真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス-   作:ローグ5

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先日に引き続きふと思いついて書いてみました。
今回は原作で名前だけ出たあるJCが主役です。


防人お嬢は今日も頑張る-前篇-

 異界の澱んだ空気が祓われ、冬特有の澄んだ空気が徐々に場を満たしていく。

 月明かりの下廃トンネルに続く朽ちた道路にたたずむ者達はこれまでよりも深く息を吸い込んだ。

 

「いやあ助かりましたよ先輩。最近はついに東京のGPまで上がってきましたからね。

 異界潰すのも手がかかってかかって」

 

 先程までは異界化していた廃トンネルの前で20代後半頃の男が幾分か年上の男へ話しかける。

 以前から何らかの関係があるのか、気安げな男は随分とほっとした面持ちだ。

 

「別に良いさ。こちとらロートルの悪魔召喚師。

 過労にならなきゃ仲魔の補充でも技の調整でもなんの為にでもやってくつもりだしな」

 

 話相手の男──雨柳巧(うりゅう たくみ)はクズノハ時代の後輩にそう答えた。

 

 先日の"アコライツ"なる組織によるヤタガラス襲撃事件。

 それ自体はキリギリスの協力も撃退出来た物のどさくさに紛れて四天王の一角であるゾウチョウテンが討たれ、東京の結界は大きく弱体化している。

 当然の帰結として起きるのはGPの上昇による悪魔の強化。

 現世へ湧き出ようとする悪魔を排除する為、あちこちの異界への対処が急務となっていた。

 

 その為雨柳もクズノハを辞めた後も連絡を取り合っていた後輩から話を聞き、キリギリスのメンバーのと共に異界潰しに従事していたのだ。

 丁度リーダー格の佐々木を含め主力の一部が屋久島への調査に向かっている為これまでとは異なる面子とも同道している。

 

「へー先輩先輩久しぶりにやる気に満ちあふれてますねえ。

 前飲みに行った時の駄目人間感あふれる感じとは大違いですね」

「あーそこを言われると痛いな……ま、確かに一度は情けない様を見せたが俺もそこそこ腕は立つ。

 だから年長者として仲間を死なさない程度にはまあ、頑張らせてもらうってところだな。うん」

 

 そう言って斜め後ろにいるキリギリスの仲間を見る。

 キリギリスの仲間はいずれも年若い、せいぜいJC(女子中学生)JK(女子高校生)程の少女達。

 殺伐とした悪魔業界にしては珍しい程に仲良さげに話している。

 

 少女達に近づいていくのはクズノハから派遣された時代がかかった装束の男。

 山陰の旧家の出である彼は年下の少女達にも礼儀正しく、順に協力への礼を述べているようだ。

 それぞれ異なれど男へどういたしましてといった感じの対応をする中、最後になった高校生程の少女は一際表情の変化が激しい。

 

 少女はモデル顔負けのスタイルに怜悧な顔立ち、蠱惑的な金色の目が印象的。

 やり手の学生起業家と言われると納得しそうな美貌であるが、性格は外見とは裏腹に能天気な気質のようだ。

 男の誉め言葉に対して、パアアという効果音が聞こえてきそうな程顔全体で喜びを表現している。

 肩の力が抜けるような笑顔と共に「この私にまっかせなさい!」と言わんばかりに一歩踏み出そうとして、結露した地面に滑って転びかけていた。

 

「お゛ああっ!?」という濁点交じりの声を上げる少女を半目になった小柄で可愛らしい少女が支える。

 二人の弟を持つ少女は外見自体は幼い物のしっかりしているようだ。

 先程の少女と比べると「もしやこの子の方が年上なのでは?」と訝しんでしまう程に。

 

「……あの子大丈夫なんですかね」

「……大丈夫ダヨ。あの子も他の子も皆良い子ダヨ」

「なんすかそのイントネーション」

「なんでもいいさ、未成年もいるしそろそろ帰らねえとな。俺も明日移動しなきゃなんねえし」

 

 休養は必要であるが怠けているほど暇はない。

 世界を滅ぼそうとしている敵の多くは全容がいまだ見えず、そうでなくても悪魔の力を悪用するクズ共もいまだ多い。

 

