真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
大掃除の進捗は知らない知ってても言わない。
過日の第三次セプテントリオン戦で、レルムも被害を受けている。
異界内に隔離しているとはいえ、現世と直結した領域。
大量に溢れかえったミザールにより損壊した建物は少なくない。
それでも滅亡した世界からの漂流者も多いレルムの住人は逞しい。
一先ずの体裁を整え、残った店の多くは既に営業を再開。
じわじわと活気を取り戻しつつあった。
小規模だが比較的治安のいい、杉並レルムも例に漏れない。
「アイス売るホー!
おすすめはソーダ味だホー」
広場前ではジャックフロストがアイス売りの屋台すら曳いている。
アイス代の小遣い稼ぎが高じ、今や売店までやっていた。
今も何人かの客が小銭を手に並び、中々盛況な様だ。
悪魔の関わる領域らしからぬのどかな風景。
それは三度目の滅びを乗り越えた証。
しかし、平穏の裏で事態は動き続けている。
杉並レルムの一角にある小奇麗な建物が並ぶ通り。
一つは見る者が見れば、警備の厳重さに気づくだろう。
ブラックフィエンド。三大勢力へ対抗する為現地民と漂流者の垣根を超え設立された組織。
ここ数か月日本で地方を中心に影響力を伸ばしつつある者達の拠点、その一つである。
「悪魔合体師の予約まだとれなそう?
ミザール用に調整した手持ち作りなおしたいんだけど」
「仙台への新幹線チケット買っておいて!
今日中につかないとまずいから!」
「沿岸部の異界ペースは落ちてきたがまだ多いなあ……」
「アイテム収集チーム集まってー」
建物の内部は様々な格好の人員が集い非常に騒がしい。
荒れた状況に対応する為か皆忙しく動いている。
しかし同じ建物でも階や扉をまたげば雰囲気は異なる物。
地下の頑丈な扉で隔てられた空間。
寒色の硬質な壁や天井、備え付けられた最新の機器。
隅には武器COMPがラックへ懸架されていた。
ラックから延びたコードは端末へ繋がっている。
画面にはオールグリーンの表示。
それは武器COMPのフレーム、内部機構いずれも問題ない事を示す。
「うん、うん。異常なしだね。
どれも正常に動いてくれている」
画面を確認した人物は満足気にうなづく。
声は若く、少女の様。
そして容姿も声の印象にたがわない。
鮮やかなピンクのショートカットに幾房かを黄色に染め、一部を後頭部で結んでいる。
宝石を思わせる輝きをたたえた黄色の瞳に、美少女と呼べる顔立ち。
笑みから垣間見える八重歯すらも魅力的だった。
「装備は信頼性や整備性が大事だよね♪」
少女の名前は鉄馬ミア。ブラックフィェンドに勤める装備関連技術者にして、デビルバスター。
\カカカッ/
| 鉄馬ミア | LV72 | 備考:BF所属の技官 |
武器COMPの整備を終えたミアは優雅に伸び。
何人かいる助手の、手が空いた一人を呼ぶ。
「コーヒーとクッキー持ってきてくれるかな?」
「はい、ただいま」
白い制服に制帽を被った少女は素直に珈琲を入れ、菓子箱の中身を皿に並べる。
用意するのは人数分、ミアは基本的にそうする様にさせていた。
自身の作業や、整備終わりの武器COMPを手に取って確かめていた者達もテーブルに着く。
「流石の手際ですね。この数の武器COMPの整備をもう終わらせるとは」
「手順覚えたら意外と簡単よ?
