真・女神転生オタクくんサマナー外伝 -アナザーキリギリス- 作:ローグ5
……性癖メシア滅ぶべし。慈悲はない。
──────ある少女がいた。
少女をこの世に生み出した両親は冷酷で、情愛が欠けた人間だった。
家の象徴たる異能をついでない、物覚えが期待したほどじゃない。
ただそれだけでまだ小学校に行く前の少女をどうでも良い物のように扱っていた。
体裁もあり衣食住は保証している物の、碌な言葉をかける事無く一瞥し放っておくのみ。
幼少期の子供に必要なはずの愛が欠落した家庭で少女は苦しみ続けていた。
少女を助ける者は誰もいない。
使用人には同情の目を向ける者もいたが、主人の勘気に触れることを恐れて事務的に世話を行うだけ。
今とは大違いの暗い人間だった少女には友達もいない。
孤独で、救われない人間であったのだ。
そしてその果てに少女は実の両親に殺されかけた。
書類を偽装して任務と部下を騙し、刺客として扱う卑劣極まりない陰謀が彼女の命運を決めた。
刺客の刃により少女は腕や背に深手を負ったがそれは相手の躊躇による物。
苦痛と恐怖に泣きわめく少女の命は続く刃によって終わることは明白。
少女の命はあまりにも早く終わるはずだった。
けれど少女は先代ライドウの手によって救われた。
この世でただ一人だけ彼女を救ってくれたヒーローはもうこの世にいない。
けれど自らが血に濡れる事をいとわず、抱きしめてくれた男の温もりを彼女は忘れない。
少女は救われたが跡が残った体以上に心の傷が深かった。
彼女からすれば大人とは一人の例外を除いて自分を傷つける恐ろしい物でしかない。
両親のような悪人じゃなかろうと関係ない。
あの自分を殺そうとした人だって本当はやりたくなかったんだろう。
ライドウに止められた後折れた刀を喉に突き刺して死のうとしたけど、結局自分を殺そうとした事には変わりないんだから。
ましてやこれから引き取られる先の弥勒という家の事を少女は知っている。
少女の遠縁にあたる家だが今は没落しており一般人とほぼ変わらない家。
元の親は挨拶に来る二人を門前払いするなど酷い扱いをしていた。
だからこれまでの恨みもあって酷い目にあわされると本気で思っていた。
結論から言えば新しい両親となった二人は元の両親の真逆で、少女を弥勒家の一員として迎え入れ深く愛情を注いでくれた。
両親は少女が何かを頑張ったり成功すると必ず褒めてくれた。
心配をかけた時は叱りはしたが、それは以前の様な理不尽な叱責ではなく少女の為を想っての事だとは子供心にもわかった。
世の中には暖かい食卓があるのを教えてくれた。
夜に昔の事を思い出して泣いてしまった時には寝付くまでそっと少女の面倒を見てくれた。
誕生日には欲しかった服を買ってくれた。誰かから何かをプレゼントされるのは初めての経験だった。
両親は実の娘のように少女を愛してくれた。
それは弟や妹が生まれても変わらなかった。
少し抜けているところがある物の、むしろそうした点が好かれるような面倒見の良い少女は、そんな温かい家庭で育まれた。
だから少女は自分の育った弥勒という家を心から愛していて、再興したいと願っている。
故に四天王の選抜も頑張ったし、落選してもへこたれずに防人として勤めてきた。
これからも、どこまでも少女は自分らしく頑張る。
弥勒家の長女として、功績よりも何よりも自分の無事を願ってくれている両親や、お姉ちゃん頑張れと応援してくれてる可愛い妹弟の為に。
その為に、今日も少女は頑張っていたのに。
Lv50を超える圧倒的な暴力は今、人の善意によって繋がれた生を再び断ち切ろうとしていた。
購入した資産家にも、クズノハにも知られていない事ではあったが、異界の格となった異物は十字教所縁の物である。
