真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
それはそうとして今回はありませんが脳破壊は今後も続けていきます。
下界の混乱を他所に、太陽は今日も輝き続けている。
日の輝きは帝都東京より西、京都もまた照らす。
元旦に起きた動乱から過日の第三次セプテントリオンまで、旧き街並みと近代的な街並みが混在する古都は、幾度なく痛めつけられてきた。
しかしそれでも未だ滅びざる世界の一部として人々が行き交い、経済活動が再開され。
文明を維持した状態で健在であり、著名な企業の幾つかはこの時世でも人々の生活に娯楽という彩を加えている。
かつてネガイを奪われた古都は、今も生きていた。
「民間のDBと動員された漂流者により人的・物的被害は最小限に抑えられた。
こちらの戦力の損耗も予想よりはるかに少ない」
「だが、問題は山積みだな」
されど、状況は楽観するには程遠い。
京都内のとある屋敷の一室。
PCに向き合うのは護衛を控えさせた中年の男。
画面には和装や背広の、様々な年恰好の者が表示されている。
いずれも、隠し切れない疲れを浮かべていた。
彼らは京都ヤタガラスを始めとする関西圏におけるヤタガラスの幹部達。
それぞれ企業との調整や情報、人事関係を司る後方における重要人物と言っていい。
彼らが情報交換の為多忙な間を縫って、ネット上での会議を行っていた。
「まず何よりも、戦力の質も量も足りない」
悔恨を込めて主催たる京都ヤタガラスの男が口を開く。
当然の事であるが、人材の払底が激しい。
帝都ヤタガラスのように、異常GPや悪魔組織の跳梁のみではない。
何以前の京都ヤタガラス、ダンゾウと禪院扇、さらには蔵前主体の時期は酷すぎた。
自分から見切りをつけ組織を離脱したならまだいい方で、反対派であった為に家を取り潰された者も少なくない。
それどころか阿修羅会に売り渡され、命や尊厳を奪われた者も両手の指に余る。
故に若手を中心に人材の流出、と表現するのも烏滸がましいが離脱者は数多い。
関西のヤタガラスも
復帰した鬼殺組が中心に治安を維持しているが、薄氷を踏む戦況が続いていた。
「汚名に濡れた組織なりに、出来るだけの事はしてきたつもりではある」
「事実一定の成果は上がっていましたな。
過日の阿修羅会蜂起で混沌に飲み込まれなかったはその証左でしょう」
「漂流者の漂着以後も治安は、改善傾向にあった」
体制が刷新されてからここ数ヶ月は、構成員の装備含む待遇の強化、有望な漂流者の取り込み、恥を忍んで元京都ヤタガラスのDBへも助力を依頼した。
そうして何とか前主流派の呪いから復帰した現トップの元、体制を立て直していたが。
「返す返す【魔人侵征】事件の被害が大きすぎた……」
それは、この場にいる全員共通の思いである。
魔人侵征事件────長崎に出現した魔人カゲボウシが護国の戦士を殺しながら侵攻。
最終的に帝都東京で討たれるまで甚大な被害を護国組織に齎した災厄。
事件で斃れたのは各葛葉一族の家が誇る精鋭、関西の守護役たる忍者集団【浪速拾忍】、そして葛葉四天王であった葛葉マンゲツ。
「マンゲツが拾忍と連携して、なお勝てなかった等……信じられん」
「それも蘇生も能わない完全な戦死とは」
「だが、彼の奮戦がなければ先日の第三次すら」
葛葉マンゲツは京都でも指折りの強者であった事は間違いない。
襲名するや否や危険な漂流者組織二つを鎮圧。
混沌の奇禍では魔丞を皮切りに多数の悪魔・外道を撃破し、早期に戦線を安定させた。
カゲボウシ戦においても最後まで抗い深手を負わせたと見られる。
その後の京都系・護国系漂流者への襲撃を勘案すると、明確に侵攻ペースが落ちている為だ。
更に浪速拾忍の一人を生かして情報を残し後の戦況へつなげた。
