TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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サマー・バケーション Ⅱ

 ―――エデン=ドラゴンへ。

 

 そう書かれてある手紙を開き、何度も確認した。エスデル中央、王都。そこにベリアルという名の魔族がいるらしく、俺との茶会を是非ともと所望している。ドラゴンと言う名称は実はそこまでメジャーではなく、ドラゴンという言葉自体広まっていないのだ。主に龍や亜竜、真竜等と言う言葉を使うのはドラゴンハンターたちぐらいなもので、一般的にドラゴンと言う呼称は使用しない。つまりそれを俺の名前に使ってくる辺り、この人物は相当博識であり、俺の正体も察しているという事でもあるのだろう。

 

 その上でまだ何の行動にも出ていない事を見れば、俺に対する害意が存在しない事は察せる。だがそれ以上にどこで俺の正体と、名前が流出したのか。それが非常に恐ろしい所だった。割とこう見えて、自分が龍である事を悟られない様に気を使っている所はある。普段から魔族であると自分の種族を主張するように言葉遣いや文化に気を使っているし。まあ、そういう細かい話は抜きにしよう。

 

 俺は俺が龍であるという主張はしていない。

 

 そもそも龍は人の姿をしていないし、人の姿をしたという記録も存在しない。だから俺が龍、ドラゴンであるという事を見て理解する事は単純に不可能なのだ。この大前提を覆す事が出来る存在があるとすれば……それは無論、千里眼を持つ存在だろう。例えば神、ソフィーヤ神。我が家の無敵ソ様。信仰心最近薄くないっすか? ……まあ、ソ様みたいな神様は下界を広く見渡す事の出来る千里眼を保有しているから、俺が龍だと知っているし、見ているし、監視もしているだろう。

 

 人理の神ソフィーヤを筆頭に武神、騎神、豊穣神とかは割と俺を良く見ているという話はそういや、前ソ様とフリートークしていた時に聞いている。神々の間でも俺の存在は割と話題になっているらしく、エデンチャンネルを見ている神は多いのだとか。俺が話題性抜群なのは、まあ……立場上は仕方がないって奴だろう。ちょっとだけプライバシーが不安だが、俺が1人になりたい時はそれとなくおめめを閉じてくれてるだろう。

 

 第二に昔の情報を知っていて見ぬく力のある人。これはあの某人類最強龍殺しさんや、なんとなく察しているがるっしーマイフレンド辺りが該当する。龍殺しに至っては産まれたての俺に一度エンカウントしていたから、姿が変わった所で見りゃあ解るって感じだろう。るっしーはマジで解らん。気が付いたら魔族のフリを看破されてたが、まあ、アイツ魔王だしなぁー、で大体納得出来る。だってるっしーなんだぜ?

 

 まあ、魔界の強さとか特異性とか、そういう諸々は謎の部分が多いが、俺が龍だと解るのは俺経由でなければこの二つぐらいだ。ワイズマン? あれは特殊ケースすぎる。

 

 だけど今回、ベリアルとかいう人物は恐らくワイズマンと同じケースか、或いは2番目か……そのどちらかとだと思っている。少なくとも千里眼を使って俺を把握できている人類が存在しているとはあんまり思いたくない。というか嫌だよ、そんな人類。俺の逃げ場ないじゃん。

 

 まあ、結論から言っちゃうと考察出来ても答えは解らないよな! って話になってしまう。

 

 だから自分で確かめるしかない。

 

「ま、そりゃそうか」

 

 手紙をベッドの上へと放り投げる。これは後々招待状として使うだろうから丁寧に保管しておかなきゃなあ、と考えつつも頭の中ではどうやって魔王クラスの相手と戦おうか、という事を冷静に思考していた。ここはやはり、エリシアの教育のおかげだろうか。素早く戦力計算を行う能力が自分に備わっている。自分が知る魔王クラスの馬鹿と言えばそりゃあるっしーだ。

 

 俺が250レベぐらいだとすれば、あの糞とぼけたフレンドはレベルが1600ぐらいある。しかも通常状態でだ。伊達に別世界の王の称号を得ている訳じゃない。戦いとなったら俺がまず瞬殺されるだろう。とてもじゃないが龍変身だけでどうにかなる戦力差ではない。だからまず、戦うという事を頭から放りださないとならない。そもそも、殺す気なら既に俺は死んでるだろう。つまり俺が龍だと知りながら、そのままであってほしいと考えている人物なのだろうと予測できる。

 

「怖いなぁー」

 

 やっぱ、俺、一生を辺境で過ごしたいな……。不必要に人と会わず、グランヴィル家の面倒を見て、その子孫を守っていく人生を送るんじゃだめなのか? いや、でも俺が原因でエーテルが活性化するとなると辺境が増々魔境化しそうだな。俺の能力がそういう領域まで伸びるまで何百年かかるかは知らんが。

 

「出たとこ勝負かぁー」

 

 まあ、世の中そんなもんか。最悪ソ様に泣きついたらどうにかならんか?