むしろ機械がある程度チェックしてくれるから楽なもんだわ」
ミアは武器COMPを一瞥。頑強なフレームに沿う様に刃や銃口を備えた。
堅牢な印象に違わぬ信頼できる代物だ。
「特にウチで採用しているのは頑強性と故障率の低さに定評ある奴だからね。
あたし自身も砂に埋めて水に沈めて、あれこれ試した上で採用を決めたけど。
信頼性については安心していいよ」
命を預ける物はCOMPにしろ、武器にしろ頑丈で壊れない事がまず第一。
幾つものメーカーが販売する武器COMPの中から、ブラックフィエンド協賛企業製のモデルを選んだのはその点が大きい。
「アメリカのランサーモデルも頑丈そうですけど、ちょっと私達には大きいですからね」
「九十九*1はベテラン向けのオーダーメイド中心で数揃えるには向かないかな?」
「性能で言ったらグランギニョルもいいけど……高いかあ」
過酷な戦況の中集められた膨大なデータ、更には
それこそ幾つもの企業が開発から販売を行える程に。
(……本来この年代で創り出せる物じゃないんだけどなあ)
ミアとしては興味深いと同時に困惑を感じる。
十数年から数十年単位での技術の先取り。
おかげで本来飛ぶように売れるはずの。
(文明維持してる環境だとグランギニョルとか既存企業が強いわ)
得意の信頼性であちらがリードしているなら、主導権を握るにはまだまだかかるだろう。
そう考えたあたりでふと、ミアの思考が飛ぶ。
「そういえばさ、グランギニョルの話ってネット上に何か出てる?」
第三次セプテントリオン戦の最中、グランギニョル社には色々あったらしい。
内部には巨大なギリメカラやドラゴンが放たれ暴れまわり。
正門も悪魔の襲撃により大きな被害を被ったとか。
「ちょっと待ってくださいね……ええと、ドラゴンを倒したDBがかなり名を上げてます。
漂流者の剣士とサマナーのコンビで名前は────」
手元のノートPCで助手の一人がサマナーネットにアクセス。
表示された画面をミアへと見せる。
「成程成程……出回っている情報だけでもドラゴンは相当な強敵。
有名になる訳だ。
ちょっとこれ見ていいかな」
承諾を取り画面を助手達に向ける。
ミア自身もスレッドの中身を精査。
(やっぱり今回大きく名を上げたDBが何人かいるね)
空前絶後の決戦、ミザールのみならず現れたイレギュラー。
奴らを撃破したDB達は、英雄とすら称されていた。
「特に気になるのは……まずこの人かな」
低速でスクロールしていた画面を停止。
漂流者現地民問わず上がっている何人かの名前。
その中にはミアが聞き覚えがある物もあった。
778:【NO・NAME】
西日本で暴れてた奴はクライエッジが仕留めたらしいな
779:【NO・NAME】
おかげでスカイタワー周辺がほぼ吹き飛んだらしいがまあ再建は可能らしい
今後の被害を考えれば必要経費だろう
780:【NO・NAME】
しかしよくやってくれたもんだわ
東日本の家もようやく枕高くして寝れるだろ
781:【NO・NAME】
おまけにその後お台場の巨人も倒したんでしょう?
可能なら味方につけたいけど難しいかしら
782:【NO・NAME】
女も金もヤタガラスなら十分に供給出来るはずだ
腐っても国内一位の大組織
最近漂流者を取り込んで息を吹き返してるしな
783:【NO・NAME】
戦果は喜ばしいがあの傑物がウチの地元で出ればなあと思うわ
784:【NO・NAME】
今頃地方もクライエッジ詣してるんじゃないか?
考える事は皆同じだろうよ
「クライエッジ……。うちもこっちで何度か聞いた名前だけど。
誰か実際見た事ある?」
「自分御台場出動してたんですけど、管使いのサマナーの人ですよね?
背が高めで20後半から30位の人ならちらっと見えました」
「管使いというと、あー私も前の世界で何度か聞いたなあ。
クズノハにはレイブンって言う管使いの隠し玉がいるって」
互いに顔を見合わせ、囁き合う少女達。
ミアは自身の端末を触りつつ、其処に声を重ねる。
「クライエッジとレイブンはどうも同一人物らしいね。
元ヤタガラスのベテランサマナーで。
実力は折り紙付きでここ数か月だけでも戦果を上げ続けている」
この世界においては確かに名のあるサマナー。
堕ちる事も死ぬ事もなく、今なお戦い続けている。
「ヤタガラスの所属なら移籍は難しいけど……協力できたらいいね」
「ああ。サマナーとしても剣士としても強いなら心強い」
「三大勢力相手も戦ってくれそうだしね」
「そうだねえ」
ミアは助手達の言葉に微笑む。
今の部下の多くは、この世界でのスカウト組。
なればこうした意見も出てくるだろう。
(あの人がそこまで強くなっているってのは不吉だなあ。
あたしも直接は知らないけど、記録上の性格のままなら)
間違いなくエデンに、
(歴史は繰り返す、なんて陳腐な事態にならないといいんだけど)
何も知らぬ助手達の前で、微かな不安を飲み下した。
東京の川沿い、古くからの異国情緒が残る区域。
二人の少女が歩いていく。
「クレープのお店やっててよかったね」
「良かったよね。壊れて営業できないお店も多いから」
緑髪にツインテールの少女と、明色の茶髪にベレー帽を被った少女。
二人の少女はいずれも美少女だが対照的、凸凹コンビと呼ぶべきだろうか。
緑髪の少女は
茶髪の少女は
二人は家が隣の幼馴染で、幼少期からの親友だった。
