真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
あちこちが破壊され瓦礫と化し、海水が流れ込み水が地に薄い膜を張る。
第三次セプテントリオン戦開始から一時間以上、東京の街は様変わりしていた。
なおこの蒼い星を埋め尽くさんと増殖を続ける
無限そのものである紫の球体との戦いは、果てしなく続くと思われたが。
「しゃあっ! ようやくくたばりやがったぞあの腐れ葡萄!!」
「腕いてえ!? 筋肉だか骨が痛えのかわからんが痛ェぞははは!」
「ま、マジ疲れた……でも生きてるよな俺ら……?」
陸海空全てからミザールの姿は消え失せ、今街々に満ちていくのは人々の歓声。
現地人に漂流者、戦闘員に非戦闘員、覚醒者に非覚醒者。
立場や出自の違い等関係なく、皆が歓声を上げていた。
人類は第三の喇叭を乗り越えたのだ。
新潟の魔王城で行われた決戦とその結果、そしてミザールの討伐が為になされた事を殆どの人々は知らないだろうし、今後も知る事はないだろう。
それでもかつてない程の激戦を生き抜いたDB達の顔には、達成感がある。
大小さまざまなイレギュラーを挟みながらも、三つの脅威を打倒したのだから。
とはいえこれで戦いは終わりではない。
そう遠くない内に最後のセプテントリオン戦が控えており。
メシアガイアの他、全容の見えない三大勢力も未だ健在。
そしてそれ以上に────ミザール撃破までの諸外国における甚大な人的・物的被害。
キリギリス内で観測された断片的な情報のみでも、過去のセプテン戦に勝るとも劣らない程。
場所によっては救助される者と救助する者、被害の統計を取る者も纏める者すら皆無。
僅か一日にも満たない間に、あまりにも多くの人間が死にすぎた。
「体に違和感ある奴は報告しろ。
死神医療チームが無料で検診と治療するから」
「とりあえずここの瓦礫片して車両通れるようにするぞ」
「水棲系の仲魔持ちいるか?
海の様子がどうか確認しておきたい」
「辻ヒール3班巡回いくぞー」
それでも、DB達は動き続ける。
この先に新たな苦難が待ち受けていようとも。
今己の手で少しでも状況を良く出来る事を。
地道にしていくしかないのだ。
此処まで生き抜いてきた彼らはよく理解していた。
戦場となった地域の後片付けをし、排水や海中を確認し。
負傷者の治療を行い、火事場泥棒等の混乱に備える。
自衛隊員や警察官とも協力して、事態の収拾にあたっていく。
「砕けないように持ち上げるぞ。
3、2、1、と」
戦闘終了からしばらく、雨柳もまた事後処理にあたっていた。
巻き込まれた人がいない事を確認してから、仲魔と共に瓦礫をどかした。
細かな瓦礫が排水溝を埋めない様に、スコップ等も使い慎重に。
瓦礫がなくなると、排水溝はまるで息を吹き返したかの様。
徐々に水を吸い込みんでいくのは爽快ですらある。
「よし、と。此処はもう大丈夫そうだな」
「俺は橋の方行くけど、あんたはそろそろ休んだ方がいいんじゃないか?