 

『一生、こっちで暮らしますか?』

 

「こっわ。話しかけんとこ」

 

 ソ様からの電波が届いて丁度良く脳味噌が解れた所で、だだだだ、と廊下を走ってくる音がした。あ、これは来るなと判断してベッドに放り投げた手紙をサイドテーブルへと移し、ベッドの上へと移動するように腰かける。すると勢い良く見なれた銀髪ロング、胸の控えめな少女―――俺にとってこの世で最も大事で愛しい娘、仕えるべき主君でありながら妹の様な存在、グローリア・グランヴィルの姿が現れた。

 

「エデン! 疲れた! 癒して!」

 

「はいはい」

 

 部屋に突撃したと思えば今度はこっちに飛び掛かってくる。腕を広げて妹の様な少女の存在を抱き留めると、その頭を撫でる。胸を顔を埋めるリアの姿を見ながら、胸のクッションってこういう事が出来るのマジなんだなあ……なんて事を思った。

 

「はあ……疲れた。離れたくない……ふにゃあ」

 

 人の胸の中で蕩けきっている娘の姿に苦笑を零しながら頭を撫で続ける。

 

「どうしたんだ、ここしばらく割と楽しくやってたじゃんかよ」

 

「うん、学校は楽しいよ。友達もいっぱい出来たし、講義も楽しいしね」

 

 でも、とリアが付け加える。

 

「ちょっと、疲れるかな。楽しいんだけど……こう、皆明確にやりたい事、なりたいものが見えてるんだよね。だから私もやりたい事を考えて、目標に向かって頑張ってるんだけど……何時の間にかそれが義務感になってないかなあ、って」

 

 リアの言葉に俺は苦笑するしかなかった。リアの言っている事は多くの学生が体験するものだと思っているからだ。少なくとも、現代において義務教育が発生する世の中、勉学とは選択性ではなく義務だった。その中で漠然と毎日を過ごして勉強をし、特に将来の夢も何も持っていない学生がこのままでいいのか、なんて悩むのは良くある話だ。義務感で授業を受けてて良いの? という考え、

 

 答えはメッチャ簡単。それでええんや。

 

 学校に通う金はただやないんやぞ。

 

 中学生時代の俺自身に言ってやりたい言葉だった。後もうちょっと真面目に授業受けとけ俺、それが将来的に滅茶苦茶助かるから。卒業してからじゃもう遅いんだわ。

 

 ……と、口で言うのは簡単だ。だがこれは実感しない限りは意味がない。リアは言ってしまえば、恵まれすぎているのだ。恐らく数多くの貴族の中でも、その義務と責務を背負わずに自由に生きて良いと言われながら育った事のある女子なんて彼女ぐらいだろう。普通の貴族子女は教育を受ける様な事も薄く、結婚の道具として運用される。権威ある家であれば教育を施して婚姻を通したコントロールとかも考えたりするのだが、エスデルが割とそういう教育関連では先進的でここまでの高度教育を行うのは一般的ではないのだ。

 

 だから環境でも境遇でもリアは断然に恵まれている。

 

「さあ? 義務ならそれはそれでいいんじゃないかなあ。エデン君、学生だからそこら辺良く解らなーい!」

 

「ずるーい!」

 

 リアがそう言いながらベッドに俺を押し倒してくるので、わーきゃー良いながらベッドの上でもみくちゃになる。それでも基本は抱き着きながらなので、そこそこストレス溜まってるな、ってのを感じる。元々グローリア・グランヴィルという少女は狭い世界の住人だった。友人も俺とロゼだけで、そう多くはなかった。それが今、大人数のコミュニティで人気のある少女をしているのだから、対応だけでも疲れる所があるのだろう。

 

 ベッドの上で体の上にリアを乗せたままで、と声を置く。

 

「帰りたくなった?」

 

「ううん……少し寂しいけど、楽しいのは本当だし。エデンがいてくれるから全然大丈夫だよ。ただ、ここを卒業したらどうしよう……って考える事は増えて来たかな。ほら、選択科目もあるし」

 

「ふむふむ。まあ、講義って基本的に将来何をやりたいかってのを基準に置いて取るもんだからね。単位を取得するだけなら楽だけど、将来的に何をしたいのかを念頭に置いて選ぶとなると難しいねぇ」

 

「うん」

 

 そういやあ、リアが将来何をしたいのかを聞いてなかった。

 

「で、リアは何をしたいんだ?」

 