 雨柳はクズノハ時代から、堕落と共にあったフリー時代、そしてキリギリスに参加してからも嫌という程知っている。

 つまらない小物の悪意は、世界を破壊できなくとも個人の命や心を破壊するには充分な脅威だという事を。

 それはもう、嫌という程に知っている。

 

「……」

 

 ふいに雨柳は空を見上げる。

 そこにあるのは10年前のあの日と似たような、腹が立つほどに透き通った月。

 今から丁度10年前と変わらない月。

 

「……もう、10年は経つのか」

 

 月は雨柳が罪を犯した日と変わらずに、其処にあった。

 

 

 


 

 

 

 帝都東京の某所、市街地からやや離れた場所に煉瓦造りのビルがあった。

 何かの会社が使っているのかビルの周囲は頑丈な塀に囲まれており、駐車場にはトラック等の車両が停車している。

 

 一見取り立てておかしい所のないビルは、その実帝都東京を守護する護国組織たるクズノハの拠点の一つであった。

 

 過日甚大な被害を受けた物の組織の立て直しが進み、先日も大規模な襲撃を協力者たちと共に迎撃し見事返り討ちにしたクズノハ。

 そんな彼等が関東圏のクズノハや同盟組織に物資を輸送する際為に拵えた補給基地の一つがこのビルであった。

 

 内部は外観よりかなり広いだけでなくそれなりの人数が寝泊まりる設備を有しており、護国組織という厳めしい字面からすると意外な程に福利厚生が整えられているようだ。

 今は何人かの少女が入浴している広い浴場もその一つである。

 

「はー仕事終わりのお風呂はしみますなぁ。骨までじっくり癒される気がする」

「ほんとほんと。ここって熱い山から近いし水が良かったりするのかもね」

 

 和やかに会話を交わす少女達。

 広い浴槽に身を沈めるその表情は程好く熱い湯に緩んでいる。

 

 およそJC程のまだ幼いと言っていい少女達。

 彼女達はクズノハの中でも『防人(さきもり)』と呼ばれる部隊の隊員である。

 ある理由から集められたクズノハを構成する家系出身の少女達が中心となった部隊であり、戦力不足に悩むクズノハの支援任務を遂行している。

 任務内容はその名の通り拠点防衛や護衛が多く、彼女達のチームも今日まではこの補給基地の防衛を行い、明日の交代後には物資輸送の護衛につく予定だ。

 

 そんな少女達はつかの間の休息を楽しんでいる。

 生き生きとした年頃の少女特有の生命力が感じられる表情からは、決して彼女達が使い捨ての存在と扱われていない事が感じ取られた。

 

「そういやたいちょーまだなのかな? なんか来ないね」

「弥勒隊長家族大好きだからなー話し込んじゃってるんじゃ……あ、来た」

「おそかったっすねミロ長……ミロ長?」

 

 がら、と音がして浴室の戸が開かれると入ってくきたのは彼女達の一応の隊長である少女だ。

 艶やかな長い髪をした少女は、髪を纏めると優雅に掛け湯してそっと暖かい湯に身を沈める。

 その様は育ちの良さを感じさせるが話好きな彼女にしてはおかしい事に呼びかけに答えない。

 湯の中に身を沈め、うつむいた彼女はフルフルと震えている。

 

「ど、どったの弥勒隊長? 何かあったの?」

「わたくし……わたくしは……ううっわたくしはぁ……!」

 

 いつも元気な彼女らしからぬ表情に周囲が注目する中。

 再び口を開いた彼女の言葉は驚くべき物であった。

 

「わたくしは────―」

 

 この場にいる当人以外は全く予想していなかった驚くべき内容。それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしは、婚約破棄されてしまいましたわ──────!!!」

 

 

 

「「「えええ……」」」

 

 ぴえー、という擬音が出てきそうな顔で嘆く隊長格の少女。

 よく言えば素直な、悪く言えばちょっと抜けている感じの表情からは隊長という字面とは真逆の親しみやすら感じられる。

 現に一応部下である少女達は呆れたような半目で彼女を見ていた。

 

