真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
なお今回は試験的に1シーンAAを使用しているので、もし苦手な方がいましたらご注意ください
立ち直りの速さは若者の特権と言うべきか。
<混沌の奇禍>に同期した先日の襲撃事件。
規格外の魔人により被害は出たが、大きな物は校舎への損傷。
乱戦を生き延びた生徒達は今日も意気軒昂。
「紙皿の在庫何処にあったっけ?」
「この椅子まだ使えるかな」
「警備員さんの邪魔にならんようになー」
ある物は古くなった保存食を調理して昼食を準備し、またある者は瓦礫やその他を片付け、警備員の隙間を埋めるように巡回する。
いずれも一人の行動ではなく、面識のある相手と複数で行う。
万が一の事態への警戒もあるのだろうが、協力の姿勢が根付いている証でもあるはずだ。
「流石は葛葉の鍛冶師が鍛えた刀ですね。
頑張って素材を揃えた甲斐がありました!」
「切れ味だけじゃなく耐久性も折り紙付きだ。
実戦でも頼もしい盾になってくれるさ」
真新しい刀を持つ小柄な男子生徒────
セプテントリオン戦まで後7日の状態で雨柳が聖華学園に来たのは幾つか理由がある。
一つ目はこの学校へ打ち合わせに来たヤタガラスの人員の護衛。
この学校には葛葉の子女も通っている他、媛巫女を通じた繋がりも存在する。
今後の避難や戦闘時への連携について打ち合わせは当然必要。
二つ目は学園の近くへ発生した異界の排除。
小さめの異界ではあるが、危険の芽は早めに排除するに越した事はない。
生徒への教導も兼ねて雨柳も参加し、つい先程終えて来た。
そして三つ目は学園の生徒の様子を見たかった事。
久緒やそれ以外にも知り合いは何人もいる。
間が空いた分顔を合わせておきたかった。
特に、最近無事に帰ってきてくれたあの子とか。
「この鬼切の太刀*1があればどんな敵もとまではいきませんが。
次の戦いでも何とかやれそうです。
変に無理せず出来る事をしますが」
「久緒は機動力あるからな。
一撃の重さより手数を重視する方が向いてるさ」
管使いであるならその時点で一廉の戦士、自力戦闘可能なDB。
とはいえ同年代でも小柄な少年では戦士としてはまだまだ膂力が足りぬ。
己の取り柄が敏捷性なら、今のところは其処を伸ばしていくべきだ。
(少し短めの刀身にして正解だったな)
今回雨柳が渡した刀は常よりやや短い業物。
素早く動いて先手で敵を切り伏せる戦い方に適した造り。
異界内の戦いでははた目にも相性は悪くない。
「とは言っても三好さんには負けるんですけどねー。
疾くて正確で鋭い剣……模擬戦では一度も勝ててない。
反復横跳びの回数も抜かされました。
流石は帝都で戦ってる人だけあります」
「今の帝都の子達は本当に優秀だからなあ。
皆とてもいい子だし」
<勇者部>の少女達はこの学校でも人気だと聞く。
ヤタガラス組はも含めて、少しでも楽しい学校生活を送れるといい。
「全員親切で色んな意味でレベルが高い。
風先輩とか最近人気凄いですよ。
僕としては……伊予島さんが一番だと思いますが」
久緒少年は伊予島杏に恋心を抱いている。
ほんのりとした淡い初恋を。
「……そうだな、あの子は同級生から好かれそうだ」
雨柳は畏れ、見ない振りした。
例えるなら敵に背後を取られ、ミサイルにロックオンされたような。
そんな……不吉な予感を。
(頼むから外れてくれ。俺の予感)
犠牲者は己だけで良いのだ。
「北竜ぃー。大根切るの手伝ってくれー」
「おっけー! それでは雨柳さん。
本日はありがとうございました!」
「いやこちらこそ手早く仲魔を揃えられたよ。
それじゃあな」
雨柳に礼を言った後、早速久緒は手を洗い野菜を切り出す。
料理上手と聞いたがその手つきは淀みない。
(打ち合わせが終わるまで後1時間。
邪魔にならない程度に回っていくか)
今後困難な戦闘に参加する学生達のちょっとした参考にでもなれば幸いである。
空いた時間にそれくらいはしてもいいだろう。
こんな話、神聖な学びやですることじゃない!」
────と、思った所で声が聞こえた。
聞こえてきたのは少女の悲鳴に似た懇願。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
気配からするとどういう訳か周囲にいる生徒の数は極端に少ない。*2
差し迫った感じはないが、常と異なる生活でたまったストレスのせいか。
何か諍いでも起きたのかもしれない。
(止めておいた方がいいか?)
