TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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グランヴィル家の日常 Ⅶ

 きぃ、と音を立てながら木製の扉が開いた。その奥に広がっているのは飲食の出来るスペースと、カウンターだ。飲食スペースでは昼間から酒を飲んでいる人の姿もあれば、暇つぶしにカードで遊んでいる姿もある。イメージ通りの冒険者ギルドという場所に見た瞬間妙な満足感を感じてしまった。そうだよ、これだよこれ。やっぱ異世界ファンタジーと言えばこれが基本でしょ! そんな気持ちで自分の胸が溢れる。

 

 ギルド内部は特に薄暗いとかはなく、観葉植物とかも飾ってあって雰囲気は悪くない。排他的な気配もなく、色んな種族が装備を確認したり、売店でアイテムの補充を行っているのが見える。その景色の全てがキラキラしているように見えて、テンションが上がってくる。

 

「ふぉぉ……!」

 

「これが冒険者さん達の仕事場?」

 

「いやあ、目を輝かせちゃってねぇ」

 

 エドワードの言葉には苦笑が混じっていた。それを理解しながらもやっぱり浪漫は捨てられず、楽し気に周りを見渡してしまう。するとカウンターの向こう側からおぉ、という声がした。視線をそちらへと向ければモノクルを装着した初老の男がカウンターの向こう側にいるのが見えた。

 

「これはエドワード卿」

 

「やあ、ギルドマスター。元気にやってるかい?」

 

「ははは、相も変わらず問題だらけで大忙しの毎日ですよ。ですがそれは充実しているとも言えます。中央と比べると刺激に満ちた毎日で楽しく過ごさせて貰ってますよ」

 

「獲物にも仕事にも尽きないのが辺境生活だからね」

 

「それでエドワード卿、本日はどのようなご用事でしょうか? 何かの依頼でも?」

 

「あぁ、いや、娘達がちょっと冒険者たちに興味があると言っててね。変な夢を持たない様にちゃんと説明してあげた方が良いかなって」

 

 その言葉に成程、とギルドマスターは頷きながら此方とグローリアを見た。俺もグローリアも滅多に見ない色んな種族や装備をした人々を前に、滅茶苦茶興奮気味であるのは事実だ。実際、今もグローリアが袖を引っ張ってあっちあっち、と指さした蟲人という種族だったか? の戦士の姿を教えてくれている。まるで二足歩行のバッタの様な男……なのだろうか? は此方の視線に気づくと片腕でサムズアップを向けてくる。サービスショットしてくれるイケメンだ。

 

 やっぱこんなの見てるときゃっきゃするに決まってんじゃん!!!

 

 あ、マッスルポーズ取ってる冒険者がいる。グローリアの肩を叩いて教えると、グローリアもその人を見て軽く笑ってしまった。

 

「無頼漢だらけの所を楽しめるのは才能が有りますね」

 

「まあ、私達の娘だからねー?」

 

「エデンは……素質かな」

 

 おう、エド公。それはどういう意味よ。

 

 エドワードの言葉にじー、っと視線を向けていると軽くギルドマスターが笑い、俺達へと視線を戻してきた。

 

「それでは冒険者ギルドの役割と出来る事を説明しても良いかな、お嬢さんたち」

 

「はい!」

 

「お願い、します」

 

 うむ、と言ってギルドマスターが軽く顎髭を掻いた。

 

「さて、我々ギルドでは実に雑多な仕事を引き受けては斡旋している。言い換えれば何でも屋であり便利屋、中央や栄えた都市なんかではアマチュアの集まり、なんて言われ方もする。まあ、これは一種の事実なんだけどね。実際冒険者は食い詰めが最低限の収入を得る為に手を出す場合が多いんだ」

 

 あぁ、世知辛いファンタジーの方の冒険者だったんですねここ……。

 

 と、そこまで言った所でギルドマスターは笑う。

 

「だけど、これはあくまでも中央での扱いだね。地方や辺境での危険度の話は聞いているかな?」

 

「はい! 辺境の方がモンスターが強く、生活も大変だって聞いてます!」

 

「うん、良く勉強しているみたいだね」

 

 その子、この前の授業寝てましたよ。指摘するのは流石に可哀そうだから止めておくか。

 

「知っていると思うけど、辺境ってのは開拓が進められるけど軍や騎士団というのは派遣し辛いんだ。軍や騎士団は国境の防衛や中央の治安維持などの使い道が多い。だから纏まった数を送るのが難しく、地方領主にある程度の武力を許可する事で自衛させるぐらいしか国側では対応する方法がない。国力が上がって戦力に余裕が出れば話は変わってくるんだがね」

 

「……?」

 

 宇宙グローリア顔に、横から囁く。

 

「皆に、お菓子、分けられない。足りない分、自分で作ろう」

 

「成程ね」

 

 例えにギルドマスターは感心するように頷いた。

 

