真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
第三次セプテントリオンから時が流れ。
生き残った者達は騒乱の余波に対処し続けている。
解決の目途がたった問題もあれば、解決は数年後から数十年後まで長引く問題もある。
だが
DB達の対処が功を奏して異界の数は着実に減少しつつあった。
御台場のとある異界は数少ない残りの一つ。
奇妙に青黒く変色した空。
朽ちた建物の残骸が延々と続く地。
その奥、ひときわ大きな神殿に揺蕩うのは異形。
人型が巨大なクラゲをすっぽりと被ったかの様な自然にはあり得ない造形。
不気味に過ぎる姿を異界の主はしていた。
\カカカッ/
| 邪龍 | ヤム*1 | LV78 | 耐性??? ・呪殺無効 |
ウガリット神話に語られる
川や海の支配者は、呪わしき異界を支配している。
揺蕩うヤムの動きが、ゆらぐ。
人が小首を傾げるように。
異界の外へ派遣した眷属が帰って来ない。
より多量のMagを取り込み高みへ至る為。
邪龍は贄を欲している。
故に眷属を異界へ派遣したが何れも未帰還。
元より雑多な者共、失っても惜しくはない。
しかし何故帰還しないのか。
悪魔の本能として強く、より強く。
渇望が果たせず停滞するのは許しがたい。
次はより強く、多数の眷属を送り込もう。
ヤムは触腕の一つをもたげ止めた。
自らの座す奥に踏み込む何人かの影。
本能により感じる己と同等、否それ以上の力。
邪龍は目を見開く、己の弱点たる雷。
天より下る力が確かに存在した。
「────!」
異形が躍り上がり、臨戦態勢へと移行する。
己の力を誇示しこの場を切り抜ける為に。
異界の奥地に乱立する≪絶対零度≫の氷柱。
強大な悪魔たる証明の氷柱。
それらが銀色の雷光に焼かれ砕けるまで。
長い時間はかからなかった。
・
・
・
がこん、と自販機の取り出し口へ缶が出てくる。
アメリカの企業が販売している何の変哲もないコーラ。
シロガネは缶を取り出し、ざっと目を通す。
特にへこみや古びた感じはない。
「おお、ちゃんと新しい奴だ」
缶に書かれた消費期限は十分なゆとりがある。
業者がちゃんと入れ替えてくれているのだろう。
誰か知らないが感謝である。
プルタブを引き中身へ口をつける。
糖と炭酸が喉を通じ脳へ行き渡った。
シロガネがいるのは先程の異界近くの駐車場。
もう既に異界は消えたが多少Magの残滓が濃い。
神社から輸送された注連縄*2を持ってきておいて正解だった。
今回の異界はシロガネの調整もあり、雨柳達が主力である。
シロガネは未参加だったが、最近東京沿岸部で発生していた異界のBOSSは70前後。
現行のDBならば対策と連携で叩き潰せる為、雨柳達も支援がメイン。
だがシロガネのスキルが色々変わった事もあり、今回はBOSS戦他を担当させてもらっていた。
無論異界からさまよい出た悪魔はすべて討伐済み。
何も問題なく終わって何よりだ。
(しかしまあ……僕も大分強くなったよなあ)
なんせ戦い始めた時のレベルは49、あの時から30以上も上がっている。*3
これも数々の激戦を潜り抜けた結果であり、多くのDB同様積み重ねの結果だ。
更にそろそろアップデートされないかなあと思ってたスキルも今回で大幅に強化。
現代の戦況でも戦っていく事が出来るだろう。
(この強化具合、特撮だったら処刑用BGMとか初戦闘でかかると思うんだけど)
ワハハ僕こそ最強じゃと、能天気な思いはちょっと、ほんのちょっとだけあるが。
(今の戦況だと何処まで通用するなー……)
そう、シロガネは断じて最強とかでない。
何せ今日日異界のボスで70後半、何かの事件だと80代クラスが出てくる。
あの悍ましい程強いカゲボウシも、世界を滅ぼすラスボスとかではない。
聞けばグランギニョル社近くや海上にも100クラスが出現したという話だ。