今日は普段参加しているチームが集まれない事もあり、外部の異界攻略の手伝いに行っていた。
休日に態々参加したのは予定が空いていたのもあるが、場所が以前よく行っていた店の近くだという事情もある。
結果として異界攻略は短時間で終わった。
だが、気がかりな事もあった。
「一年前とは大分街も変わっちゃった……。
一回目と二回目もだけど今回も酷かったから」
茶髪の少女は可愛らしい顔を曇らせる。
二人の実家は無事だが、三度にわたる試練は相手を選ばない。
見知った街並みが度々壊れていく事に悲しみを感じていた。
「私もレベルは上がったけどボス級の倒した訳じゃない。
もっと活躍できるといいんだけど。
先、長いわよねー」
「そうだねえ……」
二人そろって溜息。現行周回における一流の壁は厚い。
二人共先日のセプテントリオン戦で、ついに
しかし今の前線ではレベル70を超す精鋭が多数いて。
最前線に至っては80を超す者も少なくない。
仲間達共々研鑽が必要だった。
(こんな事ならもっと……早く、いや死んじゃってた可能性が高いか)
緑髪の少女は思案。当時の力量だと碌な事にならなかっただろう。
二人共訓練は受けていたが、本格的に戦い始めたのは第二次セプテントリオンの後から。
多くのDBにとって一番過酷だった時期ではない。
その時から戦っていたDB達とはレベルのみならず、知識も経験も違う。
事実今日手伝ったベテラン達は強かった。
レベルもそうだが動きが迅速で、指示も的確。
サマナーがチームにいない事もあり、大変参考になったものだ。
「でも私達も着実に強くなってる
これからも頑張っていけば前線で戦える様になるかも!」
「うん、私たちのやっている事は無駄じゃないよね」
緑髪の少女へ、茶髪の少女もうなづく。
壁は厚いが二人の士気は落ちていない。
緑髪の少女は素質が在れど戦う意味を見いだせず、茶髪の少女は戦いに恐怖を感じていた。
だが二人は悪魔やセプテントリオンに蹂躙される日常を見て、戦う事を選んだ。
不安を乗り越え踏み出した少女達は、迷いながらも進んでいく。
困難はあれど未来は開けている、二人共認識を共有しているのだ。
「今日も帰ったら、ひゃっ、な、何!?」
鍛錬しようかと、言おうとした所でバン、と大きな音が響いた。
茶髪の少女がビクつきながらも振り返ると、斜め後ろにある教会。
その扉が開け放たれていた。
扉から出てくるのは目の焦点が合わぬ男。
片腕で自身の視線を覆いつつ。
もう一方の手に握られたスマホを掲げ。
「すくいをおおおおおおおおおおおっ!」
絶叫すると共に魔方陣から有翼の存在が出現。
白い翼に同色の法衣、蒼い髪に冷たい横顔。
「ほう? 救いが必要なのですかヒトの子よ」
\カカカッ/
| 天使 | ドミニオン*2 | LV57(47+10) | 電撃耐性 破魔無効 衝撃・呪殺弱点 |
人気は少ないとはいえ町中に、機械式にして60の天使が召喚されていた。
「ならばマグネタイトを捧げなさい。
神の救いには先立つ物が必要なのです」
更に悪い事に、説得が通じる相手ではなさそうだった。
「こんな事って!?」
「あるの!?」
困惑に叫びながらも、二人はケースに仕舞っていた武器を抜く。
一先ずは二人で戦わなくてはなさそうだ。
・
・
・
「てやあああああああっ!」
緑髪の少女が茶髪の少女の援護を受け加速。
二人の力を合わせ、繰り出すは双剣による連刃。
| 重ね幻想刃 | 敵1体に斬属性の物理攻撃で中ダメージを4~6回与え、さらに敵を倒した場合、プレスアイコンが増加する |
出力を全開にした斬撃が天使を斬り刻む。
マグネタイトを吹き出し、天使が三枚に卸された。
「よしっ何とかなったね!」
「びっくりしたあ……まさか街中で出るなんて」
天使は断末魔すら残せず消失。
遭遇戦を無事納めた二人は胸を撫でおろす。
「さっきの人は……良かった、まだ生きてるみたい」
「一先ず拘束して、と。
にしても何だったんだろうこの人?」
男がメシア系カルトの生き残りであり、組織が壊滅した中薬物にハマりフリークアウト。
理由もなく発作的に天使を呼んだ、等という事情を少女達は知らない。
重要なのは死者ゼロで場を収める、上々の結果になった事だ。
「一先ず警察と学校に連絡しないと」
緑髪の少女が端末を取り出そうとした所で静止。
ふと背筋に冷たい物を感じ、周囲を見回す。
人気がないのは元からだが、静か過ぎる。
「────危ないっ!」
茶髪の少女が咄嗟に幼馴染を
獲物の大槌を盾にせんとする。
襲来するは二連の青き刃。
「きゃあっ!?」
万能属性の刃を受け、茶髪の少女が流血。
衣装が朱く染められた。
「そんなっ大丈夫!?」
「な、何とか
切り裂かれた少女の腕部防具はカラミティクロウ*3。
危険な前衛を務める故に優先的に渡された強力な防具。
ふらつきながらも立ち上がり武器を構える。
二人共まだ戦闘は可能な状態。
故に訓練通り敵へ武器を構え対峙した。
襲撃者は一人、少女達の視線の先へ降り立つ。
「……騎士?」
緑髪の少女が訝しんだ。敵は悪魔でも、如何にもなマンハントでもない。
黒と青を中心としたボディに、白いラインが奔る鋼鉄の鎧。
頭部には無表情な青いバイザーと細い角。
双剣を携えた姿は騎士と形容するのが相応しい。
「────クソ共が」
だが、中身は騎士といかないらしい。
「天使と戦ってたけどどうせマッチポンプだろ?
