真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回ちょっと長めです
────数年前、須摩留へ来た日の事を、
(すごい、この世界にはこんな場所があったんだ……)
少女の目には驚きと期待への輝き。
須摩留の街は想像をはるかに超えていた。
洗練された高層ビルが立ち並び、設備は先進的過ぎて使い方が分からない物すらある。
市街は警備用のロボが巡回し、雑多な労働の多くは自動化されているか
そして自分と同世代の少女達が、最先端の娯楽や食事を楽しんでいる。
世界中のどこにもない、化学とオカルトが混ざり合った最先端都市。
学校の図書室で読んだSF小説の未来都市の如き都市が現実にあるなんて。
(わあ……!)
未来への希望で胸が膨らむ。
(ウチの人生、これから始まるのかな)
良い方に変わっていくんだ、そう思えた。
これまでの由衣瑠の人生は灰色だった。
産まれたのは地方の異能者家系、京都とも繋がりのある由緒正しい家系だった。
だが自身には異能の才能はなく、視力や勘が良く器用な程度。
異能者としての評価は「無能」であった。
幸か不幸か見た目が良い為
そうでなければ
表社会でもそれなりに名のある家だったから、外面の為学校にも通えたけど。
だからこそ周囲の人間にもどういう存在かは分かる物だ。
表立った嫌がらせとかはなかったけど、常に遠巻きにされていた。
そんな日々は唐突に終わりを告げた。
自分を家から連れ出してくれた人がいたのだ。
その人が自分を見つけ出して、ここまで連れてきた。
どういう経緯で自分を知ったのか、あの場所へ来たのかは知らない。
眉一つ動かない何処か怒った顔のままなのは怖かったけど。
ただ自分を須摩留まで導いてくれただけで十分だ。
何せ今着ている清潔で真新しい服を始め、生活に必要な物品の数々。
高校から大学までの≪特待生≫待遇による学費支援。
更に能力開発への協力により報酬まで出る、まさに至れり尽くせりだ。
嬉しくなったから、スキップ代わりに右手へCOMPを≪アポーツ≫。*1
カバンから直接転送、タイムラグはほぼ無し。
由衣瑠は
その中でも中近距離における発動時間の短さと正確性は驚異的らしい。
無能とか劣っているとか、いつも言われていた自分に特別な力があったなんて。
(ああ、本当に味気ない、いやな事ばかりの人生だった)
何よりも期待するのは灰色じゃない、彩りに満ちた俯かないで済む日々。
これから自分の目に映るのはどんな素晴らしい光景だろうか。
(美味しい物を食べて好きな曲も聞けて、それと友達とか彼氏と旅行とか行けるかな?)
どれも普通の人生ではありふれた事だけど、自分は少ししか経験していない事。
(いやいやいや、それ以上に都様のお役に立たなきゃ!
研究にも貢献して、怪しい奴や犯罪者もビシバシ捕まえて。
側近として認められるくらいにならないと)
それにこれまで聞いた所だと、これからも須摩留の生徒は増えていくらしい。
生徒のスカウトが盛んに行われており、数年後に生徒の数はピークを迎える予定だそうだ。
つまり、由衣瑠には多くの後輩が出来る事になる。
(その子達が不安なく学生生活を送れるようにサポート出来る様に。
きっちりとした頼れるお姉さんになろう)
そう、これからの自分には楽しい事の他にも、役に立つべき人や頑張るべき事が沢山あのだ。
「頑張るぞーっ! ……あ、す、すいません!」
最後の言葉は口に出していた。
驚いて自分を見る周囲の人々に頭を下げつつ。
それでも希望は消えていなかった。
・
・
・
(なーんて事をウチは能天気に考えていたんですけどねー)
雨柳が宿泊するホテルの地下一階には喫茶店があった。
学生中心の須摩留らしくアルコールはなく、軽食とコーヒーが中心。
程よく人目がない店で、由衣瑠はふぅと息を吐いた。
(ウチ、今日あったばかりの人となんで話してるんだろ……?)
