

 先日マダム銀子から帰り際に渡されており、一つは当代ゲイリンへと頼まれていた。

 大正時代から続く店の品で彼女や彼女の親類も好んでいるらしい。

 ならばこれから同じ拠点へ行くロゼ達に任せた。

 

「ああ頼む。あの子にもよろしくな。

 お土産を楽しみにしておくんだぞ」

 

 よし、じゃあねと手を振る二人に振り返し雨柳は駅への道を進む。

 新幹線の時間まで余裕はあるが、到着が早いに越した事はない。

 

(今回も厄介な事になりそうだ。

 鬼が出るか蛇が出るか)

 

 マダム銀子を通じ京都ヤタガラスから受けた依頼は、北海道に逃げ込んだ旧京都ヤタガラス残党の捕縛若しくは掃討。

 

 北海道に逃れた残党は旧京都の重鎮たる蔵前の分家であり、最近の調査の結果様々な悪事に加担してきた事が明らかになっている。

 また奴等は京都脱出時に多くの貴重な魔道具や資材────取り分け造魔関係の物品を持ち出していたらしい。

 更にはここ数日、北海道では彼らの係わっていると思しき阿修羅会関連の施設への襲撃が多発。

 赤玉狙いの犯行に対して、回収及び破棄を行っているメシア穏健派や黄金の花園、ロゴス製薬は懸念を示している。

 

 複数組織の折衝の結果セプテントリオン戦が近づく中ではあるが、放置は出来ないと判断。

 キリギリスと帝都ヤタガラスを始めとして何人かのDBが送り込まれる事となり、その中の一人が雨柳という訳だ。

 

 幸いにも拠点の場所はある程度特定さされているようだ。

()()()()()()()()()()()()()があったようだが一体誰による通報なのか。

 気にはなるが不測の事態に備えつつ戦うのが雨柳の仕事。

 きっちりと果たすのみである。

 

 襲撃を警戒しつつも足早に5分ほど歩くとすぐに駅へ着いた。

 先日の事変の影響を受け減便しつつも今日も駅は利用者で賑わっている。

 

(っと、やっぱ早く着きすぎたか?)

 

 駅近くの集合地点についたがまだ見知った顔は誰もいない。

 他にDBらしき雰囲気の者もなし。

 荷物を下ろして、少し待とうと思った所で。

 

「あのー……もしかしハンドルネーム<くぅん>さんですか?」

 

 問いかけてきたのは金髪の、まだ二十歳に満たない年頃の少女。

 

「ああそうだ。そう言う君は……<しゅばるつ>か?」

 

 雨柳が口にしたのは今回推薦されたDBのハンドルネーム。

 これまで主に西日本で活動していたらしいが、事前に聞かされていた特徴と合致している。

 

 雨柳の知る多くの女性DB同様に彼女は美しい。

 陽の色が映える金色の髪に、柔和で可憐な面持ち。

 碧眼は良質なエメラルドの如く輝いている。

 黒色の割合が多い衣装はハンドルネームの理由だろうか。

 

「はい! ハンドルネーム<しゅばるつ>です!」

 

 少し恥ずかし気に、少女は豊かな胸を張って雨柳を見上げた。

 

「今回の依頼ではよろしくお願いします!」

 

「ああこちらこそよろしく頼むよ」

 

 にへ、と雨柳を見上げる少女の目はじっと雨柳を見つめている。

 

(何だろうなこの子……? 

 悪い子じゃないだろうけど距離が近くないか?)

 

 少女の動きには多少、違和感を感じる。

 何か理由があるのかもしれないがやや不自然だ。

 現在行方不明中の自称ダクサマ(あの男)ならともかく。

 自分を慕ってくる女性は複数いるが、うまい事ばかりあるはずなし。

 

(ん? いや待てよこの子────あの時の子と似てないか?)

 

 雨柳の脳裏に引っかかるのは今から5年近く前の記憶。

 シュバルツバースにおける知古の喪失による罪悪感に、溺れていた頃。

 悪魔召喚プログラムを悪用した者達から、偶然助けた少女に似ているような気がした。

 

(いや、そんな訳ないか。

 髪色は同じだけどあの時とは大分体格が違う)

 

 思春期の子供の成長は早いが、記憶の中にある少女と大分違う。

 あの時助けた子、確か名前は。

 

「ちなみに、ですが」

 

 何て事を考えていると、少女が口を開く。

 

「私の名前は忽那光織(くつな ひおり)です」

 

 それは、雨柳が思い浮かべていた名前と同じで。

 

「今回は仲間として――――よろしくお願いしますね<ニッカリ>さん❤」

 

\カカカッ/

顕現者/魔術師忽那光織LV63備考:雨柳に助けられた事がある

 

 今回共に戦う事となる強力な魔術師は。

 かつて雨柳が名乗った偽名を知っていた。

 

「…………マジか」

 

 過去に追いつかれたおっさんとしては、そう呟く他はない。

 