そう都合よく天使が町中にいる訳ねえしよ。
お前らメシアンは大好きだもんなマッチポンプ。
まだ若いのに取り込まれやがって
恐らく出現した天使の討伐を、何らかの示威行動の為のマッチポンプと決めつけているのか。
騎士は殺意の視線で少女達を射抜く。
吐き出す言葉は憎悪の瘴気に満ちていた。
(この人……怖い)
元より気弱な性質の茶髪の少女は微かに震える。
邪悪で狂気に満ちた、悪魔や人間とも対峙した経験はある。
しかし過去の経験を差し引いても、目の前の敵の憎しみは。
盲目的な狂気は異常だった。
「な、何よ貴方。まさかガイア再」
「メシアンとニンゲンと、人喰い共はよぉ早い所ぶっ殺すか、
近未来的な装備から噂のガイア再生機構かとあたりをつけるが。
緑髪の少女の言葉を敵は遮る。
「放っておくと世界を滅ぼしやがる。
だから駆除だ、駆除しつくさねえと」
「はあああっ!」
緑髪の少女が跳躍、連撃を放つ。
グロテスクな悪意から自分達遠ざける為に先手を取る一手。
研鑽と経験による物か、刃は鋭く疾い。
「────行動パターン解析完了。温ィんだよ!」
鎧に組み込んだ予測AIにより刃の悉くを回避。
回避動作と連動して蹴りつける。
軽い蹴りで少女の体が鞠の様に飛ぶ。
「あー、あー。イラつくぜ。犬畜生が逆らいやがって。
……だけどまあいいや、お前らの"力"は使いようがある」
二人を見て、何か得心したらしき気配。
指を鳴らすと背後に、数体の悪魔が降り立つ。
内二体は二人なら勝てるが、もう一体が問題だ。
赤い馬に騎乗した鉄仮面の女騎士。
エターナルと同様に双剣を携えている。
その力の程は、恐らく目の前の敵と同格。
前後からの格上による包囲。
二人は意味を悟り青ざめる。
「幸い≪誘拐≫*4は得意だからな。
俺達の未来の為に使い潰してやるよ」
\カカカッ/
| 外道/超人 | 清絶のエターナル | LV68? | 耐性:??? |
\カカカッ/
| 妖魔 | ヴァルキリー | LV63? | 耐性:??? |
仮面の下で、永遠の戦士は歪んだ喜悦を浮かべた。
────それは、憎しみを反芻し続けた者である。
メシアンが原因となって起きた騒乱、更にはその後に起きたデヴァローガが解き放つニンゲンと
失いながらも戦い続け最終的にエデンへスカウトされ、エターナルとなった男。
憎悪を忘れる事なく、目についた手近な敵をひたすら殺し続け。
長い年月により空虚な憎しみに突き動かされる存在に成り果てた存在。
今では仇に連なると決めつけた相手を、一方的に蹂躙するだけに成り果てた。
己が復讐するべき存在を見いだせず、刃を届かせられず、ただ屍を積み重ねる。
行く道を見失い、機械的な憎悪を味のしないガムの如く噛みしめ続ける生涯。
「行くぞ」
幾度なく繰り返し
かつての世界の如く繰り返されようとしていた。
「っ!」
だが、悲劇を許さぬ者も確かに存在する。
エターナルに対し放たれる無数の銃弾。
回避する合間に悪魔の大半が両断された。
二人を外道と悪魔からそれぞれ隔てる。
狩られようとしていた少女達へ、援軍が来たのだ。
「あなた達は……!?」
少女二人は駆けつけた二人を見て息をのむ。
いずれも今日支援したベテラン。
自分達よりも上位のDB。
「アイリスさんと……雨柳さん!」
「連絡を聞きつけて駆けつけたが正解だった様だな。
アイリスは回復と、悪魔共の対処を頼む」
「承知しております。旦那様」
恭しく礼したアイリスは回復した少女達と共に悪魔と対峙。
他方、雨柳は刀を構えエターナルを睨みつける。
「アイツは俺が対処する」
「またメシア臭ェクズ共が……いや」
怒りよりも先に、エターナルには驚愕の気配。
「テメェ……! 此処でも、またしても俺達に刃向かいやがるか!」
「いつの話なのかはどうでもいい。
────お前は此処で終われ」
残酷な繰り返しを切り裂く、戦闘が始まった。
教会の壁を破砕、瓦礫が飛ぶ中二者が内部で刃を合わせる。
ギリ、と押し殺すような金属音。
一瞬の鍔迫り合いの後、反転。