警備員や教師、風紀委員が来るまで一応は年長者の多少仲裁するべきか。
そう思いつつ近づいてみると居た面子は、見覚えのある者も多かった。
雨柳も手合わせした事ある棗イロハ他裏十三生徒会の面々。
グランギニョル社と関係の深い、優秀なバスター達である第三生徒会。
未だ少しばかり顔を合わせづらい白野と大鳳。
そして、<勇者部>の少女達。
「 喧嘩じゃないよな? 友奈ちゃんたちがいて」
振り返るは赤い髪の美少女。
愛らしい顔立ちは、素人目にもよく笑う活力の豊かさが見て取れる。
桜を模した髪飾りが実によく似合う娘。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
彼女は雨柳の知古である佐々木と共に行方不明から帰還した少女。
現行の戦況でもなお強大な力を秘め、されど優しさを失わない。
勇者に相応しき魂の持ち主の名は
「何か困ったことがあるんだったら、話は聞く──」
雨柳の言葉に少女は笑顔で。
「えっ」
「あ、今は違うんだったー」
余りにも予想外の呼び名で、雨柳を呼んだ。
過去は幾度なく、襲い来る物である。
聖華学園は帝都東京でも最大級、極めて広大なスペースを持つ学園である。
教室のみならず、多様な生徒のニーズに応えるにふさわしい数の部室。
他校では到底真似できない程にその幅は多様だ。
中でも特に、最近生徒の話題に上りやすいのは『勇者部』。
部員全員美少女で構成された、麗しきボランティア部である。
その掃除の行き届いた部室の中で、雨柳は四人の少女と向かい合っていた。
「……えーと、お茶をどうぞ雨柳さん」
「ありがとう」
樹が出したお茶は程好い湯気をくゆらせる。
少女の気遣いがあふれるもてなしに雨柳は手を付けない。
警戒している訳じゃない。ただ、動揺しているのだ。
(……またなのか。
もしかしなくてもまたなのか?)
雨柳は友奈達とは以前から、少女達の保護者を通じての知り合いである。
ある事件で保護された友奈と犬吠埼姉妹は、その後悪魔業界での活動を始めた。
知識を学びつつ異界攻略で実戦経験を積む中、監督役として何回か雨柳は同行。
時には多少ノウハウを教えたり、また逆に自分が助けられた事もあった。
事情が事情なだけに嫌な思いをさせないよう慎重に接していたが、少女達の善良さ故か雨柳とも自然に話してくれている。
最近は友奈、風、樹の三人共聖華学園に通い始め。
雨柳も又
それでも交流は絶えていなかった。
だから阿修羅会決戦の際、友奈が佐々木達と共に失踪した時はとても心配した。
他のメンバーと共に帰ってきた時はほっとした。
元気そうでよかった、良かったのではあるが。
(二度ある事は三度あるって言うがマジかよ)
レイとロゼ、アイリスに続きまさか友奈まで
度々の事になるが雨柳は動揺せざるを得ない。
「それで友奈、此方の方は」
「この人は雨柳巧さん。お──佐々木さんの知り合いのデビルサマナーで、私達も何度かお世話になっているんだよ」
やや重い空気を嫌った少女に、友奈が返答する。
咲き誇る桜の様な笑顔に可愛らしい声。
一瞬感じた違和感は気のせいだろう。
「雨柳巧……ああ<レイブン>殿か。
京都でも聞いた事がある」
得心する少女の顔立ちは、端正で美しい。
凛とした、誇りと気品が両立した面持ち。
濃い金髪を結わえた容姿はまさしく女武者を思わせる。
男子どころか、同年代の女子まで恋焦がれそうな清冽な少女。
彼女の名前は
「確か帝都ヤタガラスの若手筆頭、ゲイリン候補だった方だな。
今も戦っておられたとは」
「京都でも有名だったんですねー雨柳さん」
「とは言っても10年以上昔の話だしなあ。
俺の後は皆、俺より遥かに優秀だから」