由衣瑠の対面の席へ座るのは
須摩留見学に来たヤタガラスの悪魔召喚師。
男に関する情報は事前に渡されている。
混沌の悪魔やファントムの召喚師の他に、地方勢力の呼び出した神格クラスの撃破等、歴戦と言える戦歴の持ち主。
現在は防衛庁の部隊へ出向しているが、情勢如何ではクズノハ四天王への就任もあり得る。
外の基準ではかなりのエリートだと思われた。
(だから、苦手だと思っていたんだけど)
外の話とはいえ、将来を嘱望される
正直な所、印象はあまり良くなかった。
日中あまり役に立てなかった分せめて夜間の警備くらいやろうと思って。
ばったり遭遇して、あれよあれよという間にこんな風に向かい合って話している。
どうも変な流れだ、表情からして口説く気はないみたいだが。
(雨柳さん……思ってたよりいい人なんだよね)
須摩留に行くより前の由衣瑠の知る悪魔関係者にはいなかったタイプ。
家や組織の維持の為なら犠牲を正当化したり。
非覚醒者や低レベル覚醒者を圧倒する己の力に酔いしれていたり。
主義主張問わず偏りのある人間が多かった。
最も由衣瑠は田舎出身だから東京とか都会は違うのかもしれない。
だから流れとはいえ、口を、つい開いてしまった。
「今日の夕方に会ったネルさんの事どう思いました?」
「見た目は不良っぽいけど面倒見が良さそう、ですかね」
「ああ、そうではなくてそれ以外にもDBとしての力量の話で。
後今は職務時間外なので……敬語は大丈夫です」
由衣瑠の言葉に雨柳はうなづく。
質問にどう答えるべきか。
(話の流れからするとこの子の言いたいのは……そういう事だよな)
変にごまかさず素直に話すべきだ。
一通り言葉を考え紬ぎ、口を開く。
「相当な物だな。外でもあれ程の異能者は数える程しか見た事ない」
ざっと近場で見た程度だがネルや昼間のヒナは、外の基準からすれば推定トップクラス。
大組織でも幹部やエースを十二分に張れる程だろう。
「……やっぱり凄いんですねえネルちゃん」
ぽつりと、由衣瑠が呟いた。
「私より下の生徒達って優秀な子が多いんです。
ネルちゃんやヒナちゃんとか、ほかにも」
須摩留は有望な生徒のスカウトに力を入れている。
日本各地から集められた生徒は、多くが可能性を秘めているが。
その中でも自然と優劣、力の強さは顕在化してくる。
(流石に特に強い生徒とか、ミレニアムの重要人物の事とかは話せないけど……)
由衣瑠の知る限りだと【十数人】いる須摩留の中でも出色の生徒達。
部外者に話すわけにはいかないが、表情を見た限り意図は十分伝わったようだ。
自分が知る断片的な知識だけでも、強力なスキルに高い
そのうえ知力や判断力、様々な能力に優れている物が多い。
「一人でもバリバリ戦えて、強大な神格クラスの悪魔でも打ち倒せる。
だけどウチは────」
軽く手を出してテーブル上の籠にある、マドラーが手の中へ転移。
瞬時の早業であるがロボ兵器や悪魔への攻撃には役立たない。
アポートやテレポートそれだけが自分の持つ力だ。
「得意なのは物や人を短距離飛ばすくらい。
後は多少透視が出来るだけで攻撃スキルは何もなし。
特待生なのに」
運ばれてきたコーヒーをかき混ぜ、深い溜息を吐く。
不甲斐なさがここ数年付きまとっていた。
由衣瑠は本人が思っている程愚かでも世間知らずでもない。
大学の学費や己の生活費は、普通の家庭なら重荷になる程度にはかかっている。
無論自身の能力研究で、須摩留や都が得た利益もあるだろうが。
単に転移するだけでは敵を倒し、他者を守れない。
大恩人である都を護る事もできない。必要はないだろうけど。
「ウチは都様にとって一山いくらの役立たずなんです……」
役立たず。他人に言われるのと自分で言うのは違う辛さがある。
(流れで聞いたが……思ったより鬱屈がたまっている様だな)
須摩留は一つの都市で完成し、完結している。
必然的に人間関係も内部で閉じて、良くも悪くも外部との接点がない。
そうなれば内部で感じた劣等感は解消されず、積もっていく。
それが遅れた外の世界への蔑視にならないのは、本人の善良さ故だろうが。
(この子が悩んでいるのは、そういう事じゃないんだよなあ)
自分の悩みと比較して、他者の悩みの軽重を図るのは愚の骨頂。
だがある程度自身にも、他者と比較した時の至らなさを感じた事がある。
最もそれは人間大なり小なり経験するもので。
もし全くない様な例外はそれこそ。
(峰津院都位だろう)
等と考えつつ、頭の中で言葉を整理。
俯きがちな由衣瑠に対し、口を開く。
今日あったばかりの者同士だが、流れとはいえ自分なりにやれる事はやっておくべきだ。
間に合わないよりも少しぐらい早い方が、ずっといい。
「……正直に言って須摩留の生徒会長、あの方が考えている事は分からない。
俺どころか分かる人間がこの世にいるのかどうか」
この世の如何なる神魔より強大な力に加え、宿曜術士として、悪魔技術者としても当代一。
強権により方々の反発を受けたが、世界最先端の都市まで創り上げた。
今を生きる人間の中で、最も影響力のある人間と言っても過言ではない。
そんな超人の事を政府高官だろうが、腕利きの悪魔召喚師だろうが、誰が理解できるのだろう。