「くやしいですわー! かなしいですわー! このままでは()()()の再興がーっ!」

「……いやそもそも弥勒隊長婚約してないじゃん。その、名前しらないけどデビルバスターの人と」

「確か三ノ輪さん家に見合い希望出しただけっすよねミロ長」

「うん、たいちょー嘘はつかないというかつけないし」

 

 隊長格の少女──―弥勒というクズノハの家に生まれた少女は、先日父親の知人を通してある男にお見合い希望を出したのである。

 目的は今はもうほぼ一般家庭レベルに没落した元名家である実家の再興の為、強力なデビルバスターを彼女の夫として迎える事。

 クズノハと共同戦線を張る新興組織キリギリス、その中でも発起人であり最強格の一人である"佐々木"を迎えんとしたのだ。

 

 何せ件の佐々木青年は機会測定式で優しくLv90という、いまだLv20代の彼女達からするとなんじゃそりゃといいたくなる高レベル。

 幾度なく強大な悪魔の討伐に貢献した実績を持ち、交渉能力や教導能力も高い。

 おまけにかなりの美男子で女子供に優しく、弥勒も知っているクズノハ名家の少女達も強く慕っているらしい。

 こんな優良物件逃がしてたまるかと彼女が思うのも無理はない。

 まあさくっと断られてしまったらしいのだが。

 

「なんでですの!? わたくしの何がいけないんですの!? おろろろーん! おろろろーん!」

 

 目の幅涙で号泣する弥勒はお嬢様というには少々愉快な存在であった。

 

「おろろろーんって口で言ってるよこの人……。うーんでも隊長に原因があるっていう可能性は低い気がする。

 客観的に見てかーなーり美少女だもんね隊長」

「胸もでかい。カツオってそんなに豊胸効果あるんだろうか……?」

「面倒見いいし素直だし。本人に言うと調子乗るから言わないけど」

 

 三人は本人に聞こえないようにひそひそ話す。

 弥勒という少女も優良物件と言っていい。

 

 まず彼女は紛れもなく魅力的な美少女である。

 一房ずつをカールさせた艶やかな長髪が映える、シャープで育ちの良さを感じさせる顔立ちに、大きく溌剌とした琥珀色の瞳。

 自信ありげな口元は高慢さよりも親しみやすさを感じさせる。

 その上15歳にも拘らず体のラインは柔らかく女性的で、胸元は大人顔向けの豊かさだ。

 

 性格に関してもやや抜けているところはある物の他者に誠実で明るい笑顔を絶やさない好ましい物。

 家族友人仲間を大切にし特に年下への面倒見が非常に良い。

 年上の人間からは可愛らしい、年下の人間からは話しやすいと感じられる少女だ。

 

「わ、わたくしの幸せ弥勒家再興計画が~あんまりですわああああ」

 

 周囲の評価も知らず弥勒は嘆く。

 これだと思った佐々木氏とのお見合いからの結婚による実家再興の計画を、絵空事ではあったが脳内ではしっかり立てていたのだ。

 

 この国が平和になった後家族の祝福の元強くカッコいい旦那様と結婚し、彼と協力して全盛期以上に立派になっていく弥勒家。

 そんな誇りある家庭ですくすく元気に育っていく子供達。

 嗚呼、何という薔薇色の未来……! 

 

 あれ? 予想以上に良いですわねと思っていた未来予想図。

 頭の中で思い描いていたそれが本能寺のように炎上して灰になっていく。

 

(で、でもわたくしは負けませんわ。

 どれ程の困難があっても、必ずや、必ず素敵な旦那様をゲットして共に弥勒家を……!)

 

 少女はへこたれない。

 クズノハの末席に連なる弥勒家の者として防人の勤めを果たし、平和を取り戻す一助となったうえで弥勒家を再興する。

 少女の想いは何処までもまっすぐであり、それが周囲の人々から暖かい目で見られる理由なのかもしれない。

 

「やりますわよわたくしは。やってやりますわー!」

「おー」「がんばれたいちょー」「えらいっすよミロ長!」

 

 腕を上げて己を鼓舞する弥勒に軽く拍手する少女達。

 これもまた青春の一ページと言ったところか。

 

