真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
次回からセプテントリオン決戦に入ります。
セプテントリオン襲来まで残り数日となった今、世間もまた穏やかならぬ状況が続いている。
街々に並ぶ店は多くが閉まり、開いているのはコンビニやスーパー、ホームセンター等市民生活に必要な最低限。
街々を行く人の姿もまばらで、彼等の顔には三度目となる危機への不安。
ごく少数セプテントリオンは政府や背後の結社の陰謀と、声高に叫ぶ者達はいるが無視され、行き過ぎれば官憲によって制されるのみ。
帝都東京に限っても、不穏な静けさが社会を満たしていた。
そんな街のあちこちでは人々が避難の準備を進めている。
元より災害大国な上、2度にわたるセプテントリオンの脅威を見せられれば。
危機感のない人間でも否が応でもせざるを得ない。
それは覚醒者の、参戦予定の戦士でも変わらない。
「ふぁ~疲れたあ。
人間が暮らすのって色々物がいるんだねえ」
雨柳が拠点とするビルの一室、ソファへ腰を下ろすのは少女の容姿をした女神ヒトコトヌシ。
蒼い髪に柔らかな印象の美貌をした女神の装いは、常の和装ではない普段着。
このビルに住む少女達から借りた服はほぼ人間と変わらない容姿故よく似合っている。
「これで貴重品の移動は終わりで。
後はあの子達の荷造りと、本の整理かな?」
「その位だね。皆後二日くらいは此処にいるから。
色々物を仕舞いすぎても何だからね」
ヒトコトヌシに答えるシロガネは、丹念に
人間暮らしていれば思わぬ程に埃が溜まる物だ。
シロガネとヒトコトヌシは今日せっせと拠点の片づけを行っていた。
当然非戦闘員は避難するが、セプテントリオン戦の過酷さを考えればこのビルが破壊される事も十二分にあり得る。
その為仕事貴重品や燃えやすい物、その他諸々は比較的安全な地下へ運び込んでいた。
「ならサマナー君帰って来るまで休憩でいいかしら。
これ読んでいい?」
「共用の奴だし問題ないよ」
「ありがとう。
ヒトコトヌシが本棚から取り出したのは先日完結した週刊誌連載の漫画。
ダークな世界観と迫力あるバトルで人気を博した作品で、キリギリス内にも愛好者は多い。
「うわーよりによって其処かあ。
15巻だと丁度前半戦終了って所で。
そこから新キャラも色々出てくるあたりだ」
「そうなんだ!
いやー前は読めなかった漫画が読めるっていいね。
前は本屋や喫茶店に会ったの読んでたけどこれ以外にも続きが気になるの多かったから」
雨柳やシロガネがヒトコトヌシと出会った異界は、どういう訳かかつての北海道の街並みを留めた状態であった。
中には電気が通り飲食物は一部の保存食以外口に出来なかったものの、本を含め色々な物が残っていたようだ。
そんな異界で特にやる事もない彼女は本を読んだりして時間を潰していたという。
異界や出自について疑問はあるが、ヒトコトヌシは馴染みつつある。
それには人に馴染みやすい気質もあるのだろう。
「……所でさ、次行くのって前行った和風な所と違う所よね?」
「里の方とは違う<業魔殿>って所。
とても大きな船の中に色々な施設が入っているから驚くと思うよ」
「そっかー……今度はどんなスキルつけるんだろ」
女神顔色は青ざめているって程ではないが、僅かにひきつっている。
「前付けた奴やっぱり不満?」
「不満ってより不安かなー。
ワラワのスキルとシナジーあっても積極的に使いたい奴じゃないし。
サマナー君は積極的に使う様な冷酷人間じゃないと思うけどね」
そう、ヒトコトヌシと雨柳の相性は悪くない。
周囲にいる人を見ても少なくとも悪人ではないと女神は思う。
自分に対して酷な扱いはしないとも。
「たださ、これからの戦い考えると怖いなーって」
「……じきに慣れるよ。じきに」
セプテントリオンを超えた後も戦いは続く。
それはもうシロガネの想像を絶する過酷なのが。
(よく原型留めてるなあ僕)
堕天使から始まり2回目のセプテントリオン、そこから数々の外道に魔丞。
<インヴォークシステム>により召喚された悪魔やエデンのエターナル。
短くも濃厚に過ぎる日々を過ごしてきた物である。