「だからあの方が何故君を須摩留に連れてきたか、今どう評価しているのか。
それは直接会って聞いてみない事にはわからないが……難しいよなあ」
「はい。そもそも……ウチが直接あったのはこの都市に誘われた時だけですし」
須摩留のあちこちを飛び回っているが、伴うのは僅かな側近と稀にミレニアムの
由衣瑠がそう簡単にお目にかかれるような相手ではない。
それに直接面と向かって自分の評価を聞くのは、色んな意味でやりづらい。
「だからあの方が君をどう思っているのかは分からない。
けれど君のやってきた事は無駄にならないさ。
例えば今日、悪魔に襲われていた子を救助したじゃないか」
被害にあった少女は単に手を擦りむいた程度。
悪魔事件にしては信じられない程の軽傷。
「けれどあれは、ネルちゃんもいましたし……。
ウチがいなくても、普通に同じような結果になりませんか」
「かもしれないが、俺が見た所君のおかげでスムーズに行った事は確かだ」
雨柳の所見では優秀な異能者に共通する"慣れ"──自分の能力を把握し適切に使いこなす技術と知性を備えていた。
それは一朝一夕で身につく物ではなく、己の職責を果たさんと研鑽してきた事を意味する。
「君の力が役に立つ時はこれからもあるし、今もその時も君の努力と成果を見ている人は必ずいる。そういう物だよ」
人が生きる都市なら、由衣瑠の研鑽を見ている者がいるはずだ。
少なくとも自分ならそうするし、経験上そうであった。
「ウチ、大きな事は出来ませんよ?」
「助かる人がいるなら、それでもいいのさ」
歴史に埋もれる人間の、小さな力でも人助けは出来る。
そして意味がなくはない。
ちょっとした日々の積み重ね、超人に比べたらあまりにも小さな積み重ねは、自分や周りの事を良くしていくのだから。
言い切った所で由衣瑠は雨柳を見上げる。
彼女の浮かべる表情は悪くない。
「……ウチに出来る範囲で頑張ってみようと思います。
直接戦闘で役に立たなくても今日みたいな避難や。
物資の輸送で役に立つかもしれませんし」
「そうだな、その意気だ」
雨柳は内心、胸を撫でおろす。予想外の遭遇から夜に話す事になったが何とか由衣瑠の納得いく答えを返せたようだ。
こっちはガサツな20後半、10歳近く年の差がある相手に無神経な言葉を口にしてないか気が気ではなかったのだ。
(相談の内容の中に須摩留の機密に触れる内容はない。
個人的な心情の相談で、職務上の問題はないはずだ)
今回の話は喫茶店の中、仮に須摩留か
自分もそうだが、まだ未来ある由衣瑠の評価が下がる事はないと思える。
他方雨柳の様子を見て彼女はくすり、と笑う。
(いい人なんだなあ、雨柳さん)
人の顔色を窺って生きてきたせいか、表情の機微を読み取るのは得意なのだ。
行きがかりにもかかわらず、相手が自分を気遣ってくれているのはよくわかった。
今日あったばかりの人だが、好感をつい持ってしまう。
(もう少し話したくなっちゃうな)
余計な事を話しちゃいけないけど、色々と話したい事がある。
須摩留にある好きな店とか、バアル・コロッセウムとかTCGやっているとか。
校則が厳しくてあまり会えないけど、魔法使いになりたい子を始め、何人かいる友達とか。
(我ながらチョロいです、ウチ)
自分の事を知ってほしいと、少なからず思ってしまう。
「もうだいぶ遅くなったな。良かったら君の住んでる寮近くまで」
「いえいえ! 流石にお客様にそこまでしていただくわけには!
此処から表通りで直進できますし────」
治安もいいので、と言おうとした所でCOMPがアラート音を鳴らす。
思わぬ事態に手早く確認すると、表示されたのは強力な、
(最低でもウチよりレベルが上の悪魔!?
しかも場所がまずい……!)
出現場所は寂れた湾岸エリアで、警備は少数のロボのみ、おまけに地元民向けの病院が近い。
今の時間では生徒も近くにいない。
距離が近いのは強いて言うなら。
由衣瑠は端末から顔を上げ、雨柳を見ると、目が合った。
「須摩留の邪魔にならないなら、行くつもりだ」
「そうだと思っていました」
そういう間にも二人は会計し足早に歩きだし、エレベーターへ。
雨柳の泊まる部屋の前に立つと、由衣瑠が口を開いた。
「雨柳さんの銃と剣ってどこにあります?」
「部屋の金庫に入れている」
雨柳が普段使いしている銃と刀は部屋の金庫にある。
日中は預けていたが、見学後に返却されていたのだ。
聞くにはヘルメット団やらその他の不埒者対策の為問題ないとか。
「このあたりのホテル、確か場所と距離はあー、そこですね」
そういうや否や手を掲げると、瞬く間に刀と銃が小さな掌に収まった。
「これで数分ぐらいは節約に、ってどうしたんですか?」
「ああ、いや……ありがとう」
雨柳は礼を言って刀と銃を受け取る。
内心は冷や汗すらかいていた。
(発動速度もそうだが、
確かに直接的な攻撃力はなく、射程が限られているとはいえ)
戦闘やそれ以外でも幾らでも使い道が思い浮かぶ。
須摩留に特待生待遇で、招かれた天然の能力者。
その恐ろしさをを理解した。
「30秒くらいは省略できたでしょうか?
