「じゃ、俺は2階からやるかな」
「なら正面から押し通す」
「では拙者は地下の逃げ道を封じよう」
言葉を告げると楓は鞘から斬撃を走らせる。一瞬で大地を斬り抜く様に地下の天井を抜いた。それで開いた侵入口へと迷う事無く飛び込んだ楓を見送り、俺も上からの制圧を始める為に一回の跳躍で二階、その壁へと突っ込んだ。
当然ながら存在する壁や窓、ベランダなんてものは粉砕しながら、だ。
人と建造物が衝突したら弾かれる? そりゃあ人間の理屈だ。これは“宝石”の理屈なんだ、耐えられないのは壁の方だし、そもそも俺はドラゴンであり、龍であり、この世界における最強種だ。たとえまだ種族全体からすれば尻に殻のついた存在であっても、かつて世界を支配していた最強の種族である事に変わりはない。生まれたその瞬間から最強と言う名を背負って生まれてきた生き物なのだから、当然のようにこの身はこの世で最高の宝石の原石たる資質を備えている。
だから壁を粉砕し、2階の適当な部屋に着地する。その先にあったのはどうやら休憩室か遊戯室か―――数人の黒服たちが煙草を口に咥えながらカードで遊んでいる。だがその姿は俺を感知して、或いは既に入口の騒ぎを少しだけ聞いて何かを察知して武器を手にしていた。全員が全員、銃を手にしている。ハンドガン、マシンガン、ショットガン―――どれも近代的で殺人的な武器だ。それこそ“宝石”であれ、まともに頭に鉛弾を叩き込まれれば即死するだろう。そういう意味では銃で武装するというのはとてもクレバーだ。
連中が音速で動けて、見てから弾丸を回避したり、素手でも弾けるという現実を無視さえすれば。
上に行けば上に行くほど、銃弾を回避、無力化する手段なんて増えてくるのだから、銃は一定のレベルまでの相手にしか通じない武器だ。それでも大量の人間を銃で武装させるのは、例えば騎士団等を相手にするのであれば明確なアドバンテージとして機能するだろう。そう、これは同格との戦いであれば非常に高い殺傷力を誇る武器だ。少なくともこのレベルのマフィアが同格と殺し合うのであれば、この質と数なら一方的なアドバンテージとなるだろう。
無論、それは相手が人類の範疇に入っていれば、という話が前提となる。
「よお、マフィア諸君」
部屋に侵入、砕けた壁の縁を左手で掴みながら首を突っ込む様に体を前に出す。結晶剣は担いだまま、一歩踏み出す。踏んだ足元が、足跡の形に結晶化する。だがそれを最後までマフィア達は見届けない。既に武器は構えられており、侵入者相手に対する対応というものは決められている。
「殺せ―――!」
必死にも聴こえる咆哮、それが誰かの口から出る。途端、一斉に引かれるトリガーによるマズルフラッシュ、視界が炸裂する火花と閃光に覆われ、銃弾が舞う。一瞬で最高速へと達した銃弾の動きが見える。目で捉えられる。真っすぐと飛翔する弾丸は目へと向かって直進し、眼球の前まで来て、
―――俺の眼球に衝突する。
眼球に衝突した弾丸が潰れ、弾かれ、あらぬ方へと飛んで行く。それをマフィア達は見届けない。引いたトリガーから指を外す事はない。響く銃声、それが聞こえるのはここだけではなく館全体。どこも怒号と悲鳴と銃声によって満たされる。もはや嵐という言葉でしか表現できない銃弾の数は人を1人殺すには十分すぎる質量へと至っている。
だがそれが俺の体を傷つける事はない。
放たれた銃弾はコートを、服を貫通して、
だがただの弾丸ではこの肌を抜く事は出来ない。撃つだけ無駄だ。
「日々の悪行、実にお疲れ様」
弾丸が続く中、1人1人確認するように顔を見る。その顔を覚える。名前が解らず、覚えられない以上は悪夢に登場させられるようにしっかりと顔を覚えなくてはならない。己の恐怖と罪悪感を味わう様に顔を見渡し、誰かの銃弾が切れて、次の人の銃弾が切れて、弾丸を完全に切らすまで待ってから左手をポケットに戻した。
「もう、その手を汚さなくても良いぞ」