距離を取ったエターナルが斬りかかる。
「予測AI、起動!」
AIが高速で処理、未来予知にすら類似した高精度予測を展開。
エターナルの
| PredictiveAI*5 | 自動効果 | 命中・回避が常時2段階上昇 |
────≪Predictive AI≫は少女の血に濡れている。
少女英雄の中でも希少な、
彼女達を拉致し実験を重ね、使い潰す事で得られたデータを基に組み上げられた。
メシアンやデヴァローガ、己の世界を貪り滅ぼした者達への憎しみ。
長い年月で擦り切れ、空虚で習慣化した衝動に突き動かされるまま。
同じ意思を持つ者達と共に研究を重ね。
幾度なく少女を拉致し、踏みにじってきた。
臆病で寂しがりで、孤児とお嬢様、出自の差を超えた親友と共に頑張って戦っているとか。
人の悪意に踏みにじられ過酷な人生に傷つきながらも、自身へ手を差し伸べた仲間達と共に幸福を噛みしめ生き抜こうとしているとか。
年齢の割に幼い印象だけど、姉妹同然の親友や友達の事を誰よりも大切にする優しい子だとか。
少女達の思いも、歩んできた人生も一顧だにせず。
ただ
「死ねえ雑魚があっ!」
血濡れのAIが導き出す幻想のままにエターナルは叫ぶ。
予測と同期し、残光を残して機動。
電子幻想の命じるままに、低く跳躍し剣を上段へ。
これまで通り、必殺の斬撃は。
「らあっ!」
「がっ!?」
予測を上回り踏み込んだ、雨柳巧の刃によって食い破られた。
悪魔を、武神を、魔丞を、エターナルを、魔人を滅ぼした悪魔召喚師の剣閃。
何処までも黒き刃が、装甲と骨肉を斬り裂く。
(なんだ!? 何だあの刀は!?)
鎧の下でエターナルは目を見開く。
強固な装甲と身体を容易く斬り裂く刃。
あれ程の大業物が現地民の手にあるなど、理解の埒外。
(それに……予測AIを上回りやがっただと?)
驚愕するが、それは当然の帰結である。
幻想視は可憐な少女達が、心を繋いだ仲間と共に生き抜くための力。
卓越した科学力があろうと、データを集めようと。
未来を求める意思の力をそう簡単に再現できるはずもなし。
ましてやエターナルは、不安を乗り越え戦う英雄に程遠いのだから。
「っ! 来やがれ!」
エターナルの声と共に窓を突き破りヴァルキリーが飛来。
対する雨柳も、管を下部に装着したGUMPを抜き。
「残りは、倒しました!」
「ならコイツだけだな────召喚!」
飛び込んできたアイリスとの位置を調整しつつ、引き金を引く。
迸る蛍色の光、2体の仲魔が召喚。
「下品そうな相手ね。
早めに凍らせて砕きましょう」
\カカカッ/
| 軍神 | スクルド | LV79 | 破魔・呪殺無効 氷結吸収 精神・神経・魔力に強い 火炎弱点 |
「ワシの力を今度こそ証明してみせるぞい!」
\カカカッ/
| 邪神 | ギリメカラ*6 | LV76 | 破魔耐性 呪殺無効 物理・銃撃反射 電撃・衝撃弱点 |
「少女に狼藉とは下賤極まりない。
旦那様の仰る通り、此処で果てていただきます」
\カカカッ/
| 顕現者 | アイリス・ビショップ | LV76 | 氷結・電撃・衝撃・魔力・神経耐性 呪殺無効 破魔吸収 精神反射*7 |
瞬時に足並みを整えた二体に、雨柳とアイリスが並び立つ。
所要故シロガネはいないが二人と二体で戦列は構築可能。
選択するは、安定感を重んじた作法。
刹那に捉えた戦闘の流れ。
戦士達は足並みを揃え駆けだす。
「初手はこれじゃ≪ランダマイザ≫*8
「宣言通りこれで行くわ≪絶対零度≫*9」
邪神ギリメカラが
軍神の氷柱による槍衾が敵陣を襲うが、エターナルは氷結を吸収。
一手敵に塩を送った形だが、序盤に耐性を暴いた事は無駄ではない。
「おおっ!」
故に雨柳が揺るがずに、踏み込む。
「があっ!?」
袈裟斬りの一閃、斬撃がエターナルの血肉を抉り、マグネタイトを奪い取る。
近接攻撃による敵マグネタイトの奪取は、神道系召喚師に必須の業。*10
雨柳も又、当然ながらその術を心得ている。
(ふざけてんじゃねえぞ……!)