次は……ウチの手を握って、ください」
「よし、頼む」
内心を横に置き、由衣瑠の手を握る。
躊躇している場合ではないが、力を入れずけれど外れない様にしっかりと。
思った以上に固い感触に由衣瑠は驚いたが、動揺を出さずに口を開く。
「短距離ジャンプを繰り返してっ、目的地までショートカットします」
「分かった、よろしく頼むよ」
うなづき、由衣瑠は集中。
駆け巡る超能力の波動。
何時になく調子はいい。
「飛びます!」
刹那、雨柳と由衣瑠の姿が掻き消える。
二人は夜の須摩留を駆けていった。
夜の埠頭を巨体が進んでいく。
青黒い肌に多腕を備え、三つの頭部には異形の眼を多数備え。
太い足で踏みだすたびに首から下げた錠前が音を立てる。
その威容はギリシャ神話に名を遺す巨人に他ならない。
| 邪鬼 | ヘカトンケイル*3 | LV42 |
侵入した邪鬼の前面には数十体に及ぶ悪魔共も現れている。
それぞれは一山幾らの低位悪魔だが、数は驚異。
特に戦闘能力のない者、愚者にとっては絶対の死をもたらす。
巨人はそのまま須摩留の都市方面へ進む。
寂れた地域を抜け須摩留の市街地へ。
その過程で人家や病院が在ろうとお構いなし。
警戒の薄い海側から入り込んだのだろうが、如何なる目的かは未だ分からない。
ただ分かるのは止めぬ限り、多くの犠牲を産み出す存在だという事だ。
質と数の両面において外の世界でも、須摩留でもそう見かけない暴威の集団。
僅かな警備用ロボを叩き潰して、速度を落とさず進軍。
そして埠頭の中頃、人家の明かりが遠目に見えてきた所で──足を止めた。
立ちふさがるのは小柄な人影。
スカジャンを羽織ったメイド服。
短機関銃2丁を構えるは美甘ネル。
「ったく夜中だってのにやってくれるなあオイ」
偶然近くに来ていた為駆けつけたが態々夜に面倒な事だ。
他のC&Cや腕利きの生徒は近場におらず、自分一人のみ。
軍勢とボスどちらか片方の殲滅なら、ネルの力量なら十分可能。
だが両方の市街地到達を阻止するのは中々に難度が高い。
おまけに帰り際の緊急出動故、一線級の戦闘用装備は持ち出せていない。
(市街地も遠くねえ。雑魚共薙ぎ払っていくか。
それともデカブツをかく乱しつつ数削っていくか)
先生の"指揮"がないなら工夫する必要があるかと思考を巡らせ。
「お?」
その瞬間数メートル横へ、二人の人影が降り立った。
ネルにも覚えのある転移反応。
幻魔の有する≪夢幻の具足≫*4に似たそれは。
「由衣瑠先輩に……昼間の、人か?」
「ネルさんも!?」
双方顔を見せあわせるが、ネルもすぐに納得した。
由衣瑠は治安への意識が高い。
警報があれば来るか。
客人までいるのは意外だが。
「非常時だから敬語は省略すんぞ。アンタ名前は?」
「雨柳、神道系悪魔召喚師をしている」
「神道系……ああ、管使いってやつだな。
って事はヤタガラスからのか」
須摩留では先生や由衣瑠と別の特待生を除けばほぼ見かけない
悪魔を呼び出し手数を増やせる者が来たのは僥倖だ。
(雰囲気からすると中々やる。
手数が増えるならアリだ)
一瞬の思案、状況を鑑みれば協力が最善。
「あたしは美甘ネルだ。
クズ共をさっさと叩き潰すぞ!」
「……はいっ! ウチが全力で援護させていただきます!」
ネルに唱和する由衣瑠は何処となく嬉し気。
同時に雨柳は懐から管を抜き放ち、片手で刀を構える。
「ああ、よろしく頼む!」
敵は数多く、自分より強い巨人。
されど、仲魔と仲間がいれば挑むに恐れなし。
三人は同じ方向へ駆け出していく。
「────召喚」
蛍の光に似たマグネタイトの燐光が、電光より明るく煌めく。
管より出でるは損傷が目立つ古びた車。
雷を帯びた黒い車体は、タイヤを回転させ咆哮。
「雷電属オボログルマ!」
「深夜の超安全運転ドライブだあああああっ!」
\カカカッ/