右手で大剣を薙いだ。振るわれるのは黒と白の噛み千切り。何年間も積み重ねて来た斬撃は正しい意味で噛み千切りへと進化した―――即ち振るうと相手の体に食らいつき、斬るのではなく食い千切りの刃へと変貌した。故に剣を振るい終わって発生するのは室内にいた5人のマフィア達の死体、その上半身の喪失した姿だ。
だがその胴体の断面は決して綺麗ではない。大剣で食い千切られた以上、本物の獣がその上半身を呑み込んで食い千切ったような、そういう断面図が描かれている。
数百の弾丸に対してたった一振り。それがこの状況の絶望的なまでの真実を見せている。進む足跡は冷え切る心と頭の様に凍り付く結晶の跡を残す。それがマフィア達の死体を呑み込んで、砕く。残された跡は返り血だけだ。
服も特別製だ―――コートが1着40万と凄まじい値段をしているが、魔力再生素材を利用したコートの為、弾丸でぼろぼろにされた所で直ぐに再生している、されている、した。
着ているシャツとジーンズが銃弾で多少ぼろくなったが、許容範囲内だ。未だに暴力と死の臭いで溢れる部屋から出て、更に濃密になった死の臭いへと向かって踏み出す。
まるで解っていたと言わんばかりに部屋を出て廊下に出た瞬間銃撃が行われた。弾丸が脳天に命中、或いは角に命中して弾かれた。だが当然のように効かない。だから大剣を再び、相手へと向かって薙ぎ払う。壁に阻まれるなんて気にする必要はない。どうせこの建造物自体、俺1人で跡形もなく握り潰す事が出来るのだ。そもそも障害物なんてあってないようなものだ。
だから薙ぐ。薙ぎ払って噛み千切る。それで人が死ぬ。殺すたびに血が舞う。それを浴びて人食いの魔法が輝く。さらに体が強化される。必要のない強化だ。だが己の本分が何であるかを忘れない、良い魔法だと思う。だから踏み出す。足跡に結晶を残して。
「クソ! もっと火力のある武器を持って来い!」
「犬共を放て!」
「駄目だ、犬共が逃げて行く! あ、こ、こっちに―――」
怯えるマフィアを前に微笑みかけ、左手で顔面を掴んだ。
「がおー」
「ひぐっあぎゃ」
そのまま脳に魔力を叩き込み、体を内側から結晶化させて散らす。残骸となった結晶を手放してポケットに手を戻しつつ、肩に担いでいる大剣を一度、二度と振るって様子を確かめ―――床を踏み抜く勢いで蹴り抜いた。一気に加速しながら突進し、体からマフィアの集団へと衝突する。当然のように相手の肉体を破裂させるように貫通させ、廊下に出ている分を全て始末したら今度は壁を粉砕して部屋の中に入る。
女をまわしている最中の部屋だったらしい。群がる男を全員一撃で食い千切って隣の部屋へと壁を蹴り壊して侵入する。蹴り飛ばした壁の破片が、瓦礫がショットガンの弾丸のように向こう側の者達に衝突し肉を抉るが、それをお構いなしに更に剣を振るって中の人間を全滅させる。
「逃げろ! 全員逃げろ!」
「残念。逃げるにはちょっと遅い」
大剣を握り直し、白を強く剣身に纏わせる。そのまま薙ぐ。
横へと全てを薙ぎ払い、進路上にある全ての命を薙いで喰らう。あらゆる抵抗を無力化する白い大斬撃が2階の全てを薙ぎ払って消し去る。偶然床に転がっているか、俺がわざと外しでもない限りは助かる命は存在しない。そして助かった命は今横の床で痙攣している、先程まで襲われていた女だけだ。
だがそんな女も、重度のヤク漬けでまともな思考力を見せていない。目は白目を剥き、口はだらしなく開いて舌を突き出し、汚れた体のまま大の字になって転がっている。とてもだが、助かりそうには見えない。
或いは、
「死んだ方がマシか」
床に転がる姿を見て、光が消え去ったまま笑っている姿を見て―――痛みがないように結晶化して殺した。
「2……4……7。そこそこ生き残ったな」