それだけに、それだけにマンゲツの戦死が心から悔やまれた。
しばし重い空気が滞留し、沈黙が支配する。
だが感傷に浸ってはいられない。
話を進めなくては、貴重な時間が浪費されるだけだ。
「魔人を倒した召喚師……雨柳巧。
かつての帝都ヤタガラスのエースだと聞くが」
「最近活動を再開したようですな。
断片的な情報のみでもかなりの戦果を上げている」
「それに帝都との繋がりも再び深めている様です」
魔人カゲボウシの撃破により、雨柳巧の名は西日本の護国組織に広まった。
これまで名しかすらない者たちもまた、意識する存在へと。
無論、ベテランらしく重要な情報は注意深く秘している。
それでも断片的な内容から、何よりも魔人の強大さから実力の程は明白。
第三次セプテントリオン戦で大きく名を上げた他の三名と共に、現行のDBでは間違いなく天井に近い一人。
──苦難の中にある京都ヤタガラスからすれば、喉から手が出るほど欲しい。
熟達した剣技に現行戦線でも通用する強力な仲魔。
導師としての指導力に、悪へ傾く事なき精神性。
京都ヤタガラスのみならず、悪魔組織が欲しがる要素がそろっている。
もし金や女で西日本のヤタガラスへ引き込む事が出来れば。
大きく戦況を改善する事が出来るはずだ。
いやそうでなくても、こちらを見捨てられない状況を。
例えば知古を利用して創り出せれば。
「が、彼は多忙な身だ。
力を借りるのは難しいだろう」
しかし、この場の誰もがその選択をとらない。
帝都ヤタガラスを通して、事件解決を依頼する事もあるかもしれない。
だが無理に引き込むような事をすれば、連携している帝都ヤタガラスとの関係が綻び。
何よりも最前線で戦っている雨柳や他戦士を煩わせる。
故にそれを、選択する事はない。
戦力不足は重要な課題だが、この場にいる者達がリソースを投じ工夫を重ね解決すべき事。
謀略家を気取り自分らの利益のみを目的とした手を使っていいはずがない。
前途は多難であるが、少なくともこの会議に集った者達は恥と道理を知り。
否、常に心得え、戒め続けねばならないと肝に銘じている。
そうでなければ昔の過ちを繰り返すだけだ。
「残念ながら幾つかの家に彼に接触を試みようとする兆候がある。
釘を刺しておくべきだ」
「件のブラックフィエンドに利用されないとも限らない。
内部の状況にも気を配らねば」
資料をめくり意見を交換し、互いに提案をしあう。
ほんの半年前にはなかった光景。
京都から関西、西日本を守る為彼らは手を尽くしていた。
関東近郊、遺棄された建物を元にした異界。
その一角で轟音が響いた。
「ごぉァ……」
続いて響くのは巨体が倒れる音。
その場にいる者達に重量を感じさせる。
倒れたのは数体、人間に倍する巨体の悪魔共。
筋骨隆々の体に手には獲物、複数並ぶ円形の眼には最早光無し。
\カカカッ/
| 地霊 | ティターン | LV80 | 状態:DEAD |
世に知られている個体とは別格の強さを持つ、旧き巨人達。
それらがこの地における敗北者だった。
対峙していたDBには年若い者達が多い。
隊長格らしき二人を除いて制服を身に着けていた彼らは。
<ブラックフィエンド>と呼ばれる組織の一員である。
「エネミーソナーの反応は青。
余計なのが来ない内に撤収するよー」
この場でのリーダー格らしきピンク髪の少女──
部下達が回復と装備の点検を済ませ、撤収準備に取り掛かる。
連戦の後ではあるが、動きによどみはない。
(チームの動きも大分安定してきたね)
戦闘の内容は及第点がつけられる物だ。
異界の調査中に不意の遭遇戦が発生。
先手は取られたが安定した動きで敵を押し返し死亡者はゼロ。
個人プレーより連携を重視してきた結果が出たと言えるだろう。
(
斜め後ろから聞こえるのは、草を踏む微かな足音。
装備や衣擦れの全くない、ただ味方への配慮で敢えて立てられていた。