かつて天草の地で起きた一揆において追い詰められた一揆民が祈りを捧げていた十字架。
それは長い事忘れ去られていた物の放置されていた地の聖に近い属性の気を浴び、昨今のGP上昇により活性化した。
調整を行えば高位の天使、特に戦闘に長けた物を呼び出す触媒となる聖遺物にも近い代物。
そんな十字架は何の因果か骨董に紛れて清貧の教えに違う背教者に元へ流れてしまったという。
それはこの世において唯一の正しき信仰を、血肉を以て実践するメシア教の戦士として許される事ではない。
ましてや件の背教者がヤタガラスという、悪魔にまつろう誅すべき者達とつながりがあるならばどうして見逃す事が出来ようか。
「しかし、この度もてこずらされたものです。
卑しき邪教の従僕とはいえど、やはり戦士としての練度はなかなかのもの。
そのことについては認めざるを得ません」
小雨がぱらつく山林の中、メシア教がテンプルナイトは素直に相手の健闘をたたえた。
白を基調とした騎士めいた装束。蒼い十字が描かれた盾と鈍い光を湛える銀の剣。
白い肌に青い目の偉丈夫は一目見ると御伽噺の聖騎士の様。
されど彼が武器を突きつけるのは完全武装の騎士でも、邪悪な悪魔でもない。
戦う術を学んだとはいえまだ十五歳の少女である。
「く……!」
弥勒の仲魔は全滅し、頼みのデモニカスーツも半壊。
致命傷となるような傷はないが、片腕は折れ頭部からの出血が少女の整った顔を汚している。
端的に言って痛々しい有様であった。
「ええ、まさか聖務の最中に犠牲者を出してしまうとは。
想定外の事態です」
楽器のように流麗で、それでいて何処か抑揚のない声。
アドルの背後にたたずむのは純白の法衣に聖典を携え、翼持つ存在。
それは「統治」「支配」を意味する名を持つ第四位の天使ドミニオンである。
| 天使 | ドミニオン | LV50 | 電撃・破魔無効 衝撃弱点 |
Lv50という、まだLv20代の彼女からすれば対峙することは死を意味する圧倒的存在。
現に今もドミニオンがそっと翼を動かすだけで、話すだけでピリピリと肌が刺激される。
「……申し訳ありません守護天使様。
私という者がついているにもかかわらず、天の御使いたる天使様に犠牲を出してしまうとは。
己の至らなさを悔やむばかりです」
他方目を閉じロザリオを握り占めて懺悔するテンプルナイトも恐らくは同等の実力者。
達人には程遠くともデビルバスターの訓練を受け実戦に参加した弥勒には分かる。
動きの一つ一つがより早く、力を適切に伝えられるように計算された無駄のなさ。
先程の交戦で自分が殺されなかったのは単に偶然だろう。それこそ10年前のあの時の様な。
「いえ戦いにはこの様な悲劇もあります我が騎士よ。
殉教した者達の死を無にしない為にも確実に聖務を執行しましょう」
「はっ!」
(うっわ自分達に酔っている感じバリバリ……メシア教の狂信者って近寄りたくないですわー。
なんでこんなのがわたくしの倍のレベルがあるんですの? 理不尽ですの)
弥勒達は遥か格上の相手に善戦した。
邸宅から脱出して要救助者を逃がし、追撃を掛けてきた下級天使を撃退した。
メシア教の者が目的としていた異物の確保にリソースを使っていたのも、暗闇による煙幕を嫌った事も良かったのだろう。
何とか時間を稼ぐことが出来たが、殿を買って出た彼女は敵の主力である天使に追い付かれこの様だ。
後の三人は、逃がした人たちは無事だろうかと弥勒は思う。
せめてそうでなくては死んでも死にきれない。
(いや、そうじゃありませんわ。まだわたくしは死んでいない。
ならば抵抗するのみ……!」
少女の闘志は尽きていない。
片腕で銃を構え、まだやってやるぞと言わんばかりに相手を睨みつける。
「何とまあ……まだ我々に抵抗するつもりですか」