自分が、奪われた。屈辱的事実に激昂しつつエターナルは機動。
銃撃の大半を高速反応により身をよじり最小限に。
ヴァルキリーと共に、攻勢へ移る。
≪フォッグブレス≫*11
ヴァルキリーが口を開け、深い霧を放つ。
敵の動きを貶め、更なる蹂躙を可能とするスキル。
援護を受けて、エターナルが突進。
≪ギアチェンジ≫*12
鎧の演算・行動補助機構に追加リソースを投入。
負荷と引き換えに
| フォトンエッジ・双閃*13 | 万能属性スキル | 敵単体に力依存の物理中ダメージを二度与える 本来一撃のスキルを威力の低下と引き換えに連撃とした |
| 地獄突き*14 | 物理スキル | 敵単体に物理大ダメージ 高確率で敵を1~2ターン魔封状態にする |
| 吸血衝動*15 | 自動効果 | 敵に与えたダメージ毎に自身のHPを回復 |
万能の刃が雨柳を2度切り付け、流星の如き突きがアイリスを貫く。
吹き上がる血、手ごたえにエターナルはほくそ笑む。
血によって自身は回復しつつ、敵を削りとる。
(どうだ俺の刃は。メシアンに天使にニンゲンに、喰奴。
敵を斬り刻む為に試行錯誤を重ねた刃、は……?)
しかし、引き抜く感触に違和感。
見れば刃はアイリスの胴に刺さっているが。
盾とした腕を貫いている為、勢いを殺された。
予想よりも刹那、遅れた引き戻し。
此方を冷厳と見つめるアイリスと視線が交錯。
「この……売女がっ!!」
叫ぶ間にも、手番は交代している。
「毒よりもこっちが手堅いかのう≪ランダマイザ≫」
「下げられたなら上げなおすだけよ≪ラスタキャンディ≫」
敵の能力を下げ、味方の能力を引き上げる。
単純だが効果的な手順。
援護を受けて、雨柳がエターナルへ追いすがる。
「おおおおおっ!」
後退が遅れたエターナルへ、回避する間もなく旋転からの大上段。
≪磁霊金剛壊≫の、強烈な一撃が脳天へ振り下ろされた。
「ぎがあっ!」
装甲がひしゃげ、半透明のバイザーが砕け飛ぶ。
クリティカルとなった一撃により地をバウンドする中。
アイリスがハーブ酒*16により自身と雨柳を回復。
地を転がるエターナル、更に両者の差を広げるのは。
「状態は魔封だから……これを!」
「真っ向からやり合うなら!」
茶髪の少女と緑髪の少女が雨柳達を援護。
前者が魔封状態のアイリス目掛け、回復アイテムを投げ。
後者が≪クリティカルチューナー≫*17で雨柳を強化したのだ。
「周囲に悪魔が沸いてるみたいなので」
「私達はそっちに対処します!」
「いい援護だ! そちらも気を付けてな!」
声を掛けつつも雨柳はエターナルを注視。
砕けたバイザーから覗く、仮面の奥の目。
微かに動揺の兆しが見えた。
(どう、なってやがる)
そう、エターナルは確かに動揺していた。
(俺が、エターナルが本気でやっているんだぞ?
怯えろよ、崩れろよ、やられ役みたいに死んでろよ)
エターナルのレベルは68、だが実際のステータスと装備の性能を加味すれば更に20上乗せ。
実質的にレベル88と考えてよい。
そんな相手には同じ三大勢力か、ごく一部の英雄しか対抗できるはずもなし。
並みいる精鋭DB、神を気取る悪魔、傲慢な天使、過酷な戦況で生き延びた少女英雄。
そのいずれもがあっけなく散ってきた。
運悪く死ねなかった者は、より悲惨に踏みにじった。
怯え絶望し、蹂躙され死んでいく。
それが彼らであるはずなのに。
何故こうも────―自身に対抗できる?
「援護しろヴァルキリー!
