SAOが好きすぎる俺がSAOの中に入っちまった。それもホロウフラグメントなんだけど   作:クラッカーV

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就活行き詰まったから気晴らしに投稿

時が経つのは早いんだなぁって……


終わらせたくない何か

目の前に立ってたのは俺だった

 

 

 

 

信じられない光景に目を逸らしたいのに、俺の目は前にいるそいつから逸らすことを許さなかった。氷柱でもぶっ刺されたんじゃないかってくらい体の底から冷えあがっていく感覚に襲われる

 

「お、おま……え、は」

 

のどを必死に絞って何とか声を出す

 

気付けば俺の手は背中の剣へと伸びていた

 

「お前は、誰だ!!」

 

剣を抜き放ち、構える。切っ先を目の前のそいつへ向けた

 

「だから言ったろうが。落ち着けよ、って」

 

そんな声が聞こえるとともに、剣を持つ手が上へ弾かれた。勢いで体が少し伸び上がる。弾かれた腕を呆然と目で追うと、その腕が掴まれた

 

目と目が交差する。そいつの瞳は先ほどの冷たいものとは違った

 

「俺思うんだけど、鏡見てるわけでもないのに自分と同じ顔見てるのって、ナルシストでもない限り良い気分しないよな。気持ち悪くなるわけでもないけどさ……あれ、俺って案外イケメン?な・ん・て」

 

俺の腕を掴みながらおどけて言うこいつに、いやその発言ナルシストじゃね?とか、あれ俺って案外イケメン?……いや、ないわ、とかいろいろ思うところはあるが、こいつのおかげで少し落ち着いた。さっきの体が冷えあがる感覚も、落ち着いて深呼吸すると僅かにマシになる

 

戦闘態勢に入っていた体を落ち着け、腕を振り払った

 

「世界には三人同じ顔がいるって話だけどよ……まさか、こんなところで会うとは思わねぇよな?」

 

「信じらんねえよ。声も同じだと余計な」

 

落ち着いた。落ち着きはしたが……それでも心に言い知れぬ違和感というか、言葉では表すことが出来ない何かが押し寄せる

単純に、目の前のこいつは顔と声が同じそっくりさんなのか?ただ偶然、そういう相手だっただけなのか?

 

 

 

『また俺は独り………か』

 

 

 

こいつは、あの声の正体と関係はあるのか……?

 

「俺も信じられねえ。だからさっきはあんなことしちまった」

 

そう言って目の前のそいつはもう一度お面を付ける

 

「んー、まあ。そんだけだ。同じ顔ですよーって、俺だけ知ってるとか理不尽だろ?」

 

「はぁ?」

 

唐突に突き付けられた俺が理不尽だとは思わんのか。いや、俺が逆の立場でもやってたかもしれないけどさ

 

俺の顔を見て再度狛犬のお面を付けたそいつ(これからは狛犬と呼ぶことにしよう)は、肩を竦めて背を向けた。そしてゆっくりと二回、手を左右に振って歩き始めた

 

ど、どこに行くつもりなんだ?

 

「おい、待てよ……!」

 

呼び止めると狛犬は歩みを止める。だが、俺のほうを振り返るそぶりすら見せない

 

「もう用はねーよ」

 

ただそれだけ言って、狛犬はまた歩き出した

 

別に止める理由なんてない。確かに狛犬の言う通りもう用はないはずだった、ただ同じ顔だから、同じ声だから。世界には三人まで同じ顔の人間がいる、それが本当だっただけの、ただ友達と飯を食いながらの、笑い話のネタになるだけの出来事のはずだ

 

でも何かが違った。俺の中の何かが、このままで終わらせるなと言っていた。ただのサブイベントで終わらせるんじゃないと

 

そう思った瞬間、俺は走って狛犬の隣へ並んだ

 

「……なんで着いてくるんだよ」

 

お面の中から、最初会った時みたいな冷たい目が向けられる

 

「なんか、着いていこうかなって」

 

「はぁ?物好きかよ。俺の顔見たときは剣向けてきたくせによ」

 

「それを言うなら、そっちだって首絞めてきたじゃねぇか。あれ結構きまってたんだからな。お前が何と言おうと俺は着いていくぜ。今日はそうするって決めたんだ」

 