薙いだことで天井が崩れ始めている。だが別に、天井が落ちた所で俺が死ぬわけじゃないし、ダンも楓もこの程度なら余裕で耐えるだろう。だからこの建物そのものが崩壊する事を考えずに横にもう1度薙ぐ―――今度は潜む様に2階に隠れている気配、それを纏めて殺す様に。そのまま大斬撃を薙ぎから跳ね上げさせる。完全に壁が崩壊したところで落ちてくる天井をふっ飛ばし、風通りの良いリフォームを実現する。
「これで2階にいたのは全員か? そんな多くはなかったな」
軽く息を吐いて再び大剣を担ぐ。天井がなくなった事で上から光が差し込む様になって見える邸内の姿は凄惨の一言に尽きる。死と血の臭いで溢れかえる現場はマフィアからすればありえないとしか言えない光景だ。視線を中央の吹き抜けから1階の方へと向ければ、両手を赤く染めたダンが手に付いた血を振り落としているのが見えた。2階から下にいるダンへと向かって手を振る。
「ん? あぁ、そっちも終わったか……服はぼろぼろだが大丈夫か?」
「傷は一つもないから大丈夫よ。そもそもこの体、心臓を抜かれた程度じゃ死なないしな」
「聞きしに勝る怪物っぷりだな。いや、だからこそヴェイラン卿も厚遇するのか」
さあ、ととぼける様に手を広げる。実際のところサンクデル・ヴェイランからどういう評価を受けているかは解らないが、厚遇されているのは間違いはない。滅茶苦茶身近な人だから距離感が軽く狂っているかもしれないが、あのサンクデルとは辺境伯であり、国防、国境線の要とも言える人物なのだ。
辺境と言えば田舎のイメージが付きそうだが、戦時ともなれば最前線に変貌する地でもあるのだ。生活区間や街近くではあまり見かけないが、国境線近くに移動すれば軍事基地があったりするのだ、あの辺境は。何度か厄介させて貰っているが、皆良い人たちばかりだったと追記しておく。
まあ、それはさておき。
生存者のいない2階から1階へと飛び降りて着地し、ダンの横に並び立つ。それから周囲を見渡し、まだ楓が戻っていないのを確認する。とはいえ、楓の気配は残っているし、健在なのも良く解る。つまり彼/彼女がアタリだったというだけの話だろう。
「下かぁ」
「真っ先に逃げたか? まあ、どちらにせよ逃げられなかっただろうな」
「せやろな」
残像すら残さず動く事の出来る“宝石”級から逃げるのは、同じ位階の人間でもなければ相当難しいだろう。この程度の連中に楓が負けるとは思えないし、たっぷり余裕をもって地下へと向かう。
と言っても、正規の入り口を見つけるなんて面倒な事はしない。楓が非常口を開けてくれたのだからありがたくそれを利用させて貰う。
と、外に出ると数名のマフィアが地面に倒れて転がっていた。どうやらハリアが処理したらしい。いえーい、と言いながらちきちきとハリアを指さすと、ハリアとクルツは此方の様子にドン引きしてた。
「え、なんですかそれ」
「え、なにって……皆殺しにしただけだが?」
「え、えぇ……」
「言っただろう、今夜マフィアがこのスラムから消えると」
「ま、そう言う訳だから。もうちょい警戒しつつ待ってて。こっちはサクッと終わらせるから」
ハリア達に手を振って別れを告げ、楓が切り裂いた穴へと飛び込む。僅かな浮遊感と共に即座に大地の感触が足元に戻ってくる。魔導ランプによって照らされる地下通路は片方から強烈な血の臭いが漂っている。どちらへと進めば良いのか、というのが解りやすい。血とバラバラになった元人間だった肉塊が転がる通路を抜けて開けた部屋に出れば、真っ赤な血に染められた部屋、大量の死体、そしてその中で無傷の楓と壁際に追い詰められた男の姿が見えた。
俺達の登場にお、と楓が声を零す。
「そちらも終わった所で御座るか。此方もそれっぽい偉そうな者を見つけたが故、確保しておいたで御座るが……」
壁には数本の短刀によって壁と床に縫い付けられた男が見える。長い茶髪をくくっている男だ。見ようによってはまあ、見た目は良いのかもしれない。明らかに他の黒服たちよりも覇気と力で満ちているのは何らかの手段で他の連中よりも体を弄っているからだろうか? それにしても楓には傷1つ付けられなかった様だが。ただそいつを見て、ダンは頷く。