環境が本当におかしい。レベル100って普通1体のみの
強くなったのは確実だ。
だが一人きりでは到底勝ち抜けない。
(訳のわからない敵も多いしねえ)
第二次から戦っているがあのセプテントリオンとやらは、そもそも悪魔なのかすら分からない。
体感や掲示板での本体との戦闘情報を鑑みても、人類と文明に対する殺意しか感じられない。
最前線でももっと核心に近いメンバーなら、何か知っているのだろうか。
それにあのヒュージなるグロい化け物も気がかりだ。
夢に出てきそうな上に通常の悪魔とはだいぶスキルが違う。
良く分からないが聞く所によると。
百合に挟まろうとしてたらしいので人類の敵に間違いない。
世界はまだ滅びてないが前途は多難である。
多難ではあるが。
「注連縄の設置終わったしそろそろ行くぞー」
「報告も済ませたし、ご飯行こうね!」
雨柳と共に来たヒトコトヌシがあっちと指をさす。
なんでも来た時近くに美味しそうな店があったらしい。
「確か……蕎麦屋あったのを見たような」
「今サマナー君に調べてもらったら評判いい所なんだって。
かつ丼も美味しいらしいよ」
「かつ丼美味しいのは重要だなあ」
シロガネはうどん派であるが蕎麦も嫌いではない。
ついでに言えば大分細めなので肉も食べておきたい所だ。
「よしじゃあ行こうか……と、その前に」
「シロガネ君どしたの」
シロガネ私物のスマホにある連絡アプリに着信あり。
何となく予感がしたが──やはりあの子だ。
「ふふ、銀ちゃんから返信が来ててね」
「銀ちゃん……? シロガネ君と仲の良い子だっけ?」
仲が良い、実に良い表現だ。
ヒトコトヌシにはスーパーで飴玉を買ってあげよう。
「銀ちゃんも忙しかったから久しぶりでね。
既読ついた時に答えて起きたいんだ」
「なら俺からもよろしく伝えておいてくれ」
「ついでにワラワもー」
心得たとシロガネはスマホを高速で動かす。
JCの速度についていくための高速タイピング。
誤字無き文章の為に習得した動き。
少女に対して速やかな返信で、即答する。
戦況は厳しく世界は多難である。
しかし、日常のありふれた喜びはまだ世界に。
確かにあるのだ。
「うーむ……」
過日の混乱も終わり営業を再開する雨柳の事務所。
シロガネの視線はパソコンとノートを往復していた。
パソコンの情報を元に何か計画をまとめ上げているようだ。
「あれ? シロガネ君何してるの?」
シロガネに話しかけてきたのは金髪の少女。
外見は高校三年生程、シロガネよりは何年か年下に見える。
「ああこれはね、今度の採用の下準備」
「選考、でございますか?」
「あー何か聞いたような聞いてないような」
金髪の少女の上からひょいと顔を出したのは紅茶色の髪をした二人。
瓜二つの顔立ちだが、印象は左右で礼儀正しいのと砕けた感じと異なる。
三人はそれぞれあかり、奏、響。
三人共訳あって雨柳と住んでいる子であり。
三人共雨柳と結婚する気に満ちている。
彼女達と数か月前から住んでいるシロガネは当然知った仲。
最近はセプテンからシロガネの検査もあり、会っていなかったが。
こうして気軽に話せる間柄だ。
「こんな感じでさ事前に作っておこうと思うんだよ」
話を戻そう、シロガネが見せたノートには試験……というより質問内容が列記してある。
来た時よりも大分見やすくなった字で、整然と並んでいた。
「延び延びになっていたけど、そろそろ新規の所員も採用したいからね」
シロガネの言葉に三人共あー、と納得顔になる。
丁度ロゼ達が来る直前にそうする予定だったはず。*4
第三次の混乱は未だ根深いが、DBであるからこそ動かなくてはいけない。
立場を得た彼方の御国やミスリルに続き、アイリス他漂流者達の動向も落ち着いてきた。
だからこそ有望な若手を仲間に加え、対応力を増やしていきたい。