| 雷電属/怪異 | オボログルマ*5 | LV31 | 物理に強い 銃撃無効 電撃吸収 衝撃弱点 |
叫び声を上げオボログルマは躍動させウィリー。
狂奔しながらも三人の前に並び、忠実に指示を待つ。
次の瞬間、雨柳達は動き出す。
「支援を行います!」
最初に動き出すのは由衣瑠。
≪S疾風の秘法≫*6
鮮やかな青緑の波濤が駆け巡ると彼らは加速。
悪魔よりも早く
更に後列の由衣瑠がスーパーボール程の球体を投擲。
中空に出現した、色の違う球体と共に弾ける。
≪タルカジャストーン≫≪ラクカジャストーン≫*7
転移能力によるアイテム二つの同時使用。
本来ネルの方が早いが、互いに能力は知っている。
雨柳と共に手番を譲ったのだ。
「弾けるダイナモォ! ≪マハ・ジオンガ≫」
オボログルマが雷を解き放ち。
「ブっ飛べ雑魚共!! ≪ATACK≫」
ネルが短機関銃を撃ちまくり。
「無効以上が無しならいけるな≪刃・壊・塵≫」
雨柳が動きを鈍らせた悪魔共を切り刻む。
群れた悪魔は数はいるが元より低級の存在。
一斉に軍勢として襲い掛かるならともかく。
4人で準繰りに襲い掛かるなら敵ではない。
即席であるが連携する雨柳達に次々と刈り取られていく。
「雨柳さんを回復します! ≪ディアラマ≫」
上昇した能力で攻撃を受け止め回復し、耐性を見極めながら攻撃し刈り取る。
即席であるが連携する雨柳達に次々と刈り取られていく。
「大方片付いたなぁ、次!」
ネルが最後の数体を薙ぎ払い。
残るは最も強大なヘカトンケイルのみ。
(間近で見ると何て巨大な……!)
奥へ控えていた邪鬼は
生物は本能的に巨体に恐怖を抱く物。
慎重な由衣瑠もその例外ではないが。
(それでも!)
自分を信じてくれる人がいるなら、恐れを超えて踏み込むのだ。
(そうか、踏み込んで来てくれるか)
雨柳は由衣瑠の勇気に敬意を表す様に、前へ出る。
敵が強大だろうが少女の姿を見て臆してられない。
学生である由衣瑠が、ネルが望むなら。
前に立ち盾となりながら戦うのが自分の役目。
ヤタガラスの悪魔召喚師で、大人ならするべき事だ。
「最低でも足止め、市街への侵入を防ぎつつ削っていくぞ!」
彼我の距離が縮まり、戦闘距離へ。
本能が
神と悪魔の闘争、抗う人々の行使する最新の作法。
殺意の呼吸がかち合った。
「バフ行きます!」
再度≪タルカジャストーン≫と≪ラクカジャストーン≫を使用。
高価な品だが強力な敵相手に出し惜しみしている場合ではない。
≪フォッグブレス≫*9
≪ATACK≫
≪牙折り≫*10
黒い排気ガスが邪鬼を包み攻撃・命中回避を低下。
動きが鈍った所ネルが銃撃し耐性を確認。
最後に雨柳が太い腕を叩き、力を下げる。
神道系のスキルは敵に
そのため以前出会った悪魔──軍神ヨシツネから習ったこの技は度々役立っている。
ヘカトンケイルは煩わし気に腕を振り。
拳に力を籠める。
(当然だが物理で来るか)
巨体をにらみつける。
攻撃を予期し、雨柳はオボログルマとやや前へ。
攻撃力は2段階下げたが敵の体幹に揺るぎ無し。
ヘカトンケイルが吠え、眼が不穏な輝きを帯びる。
保有する膨大なマグネタイトにより動きは2度。
| 会心の覇気 | 補助スキル | 次に行う力依存攻撃が必中となり、かならずクリティカルが出る |
| 暴れまくり*11 | 物理スキル | 敵全体に2~5回の物理攻撃を行う 命中率は低い |
丸太めいた多数の腕を力任せに振り回す、雑極まりない攻撃。
ただし邪鬼の腕力でならば、生半可な異能者を蹂躙する威力となる。
「ぐがっ!」
「のォ!?」
「ってえなァ!」
凄絶な暴力。気力を漲らせ芯を捉えた打撃。
敵を怯ませ呼吸を奪い。
| 即時効果 | 戦闘中2回まで自身に対する攻撃を回避する 短距離テレポートと幻視能力の合わせ技 |
更に攻撃する事はない。
瞬間移動によって由衣瑠は回避した故に。
(前に出ただけの甲斐はあったか……!)
