真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
今回は前話で言及されたある世界の話がメインとなります
何時かの世界、何処かの国の、誰かが言った。
「悪魔も異能もこの世にいらない」と。
それは理解が及ぶ思考である。
常識を超えた残酷に、少なからずその二つはかかわっている。
悪魔の餌食になり弄ばれ、社会の裏に巣くう邪悪に搾取される。
人の世から悪魔と異能の巻き起こす悲劇は尽きず。
それこそ国や世界すら滅ぼしかねない程。
なら、根絶する事で平和を取り戻せるのではないか。
ある
不可思議のない人のみの世界を創りだした。
新たな世界では戦争が絶え、犯罪等も激減した。
人の感情は希薄化し、進歩は止まったが。
平和である事には間違いなかった。
かくして停滞の楽園は末永く続き────とはならなかった。
秘かに壊れていった世界で、生み出されたのは新たな地獄。
夥しい異形と儚き少女達の極限闘争。
神は知らなかった。自身がそうする以前に生まれ。
繰り返され確立しつつあった分岐を。
悪魔と異能の否定は異なる残酷を生み出す事を。
一度、二度、三度と繰り返される。
可能性が限定され、萎びていく世界。
その一つに、男はいた。
何処か不吉な気配が漂う夜空の下。
少女の荒い息遣いが響く。
「はぁ……はぁあ……まだ、動ける?」
「ごめん無理そう……足、動かないわ」
罅割れた道路の隅、歪んだガードレールの奥。
少女が二人身を寄せていた。
傍らには身の丈に迫る大型の武器。
不釣り合いな代物を携えた二人は息も絶え絶え。
女子高生らしい制服は、あちこちが朱。
「折れてるっぽいけど、あなたも私も回復できないし、ね。
あー畜生。人の足をやってくれてさあ」
「しゃべんないで。今応急処置をするから」
────少女達の世界は生存競争の中にある。
今からおよそ二十年程前の事だ。
戦争を、
人類遺伝子を起源とし、あらゆる生物の特徴、遺伝子を宿した【
グロテスクな造形に巨体と未知の能力を備え、大型になると通常攻撃を無効化する特性を備えた怪物は世界中で暴れまわり。
わずか数年で人類の人口は最低でも3割から4割減少、それ以降も全盛期から大きく擦り減った。
国家リソースの最優先投入、更に
G8構成国やアイスランド等の国家は未だ社会や文明を維持している。
あくまで小康状態、敵を滅ぼし人類の平和を取り戻すには程遠い。
決戦兵器たる【CHARM】、魔導器とも呼ばれる得物を振るい、異能の力で戦う
彼女達は懸命に戦いヒュージを倒し、世界を守っている。
しかし十代半ばから後半は心身共に未熟。
成人年齢に達した女性や、屈強な男性の使い手は数が限られており。
前線で血を流し死んでいくのは大半が少女という。
人類が有史以来未だ直面した事のない、歪な戦況が長い事続いている。
「本隊、合流するの難しそうだよね。
結構離れちゃったし。だからさ」
「そうね、はい痛み止め」
「……ありがと」
話を戻そう、二人の属する
数年前ヒュージの大群に占拠され、
中枢である東京への進出を許さぬ為定期的な監視は必須。
そんな定例の任務の最中、甲府に棲息するヒュージの一部が活発化。
ギガント級1体を含む群れが突如進軍を開始。
先遣隊に捕捉されやむを得ず戦闘に入った。
結果として死者はでなかったが多数が負傷。
殿となった二人は部隊からはぐれてしまった。
幸い連絡は成功し、直に東京から増援が来るはず。
だが乱戦で味方とはぐれ、二人は孤立している。
虫の声すらない、互いの声しか響かない空虚が寂しい。
不安に支配された静寂、やがて微かな音が聞こえ始めた。
「……聞こえた?」
「うん」
手当していた少女が剣型CHARMを手に立ち上がる。
同時に足を怪我した少女も、CHARMを銃型に変形させ構えた。
恐怖と戦意の視線の先、森林の奥から湧き出してくる影。
カサカサ、と草木の音に不快な声音。
間違いなく人に非ざる存在が蠢く。
それは、世界を侵す異形の群れである。
| 軍勢 | ヒュージの群れ | LV20 | 耐性??? |
| ヒュージ | ホモ・カスコ | LV36 | 耐性??? |
太い足に卵殻で体を覆い、中心に大針を備えた
その奥には卵殻ではなく鉄兜で体を覆った、二回りも巨大な
甲州より進出したヒュージの一部が二人の前に現れていた。
「あのラージ級は……!