 ただそんな微笑ましい光景とは裏腹に弥勒の体には確かな傷跡があった。

 左腕の上腕部や背中にうっすらと残る傷跡は防人となった以前についたらしきもの。

 本人は気にしていないようだが、上気した肌が滑らかな故に良く目立っていた。

 

 まるで何かの証のように、幼き日の傷跡は残っていた。

 

 

 


 

 

 

「ふへー……澄んだ空気の中で飲む紅茶は格別ですわー」

 

 小遣いで買った保温効果の高い水筒を手に弥勒は一息をつく。

 山梨県にあるクズノハの支部のテラスにて、水筒に入れた紅茶を飲みながらくつろいでいた。

 

 いつもの事ではあるが今日も忙しかった。

 物資輸送の任務は滞りなく終わったが数時間もの間敵の襲撃を警戒しつつ護衛を行うというのは疲れるものだ。

 特に隊長である弥勒は部下をまとめ報告や事務作業もこなさなくてはいけない。

 無論彼女をサポートする大人はいるが、それでも超優秀とは言い難い彼女からすると疲れる。めっちゃ疲れる。

 

(でもだからこそ紅茶が美味しいのですわね。うまうま)

 

 それでも真摯な彼女は手を抜くことなく任務に従事している。

『最後までやり遂げたこそ好きな物は美味しい』弥勒家の家訓の通りである。

 

 お見合い計画は破談になったが、そのことについては引きずりはしない。

 残念な事ではあるが、いつまでも固執する事なく防人の本分たる任務に邁進すべし。

 そういったメンタルに関しては間違いなく自他と共に認める美点である。

 

(四天王やライドウの様な花形でなくても、私達がこなす任務に重要じゃない事なんて何一つない。

 一つ一つをおろそかにしないことが大事ですわね。

 そんな事をしていたら先代ライドウ様(わたくしのヒーロー)に顔向けできませんし)

 

 腹が減っては戦が出来ぬというように如何にクズノハが精鋭ぞろいと言えど、十分な物資があってこそ悪魔や悪党と戦えるのである。

 特に様々な敵が現れる昨今においては各種の武器や回復アイテムは非常に重要。

 家の基礎工事のように目立たないからと言って手を抜くのは言語道断。

 その重要性は誰よりもとまではいかなくても充分にわかっているつもりであった。

 

(我が麗しの弟妹にも手を抜いてるだらしないお姉ちゃんじゃ顔向けできませんもの、ね)

 

 弥勒はまだ幼い弟や妹の顔を思い浮かべる。

 両親と同じで、自分とは殆ど血がつながっていないが、そんな事は関係なく大切な家族がいる。

 家族の事を考えれば頑張れるという物だ。

 

 

 

 弥勒家の長女である彼女は実を言うと弥勒家の産まれではない。

 元は別の家の産まれである。

 

 彼女は元の家にも両親にも、控えめに言ってあまり良い思い出がない。

 当時の両親はクズノハ内部でそれなりのポストを得ていたが、評判はあまり良くはなかった。

 如何にクズノハの構成員達上から下までが高潔で有能とはいっても例外はあり、その数少ない例外が当時の両親であったのだ。

 両親についての良からぬ噂の多くは真実であるが、同時に彼らは政界や自衛隊の一部へ顔が利く事、さらに京都ヤタガラスとの太いパイプもあって中々決定的な失脚へは至らなかったそうだ。

 

 そんな家に生まれた少女は、元から情の薄い両親の元家に伝わる異能を継がなかった事もあり劣悪な扱いを受けていた。

 多くは語らないが、実の子へ向ける愛情が欠落した酷薄な扱い。

 もし少女が失踪したとしても3日は気づかないに違いない程に扱いは惨い物だったという。

 まだ就学前ですらある少女の心を鑢で削るような陰鬱な日々。挙句の果てにある事件が起きた。

 

 家内部の権力闘争が絡み合った結果、少女の親は命令を偽装し、彼女を危険な悪魔の転生体として部下に抹殺させようとした。

 なにも良い事がなく少女が凶刃によって短すぎる生を終えようとした刹那、颯爽と現れたのは企みを察知したクズノハの戦士。

 後にライドウに就任し、2015年にシュバルツバースの中に消えた英雄は刺客を制圧し少女を救った。

 