「……第三次の後から増えてきたな」
長身に近代的なバイザーと、刀型の武器COMPを手にした男は尾之辻。
拠点が同じ事もあり最近よく協働す瑠一人。
「だね。大陸の方に向けていた戦力を転進させたのかな?」
「その可能性は高いだろう」
異界の出口へ歩きながら言葉を交わす。
この程度は一般隊員に聞かせても問題ない。
三大勢力の一つテオゴニアは大陸に軍勢を送り込み。
第三次セプテントリオンにより大陸の人口が激減したならば。
近隣では随一の人口が残る日本に来るのは自明の理。
組織内でもじわじわと交戦報告が増えている。
「今後考えるとつくづく阿修羅会の時が痛いわ。
あの子達、一体何と遭遇したんだか……」
過日の損耗を思い出し軽く息を吐く。
あの日の阿修羅会と新世塾の中枢へブラックフィエンドは攻撃を仕掛けた。
この世界ではレイドバトル以来の大規模作戦。
両者の首脳を確実に刈り取り、この世界の守護者としての名声を高める為に。
しかし中枢に届く前段階で大損害。
将来有望なスカウト組も、経験を積んだ生え抜きも無視できない数がMIAとなった。
「リンネとフーカはヤタガラスに保護されてるって話だけど。
なんでか帰ってこないし」
「少なくとも生きているのは朗報と言えるだろう。
保護した先がまともな、ヤタガラスなのは……不幸中の幸いだ」
ミアは自分より頭一つ分、高い同僚を見上げる。
含みのある物言いだった。
本人から一度、聞いた事がある。
尾之辻は
その世界ではヤタガラスはGHQに解体され、地方の家がメシアと渡り合いつつ、悪魔と戦っていたらしい。
それと──他の周回と比較しても、崩壊前から荒れた世界だったと。
(……だから思う所あるのかね?)
少なくともこの世界にはヤタガラスがあり、帝都のそれは随分とまともだ。
共闘を選ぶには十分な実力と品性を維持している。
「まっ、帰って来ない子達の事を考えてもしょうがないさ。
今後の為にやるべき事しないと」
「ああ、育成組を育てていかないとな」
敵を侮り、手を抜いていい事は一つもない。
道具や装備に各勢力との調整、人材の発掘と育成。
やるべき事は多い。
人材育成は特に重要だ。個々の能力が多大な影響を齎す悪魔業界だからこそ。
教育し育てていく事をやっていくべきである。
即戦力を獲得しては使い潰していくのでは芸がなさすぎるとミアは思っている。
(この妙な周回だからこそ色々なアプローチを試していくべきなんだろうけど……いやぁ、アレは予想外だったなあ)
豊富な育成ノウハウを有する組織に属し、教育する側とされる側両方経験したミアからしても予想外だった。
何せセプテントリオンとの決戦、人類が滅ぶか否かの状況で。
……セプテンマラソンって何だよ。
考えたやつは誰だよ。
見た時はさすがに唖然としてしまった。
「あたし知らなかったわ。
世の中にはまだまだやべー奴がいるのね」
「……今の世界、の戦力なら強大な悪魔にも夥しい軍勢にも対抗は期待できる。
それを喜ばしい事と考えよう」
この周回なんか変、二人して共通の言葉を飲み下す。
「だけど奴らの数も質も上がってくる。
戦力の育成は続けているけど楽観は出来ないね」
そう、勝利に浮かれている場合ではないのだ。
テオゴニアが<エウメへリズム>や<花鳥風月>による工作に留まらない。
そう遠くない世界の収穫、下準備が為更なる戦力を投入してくるはずだ。
これまでのパターンからして、極めて高い確率でそうなる。
ならば投入されるのはより強力な戦力。即ち。
(ナホビノに何処まで抵抗できるか)
悪魔ならぬ神との闘争、それは遠くない未来に起きる必然であった。
帝都某所にある彼方の御国の拠点。
本格的に使用され始めてから数か月が経ち。
人がいるからこその微かな汚れが見て取れる。
「んなあ」