イヤな奴にあたったわね!」
「その前にこの状況で10体は無理でしょ」
リリィ基準でも精鋭、神奈川や東京のエース級なら兎も角。
名もなき戦士である少女達には荷が重い相手。
仲間もバックアップもない現状では、末路は決まったと同じ。
喰われるか、踏みつぶされるか。
無残な物しか待っていない。
「……背中は任せたわよ」
「おけ、5体は持ってこうか」
それでも絶望の中二人はまだ抗おうとする。
故郷や家族、仲間を失った何もせずにいられずに。
熱を失った世界の中で、なおも熱情を持ち。
怠惰に沈まず抗い戦う事を選んだ故に。
最期の戦いを前に、震えながらも構える二人。
異形達の哄笑が響く中。
きぃんと、人工的な高い音が響き渡った。
「これって──!」
「まさか!」
心の何処か、待ちわびた音に思わず上を見上げる。
それはリリィである少女達には馴染みある音。
丸みを帯びた灰色の
戦士達を安全かつ迅速に戦場へ送り届ける揺り籠
ヒュージの注意を惹きつつ、低空へ至る機影。
背部から降り立つ者が一人。
異形共が反応、重力に引かれ降下する影を、無防備な空中で刺し貫ぬかんとするが。
「────千切れ飛べ」
| 幽鬼召喚*1 | 物理スキル | 敵全体に斬属性大ダメージを与える |
| 斬ブースタ*2 | 自動効果 | 斬属性ダメージ+20% |
巨大な刃が旋回、少女達の頭を飛び越える斬閃が、スモール級の半数を両断する。
哄笑を塗りつぶす濁った苦鳴。
斬撃の反動と、デモニカの機構で減速。
少女達の前に着地し、怪物達へ立ちふさがった。
援軍とした駆けつけたのは、男性の
騎士鎧めいた印象の、銀の装甲が追加された、近接戦闘仕様の
右手が握るのは紫と黒のフレームに黄色のラインが奔る、実用的なフォルムの大剣。
兜の面に埋め込まれた人口眼が少女達へ向いた。
「貴方は……!」
少女達には覚えがある。
顔は見えないが鎧の造形は記憶にある。
何時か雑誌で見た、男の戦士でも著名な一人。
少女達のみを戦わせるなと奮起し、戦果を挙げ続けている男達は、少ないが世界各地にいる。
短距離飛行からの苛烈な対地攻撃でギガント級すら滅ぼした、欧州戦線の英雄たる"雷鳴の鷹"。
重装甲大火力の特装デモニカを装備し、最前線でヒュージを薙ぎ払う特務部隊"重装騎兵隊"。
一流の
目の前にいる男は彼らと並び、過酷な死闘を戦い抜いてきた歴戦。
東京防衛に目覚ましい成果を上げてきた魔剣士。
名前は────。
「遅くなってすまなかったが救援に来た。
君達の他に逸れたのはいないか?」
「多分ですが……いないと思います」
「なら話は早い。後は俺がやる。
ガンシップに乗って君達は退避するんだ」
応急処置用の薬剤を手渡しつつ、男はスモール級を斬り捨てる。
真っ二つになる怪物、淀みなき力強い太刀筋。
「俺の他にも増援がギガント級に対処している。
今退避すれば合流できるはずだ」
少女達の煤けた顔に希望が灯る。
この男が同行しているなら、援軍は東京でも5指に入る精鋭部隊。
彼女達ならばギガント級でも討伐可能なはずだ。
「ですが……一人で大丈夫なんですか?」
「そうですよ! 雑魚は兎も角アイツ、あのラージ級は……!」
ラージ級が一歩踏み出し、吹き飛んだスモール級の針が当たる。
針が刺さるどころか、堅牢な装甲は反射。
近くの木に突き刺さり、風穴を開ける。
少女には個体に関する記憶があった。
「アイツは【斬撃・突撃を反射】する! 戦うならそれ以外の────」
「なら、なおさら俺がやるべきだな」
デモニカ内部においてデータ照合は完了。
先人が、男自身や成人した戦士、少女達が、血肉を以て集めたデータ。
それらを信じるならば敵群に【電撃耐性】はなし。
「電撃が通じるなら戦いようはある」
魔力を励起すると共に大剣が紫電を纏う。
背後に浮かぶは金の角兜を被り、戦槌を持つ鬼神。
ヒュージとは違う、北欧神話の
以前応援に行った新潟では随分受けが良かった。
刹那のみ浮かぶ
