真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
本州に一足遅れ春を迎えた北海道。
雪が姿を消し、花々が咲き誇る麗しい季節。
されど街中には微妙な緊張感が漂っていた。
何せあの忌まわしき<混沌の奇禍>からまだ一週間も経っていないのだ。
北海道の被害は比較的軽微だが、大規模戦闘による市民の動揺は無視できない。
現に街中には警察官のみならず、要所には武装した自衛隊員まで立哨中。
その上まだ知るのは一部だが2週間後にはセプテントリオンの襲来までも予定されている。
一保たれている日常は薄氷に近い物だった。
それでも街を行く人々は用心をしつつも日常を送り、北の地の涼し気な春を楽しむ。
正常性バイアスもあろうが、世を荒す諸々に負けないとの、庶人なりの意思表示でもあるのだろう。
同僚や友人、恋人に家族と関係は違うが人々はつかの間の平穏を楽しむ。
それはこの戦況においても文明社会が保たれている状態だからこそ可能な事である。
「あっ!」
とはいえ小さなトラブルは幾らでもある物だ。
はしゃいでいた子供が躓き、頭から倒れ込む。
先にあるのは木製のベンチ。
このままではしたたかに顔を打ち付ける所だが。
「おっと危ない」
その前に大柄な男が子供を支えた。
精悍な面持ちに裾長のコート。
如何にも鍛え込まれた雰囲気だが威圧感はない。
「どうもすみません。ウチの子が」
「いえ怪我がなくて何よりです。
顔とかぶつけたら痛いでしょうし」
子供の両親に軽く会釈し男は離れる。
ありがとねと言う子供の言葉に軽く手を振った。
そうして男は再び歩き出す。
「……子供の事、助け慣れてるんですね」
「まあ、ここ半年くらい色々あったからなあ」
男────
傍らを歩くのは金髪のうら若き乙女。
「えへへ流石ニッカリさんですね」
朗らかに笑う女性の名は
かつて雨柳が助けた少女は、美しく女性らしく成長していた。
(まさかなあ、あの時の子がなあ。
今になって此ばったり会うとは)
雨柳には心当たりがある。それはもう確かに。
今から5年近く前、シュバルツバース事変が多大な犠牲と引き換えに解決した後。
己の愚かさと無意味さにいたたまれずクズノハとも距離を取っていた時期の事だ。
地方での悪魔退治の後、更に緊急事態との事で受けた依頼。
召喚師を気取った下衆共が子供を攫ったとの事で、一もニもなく依頼を受けた。
結果として雨柳は瞬く間に敵を殲滅。
無事に救助できたのがこの子という訳だ。
なおニッカリとは当時使っていた通り名の一つ。
地方で依頼を受ける際に面倒事、執拗な勧誘を避ける為に使っていた。
最近はクライエッジやレイブンの名が再び売れて来たので使う事は無かったが。
まさか今更になって聞くとは思わなかった。
(事件前に覚醒してたのは知っていたが……)
先程光織本人から聞いた所によると、あの事件から暫くして地元の魔関係の組織に入ったらしい。
組織はヤタガラスとも関係がある地盤のしっかりした所で、其処で魔法の手ほどきを受けた。
学校へ行きながらも研鑽を積み、レベルを順調に上げていたのが少し前。
ところが昨今の霊地暴走で、組織の上層部は異界への逃避、所謂アリを選択。
ヤタガラスの協力要請を無視して遁走し、光織は取り残された。
逆境でも光織は地道に悪魔と戦い、力を増すと共に地方ヤタガラス等秩序側の信任を得て。
結果今回の作戦においても推薦された訳だ。
自身と違い経歴に後ろめたい所もなく実績も確か。
今回の作戦に参加してくれるのは頼もしいが。
(こういうのはあの、JCに好かれる事に定評がありやがる奴の役目じゃないか?)