そう言ってやると、諦めたのか溜息を吐きやがった。好きにしろとでも言うように無言で歩き続ける狛犬の横を俺も歩いた

 

そこから先はずっと二人行動だった。だけど、なぜかパーティを組む気にはなれなかったから、二人いるのにどっちもソロプレイという何とも不思議な構図が出来上がっていた。

 

狛犬がこの樹海をさまよっている理由も、不思議と知ろうと思わなかった。ただ何となく、モンスターを倒す度にメニューを開いているらしく、その行動を繰り返しては「ねぇな……」と呟いていた。何か欲しいアイテムがあるんだろうと思う

 

戦闘に関してはそこまで困らなかった。狛犬はレベルが高いんだろうな。タゲを常に取りつつ、相手の攻撃を左手に持つラウンドシールドで防ぎ、攻撃に転じていた。俺の方にタゲが来ても、狛犬が吼えるとそっちへモンスターが集中する。おかげで気にせず攻撃することが出来る

 

意外と相性良いな俺達……つっても、俺の攻撃なんて微々たるものなんですけどね!

 

「ちょ、俺の方やばいって!モンスター来てるって!ハウルハリー!ハウルハウル!」

 

「あーもう、うっとしいな!ちったぁ自分で何とかしろ!」

 

とまあ、こんな感じで戦闘してるわけだが……うん、そんなに困ってないな!

 

「……しかし、今日帰れるかねぇ?」

 

暗くなりつつある空を見上げて呟いた

 

二人で探索しているうちに樹海エリアの奥のほうまで来てしまっている。マップはきちんと把握しているが……狛犬は自分の拠点へ帰ろうとするそぶりすら見えない。そろそろ3時間ほど経つんですけど。良い子はおうちに帰る時間が迫ってるんですけど?

 

「なーなー、まだ続けんの?」

 

そう声をかけると無言でこっちを向く狛犬。そう怖い目で睨まないでほしい

 

「嫌なら帰ってどうぞ。てか弱すぎ。お守してる暇ないんですけど?」

 

「はーっ!?そういうこと言っちゃう!?一緒に探し物してる人にそういうこと言っちゃうんだ!?」

 

なんて失礼なんだこの駄犬は。なんとなく着いてきたは良いけど特にできることもなかったから取り敢えず一緒に探してたのに!なに探してるか知らないけど、なに探してるか知らないけど!

 

「はぁ?誰が一緒に探してほしいなんて頼みましたかー!?脳みそきちんと詰まってんのかよっ!?てかあれか、さっきからしきりに自分のドロップアイテム見せてたのはそれか!」

 

正に噛み付いてくるとはこのことじゃなかろうか。今にも飛び掛かりそうな勢いで俺の顔へ指を突き付け、狛犬が大声を上げた。それ先端恐怖症の人にやったら駄目だかんな?先端は駄目だからな!

 

「それだわ!人間の脳みそは犬のお前より大きいわっ!!」

 

「これはお面だ馬鹿!!バーカ!」

 

そんなこと知ってますけど!?馬鹿っていうほうが馬鹿なんですけど!!

 

「………ちっ」

 

「舌打ちっ!?」

 

睨み合ってたら、なんと奴は舌打ちをしやがった。舌打ちに対しての俺の反応も他所に、狛犬はもう知らんとばかりに歩き出す。慌てて追い掛ける俺、隣に並ぶと狛犬は歩くスピードを上げた。メチャクチャ速いんですけど、歩くスピード速すぎるんですけど!?必死について行こうにも向こうの方がステータス的にも上なので俺じゃあ追いつけ……走り出しやがった!?

 

「ちょぉ待ーてーよ!」

 

大声で呼び止めるが気にすることなく奴は走って行く。どんどん距離が開いていくことに若干焦りが出てきた。いや、マジでこんなとこに一人にされたら死ぬんですけど!?一人じゃモンスター一体たりとも倒せないから!スケルトンに倒されて俺がスケルトンになっちゃうから!!