「当然でしょう? メシア教の危ない人たちに下げる頭はありませんの」
「成程、ヤタガラスの者らしき強情さですね」
テンプルナイトは弥勒の反応にうなづく。
彼等にとってヤタガラスは無知迷妄な蛮人どもである。
しかし戦士としての心身の強さは戦士として感心するに値すると考えていた。
現に彼が過去の攻勢にて葬った幾人かのヤタガラスの召喚師や異能者はいずれも手ごわく、完全に殺し切るまで油断できぬ相手だった。
テンプルナイトの中でもエース格と目される彼をして、幾度なく致命傷に近い傷を負わされたほどだ。
『邪教の下僕であることは度し難いですが霊格は及第点。
ヤタガラス所縁の清らかな乙女で見た目も悪くない。……ふむ』
他方ドミニオンは冷徹な目で弥勒を値踏みする。
まるで精肉の分量を量るような感情のないまなざしで、少女を見ていた。
『我が騎士よ、この少女は殺さず捕獲しましょう』
「? 邪教に帰依していた事を
『それもそれもありますが、私の所見では悪くない素材です。
本部の求める聖母候補としても期待できます』
聖母候補。その言葉を聞いた少女は悪寒を感じる。
内心の動揺を表すかのように構える銃口が揺れた。
本来は清らかな印象を与える聖母という単語は、メシア教の天使の口から出ると悍ましすぎる。
「……っ!」
少女の心は強く正しく、されど当然恐怖を感じないわけではない。
絶対に碌でもない、それこそ死んだ方がマシな結末を迎える事が怖くてたまらない。
無論戦士として最悪の事態に備えて対策はしている。
だがもし、対策としてかけた呪が解かれたら。
そうでなくても、自分は一体どんな目に合うのか。
自分が好きな人に捧げようと思っていた純潔は。
家族に支えられて築いてきた尊厳は。
自分を構成するすべてが徹底的に蹂躙されてしまうに違いない。
(────いやだ、怖い)
「了解しました守護天使様。
さ、手早く済ませましょう。何、苦痛は長く続きません。
洗礼を受ければ今までと違う幸福な生活が待っていますよ」
清冽な笑みを浮かべたテンプルナイトは剣を抜き放ったまま弥勒に歩み寄る。
せめてもの抵抗に撃った銃弾は当然の如く傾けた刀身で受け流される。
そしてまるで肉を捌くかのような気軽さで剣を振り上げる。
少女の脳裏に走馬灯めいて浮かぶのはかつての光景。
自分を殺そうとする男。
何も抵抗できない自分。
腕や背中に残る傷のように心に残る
つう、と目から大粒の涙が流れる。
涙と共にか細い声で少女は呟く。
「たすけて」
あの時と同じような言葉を。
それは偶然か必然か、論ずるのは意味のない事である。
ただ一つ言えるのはその男が弥勒という少女を、一人のまま死なせなかったという事だ。
「守護天使様! 防御態勢を!」
『何を……ぐああああ!』
アルカイックな笑みから表情を一変させたテンプルナイトが盾を構える。
一瞬反応が遅れたドミニオンと騎士へ放たれるのは呪殺属性の弾丸。
盾でガードしたテンプルナイトはともかく、ドミニオンは弱点を合体により消している物の、銃撃にも呪殺にもやや弱い。
故にもろに受けた銃弾に悶絶し木々にたたきつけられた。
「守護天使様!? 何奴だ姿を現」
「おおおおおおっ!」
「ぐぅっ!」
テンプルナイトのガードの上に襲撃者の全体重をかけた斬撃が叩き込まれる。
悪魔のスキルによって加速した一撃は重く盾を構えたままテンプルナイトはノックバック。
衝撃に逆らうことなくあえて下がった事もあり、少女との距離はだいぶ開いた。
故にテンプルナイトからすれば敵の増援、弥勒からすれば援軍となる男。
神道式の悪魔召喚師であり剣士でもあるキリギリスの構成員。
「あ……」
自分の中の感情が言葉になるよりも早く弥勒は気づいた。
忘れる事はない。あの時自分を殺そうと、両親が騙して刺客にした男だ。