「ただそれ以外は手堅いスキルになってると思うよ。
ウチの面子で防御重視はそんないなかったから」
「そういう物かなあ。
パパ上は攻撃重視だったらしいけど、ワラワは逆の方向行くんだねえ」
あの異界で朽ち果てていた<神造魔人 ザオウゴンゲン>。
ヒトコトヌシの父たる悪魔の事は彼女自身もよく知らない。
ただとても強く、何かの悪魔から人々を護る為に戦い、あの異界へ落ちたらしい。
それだけは彼女を創り出した天狗も知っていた。
(まっパパ上の分も頑張らないとね)
ヒトコトヌシが人と過ごした年月はまだ短い。
だけど魂無き悪魔でも何かが訴えるのだ。
人には守る価値があっているはずあると。
父より前、
だから不安もあるが仲魔として人を護る側に立ってもいいかなと思う。
過酷極まりない世界でも希望はまだ残されているのだから。
「……そういえば、って感じなんだけどシロガネ君」
まだまだ時間もあるし仲魔と交流を持っておこうとヒトコトヌシは思う。
シロガネは自分と同じで少々変わった悪魔で、何となくだが話しやすい。
女性陣にはディープで聞きにくい事も聞けるし。
「サマナー君って結構モテるよね?」
「まあ悪い奴じゃないからね」
「このビルに住んでいる子達以外にも、ワラワがあった二人で」
アイリスと光織をカウントする事に、二人共異論はない。
異論があるのは雨柳とかいう奴だけだろう。
往生際の悪い奴め。
「合計6人だけど他にもいたりするの?」
「あ―仙台の方に汐音さんって人いるよ。
ちょくちょく会っているはず」
あちらも忙しいが時間を作って雨柳と会っているが、シロガネはついていってないのでよくは知らぬ。
「って事は合計7人かあ。
モテモテだねえサマナー君」
「ああ。そうだね。……だけど、世の中にはもっとすごい人、いるんだよ」
「すごい人……!?」
シロガネの目を見てはっと息をのむ。
何というか、闇が満ちていた。
────皆あのダークサマナーに堕ちている。
シロガネが大切に想う銀もその親友達も、JC達は皆、そうだ。
日々の生活が喜びと笑顔に満ちているのはいい事だが、あのビルで何が起きているか。
「世の中にはね、すごい人が、いるんだよ」
「コワ~」
窓の外には暗雲が立ち込め、雷が轟いた気がしたが気のせいである。
帝都東京でもお台場の近く、比較的治安が安定している区域。
海沿いである此処は、国から早期の避難が勧告されている。
その為か避難の準備を進めている者も多い。
静かだが何処か緊張感に満ちた空気。
他方で日常らしさも残っている。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背にコンビニのドアが開き、一人の青年が中から出て来た。
市販品のありふれた服装、背に背嚢を下げ片手には購入した品を包んだビニール袋。
中肉中背だが見る者が見れば鍛え上げらえている事が分かる。
(思ったより早く終わったな)
外へ出た青年へと、分厚い雲の切れ間の間から光が差し顔を照らす。
顔立ちは日本人と見まがう程近く、ただ金色の瞳に宿す光は濁っていた。
幾多の死を写してきた常人には正視せざる瞳。
死神や殺戮者を思わせる不吉さであった。
男の名はウォルム、かつての世界から今の世界に流れ着いた
\カカカッ/
| 超人/デビルアームズ | ウォルム | LV73 |
現在デビルバスターとして活動しているウォルムは普段杉並レルムで活動している。
この近辺に来たのは当日防衛にあたる際の下見。
当日は帝都でも海に近い地域に重点的に戦力を配置予定となったらしい。
ウォルムもこの近くでセプテントリオンの迎撃にあたる予定だ。
(建物のない開けた場所は幾つか有った。
あれなら海から来る相手でも存分に"使える"か)
下見の結果幾つか迎撃に良さそうなポイントも見つかった。
これならば剣や
セプテン戦当日は死闘が待ち受けている。
が、それは前の世界からも変わらない。
今大事なのは。
(う……うまい)
コンビニで買った揚げ鳥と揚げ芋である。
この世界で手軽に買える軽食は、適当にゆでた芋や豆ばかり食べていた兵卒の身からすると実に美味だ。
揚げ鳥は肉も衣も心地よい歯ごたえがあり、香辛料が効いた濃い目の味付けが食欲をそそる。