視界の端には打撃から逃れた由衣瑠。
本来なら回避は難しかっただろう。
だが雨柳が受ける瞬間、刀身を盾として。
拳の勢いをわずかに殺したのが良かった。
奪えるはずだった呼吸を逃し。
不満気な唸り声をあげるヘカトンケイル。
対する雨柳達は再び動き出す。
「俺は大丈夫だ! 誰か物反鏡持ってるか?」
「あたしが持ってっけど使っていいのか?」
「頼む! 由衣瑠は回復を!」
「はいです!」
短いやり取りの後、由衣瑠が魔石輪*13を2個使用。
オボログルマが再度
最後に雨柳は別の管を取り出し、オボログルマと仲魔を入れ替える。
「召喚、技芸属オベロン」
「平和な地と思いきや、予想以上の強敵だねこれは」
呼び出すのは蝶の羽に赤い衣装、冠をかぶった妖精の王。
\カカカッ/
| 技芸属 | オベロン*14 | LV35 | 物理・火炎・氷結・精神に強い 銃撃無効 電撃弱点 |
場慣れたオベロンは腕を組み、ヘカトンケイルを見上げる。
端正な顔立ちに恐れはない。
雨柳達の
≪デクンダ≫≪メギド≫*15
テトラカーンが展開中故得意の物理は選ばない。
自身の能力低下を打ち消した後、口より吐き出すのは万能の魔力。
コンクリートが余波で爆ぜ飛び、気流がかき乱れる。
「アイテムの在庫はまだまだありまあすっ!」
されど怯む事なく一番脆弱な由衣瑠がアイテムを投げる。
弱気ですらある少女の戦意は途絶えていない。
(……君は自分が思うよりも、遥かに立派にやってくれている。
今日会ったのが君で良かった)
自分の持つ超能力を十全に使いこなし、物体や人間の移送のみならず。
アイテムを用いた支援や回避による敵のかく乱まで行う。
超能力に驕る事なく、様々な研鑽を続けた故の有能さ。
何よりも由衣瑠には戦闘の流れを整える、明文化し難い何かがある。
能力以上にその在り方が、共に進む人々を励ますのだ。
雨柳達は由衣瑠に続く。
支えてくれる者がいるなら動くのだ。
「論ずる必要もなくこれだね≪テトラカーン≫」
オベロンが≪ファイの時報≫*16で効果時間を延長させた物理反射障壁を展開。
絡め手があるとはいえ一番の脅威である物理攻撃を封じ。
「おらおらおらおらぁっ!!」
ネルが2丁の短機関銃を乱射し、明確な傷を与えていき。
「もう一度叩かせてもらうぞ!」
雨柳が再度≪牙折り≫で攻撃力を低下させる。
疵が増えていく上に得意の物理が封じられた苦境。
不満気に唸るヘカトンケイルの眼に光。
不吉な光が放たれる。
≪マカジャマオン≫≪メギド≫*17
何らかの強化を受けたせいか、巨人は尋常ならざる魔法をも使う。
魔力を封ずる波動に加え、万能の魔力で敵を撃ち抜く。
消耗は激しいが威力は中々。
敵陣の体力を確かに削った。
「────ああ?」
しかし、ヘカトンケイルが知らない事だが。
状態異常スキルの使用は悪手だった。
状態異常を受けたネルが≪激怒≫*18した。
小柄な目が凶暴な光をたたえ、自身の何倍も大きな巨人を睨みつける。
暴走はしていないが、意識が攻撃によるのが分かった。
「大丈夫なのかあれ!?」
「ウチらに攻撃する事はありません!
フォローしますので雨柳さんはそのまま!」
由衣瑠は道具で自身の魔封と全体の体力を回復。
手番は雨柳のオベロンに回る。
(攻撃特化の形態か。テトラカーンはまだ持つ。*19
ならオベロンのスキルで有用なのは)
瞬時に判断、仲魔へ召喚師として指示を下す。
「叫べオベロン!」
「成程、あの少女には最適だ≪雄叫び≫」
妖精王が指を振ると、勇壮な
咆哮似たそれを受け、ネルが引き金を引いた。
「舐めてんじゃねえぞコラ!!」
マグネタイトにより形成された弾頭による≪毒針≫*20の一撃。
猛り狂う銃火はヘカトンケイルの、強固な皮膚と筋肉を貫通。
血とマグネタイトが弾けこれまでにない苦痛の叫びをあげた。
「≪雄叫び≫でここまで威力が……?