それはこの世界においても未だ解明されざる力。
心の彼方に在る神魔を、刹那のみ呼び出し、己の"仲魔"とする。
| 鬼神召喚(弱体)*3 | 雷属性スキル | 敵全体に小ダメージを1~3回与える 本来仲間と連携し使う奥義を、威力低下と引き換えに単体で発動出来る様に練度を高めた |
轟雷が怪物共を薙ぎ払う。
脆弱なスモール級に加え、ラージ級も痙攣。
明確な隙、男は少女達の背を押す。
「今の内に、足元や周囲に気をつけてな」
「……っご武運を!」
片方に肩を貸し、少女達が離れていく。
前に男へと呼びかける。
ブリーフィングで聞いた名前は確か。
「生きて帰ってきてくださいね、
「ああ、任せてくれ」
| 達人 | 雨柳巧 | LV40 | 備考:歴戦の戦士にして召喚師 |
月下の下、少女を背に怪物と死線を踊る。
・
・
・
≪大切断≫*4
近寄ってきたヒュージを唐竹割り。
悲鳴を上げる暇もなく、異形が真っ二つになった。
「サーチャーに反応はなし。
ここいらは片付いたか」
ヒュージの中には視覚的・電子的なステルスに近い能力の持ち主もいる。
だが神経を研ぎ澄ませても潜む敵への気配はない。
(なら、あの子達の支援に行くか)
既にガンシップは負傷者を連れて飛び立っている。
此処から主戦場まで距離はそう遠くない。
デモニカ装備状態なら、短時間で走破可能だ。
甲州の濁った空を横目に。
己以外いない夜道を走り出す。
──
雨柳が本来所属しているのは対ヒュージ防衛軍。
中でも精鋭たる極東支部市ヶ谷基地所属第04特務空挺中隊。
其処から清澄白河にある、リリィの拠点と並立された
活動内容は実質便利屋。
各戦線の救援や孤立した味方への救助。
手が空いた時には東京各所のリリィ教導や警護。
良く言えば手広く、悪く言えばこき使われている。
(追加労働だがこの程度は問題ない。
コンディションはまだまだ余裕だ)
ただその分任務の自由度は高く、かなりリリィ側の立場に拠った動きが出来ている。
戦線が小康状態を保っている事もあるが精神的にもゆとりがある。
……最も年の近い元リリィの同僚達、殆どが教官や指揮官になった者達は曲者揃いである。
生徒想いでケアを欠かさないが、色好みでリリィを見る目が怪しく、一部リリィと雨柳から警戒されている元トップエースの教官。
その妹分たる朗らかな様で意外と嫉妬深い合法ロリ眼鏡忍者。
冷静沈着で真面目だが戦闘装備の露出度が半端ない、その格好で俺に並ばれると困るんですが? お願いだから上に何か羽織ってくれませんかね? って感じの指揮官。
特に一番上の奴は最悪な事に女の子の好みが恐ろしく広く、故に雨柳もしばし「
だが一向に懲りる様子がない上いつもうまく逃げられる。
いい加減懲りてくれ。後その無駄にかっこいい異名寄越せ。
紆余曲折ありつつ、今日も雨柳は戦っている。
散発的に襲い来るヒュージを切り捨て、味方と合流せんとして。
内蔵された通信機に反応があった。
『こちらザザ伊万里。雨柳大尉聞こえていますか?』
ノイズがひどいが、澄んだ声はよく聞こえた。
脳裏に浮かぶのは、小柄な緑髪にツインテールの快活な少女。
長身で栗色の髪をした親友といつも一緒にいる、新人組のリーダー格。
「こちら雨柳。聞こえているよ」
『良かった。徳子と俐翔ザザが言うにはそちらに』
『りゅー大尉~そっちへ変なのザザ飛んでったから気を付けてー!』
先程の少女とは違う、戦闘中とは思えない軽い声。
二人目の少女は
飛ばした警告は、無下には出来ない。
五感とデモニカのセンサー、戦場の勘を元に周囲に気を配り。
見通しの良い道路に出る愚を犯さず、森林の間に留まる。
一秒、二秒、ガンシップとは異なる音が聞こえた。
「……確かに一機、妙なのがこちらに来ているな。
そちらは異常はないか?」
『数は多いけど問題なしです! ザザでも気を付けてください。
防衛軍もいないのに機兵なんて」
『はっ! 何言ってんのよ夕星ザザ!