風と樹が流石ですねといった目で見るが、本人からすれば苦笑する他ない。
キリギリスでも実力は認められていてもかつての名声は過去の話。
今を生きる若者達にはかなわないのだ。
(この子が佐々木の言ってた若葉ちゃんか。
園子ちゃんの従姉らしいが京都出身。
此処まで色々あったろうな……)
出身の時点で少女の生の過酷さは押し測れる。
過度な同情は禁物だが丁寧に接するべきだろう。
そのあたりは他の子と同じだ。
「今後は共に轡を並べる事もあるでしょう。
よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」
若葉から感じられる力は、雨柳より遥かに強い。
恐らく友奈とそう変わらない、人類の最高峰かそれに近い。
にも拘らず自分に対しても礼を欠かさない。
実によくできた子だ。
「若葉の紹介も終わったし話進めましょうか。
それで友奈が雨柳さんの弟子だったって本当なの?」
「ついこないだ思いだしたんですけど本当ですよー」
誰かに聞かれた時の為、周回とは言わないが過去周回の事だと部室内の人間は理解している。
其処からどう話が行くのかはまだ分からない。
「雨柳さんと私がいた
「あージエン君のいた所みたいな奴ね。わかるわ」
「<天蓋のトウキョウ>って呼ばれてる所だよね」
漂流者達が来た世界の中では比較的良く聞くパターンである。
核戦争や天変地異を発端に、強大な悪魔の力で東京のみが隔離された世界。
天使や悪魔と人外ハンターと呼ばれる戦士達が、過酷な生存競争を繰り広げていたという。
実に凄惨な世界だった事が印象に残っている。
「掲示板でも何度か聞いた世界だ。
それで、話の状況的に俺は人外ハンターをやっていたのかな?」
「はい。雨柳さんは当時の人外ハンター協会のエースの一人で。
ニッカリってハンターネームを名乗っていました」
「その辺のセンスは変わらないか」
我ながら変化がない物である。
「孤児の私は……
その流れで今くらいの時に雨柳さんに師匠になってもらったんです」
「思った以上友奈ちゃんと付き合い長かったんだなあ……」
過酷な環境だが結城の時の友奈とは密接なつながりがあったらしい。
下手すれば同居していた時期もあったかもしれない。
(そういうのはあのJCたらしの役目……いや俺も人の事は言えん。
アイツは既にいなかったか、それとも何処かで別の事をしていたか)
意外としぶとく生き残っていそうだが。
色々気になる事はあるがまずは友奈の話だ。
「それで悪魔の戦いとか、倒した悪魔の捌き方*3とか色々教わりました。
あの時の雨柳ししょーも凄い強かったんですよ?
レベルが10は上の堕天使ダンダリアンをズバッと倒したりとかして*4」
身振り手振りを交えながら言葉を紡ぐ友奈。
擬音の混じった説明を、何処か昔懐かしく感じてしまうのは気のせいか。
「それでようやく戦況が有利になった所で私達は食料調達のクエストを受けて。
既定の数をパパっと揃えて帰ろうとしたところで……悪魔王配下の
友奈がその先を言わなくても分かった。
恐らく雨柳はアドラメレクに敗北して
(友奈ちゃんは何とか逃がせたか、あるいは切り抜けられたか。
しかしまあ、よりによってアドラメレクか……)
今雨柳の仲魔に魔神アドラメレクがいる事を考えると実に皮肉だ。
悪魔らしく人を襲う堕天使と、神の一柱として社会を護る為に戦う魔神、対照的である。
(そういえばあのアドラメレクやけに強かったな。
ベースレベルはより大分上で80はあったはず。*5。
まさか友奈ちゃんといた時の事が影響したとは言わないだろうな……?)
「あっでも、そのアドラメレクは色々あって強くなった後に私達が倒しました!