汐音や
おかしい、こんな事は許されない……。
待っている子多いんだから早く帰ってこんかいあの野郎と念を飛ばす。
「わあ、このじゃがいも濃厚な味わいですね!」
「うん、濃厚なバターとよくあってる」
そんな事情もあり、雨柳は光織と共に北海道の街中を散策していた。
敵拠点の位置は絞られつつあるが、作戦参加するDBがまだ揃っていない。
明日か明後日になる作戦の前に、息抜きをしておこうという訳だ。
過酷な戦いがあるからこそ、休める時に休むのはDBに必要な能力の一つ。
光織もまた心得ているようだ。
そうして買い食いなどをしつつ歩いていく内に桜並木の道へ着いた。
人通りは少ないが、異界化等妙な気配は無し。
「春の北海道に来たのは初めてだけど遅咲きの桜もいい物だな」
「透き通るようで綺麗ですね!」
心地よく冷えた空気の向こう側にある空と、微かに散りゆく桜。
景色の美しさをくるり、と裾を翻し喜ぶ光織。
まるで絵画のように美しい光景だった。
(綺麗になったなあこの子)
面食らいはしたがあの時助けた子が今も元気なのは良い事だ。
この時代前線に出ようと一般人として生きようと、危険な事には変わりない。
良く生きてくれたものだと心から思う。
(だけど、なあ)
もし自分が光織なら、きっとおそらく。
聞きたいと思う事があるはずだ。
それを考えると多少気が重い。
ふと、光織を見るとこっちをじっと見ている。
先程とは違う少し緊張した面持ちで。
「……ええと、ですね。実は私ニッカリさん……いや雨柳さんに聞きたい事がありまして」
「……何かな?」
少しばかり迷って告げた内容は予想通り。
「雨柳さんが私を助けた時名前伏せてた理由って何でだったんでしょうか?」
やはりその点は気になるようだ。
「最初は地元の組織、私が入った所、表面的にはちゃんとしていましたけど。
割とアレだったのでそれかなーと思ってんです。
私に東京行かれたら困るからか、雨柳さん関連の情報隠してて。
ちょっと前ノコノコ戻って来た時叩いたら埃が出てきましたし」
「あー微妙に違和感あったがやっぱりかあ」
「ヤタガラスの監視の目がある間はまだまともだったんですけど。
異変が起きた途端民間人の保護もぶっちして全力で引き籠りキメてましたからねー。
それ以外にも色々やらかしがありまして」
シュッシュッとシャドーボクシングを決める光織。
顔に似合わず結構な武闘派らしい。
「なので組織が理由かなとは思ったんですけど、他にもあるのかなと。
ああっその、雨柳さんを責めている訳じゃないんです!
ただなんでかなと」
「そうだな……」
あまり話したい理由ではないが、光織が聞きたいなら答えるべきだろう。
恐らく自分を探した事があったのだろうが、余計な真似をしたせいで見つけられなかったのだ。
会ったからにはきちんと理由を伝えておくべきだ。
「君の言った通り地方の組織相手だから素性を隠していたのもある。
だけどそれ以上に」
例え幻滅する様な理由でも。
「俺が名前を明かさなかったのは────」
何処か重く感じる口を、雨柳は開いた。
雨柳と光織が北海道を歩いたその日、京都ヤタガラス残党が逃げ込んだ先が完全に特定。
地元ガイア勢力のお膝元であるその村は、兼ねてより北海道での行方不明事件に関わっていた疑いがあった故。
北海道ヤタガラス主導の元、キリギリスやメシア穏健派を中心とした部隊を編成。
翌日夜に調査及び制圧が行われる事となった。
北海道某所にある村は、夜を迎えていた。
村の入り口から見れば何の変哲もなく見える。
やや造りの古い家が並び、小高い丘には和風の屋敷が幾つか。
しかしその中に監視装置や真新しい建物が点在し、白地の布に垂らされた墨汁の如し違和感。
加えて山の麓には明らかに異質な、大型の工場じみた建物が鎮座していた。
違和感のある風景に、淀んだ空気が付きまとう村。
此処は今や落人村の如き場所になっていた。