 

「ねぇ待って、お願いだから待ってぇ!流石に一人で死にたくないって!俺のレベルまだ70も行ってないんだって!」

 

「……はぁん?」

 

よっしゃ、俺の必死の叫びにより狛犬を止めることに成功したぜ!狛犬は訝しげな声を出した後に立ち止まって、俺が追いつくまでこっちに顔だけを向けていた。置いてかれなくて心の底から安堵しますた。ありがとうございますた

 

「滲み出る弱さには気が付いてたが、まさかそんなにレベル低かったとは……お前どうやって今まで生きてきたの?実はもう死んでたりしない?」

 

「しねーよ!てか滲み出る弱さって何!?」

俺の体からそんな加齢臭みたいなのんが出てるのか!?最近食生活悪いからかな……ココアと肉くらいしか食ってねえし、あと野菜も少々。あれ、別にそこまで悪くなくね?ココア?ココアが原因なの?気になって体を匂ってみるけど特に何も匂いとかはないし

 

「ココアは何も悪くないぞ」

 

「知らねーよ」

 

逆に体からココア臭が漂うのならそれはそれで有りかもしれない。こう、香水付けた後みたいな。セルフ香水なんてそれもうなんて病気?この体はココアで出来ている……アイハブボーンオブマイココア。無限のココアですね、何それ欲しい

 

「てか、俺を置いてったら漏れ無く俺が死ぬからな!罪悪感に苛まれたくなければ俺を置いていくな。死ぬよ?いいの、死ぬよ?死にたくねーんだよ!」

 

だから置いてかないでー、と必死に狛犬の右腕をホールド。はっきし言って気色悪いが生きる為なのだから仕方ないのです。ほら折れろ、お前も男に組み付かれたままは嫌だろう?早く折れるのだ!

 

「うるせぇぇ!わかったから離せ!飽きるまで死なないように見ててやるから離せ!男に腕を組まれる趣味は無ぇ!」

 

俺だって無えよ!何が悲しくて男の腕なんざホールドしなきゃならんのだ。ホールドするならシノンさんの腕ホールドするわ。いや、寧ろして欲しいわ。頼んだら眉間撃ち抜かれそうなんですが。銃とかなくても剣でやりそうだよね。流石シノンさん、きっとその姿もお美しいことでしょう

 

まあいつまでもホールドとか逆に俺の腕が腐りそうなんで、折れたことだし狛犬を解放。最初から連れて行けば良いものを、手のかかる奴め

 

「つっても、お前もう帰りてーんだろ?転移結晶でもなんでも使って帰れよ」

 

「そんな金があるとでも?」

 

「どんだけだよ!?」

 

ポーションとか買い貯めてたら金が無くなったんだよ。俺は悪くねえ。悪いのは等価交換だ。仕方ない、こうなったら真理の扉を開いて錬成出来るようにならねば。あ、でも代わりに腕とか足とか持ってかれるな。………目の前のこいつ差し出したらオーケーじゃね?なんて。同じ顔だし

 

てか、転移結晶高いんだよ。一つ10万以上ってなんなの?俺みたいな貧乏人に全く優しくない件について。ん、待てよ?そう言えばフィリアとキリトに預けてた金があったような……あれも含めれば1つくらいなら買えるかな?いやでも、俺が強くなった時に取りに行くって(勝手な)俺の約束だしなぁ

 

「というわけで転移結晶くれ」

 

「今日会った相手に遠慮ないなお前。実は俺も持ってないんだ」

 

「……なんだ貧乏人か」

 

目の前のワン公もお仲間だった件について

 

「貧乏人に貧乏人とか言われたくないんですけど!?ブーメランが脳天突き刺さってんぞお前!」

 

大丈夫、俺のブーメランは投げたら《あ、ブーメランが!》ってなって戻ってこないから。そのままグラビモスの尻尾に当たって切るまでやってのけるスーパーブーメランなので。調合の材料しっかり持ってかなくちゃ

 

あれ、このブーメランのくだりさっきもやったような気がする

 

「あー、もー……わかったよ。じゃあ死なないように着いて来いよ?」

 

「送ってくれるんじゃねえの?」

 

「バーカ、なんで俺がお前を送らないとダメなんだよ?可愛い女の子になって出直してこい」

 

じゃあどうすればいいんだ!?このまま一晩こいつと過ごせばいいってことなんですかね!?なんとも嬉しくない展開じゃねえか。仮面付けた野郎と空の下野宿とか誰得なんですかね