あれから10年経って、男は大分歳をとったがそれでもわかる。
「う、あ」
他方雨柳も気づいた。彼とて忘れることはない。
己が傷つけた少女の事を。
子供の成長は劇的で、あの時から大分大人びて美しく育った。
それでも、自分が血に染めた髪の色を、涙にぬれた顔を忘れてはいない。
半壊したデモニカスーツから見える傷跡は確かに自分が付けた物だ。
30を超えた男が情けなくうめく。
臓腑が毒物を注がれたように煮えたぎり、胃液がこみ上げる。
喉がひゅ、と異音を立てる。
呪殺を受けたかのように心がきしむ。
そんな雨柳の無様を見て、それでも弥勒は思う。
嗚呼、この人はあの日の後悔を今も抱えて、それでも戦ってくれていたんだなと。
実を言うと雨柳がキリギリスの一員として活動しているのは知っていた。
少し前、多少情勢が安定した時に会った父親からキリギリスにはクズノハ出身者もいると。
その一人が剣士の男であり、弥勒も知っている少女達を護りながら戦っていると聞いていた。
雨柳は絶体絶命の弥勒の前に現れた。
ここまでも激しい戦いを経てきたのだろう。
あちこちに傷が見え、ぽたりぽたりと血が滴っている。
ここまで全速力で必死に駆け付けてくれた事が分かる。
「えあ……ええと、あの人達と、私の部下は無事、なんですの?」
だから少女は自分の中に少しだけある恐怖を押し殺して男に尋ねた。
自分を傷つける敵ではなく、助けに来た仲間として。
何よりも気になることを。
「……ああ。俺の仲間と山梨クズノハが保護している。だから全員無事だ」
「良かったぁ。ならあと一つだけお願いしますわ」
ふっと息を吐いて、ぐいと強引に涙をぬぐう。
これまでより少し幼い声色で少女は言葉を形にする。
求めるように無事な方の腕、古傷がある腕を伸ばして。
男に求めるように告げた。
「私を、助けてくださいませ」
「……分かった」
少女の手に、そっと回復用のアイテムを渡し、代わりにある物を受け取って雨柳は敵へ向き直る。
眼前のテンプルナイトは復帰し、攻撃よりも天使の回復を優先した故に猶予があった。
テンプルナイトの目には邪教徒への激しい殺意。
しかし、殺意の高さは雨柳も同じである。
「何の償いにもならないけど、今だけは、君の為に戦わせてもらおう」
先代ライドウの様な英雄とは比べるだけでの失礼な程度の男が自分だ。
それでも、少女一人護れるだけの力はある。
ならばやるだけだ。
男の心身に震えは最早ない。
構えた退魔仕様の備前長船のように研ぎ澄まされた意思があった。
「不心得者の邪教徒がぁっ! 我が断罪の刃を受けるがいいっ!」
「貴様こそ死ねよクソメシアン。子供を傷つけ殺すなら、絶滅するまで殺してやる……!」
言葉と同時に両者は地を蹴る。
限界まで絞られた殺意の弦から、二人の剣士という矢が解き放たれた。
此処に始まるのは人域を超えた殺し合い。
超人の域に至った強者の死闘である。
忘れがちな事ではあるが覚醒者とはある種の逸脱者である。
本来見えないはずの悪魔を視認する。
常人なら容易く殴り殺せる身体能力を誇る。
様々な魔法を使いこなす。
悪魔への変身やペルソナの具現化等を行う者すらいる。
そうした常識という物差しから外れた業を以て悪魔に対抗する覚醒者。
一説には覚醒者は悪魔と接触を重ねる事で悪魔に近づいていると言われているが、彼ら異能者は人間という枠組みからは外れているというのは的外れな評価ではないはずだ。
その中でも一握り、超人という域に立った者達。
幾度なく悪魔や同じ覚醒者相手の死線を潜り抜け、心身を鍛え上げ、定められた限界を超える事で人の枠組みを超えた超人。
そんな超人が二人。
全身全霊を掛けて己の力を正面からぶつけ合えば──
「はああああっ!」
「おおおおッ!」
それはあらゆる物を破壊する力の暴風となる!