揚げ芋もまた適度に熱く塩味の衣が芋の味わいを深めていた。
これが少額の金で、何処でも食べれるとはこの国の文明は素晴らしいと心から思う。
(うまい……うまいが)
思わず顔がほころぶが、別に浮かび上がる記憶もある訳で。
(あの時程楽しくはないな)
鬼火を覚えてまだ間もない頃、加熱した鶏肉の料理を砦の敵への士気低下に使った時。
一人こっそり芋を焼いてたのがバレ、芋焼きマシーンにされかけ逃げ回った時。
あの時は分隊の仲間も全員生きていた。
分隊長を含め皆相次ぐ激戦とあの、
何回目かも覚えてない敵の猛攻を切り抜けて、気が付いたらこの世界へ流れ着きはや数か月。
忙しい日々の中でもふとした時に思いだす。
「……?」
ふいに視線を感じて振り向く。
視線の先に居たのは先程のウォルムと同じようにコンビニから出て来た少女達の一人。
背は高くない、ノール──分隊の唯一の女性兵士くらいだろうか。
(俺は何か変な事をしたか……?
いや、待てよ)
今更だが、店内をよく見ると机と椅子がある。
(あそこで食べて良かったのか?)
もしかしなくても自分は大分変で目についたかもしれない。
視線の合った少女も同年代の少女に声を掛けられ視線をそらした。
「す、すまない」
念の為悪い人間でない事を謝罪で表明。
うかうかしていると不審者扱いされかねない。
子供の安全に配慮されているのは良い事だが、そうなっては困る。
踵を返しウォルムはそそくさと歩き出した。
ただ一点、最初の少女へ声を掛けた少女は印象に残った。
足運びにぶれない挙措。
何度か戦った騎士、それも精鋭たる敵国の近衛にすら似た揺ぎ無さ。
相当な手練れだろう。
他方、コンビニを出た少女二人も逆方向へへ歩いていく。
「気を付けた方がいいですよ
あの人は悪い人ではない様でしたが、最近は気が立っている人も多いですから」
「ごめん
端麗な顔立ちに鮮やかな青の髪、凛とした声音。
桂と呼ばれた少女は騎士や武士を思わせる佇まいであった。
\カカカッ/
| 剣士 | 速水桂 | LV21 |
何事もなくて良かったと、桂と呼ばれた少女は安堵する。
何気ない挙措だけでもあの男は相当な猛者だと、桂には分かる。
幸いな事に何もなかったが、もし揉め事になったらと一瞬だが肝を冷やした。
「さ、帰りましょう。
この地区は安全ですが、外出は短いに越した事はありません」
長い髪を微かに揺らし、気を配りつつ歩きだす。
凛々しい友人に絵未と呼ばれた少女もついていく。
(やっぱカッコいいなあ桂は)
桂は少し前に絵未の通う女子中学へ来た転校生だ。
凛々しい面持ちを裏切らぬ誠実な人柄の彼女は、瞬く間にクラスの人気者になった。
口数が少ない彼女も級友を邪険にする事なく受け入れ、馴染みつつある。
だが、桂にはある噂が付きまとっていた。
陰口には至らない、ある程度信憑性のある噂が。
────速水桂は
数か月前の2回目のセプテントリオン戦の後から、日本にも難民が来ているという噂は絵未も聞いている。
出自不明の彼等は多くが政府の保護を受けつつも、相当な人数がいると。
事実言葉を濁していたが桂は、つい最近里親へ身を寄せたらしい。
自分のような例は珍しいのだと一度零していた。
(少なくとも……あの悪魔って化け物については知っているのよね)
珍しく青ざめていた友人の事を思い出す。
遠目に見たグロテスクな化物共を、確かに「悪魔」と言っていた。
(それでも私の友達な事は変わらないけど)
絵未も桂も現在中学三年生。来年受験で違う学校に通う様になっても関係を途切れさせたくない。
折角友達になったのだから末永く仲良くしたい。
桂も今に至るまで色々あったんだろうから、この一年もその後も、平和に楽しくお互い過ごせるといい。
(だから今回も……何も起きないといいな)
穏やかな夕暮れに、少女は切に願った。
後に来るセプテントリオンとの第三の決戦の日。
少女の純粋な祈りは未曽有の災害で叶う事なく、されど傷ついた友を再び立ち上がらせる事となる。
故に断じて、無意味ではなかった。
各地にあるレルムの中でも杉並レルムは、比較的平穏を保っている。
「避難所の設営はどうだ?