こっち来る前も大変だったんだろ?」
「ああ、まあ、な」
協力していたDBの言葉に素直にうなづき、反対の道へ進む。
流石にそろそろ潮時かもしれない。
正直に言えばかつてない程に疲れている。
余裕があった再序盤はともかく、そこから強大な魔人との死闘。
更にはギガント級ヒュージや多数のミザールを相手どったのだ。
ガリバー・マジック*1等を使い、深刻な内傷がないのは確認したが。
回復魔法を使ったとはいえ重い疲労が蓄積している。
(刀握る気にもなんねえのはいつ以来だったか……)
この半年近く激戦続きで、10年前も幾多なく死を覚悟する程の戦いを経験した。
それでも今回のカゲボウシが紛れもなく最強の敵であり、斬られた数等数えきれない程。
本音を言えば今すぐ帰って寝たい位だ。
だが、もう一つだけ確認したい事があった。
クズノハの里にいる御影達や仙台にいる汐音の無事は先程確認している。
共に東京で戦ったアイリスや光織も無事だ。
現に先ほど、言葉を交わし決戦を生き延びた事を喜び合った。
もう既に連絡を取ってはある。
けれど雨柳が直接無事を確認したいのは。
「おじさん……」
「レイブン……」
雨柳と同じように血と水と戦塵に濡れ。
顔に深い疲労を浮かべたレイとロゼ。
二人の事は直接見ておきたかった。
雨柳と同じ様に魔人戦の後もヒュージやミザールと戦い続け。
過酷な戦いを生き延びた二人は、確かに生きていた。
「二人共良く頑張ったな。
疲れているだろうけど、もう少しだけ歩いてくれ。
合流予定の地点は────」
そこまで言った所で、二人が雨柳へしがみついた。
小刻みに揺れる肩に、伏せた顔から聞こえる嗚咽。
緊張の糸が切れたからか、雨柳が生きている事への安堵か。
何れにせよ雨柳に出来るのは、少女達の背中を抱きとめる事だ。
(レイもロゼも……良く……生きてくれていたな)
超越者の域に達した魔人との死闘。
得た物は幾つもあるが、最も大きいのは。
少女達の生がまだ続いている事だった。
何処かで小鳥の鳴き声がして、微かな風が木々を揺らし音を添える。
間に並ぶのは懐かしさを感じさせる和風の建屋。
和風の情景で統一された里は平穏そのものであった。
「どうです巧さん? 私の料理は?」
「美味しいよ。御影さん本当にうまくなったなあ」
彼方の御国の面々が住むクズノハの里の一角。
雨柳と御影は食卓を囲んでいた。
魔人との死闘が嘘のような穏やかな日常があった。
「ここ半年間時間を見つけては練習しましたからね!
色々ばっちり作れますよ」
ふんす、と豊かな胸を張る御影。
柔らかく知性を感じさせる整った顔立ち。
二十を半ばも過ぎ大分大人びたが。
その表情は変わらないなと雨柳は思う。
御影が用意した昼食の膳は里に見合った和風。
白米と玄米が盛られた茶碗に塩気が強めの沢庵。
味噌汁はなめこが趣深く、カレイの煮つけはまろやかな触感。
寝起きからまだ時間がない自分への確かな気遣いが感じられる拵え。
見た目も整えられた膳は、御影の確かな研鑽が感じられた。
元々御影は料理が苦手だった。本人曰く「プログラムとかは間違っている所分かれば修正出来るじゃないですか。でも料理は分量とか手順間違えたら修正難しい。怖い」との事。
だが企業サイトを見たり掲示板で話を聞いたりして練習していたらしい。
その頑張りの理由の一つが自分だと思うと嬉しくなる。
「調味料の比率を完璧にしただけあって我ながらいい味出てますね。
やっぱり料理はレシピ通りに作るのが一番です」
「うん奥行きがあるというのか……実にいいなあこの味付け」
────第三次セプテントリオン戦から早三日が経過していた。
世界のみならず日本国内でも空前絶後の激戦の影響は大きい。
何せ北と南2体のメラクとの戦地になった上に、帝都にドラゴン等の特殊個体が複数出現。
どうにか撃破したが一線級のDBの多くが疲弊し休息や補給を必要としている。
また世界崩壊の脅威を間近で見た非覚醒者の民間人と、これまで戦闘に積極的でなかった漂流者の動向も気がかり。
この世界が決して滅びない楽園ではない薄氷の上に維持されている事を気付いた者達が絶望し、自他を害する方向に進まないか。