| 超人 | 雨柳巧 | LV59 | 破魔・呪殺無効 状態異常に強い |
| メシアン | テンプルナイト | LV52 | 衝撃・破魔・魔力無効 |
山林の中を疾駆する雨柳とテンプルナイトは幾度なく刃を交わし合う。
鍛えられた刃が剛力と絶技を以て振るわれ、巻き添えを食った木々が次々と切り倒されていく。
破滅的な力のぶつかり合いに、介入できるのは同格かそれ以上の者のみだ。
下手な悪魔なら数体並べても両断できるほどの斬撃の応酬。
また一本木が軋みを上げて倒れていく中、幾度目かの鍔迫り合い。
眼前の敵を睨み殺さんという眼光の相手に対し、テンプルナイトは敵の評価を一段階上げる。
この剣士は、強い。
これまで彼が殺してきたガイア教徒や犯罪組織の人間のように単にレベルが高いだけじゃない。
経験と習練に裏打ちされた確かな技がある。
脚運び、目の付け所、手首の動きによる斬撃の精妙さといった細かな技術が、敵を殺す為に淀みなく結合している。
現に今もこちらの斬撃をすかし、手首の回しで半回転させた刃で楯の裏をかいてきた。
咄嗟に躱した物の一瞬遅ければ頭部がスライスされた事だろう。
更に敵はそれだけでなく意気も充実している。
先程妙な間があったが、恐らく先程のヤタガラスの少女と知古なのだろう。
凄まじい気迫が全身から感じられる。
(嗚呼、嗚呼。これは強敵だ。間違いなく私の聖務の中でも一二を争う程の)
ヤタガラスにここまでの隠し玉がいたとはと素直に感嘆する。
四天王等の残存する主力はほぼ帝都から動けないはずなのに、これ程の強敵が投入されるとは。
(それでも、勝つのは私達だ。つけ入る隙等幾らでもある)
筋力だけでなく柔軟性も強化された体を活かし、変則的な斬撃を放つ。
奇怪な軌道の斬撃は雨柳に確かな傷を与えた。
動きが鈍ることはないが、流れる血が確かなダメージを物語っていた。
レベル自体はテンプルナイトの方が低いが幾つもつけ入る隙がある。
第一に少女の護衛の為仲魔を割いており、彼一人であるという事。
ここまでの交戦と移動で力を消耗している事。
そして何よりも──
『消え失せよ邪悪。天を代行し貴様を裁こう! ショックバウンド! *1』
連続して飛来する雷光。
直撃することはなかった物の雨柳の体勢が崩れる。
(私には守護天使様が、メシア教がついているっ!!)
『今です我が騎士よ。邪悪を打ち取るのです!』
「感謝致します!」
歓喜のままにテンプルナイトは剣を振るう。
素晴らしき教えをもたらす唯一絶対なる主を奉るメシア教。
救世を行わんとする正義の代行者となり、振るう刃の何と心地よい事か!
(素晴らしい! 素晴らしい! 私は今、正義の一端として戦っている!)
左手に構える盾をも駆使して一気に攻勢をかけた。
「ハレルヤアアアアアっ!」
怒涛の如き連続攻撃のラッシュ。
聖気を込めた斬撃で首を一撃で断つギロチンカット。*2
盾によるシールド・アタック。*3
剣を槌のように使って放つスレッジハマー*4。
状態異常を付加する攻撃が続けざまに放たれ雨柳は防戦に回る一方。
激しい衝撃で脳を揺さぶられた雨柳はそのまま吹き飛ばされて転がる。
どうにか立ち上がるも構えが定まらない。
めまい状態に陥ったことにより攻撃力が低下しているのだ。
其処へ放たれるのは
生半可な悪魔ならまとめてひき肉にする魔法を雨柳は防御するが、樹にたたきつけられて呻く。
「ぐっ、があァ……!」
「我が術中にかかったな! そのまま朽ち果てろ!」
これこそがこのテンプルナイトの基本戦術である。
マカラカーンや魔法を用いた天使の援護により近接戦闘に持ち込み、状態異常付与効果を持った攻撃を撃ち込む。
状態異常に対策している戦士は多くても、殆どが耐性どまり。
そうでなくて一部異常の無効にとどまる。
異なった種類の異常を付与した攻撃を撃ち込んで行けばどれかに引っかかり、動きが鈍る。
そして鈍った所を死ぬまで同様の手順で攻めたてるという手堅い戦術だ。
これまで刃を交えた者は皆状態異常に苦しみ、鋭い刃によって倒れてきた。
(貴様もまた幾多の邪悪と同じく斃れるがいい!)