 

お腹も減ってきたし……お腹をさすってみれば今にもぐぅと音が鳴りそうだ

 

「なあ、じゃあ飯とかどうすんだよ?」

 

「飯?」

 

俺が問いかけると、狛犬はキョトンとした。いや、その「なにそれ?」みたいな声はなんだ?俺は日帰りのつもりだから用意なんてしてないし……。もしかして野宿の用意とかって当たり前のことだったり?そういえば、2巻のリズベットと一緒に鉱石採りにいった話では、キリトが野宿セットみたいなのを出していたような。うそ、俺の装備軽装過ぎ……?ライフラインを自ら断っていくスタイル?

 

「飯、ね」

 

狛犬はまたそう呟いた後に空を見上げ、頭をかいた。暫く沈黙すると、ふと思いついたかのように右手を振り、何か手元を動かしだした。恐らくインベントリを開いているのだろう。目当てのものが見つかったのか、指先でタップする動作をすると、手元に白く、俺の頭くらいの大きさの布袋が現れた

 

「んじゃ、これやるよ」

 

そう言って投げ渡されたそれを慌てて受け止める。開いてみると、黒ずんでいるが食べれそうな……ビーフジャーキーみたいな肉。つまり干し肉が沢山入っていた

 

「おい、これ……」

 

「うるせーのは勘弁だ。それやるからもう黙って着いて来い」

 

いやいや、こんなに貰うのは申し訳ないっていうか

 

「飯を集ろうとか、そんな気じゃなかったんだよ」

 

「いーんだよ、俺それ食わねぇから」

 

うーん、そう言うなら貰うのもやぶさかでは……

 

「いいのか?ホントに貰うぞ?お腹すいたら言うんだぞ?」

 

中身いくらか返すから

 

「黙って着いて来いって言ったろ」

 

それ以降はもう知らん、と狛犬はそっぽを向いて歩き出してしまった。俺も慌てて後を追いかける。干し肉を一つ取り出し、口に咥えて残りはしまった

 

それっきり俺たちの間には会話らしき会話はなく、ただ歩いては襲いくるモンスターと戦い、また歩き出すのみだった。空はすでに暗い。視界の端にメールを受信したマークが現れる。見てみるとキリトからだった。どうやらボスの討伐が終わったらしい。新しいエリアへも行けるようになったんだそうだ。新しいエリアの転移碑から管理区へと既に戻り、キリトはアークソフィアへ帰っている、と

 

俺の姿を誰も見てないからメールしてきたのか……取り敢えず、俺は大丈夫だと返しておこう。強いプレイヤーと一緒にいるって書いときゃ安心するだろう。少なくとも、ここら辺の敵に遅れはとってないしな、狛犬のやつ

 

「ん?……マジか」

 

キリトへの返信内容を考えていると、狛犬が立ち止まった。不思議に思い狛犬が見ている方向を見てみれば、いつのまにか次のエリアへ行く道へと来ているじゃないか。そう言えばこの近くには転移碑があったはず……あ、あった

 

「ゲートが開いてる?誰かがボスを倒したってぇことか」

 

キリト達が解放した後だからな、そりゃ開いてるよ。まあ俺もメール貰ったから知ったんだけど。ぼちぼち日が暮れて結構暗いんで、もうそろそろ帰りませんかね?ほら、転移碑そこにあるし

 

「ゲートが開いてる……なら、この向こうになら」

 

「いや、待てぇい!」

 

なんか呟きながら次のエリアへ向かおうとするんじゃないよ!?夜だって言ってんの!良い子はもうすぐ寝る時間帯なんですが!?なんかカッコイイ橋なのはわかるけどさ!

 

「嫌なら帰ってどーぞ」

 

「はぁ!?……あぁ、もう!」

 

そんなことを言って狛犬はスタスタと行ってしまった。確かに転移碑で帰れるが、このままだと狛犬ともう出会うことが無くなりそうな、そんな気がする。俺はキリトへのメールを素早く書き終えて狛犬を追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

from:Shin

 

新エリアなう

 

強い人と一緒にいるから心配しなくてオーケーよ!

朝帰りしちゃうかも(はぁと!?)

 

 

 

 

 

 


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