当初、第二次が終わった後は卒業シーズンに高校なり大学を卒業したDBを迎えるつもりだったが。
色々あって立ち消えとなっていた計画が、再始動した形だ。
無論、現在の雨柳は魔人を倒し悪魔業界から注目の的。
三大勢力以外にも、反社会的な組織やその他の怪しい人間も募集に来るだろう。
その為大々的に募集するより、ヤタガラスや交流深いDBへの紹介から。
これはと思った人物を招く形になる。
「そうなんだ、いい人が来るといいね」
「僕も雨柳も人間性と信頼性が第一だからさ。
レベルやスキル以上にそっちを見るよ」
あかりの言葉にシロガネは頷く。
個人的には自分が後衛よりな分、剣技や銃の扱いに長けたDBがいいが。
それ以上に見るべきは人となり。
何せこの辺りは知古のDBで固まり防備が固いとはいえ。
大事な人間がすぐ近くにいるのだ。
何か企みがなくても、ろくでなしを入れる訳にはいかない。
キリギリスを含む今の戦線は、強さのみならず信頼で成り立っている。
昔の悪魔業界ならともかく、強いだけの人間なんて百害あって一利なしだ。
「なので質問とかも色々サイト見て調べてて。
雨柳とも相談してるけど、まだまだ考え中。
明日当たり採用担当向けの本も買おうかなと」
「おおー大分本格的にやってるんだね」
その様子を見て三人共内心感心する。
最初は何か危なっかしいなコイツと思っていたが。
此処にきてから半年、大分しっかりしてきた。
「募集でいい人くるとねー」
「ねー。うち的には女の子いいかも。
光織ちゃんも今度来るし」
光織については、東京で活動し始めて日が浅い。
確固たるつながりもなく雨柳から合流を打診した結果。
即答で快諾したそうだ。
「前此処来たのあたしが料理学校行ってた時だったわ。
どんな感じだった?」
「歳は私達より少し上位、美少女でございましたよ」
「後ぼたもちデカかったよね~うおでっかって感じ。
……シロガネ君?」
シロガネはスス……と距離をとる。
当然に不自然な動き故響に見とがめられた。
バレバレの動きである。
「いやあのですね、僕として光織ちゃんは何度も会って共闘してる訳で。
その手の話題はちょっと、大分気まずいというか」
この事務所も女性率が高いので全く耐性ない訳ではないが。
実を言うと1、2回「うおでっか」と思った事がある。
やましい所がある故の反応を見せた。
「シロガネ君は奥手でございますなあ。
年上狙いならその方がいいのかもですが」
「僕としてはね、男のDBに来てほしいんだよね」
「話題の切り方が強引~」
奏と響もやいのやいのと言いながら話に乗る。
「いやだってさ、一人男が加わったらこの事務所の男三人になる訳じゃん」
「うん、それでそれで」
「そしたらさ……佐々木さん所の事務所を男の人数で上回り。
更に男女比では大きく差をつけられるんだよ?」
そう、雨柳とシロガネの知古である佐々木氏の事務所には男はあと一人。
達也さん、あの美少女多数の環境で生活している不屈の男。
尊敬すべき彼しかいないのだ。
「悔しがってくださいよ佐々木さん……!
ヒッヒッヒ、ヒッヒッヒ……」
ここ半年間一体何度脳破壊された事か。
もはや脳破壊おじさん扱いの雨柳はともかく。
シロガネもまた被害にあっている。
PC書き文字の悲鳴を何度上げた事か・
闇のオーラ的な物を(本人の主観では)纏いほくそ笑むシロガネ。
雨柳と共に幾度なく味わった脳破壊の苦しみ。
男性人数と比率の差による復讐の時来たれり。
他方当然ながら三人は半目で見てた。
「シロガネ君、何かこう……昨日やってたReゼロの残骸君みたいだよ」
「えっ」
「ウム……ユリウスの剣を奪えば何とかなるって位の浅はかさでございます」
「なにっ」
「ねー。また新たな脳破壊展開になりそう」
「なんだあっ」
禁断の反論三度打ち、シロガネは狼狽える。
「そ、そんな事ないって!
