真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は新仲魔加入回になります
北海道の某山の麓にある<寒月大氷穴>、名前の通り寒々しい地肌が広がっていた。
<
が、異界の最下層、物理的に空いた大穴の下、そこに至れば様相は一変する。
広がるのは滅びて朽ちた街並み。
まるで戦争で滅んだ遺構の如き。
近代らしい異界はこれまでと明らかに異質。
それこそ────異界の下から何か、
ざり、と異界の地面を踏みしめる音、続く剣戟に、発砲音。
LV50を超す悪魔共へ真っ向から挑みかかる者達が居た。
その最前列で刃を振るうのは雨柳巧。
「こいつで……終いだ!」
退魔刀を一閃、飛び掛かる人狼の首を切り裂く。
慣性のまま血を転がる体はMagに変換。
他の悪魔と共に瞬く間に消えた。
「ここら一体の悪魔は片付いたか。
二人共回復は大丈夫か?」
この異界に生息する悪魔のレベルはおよそ50代前半から60前半程。
強力な敵が蔓延る此処はかつての、1年前の環境なら紛れもなく死地と呼べるだろう。
だが現在LV80を超す雨柳は不測の事態に備え慎重に進めば、順調に攻略可能。
今回同行している二人の仲間もそうだろう。
「ニッカリさんが前に出てくれているお陰で問題なしです!」
「右に同じです。旦那様」
鮮やかな金髪に可憐な顔立ち。
黒い衣装を押し上げる女性的な体つきの少女は
もう一人、淡い色の髪に一房を水色に染め。
深青の衣装に長銃を提げた美貌の女性はアイリス・ビショップ。
いずれも雨柳とは不釣り合いな美少女・美女のDBである。
先日の戦いの後も、麓から地下へ広がる異界の探索は続いている。
この地へ逃げ込んだ京都系組織が略取した資材。
その多くが異界深部へ落ちてしまった事もあるが、異界の状態が不明なのも大きい。
何せ見ての通り異界深部が上の階層とは全く違った有様。
阿修羅会決戦以降の急激なGP上昇の影響も想定される事から、念の為の調査が必要と判断。
その為本日雨柳達が異界へと踏み込んでいた。
雨柳以上に多忙な美森と須美、更にメシア穏健派等の多くは東京へ帰ったが代わりに手の空いたアイリスが参加してくれた。
何でも阿修羅会の掃討により協力している護国の家も、多少の戦力的ゆとりが出来たそうだ。
とは言っても忙しい中手伝ってくれて実にありがたい。
(
そろそろ半分程だが今のところは順調だな)
異界深部の入り口付近に待機し退路を確保するのは地元のヤタガラスを中心としたチーム。
彼等と連絡を取りつつ、異界攻略は程よいペースで進んでいる。
悪魔は強いが雨柳と仲魔、先日の死闘以来力を増す光織にアイリスなら問題はない。
(ただ……気になる事はある)
横目で崩れかけた商店らしき建物を見る。
煤けてはいるが、様式からすると平成の物。
しかも電灯がまだ点滅していた。
「……やっぱり変ですよね?」
「ああ。魔界なら電化製品はエーテルで動くって噂は聞いた事があるが。*1
だとしてもこれだけの電化製品何処から持ち込んできた?」
「それ以外にもガントレット内のMAPと照合しましたが、札幌の建物と部分的に一致しています。
まるでこの異界が札幌の一部を切り取ったかのように」
この異界……何か変、三人共共通した思いを抱いていた。
類似する物は影異界だが、出現するのは普通の悪魔で仲魔に出来た物もいる。
交渉した悪魔も詳しい事は知らず、人の街を模した異界くらいの認識しかない。
天上が広く高低差がやたらとある事もそうだが奇々怪々だ。
「もう少し見極めが必要だな。
幸いゆとりはある。奇襲に気を付けて進むぞ」
「了解! アイリスさんも後ろは私に任せてください」
「万が一の時はすぐに回復しますね」
二人共既に息を合わせて動く事が出来ている。
実に優秀で仲が良くていい事だ。
この分なら連携不備や仲違いの心配はないだろう。
一昨日の夜に光織の
「これまで通り私が先行するわ。
火炎系の悪魔が出たらよろしく」