萎れたハレがソファーにごろごろと転がる。
文明が維持されネットワークが生きてる為。
ハレの仕事は当然ながら多い。
悪魔人間で、多少なりともレベルを上げてないと耐えられなかっただろう。
恐るべき忙しさ、給料と比例して疲労が蓄積されていく。
「うお~栄養補給~」
哀しい事に好物であるエナジードリンクは、周囲の人間に封印されている。
更に悪魔業界用の物は効果が強すぎる上、前線のメンバーに優先的に回されていた。
故に冷蔵庫の中にはコーラとお茶くらいしかない。
諦観が籠った手つきでコーラをとった。
プルタブをひねり、中身を乾いた喉に流し込む。
炭酸の刺激とカラメルの甘味が脳を刺激。
疲れた心身に染みわたる。
「はふぅ……」
「ただいまー、あれハレちゃんもう寝るところ?」
一息ついた所で拠点へと帰ってきたのはレイとロゼ。
負傷した二人も既に復帰し帝都各地の異界や依頼に取り掛かっていた。
ハレの格好はもうすでにいつものパーカーではなくパジャマ。
寝る前の短い気晴らしの時間の様だ。
「カンナ先輩が流石にそろそろしっかり寝とけって言うからさー。
いくら悪魔人間でも壊れる時は壊れるって」
その言葉には嫌に実感がこもっていた。
悪魔人間の扱いがひどかった腐敗ヤタガラス時代に色々あったのかもしれない。
「そっちも思ったより早かったね」
「今回の仕事は簡単だったから。
準備はともかく戦闘は5分もかからなかったわ」
レイの顔には僅かな疲れがあるが、それは午前中からの異界踏破もあった故。
あっけない程簡単に終わった。
先程二人がこなしてきたのは阿修羅会の残党、と言うのも烏滸がましい生き残りの制圧。*2
昨今の社会情勢に付け込み、サマナーネット等で漂流者を煽動。
赤玉工場破壊で因縁のある<黄金の花園>他幾つかの組織から物資を奪う様に呼びかけていた。
だがそんな稚拙な動きが見逃される訳もない。
迅速に特定され敢無く制圧されたという訳だ。
「私やチヒロ先輩が逆探知するまでもない程度の防御だったもんね。
前と違ってプログラムやネットワークに強い人もいないなら。
戦力の方もお里が知れるかぁ」
「
連携も絡め手もなければまず負けないわ」
ぶらぶらと手を振るレイは不満気。
以前ならともかく今の彼女達には弱すぎた。
過日の第三次セプテントリオンでは魔人カゲボウシに敗北したが、二人とも既に下がった分のレベルは取り戻している。
ここ一週間複数の高GP異界を踏破し、レベルを上げなおし、合体材料となる仲魔も補充した。
されど、
(むう……)
後方の自分もオーバーワークで大変だが。
前線の戦士達も当然苦労がある。
レイも上を目指して焦れているようだ。
「昨日と今日で新しい力の調整もできたしね。
得る物はあったし後は阿修羅会関連の騒動がもうないのを祈るだけだよ」
そう言ってロゼは幾つもささげていた包みをテーブルへ置く。
包装の間から漂うかぐわしい匂い。
そういえば夕食まだだったなと、ハレは思い出した。
「おおー。これレルムで買った奴?」
「そうそう、杉並レルムのお店でいろいろ売ってたんだ。
悪魔の力も利用した食材も使ってるんだって」
何も崩壊した東京の様に悪魔を食べようという訳ではない。
悪魔技術を使って育てた野菜を、飼料や肥料として使用した食材。*3
一部では非常に有効だと表でも噂になっているとか。
「そんなのやってるんだねえ。
あ、覚醒者限定って注意書きが貼ってある」
「非覚醒者の人が食べるのはさすがに危険だからねー」
無論、使われている食材は厳重な試験をパスした物。
しかし非覚醒者相手の臨床はほぼなく、おそらく安全だが万が一の事もある。
故に覚醒者のみに限定し、その上で注意書きを表示している。
食の安全は、超技術なり神の力なりでポンと出して保たれる訳ではない。
関係各所のたゆまぬ努力が必要になるのだ。