僕もほら、激戦と今回の強化で強く、なった、って……!」
シロガネは気づく。自分も強くなったがよく考えてみれば今も絶望耐性とか。
脳破壊の対抗策になりそうな耐性はない。
即ちまたJCの発言や蕩けた顔で脳破壊される。
葛葉の里の時みたいに。
「……や、やっぱり駄目かもしれない」
青年は肩を落とす。
自称ダクサマとの差は依然として絶対的。
判定勝ちすら夢のまた夢だ。弱き者……。
三人は顔を見合わせ頷いた。取りあえず買ってきたドーナツの中から好きな奴を選ばせてやろうと、無言の合意に至った。
この外見年齢こそ自分達より多少上だが、手のかかる弟の様な神造魔人たる存在に。
その日用事を片付けてシロガネは普通に寝た。
新作ゲームをそういえば予約してなかったなと予約し。
無料公開されていた漫画を読んでから。
明日の仕事は午後からロゼと同行しての巡回。
午前中は空いているので多少遅めに床についた。
「何だ此処……?」
それで、気が付いたら変な場所へ来ていた。
場所は駅のホームであった様に見えるが、何処かしこも朽ちかけ。
前方に見える電車も一両のみで侘しい。
さながら滅んで何年もたった都市の一部を切り取ったかの様。
「ううむ」
何となくだがこれは夢の中的な奴で、特に害がないとは分かる。
しかし、見ていて美しいとか素晴らしいとか感想を抱く光景ではない。
ホームの中でかろうじてまともに機能しそうなのは、今座ってるベンチくらいだろうか。
(現実だと見た記憶ないなあこんな光景。
見たとしたら映画……そうそう偶にやってるSFとか。
それ位だけどこれだってのはない)
ホームの設備を見ると何処となくだが東京、それか大都市の駅っぽい。
詳しい人ならあっちの車両から色々分かるのだろうが。
シロガネはそんな知識はない。
「ま、いっか。ひとまず周辺探索して」
立ち上がろうとしてシロガネは気づく。
自分から見て左側に、人が座っていた。
一切気配がしなかったので、正直言ってめっちゃビビった。
「気づいたか」
「はい、今気づきました!」
向き直った人影は特異な存在である。
有機的な印象の黒い装甲で覆われた装束。
合間には発行する紫のラインが血管の如く奔る。
何処かシロガネに似た顔立ちは20代の後半程。
黒髪にはラインと同色の光を帯びた様は。
知られざる英雄神と見えた。
「君の質問に答えよう。私はテンマン式神造魔人0号。
君の身体を構成する7号の同型となる」
「同型……? って、なるともしかして貴方は僕が吸収した神造魔人?」
「その通りだ」
「マジですか」
一先ずベンチに座り直し情報を交換する。
驚きのあまり未だに心臓がバクバクしてるが。
0号は色々と知っていそうだ。
「まず教えてほしい事があってさ。
僕の体は神造魔人って呼ばれる造魔で。
神造魔人は要するに、神の力を降ろしたハイエンド造魔って認識してるんだけど。
テンマン式神造魔人って何?」
「テンマン式神造魔人は<べテル>日本支部の創り出した神造魔人の一種だ」
べテル、0号のいた世界ではヤタガラスは既になく。
その組織が霊的国防を司っていたらしい。
「当時の日本は混沌の悪魔や敵対的な神格への防衛戦力が致命的に不足していた。
戦力不足を補う為に材料が枯渇しつつあった英雄型神造魔人と、英傑ミチザネの写し身と合成して創り出された8体。
それがテンマン式神造魔人だ」
八柱の雷神。それは即ち日本神話において。
(ホノイカヅチと呼ばれる雷神。
やはり僕の体はあの神なのか)
イザナミの体から産まれた八柱の雷神。
菅原道真が神として祀られた天神とも同一視される神格。
己の雷の起源ではないかと、以前から考えていたが。
今確かに裏付けられた形だ。
「テンマン式神造魔人は西日本の防衛にあたっていた。
私の記憶では7号は京都に配備されていたはずだ」
「そうだったんだ……。
当時の京都で何があったんだろうね」
京都に配備されていたテンマン式7号、己の体の起源が断片的ながら分かったのは、何か形容しがたい複雑な気持ちだ。
「青年、君は覚えていないのか?」
「実を言うと僕は当時の記憶が殆どなくてさ。
あっても写真や数秒の動画みたいな断片的な奴で。
人間だった事位は覚えているんだけど」
「……それは失礼した」
0号は素直に頭を下げるが特に気にしていない。
シロガネ自身記憶を取り戻したいとは思うが、今回の事があっても進展は無し。
記憶を取り戻すなら何か別アプローチをする必要があるかもしれない。
(せめて自分の名前位は思い出したいんだけど)
焦りはないが依然として、思いはある。
「とりあえず0号が言う所の7号が僕の体、兄弟機的な奴なのは確定して。
今後何かの拒絶反応とかはないって考えていいのかな?」
「拒絶反応については問題ない。人間の血縁者や同一視される悪魔以上に。
神造魔人同士の交換性は非常に高い。*5
私のスキルも問題なく使う事が出来るだろう」
ただ、と0号は前置きして続ける。
「今回の様に私が君と会話する事、例えば戦闘中にサポートを行う事は難しい。
君に吸収されたとはいえ機能の大部分が損壊している。
会話できているのは身体情報の同期に伴う。極めて偶発的な事象だ。」
「それは残念だね。……吸収しなければ別の道もあった?」
「現行の世界において造魔ならともかく、神造魔人を修復する資材や技術はない。
探せばあるのかもしれないが、残骸となった私が復活する可能性は極めて低い」
恐らく存在したとしても相当に希少か手間のかかる事になる。
ならばそのリソースを己に費やするのは得策ではない。
「故に私は己の復活ではなく、君に残った力を託すと判断した」
力の継承、人と悪魔のいずれも行っている事だ。
「君は今世界を護る側に立っているのだろう?