 そうして当時の両親の愚かで醜悪な企みは失敗した物の少女の心身には深い傷を残した。

 加えていうならば元から摩耗していた精神状態で、己が巻き込まれた陰謀を知った刺客の男にも。

 

 陰謀の内容を知ったクズノハ首脳部は当然の事ながら大激怒。

 己の利用価値を見苦しくも説く言葉を「いかなる理由があろうと、どれ程の利益をもたらそうと子を殺そうとするような外道はいらぬ」と一蹴。

 後の顛末は察しの通りである。

 

 そして少女は遠縁にあたる弥勒家に引き取られた。

 引き取られて以降は幸福に生きてきた少女は陰惨な過去について語らない。

 ただいつも明るく誠実に、他者を慮って生きるだけだ。

 それが弥勒家の長女らしいと思っているから。

 

(お姉さまは頑張りますわよー弥勒家の長女らしくね)

 

 ふっと穏やかに笑う彼女の柔らかな笑顔。

 それはもうすでに朗らかな母性が感じられた。

 

「隊長大変です! 緊急の任務が!」

「っ! 今行きますわ。歩きながらでいいので状況を」

 

 あわただしく駆け寄ってくる部下の声には切迫した響き。

 穏やかな時間は長くは続かない。

 それでも颯爽と弥勒は歩き出す。

 何事も無駄にはならない。それは彼女の信念ともいうべきものであるから。

 

 

 


 

 

 

「突入ーっ! バックアタックに注意しつつ速やかに悪魔を倒し、対象を救出しますわ!」

 

 弥勒は今日も任務に真摯に取り組む。

 ただし常に自信ありげな表情には緊張の色合いが濃い。

 

 彼女が部下を率いて突入したのは山梨県の山林地帯にある資産家の邸宅を中心に発生した異界。

 悪魔を排除して取り残された人々を救助するといういつもとは違う任務に従事することになったのは訳がある。

 

 東京から山梨クズノハへの物資輸送が入った後に急遽としては行ったのは異界発生の報告。

 件の資産家は古美術品の収集が趣味であり、時代に囚われず色々な品を集めていたというがその中に良からぬものがあったらしい。

 以前より交流のあった山梨クズノハに連絡を入れた直後に通信が途絶し、確認した所異界が発生していたとの事だ。

 不幸中の幸いとして資産家の妻と使用人は買い物へ行って出かけていた為難を逃れた物の、資産家本人と子供二人が取り残されているという。

 

 本来ならば山梨クズノハが対応すべき案件であるが生憎と主力は他の異界へ出払っている。

 その為東京本部の了解を得た上で弥勒達の防人チームが派遣されることになったのだ。

 

(佐々木さんのいらっしゃるキリギリスの方達もいるから予想以上に早く進んでいるとの事ですが、ここまで距離があるし時間がかかる。

 そう楽観もしていられないですわね……)

 

 幸いにもこの異界のGP(ゲートパワー)は高くない。

 出る悪魔はせいぜいLv15程の低級悪魔ばかり。

 Lv20~25の少女達にも十分に対応可能な相手だった。

 

「来ました! この異界の悪魔です!」

 

 それでもここが人の住む洒落た洋館から魑魅魍魎の巣窟へ変わった事には違いない。

 何処か澱んだ空気の内部を進む少女達に悪魔が幾度なく立ちふさがる。

 

 

妖虫ウブLV11電撃・破魔弱点

 

妖魔ヴォジャノーイLV13氷結・電撃耐性 衝撃弱点

 

悪霊クイックシルバーLV10呪殺・神経・ガン無効 破魔弱点

 

夜魔ザントマンLV8衝撃・睡眠無効 電撃弱点

 

魔獣カソLV12火炎無効 氷結弱点

 

堕天使ガギソンLV15電撃耐性

 

 

 この異界に存在するのはDARK属性が多い物の統一感のない雑多な悪魔達。

 いずれも残虐性を剥き出しにして襲い来る悪魔達。

 奴らに立ち向かう少女達が纏うのは若草色の防人用デモニカスーツである。

 