悪魔業界の中でも裏と呼ぶべき界隈にばら撒かれたある"噂"────―北海道に罪人を匿い逃がしてくれる村があるという噂。
噂に惹かれ集まるは京都系や阿修羅会の残党、その他メシアン他表では生きられぬ者ばかり。
彼等は己の生存に一縷の望みをかけ北海道の広大な大地に潜み、村へ至る。
その果てに待つのが因果に相応しい絶望だと思わぬままに。
「人影はなし。……死角に注意していこう」
京都ヤタガラスに追跡されていた蔵前の分家。
奴等が消息を絶った村に、雨柳は忍び込む。
体術に長け仲魔を自在に操る管使いは潜入に向いている。
今回は事前情報が不足している為、先行調査と事前工作を行う次第だ。
「はい。この村……嫌な空気ですしね」
「背後の警戒は任せてください」
小声で答えるのは黒髪の楚々とした美少女二人。
長い黒髪に白と青の衣装を纏うは
黒髪を結い上げ白と紫の衣装を纏うは
いずれも若くして歴戦のDBである。
管使いである美森に実質的な仲魔であるイザボー。
二人もまた先行しての潜入に加わっていた。
(本来だったら帝都の方に居てもらいたいが)
少女達の想い人に親友は現在行方不明中。
状況から見るに恐らく生存してはいるが詳細な状況は全く分からない。
心中穏やかではない所にも拘らず今回の作戦に参加してくれた。
作戦がどの様な形になろうとも無事に還さなくてはなるまい。
「結界の維持よろしくお願いします。
万が一の場合は私が対応するので」
「よろしくね。東郷さん」
そしてもう一人、雨柳達に続く人影あり。
肩口で切りそろえた金糸の髪を輝かせるは光織。
彼女の習得する魔法は戦闘用のみならず。
古の結界魔法にも通じている。
| イルク*1 | 幻影魔法 | 味方全体が幻影を纏い敵から見えなくなる 戦闘時に使用すれば敵の回避判定を低下させられる 光織が加わっていた組織の古文書に記されていた遺失魔法 組織内で唯一光織が習得し行使できた |
幻影により、行く人々の死角を誤魔化し侵入する。
無論完全ステルスとは行かないが、潜入にはおあつらえ向き。
光織が今回の潜入に選ばれた理由だった。
「監視装置は避ける形でお願いします。
結界は人の意識に働きかける術なので」
「了解。俺と美森ちゃんで先行する。
監視装置は……まずあそこか」
姿勢を低く雨柳と美森が前衛となり装置や見張りを警戒。
結界を維持する光織と、彼女の護衛を兼ねた須美が後衛として続く。
4人は敵地というべき村へと踏み出した。
「夜だからか通行人はいないですけど……見張りが多いですね」
音を立てず家屋や木々を遮蔽に進む中、須美が小声でつぶやいた。
家の前や村の交差路に見張りが立つ。
襲撃でも警戒しているのかやけに多い。
「低位の覚醒者の他に何体かデモノイドも混じっているわ。しかもあの形は」
「あそこの2体は京都の時に見た奴だな。
調査通りと考えて良さそうだ」
情報によると北海道に逃げた蔵前分家の職務は造魔の研究や関連資材の管理。
悪魔や人間を検体にした非人道的な実験を行っていたという。
また先日の阿修羅会関連施設への襲撃にも同様のデモノイドが参加していた。
決めつけるのは悪手だが、此処へ逃げ込んだ可能性は高い。
「……ちょっと思ったんですが見張りの人達、何か緊張している感じじゃないです?
何というか外よりも中を気にしているような」
「確かにそう見えるな。
折檻か何かを恐れているのか?」
暗視装置で見張りを確認した光織の指摘は、雨柳も感じる所がある。
落ち着かなさげな視線は村の外より内、正確には奥に見える建物に向けられていた。
(単にこの村で騙し討ちにあっただけじゃない)
不穏な村の有様に、雨柳は思考を回す。
(明らかに異質なあの工場、あそこにいる誰かを恐れている?
工場なら話に聞く阿修羅会の赤玉工場かそれか)
それは強大極まりない三大勢力の一角。
巧妙に社会を侵食し暗躍する勢力。
(ガイア再生機構の手が入っている、か?)