ならば私の力を存分に役立ててほしい」
神造魔人の眼が真っすぐにシロガネを見つめる。
紫の光を帯びた眼には真摯さがあった。
「あなたの力が使えたら僕は非常に助かるけど……それでいいのかい?」
「異論はない。実を言えば君との繋がりを通じて現在の世界。
現行世界と呼ぶべき世界の現状を知ったが……」
強い意志を持った目が逸らされる。
現状への深い悲しみがあった。
「あまりにも人間が死に過ぎている」
それはある程度まともな神経を有する人間が、現状を知れば誰しも思う事。
三度に渡るセプテントリオンの襲来のみではない。
大陸における三業会の人口削減、メシアや他の悪魔組織の跳梁。
急ピッチで統計された総人口は推定八億。
かつては世界中に溢れていた命は、今やその十分の一程度。
たった数年で世界は変わり果てた。
「だがそれでも、人の世はこの日本のみならず確かに続いている」
光が欠けた世界、それでも人の文明の光は灯っている。
「覚醒していない、覚醒しても悪魔に立ち向かう力を持たない者達。
彼らの命と生きる社会を、誰かが護らなくてはいけない。
もう私が役目を果たせないならば、誰かに力を託してでも」
力無き者の祈りを背負う守護者は、朽ちても揺るぎはしない。
「君は力無き人達を無価値ではなく、護られるべきと考えているのだろう?」
「当然。無力だから価値がないなんて死んでも思わない」
己を高潔な英雄と思わずとも恥知らずになる気はない。
少なくとも己の仲間は、あの少女達はそう思わない。
なら自分だけ堕ちていられるものか。
「なら問題はない。私の力を継いでくれ」
自分よりも年長で背も高い0号をシロガネは見上げる。
さながら英傑に憧れる少年の様に。
「……正直貴方の様になれる感じはしないんだけど。
それでもいい」
「私は構わないが一つだけ聞かせてくれ。
君は幸福になって欲しい人はいるか?」
今のシロガネには何人もいる。
同居している人、仕事や遊びで知り合った人。
その中でも一番なのは。
ただ笑うだけで話すだけで、誰かを太陽の様に暖かく、幸福な気持ちにする元気いっぱいの少女。
「いるよ。確かにいる」
「なら、問題なしだ」
在りし日の英雄は、確かに肯定した。
「私は人の守護者たる神造魔人として生まれ戦い抜いた。
生涯に悔いはない。定められた使命であったが。
人の命に、幸福に、意思に確かに価値があるからだ」
朽ち果てた神造魔人から、殆どの記憶は零れ落ちている。
だが人は力の多寡にかかわらず価値はある。
そう思うに足りる記憶があったと、確信があれば十分だ。
「私は己の意志で価値のある使命に殉じた。
悔いはあのティアマトに負け、人々を護れなかった事だけだ」
周囲の輪郭がぼやけていく。
どうやら夢も終わる時が来たようだ。
「どうか君は、君達は私の様に負ける事なく、人と共に生きて。
君の意志のままに戦ってくれ」
「……分かった。最後に一つだけいいかな?」
夢の終わりまであと数十秒、最後に一つだけ伝えたい事があった。
「もしまた話す事があったらさ、今度はクロガネって呼んでもいいかな?