手を洗って休憩室のテーブルへ料理を並べていく。
茄子とひき肉を使ったトマトソースのパスタにチーズをたっぷり乗せたピザ。
その他には簡素なレタスのサラダに、煮込んだ牛肉。
「見るからに美味しそ~」
「前おじさんに連れて行ってもらったお店とは違う所なんだけど。*4
テイクアウトだと此処が美味しいって評判だったんだ」
「前の方に並んでた子も褒めてたわよね」
会話した訳ではないので、チラッと聞いたくらいだが。
その子はイタリア出身で、地元の料理に一過言あるらしい。
年代が近かったしなら自分達も、買おうと決めたので印象に残っていた。
「へ~杉並の方にもロゼ達位の子いるんだね」
「杉並レルムは黄金の花園の影響強いから。
海外から正規の手順で来ている悪魔関係の子多いの。
私達が来る前から大変だったみたいだしね」
かつての閉鎖的な世界を知るレイからするとレルムの国際色溢れる光景は、いまだにカルチャーショックを感じる。
それ故に自分と同年代の少女達はつい目で追ってしまう。
これまで見かけた子達は、動きからの直感だがバスターが多かっただろうか。
中にはレイとロゼ同様、金髪碧眼と黒髪の少女の組み合わせもいた。
二人とも結構な腕利き、それ以上に姉妹の様に仲良さそうだった。
「レルムだから油断は禁物なんだけど。
杉並の方は悪くない所だよー」
「うう、ちょっと行ってみたくなったきた」
料理も温め終わり、三人はいただきますを言ってから食べ始める。
空いた腹に響くうまみ、自然と少女達の顔が綻ぶ。
「……」
が、ロゼの表情が一瞬だけ静止した。
何も能力物でよくある反動や対価で味覚に異常が出た訳ではない。
視界の端に入ったハレの
(悪魔人間のハレちゃんやチヒロさんにはヘイローがある)
一方ロゼには悪魔人間らしい特徴は特にない。
人の数倍くらい食べるが悪魔業界の人間としてそこまで変でもない。
(あのスキル考えると、僕にも何か混じってるんだろうけど。
ううん、それっぽい要素ないんだよね)
死線を超えたせいか、上がり続けるレベルのせいか、ロゼは新たなスキルに目覚めている。
そのスキルは類似の物がない訳ではないが、希少で強力。
当然濫用すれば勝てる訳ではないが、今後の戦線でも役立つはずだ。
(何処から来たんだろうなあ、これ)
自分を作った舞弓博士も葛葉マンゲツも過去周回ではいなくなった。
舞弓博士──御影とロゼはよく話すけど当然過去の事は知らない。
ついでに雨柳とほぼ結婚してる。まだ籍入れてないってマジですか。
後者の葛葉マンゲツは、この世界ではもういない。
(ん~気にしても分からないんだけど)
それでも、気になる事は気になるのだ。
その思いをロゼは、ひとまずお茶で飲み下した。
帝都東京の交通事情は復旧しつつある。
公共機関の減便があれど、道路の多くは通行可能。
自動車で普通に移動が出来ていた。
「……」
時刻は夜に差し掛かる前、雨柳も目的地へ向けて車を走らせていた。
今は停車中で、前方へ視線を向けている。
視線の先ではカジュアルか阿修羅会上がりらしきチンピラがタコ殴りにされていた。
幸い人的被害はないようだ。自分が手伝う必要はないが。
| 達人 | デビルバスターA | LV62 | 備考:マネモブ |
| 剣士 | デビルバスターB | LV66 | 備考:マネモブ |
| デビルシフター | デビルバスターC | LV59 | 備考:マネモブ |
禁断のマネモブ三度打ち。
世の中を憂いたくなる光景である。
「んっ……な、なんかマネモブが多くなってきたな」
「そうね。私の右横にも一人いるわね」
普段シロガネが座っている助手席にはスクルドは座っている。
彼女もまた自身のサマナーへ半目を向けていた。
(一体何がサマナーや他の人達を引き付けるのかしら……)