既に政府や護国側は動き始めているというが、慎重な対応が必要とされるはずだ。
そして更に、雨柳の倒した魔人カゲボウシの起こした被害。
決戦当日の被害はレイとロゼが戦闘不能に追い込まれたのみではある。
だが、それまで西日本を中心に起きた被害は目を覆わんばかり。
ただでさえここ数年で魔人を筆頭とする破滅勢力に大きく削がれ、生き残った精鋭も少なくない数が刀の錆となった。
特に当代マンゲツ及び浪速十忍の大半を失った関西方面の護国勢力は、今後の防衛活動に大きな支障をきたす事だろう。
なお魔人カゲボウシを討った雨柳の名声は、西日本の護国界隈でも高まったとの事だが。
それが新たに問題を引き起こす可能性もあり、調子に乗ってはいられない。
むしろ名声を得た事で対処するべき事も増えてきそうだ。
そう、第三のセプテントリオン戦の後も問題は山積み。
如何に混乱を収拾し、休息をとり補給し体勢を立て直すか。
それが今後の決戦の明暗を分ける分水嶺となる。
「ご馳走様でした」
食事を終え箸を起き、食器を片付ける。
流し台の高さは御影からするとやや高めだが使えない程じゃない。
二人で手際よく皿を洗っていく。
今この家にいるのは休養中の雨柳と御影の二人だけ。
あかりは彼方の御国組への食事の準備、奏と響はアイテムの製作。
三人とも暇だからと笑っていたが進んで手伝いをしてくれていた。
「ねえ、巧さん」
最後の皿の水をふき取り、戸棚に仕舞った時だった。
「……ロゼちゃんとレイちゃんどうでした?」
ひと段落した所で、御影が多少重く口を開いた。
セプテントリオン戦の後病院に運ばれた二人。
命に別状はないと聞いているが、気がかりだった。
「……精密検査でも後遺症は無し。
ロゼは昨日まで熱を出していたが、原因は疲労で体温もそう高くない。
二人共数日以内に復帰できそうだ」
この世界においても規格外の敵である魔人カゲボウシ。
異様なまでに鋭い刃は少女達の体に今や疵さえ残っていない。
無論瀕死にまで斬られた事で幾らかレベルダウンはしたが。
相手を考えればあまりにも幸運な予後なのだが。
「ただ……どうも気にしているみたいでさ。
二人共大分落ち込んでいるんだよ」
気にしないでもいいのに、と雨柳はつぶやいた。
帝都ヤタガラスとの接触以来、彼方の御国の先陣に立ち幾度なく成果を上げてきた。
病院防衛戦を皮切りに魔丞討伐、WGM掃討、新世塾襲撃に混沌の奇禍の混戦。
手ごたえをつかんでいた所で今回の完敗は、堪えたはずだ。
(それとなく二人の評価が落ちてない事は確認したが……。
いい子だからこそ自分を責めるんだよなあ)
どうしたものかと考えたところで、白く細い指が重ねられた。
「巧さん今日までは休養日でしたよね?」
「ああ、そうだけど」
魔人と最前線で戦った雨柳も疲労が激しく今日までは休みを取っていた。
流石に翌日は体を治したものの起きるのもきつく。
ようやく今日になって疲労が抜け、明日からは諸々の調整を始める予定だった。
そう、今日は予定が空いているわけで。
見上げる御影の目から言いたい事が大体わかった。
「レイは訓練施設で調整していて、ロゼはまだ家で寝ているはずだ」
「なら巧さんはレイちゃんの方お願いします。
ロゼちゃんは私が行きますので」
そう、やる事は一つだ。
あの子達とお話、しましょう
私はロゼちゃんの所に行きますから。
巧さんはレイちゃんお願いします」
ぐっと、御影はこぶしを掲げた。
帰るのは時たまではあるが、ロゼとレイの家もこの里にある。
和風の建屋の内側には雰囲気を壊さない様に、色合いを選んだ家具が設置され。
かつてこまどりに住んでいたレイの美意識とロゼの好みが合わさった装いだった。
熱は下がったけど、まだ重く感じる体。
前熱を出したのはいつだっただろうか。
「んしょっと……」
ロゼは額に貼っていた冷えピタを引きはがす。
既に冷たさを失ったそれを、丸めてゴミ箱へ。
「はい、ロゼちゃん新しい奴ね」
「ありがとう御影さん」
御影が冷えピタを取り出して、ロゼに手渡す。
包装を取って自分の手で額へ。
貼ってもらうのは流石に少し気恥ずかしい。
「熱は下がったって聞いたけど食欲はありますか?