箱は出来てきたが備品の搬入は」
「丁度持ってきてくれたご婦人が居たようです。
検疫済ませましたがどれも純正品。
ありがたいですね」
「非常用電源? って奴の場所確認したホー。
これで停電が起きてもバッチリホー」
避難所の補強を行う傍ら、備品の搬入を行う者も。
レルムに居住している友好的な悪魔もまた、契約した人間の指示の元走り回っている。
身元が確かな住人が多い上、各所に死角を生まない様に整理された街並み。
決戦を前に混乱ではなく備える方向へ向かっているようだ。
「此処の店は大半が開いているのね。
用事がある身からすると有難い物だわ」
「表の方と違って今が書き入れ時だからかな?」
レルムの一角にあるオープンテラスの喫茶店。
向かい合って座るスクルドと光織は一息ついていた。
アイスコーヒーをかき混ぜるとカラン、と氷の音。
暖かくなってきた気温も相まって心地よい。
「ニッカリさんは……後ニ十分位かな。
私みたいな異能者は自分の分だけでいいけど、召喚師って大変ね」
「そうね、仲魔の強化には時間も素材も幾らあっても足りないわ」
レルムへ一緒に来た雨柳は現在邪教の館へ直行中。
ここ数か月溜まったリソースを開放し、急ピッチで仲魔を揃えている。
セプテン戦でも、それ以外でも勝ち抜けるように。
スクルドも一部のスキルを変更したし、他の仲魔達も同様。
新顔達も含め急ピッチでの調整が合体と並行して必要だろう。
光織はスクルドの言葉にうなづきつつ、思う。
あと数日、まだ準備できる事は無いかと。
(
エデンや他の勢力にあんな奴が何人もいるなら、幾ら対策しても足りるか分からないもの)
自分も危機に追い込まれた、雨柳と再会した北海道での戦い。
あの時から一気に強さを増したが、それでもまだまだ力不足。
己の出来る事を突き詰めていくしかない。
「召喚師もだけど邪教の館も大変よ。
此間も邪教の館の主なんてあれだから。
合体中に「楽しくなってきたな!!」って笑いだして」
「えっやだ怖い。何徹か考えたくない」
「一番怖かったのはその後。パトラの石投げたら「次はどの悪魔を合体するんだ?」って。
何事もなかった様にしていたのは怖かったわね……」
「これ以上はやめましょう」
仲魔も召喚師も酷使されているが、邪教の館の酷使具合はそれ以上。
地獄を超えた地獄の労働環境を考えれば悪魔の身とて、心胆寒からしめるものだ。
しばし沈黙、二人共凄惨な労働環境からは目をそらしたいのだ。
「セプテントリオンの本体、私達の配置近くへ来ないかしら?」
「前は政府とつながりがある奴等が独占してた。
戦えば僕達の方が強いのに」
「雑魚処理よりも大物狩りの方がいいわよね~」
ふと耳に届いたのは通りがかった数人の少女達。
白い制服にベレー帽の、彼女達には覚えがある。
<ブラックフィエンド>、最近名を上げつつある互助組織。
「ほんとほんとー。
ケラケラと笑いつつ去っていく少女達に光織は眉を顰める。
何も大声で主張しているわけではないが、あまり気持ちのいい内容ではない。
ましてや、ブラックフィエンドという組織の推察される内実を知るならば。
「……軽薄な物言いは自身だけじゃなく仲間、組織の品位も下げる。
それが分からない様な子を気にしても無駄よ」
面白くはないが、スクルドは涼しげな顔。
ああいう振舞いは反面教師にすればいいのだ。
「んー……それもそうだよね。
だけどセプテントリオンの本体かあ」