何故か目線で「躊躇うな」と言ってるスクルドを先頭に先へ。
滅んだ街並みの気が滅入る異界で、華やかな仲間と仲魔は清涼剤だ。
浮かれる事のない様に悪魔を倒し時には避けて進んでいく。
小休止してから三十分程進み、エネミーサーチには反応なし。
「二人共止まれ」
だが雨柳達の顔には適度な緊張感。
彼等の視線の先にあるのは、悪魔の石像。
弁慶の如く仁王立つ偉丈夫。
「大分大きい……見た感じだと鬼神か、破壊神あたり?」
「開けた場所だし先行して調べてみるわ」
スクルドが身軽に駆け、石像へと接近。
慎重に石像へ触れ、すぐに手を放すが何も起こらない。
手招きに従って雨柳達も近づく。
「どうやらこの石像は悪魔の死体……の様な物みたい。
あちこち欠けて意思ももうないけど、力の片鱗みたいな物を感じる」
見上げる程の巨像は頭部の一部や左腕が欠けている。
傍目にも損傷があちこちにあり、激戦を物語っていた。
「二人は下がってくれ」
手で二人を制し雨柳は≪アナライズ≫を敢行。
映し出されるのは悪魔の名前。
微かに眉根を寄せる。
\カカカッ/
| 神造魔人 | ザオウゴンゲン | LV82 | 状態:DEAD |
「ザオウゴンゲンってのは分かるが……神造魔人だと?」
「……あー確かに、何か変な感じはするね」
シロガネと同じ特殊な魔人のみに冠される名称。
予期せぬ名称に驚く一方でシロガネは何処か得心したようだ。
「覚えがあるの?」
「いや、僕の宿す悪魔とは知っての通り違うよ。
ただ何処か近いような感じはするんだよね。
例えるなら遠い……親戚、みたいな?」
本人としても正確な所は分からないらしい。
だが親近感に似た感じがするとか。
他方でアイリスはガントレットで、光織は魔術によって探査する。
「この石像は悪魔の発生原因になっている訳ではないようです。
むしろその逆、悪魔除けの結界に近い働きをしているかと」
「丁度塞ノ神みたいな感じかな?」
「結界か……このザオウゴンゲンが発生媒介になっているとすると。
なら何か護る物があったのか?」
この異界に加えザオウゴンゲンの巨像という新たな疑問点も出てきた。
分からない事は多いが、結界ならば迂闊に解しない方が良いはずだ。
「BCに連絡は入れた。結界が守護しているのは此処から北の領域か。
一先ずそちらに進むとしよう」
「万が一だけど生存者が「ちょっと待ったーっ!」
響く大音声は若い女性のそれ。
瞬時に身構える中にも声の主は近づいてくる。
それはもう、猛ダッシュで。
「パパ上の石像っ壊しちゃダメ―ッ!!
結界の起点になってるから壊れるとワラワ達終わりなのーっ!!」
エネミーサーチは依然として緑。
悪魔から感じられる力は強いが敵意はないと見える。
事実悪魔は雨柳達の5m程先で急停止。
つんのめり息を荒げつつ顔を上げた。
「はーっふぅぅ……っ。
見た所、あの偉そうな奴等じゃ、ないみたいだけど。
ひとまず、ありがとう」
女悪魔の恰好は蒼と白の和装に長い髪。
上げた顔には天狗を模した面。
「……ん? ああごめん。面を付けたままだったね」
特に制約がある訳じゃないのか、ひょいと気軽に面を外す。
現れるのは十代後半の少女、柔らかな印象を与える整った顔立ち。
エルフの如き長耳にかかる艶やかな髪は、鮮やかな
「君は……誰だい?」
「ワラワはね、ヒトコトヌシ」
シロガネの疑問に対し。
国津神の一柱たる名を、女悪魔は名乗る。
\カカカッ/
| 女神 | ヒトコトヌシ | LV72 | 破魔・呪殺耐性 氷結無効 衝撃弱点 |
「神造魔人ザオウゴンゲンの娘である女神よ」
意外な程にその様は、堂々としていた。
異界を歩きなれた女神の歩みは軽い。
助けて欲しい人がいると、ヒトコトヌシの言葉に従い歩く。
BCへの連絡を継続しつつソナーを確認しつつの歩みは、意外な程に平坦で。
五分程でデパートらしき跡地についた。
「此処よ。もう少しだけついてきて」
壁や床に亀裂が入り、商品の多くが破損した中。
停止したエスカレーターを登り。