能力の低下を引き起こすスキル*21じゃなかったんですか!?」
「神道系は現代のスキルとは色々違くてね。
管式の雄叫びは一定期間物理攻撃力を大きく上昇させるんだ。
更に攻撃力の上昇はタルカジャとかと累積する」
現代の悪魔や異能者とは異なるスキル。
遥か昔の代物が今と劣るとは限らない。
(まだまだやれるな。俺も俺の流儀も)
由衣瑠の様に、管使いの召喚師もまだまだやれる。
最新に生きる超能力者と、古の業を振るう召喚師。
呼吸を合わせ相手を理解し共に戦えば、強大な敵も打倒できる。
ネルの
星光破山剣*22を煌めかせ跳躍。
「おおおおおおおおおっ!!」
跳躍の頂点にて、刃で輪を描くように回転し、巨人の脳天へ刃を振り下ろす!
| 物理スキル | 敵に絶大な衝撃を叩きつける高位の剣技 低確率で気絶を付与 |
ガァン、とおよそ生物の頭蓋が立てるとは思えない炸裂音。
裂帛の気合を込めた一撃はヘカトンケイルの頭部の一つを割り砕く。
神話の巨人だろうと臆す事なく、仲魔を従え仲間と共に戦う者。
人の世と神話のはざまで戦う悪魔召喚師の面目躍如。
巨人がよろめき膝をつく。更なるクリティカル。
もう一度呼吸を奪い、雨柳達の動きが続く。
「敵は弱ってきています! 最後まで油断せず慎重に行きましょう!」
「手負いの獣は危険です。
継戦を第一に続けましょうお嬢さん方」
「上等だコラぁ! コナゴナになんまでブチのめすぞ!」
「ああ。このメンバなら―やり遂げられるさ」
敵から呼吸を奪い、優位を取得しながらも動きに慢心はない。
仮初の歯車が軋まず回るかの様に。
淀みなく連携しヘカトンケイルを追い詰めていく。
須摩留に侵入した巨人が砕け散るには、それから数分もかからなかった。
寒冷地の新潟に建てられた故か、何らかの仕組みが設けられているのか。
須摩留の空気は今日も澄み渡っている。
須摩留新市街の一角にある公園。
整理された内部を学生や掃除ロボが行きかう。
広場にはキッチンカーが何台か並んでいた。
特に人気なのはクレープの店。
少女達が列をなし、自分の番を待ち望んでいる。
「で、どうなんだよ由衣瑠先輩はさ?」
「どうって……言いますと?」
近くにあるベンチの一つに座るのはネルと由衣瑠。
二人共手にはクレープがある。
夜の埠頭での共闘から早数か月、季節が変わろうとしていた。
あの日から由衣瑠にあった変化は幾つかある。
一つ目は以前より自分に自信が持てるようになった事。
二つ目は気後れしていたネルと話す様になった事。
「あの雨柳っておっさんだよ。
あれからも連絡とり合ってるんだろ?」
そして三つめが、雨柳巧との交流を持つ様になった事である。
「え~それを聞いちゃう? 聞いちゃいます?」
「いや……聞いてほしいって顔してたからつい」
存外顔に考えてる事出るんだよな、とネルは思っている。
「あっちも忙しい身なのでー偶にしか会えないんですけど~。
ウチが会いたいって言ったら出来るだけ空けてくれて~」
「ほーん」
のろけの連打かよ、とネルは思っている。
「それで揃って休み取れたら旅行に行こうみたいな~」
「へー」
色ボケJDがよ、とネルは思っている。
が、由衣瑠の言葉には別の感想も出てきた。
(位階がそんな高くないつっても先輩は会長の部下だ。
外部の人間とそんな会えるって事は、上はヤタガラスと協調路線取る気なのか?)