 如何に簡易型とはいえ人類技術の結晶たるデモニカスーツを、異界向けにオカルト技術を取り入れて再設計した最新鋭の装備である。

 少女達を死なせんとした大人たちの努力の集大成の一つであるそれは、異界のエレメントを取り入れ起動し防人達の戦闘力を底上げを行う現代の鎧。

 様々な機能に加え当然ながら悪魔召喚プログラムもインストール済みだ。

 

「仲魔を前面に出して進みますわよ! お行きなさいな!」

 

 弥勒を筆頭に仲魔を前面に出して応戦する防人達。

 隊員はそれぞれ一体を、隊長でありややレベルも高い弥勒は2体の悪魔を召喚して戦っている。

 

「お嬢の為に、老体なりに頑張らせてもらうとするかのぉ」

 

土霊ドワーフLV20物理・銃撃耐性

 

「我はハルパス。地獄の伯爵として汝らを討ち果たそう」

 

堕天使ハルパスLV22破魔・呪殺耐性 銃撃弱点

 

 弥勒が召喚したのは北欧神話で地下世界に棲むとされる工芸に優れた土霊のドワーフと、ソロモン王72柱の魔神の一柱である黒い鳩の姿をした堕天使のハルパス。

 ドワーフは合体により破魔の弱点を消した頑丈な仲魔で、ハルパスはタルカジャや合体で継承した道具の知恵・癒*1による支援も可能。

 レベルが高くないなりの工夫を凝らした自慢の仲魔であった。

 

「せがき米投げます!」

「ガギソンは弱点無し。物理での集中攻撃を!」

「左側から敵影2、このまま掃討するっす!」

 

 防人達は各員連携して悪魔を掃討していく。

 蓄積されたノウハウによる訓練と、優秀な装備に支えられた防人の動きは淀みない。

 格下とはいえ悪魔を的確に排除し、さらには後の為の情報収集を怠らない。

 

「あー……この家のニンゲンはまだ生きてると思うよ。2階のどこかに隠れてるみたい」

「異界のボスの居場所は? やはり3階ですか?」

「そ、そうだよそうそう! 君達も感じているだろうけど引きこもりみたいに3階に籠っているよっ

 なんかの依り代があるからそうしてるんじゃないかな! ねっこれだけ話したんだからもういいでしょ?」

「仲魔で勘弁してやるっす。ほら」

 

 弱り切った魔獣カソが防人の装備するCOMPに吸い込まれていく。

 命推しさゆえの言葉でいまいち信用できないが、話した内容はこちらの仲魔が行った探知との整合性はある。

 少なくとも救助対象が2階にいる事は確実とみてよいだろう。

 

「救助対象がまだ生きているのは最大の幸運ですわね。急ぎますわよ」

 

 弥勒の言葉に部下も頷き、防人達は1階から2階へ階段を慎重に上がり突入。

 早速何体かの悪魔と遭遇するが、2階にいる悪魔も1階と種類は同様。

 既に異界内の悪魔のアナライズは済んでいる故に会敵から掃討までの時間は短くなっている。

 

「隊長あそこ、扉の前に悪魔達が集まっています!」

「どうやらあの部屋が救助対象の……!」

 

 増築によってつなげられたのか長めの廊下の先、邸宅の片隅にある部屋の前には悪魔達が集まっている。

 まるで巣穴に逃げ込んだ得物を燻りだそうとするかのような野卑な有様。

 その様に嫌悪感を示す暇も惜しく弥勒は指示を飛ばす。

 

「短時間で決めましょう。エレメントは集めてありますわね?」

「はい、闇の奴がぎっしりと」

「なら良し、目くらましで鼻っ面をたたきますわ!」

 

 弥勒が勢いよく指示を飛ばすと同時にコンピュータ技能に長けた防人の少女がCOMPを操作して悪魔へ闇のエレメントを叩き込む。

 するとスモークのように発生した暗闇に覆われ悪魔達がギャっと叫び声をあげて混乱する。

 

 これは防人達が纏うデモニカスーツに搭載された異界のエレメントを取り込んでエネルギーとする機能の応用である。

 異界を構成するエレメントを取り込んで物理攻撃や様々な効果を起こす、電子化が進んだ現代だからこそ可能となった代物。*2

 今回使用したのはDMダークサイダー*3を目くらましの為に使用したのであった。

 