更なる結界が張られた中、女神の顔が輝く。
「ヒトコトヌシ様!? そ、その人達は?」
「あー心配しないで。信用できる人だから、ね?」
寄せ合っていたのは、数人の少女達。
疲弊を隠せない彼等に女神は優しく語りかける。
「この人達は
アイツ等倒して此処を調べに来たんだって」
少女達は顔を見合わせるが、すぐに得心した気配を見せた。
(ヒトコトヌシの言葉を信じるのか。
余程信頼されているようだな)
女神の言葉を信じているがやはり初見の人間は気になるようだ。
雨柳を見る視線には警戒の気配がある。
こちらから不躾な視線を送るのは止めたほうがいいだろう。
「この子達はもしかして……上から脱出してきたのか?」
「うん。詳しい事はあっちで話すね。
皆はもう少し待ってて」
こっちへと招かれたのは元はレストランだったらしき区域。
埃が掃かれた席に雨柳とヒトコトヌシが座り、アイリスや光織は多少離れた所で周辺を警戒。
今の所は友好的だが初見の悪魔、もしもの時の備えは当然。
「時間にはゆとりがあるし、順序だてて話していこうか」
「りょーかい。ワラワも色々聞きたい事あるんだよね。
今の世界がパパ上の世界と別ってのはあの子達から聞いたんだけど」
漂流者とかそのあたりの知識はあるらしい。
これ飲む? と提示された飲み物は丁寧に故事した。
やはり自販機が中身含めて生きているらしい。
「えーっとまず話は長くなるんだけど、ワラワが誰かから始めましょうか。
ワラワは<ヒトコトヌシ>。
貴方達の見た<ザオウゴンゲン>から産まれた女神なのよ」
「産まれた……? 召喚されたとかじゃなくって」
彼女に対して雨柳達が抱く疑問は多い。
まず何故女神である女悪魔がヒトコトヌシなのか。
ヒトコトヌシは古事記等に名を残す国津神の一柱であり、雨柳の知る限りLVは20半ばから40後半程とこの女神とは大きく差がある。*2
後世の能『葛城』においては女神と扱われているが、これ程のレベルになるだろうか。
それにザオウゴンゲンは同じ修験道の神だがヒトコトヌシは血縁はないはず。
(MAD系の様な狂気感じられず、嘘を言っているようなそぶりはない。
だけど言葉通りの存在ではないのか?)
色々と推測は立てる事が出来るが。
一先ずヒトコトヌシの言葉を聞いてみるべきだ。
「正確にはパパ上から私は作られたんだの。
敵と相打ちになったパパ上から、もういないんだけどクラマテングがワラワを創ったの。
尸解の術、恐らくは仙術の類。
名前からすると仙人の一種、肉体から遊離した魂がなる<尸解仙>。
それへの移行を修行ではなく術によって成す物。
となると魂を仙人、あるいは術者と同じ天狗としたのだろうか。
特殊な術を使ったのだろうが悪魔を産み出すとは。
「クラマテングが言うにはワラワに天狗の女王様になって欲しかったんだけど。
仲間もういないしあるのはこの異界一つだけ。
<ヒトコトヌシ>の名を付けた後、好きに生きていいって言われてね。
色々聞こうにも他の悪魔にやられちゃったし」
「それはまた……大変だったね」
悪魔とは言え産まれてすぐに放任とはさぞ心細かっただろう。
来歴不明の神造魔人であるシロガネは、眉根を寄せる。
「ありがと。でもこの異界で人間の遺した物調べてたら退屈はしなかったかな。
で多分2週間前なんだけどあの子達が逃げてきてね」
異界の上に別の異界があったのは知っていて、秘かに境界線から覗き見ていたらしい。
嫌な気配が多かったのでそれ以上はしなかったようだが。
「そこにあの子達が来た訳か」
「上がろくでもない所だったようだし、助けなきゃって思ってこっそり招きいれたの」
血が付いた服の端とかを撒いて痕跡を偽装したが、幸いにも追手は来る事なかった。
低位覚醒者ばかりでは喰われて死んだと思ったか、或いは単純に面倒だったのか。
保護した子達を看病している内に日が経ち、今日雨柳達が来た事に気付いたという訳らしい。
「でね、貴方達をちらっと見た感じ、上に居た奴等と違って
「あの子達の救助と保護を頼みたいって事か?