「うむ、まさにその通り。派遣が難しいなら自分で用意しなくてはならない。だったら自分達で力のあるものを育て、募集し、定着させようという動きが出来てくる。その動きに加わっているのが冒険者ギルドだ」

 

 簡単な話、国に戦力の余裕がないからギルドの方に応援を要請しているって事だろう。

 

「中央では食い詰め者が多くとも、辺境でそんな連中が出てみろ、モンスターの強さも相まって即座に狩られるだけだ。だから辺境の冒険者の質は実の所、中央都市とかよりも高い。ま、ここは危険度や難易度から来る違いだな」

 

 中央は騎士団を含めた主戦力が安全確保している他、それぞれの産業や職業のプロフェッショナルが集まっている。それが理由で恐らく冒険者が育たないのだろう。逆に言えば辺境や地方では人が慢性的に足りず、やるべき事も多い。その為自由に使える人間が必要とされて冒険者の需要が高い。結果、レベルの高い人材が育つ……という感じか。

 

 まあ、正規雇用か日雇いか。どっちを求めるか、って話になったら正規雇用だよな。

 

 冒険者になるなら道具屋さんに就職する方が100倍楽で安定するだろう。中央はそういう傾向が強く、辺境は成り上がる為の武者修行の人達がやってくる。

 

 成程、大体解った。

 

「辺境、冒険者、強い」

 

「うむ、辺境の冒険者はだから強く育つ。逆に言えば強いのしか残らない。そしてそれぞれの専門分野に特化して行く傾向が強い」

 

「専門分野?」

 

 グローリアの首を傾げる姿にギルドマスターがあぁ、と頷いた。

 

「万能な技能を持つ人間が求められるのは当然の事なんだけどね、結局のところ日雇いよりも皆正規雇用を求めるからね……冒険者として仕事を受けて技能訓練を行い、そっからそれぞれの特化分野に進んでから就職先を見つけるって奴が多いんだよ」

 

「はえー、大変そう」

 

「大変だよー。長く冒険者を続ける奴ってのは冒険者をする事自体が楽しいのか、或いは色んな土地を巡る事を楽しんでいる奴だからね。副業として冒険者をする奴は癖の多い奴が多いし……有能だと思ったらどこかへと旅立ってしまう。慢性的に仕事を処理してくれる人間には不足しているんだ。お嬢さんたちも大きくなってお小遣いが欲しくなったらウチにおいで、大事にするからね」

 

「その前にサンクデルに仕事を紹介して貰うわ」

 

「だよなあ……」

 

 エリシアの無慈悲な言葉にギルドマスターが項垂れる。聞いている感じ中央よりも需要が強く、そして人材も優秀なのは多いが、その代わりに皆分野に特化したらそのままその方面の職業に就職すると言いう感じが強いらしい……アルバイトで経験を積んで正社員になる流れじゃんこれ。

 

 異世界のハローワークかここ??

 

「ま、そういう訳だ。ウチはサンクデル、つまり領主から直接仕事を請け負うから冒険者に頼る必要はないんだよね」

 

「でも」

 

 その理屈は解るんだが、

 

「色んな事が出来て、人の助けが出来て、旅をして、色んなもの見る人たち。とても、カッコいい、と、思います」

 

 現実はちょっと厳しいが、それでも冒険者という職業には浪漫がある。俺はそういう所、好きだと思う。だって現実的な事ばかり語っていると、まるでそこには夢が何もない様じゃないか。だから夢とか浪漫は必要なものだと思う。まあ、それはそれとして俺も冒険者はご利用になる事はあんまりないんだろうな……とは思うが。

 

「そう言われると私もここの長として嬉しいものだ。何かあったら、何時でも引き受けるから遠慮なく来るんだよ? もしライセンスだけでも取りに来るならその時は私が面倒を見てあげるから」

 

「その時は、是非」

 

 その言葉にエリシアがうーん、と言葉を出した。

 

「でも私はエデンだけならバリバリ利用させるつもりあるわよ?」

 

「え?」

 

 エドワードがマジで? という感じに視線をエリシアへと向けた。俺もちょっと驚きながら視線をエリシアへと向けると、エリシアがだってと言葉を続けた。

 

「戦闘経験を積みながらスカウトとレンジャー技能の勉強が出来て、収入も出来るし、社会勉強になるから私も騎士時代はこっそりと登録して活躍してたものよ?」

 

「あの、僕はね? エデンをもっとこう、リアのお目付け役としてアンみたいな瀟洒な従者にだね?」

 

「強くなければ生きて行けない世の中なのよ、エド」

 

「君は一体何を想定してるんだ……?」

 

 夫婦の教育方針の食い違いにどうしたもんかなぁ、と腕を組んで首を傾げていると、グローリアが此方の袖を引っ張ってきた。

 

「安心してエデン、何があっても私は貴女を絶対に見捨てないわ」

 

「リアの、出来ない事は、任せろ」

 