「え? 龍の事をもっと知って、正しい知識広めたい」

 

「聖国に消されるから止めようよぉ……」

 

 リアがあまりにも畏れ多い事をやろうとしていて震えた。ちょっと待て、もしかしてこれ、完全に後押ししているのあの学園長だろ? 滅茶苦茶良い笑顔で手伝っている姿が思い浮かぶんだけど。まあ、エメロード内にいるかぎりはあの爺の庇護があるから大丈夫だとは思うけど、ドラゴンハンターとかが絶対にこんにちは! 死ね! しに来る奴じゃんこれ……。

 

 俺の不安を知ってか知らずか、リアは胸の上に頭を横に倒した状態でにへら、と笑った。

 

「大丈夫だよ。まずは龍に関する伝承とか伝説とか、そういう物を集めて纏めた本を作るの。と言っても発表するんじゃなくてそれを図書館に保存するの。調べたんだけど、龍に関する記録や本って童話を除くとほぼ存在しなくて、記録の類は聖国でしか保管されてないんだって。この状態だと興味を持った時調べる事さえ出来ないから、とりあえずどういうものかを知る為の本を作って図書館に記録しようと思ってるの」

 

「おぉ、意外と真面目に考えてる……」

 

 ちょっとした成長を感じて感動する。とはいえ、それ、始まりが俺が家族として一緒に育ったという事実に起因しているようで恥ずかしい。いや、龍に関連する事なんて俺の事以外ありえないんだけどね。ただぶー、と息を吐き出すとリアが顔を胸に突っ伏した。

 

「でも龍関連の資料って本当に少なくて、ワイズマン教授でもほとんど持ってないんだよね。1冊持ってるだけでそれを資料として使うのも……って感じなの。後は龍が敵役として出てくる童話は集めるは集めるけど、それはそれでバイアスかかり過ぎてて資料として使えないしー!」

 

 この娘が難しい事で悩み始めるの、本当に時の移り変わりを感じさせる。少し前までは小さかったんだけどなあ。

 

「あーあ、天想図書館に潜れればなあ……」

 

 天想図書館。

 

 エスデル最大のダンジョン。

 

 建国王の遺産と言われる施設。

 

 その実体は()()()()()()()()()だ。

 

 所説は色々とある。建国王が数多くの魔本等を収集して集合知として運用する図書館だったのがダンジョンに変質した、とか。神代から続く伝説の施設である、とか。或いはこれがアカシックレコードへとアクセスする為の施設である……とか。何にせよ、天想図書館はいわゆる特殊ルールによって運営される図書館であり、ダンジョンである。その性質は“求めた本を入手する事の出来る図書館”である。

 

 ワイズマンが保有する本、龍と大地は天想図書館127階で偶然発掘に成功した本であり、それが聖国へと渡る前に入手したものらしい。

 

 ―――まあ、“先生”に話を聞ければ或いは歴史ぐらい語ってくれるだろうけども。

 

 と、そこで思い出した。

 

「じゃあ、行くか? 天想図書館」

 

「え」

 

 リアが顔を上げて目を輝かせる。それに合わせ視線をテーブルの上に放り投げた手紙へと向ける。

 

「実は王都に遊びに来ないかって誘いがあるんだわ。それに便乗して天想図書館潜りに行くか? ぶっちゃけ、龍の事を調べるなら俺ももっと自分の事を知りたいし」

 

 聞いた話、天想図書館の入場には国が付けた制限や条件があり、冒険者の場合はランクに依存する。それが無ければ紹介状が必要だが、俺のブロンズと言うランクはソロの活動の他に誰かを連れて入る事を許可するレベルのものだ。忘れちゃならないのは“金属”級は冒険者の中でも上澄みであり、それにソロで到達できるというのは相当な実力者だという証明になる。つまり俺の身分、実力はギルドによって保障されている。

 

 だからリアを連れて天想図書館に入る事ぐらいはそう難しくない。

 

 それに手紙を確認する限り、宿泊先や王都での滞在中の世話は見てくれるらしいし、利用出来るなら利用するのが良いだろう。

 

「行く!」

 

「じゃあクレアとロゼにスケジュールとか休みの間どうするかって話をしないとな」

 

「早速聞いてくる!」

 

 そう言うと上から飛び退いたリアが部屋の外へと走り去って行く。その姿を軽く眺めてからはあ、と溜息を吐いて片腕で顔を隠す。

 

「……あのスキンシップだけはどうにかして改めないとなあ」

 

 そろそろそう言うのが致命傷になる年齢だと教えてやらんとなあ。俺が男の体じゃなくて良かったと思う。




 感想評価、ありがとうございます。

 姉妹揃ってスキンシップには無頓着。

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