セプテントリオンの本体、前回のキリギリス掲示板に掲示された情報だけでも
今回は一体どんな理不尽存在が来て、誰がどう対応するのだろうか。
「数日後に出現する個体も何らかのギミックや理不尽な強みがある。
それらを解析して攻略するまで耐えて、全滅する前に大火力を叩き込んで倒す。
いずれも出来るのは最強クラスのメンバーでしょうね」
幾多の死闘を繰り広げ、スクルドも雨柳も力を伸ばしてきた。
それでもまだ、極限の戦線で戦う者達には追いつけていない。
レベル100に到達した者も複数存在する彼等に追いつくには、まだ色々な物が足りていない。
(だけどそれでも、万が一の時やらない理由にも頑張らない理由にもならないのだけど)
己の本分を尽くし、超えた事態では死力を尽くす。
言うは易し行うは難しだが、この戦況でなおも戦うなら必要な事だ。
我ながら凍土の神には相応しくない思考だが。
召喚師に影響されたのだと思えば悪くない。
「本体以外の雑魚処理も重要よ。
奴等に比べて脆すぎる人や建物を護るには手が幾らあっても足りない。
当日は連携が重要になるでしょうね」
「連携なら私は得意な方……かな?
ここ最近大きく増した力、それはより深く使いこなせるようになった転生元たる
キリギリス内の知識でも、極わずかな例しかない力もあった。
| 魔力統合*1 | 自動効果 |
連携した攻撃の威力を上昇させるスキル。
≪精霊召喚≫*2を使いこなす光織に合ったスキルだが謎が多い。
(噂半分に"悪魔に依らない人間の力"とは聞いた事があるけど)
謎は多いが有用である事は間違いない。
無数の敵を相手にするのには役立つだろう。
「所でスクルド、ニッカリさんの嫁7号として聞きたい事があって」
「あっやっぱその辺確定なのね」
だが今は準備し体を休め調整する時だ。
来るべき時はもうすぐ其処まで来ているのだから。
(サマナーも大変ね次々と女が増えて)
増えた女に相応しい甲斐性は自分のサマナーに確かに、ある。
そう思う程度には雨柳巧という男へ、スクルドは忠誠を誓っているのだ。
杉並レルムの邪教の館、2週間前から途切れる事なく召喚師達が集まる合体士の地獄。
雨柳は今日も合体に勤しんでいた。
「よぉし! ……今日はどの悪魔を合体させるんだ?」
「……あーそうだな、ラクシュミを頼む」
懇意である女合体士が言葉の途中でパトラ水*3を煽ると目が正気を取り戻す。
末期的な労働環境に内心震撼しつつも雨柳はCOMPを開く。
「ラクシュミをタイプSで合体してゴモリーへ。そこからバージョン3*4の法則で鬼神と合体させたい」
「その組み合わせと法則なら出来るのは夜魔だな」
雨柳は合体士の言葉に承諾。
COMPをケーブル接続し、合体装置へ素材悪魔と女神ラクシュミを送り込む。
回復役を務めていた女神は恭しく一礼。
「短い間だったけど悪くはなかった。
また強くなった私の力を使いこなしてくれると嬉しいわ」
「こちらこそよろしく頼む」
短い言葉の後、合体装置が起動。
微かな唸りと瞬く光。
装置の間へ設置された出力盤に夜魔が降り立つ。
頭頂までを覆う、黒い裾長の衣装に包まれた豊満な肢体。
蜂蜜色の髪に血のように赤い目が、蠱惑的な美貌を強調する。
妖艶なる夜魔が降り立っていた。
「私は夜魔ニュクス。契約の続く限り貴方に仕えさせて頂くわ」
\カカカッ/
| 夜魔 | ニュクス*5 | LV72 | 火炎・氷結・電撃・衝撃耐性 |
「複数の回復魔法に状態異常や吸魔。