「まずはせがき米と破魔ストーン! それで混乱した所を各個撃破! ぶっっっぶせですわああああ!」

「おお、おおアタックチャンスじゃ。行くぞ若いの」

「誰に物を言っている。まあ良い召喚師殿の為だタルカジャ!」

 

 この異界の悪魔の耐性に無効はいても反射はいない。

 なので弱点属性の破魔を叩き込んで数を減らしてから混乱の坩堝の中にある敵を一体一体数と力の利を活かして攻めていく。

 防人達は銃器に装填した弱点属性の弾を叩き込み、仲魔は補助をかけ、強化された能力で突出する敵を押しつぶす。

 

 大胆な戦術は先制攻撃もあって功を奏した。

 次々と悪魔達は倒れていき、最後に残る一体も弥勒自身の手で撃ち倒された。

 

 悪魔の全滅を確認し互いの死角を補いながら扉を開く。

 どうやら何らかの呪術的処置によって結界が張られていたらしい。

 思ったよりも荒れていない室内には負傷した大人一人と、子供二人。

 ブリーフィング通りの生存者だ! 

 

「ヤタガラスの者です! 救助に参りました!」

「おお……よく来てくれた。迷惑をかけて申し訳ない」

 

 子供二人を抱え憔悴した面持ちの中年男性の顔は苦渋に歪んでいる。

 それは致命傷ではないとはいえ浅からぬ傷を負っただけでなく、迷惑をかけた事への申し訳なさもあるようだ。

 

「まずそうな物はすぐに君たちへ引き渡していたんだがこんなことになるとは……私の事はどうでもいい。

 そんな事を言える立場ではないと分かっているが、子供達を頼む」

「……そんな事を言わないでください。子供には親が必要なのですから」

 

 父親の負傷に不安がる子供の背中を撫で安心させながら弥勒は手当てを行う。

 いつも誠実な彼女の言葉に嘘はない。

 子供には、愛してくれている親が必要である。

 

「さ、急ぎましょう。エネミーソナーの反応は広範囲に設定しても1・2階はゼロ。

 拠点から動かないタイプのボスらしいですが取り巻きが来ない内に脱出しないと」

 

 この異界はボスを倒さなくては出られないタイプの異界ではない故に救助対象を連れて脱出可能だ。

 故に3階から悪魔が来ない内に要救助者を連れて立ち去るに限りう。

 だから手当を済ませた彼等をどのようにして連れていくかを考えながら立ち上がると。

 

「────―え?」

 

 ブツンと、ブレーカーが落ちるように異界が消え去った。

 異界特有の違和感が消え、後に残るのは所々が荒れた邸宅のみ。

 

(なぜ異界が? ボスがひとりでに退去する事なんて普通はない。

 ならば……誰かがボスを倒した? 一体だれが?)

 

 唐突な展開に脳内が疑問で満たされる。

 思案している暇はない。ないのではあるが唐突な展開に頭がついていかない。

 だがそれでも、動かなくてはいけない。

 

「こ、此処で立ち止まっている暇はありませんわ。急いで────」

 

 弥勒の言葉を遮るように鳴り響くのはエネミーソナーの警告音。

 人間の不安を喚起するような音に、嫌な予感がして肌が泡立つ。

 震える指でタッチしメッセージを表示させる。

 そうして投影されたのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警告:付近にLv50以上の強力な敵性存在を確認。

防人各員は交戦を避け速やかに退避してください。

 

 

 

 

 

「Lvが、50? そんな、嘘、でしょう……?」

 

 少女達の懸命さをあざ笑うかのような絶望。

 それが彼女達を蹂躙する残忍な現実であった。

 

 

 

*1
このスキルを持つ悪魔は回復アイテムが使用可能になる。

*2
儀典女神転生及びTRPG版にあるコンピュータ戦闘技能より

*3
周囲の暗黒のエレメントを収束し魔法攻撃を行う。短時間の間暗闇としても使用可能。




メガテン創作だと良く見る数字ですがLv50超えってかなりヤバい強さなんですよね。
作品にもよりますが女神や邪神といった神格クラスが出てくるのがLv30クラスなので。



次回の投稿は近日中の予定。
今週の土日にはできるように頑張ります。
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