アイスやお菓子も持ってきましたが」
「ご飯はレイが作ってくれたの食べたよ。
お菓子は……」
時刻は三時前、丁度昼食をとってから三時間程。
「食べます」
「ふふ、そう言うと思って色々持ってきましたよ」
断言するロゼ。
食欲があるのは良い事だ。
生体マグネタイトを消費し戦う異能者は、健啖家が多い。
その中でもロゼはまだ小柄な体にも関わらず食べる方だ。
御影が一口二口食べる間にも、菓子が口の中へ消えていく。
「ロゼちゃんのベッドや枕、ニ〇リの物なんですね。
私はもう少し大きい方がいいかなって、別のベッド買いましたが。
使い心地はどうです?」
「シェルターで使ってたのより使いやすいよ。
前使ってた枕はどうも柔らかすぎて」
日常の他愛のない事や、ロゼが住んでいたシェルターの事。
悪魔や異能の絡まないありふれた話。
数日前の死闘が噓のような平穏な空気だった。
「この羊羹凄く美味しい。
確か……よく取引先への贈り物になる奴だっけ」
「そうそう、贈り物として定番の品です
ロゼちゃん良く知ってますね」
最後に羊羹を食べてお茶を飲み一息。
まだ疲れが残る体に甘味が心地よく染み渡る。
「…………」
一息ついた所でしばしの沈黙。
響くのは時計が時を刻む音のみ。
「……おじさんは、今日はどうしているの?」
やがてロゼが小さな口を開いた。
雨柳巧、通称レイブンの悪魔召喚師。
レイの師匠でこの世界に来てからは自分も世話になり。
様々な敵と戦う中で何度も共闘して、戦い方を学んだ。
そして数日前の決戦で────魔人から命を助けられた。
「今日は訓練場へレイちゃんに会いに行ってますね」
「訓練場……? あ、まずいかも。
さっきレイから、
ロゼの言葉を聞くとなら連絡しなくてはと、御影がアプリでその旨を雨柳へ伝達。
すぐに返ってきた返信によると雨柳もレイの元へ行くらしい。
物資の補充や情報の交換等、あちらも色々人手を必要としているとの事だ。
「これで良しと、行き違いにならなくて良かったです」
「おじさんって働き者だね。
あの戦いからまだ数日しか経ってないのに」
俯きがちなロゼの言葉。
寂しげで申し訳なさそうな。
(ロゼちゃん……落ち込んでいますか)
御影はああやっぱりかと感じた。
詳細な事は自分は知らないが。
(自分が負けて巧さんが戦った事を気にしているのかな?
そんな事気にしなくてもいいのに)
戦士ではない御影は戦闘の詳細は知らない。
ただ今回雨柳が戦った相手は空前絶後の強敵。
ロゼとレイが負けた後、凄絶な死闘の末に斃した。
そこまで知っていればまあ想像は付く。
(なら、会いに来た当初の目的通り)
じっくりと話していくしかない。
それは雨柳だけではなく、記憶はないけど。
この子を産み出した一人が自分なのだ。
ならば自分が向き合うべき相手だ。
「あの人はそうですね、じっとしているのに、あまり向いてない人ですから」
「向いてない人……?」
「ええ、あの人は昔からそうなんです。
つい人の為に走っちゃう」
何せ雨柳が16、自身が11の時からの付き合いなのだ。
年月の長さは己が正妻を自任する圧倒的なアドバンテージである。
「異変が起こった最初は異界で引きこもってやり過ごそうなんて事を考えてたんですけどね。
結局銀ちゃんと会ったのをきっかけにこっちへ戻ってきたんです」
「あー前銀ちゃんからちょっと聞いたかも。
一度おじさんに助けられた事があるって」*2
自分が来る前の雨柳について話題になった時そんな話をしていた。
まだ銀も
「でも以外だね、おじさんがパ……異界住みなんて。
色々あったのは想像つくけど」
10年前に一度ヤタガラスを辞めたのは知っている。
だけどこの世界に来てから知った雨柳のイメージと少し違う様に感じられた。
「人に、歴史ありって事です」
ロゼが言いかけた所はスルーする。
その言葉知っているのかとちょっとドキっとしたのだ。
「一度は落ち着くかなと思ったんですが。
異界にいた時も安心する処か、考え込む時間が多くなって。
自分が何か出来たのでは、助けられたのではって自問していましたよ。