高揚のままに突撃するテンプルナイト。
一気にとどめを刺そうとする彼に対して雨柳が何かを放り投げる。
それはバッテリーに似た何か。
(見苦しい真似を! いや待てあれは)
脳裏に浮かぶのは先程殺し損ねたヤタガラスの少女達。
彼等が自分に対して使ったのは、
バッテリーらしきものが弾けると同時に、閃光があふれ出した。
「悪いな。面倒そうだから小細工させてもらったわ」
雨柳が投擲したのは弥勒から渡された異界エレメントの吸収用タンク。
これを使い疑似的なDMホリーライツ*5を行使したのだ。
この奇襲で稼いだ時間は僅かしかない。
だがマグネタイトの波動は、雨柳にそのわずかな時間を稼げればいいと伝えていた。
「アオオオーン! マッタクテノカカルヤツダ!」
「いやー流石にこのレベル2体はきついわ。いつも通り援護頼むぜ」
大地を疾駆し、駆け付けたのは魔獣オルトロス。
雨柳と付き合いの長い魔獣は即座に適切な位置へカバーへと入り、その間に宝玉で体力を回復させる。
「オジョウハミナカミタチトゴウリュウシタゾ。コレデヨイノダロウ?」
「ああ上出来だ。おあつらえ向きの状況だよ」
数が互角になっての仕切り直し。
不利だった状況が建て直せたのは大きい。
対するテンプルナイトとドミニオンも戦闘に備える。
ドミニオンは飛翔しマカラカーンを発動、物理攻撃が届かない距離から援護せんとす。
テンプルナイトもまた回復を行い剣を構えなおす。
悪魔が増えようが関係ない。何度でも技を叩き込むと裂帛の気合を宿す。
かくして互角の接戦が始まろうとするかに見えた。
だが雨柳は、これまでの戦闘を冷静に分析し続けていた。
眼前の強敵を、殺す為の組み立てをもうすでに構築している。
「天使から殺るぞ。惑わせ」
「リヨトイッテオコウ。オオーン!」
オルトロスが吐き出すのは灼熱の火炎、ではなく摩訶不思議な色の波動。
広域に拭きつけるように吐き出されたそれは敵を包み込み幻惑させる。
「な、なんだこれは!? 幻が、みえ」
『まず、い平衡感覚が……!』
オルトロスが吐き出したのはミラージュブレス。*6
先程のお返しと言わんばかりの幻影が敵を惑わし正確な行動を不可能とした。
テンプルナイトは研ぎ澄まされた感覚を用いて距離をとる。
だが飛行中のドミニオンはそうはいかない。
幻影により平衡感覚を失墜し、墜落とまではいかなくともよろめいて高度を落とす。
そこを見逃す雨柳ではない。
「まず1だ。死んどけクソ天使」
「メシア教の下衆共がァ! 羽を引きちぎって揚げ物にして喰わずに捨ててやるわあっ!」
射出された管から瞬間的に召喚されたのは雨柳の仲魔である神樹ククノチ。
眼前の仇敵たる天使を認めるや否、普段の冷静さをかなぐり捨てた叫びと共に疾風属性を刀に付与する。
中空にて繰出されるは大疾風忠義突。
強力な疾風属性魔法を収束し放たれた突きは主天使を串刺しにする。
『馬鹿な……私が、未開の蛮人如きに……!』
「守護天使様っ!?」
大量の血を吐いて絶命するドミニオン。
対する雨柳は体をきしませながらも着地し、汚らしいと言わんばかりに血を振り捨てる。
「先程の発言は撤回します。良く考えますと油や小麦が無駄ですから。
天使なんぞそのままごみ箱にでも捨てましょう」
「それもそうだな。天使共を食材扱いするのは色んな人に失礼だし」
管に収まるククノチに応えつつ雨柳は幻影に悶えるテンプルナイトを見据える。
状態異常に陥ったうえに動揺する敵。
この機会を逃してはならない。
「オルトロス! 一気に潰すぞ!」
「オウッ」
畳みかける雨柳とオルトロス。
一対一ならば、万全の状態であったならばテンプルナイトにも対応が可能であっただろう。
だが、今はどちらでもない。
オルトロスの剛爪が、雨柳の鋭い刃がテンプルナイトを引き裂いていく。
血しぶきが上がり、盾を持った左腕が千切れ飛ぶ。
死んでもおかしくない重傷の中、それでも騎士の殺意は途絶えない。
「ぎぃっ! うがあああっ! まだだ、まだっ死ねるかあ!」
食いしばったテンプルナイトはオルトロスと雨柳を薙ぎ払う。
先程に比べると剣閃は乱れているが、その力はむしろ増している。
いやその精神力すらも。
「私は……私はメシア教の為にまだ戦わないといけないんだっ!