ガイア再生機構はエターナルと呼ばれる精鋭DBを多数抱えており、雨柳も以前戦った。*2
つい最近もキリギリスでも最強の一角と名高い
その他にもキリギリスで交戦報告が何例か上がっており、帝都東京のみならず地方、更には米国でも活動を行っているらしい。
またガイア再生機構は赤玉にも興味を示しており、混沌の奇禍の裏側で行われた赤玉工場襲撃の際も姿を現している。*4
ロシア方面との取引に使われる予定だった赤玉の横取りを目論んでいても不思議ではない。
平均してLV60代────装備やステータスからすればそれ以上の強さを持つ奴等は敵に回せば厄介極まりない。
この村の背後にガイア再生機構がいるとすれば今回も激戦になりそうだ。
見張りが多い場所を離れ、足音を立てず離れる。
やはり工場に続く道への目が多いと見えた。
「予想以上の数が多い。迂回して進むとしよう」
「工場へ行くなら一度村の外を回っていくのも」
光織の言葉を手で遮るのは警戒していた美森。
柳眉を潜めているのは不快感の証。
手信号で示せば、他の三人にもすぐにわかった。
ほの暗い道の先から聞こえてくるのは荒い息遣いに混じる苦悶、下卑た笑い声。
電灯に照らし出されたのは胸糞の悪い光景。
首輪をつけられ全裸で犬のように歩かされる少女と、リードを握る男。
(…………クソめ)
事前に叩き込んだ情報と確認。
村を牛耳る家を構成する男の一人だったはずだ。
下劣な光景は、この村の悪性を端的に表していた。
◇
村を差配する家の一員である男にとって"彼等"の申し出は渡りに船だった。
家はGPの異常上昇に2度にわたるセプテントリオン襲来、かつてない非常事態にじわじわと力を削がれていった。
周辺の大物はヤタガラスへ押し付ければ良かったが、異界から出現する悪魔も充分に強い。
加えて非合法物資の取引に使えた合法都市は潰え、資材にも事欠く有様。
壊滅した時は快哉を叫んだ
かつてのバブルの頃、悪魔関係資源での隆盛を忘れられやしなかった。
そんな時異界<寒月大氷穴>が発生し、悪魔の強さに絶望する暇もなく彼等は現れた。
進んだ技術を持ち強大なDBを多数抱えるガイア再生機構。
力を目の当たりにした家はすぐさま契約を締結。
異界での資源採掘を許可する代わりに様々な支援を受ける事になった。
常駐するDB達は尊大ではあるが、へりくだっていれば自分達に牙をむかない。
むしろ対価に
その上鉱夫やMag生産用に多数の奴隷を集める事すらしてくれた。
メシアンやヤクザの他には漂流者等、どうとも扱って構わない者達。
一部は鉱山ではなく自分達の
日毎に増していく財に、潤っていく村。
以前繋がりのあった京都の家は貴重な資材を持っていたらしい。
ガイア再生機構の金払いは更によくなった。
愚者である村人の大半も文句を言わず従順に仕え続けている。
家の勢いはかつての全盛期以上で、男達は満足していた。
悪魔業界は力が全ての世界。
強い者にはへりくだり、弱者からは搾取する。
正しさではなく己達が強く富んでいる事が重要。
なればすべては万々歳だ。
「この村に来ているのはガイア再生機構か? 」
────だからこそ男は忘れていた。
己達の行状を許さず、咎める者達が居る事を。
(何処の奴だコイツは……!?)
自分の屋敷へ帰り、飼っている"使用人"を使おうとした所でこれだ。
喉元へ突きつけられた刀は間違いなく業物。
殺意を伴う冷えた刃に抗する気はない。
京都の家の捕獲からガイア再生機構の関与まで吐かされた。
「ならこの村にいるガイア再生機構の戦力を吐け
知っているなら戦い方や仲魔も」
「多分……6人た、戦い方は知らない。
なぁ聞いてくれ。俺達は騙されたんだ」
男は震える言葉で何とか言い逃れんとする。
口八丁手八丁で何とかヤタガラスの追及を躱す。
例え土下座するような屈辱的事態に陥っても生き残れればいい。
それこそがこの場においては最重要。
「さっきのもほら、無理やり押し入って来たエターナル共に強要されて」
「あれが強要された顔かカスが。
ラクシュミ石化」
「分かりましたわサマナー」
妄言をこれ以上聞く前にラクシュミがペトラアイで石化。
固まった男を押し入れに蹴り込み、憤懣の籠った息を吐く。