楽な生き方なんて出来ない不器用な人」
その辺りは自分と出会った時から変わらない、変わる事が出来なかった。
幸福な小楽園での安住に満足しなかった。
「実際キリギリスで動きだす前も割と頻繁に人を助けてきたんです。
あかりちゃんに、奏ちゃんと響ちゃん」
「僕はまだ会ってないけど汐音さんに、此間会ったアイリスさんと光織さん。……人気者だなあ」
「はい、自慢の人気者です」
正妻としては喜ばしい限りである。
「……実をいうとね、
あの人私の知らない間に色々やっていそうですから」
「た、確かに……。カンナさんも前の会議で……!」
本人は「俺の知らない俺の像を出すな!」と言っていたが、納得を感じてしまう。
「と、まあそれは置いておいて。
結局の所あの人は自分が箱庭の幸福を得るだけじゃ満足出来ない。
自分の知る人にいつも幸せでいて欲しいと思っている人だから」
帝都ヤタガラスにいた時も、辞めてフリーとして活動していた10年も、キリギリスに所属して再び戦いだしてから今までも。
他者の平和と幸福を求めるからこそ、刀を手に取り仲魔と共に戦う。
捨てられない、捨てきれない
「レイちゃんもロゼちゃんも、元気で笑顔でいて欲しい訳で。
今回の戦いの一番の報酬は貴方達が無事だった事だってて。
絶対にあの人はそう思っていますよ」
そしてそれは御影にとってもであり。
「本当に……無事で良かった……!」
まだ会って間もなくても、過去の事を差し引いても。
この愛らしい少女が過酷な中でも無事と幸福を心から願う。
「……うん、今回は無事に帰って来たよ」
ロゼの黒い髪を撫でる優しく柔らかな声。
心からの言葉につい、視界が滲みそうになった。
「だからこれからも、無事に帰るね……!」
敗北への慰めとか関係なく、少女達が生きている事を喜ぶ人は確かにいるのだ。
それからもう少し話をして、ロゼがまた寝付いたのを見届けて。
帰ろうとしたところでもう一度だけふと、顔が見たくなった。
(良く寝ているから起こさない様にしませんと)
音をたてない様に車椅子を慎重に動かし。
寝ている少女の顔を見下ろす。
あどけない、生まれ出てまだ2年の少女の無垢な寝顔。
とても愛おしく感じられて。
(……まさか)
不意にある考えが、御影の脳裏に浮かび上がった。
それは論理的な思考の組み立てではない。
本能的な直観による思考。
(流石にそれは……ない、かしら?)
証拠も根拠も何もない、益体もない考えだ。
小首を傾け、自分の思考を否定する。
まさかロゼが────雨柳の娘なんて事は。
流石にないだろう。
世界が荒れていても日が落ちれば、夜闇が天を満たし月は輝いている。
「思ったより遅くなったな」
彼方の御国の拠点に行って
彼女を先に返した後荷解きの手伝いやら、顔合わせやらの軽い仕事。
その後混雑もあって少し帰るのが遅くなってしまった。
本来は休みだったがどの道予定が空いていた身。
この程度の手伝いはしてもいいだろう。
(皆待っているだろうから急がないと)
今日の夕食はレイとロゼも参加する予定となっている。
二人共大分元気を取り戻した様で何より。
合計7人の食卓はいつもよりも賑やかになるはずだ。
存外に広い里を足早に歩く。
微かに響く砂利を踏みしめる音に加え。
腰に差した鞘が微かな音を立てた。
「もう少し上向きにしておくか」
刀は<バルムンク>*3で、鞘は予備の物。
何せ魔人との決戦に使用した霧氷月影*4は刃こぼれが酷く。
鞘に至っては戦闘の余波でズタズタに破壊された。
防具も含め諸々の装備の再調整が必要だろう。
無論どういった効果を持つか等について鑑定及び検査が必要だ。
しかし強力な武器であるならば物置で錆を浮かしておく事は出来ない。
どうしても適さない事もなかれば、直に雨柳の佩刀となるはず。
────これからも死闘が待ち受けている。
その中には魔人と同等かそれ以上の敵がいても何らおかしくはない。
(正直嫌になるって、気持ちがなくはない)
好き好んで危険に立ち向かう性質ではないのだ。
自分が死ぬ事も、誰かも守れない事もごめん被る。