流石に大幹部だけあって強かったけど雨柳さんの仇は取りましたので!」
「そうだったのか。むしろこっちこそお礼を言わなきゃならないな。
俺の仇を取ってくれてありがとう」
軽くだが頭を下げる。頑張ってくれた少女へのせめてもの礼だ。
「えへへどういたしまして。
そんな事があったんで雨柳さんと今日会えて嬉しかったんです。
懐かしいなあって」
「友奈ちゃんも私も最近雨柳さんと中々会えてなかったからねー」
第二次セプテン後に会ったのは風が帰ってきた時。
雨柳がいない間にも、当然ながら少女達は心身の成長を続けている。
「前アタシと樹はレイとロゼには会ったんだけどねー。
確かに雨柳さんとはあまりあって無かったかも」
「お、風ちゃん達も二人にあったのか」
「東郷や須美とジュネス行った時会いまして。
折角だから一緒にご飯食べようってなったんです」
レイ達の拠点と、
近場のジュネスに行けば会う事もあるか。
「ロゼちゃんって凄い食べるんですね。
私の倍くらい食べてたから身長も高いのかなあ」
「私も会いたかったなあ雨柳さんの今のお弟子さん。
過去の事はちょっと話しづらいけどお互い仲良くなりたいですし」
「あの子達もいい子だから、きっと君達とも仲良くなれるさ」
過酷な悪魔業界で生きる少女達だろうと、年頃の少女らしい喜びはあっていい。
レイとロゼと勇者部の少女達がもっと交流を持てればいいと心から思う。
「雨柳殿のお弟子さんか。
確か帝都と協力している組織の召喚師らしいが、どの様な人物なんだ?」
「レイはそうね、真面目できちっとした感じの子で」
「ロゼちゃんは私とタイプ違うけどレイちゃんの妹って感じの子だよねおねえちゃん」
「そう、姉と妹って感じの子達だな」
犬吠埼姉妹同様、強い絆で結ばれた二人。
その当たり彼女達と感性は近いのかもしれない。
(平和になったらあの子達も聖華学園に行く時間はあるはずだ。
そしたらこの子達と旅行する機会もあるはず)
まだ遠い未来予想図であるが、現実にしたい物だ。
「夏か冬、時間が出来たらみんなで何処か遠出に行けるといいな」
「前もビルの皆で南の島へバカンスに行きましたからねえへへへ」*6
樹の言葉に心の中が細波立つが表に表さぬ。
件のバカンスで何があったか考えてはいけない。
「……この辺りは雨柳さん、変わらないんですね」
「そうなん?」
「私みたいな子供には決して悲観的な事言わなかったんです。
今とは色々状況違うんですけど、天蓋が解けたらとか戦いが終わったらとか。
ず~と未来の事を話していたんです」
かつては遥か遠く、今はまだ遠いが以前よりも近づきつつある未来。
其処へいつか辿り着いて欲しいと。
子供達は絶望ではなく希望を抱いて生きていて欲しいという願い。
それは確かに過去の自分の中にあったようだ。
(……多少、師匠の真似事は出来ていたのか?)
屈託なく素敵に笑う目の前の友奈。
その笑顔が少しだけ護れたのならば、良かった。
「と、いう事で今後もお願いしますね雨柳さん!」
「もう君の師匠……って程君より強くも教えられる事もないけど。
それでもお互い協力して頑張っていこう」
簡潔に、けれど確かな意思で少女と言葉を交わす。
かつてと今は違えど、少女の幸福を求める事に違いは無し。
人である間忘れてはいけない確かな思い。
「はい! 結城改め高嶋友奈、みんなと一緒に頑張らせていただきます!
皆との楽しい日々がずっと続いて欲しいですから!」
「最近は楽しいって日常が続いているんだな」
かつて御影町────仮に市長になったら即日名前を変更するから保護された時とは大違い。
姉妹共々活力に満ちた表情は実に嬉しく快い物だ。
「最近は楽しいですよー。学生らしい生活してて学校でもきちんと友達増えてますから。
悪魔退治の合間合間に遊んでるしそれに」
其処で友奈は言葉を切り、紡ぐ。
一瞬の沈黙、空気が何かで支配された。
(……今、なんて、言った?)
既に雨柳の背中は既に汗で濡れている。
頬を上気させた少女の表情は、見慣れてしまった物であり。
(ま、まさかっ友奈ちゃんは、友奈ちゃんはアイツと!)
そう、阿修羅会決戦の前、高嶋友奈は既に初体験を済ませている。
相手は同じビルに住む友達たちと同じ。
即ち、自称ダークサマナーと。
えへーと笑う友奈は身をくねらせる。
空気で、分かってしまった。
(佐々木の野郎……やりやがった!!!)
元弟子のまだ13,14の子供が。
フレイヤすらアへらせる奴に。
純潔を捧げていた。
ピシと、脳に罅が入った感覚がしやがる。
友奈の言葉に風が反論し。
続いて若葉も釘を刺して見せる。
その内容も又濃厚で。
(四季を超えたって何!? 何したの!?
てか若葉ちゃんも其処まで行っとるんかい!?)
ピシ、ピシと罅が拡大。
能を揺るがすダメージは増大中。
「えへへ心配しないでよ二人共。
あの人の愛は一人だけじゃ収まらないよ。
色々な意味でねー」
色々な意味、それは当然ながら夜の意味で。
「ア……アア……」
罅が広がり続ける雨柳に気付いた樹が口を開く。
心優しき少女の言葉は素直で。
ピシッ樹の言葉で更に拡大する。
ヤタガラス組の子達が数人一緒でいしていた、のは知ってしまっていたが。
他の子達、杏達までもそうなっていたとは。
「い、い……」
パキン! と完全に脳が壊れた音がした。
もう、色々と駄目だった。
雨柳巧は泣いた。
30を超えて、割とガチ目に。
「た……大変だよお姉ちゃん!