それなら当然やるつもりだが」
「それもあるんだけど……一つ問題があって」
少し前から強力な悪魔が付近に陣取り、ヒトコトヌシ達の領地を飲み込まんと狙っているらしい。
ザオウゴンゲンの結界が抑えてはいるそうだが、戦えない者達と共に結界の外へ出ればすぐに襲撃してきそうだという。
「悪魔の名前は? 交渉は出来なさそうな相手か?」
「ワラワ達を食べようとしている悪魔は<魔王アバドン>。
手下は殆どいないんだけどパパ上と同じくらいの
結界内では弱体化する為本格的な侵攻には至ってないが、今も虎視眈々と彼等を狙っている。
仮にガイア再生機構が消えても、異界を抜け出す前に襲ってくるはずだ。
「そんな訳でもし出来れば、アバドンを倒してくれないかなと思って。
報酬は……ワラワの集めたアイテムあげるからそれでどうかな?」
テーブルの上に置かれたのは宝玉を始めに価値あるアイテムが幾つか。
セプテントリオン戦を控えた今では幾らあってもいい物ばかり。
これだけでも十分に受ける価値はあるが。
「俺は君の依頼を受けようと思う。
どの道あの子達を助けなくてはならないしな」
それ以前に、疲弊した子供達を助けなくてはならない。
困ってる人には手を差し伸べる。
言うは易いし行うは難し。
だが今の雨柳達にはその力がある。
(そう来るよね当然に)
シロガネも雨柳に賛成だ。
あの子なら相するし、自身もそうしたい。
アイリスと光織もそうだろう。
「ほんと!? いや~貴方達が来てくれて本当に助かった!
ワラワの見る目って思って以上に正しいのかも!
あ、そうだ! もし貴方が望むなら私仲魔になってもいいよ!」
邪気なく喜ぶヒトコトヌシは外見も相まって年頃の少女に見える。
それでも悪魔故に油断はできないが、
雨柳とは相性は良いはずだ。
「俺も戦力は欲しいしありがたい。
だがその前に準備もあるし幾つか質問していいか?」
「いーよいーよ何でも聞いちゃって」
光織へ後続への連絡を頼み、ヒトコトヌシへ向き直る。
「実を言うと俺達も探し物があってな。
少し前に上の異界から落ちて来た物がなかったか?」
「んー特に心当たりはないね。
岩盤の一部が崩れたのは皆不安そうにしてたから覚えてるけど」
「となるとやっぱりアバドンの陣取る方か。
それとだ、気になるのはこの異界ってどうして発生したかは分かるか?」
雨柳の知る限りでも異界が融合もせず、それぞれ上下に隣接するというのはどうも変だ。
その上街を模したというよりも街そのものが取り込まれたような有様。
(まさか
周回の事を知った後だと不吉に過ぎて考えたくない、だが調査は必要だろう。
「そのあたりは分からないなー。
ただパパ上の敵は相当強かったみたい。
あ、そうだ。ワラワも気になってたんだけど。
神造魔人って何か知ってる?」
「んー僕もそんな知らない。
神の力を降ろした造魔……作られた悪魔だとしか」
「成程ねーなんか凄そう」
以前テンカイからそのあたりについて話された事がある。
世界によっては高度に発達した技術であり、シロガネも過去に創られた個体の一つ。
言外にシロガネも同類だと納得したのか、ヒトコトヌシもうなづく。
「意外とパパ上と同じ……ワラワの親戚っているのね」
「ああまったく世の中広い物だよな。
でそろそろ時間だし最後の質問だが。
あの子達を助けようとおもったのはどうしてだ」
目の前の女神は何故そう選択したのか、それは大事な事だ。
「んとね、どの道やる事なかったのもあるけどね。
皆凄い傷ついて疲れていたから、助けなきゃって思ったの。
パパ上がやってた様に私も人間を助けようって」
ヒトコトヌシに微かに残るのは、ザオウゴンゲンの記憶。
世界の箍が外れたように滅びていく中、尚も強大な敵に抗い人を護り続けた。
この異界で相打ちになった後もなおも人を護る為に。
かつて選択の可能性に溢れた世界を望んだ
彼の神と同じ名を冠した神造魔人は信じていた。
力に関係なく、人の生と喜びに価値があると信じていたから。
「パパ上の想いを娘のワラワが継いでも、いいでしょ?」
「……そうだな」
雨柳にとっても納得できる答えだ。
それはもう眩しい程に。
「準備が出来たら共に行こうか。
あの子達を助けようぜ」
「うん! よろしくね親切な人!