最近の話は評判いいのは聞いているが、DDCでも語録を見かける頻度が高い。
自分が偶に覗いている悪魔関係のサイトですらそうなのだ。
この広まり様は憂慮すべき事態でなかろうか。
未成年への感染が広まって良いのだろうか。
「俺がキリギリス入った時はこんないなかったんだけどなあ。
一体何が原因なんだか……」
「アニメ化された訳でもないのに謎よね」
少なくとも己のサマナーに、JC達が使っていた事は伏せておこう。
スクルドはそう決心した。もう手遅れかもしれないけど。
その間にも車はすいすいと進んでいく。
郊外にある葛葉の施設に向けて。
見えてきたのは瀟洒な館。
元はガイア系組織の物を押収した郊外の施設。
訳あって少しの間其処にいたシロガネを回収しに来たのだ。
「ついたぞ」
「なら私は戻っているわね。
襲撃があったら呼んで」
管にスクルドを納め、雨柳は歩き出す。
衛視に挨拶し手続きを行い。
担当研究者の誘導に従って進む。
「シロガネの、アイツの様子はどうですか?」
「此処に来た当初と変わりませんよ。
悪魔の……彼を純粋な悪魔と呼んでいいのかは難しいですが。
詳細な精神状態は検査しにくい事を差し引いても安定しています」
以前シロガネと契約した時と場所は違うが、この研究者は当時と同じ。
葛葉の中でも造魔関連の専門家らしい。
「ただ先日話した通り顕現体*5に近い性質となっています。
かなり独立した存在になっていますね。
まだ試していませんが相性のいい悪魔なら使役も可能だと思われます」
「なるほど……となると契約関係も更新する必要がありそうですね」
現在でも感覚的には「仲間」の方が近いが、契約的には「仲魔」になっている。
話を聞く限りその辺も、今後は悪魔人間相手の扱いに寄せた方がいいだろう。
(そうすればシロガネと俺が別チームで戦う事も出来るようになる。
何なら管の空いた枠で……その内イケるか?)
最もその為には未だに出来ていない、
「此処から先は貴方一人でどうぞ」
カードキーを使い、研究者が扉を開き雨柳を迎え入れる。
その先にあるのは検査室、新たなスキルの調査をしてたらしい。
固い床に響く足音、ガラスの先にいる者が振り返る。
2m近くの体長、幾つもの輪を備えたシルエット。
「おお、何か久しぶりな気がするね」
「一週間程度でも見慣れた顔と会わないと違和感あるからな」
それが一瞬にしていつもの見慣れたシロガネの姿に変わる。
ただ、以前よりも感じる力は格段に増している。
「旅行の後帰ると家が懐かしく感じるような物かな?
いやあしかしビックリしたよ。まさか」
一週間程前、第三次関連のゴタゴタで延び延びになっていた各種押収品の調査が行われた。
阿修羅会等各種の組織から押収された品の中でも目を引いたのは、北海道で回収された京都ヤタガラスの保管していた造魔らしき残骸。
調べた所シロガネのデータと類似点がある為、呼ばれたのだが。
『これは確かに何となく似て……え? あれ?
あの残骸何処行った?
うおっ体あつっ!?』
それがある程度近づいた途端、一瞬でシロガネと融合した。
あまりの展開の早さに驚きつつも検査を開始。
安全の確認と変異のデータを取り終えたのが昨日という訳だ。
「家族の様な近い存在のMagは馴染みやすいとは聞くが、こんな事が起こるとはな。
だが変わりないのは何よりだ。明日から異界の処理行くぞ」
「聞いたけど未だに多いんだって?
なら────」
微かにシロガネの手が、周囲に影響を与えない程度の電気を帯びる。
より研ぎ澄まされた雷の力が、今神造魔人の手にある。
「シロガネマーク2の力を見せないとね」
それは"座"の支配者の移行の様な、世界を揺るがす変化ではない。
されど一人の神造魔人にとっては大きな変化。
更なる一歩を踏み出す大きなるきっかけであった。
次回は6月中には投稿したいと思います。