私を救った母であり、父であるメシア教の為にっ!」
彼は米国の最貧困層の産まれである。
両親からは虐待され、はした金でマフィアに売り飛ばされ鉄砲玉にされた。
弱者の中の弱者。誰からも救われず気にされない最低の人生。
それが彼本来の人生のはずだった。
絶望から彼を救ったのはメシア教である。
それは偶然の事だったが彼からすればどうでもよい。
メシア教は彼を保護し、教育し、戦士として取り立てた。
今の彼が有する誇り高き力と立場は全てメシア教がもたらした物だ。
故に彼は当然メシア教の為に戦う。
本来の十字教の教義からすれば歪?
虐殺や人体実験などの悪行を行っている?
(知るかよ死ねよ無能な偽善者共がっ。
何もしなかった塵芥が、私に唯一手を差し伸べたメシア教を愚弄するなっ!)
誰が何と言おうと己はメシア教の為に戦う。
役に立つならば汚れ仕事でも子供の使いでも何でもしよう。
救世主が楽園を現世に創り出すその日まで、命を懸ける。
「全ては、メシア教の為にっ!」
血塗れのほぼ壊れた体を無理やりに動かす。
テンプルナイトは天まで聞こえるような声で叫び、剣を掲げ突貫する。
行使するは
他方雨柳もただ敵の攻撃に甘んじることはない。
一度刀を鞘に納め集中を極限まで高める。
(お前にも俺のように色々あったんだろうな。
分かるよ。人間生きてりゃいろんなことがある)
ああそうだ。何処かの名作じゃないが雨柳は恥の多い生涯を送ってきた。
(だけど、子供に手を出すのは駄目だろうが。
なにがあろうとも、あんな子達を苦しめるような真似は許すわけにはいかねえ。
俺が罪を犯し続けたからこそ……!)
魂が閃光のように、一瞬映し出すのは凄惨な光景。
雨柳の知人の娘である可愛らしい少女の血塗れの死体。
腹に大穴をあけ、左腕が千切れ飛んだ壮絶な死に様。
一体何故かは分からない。だけど異様なまでにはっきりわいてくるイメージに、魂からの決意が湧き上がる。
こんな光景を、あの幸せになるべき少女が無惨に死ぬ光景を
(────だから
突貫するテンプルナイト。
対して雨柳はするりと、異様なまでの自然さで刀を抜き放つ。
居合による一刀は水平に。
武器毎テンプルナイトの右腕を胴を切り裂く。
振り返り様の二刀目は天頂より地に。
駆け抜ける背への一撃は肩甲骨から脚までを断ち切る。
テンプルナイトの身体を四つに分かつ、銀色の十文字が中空に咲いた。
雨柳が放ったのは十文字切りと呼ばれるスキル。*7
キリギリスと交流のある特級のペルソナ使いの使う技を元に、クズノハに伝わる剣技を昇華させた事で編み出し絶技。
実戦での使用は馴らしを除けば初めてであるが予想以上の威力である。
その威力のほどは四つに分かたれたテンプルナイトが物語っている。
「あ、ああ、あ」
地に転がったテンプルナイトは断末魔の叫びをあげる。
その叫びには先程と同様に、彼なりに切実な感情がこもっていた。
「……お役に、立てず申し訳、ございま、せん……!」
血に濡れた首はそれだけ言うともう二度と動かない。
末後の言葉は呪詛ではなく悔恨。
呻くような、慟哭の様な遺言。
メシア教はテンプルナイト、その中でも精鋭であるアドル・エレイオンは死んだ。
「……クソ野郎でも、殺して良い気分にはやっぱならねえな」
雨柳はエネミーソナーの反応がないことを確認して空を見上げる。
今日もまた、変わらない月が浮かんでいた。
山梨県の山中で起きた遭遇戦はクズノハ・キリギリス側の勝利で終わった。
重傷者はいても死者は0で、メシア教側の派遣勢力は壊滅。
遺物に関してもメシア側から回収し封印を行う事が出来た。
薄氷の上ではあるが上々の結果と言っていいだろう。
が、事の当事者である弥勒と雨柳の間には居心地が悪いとは言わないまでも微妙な空気が流れていた。
「「…………」」
メシア側唯一の人間であったテンプルナイトの遺体。
弥勒は無念の表情をした男の目を閉じ、軽くだが汚れを拭ってやる。
死ねば仏、悪党でも遺体は丁重に扱いなさいとは弥勒家に伝わる家訓の一つだ。
ボディバッグのファスナーを上げて一礼すると自分にやれることは何もない。
後は担当するクズノハの職員に任せるだけだ。
「……えっとあの、終わりましたわ」
「……ああ」
傍にいた雨柳に話しかける。
まるで死刑判決を待つ被告みたいな表情をしていた。
当然と言えば当然だが、あの時の事をまだ気にしているのだろう。
(うっわここ10年でなかったくらい話しにくいですわ。この雰囲気どうすればいいんですの?)