人と悪魔は異なる生命であれど、合意し共に道を行ける、仲魔となる事が出来るのだ。
異界の奥、一際破壊された街並みが広がる中。
瓦礫を更に粉砕し、巨体が迫る。
毒々しい緑の巨体に、貪婪な黄色い目。
大口を開けて迫るのは奈落の魔王アバドン。
\カカカッ/
| 魔王 | アバドン*3 | LV82(72+10) | 耐性??? |
≪マハラギバリオン≫
≪食いちぎり≫*4
大量の火炎がまき散らされ大顎が挟み込む様に衝撃を放つ。
火炎は防げても物理攻撃に耐性を持たぬバルバトスに攻撃が直撃。
苦悶の声と共にマグネタイトが噴き出す。
| 一撃必殺 | ユニークスキル | 自身の攻撃で弱点をつくかクリティカルが発生した時、確率で対象を瀕死にする 敵を焼却し嚙み砕く魔王の権能 |
魔王の秘めた権能が発動し、大ダメージは即死へと変換。
バルバトスは
「掲示板であった
魔界と現世の接近に伴うGPの上昇により、一部の悪魔が発揮し始めた特異なスキルやパッシブ。
神話の権能になぞらえられる強力な力を、この魔王も持っているようだ。
それは幾多の世界での再現。
強大な悪魔が強みを押し付け人々を蹂躙する光景。
の、様でいて決定的に違う。
「バリオンなら火傷はないか?
ヒトコトヌシは氷結、光織はマカラカーン。
アイリスはターンの最後に回復頼む」
「りょ、りょーかい!」
敵が如何に強大であろうと、思考を回し行動を続ける。
ヒトコトヌシが返事する瞬間には、もう雨柳達は動き出している。
「火炎得意な相手で私を出すって事は……ああ、そういう事ね」
「悪魔相手なら試す価値はあるだろう?」
イルダーナフが
シロガネとヒトコトヌシが
直撃した魔法に魔王アバドンが濁った悲鳴を上げた。
(魔力を考えてもシロガネの方が反応が大きい。
氷結じゃなくて電撃弱点か)
思考と共に≪イナズマ一閃≫により追撃。
電撃の刃が頑丈な表皮の奥の、血肉を切り裂く。
≪魔反鏡≫
≪ハーブ酒≫*5
魔法反射状態に移行し、回復。
態勢を整えた彼らの顔には余裕。
≪メガトンプレス≫*6
≪マハラギバリオン≫
巨体が跳躍、質量を以て薙ぎ払うが光織とヒトコトヌシには当たらない。
雨柳達はバフデバフと、高いHPのまま踏みとどまり。
スクルドを中心に狙った≪マハラギバリオン≫は反射された。
無効耐性とは言え、反射された魔法には驚き後退。
野生の悪魔特有の弱点を突ける敵がいる攻撃を選びやすい、その性質を利用されたのだ。*7
火炎弱点を持つスクルドはさぞ本能では良いカモに思えたはずだが。
魔法反射障壁が張り巡らされた状態では、一手無駄にしただけ。
本来致命的なダメージを引き起こす弱点も物は使いよう。
悪魔の行動を誘導する事も出来る。
「攻撃は物理と火炎中心か。
ユニークスキルも考えると、物理へ備えた方が良さそうだな」
「なら私スクルドさん庇いますね。
火炎無効持ってるんで」
「物反鏡は私が使います。
後2個はあるので後は旦那様に」
LV80を超す魔王は強大な敵に違いない。
それでも今を戦う戦士達は臆す事なく戦い続けている。
連携し研鑽し、神々の領域に辿り着いてなおも。
(うわあ……てきぱきしてるなあ)
動きについていきつつ、ヒトコトヌシは素直に感心する。
それぞれ自分と同等かそれ以上に強いとは思っていたがこれ程とは。
彼らの歩んできた道のりの過酷さがうかがい知れる。
(これまでもこれからも、貴方達は頑張って来たんだね)
彼等が力を高めていったのは多分、色々な理由があるのだろう。
その中には誰かを護りたいって思いもあったのかもしれない。
それは自分や父と一致する気持ちで。
(この人達と一緒に戦えて良かった。だよねパパ上)
魔王に対して戦う彼等の誇り高い姿は眩しかった。
「動きが鈍ったなら────とどめだ!」
体力を削られ続けた魔王に、シロガネの電撃がとどめを刺すまで、そう時間はかからなかった。
・
・
・
春の北海道の空気は、今日も澄んでいた。