味方の支援と敵の妨害が同時に行える支援に長けた悪魔だ」
合体士の解説の通り攻撃性能を切り捨て、支援に特化したスキル構成。
編成の都合上攻撃に長けた仲魔が多い雨柳の手持ちには、欠かせない存在となるだろう。
「俺も相応しいサマナーでいられる様に精進させてもらうさ」
「頼もしいサマナーね。
コンゴトモヨロシク……」
妖艶な微笑を残しニュクスはCOMPへ帰還。
続いて雨柳が出すのは妖鬼オンギョウキ。
「オンギョウキを経由してこの悪魔へ。
法則はバージョン5.05で頼む」
「バージョン5.05か?」
ver5.05は現行最新の法則であるver5の改定版。
ほんの数か月前に発表されたこの法則はまだ不規則な要素が大きい。
合体事故でスライム化する確率が高い訳ではない。
ただ
レベル70後半以上になるとせいぜい数レベル程度だが、60代までならほぼ確実に10近く上がる。
その為一部を除くサマナーは使用をためらっている所もあった。
「ベースレベルを考えれば10程上がっても大丈夫だ。
今は少しでも高いレベルの悪魔が欲しい」
「了解した。念の為注意しておけよ」
恐らくないだろうが、セプテントリオンの他に控える敵との交戦。
想定される強さを考えると高レベルの物理反射持ちは居るに越した事は無い。
「御屋形よ。次も有意義な働きが出来る様精進させてもらうぞ」
「ああ、この後も期待している」
オンギョウキは一言述べ、合体装置へ入る。
再びの振動と光、制御盤へ象頭の悪魔が降り立つ。
黒い巨体にほの赤く光る単眼。
太い腕は剛力をうかがわせる。
「ワシは邪神ギリメカラじゃ。
お主の盾であり鉾として戦わせてもらおう。
コンゴトモヨロシク」
\カカカッ/
| 邪神 | ギリメカラ*6 | LV76(66+10) | 物理・銃撃反射 破魔耐性 呪殺無効 電撃・衝撃弱点 |
「物理反射に加え、敵の耐性を貫通する≪地獄突き≫*7に≪毒の液≫や≪氷結ガードキル≫*8。
弱点はあるが使い勝手のいい悪魔だな」
「その通りワシが居れば百人力ぢゃ」
「という訳で今日の予定は終わりだな?
これから私は8分の休憩に入るぞ」
言うのと同時に安楽椅子に座り傍らの冷蔵庫からチョコレートと飲料を取り出す。
ギリメカラは雨柳を見たが、意味深な目くばせが帰って何かを察する。
そして何も言わずCOMPへ入っていった。
「それじゃあ次はセプテン後に頼む」
雨柳の言葉に合体士はうなづく。
一瞬だろうと休憩時間が惜しいのだ。
・
・
・
各所にある葛葉の里──ではない拠点の一つ。
此処も又ヤタガラスや所縁の組織の召喚師で賑わっていた。
一時的に里から移ってきているのは葛葉所縁の合体士達。
何せ葛葉の里へ行くのは時間も手間もかかるし、追跡を外す手間もいる。
その為合体士や刀鍛冶の一部はこのビルに移動していた。
元は壊滅したガイア系組織の拠点を押収した物。
ビル内の設備はある程度整っており、比較的短時間の修繕で活用できた。
「お望み通りの悪魔です。ヨロシクオネガイシマス」
……最もなかで働く人間はそうはいかないが。
床に突っ伏した合体士が指で出力盤を示す。
その先にはこれまた巨体の悪魔。
「我は鬼神トール。ヒトがラグナロクを否定するならばそれもまた良し」
\カカカッ/
| 雷電属/鬼神 | トール*9 | LV76(56+20) | 破魔耐性 火炎・衝撃無効 電撃吸収 |
巨体を鎧で包み、雷を纏う鉄槌を手にした鬼神。
≪物理・銃撃貫通≫*10を備え耐性を持つ敵にも突破口を開ける。