俺はまだ、負ける訳にはいかねえんだ!」
デクンダストーンを使用し、エターナルは立ち上がる。
仇への、復讐の意思はまだ尽きていない。
光刃を振りかざし、なおも戦闘を続行せんとする。
「雑魚共を駆除するぞ!」
「いいや、さっきも言ったがお前は此処で終わりだ」
昂るエターナルと対照的に、冷静な戦意を宿し、雨柳は敵を見据える。
「流れを覆させはしねえよ」
「消されたらまたかけなおす。
いつもの事ね」
「まずい時には盾になるぞい。
ワシ友好的じゃから。
……あの酒何が入っとるんじゃろ」
「そろそろMPが怪しいな。
魔法ビン*18を使っていくぞ」
「銃撃が効くならこれはどうでしょう? ≪ブランクバレット≫」
エターナル側は3手に対して雨柳側は4手。
僅か一手の差であるが、その差は大きい。
全体攻撃の多くはギリメカラにより封殺され、単体攻撃も敵を削り切れない。
高速で動きアイテムを駆使しても、形勢不利なのはエターナル側。
的確に強化と低下を使い、攻撃に耐えて回復し反撃する。
砂時計の砂が下へ零れ落ちるかの如く、雨柳側へ形勢が傾き。
≪震天大雷≫
雨柳がスクルドと共に繰り出す凄まじい衝撃破。
空間を鳴動させる退魔の波動が、敵を粉砕。
ヴァルキリーが斃れ、エターナルも又爆ぜ飛ぶ。
「ごぉげあっ……!」
鎧と毎肉体がひしゃげる中、どうにか高級応急薬*19の多重使用で死を逃れる。
視界を満たすのは粉塵と瓦礫、そして自身の血。
(……此処は逃げるしかねえ。俺はこんな所で死ぬわけにはいかない。
まだメシア教も、デヴァローガも滅ぼせてないんだぞ?)
かつて世界を滅ぼし自身の全てを奪った憎悪すべき存在。
連なる者を塵殺し余す事なく使い潰した上で、奴らをこの世から消滅させる。
その為に幾多の屍を積み重ねてきたのだ。
(滅ぼさねえといけねえだろうが!
特にメシア教、アイツ等の手は何処までも伸びる。現にあのガキ共も)
そう、メシア教の汚染は社会の裏側で深く広く伸びる。
係る者は全て駆除しなくてはけない。
荒療治だろうと女子供も逃さず潰す。
非道であろうと誰かがやらなければ。
(だから俺はメシア教の敵に)
立ち上がる中思考が回った刹那、エターナルの動きが止まる。
己の思考の矛盾や瑕疵に気づいた故か、あるいは。
かつてメシア教の膨大な天使に、強大な大天使に敗北し、心砕かれ逃げのびた記憶故か。
「──────────」
理由は分からない。だがエターナルは止まってしまった。
時間にして一秒程度、されど致命的な隙。
刹那に生じた光機に、雨柳が動き。
激励の声を錯覚する程の、迷いなき進み。
繰り出されるは
| 殺魔一閃(不完全)*20 | 敵の攻撃を回避もしくは敵をダウンさせた時、低確率で力依存の万能属性大ダメージを与える 魔人の動きを模倣した業であり、現在は敵が致命的な隙を晒さない限り使用できる精度ではない |
無駄も揺るぎもなき一閃、万物を両断する斬光。
認識した瞬間には背後で雨柳が残滓を振り捨て。
断末魔すら残せずエターナルは崩れ落ちた。
燃え上がり鎧毎灰化し、後に残るのは残滓のみ。
エネミーソナーへの反応はなし。
増援や悪魔出現の気配はない。
(実質のレベルは恐らく俺と同程度だが、順当に勝てたな。
このクラスが複数いれば違ったんだろうが)
単独で増援もなしとなれば、恐らくは突発的な犯行か。
遺留品もほぼ無しとなると今後の捜査も進まない。
つくづく奴らの機密保持は固い。
(あの子達に何があったか聞いてみるべきか……。
それにしても、だ)
思い返されるのは戦闘前の敵の言葉。
雨柳に覚えがあるようだが。
(何処かの周回で戦った事があるのか?
アイリスの時に戦闘経験があったらしいが。
それ以外の周回でも?)