座敷牢じみて改装された部屋には鞭や木馬その他の道具が幾つか。
そして生傷のある少女が何人か。
眠らせた少女達を丁寧に端によせ光織に向き直る。
彼女の顔は心なしか暗い。
「色々聞けたがカスだったな。
嫌な物を見せてすまない」
「いえ……悪魔業界だと良くある事ですから」
声にも昨日の様な元気がない。
過去の事を考えればこの手の部屋は嫌な事を思い出すのだろう。
(よくある事だが慣れて良くはないんだが)
雨柳はここ半年近くだけに区切っても悲惨な光景は数多く見て来た。
それらに対し堪え適切な行動をとれても、慣れる事等有りはしない。
もし何も感じなくなる事があれば、その時が自分の人間として終わりだと思っている。
「だけどいい物を持っていましたよこいつ。
流石に内側はなかったけどあの建物の図です」
差し出されたのは建物の写真付き資料が数枚。
恐らく建造時の説明に使われた物。
大まかな形状の把握にはもってこいだ。
「資料の管理が適当な奴だなー」
資料をスマホで撮影し村の外で待機する本隊へ送信。
敵拠点への襲撃の一助となるはずだ。
「外で見張ってる美森ちゃん達と合流するぞ。
敵の戦力を一気に潰して拠点を制圧する」
「ええ、頑張りましょう」
感じ入るところがあるのか光織は拳を握り、雨柳へ応える。
「頑張りましょう」
嫌な想像を振り払うように、もう一度言った。
静寂を切り裂いて、村のあちこちで戦闘音が響く。
制圧作戦が開始されたのだ。
「デモノイドが思ったより硬いな。
強化か低下使える悪魔いるか?」
「な、なんじゃお前等は!? ヤタガラスだと!」
「ネタは上がってるんだ。大人しく縄に着くんだな」
「流石に速いっすね先輩方!」
まずヤタガラスを中心とした部隊が村を制圧。
新規雇用した漂流者も含めた部隊は、突出した高レベルこそいないが的確かつ迅速。
人質を取る事も許さずに迅速に警備を制圧し、村の支配者共を拘束していく。
問題はガイア再生機構が建造した採掘施設。
正面扉より出でるは悪魔。
混沌の使い魔と呼称される鬼女や妖鬼共。
「侵入者ノ粛清ヲ開始スル!」
「血ィススルゥゥゥ!」
いずれもLV50を超す強力な悪魔共。
それらは感知された侵入者達に立ち向かうが。
「やはりガイア再生機構か!」
「善は急げだ! 正面から奇襲をかけるぞ!」
「絵面は動画映えするんだけどなあ!」
キリギリスやメシア穏健派、赤玉関係の追跡が為に参加した者達。
歴戦の彼等は瞬く間に悪魔を駆逐していく。
「チッ現地民のカス共が。
話には聞いていたがあの程度の悪魔は物ともしないとは」
「とは言え我々には大きく劣る
想定通り分断して撃破しましょう」
彼等に対して複数のエターナルが迎撃をする。
高慢な口調だが夜中にも拘らず足取りは確か。
それぞれの仲魔を召喚し迎撃する。
「皆気を付けろ! エターナルがいるぞ!」
「気やすく呼んでんじゃねえぞカスが!」
正面口にてエターナルとキリギリスの戦力が激突。
過酷な戦いを開始する中、側面から攻撃する者達もあり。
「悔い改めてください!」
「救護!」
メシアン穏健派から派遣されたチーム、主力となるは歌済サクラコと蒼森ミネ。
サクラコの援護の元ミネが突貫し
悪魔がボウリングのピンの如く吹き飛び、工場の扉を巻き添えに倒れた。
「救助と退路の確保は私達が! 皆さんは先へ!」
「了解した! 俺達は深部へ進いくぞ!」
残存のデモノイドや異能者を蹴散らすミネ達。
その背後を雨柳達は走り抜け工場へ突入していく。
「侵入者ヲ発見、排除スル」
「粛清シュクセイシュクSEEEEE!」
その手を阻むのは雑多な悪魔共。
何処か機械的な存在は交渉の余地なく襲い掛かる。
「見た所前衛型か? 魔法中心で対応するぞ」
「右手から新手の新手は私と須美で!」
「まずは腐らない万能で行きます! ≪メギドラ≫」
だが歴戦の彼等をその程度の手勢で防ぐことは出来ない。
適切に対応し、瞬く間に削っていく。
「吹き飛ばします!」
さらに湧き出て来る悪魔共を光織の
パーティの中では一番LVが低いが、後衛としての働きは目覚ましい。
(幻影魔法もだが予想以上に優秀だ。
良く鍛え上げられている)
潜入用の他、複数属性の攻撃に回復と光織の使用する魔法は多岐にわたる。