物理と電撃両面での攻撃に長けた悪魔となった。
「我が強力を振るい、終わりを否定しよう。
……所でこの男は何故」
「そのあたりはツッコまないでくれ」
「……ウム。コンゴトモヨロシク」
何かを察したかトールはそのまま管へ吸い込まれた。
悪魔も世の中には触れざる事があるのだと分かっているようだ。
「それじゃあ俺は行くから。
今日はありがとうな」
「ヨロシクオネガイシマス」
差し入れを置いてそそくさと退出。
当然だが後方は後方で別の過酷さがある。
国家所か人類滅亡のかかった大一番だからこそ。
仕方ない事だが同情してしまう。
(トールや他の仲魔の力も活かさないとな。
いやマジで活かさないと申し訳ねえ)
強迫観念にも似た使命感を抱きつつ歩く。
今日は夜から葛葉管理の異界で最終調整。
それが終わったら今は自分のみとなったビルに帰るだけ。
(行く前に御影さん達に電話しておくか)
四人共昨日から不測の事態に備えて、葛葉の里の一つへ避難している。
厳重な警備が施されている其処は普通の避難所よりもはるかに安全だろう。
帝都ヤタガラスを抜けた自分がその恩恵を受けていいのかと思うが。
(キリギリスに参加した時はこうなるとは夢にも思わなかったな)
己の愚かさを悔い立ち上がったあの日から戦い続けて、過去の周回から自分を知る者が来て、帝都ヤタガラスと再び繋がりを持った。
自身の力も仲魔もかつてとはまるで別格なまでに高まっている。
これまでの腑抜けた10年間とはまるで違う、激動の日々。
(色々と変わったもんだ)
護れなかった人もいる、新たに増えた後悔もある。
だけどあの日から変わったのは、悪い事ばかりじゃない。
「おや、ごきげんようおじ様」
「おはよう夕海子ちゃん」
例えばかつて傷つけた少女を護り、交流を持つようになった事とか。
「朝早くから警備ご苦労様。
最近はどうかな?」
「流石に肩が凝ってきましたの。
だけどわたくしは弥勒家の淑女。
情けない所は見せられませんわ!」
それは確かに、雨柳の行動がもたらした成果に違いない。
帝都全域に危急を告げるサイレンが鳴り響く。
『警報! 警報! セプテントリオン警報!!』
『セプテントリオンの出現が予測されました!!
ただちに最寄りの避難所に避難してください!』
『 繰り返します! セプテントリオンが出現します!
これは訓練ではありません! 避難してください!』
切迫した語調の放送と共に、人々が動き出す。
覚醒者と非覚醒者、戦闘員と非戦闘員の区別なく。
「来ましたか、準備は出来ています」
「まったく日陰者の俺たちが業者だってよ」
「お天道様の下で働けるとはなぁ。
安い報酬だけど、IDタグ無くすなよ」
「これ以上逃げる場所はない。
勝率が少しでも上がるならばやるべきだ」
「ひゃっはー! 国道開放! 戦時解禁だよー!!」
逃げる者と戦う者、はたまた己の本懐を遂げようとする者。
帝都に活きる人々が動く、動く、動く。
「…………」
唯一体、魔人のみが不動であった。
片手には大業物の刀、もう片方には恐怖に顔をゆがめた生首。
京都ヤタガラスなる腑抜けの生き残りの残滓を、適当に放り捨て眼下の帝都を一瞥。
巡る視線が、不意に止まる。
先は帝都随一の電波塔スカイタワー。
「あそこか」
魔人は駆け出す。護国を放棄した罪人の首を刎ねる為に。
セプテントリオンと人の決戦と同刻。
人と魔人の決戦が始まろうとしていた。
次回、≪護哭絶影血戦≫開始