真相は分からない、ただ一先ず分かる事は。
外の悪魔を片付けた少女達が手を振っている。
あの二人が無事で良かったという事だ。
教会より数キロ先のビル、裏通りの目立たない建物。
本来人がいないはずの屋上に影が二つ。
「誘導する手間が省けましたな」
「そうね。私達の干渉がないに越した事はないから、良かったわ」
控える従者らしき男に、返答した女の身は鎧に覆われている。
洗練された黒い装甲に、複雑な金色の文様。
肩部の装甲は濃紺に染められ、赤いバイザーが鈍く輝く。
手には片刃の機械的な大剣。
近未来的な印象の女騎士が、遠方へ視線を遣る。
教会と別方向でも何らかの事件起きたのか、煙が上がっていた。
「あちらに付近のDB達が向かっている様です。
決戦から間もないのに即応出来る者が多い」
「勤勉な事で何よりね」
従者の言葉に女はうなづく。
多数の精強なDBが戦線を維持している状況を。
嫌味もなく心から肯定していた。
防衛には一定の質を備えた数が必要だからだ。
例えば、東京にレベル100越えの戦士がいたとして、全都道府県をレベル80の悪魔が1体ずつ襲撃した場合。
日本全域の防衛は非常に困難であり、高速転移等の手段で全土を駆け巡ったとしても被害は甚大な物になるだろう。
現にセプテントリオン戦ではエデン側含め、突出した戦力がメラクとメグレズを討伐する間。
新人すら動員してミザールへの対処を成功させた。
過去の周回を思えば高く評価するべき。
少なくとも今日倒された男の様な、切り捨て対象のエターナルよりも余程有益な存在だ。
(最も私達も安心安全という訳じゃないのが困り物ね)
己の余暇に裁量の範囲内で活動するのはいいが。
組織に損害を与えないのは当然として、任務の失敗や素行不良があれば。
評価は下がり切り捨てられるか
≪ユダ≫を始めとする大幹部達は、構成員を冷徹に評価している。
だからあの様な者は死んでも顧みられる事はない。
女からしても品性に辟易していたから丁度良かったと思える。
「大陸から帰還したら、早速の仕事とは参ったけど。
今のDBの仕事の速さを知れたのは利点ね。
それで、相手は誰だか分かる?」
「こちらを。余波で破壊される前の監視カメラに写っておりました」
「ありがとう。仕事が早いわね」
実際のスペックは兎も角、外見は現行周回と同程度に偽装したタブレット。
タブレットに映し出されるのは何人かの顔。
「どれも見覚えのある顔ね。
絶望の世界で戦った
……問題なのは、そしてこの男」
画面に映るのは刀を持った男。
女にとって懐かしいというより忌まわしい存在。
「……雨柳巧。この世界でも名を上げていたのは知っていたけど」
ふう、と煩わし気に息を漏らす。
女の組織にとっては不吉な名である。
────かつてある世界があった。
誰かが悪魔なき世界を望んだ結果産まれた、悪魔なき偽りの楽園。
停滞の中現れた
女しか戦えない世界の、幾度目かにうまれた亜種世界。
その世界では、男にも覚醒者がおり、女性より
戦士の中には雨柳巧もおり、東京を始めとする首都圏の防衛において力を発揮し。
世界滅亡が確定しつつある中、少女達の背を刺し壊滅させた、エデン側の攻勢すら生き延びて。
「不吉な事ね」
奇しくも鉄馬ミア、同じエデン下部組織の者と同じ感想を呟く。
あの世界は類似の世界より長持ちし、貴重なデータも多数取れたが。
デヴァローガとの交戦と、雨柳を含む何人かの逆襲で投入されたエターナルは半壊。
電子データは兎も角、
当時何とか帰還した者からすると、好んで聞きたい名ではない。
「暗殺部隊の編成をしますか?」
「残念だけどそれは無理ね。
半端な戦力では返り討ちになり。
本格的にリソースを投入するには優先事項が多すぎる」
これまでのエデンが圧倒的アドバンテージを得ていた世界と違う。
多数の強者溢れるこの世界では、優先して進めるべきプランや事項がある。
「ままならない物ねこの世界は。けれど」
女は身を翻しビルの屋上を後にする。
今油を売っている暇はない。
優先事項を整理し、休息の後動くべき。
「貴方が幾ら強くなろうと最後は我々、≪ヴィーンゴールヴ≫が勝利する」
「ええ、勝つのは我らで、
ヴィーンゴールヴ、エデン傘下の≪英雄の力≫を探究する組織。
その幹部の一角たる女に対して、従者は敬意と共に従う。
「それがあるべき未来ですな。<ハール>様」
ハールと呼ばれた騎士は頷き、従者と共に去り行く。
第三のセプテントリオンを超えた世界で。
過去周回からの紡がれし因果と共に。
戦いは更に加速していく。
・Tips:
繰り返しの中定着した、誰かが悪魔と異能を否定する事で産まれた世界、その
今回はこれまでの世界と違い少数ながらも男性の覚醒者が存在した等の理由で、比較的長い時間防衛に成功し、G7を始めとする国家は社会を保つ事が出来た。
しかし最終的にはデヴァローガの侵攻により防衛線が食い破られ滅亡。
これまで同様に灰燼に帰したが、その最中に雨柳の最後の戦いがあった事は確かである。
今年の投稿は終わりとなります。
来年は三大勢力との戦争編、百合な世界にもいた雨柳と、仲間達が三大勢力と激戦を繰り広げていく展開になる予定ですのでよろしくお願いします。