ンな物作る奴等なんて決まってるでしょ。
どうせ──』
安定してきた無線からは今思慮深さを感じる声に、自信に裏付けられた勝気な声。
少女が4人、華々しい声と裏腹な重さで、機影が雨柳の前方に着地する。
『<G.E.H.E.N.A. >のアホ共がまぁた余計な事をしたのよ!』
| 機兵 | スケルトン・キャバリアーS*5 | LV44 | 斬・貫属性耐性 ??? |
全長数mに達する黒灰色、髑髏に似た意匠の機兵。
手にはCHARMを改造した長大な剣。
熾火を思わせる赤いカメラアイは亡霊めいていた。
「こんな物を作るのは確かに奴等だろうな。
アレだけ荒らしてやったのにまだ懲りねえか」
────雨柳と、出向先の機関の敵はヒュージのみではない。
<G.E.H.E.N.A. >と称される大企業にして研究機関。
華々しい英雄の戦場の裏で、暗闘が続いていた。
始まりとなったのは幾つかの企業が協同し設立した研究機関。
対ヒュージ戦争の初期に対抗技術を確立し、CHARMを創り出した者達。
人類との救世主とすら言えた組織は年月が経ち、組織が巨大化し、何時からか変質していった。
ある者は実験の為少女を拉致し使い潰し。
またある者はリリィの心身に手を変え品を変え、重圧をかけ成長を誘い。
更にはヒュージを市街地に誘導し、実戦でデータを収集する。
人類が未知の敵に追い詰められているとはいえ、夥しい屍を積み上げる非道は度を越しており。
反発する者も当然多く、その一つが雨柳が味方する組織。
俗に言う<穏健派>。良心を捨てなかった研究者達はG.E.H.E.N.A.を見限り、離脱した者達が作り上げた人とリリィの側に立っていた。
『ターゲット確認。排除行動ヲ開始』
機械音と共に視線が雨柳へ向く。
当然の如くやる気だ。
「どうせ無関係か、盗難品としらばっくれるだろうが、まあいい。
そっちの方は大丈夫か?」
そんな事情もあり、雨柳は対GEHENA、ひいては機兵を含む対人戦に熟達している。
少女達の元へ駆けつける為にも、迅速かつ確実に片付けるだけだ。
『ギガント級はもう討伐して、後は小型だけなので大丈夫でーす!』
『ちょっと数が多いけど、頑張って倒します!』
『という訳で気にせず余裕で戦って~。
ミカちゃん先生泣くの見たくないしー』
『もし苦戦してるなら、こっちが助けに行きましょうか~?』
ヒュージと対峙する少女英雄達の四者四様の声。
緊張のほぐれを感じながら、雨柳はデモニカの出力を上昇。
「残念だけどそれは
御影さんを泣かす気はないさ」
『ひゅーひゅーお熱いですな大尉殿~』
「ま、そういう訳で安全第一で気をつけてな。……エンゲージ!』
駆動音を響かせ、姿勢を低く、矢の如く撓め。
機兵への、不条理への刃となる。
それは世界が滅びる数か月前、須摩留と同様に、今は覚えている者も僅かな世界の記憶。
第三次セプテントリオンが終わって暫く後、戦士達はもう既に動き始めている。
異界踏破以外にも装備・アイテムの補充や、組織運営に必要な顔合わせetc……。