更に体術や武器の扱いも嗜んでいるようで、動きには淀みない。
地方で活動していたとはいえ、これ程のDBがいたとは世間は広い。
(あの後から真剣に鍛え上げたんだなあ……)
十年近くも時間を無駄にしていた何処かの盆暗とは大違いである。
優秀で真摯な良きDBに少女は成長していた。
彼女の雄姿が、喜ばしいと共に少し後ろめたい。
「……大分進んだが悪魔が減ってきたな。
そろそろ敵の主力が来る頃合いか」
思考を切り替え、進みながら視線を巡らせる。
施設の中は近代的で、寂れた村とは場違いな装い。
ガラス張りの連絡路があるのは奇怪ですらあった。
雨柳は眼下に広がる異界<寒月大氷穴>を一瞥。
入り口付近には多数の機械が設置されていた。
(ざっと見た感じ採掘用の機械が多いか。
資源の採掘施設ってのは本当らしい。
それ以外の用途はまだ分からないが)
もしあるとしても碌でもない用途だろう。
原料生産室や死体処理室と銘打たれた部屋もあった。
この施設は悪魔業界基準でも相当に悪辣だ。
ガイア再生機構の悪行や狡猾さは雨柳とて聞き及んでいる。
如何に強大だろうとこちらを踏み潰そうとするなら迎え撃つのみ。
此処での目論見も台無しにせねばなるまい。
「エネミーセンサーに反応あり。
恐らく次の部屋にいますね」
「ああ奇襲を警戒して仲魔を出すぞ」
仲魔を最初に続いて雨柳と美森が突入。
後衛の光織とイザボーが続いた。
扉を蹴破ると現れたのはこれまでより広い部屋。
奥には2体の機械的な鎧姿。
周囲には複数の悪魔を連れている。
「あれは以前異界に出て来た……!」
美森が警戒を深めたのは、流線形のフォルムをしたスチールブルーの機械鎧。
かつてレイや協力者の
この施設に配備されていた所からすると、やはりガイア再生機構の手の物だったようだ。
騎兵槍と機関銃を構え臨戦態勢。
「サマナー2匹か面倒くせェな」
「さっさと片付けて次行くとするか」
雨柳と美森達もそれぞれ1機ずつを相手取り相対。
後衛の光織が横殴りにしようとする悪魔を抑える為、距離を取る。
緊迫した空気、戦いが始まろうとしていた。
取り合えず一人飛ばしておくか」
| トラエルクァニ*6 | 万能属性スキル | 敵単体に迷子状態にする |
斜め後ろ、瞬時に出現した女より青黒い光弾が割り込んだ。
「っあ!?」
光弾は光織に着弾、瞬く間に彼女を消失させる。
垣間見えたエフェクトはトラエストなどのそれに似ていて。
「これは……迷子状態!?
衝撃属性の魔法でもないのに?」*7
自身の知識から現象にあたりを付けた美森が驚愕。
歴戦の経験を以てしても不可解な魔法だった。
「早く助けないと酷い事になるぜ~。
具体的には合法都市みたいな方向で」
嘲笑する女は巧妙に偽装された転移装置で戻る。
雨柳達と光織は完全に分断された。
・
・
・
「さぁてこっちはどうなったかなっと」
工場の地下一階、戦闘に備え広く取られたスペースへ女は降り立つ。
肌寒い北海道らしからぬ肩を出した装いの色合いは髪と同色の朱。
整った顔立ちに傲岸な笑みを浮かべた女は、この地におけるエターナルの指揮官。
現地勢力との戦闘に備えて派遣された精鋭である。
\カカカッ/
| 悪魔人間 | ファラ・リンクス | LV64? | 耐性:??? |
「数合わせの
正門前でもまだ戦ってる感じかあ」
指で形の良い顎を撫で、ファラは思案する。
赤玉絡みだろうか、思ったより多くのDBが来ているようだ。
「次は何処飛ばしてくかねえ」
この周回に来てからのガイア再生機構──エデンの調査により、この周回の現地民は普段より強い事が分かっている。
現に東京やその他地方で撃破されたエターナルが複数組存在し、上は方針をある程度変更した程度には強いようだ。
故にファラもこの施設の防衛にあたり自身が飛び回る為、幾つか転移装置を配していた。
敵勢力が攻め込んできた際部下の背後から≪トラエルクァニ≫か他の魔法で不意打ち。
敵を分断し戦力を削っていく予定だった。
分析するにこの周回の人間が強いのは、異なる勢力や戦い方の者同士で連携を取っているから。
ならば積極的に分断し連携を乱し、各個撃破していけば良い。
(せわしない事だわ本当に。