「あぁ、そいつがここらのトップのヴィンセントだ」
「クソ、解っていてやったのか気狂い共!? テメェ、誰を敵に回したのか解ってるのか!?」
「そこら辺悩むのはワイズジジイの仕事だから」
「拙者らの関与する所では御座らんので」
「まあ、最悪お嬢様からビンタ貰う程度だと思っている」
「―――」
俺達の言動にヴィンセントが絶句した。だけどこいつにそんな時間はない。そんな事よりもこいつは今から自分がどうなるのかを心配した方が良い。だから俺達は軽く笑い声を零しながらヴィンセントを囲んだ。
「さて―――俺達がアルド王子の関係者だって言えば、解る?」
「……! ……っ、……」
驚きつつもヴィンセントが黙った。即座に自殺しないのは死を恐れているからだろうか? どちらにせよ、その行動が言外に自分が事件に関与しているという事を証明していた。目の前の男の態度が関与している事を証明するなら、こいつを犯人に仕立て上げるのは簡単だ。
ただ、まあ、こいつを突き出すだけではダメだろう。こいつに、俺達にとって都合の良い受け答えをして貰わないと困る。だからヴィンセントの髪を掴んで顔を引き上げる。
「ぐっ……」
「よお、ヴィンセントちゃん。俺達の為に、ちょっくら真実って奴を面前で語ってくれないかなあ?」
「無論、その場合は今すぐここで殺すのを止める事を誓おう」
「人としての最期の矜持、守りたくはないで御座るか?」
「かっ―――ペッ。殺すなら殺せ」
痰を吐き出してきたが付着する前に魔力で消し去り、成程と呟く。ヴィンセントから離れると3人で集まる。
「どうする? 単純な暴力や尋問じゃ無理そうだぞこれ」
「手足のどれかを落とせば態度も変わろう。それでダメなら親類を引きずり出すほかあるまい」
「いいや、それは駄目だ。時間が足りなくなる。何か妙案はないか?」
「うーん……」
痛みに強そうで、それなりに覚悟のある人間を従わせる方法何かないかなあ、と思いながら血まみれの室内を見渡す。何かヒントはないものだろうか、とテーブルの上に置いてある麻薬の入った袋を見つけた。それを見て、ちょっとしたアイデアが脳に浮かんだ。麻薬を見て、そしてヴィンセントを見る―――まだ舌を噛み切っていない所を見ると、自殺する気はないらしい。ならば良し、お前に俺が最大級の試練を与えよう。
「こうなったらアナルデスアクメ作戦だ」
「アナルデスアクメ作戦」
「??????」
「今、なんて?」
この地下室、この場にいる俺以外の全員が同じ疑問を抱いた。ヴィンセントでさえ俺の言葉を聞き返していたので、良いか、と言葉を置く。
「俺は凄く賢いからな」
「もう既に言動が賢くなさそうだが」
「俺は凄く賢い! これ、前提な。だから直腸における直接の吸収率が凄く高い事を知っているんだ。だからケツから直接アルコールをブチこんで急性アルコール中毒で死んだ奴がいる事だって知っている」
「知りたくもない情報だったがなんか賢そうな事を言っているぞ」
「ああ!」
ちなみにこれ、真実かどうかはマジで忘れているので解らない。ただなんとなくぼんやりと、そんな記憶があるだけだ。だからそれを説明した上で良いか、と再び言葉を置く。指をまず麻薬の方へと向け、大剣を消して細い棒を生み出す。
「これはマフィア解らせ棒だ」
「マフィア解らせ棒」
「こいつはマフィアを解らせる為の
「そんな幻想いやだが」
「良いか? 直腸からの吸収率が高い―――つまりケツに麻薬を差し込んで棒でぎゅっぎゅってしてあげればこの上なく滅茶苦茶麻薬を体に注入してやれるって事だ」
「賢いなあ」
「天才の発想で御座るなあ!」
「え、嘘でしょ」
俺達の言動にドン引きのヴィンセントが楓とダンを見るが、俺が何をしたいのかを察して2人は笑顔で頷いた。良し、喋らないならしょうがないよな! 人間、一体どこまで尊厳を凌辱出来るのかここら辺でチェックしないとな!