 主に物理方面の運用ですね、解ります。まあ、このドラゴンスペックをフル活用するとなるとやっぱり物理メインで魔法サブ運用の方がビルドとして安定するんじゃねぇかなあ、とは思う。魔法剣士タイプってのはゲームだと基本的に器用貧乏扱いされるし、どっちかをメインにして突き抜けた方が強いとは思うんだが……まあ、そこは本職である夫妻に判断を任せる。

 

 それから俺とグローリアはもうちょっと冒険者ギルドの事を勉強した。

 

 例えば専門型の冒険者は専門によって呼び名が変わるとか。対モンスター専門のハンターとか、対人専門のスレイヤーとか、採取専門のギャザラーとか、調査専門のエクスプローラーとか。中央では全く意味のない区分ではあるものの、この辺境では手配されるレベルで凶悪なモンスターや、騎士団や軍の監視がない事で暴れる賊の存在とかがあるのでこういう専門型の冒険者の需要は高いらしい。

 

 この辺りは大幅に調査が進んでいるとは言え、まだまだ安定しているとは言い難い。殲滅作業を行う事も出来ない事から定期的な調査と間引きを冒険者へと領主が依頼しているのも含めて、冒険者という職業システムは辺境では大きな意味があるらしい。

 

 これもまた、ファンタジーならではの中央と辺境での違いと問題なのだろう。

 

 こういわれると“中央”ってのは結構力のある場所なんだな、と思う。それとは反面に、辺境はまだ完全に開拓が終わっていない感じが強い。貧乏くじにも思える辺境開拓だが、今はまだ手つかずの財源で溢れているようにも。きっと、冒険者たちはそういう所に名声を稼ぐチャンスを見出してきているのかもしれない。

 

 何にせよ、我が家のトップはエリシアだ。彼女が修行の為に依頼処理をさせるというのなら実現するだろうなあ、と思うので将来的にお世話になるであろうギルドマスターに頭を下げてみた。

 

「……本当にこんな子をここに通わせるのか? なんというか、その……もっと温室で育てた方が良いんじゃないか?」

 

「その子、既にバスタードソードなら片手で数時間振り回せるのよ」

 

「流石魔族だなぁ、人族とは体の作りが違うなあ……それなら、まあ」

 

 ムキムキポーズを取ってみるが、これ、女の子がやったらどう足掻いても可愛いだけの奴じゃん。もうちょっと威厳のあるポーズとかないか軽く模索し始めると、横でグローリアも乗ってきてポージングし始める。お互いに向き合いならこれだ! と思うポーズを作ってみるが中々ハマるものがない。それを周辺の大人たちは生暖かい視線を向けて見守っていた。

 

 もう心も女児にしないと生きて行けねぇんだわ!

 

 嘘、男としての感覚が延々と抜けないから我に返ると恥ずかしいわ。

 

「とりあえずこれで冒険者ギルドって場所が解ったかな?」

 

「時間を、割いて、くださり、ありがとう、ございます」

 

 エドワードは微笑みながら頭を横に振る。

 

「これぐらい良いさ。楽しめたみたいだしね」

 

 頷く。滅茶苦茶楽しかったのは事実だ。成り上がりの浪漫はちゃんと異世界に存在したんだ。それが解っただけでも価値はあった。

 

「じゃ、そろそろ昼食にしようか?」

 

「お肉たべたーい!」

 

「たべたーい!」

 

「もう、2人ともったら」

 

 エドワードの言葉に2人そろって肉が食べたいと反応する。そりゃあ松坂牛とか神戸牛とかは存在しないけど、モンスターの中には高級食材が存在するのだ、マジで。そしてそういうのを狩猟出来るレベルの強さが我が家の夫妻にはあるのだ。だからここら辺の高級食材の値段、驚きのゼロ!

 

 ただし、チップは命でというのが辺境のルールだが。仕方がないなあ、と言いつつ肉を食べる気満々の一家の様子にほっこりとしていると、エドワードとエリシアがその後の予定を話あっていた。そして思わず、その会話内容に動きを停止した。

 

「それが終わったら、無色の神殿でエデンの種族や出身を鑑定して貰おうか? 叡智の神へのオラクルが通ればたぶんエデンの解らない事も答えてくださるとはもうんだよネ」

 

「そうね、それで何かエデンちゃんの過去が解るかも」

 

 おっと、いきなりラスダン行くのはマナー違反ですよ? 止めない?

 

 完全なる善意からだから無理?

 

 そっかー。

 

 詰みです。




 冒険者の需要ってやっぱり都市部と辺境では絶対に価値そのものさえ違うし、間引きが行われている環境とそうではない環境でモンスターの成長度合いが違うと思うんだよね。

 ゲーム的に考えればあとに行く場所の方が強いのは当然だけど、育つ環境がある場所程やっぱり強くなると思うので、辺境周りの環境はこんな感じ。そして冒険者は最終的に冒険者止めるのが多数。

 誰だってバイトよりも正社員になりたい。


 碑文つかさ君より挿絵をいただきました!!
 
【挿絵表示】


 表紙風の絵だ! 何時もありがとうございます!

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