大決戦が終わって休息をとったらやるべき事は多々ある。
戦うだけが、前線要員の仕事ではないのだ。
「うげ……やっぱ塩水ついてやがるか……」
事務所の窓ガラスは所々、白い跡がついている。
これもまた決戦の余波と言えるだろう。
夥しいミザールの増殖により巻き上げられた海水は、雨となって地へ降り注いだ。
水は排水溝が機能しても、乾きこびり付いた塩はそうも行かない。
有史以来例のない、甚大な塩害が発生していた。
「サマナーくんこれ新聞紙いる奴?」
「いるいる。水をつけて塩を溶かして、軽く拭ってく感じで。
濃くて目立つ所だけでも頼む」
はいなーと新聞紙と水入りバケツを手に、ヒトコトヌシが駆けていく。
存外この手の家事は嫌いじゃないようだ。
雨柳は今日ひとまずの予定が空いた事で、事務所の点検に取り掛かっていた。
セプテン戦直前から戦後一週間程は多忙を極め、ヤタガラスや彼方の御国の拠点に宿泊していたが、ずっとそのままという訳にもいかない。
まだまだこのビルに皆で住む以上、点検しておく必要があった。
最も悪魔関係の装備や道具、セキュリティ関係の設備はレイ達ならいざ知らず、御影達に触らせられない物もある。
自分自身の手で確認しておく点は多々あった。
「俺用の酒は殆どないからいいとして……仲魔用の酒の大半は大丈夫そうだな」
周囲が水没しなかった事もあり、事務所へ浸水の被害はない。
地下に移していた物資の被害は大分マシだった。
「冷蔵庫も電気が生きてたから問題なし、と。
ん……どうしたギリメカラ?」
ふと見るとギリメカラが雨柳を見ていた。
外法属の仲魔として、留守中の仕掛けを探査していたが終わったようだ。
「シロガネを迎えに行くまで2時間程だったかの?」
「ああ、ざっとその位だな」
壁にかけなおされた時計の時刻は夕方前。
まだまだ時間に余裕がある。
「あまり早く行き過ぎても向こうの迷惑になる。
だから時間に余裕はあるが……まさか、なあ」
ここ一週間程シロガネはヤタガラスの施設にいる。
雨柳同様に魔人との過酷な戦闘でも、後に引く損傷はなかった。
しかしレベルは上がっているとはいえ、現在のスキルでは
故に対処が一息ついた所で、以前北海道で回収した京都系組織のとある品*6を利用できないかと、確認を行った。
何かヒントになればいいと合間の時間で自主的に行った事。
しかし、思わぬ事態に発展した。
幸いにも検査の結果、かつてシロガネが雨柳の仲魔になった時の様に、悪影響はない。
だがまさかの事態にシロガネも雨柳も驚いた物だ。
(こんな世界だからか、京都残党の持ち出したのが、発掘された──)
そこまで考えた所で、雨柳はギリメカラの視線が、手元の酒にある事に気づく。
大半はいつもの仲魔の性格を変更する酒、だが何本かは管属毎の好みに対応した酒である。*7
外法属のギリメカラが好む酒は銘酒やみなで。
何処か黒紫の瓶と相まって、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「それ一本飲んでいいかの?