雨柳さんが……雨柳さんが泣いちゃったあ!」
「いちゅきーっ!?」
実に騒がしい一幕が、JCとおっさんによって織りなされていた。
長野県の山々は夜闇と静寂に閉ざされていた。
付近には人家の光もほぼない。
セプテントリオン襲来まで残り七日を切り、避難の準備が進んでいるのもある。
それ以上に元より過疎地域であり、人口は少ない。
主要な産業は農業と、こぢんまりとした温泉。
後の特徴は強いて言うなら、戦争中に築かれたちょっとした史跡。
何でも大本営の移転候補地だったらしい。
結局諸問題で中止されたらしいが。
故に今日に至るまで誰も気づかなかった。
長野県の山中に籠り巣くっていた人々を。
地震が起きた日に山の地下に巨大な施設が出現していた事を。
そして、今日この日現れた者の事を。
「な、何とかせんか! たった一人の侵入者にこうまで……!
お主等それでも護国の剣かあっ!」
「馬鹿な……ワシは……栄えあるヤタガラスの長じゃぞ……!?」
「我らが絶えれば組織は終わる!
だから死守だ! 死守しろおおお!」
高度な技術で造られた施設の最奥、一際広い豪奢な和室の中。
喚き散らすのは中高年から老年の男達。
彼等はとある周回のヤタガラスの生き残り。
世界崩壊の際に、尚も抗戦しようする者達も護るべき民も見捨て。
ただひたすらにこのシェルターへ籠った者達。
世界の異変に気付きつつも、一度も外へ出る事なく成行きを静観して数か月。
彼等は外へ出る事は無かった。
何せ高度な技術に多数の資金を投入したシェルターの生活は快適その物。
生活環境は完璧に保たれ、食料も上質な物が生産可能なアルコロジー。
態々外へ出て護国の伝統を受け継ぐ高貴な身を危険にさらすつもりはなかった。
────戯けた日和見の果てがこの結末だ。
今日この夜に押し入った侵入者はただ一人。
無論防衛用の悪魔や過酷な鍛錬を経た戦士達。
更に高い素質を秘めた文字通りの秘蔵っ子達が防衛にあたった。
見の程知らずはすぐに屍を晒すだろうと。
珍奇な娯楽と感じ酒杯を傾けていた者もいた程だ。
────悉くが滅殺されるとは夢にも思わなかった。
ぶしゃ、金箔の屏風へと血が飛び散る。
「ああ……」
血の主はまだ十代に見える娘達。
元老の護衛は嘆息の様な断末魔を残して死んだ。
凄惨な光景は今やこのシェルターの全域において有り触れていた。
入口で通路で居室で武器庫で、至る所が血と骸が散らばっている。
一刻前までなかった死が、この施設を満たす。
血と骸をを跨がずに、部屋へ踏み入るのは黒き影。
「ここまで侵入を許すとは何と不甲斐ない!
……誰か残ったモノはおらんのか!? 誰か!」
「や……やめろ! ワシを誰だと分かっているのか!?」
「よせっ! 護国の血を絶やすでない!」
てんでに喚き散らす者共を一顧だにせず進む影。
その姿は正確な輪郭が見えず、ただ刀を帯びた事が分かるのみ。
「護国を謡うなら────」
影が口を開いた。
「最期の務めを果たしたらどうだ」
ヤタガラスの長達は影の言葉に答えない。答えられない。
未だかつて相対した事のない強大な悪魔に対し、反応出来やしない。
驕り堕落した護国気取りは何もできない。
────当然の様に頸が落ちた。
「……くだらん」
血振りし刀を鞘へ納めた影は呟く。
九州の戦士達や、忍者と京都の四天王は遥かにマシだった。
後者に至っては自身に少なからず傷を与え、あまつさえ一人逃してみせた。
所が
脆弱で愚かで醜悪極まりない。
その辺の雇われか犬の方がまだましに働く。
これが護国を騙る等嘆きたくもなる物だ。
「……やはり
影が眺めるのは南東の方角、帝都東京の方向。
微かに、微かにではあるがいつか殺し損ねた者達の気配がある。
護国を捨て逃亡した者達は必ず首を刎ねる。
如何なる事情があろうと斟酌しない。
「女子供であろうと護国に背くなら殺すだけだ」
殺戮空間を影は、魔人は歩み向かう。
過去より齎されるは再会の喜びのみならず。
予期せぬ不吉が、脅威もまた来襲する。
運命の日は今日この時も確かに近づいているのだ。
次回は雨柳と彼方の御国勢双方で、セプテントリオン決戦の為の準備を進めていきたいと思います