楽観視は出来ないが、須摩留の対外関係を考えれば望ましい事だ。
ネル自身戦う事は嫌いじゃないしむしろ好きだが。
緊張が緩和されれば、須摩留の治安も改善される。
それこそ、一か月前の様な事件も大きく減るだろう。
「ウチがこんな感じの所行きたいって言ったらそれでー」
「ふーん」
ならまあ少しくらい聞いてやるのも、と思った所でふと、思考が飛ぶ。
(……あたしに、彼氏が出来るとしたら)
のろけに当てられたのか、益体もない考え。
頭に一つの顔が思い浮かぶ。
眼鏡をかけた、線の細い美青年。
卓越した指揮で何度も自分達を勝利に導いてきた間宮──。
「ン゛ン゛ッ゛!!」
「きゃっ!? ネルさん大丈夫? 水のむ?」
「だ……大丈夫だ。もう飲み込んだから」
ネルは包み紙をゴミ箱へ投げ入れ立ち上がる。
顔色を悟られない為くるり、と後ろを向き。
「そんじゃあったしは行くぜ。4時から
「頑張ってくださいね~」
「おうよ! 今日こそ勝ってやらあ!」
手を振る由衣瑠に応え、帰っていくネル。
この後また連敗しあおられる事は、まだ知らない。
「さてと、ウチも行こうかなっと」
自分の分を食べ終えた由衣瑠もまた立ち上がり歩き出す。
今日明日は休み、これから新市街で遊ぶのもいいし、友達と夕ご飯を食べるのもいい。
翌日は博物館で特別展示を見にいくのもいいかもしれない。
前と違ってうつむく事なく、焦燥感で空回りする事ない生活。
実に良い気分で、それが恋なのだろうか。
────自分を見る"目"には気づいていない。
ジグラッドの一室、広く機能的な一室。
威厳ある木製のデスクに載るモニター。
最新鋭のそれに、由衣瑠は映し出されている。
須摩留の中でも一部しか知らない、特殊仕様のドローン。
支配者の眼となる機器の一つ。
「……中々活発に動いている様ですね」
冷たい声で告げたのは、由衣瑠に近い年代に見える美女。
銀の髪に黒い制服に包まれた豊満な肢体。
完璧と定義される程に整った容貌の浮かべる表情は冷たい。
彼女こそは須摩留の
彼女が眺めていたのはヘカトンケイル侵入事件の報告書。
国内と国外の反須摩留勢力が連携し、悪魔を須摩留内に投入。
人的被害により威信を低下させる事を目的とした事件。
これまで何十回と処理してきたのと同じ、有り触れた事件だった。
最も投入された悪魔は常より強力な個体。
捕獲した反須摩留勢力から吐かせた協力組織の名前。
何度か耳に入った【 ガイア再生機構 】の仕業だろう。
「悪魔共がテトラカーンに対応し、即座に戦法を切り替える等そうある事ではありません。
ガイア再生機構の関与が疑われます。追加の調査を」
「かしこまりました」
彼女に答える少女もまた美しい。
楚々とした長い銀髪に柔和な美貌。
細身ながら曲線美を備えた体。
紫の瞳に、容易に判別しきれぬ感情を浮かべた少女は、
「……何か?」
「その……由衣瑠さんが外部の。
それもヤタガラスの構成員と交流を持ってもよろしいのでしょうか」
ノアの表情には疑問。由衣瑠は須摩留の一員である。
外部との交流を持つのは情報機密等の観点から如何な物かと言っているのだ。
「ああ、それなら構いませんよ」
対して都は、あっさりと告げた。
「稲城由衣瑠からの情報漏洩は現在確認されていません。
それに美甘ネルや貴方の様に損失を避けるべき存在ではない。
相手の男も同じ事です」
雨柳巧、帝都ヤタガラスの神道系悪魔召喚師。
自発的に須摩留に来るなら兎も角、態々大々的にリソースを割いて。
取り込む必要は感じられない。
むしろ雨柳と由衣瑠の交流を通じて、四天王やキョウジといったイレギュラーを擁するヤタガラスが、須摩留と穏便な関係を築けていると判断すれば面倒が減る。
「二人共余計な事をしない限り放置しておきなさい。……ただ」
「ただ?」
都はモニターの由衣瑠を一瞥。
喜びを浮かべて電話に出ている。
「ここ数か月の働きを考えれば、稲城由衣瑠の評価を上方修正してもいいかもしれませんね」
少しも表情を動かさず、都は呟いた。
「もしもし雨柳さん? はい、いつも通りウチは元気です。
今日はお休みでネルさんと」
都の意思を知る事なく、由衣瑠は雨柳と話し続ける。
歩調は軽く、表情は明るく。
さながらかつて須摩留に来た日の様に。
彼女の顔には紛れもない幸福があった。
────これは、破滅で終わる物語の前日譚。
黒い渦が拡大を続け、現れた悪魔や魔人が殺戮し、最期にガイア再生機構によって生き残った者達が駆逐され、須摩留は滅びた。
生き残り未来を手にしたのはごくわずかな学生達のみ。
後は全て、幾多の死の中に埋没していった。
しかし、だから全てが無意味だったと言い切れるだろうか?
破滅から僅か半年程前のこの時、稲城由衣瑠は希望と幸福を抱いていた。
彼女の
◎登場人物紹介
・稲城由衣瑠 <テレポーター><幻視者> LV37
シリーズポジション:稲城珠枝(TRPG200X 異形科学)
学園都市須摩留で大学生をしているテレポーター。
長距離の能力には時間がかかるが、中近距離においては極めて高速かつ正確に瞬間転移や物質転送を行う能力者。
生家で蔑まれていた過去から自身に欠け気弱な性格だが、雨柳との出会い以降大きく改善。
須摩留でも優秀な超能力者・戦闘支援者として高い評価を手にするようになった。
主要ジャンルは食べ歩きやTCG、その他にも日本・世界問わず歴史好きで博物館もよく行く。
特に興味があるシュメールの特別展示会は彼氏と一緒に行きたいようだ。
次回は掲示板回を予定しています
また速度を上げて12月中には投稿したいところ