ほら、0号って他と被りそうだし、僕と違って黒中心だから」
シロガネの予期せぬ申し出、少し驚いた表情の後。
神造魔人はかすかに笑った。
「了解した。可能性は高くはないがまたの機会に。
奇妙な縁で結ばれた神造魔人の兄弟よ」
ぱちりと、自然に目が覚めた。
「もう朝かあ」
シロガネはベッドからはい出し、外を見る。
外には営業を始めた飲食店や行きかう車。
通勤通学に急ぐ人々。
ありふれた人の営みがある。
混沌にも秩序にも飲み込まれていない、人々が住まう世界だった。
「よし! 今日も頑張るか!」
頬を叩きシロガネは気合を入れる。
備え付けの小型冷蔵庫の水を飲み。
メモに向かい夢の内容を書き出す。
忘れないうちに書き留めておくべきと思っていた。
己に後を託した兄弟の言葉を。
人の為に戦い抜いた英雄の意志を。
これからも胸に生きていく為に。
中国大陸某所、荒れ果てた都市には寒々しい風が吹く。
元はそれなりの都市であったのか、駅を中心として高層ビルが林立。
店舗も数えきれない程存在し往時の繁栄を思わせる。
しかし今となっては繁栄は過去の物。
いずれかのセプテントリオンで破壊されつくし。
生きた人間等何処にもいやしない。
「いやあ残念な事だ。この有様ではこれ以上オレも仕事のしようがない!」
否、人ならざる存在ならばいた。
「セプテントリオンってのは風情も容赦もありゃしない。
人が長年発展させてきた都市に、敬意ってもんがないのかね?」
「確かに大雑把で醜い破壊ではある。
いっそ何もかも凍らせればマシな物を」
我が物顔で都市を闊歩する存在は2体。
片方は全身を赤い装甲で覆い、腕の先端は巨大な鈎爪。
くすんだ金の恐怖をあおる悪鬼の面には複雑な模様が彫り込まれている。
もう一方は貴族のドレスじみた装いの青と黒の装甲、日の光を受けて星光の如く煌めかせ。
黒髪は意思持つ蛇の如く蠢き、顔は夜会用に似たマスクで覆われている。
独特の装いは本来人が住まう都市からあまりにも浮いていたが、彼らは気にせず歩み続ける。
「阿り許しを請い願う芥共すらいない、退屈に過ぎる」
「せめて人間が残っていれば屠り楽しむ甲斐もあるというになあ!
シュロ様が知らぬ間に儚くなられた事といい、災難と面倒が続く。
この世界は実に無常だ」
赤の悪鬼は手にした袋を軽く振る。
頑丈そうな袋の中からは硬質な音。
「この地にあった御厳は回収できたから良しとするか」
──彼らは<テオゴニア>の眷属たる存在である。
日本において<花鳥風月>の笛吹シュロを名乗っていた存在、その傘下にいた二柱。
混沌の奇禍以前より、異なる指揮系統に組み込まれ、今日に至るまで大陸各地で殺戮を繰り広げていた。
無論、大陸を支配していた<三業会>には二柱を上回る強者もいる。
しかし大陸の広さ故か、あるいは悪運の強さ故か遭遇せず、この日まで生き延びてしまった。
そして二柱の悪鬼は、更なる災厄を齎そうとしていた。
「ああ楽しみだ! 聞けばまだ一億近く残っているそうじゃないか。
オレの爪も存分に振るい様があるって事よ!」
「退屈な雑事はこれで終わり。
次はようやく芥共が残っている日本へ渡れる」
二柱は笑う、表向きは豪放な戦神の如く、高貴な淑女の如く。
殺戮と支配、求める物が違っても同じ穴の貉故。
その邪悪な笑みは何処かに通っていた。
「殺戮こそオレの本懐、地に屍を満たそうぞ!」
\カカカッ/
| グラシャ・ラボラス | LV89 | テオゴニア傘下の合■神 |
「天より降り注ぐ破滅に怯え逃げ纏うがいい芥共」
\カカカッ/
| ツィツィミトル | LV90 | テオゴニア傘下の合■神 |
それは悪魔ならざる真なる神。
されど決して人を救う事なき悪意の厄災。
血と怨嗟にまみれた禍き神が来たる。
次回は合■神との戦闘回。
8月になりそうですが出来るだけ早めに投稿したいと思います。