「と言う訳で、喋らないならアナルデスアクメするしかないよね。なぁに、大丈夫だ。麻薬をケツの穴にぶち込んで解らせ棒で押し込んで掻き混ぜて、ひたすら良い気持ちになり続けるだけだから。ほら! メスイキって男にしか出来ないから最も男らしいって言うし! これは男らしさを磨くチャンスだな!」
「?????」
麻薬を取りに行く俺の姿、体を抑えに来るダン、そしてズボンを降ろそうとする楓の姿に、ヴィンセントは俺達の行動が一切の偽りのないガチの行動である事を察した。
「嘘だろ!? 本当にやるのか!? 正気か貴様ら!?」
「さあ、脱ぎ脱ぎするで御座るよー」
「なに、痛いのは最初だけだと話には聞いている―――直ぐに何も考えられなくなる」
「それは頭が吹っ飛んだだけだろうッッ!! まて! 正気を取り戻せ! 俺のアへ顔なんてお前らみたい訳じゃないだろう!?」
麻薬を回収しながら振り返り、大丈夫だと告げる。
「ここでお前の尊厳を一度破壊したら、お前をその姿のまま都市の中に連れ込んで、中央通りでヴィンセントアナルデスアクメ祭り開催するからな。皆が見ている所で盛大に人生崩壊しろよ。お前の顔と名前は一生エメロードの歴史に残してやるからな」
ででん! という感じに手を動かす。
「ギュスターヴ商会及びマフィアのヴィンセント君、エメロード中央通りで盛大にメスイキしながらデスアクメを迎える―――」
「お、お前の精神状態おかしいだろ……」
正気ですが? だけど、まあ、ゲロらないなら復讐しないとね……。
そんな気持ちで麻薬の袋を開けようとしたところでヴィンセントが絶叫した。
「解った! 従う! 全面的に従う! だから人として、人としての死を許してくれ……! せめて、人間として死なせてくれ……」
祈るように、両手で拳を作って頭を下げて来た。その姿を見て3人で盛大に舌打ちする。その様子を見てヴィンセントがもう一度恐怖の視線を向けてくる。
いえ、まあ、
ガチでやる気でしたが?
そういう事で俺達は証人を確保して都市へと帰還する。だがこいつを騎士団に突き出すのか? といわれたらノーだ。こいつを騎士団に渡した所で結局のところ、始末されて黙殺されるだけだろう。俺達はこいつの存在と、こいつが真犯人であるという俺達にとって都合の良い事実を世間に噂が広がるよりも早く公表しなくてはならない。まあ、騎士団も馬鹿じゃないだろうから絶対に俺達をこんな不審者を連れた状態で入場させてはくれないだろう。
だったら俺達は祭りを始めるしかない。
オールナイト・エスデルだ。
俺達がフィーバーしてこの事実を都市中に響く様に、気づかせる義務があるのだ。
正直なところ、かなり悪ノリしている部分はある。だが悪ノリというのは出来る時にやっておかないと、永遠にチャンスを逃すものだ。そして今回の件、目立てば目立つ程俺達のクレイジーさと世間の注目度が上がる。
だから俺達は即席の十字架を作成し、それにヴィンセントを縛り付けた。そう、まるで聖者の様にヴィンセントを十字架に縛り付けて持ち上げた。
そしてそれを、都市の大門前まで運んだ。
そしてやる事は簡単。
「オラ! ここでのお前の必死さがお前の運命を決めるんだよ! 魂から声を絞り出せ!」
大門前で完全にフリーズする門番の騎士たちを前に、ヴィンセントが必死の形相で口を開いた。
「俺が学生共を殺したぞ―――!!」
中央通りでのアナルデスアクメパレードは嫌だ。そんな意思を感じる必死な叫び声がヴィンセントの魂の奥底から噴出した。十字架を掲げ持ち上げる俺がげらげらと笑う中、ヴィンセントが必死に叫ぶ。
「ヤクを売ったのも俺だ! 今日死んだガキどもを殺したのも俺だ! 全て俺がやった!」
「声が張ってねぇぞ!」
「もっと声を出してほら、真実を訴えるで御座るよ」
ぺしぺしとヴィンセントのケツを楓が握る解らせ棒が叩く。それにヴィンセントがひぎぃという声を零しながら必死に声を張る。
「俺達マフィアはぁ!! ギュスターヴ商会の下ォ! 日々勢力を拡大していますッ!!」
必死に叫ぶヴィンセント。
げらげら笑う俺達。
当然ながらこの乱痴気騒ぎを止めようと奔走する騎士たち。それから俺達は当然のように逃げた。逃げてヴィンセントの声を門の向こう側から人を集める様に響かせた。これから流れるであろうアルド達の悪い噂を超える程の醜態を晒す様に。
夜のエメロードの空に、ヴィンセントの声と姿を響かせた。
感想評価、ありがとうございます。
デスアナルアクメパレードでついに100話目を迎えました。これからも宜しくお願いします。それで良いのか……?