ま、どうせあと数日の所だし丁度いいか)
元よりこの異界はセプテントリオン戦前に引き払う予定だった。
採掘施設の一部を封印後、さっさと資源や収集した赤玉と共に帰還。
そうしてまた今後の周回でも施設を開放したら又有用な資源を採掘。
何も知らない現地民共は、またうまい事に飴と鞭でコキ使い。
残されるのは古い現金を握りしめたマヌケ面。
これまで幾度なく繰り返されてきた光景だった。
ファラや他のエターナルにとって
平熱での悪辣さを保つそれは何の感動もない。
(次は派手な奴がいいなー。
前みたいに都市を襲撃するとか)
ファラが投入される任務はある程度限られている。
今回の様な防衛戦か、大規模な襲撃が主でチマチマした工作はやりにくい。
それは性格的に向いていないというのもあるが、一番の理由は。
「どうせなら派手にやりたいよねえそう思わない?」
使役する悪魔が目立ちすぎる点にある。
ファラの背後に控えるは亡霊達。
身長も体形も異なる、不揃いの甲冑を装着。
それでいて盾と槍は対照的に統一されている。
全体で一つ、軍勢を成す悪魔共。
\カカカッ/
| 軍勢 | ワイルドハント | LV83(63+20) | 耐性:??? |
整然と並ぶワイルドハント達は総計数十。
四角形を描く陣形は所々が空いている。
それは狩りに出ていたから。
「まあこんなもんよね。
幾ら強めっても現地民なんて」
「っあ……」
戻って来た亡霊達が放り出すのはボロボロの光織。
孤立した所をLV20以上上の悪魔に袋叩きにされなすすべなかったようだ。
いつものように、
金髪に女らしい体つきのDBは、リストで見た様な気もする。
だが<全知>の様に重要人物のリストにはいなかったはず。
欲しがる奴はいるかもしれないが態々捕獲しておくのも面倒だ。
ワイルドハントの饗宴に捧げてしまおう。
何分大喰らいなのだこの亡霊共は。
「お土産にするには立て込んでるしね。
好きにしな~」
召喚者の許可を受け、亡霊達が光織を引き起こし。
両腕に対し強引に力を加える。
「ぎぃっ!?」
ごきりと、嫌な音が悲鳴が響く。
「や、い、やぁっ!」
跳ね上がる体を押さえつけ、亡霊たちが群がる。
さながら果実に集う羽虫の様に。
それはファラとワイルドハントにとってありふれた光景。
多少力のある女悪魔や女DBを倒した後は贄として捧げ亡霊たちの活力とする。
維持コストの補填の他、エデンを煩わせた罰にもなる一石二鳥。
凌辱の末の死が相応しい末路だ。
「せいぜい愉しめよハハッ」
供物となる光織から目を切り、次なる獲物を見定め歩き出す。
その背後でひときわ大きな悲鳴が、邪悪な水音が。
≪奥義一閃≫
響く前に死の斬閃が迸る。
「チッ……なーんか早くないアンタ」
亡霊たちを斬り裂き、降り立ったのは雨柳巧。
半裸の光織を背に庇い、仲魔達と共に軍勢と対峙。
「お前等と違ってマトモな友達が多いんでな。
多少手伝って貰えたよ」
いつもより冷たい声で返答。
雨柳が短時間でこれたのは訳がある。
美森とイザボーを孤立させる訳にもいかず、後ろ髪を引かれながらもアクセラスと戦おうとした矢先。
戦線を突破して一人のDBが加勢として飛び込んできたのだ。
黒く長い髪に長身、マスク越しにも美しい顔立ちを垣間見せる彼女を雨柳は見た事があった。
確か阿修羅会戦の折、濡れ鼠になりながらも脱出してきたDBの一人。
どうやら彼女も別ルートで、この施設に用があったようだ。
『仲間が魔法で迷子状態にされた?
ならこのデータを受け取れ。
事情を聴いた彼女が送付したのは施設内のマップ。
欠けた所はあるが、当然走破に役立った。
故に雨柳は寸前で、間に合う事が出来た。
「ったく次から次へとさぁ!
お前等雑魚が強く美しい
「随分と苛ついているようだな。
だが安心しろ。
苛つきもすぐに消える」
雨柳の目には冷たく凝る殺意。
かつて助けた幼き日の光織が、髪色の似た知古である姉妹が思い浮かび。
この敵を決して赦さぬと意志を固める。
「今この場で中身通りの、醜い屍に変えてやるよ……!」
男の握る退魔刀の刃が煌いた。
さながら神の武器たる雷の如く。
北海道の片隅にて、
次回はエターナル戦本番
なるべく早めに投稿したいと思います