それでも、手にした力を振るう必要があるならば。
また戦場へ立ち、刀を振るおうと決めている。
何もせずうずくまっているよりは、よっぽどいい。
後悔ならこの十年間に数えきれない程した。
(そして……いつかの時も)
魔人戦で微かに浮かび上がった記憶。
殆どが消えうせたが、微かに残った確信。
誰かの手を取る事なく死んでいったいつかの記憶。
多分その時の未練が、自分の根源にある。
あれから後悔を抱え、もはや記憶にない幾つもの世界で屍をさらし。
レイやロゼのいた世界で、この世界でも己の愚行は人を傷つけた。
最初の罪も、それ以降の罪も全てを償えないかもしれない。
それでも、それでもキリギリスに参加し、この世界で戦い続けてきた。
だから辛くても、護れた人の幸福を胸に生きていこうと雨柳は思う。
幸い自分は人に恵まれていて、支えてくれる人や共に戦ってくる人は多いのだ。
(さてと、皆待っている中辛気臭い顔をする訳にはいかないな)
少なくとも今日この里は平和だ。
それは雨柳を含む皆が勝ち取って得た物。
ならば羽を休めるとしよう。
「レイブン!」
「おじさん!」
家の外へ出てきたレイとロゼの元へ歩み寄る。
世界はまだ滅び切っておらず、確かに続いていた。
◎おまけ:第三次セプテン戦終了時の雨柳及び仲魔のデータ
第三次セプテン決戦も終わりましたので雨柳及び仲魔のデータを載せておきます。
雨柳データ
| 悪魔召喚師 | 雨柳巧 | LV87 | 全体的に強い*5 電撃*6・精神・破魔無効 魔力・呪殺反射*7
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| 【所持スキル】 ●トゥームストーン ●十文字斬り(P5仕様) ●奥義一閃(DSJ) :敵全体に物理属性大ダメージを与え、低確率で即死させる ● ●稲妻一閃:敵単体に力依存の電撃愛称大ダメージ ● ●バイトザブレット ※戦闘時にはこの中から4つセット | 【 ●報復の狼煙:一戦闘で一度HPが0になった時HPを50%回復し復活する ●葛葉流悪魔使役術:敵攻撃時召し寄せ・隠し身・前転のいずれかが低確率で発動 ●猛反撃(DSJ):物理・銃撃属性攻撃へ大威力の反撃を行う ●正義漢(SH2):見方が戦闘不能になる攻撃を受ける際低確率でカバーする
【刀自動効果】 ●大いなる吸魔 ●バルムンク 前者は霧氷月影装備時、後者はバルムンク装備時に発動
| |||||
刀装備:霧氷月影orバルムンク*8 銃装備:武器COMP六六式召喚拳銃改 | ||||||
仲魔データ
| ◆<神造魔人 シロガネ LV79> 轟雷・改を始めとする電撃魔法の他、敵の攻撃ダメージを30%防ぐ神奈備ノ守(真Ⅴ)等での支援も可能な後衛。 最近の戦況だと大分厳しくなってきたので、そろそろ強化が入るかもしれない。 ◆<軍神 スクルド LV78> 大冷界や慈愛の猛反撃によるカウンター、その他ラスタキャンディ等様々なスキルを持つオールラウンド型。 ◆<魔神 アドラメレク LV81> D2メギドフレイム相当のメレク・シェメシュを中心とした火炎特化アタッカー。 ◆<堕天使 バルバトス LV76> 衝撃・銃撃系スキルの他道具の知恵・癒で痒い所に手が届く支援型。 ◆<女神 ヒトコトヌシ LV75> 北海道で加入した曰く有り気な女神 氷結魔法の他、ラク・カジャオンに死なば諸共でしっかり仕事をしてくれる。
上記の仲魔の他に戦闘系の仲魔として、管での使役で<雷電属/鬼神 トール LV77>、COMPでの使役で<邪神 ギリメカラ LV77>と<夜魔 ニュクス LV73>に<幻魔 イルダーナフ LV74>を仲魔にしている。 また戦闘系以外にも捜査用の<雷電属 アガシオン>と本拠地の維持・護衛用に<妖精ゲフィオン>と<妖魔ヴァルキリー>。 シロガネ含めて計12体が雨柳の仲魔となっている。 |
今回でアナザーキリギリスの第三次セプテントリオン編は終わりとなります
今後は本スレの魔王城決戦を読みつつ、セプテン後の話を進めていきます