 

 


 

 

 

 北海道の某所、山間の地。

 

 主要都市からはそう遠くなく、されど訪れる者がそういない村は奇妙な賑わいを見せていた。

 古民家と真新しい家が並ぶ中には偽装された監視装置が配された違和感のある有様。

 村人らしき人々は張り詰めているか、あるいはどこか熱に浮かされた面持ちをしている斑模様。

 

 そんな村の奥には舗装された道路の一本道が続き、一台のトラックが通っていく。

 道の先、山に直結されているのは頑強そうな建物。

 真新しい施設は無機質にトラックを迎え入れる。

 

 この地にある大型異界、<寒月大氷穴>に直結された、欲望の獄へと。

 

「ロウドウ、ロウドウ」

「分かった! 分かったからもう殴らないでくれぇ!」

「おい……こいつもう死んで」

 

 重厚なヘルメットに労働者姿の人造悪魔(デモノイド)が行きかい、鉱物の採掘や研磨を行う。

 それだけなら自動化された施設だがデモノイドに見張られるのは生身の人間達。

 体のあちこちにあざを作り、過労でやつれ切った彼等は必死に労働に勤しむ。

 こと切れた者を、使い終えたチリ紙の様に放置したままで。

 

「14番はもう駄目だな。北のメシアン共は本当に使えない」

「あの方から仰せつかった実験に使えないか?」

 

 生臭い匂いが漂う隔離棟、()()()()()()()()()()()()で管理者達が当然の如く非道を話す。

 彼等にとって自分達の人間、この施設の虜囚は人に値しないのだ。

 

 彼等が行っているのはこの地にある異界での資源採掘事業。

 この地を治める家が音頭を取って行っている事業であり、着実に収益を上げ彼等を潤している。

 

 無論GP上昇とセプテントリオンで進退窮まったガイア系の家が出来る規模の事業ではない。

 施設の建造も、デモノイドを始めとする各種技術も、異界の攻略も全ては彼等に手を差し伸べたある組織がかかわっている。

 

 施設の中を歩くのは二人のDB、銃を腰に吊るした男とチェーンソーを始めとする重装備の男。

 傲然とした雰囲気の彼等はこの世界の人間ではなく、ある組織に所属している。

 

 寒月大氷穴と付随した施設の、真の支配者はガイア再生機構。

 世界崩壊からの昇格者(エターナル)を擁する組織である。

 

「おいそこの、リーダー見なかったか?」

「っはい! 今は自身の御部屋へ戻られているかと!」

「ああそう」

 

 礼も言わずに二人は通路を通り居住区へと歩く。

 一際厳重なドアを開き、中へと入った。

 

 山の一部をくりぬき創られたのはエターナル専用に整えられた家々がある居住区。

 天上がある事を除けば住宅地の様な場所を歩いていくと────ドアが開いた。

 

 出て来た、否蹴り出されたのは全裸の少年。

 汗と体液に濡れ、息も絶え絶えに痙攣している。

 

「肌の色的にあっちの方のメシアンか? 

 最近北海道でもちんけな陰謀していたらしいしよ」

「じゃねえの? しかし酷い有様だな。

 私は元メシアンだから道場……しないなロバだし」

「だよなー」

 

 二人は特に同情も見せず、少年を蹴り転がしインターフォンを押す。

 

「リーダー、下の異界の事ですが悪魔の分布やっぱ()()()と変わっていましたよ。

 一応まとめておきましたけど見ます?」

『あー後で見るわ。今苛ついてるんだよね。

 転がってるの雑魚くて不満でさあ』

 

 DBの一人がメモリデバイスをボックスに入れる中、聞こえるのは苛立たし気な声。

 

『此処の仕事終わったら今の現地民レベル高いっていうし、いい感じの何か狩りたいよ。

 当然用途はそれぞれ別でさ』

「了解っす。じゃ、俺らは戻るんで」

 

 回収用のデモノイドが歩いてくるのを横目で見つつ、DB二人は歩く。

 無惨な有様の少年等、全く気に留めてないようだ。

 

「確かにそろそろ狩り行きたいという思いはあるな。

 時期が微妙だが」

「セプテン終わったら今回も荒れるしむしろ狩り時なんじゃね? 

 あー俺もあれとかこれとか久しぶりにゲットしたいのあるなぁ」

 

 彼等エターナルは極端へ外れ、長い年月により腐り落ちた戦士達。

 欲望のままに動き真剣さを枯らした彼等は、北の地にて暗躍を続ける。

 世界の命運を決める決戦を他人事として。

 

 第三次セプテントリオン前夜、この世界に生きる者達と世界を渡り生きる者達の戦いが始まろうとしていた。

*1
本スレ『漂着戦力 漂流侵略』 Byカンナ




やっぱり前科がありましたねこのおっさん。

次回から北海道でVSエターナル戦、なるべく早く投稿したいと思います。
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