いやまさか幾らキリギリスにいるとはいっても、この男と再会するなんて夢にも思わなかったのだ。
いざ目の前にいると恐怖など微塵もなくても、どう対応すればいいのかわからない。
だが、それでもきっちりやるのが弥勒家の長女たる自分のやるべきことだと少女は信じる。
(ええいままよ! ここは人間として、弥勒家の一員としての基本に立ち返りましょう!)
弥勒はぐっとこぶしを握り決意を固める。
彼女の考える基本、それは単純な事である。
「うーあーその……今のわたくしって今日みたいに危ない事もありますけど結構、いやかなり幸せですのよ?
大好きな家族がいて、やりたいことがあって大切な仲間もいる」
その言葉に全く以て嘘はない。
早く平和になって、皆と平和と喜びを分かち合いたい。
心からそう思っている。
「わたくしは今日メシア教にかどわかされなくて、死ななくて本当に良かった。
だから……ありがとうございました」
丁寧に頭を下げ、頭を上げた後に手を差し出す。
握手を求める手はあえて傷が残る方だ。
仲間に、恩人にそうするように堂々とした態度をとる。
「いい、のか? 俺はあの時君を──」
「弥勒家の家訓の一つ。嫌な事をされた事よりも、嬉しい事をしてもらった事を覚えておきましょう。
そしてしっかりお礼を言いましょう。
私にとって、あなたは命の恩人以外の何者でもないのですから」
微かに震えるままに男は少女の手をとる。
固い手で少女の手をそっと握り返した。
「こちらこそ……ありがとう」
「どういたしまして、ですわ」
微かに声が震える、自分より倍は年上の男の顔はあえて見ない。
武士の情けという奴である。
自分の心に僅かにあったわだかまりというべき何かが解けていくのを感じ、少女は思う。
この人も色々とあったのだろうけど、少しでも今日この日をきっかけに後悔が解消されればいいなと。
弥勒家の長女であり、防人であり、誰かに手を差し伸べられる少女は何処までもまっすぐに育っていた。
◎主人公紹介
・雨柳巧 <デビルサマナー><剣士> LV60
シリーズポジション:ニッカリ及び悪魔討伐隊(真・女神転生Ⅳ Final)
最近原作でこれまでの周回でも少女達を護り戦っていたことが明らかになった31歳。
今回のエピソードで少なからず抱えていた慙愧が解消されたが、敵はまだまだ多いので戦い続ける。
今回は珍しく脳破壊されなかった。
・弥勒ちゃん <デビルサマナー>Lv25
四天王候補の予備役が中心となった防人部隊の隊長格の一人。
レベルは高くない物の良質な装備と仲間との連携で頑張る。
弥勒家の養子ではあるが深い愛情を受けて育ったため家族の事が大好きで、家の再興をして恩返ししたいと思っている。
実は原作(くめゆの方)より一回りか二回りかぼたもちがデカい。
理由?原作(オタクくんサマナーの方)のJCを何人か見れば自然と分かると思います。
◎キリギリス構成員紹介
・佐々木/レッドアイ・ホーク LV 86
漫画好きの自称ダークサマナー。
現在屋久島の調査に出かけているが、そこでもヤバイ事件に巻き込まれ現在対処中。
敵のJC相手にASMRを駆使したり、外見JSをメロメロにしたりしている猛者。
誰が何と言おうと頑なにダークサマナーを自称している。
今回のエピソードで大体ラノベ1巻分の分量になったのもあって一区切り。
とは言ってもアイディアは色々あるのでこれからもドンドン書いていきたいと思います。
次回は新規のキリギリス追加エピソードの予定です。
対性癖メシアの為に強力な戦力を追加しなくては……!