儂、昨日も活躍したし」
「在庫はまだあるしいいぞ。
俺は運転するから付き合えないけど。
つまみは乾き物でいいか?」
「おお、重畳重畳」
保存のきく乾物を渡すと、ギリメカラは紙コップに手酌で酒を飲み始める。
悪魔好みの酒を醸造して百年以上、老舗の味に魔象も満足いった様だ。
実にうまそうに、喉を鳴らす。
(俺ももうひと頑張りしたら休憩するか)
ヒトコトヌシ用に何かあったかと思いつつ、捨てきれなかった雑多な紙を纏める。
機密性のある書類ではなく、街でもらったちょっとしたチラシや何やら。
多重婚法案解説の冊子は捨てていいだろうか? 確認してるだけでこれ以外に4つはあるし。
「ん? 召喚師よまた新しい武器を買うのか?」
「いや、その気はないが多少気になってな」
雨柳の手にあるのは武器COMPのパンフレット。
ある新興メーカーが開発・販売している物であり。
開発中の中にはグランギニョル社の様な可変型もあるとの事だ。
「ほら、この間狂人から助けた子がいたろ?」
ああ~あの凸凹コンビじゃな」
ギリメカラの脳裏に浮かぶのは、小柄な緑髪と長身で茶髪の少女二人。
数日前に襲撃を受けた所を割って入り、エターナルらしき相手を倒した事があった。
後日二人の親から礼文が届いたが。
二人の内、緑髪の少女の父は件のメーカーの社長らしい。
企業では職にあぶれた技術者や漂流者を雇用し。
積極的な開発を進めているようだ。
そんな事情から多少気になり、昨日レルムに行った時に、販売店でパンフレットを貰った。
彼方の御国からセプテン後のCOMP関係資料が欲しいと聞いていたのも理由の一つだ。
既存の武器装備に関しては、やはり信頼ある既存メーカーが強い。*8
先進性をアピールしているのは新興である故か。
開発中のモデルの宣伝に力を入れているのが素人目にもわかる。
現在開発中のモデルは3つ。
薄緑の鋭角的な片刃が連結された剣。
赤褐色の、二丁拳銃にも変形する双刃槍。
そして
(この中だと大剣型が一番好みだな)
銘はクリューサーオール。メデューサの息子たる巨人ともあるいは巨人が帯びる黄金剣とも。
神話に基づいた名の大剣はカタログスペック通りなら、実用性は高い。
「ほう、最新の武器は神や聖剣の名を冠したのが多いのう」
「確かに多い……これまでの武器COMPだとなかった傾向だ」
「異界出土品と名前被りも起きそうだしのー」
雨柳の手にあるパンフレットの他、他社のパンフレットも見比べたギリメカラがつぶやく。
(神代の如き当世の戦いにふさわしいとしたか。
あるいは魔を断たんとする祈りを託したか)
人は生きる上で己を堕とさんとする魔と対峙せねばならない。
ただ人ならば己を蝕む"不安"であり、雨柳の様な戦士ならば力で意を遂げんとする悪であろう。
絡繰り仕掛けの武器を創った者達は、世界を滅ぼす悪を断ち切って欲しいのだろうか。
(ま、単にかっこよさとか分かりやすさ重視の可能性もあるがの)
邪神ギリメカラ────仏陀の誘惑者たる魔王の乗騎は肩をすくめる。
合体を繰り返したとはいえ旧い悪魔故、当世の流行りに疎いのだ。
酒杯をもう一あおり、喉越しと芳醇な味を楽しみ思索にふける。
(しかし……召喚師はこれまで何と対峙してきたんじゃろうか?)
これまでの会話で思い出されるのは先日倒した
奴はどうも雨柳の事を知っていたらしい。
口ぶりからすると過去に敵対関係だったようだが。
(魔人すら倒した男じゃ。
過去に何かしていても不思議じゃないの)
それこそ、魔王や堕ちた英雄を打倒していても。
「あー何か匂いがすると思ったらギリメカラお酒飲んでるー!
ワラワも何か甘い物欲しいなー」
「ちょっと待っててな。確かこの辺にドライフルーツが……」
思索にふける内に掃除を終えたヒトコトヌシが戻ってきた。
悪魔というより年頃の娘らしい騒がしさである。
多少苦手であっても嫌いではないが。
「儂もついかのつまみが欲しいのう。
ちびちび飲んでたらこっちが先に消えたわい」
「つまみはこれでラストだぞ。
スーパーも必需品優先してるから品薄なんだ」
「ドライフルーツって意外とおいしいねえ」
激動の決戦が終わって暫く後、仲魔2体と召喚師。
人と悪魔の他愛もない時間が過ぎてゆく。
次回は未定ですが、可能な限り3月中に投稿したいと思います