「ヒトコトヌシ様ー! 東京へ行ってもお元気でー!」
「暇な時でいいんで連絡くださいねー!」
声を上げるのはヒトコトヌシに保護されていた少女達。
北海道ヤタガラスに保護された彼女達は傷つき、疲弊している。
それでも最後くらいは礼を言っておきたかったようだ。
「絶対連絡する~! みんなも元気でねー!」
答え手を振るヒトコトヌシは号泣していた。
彼女としても名残惜しいようだ。
何せ産まれて始めて関わった人間達なのだから。
(実に変わった悪魔だなヒトコトヌシは)
悪魔らしからぬ振舞は、シロガネやスクルドで割と慣れてはいる。
あのダクサマの様に変わった悪魔が仲魔になるのは何の因果か。
アバドンを倒し少女達を異界から救った後、ヒトコトヌシは雨柳の仲魔になった。
あの謎の異界は未だ健在だが、ひとまず適当な悪魔を主に据えある程度安定化。
滅んだ街並みの調査は今後も必要だが、危険度の高い悪魔を排除し京都ヤタガラスの資材も回収出来た。
後は北海道ヤタガラスや付近のキリギリスに任せるべきだと判断が下された。
何せ────セプテントリオンとの決戦まで2週間もないのだ。
雨柳も帝都ヤタガラス及び彼方の御国と連携し、急ピッチで準備を進めなくてはいけない。
アイテムと装備の補充、仲魔の強化、それ以外にも家人の避難準備等やる事は多数ある。
この後の予定は帝都に戻り、以来の内容を報告。
翌日には仙台へ行き汐音と会う。
数日後には聖華学園にも生徒との顔合わせ等諸々。
私事もあるが中々に忙しい。
(我ながら多忙になったもんだ)
責任を感じる事もあるが、進む他ない。
増えた知り合いと共に。
「そろそろ港に向かうぞ。
船の時間までゆとりあるけど早いに越した事は無い」
「お土産も買えるしね……っと」
シロガネの視線の先ではトラックに偽装した輸送車が出発していた。
京都ヤタガラス系組織がこの地に持ち込んだ資材。
造魔関係らしいがかなりの量がありそうだ。
シロガネはついつい追いかけてしまう。
自分でもわからない内に。
(同じ造魔だからかなーんか気になるなあ)
「シロガネ君シロガネ君、港で美味しい物食べる時間ってあるかな?」
「んえーああ、多分あるんじゃない?
船の中のレストランも美味しかったしそこでもいいかも」
トラックに向いていた意識を外し、シロガネは返答。
行きは時間がなかったが港に何か店があったろうか。
「後はお土産だな。
甘い物は何が……ん」
端末を確認していた雨柳が、驚いたそぶりを見せる。
だが反応からすると悪い事ではなさそうだ。
「……何かあったの?」
「アイツ等、全員帰って来たってさ」
「マジで!」
待ち望んでいた吉報にシロガネも驚く。
暫く行方不明だった者達の無事な帰還。
実に喜ばしい事だ。
「おや、何かいい事あったの?」
「後で話すさ。
さ、ひと段落着いた所で帰るぞ」
門のあたりでアイリスと光織が手を振っている。
これ以上待たせない内に出発するべきだろう。
清らかな空の下雨柳は仲魔と共に歩き出す。
死闘を予期しながらも、束の間の平穏と安堵があった。
・Tips:ヒトコトヌシについて
北海道の地下にあった異界、何処かの周回の札幌ダ■トの断片である異界にいた悪魔。
神造魔人ザオウゴンゲンから、幻魔クラマテングが<尸解の術>により作り上げた存在であり、父たる神造魔人譲りの高い潜在能力を秘めている。
力に見合わず朗らかで人懐っこい所があり、保護した少女達とも良好な関係を築けていた。
現在のスキルは回復と万能の他氷結系を得意とするが、これは陰陽の反転といった理由により炎を統べるザオウゴンゲンの性質が反転した物。
更に
なお帝都で管使役の為幾つかスキルをつけ足されたがその一つを見て「サマナー君……これ積極的に使わないよね? ね?」と顔をひきつらせた。
雨柳も積極的に使う気はないが、現在の戦況を考えると何処かで恐らく使う事になる為両者頭を抱えて過酷な未来を想った。
次回も近いうちに投稿予定です
雨柳の脳が……盛大に破壊されますイェイッ