TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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人理教会 Ⅲ

「―――リア疲れたよー!」

 

「お帰り、よしよし」

 

「本当にどっちが姉役でどっちが妹役なのか解らなくなるわねこの姉妹……」

 

 ホテルに戻ってまずリアの胸元に飛び込んだ。その様子にロゼが呆れた視線を向けてきているが、それをガン無視してリアに抱き着く。なるべく衝撃がいかない様に減速して膝を折って抱き着く事を忘れず、抱き着くとリアが頭をよしよしと撫でてくれる。真っ黒で恐ろしい人間ばかりを見てきたせいか、リアの存在感だけで削れたSAN値が音を立てて回復するのを感じている。やっぱりリアのいる場所が自分の居場所なんだなあ、とリア力を吸収しながら感じる。

 

 そうやってしばし精神力を回復しているとそれで、とロゼが言葉を置いた。

 

「どうだった?」

 

「どう、って言われてもなあ」

 

 むーん、と口から声を零しながらリアを持ち上げてソファへと向かい、腰を下ろす。成すがままにされているリアはそれで良い様で、特に抵抗する事もなく俺の抱き枕としての仕事を全うする。リアを後ろから抱き寄せる様にソファに座りつつ、顎を頭の上に置いてもう一度唸る。その様子を見てクレアが首を傾げた。

 

「もしや、何か良くない事でも?」

 

「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……説明に困るなあ」

 

 頭を軽く掻く。魔族との話には俺が誰であるか、どういう存在であるかというのが深く関わっているのだ。だから全てを説明しようとすると、俺が龍である事をロゼとクレアに明かさなくてはならない。無論、そんな事は出来る筈もないのでちょっとした面倒になるのだ。だからどうやって説明するかを悩んでいるとロゼが助け舟を出してきた。

 

「まあ、言いづらいなら別に気にする必要はないわよ。でもエデンは自分の生まれや立場みたいなものを把握してるのよね?」

 

「それは問題なく」

 

「で、私達から離れたりは?」

 

「しない、しない。俺の家はグランヴィル家だし、帰る場所はここ。他に行く場所もなければどっか行く予定もないよ」

 

「私がエデンの帰る場所です」

 

 むんっ、と表情を作るリアの様子に笑みを零し、頬を擦り付ける様に顔を寄せる。リアもくすぐったそうに眼を細めながらも此方に顔を押し付けてくる。呆れた表情を浮かべるロゼは俺達の仲の良さを見て溜息を吐きつつ、

 

「なら別に良いわ。今回の旅行だって私達は便乗してるだけだし。エデンにはエデンの事情があって、それを幼馴染だからと言ってなんでもかんでも知ろうとするのはまあ……ちょっとした独占欲よね」

 

「悪いな。でもあんまり口外したくない内容だったんだ。別段悪い事があった訳じゃない、というか頭を困らせる内容というだけで寧ろ良い部類の話だったんだけどなぁ。それとサービスは継続、王都滞在の間はずっと面倒を見てくれるってさ」

 

 内容は濁すしかない。魔界の事情、ベリアル=ギュスターヴの正体。とてもじゃないが言葉で語りつくせる事ではないのだ。だから話した内容を濁して結果だけを伝えればそう、とそっけない返事が返ってくる。まあ、ロゼとしてもそれぐらいの反応しか見せられないだろう。

 

「私達にはありがたい話ね。それで、今後の予定は?」

 

「特になし。基本的に相手方は拘束するつもりもなく自由にやって欲しいみたいだよ」

 

「実質的にエデンが接待されている、って訳ね―――結構必死なのね、そのベリアルって人は」

 

 ロゼの言葉にん-、と声を零しながら角を掻く。実際のところ、ベリアルは物凄い必死なのだろう。世界の移住を果たした所で見たのは生命線が断たれそうな現実であり、間違った方向へと進みそうな世界だ。Out of the pan, into the fireという言い回しがある。言ってしまえば一難去って一難という事なのだが、表現としてはフライパンから脱出した先は炎の中だった、という形だ。

 

 今、この状況におけるベリアルを的確に表していると思う。逃げてきた先でまた災難に見舞われている状況はまあ、同情しなくもない―――だけどベリアルの理屈は彼の同胞達の為の理屈であり、完全に同意できるのか? と言われたら中々難しいものがある。実際のところ、俺の力と意思でどこまでやるかという話に関しては悩んでいる部分が多い。ロゼのベリアルが必死という事に関してはまあ、そうだな……という話だ。

 

「まあ、接待されている間はそれで良いと思うよ、俺は。別段接待されて悪い事とかはないし」

 

 そこは嘘だ。ベリアルは悪だ。あの男は恨まれているし、敵が多い。だが全力で俺のガードに入っているからもう、危険はないだろうと思う。少なくとももう二度と入らない様に対策しているはずだ。あの男の必死な言葉を聞けば嫌でも本気だと解るのだから。ロゼとリアには純粋にこの王都観光をそのまま楽しんで貰いたい。俺も出来るならなるべく楽しむ方向性で進めるつもりではある。

 

 ……まあ、やるべきタスクが増えたのは事実だが。

 

「じゃあ、ゆっくり出来るんだね?」

 

「そうだね。ベリアル氏にはまた今度話を聞きに行きたいけど、それを抜けばほぼフリーかな」

 

「なら良し! まだまだ行きたい所がいっぱいあるから行けるね」

 

「エステとかサロンとか、王都のはちょっと行ってみたいわよね。まだ人気のお店とかも回れていないし」

 

「折角多めに予算組んできたんだからたっぷり買い物したいよね!」

 

 流石生まれも育ちも女の子の2人、ショッピングというだけで非常に楽しそうになれるのは男では中々解りづらい感覚だ。俺も洋服を増やしたりするのはそこそこ好きだが、それでも本物の女の子達と比べれば物欲というものは薄い。リアやロゼほど俺はショッピングに情熱を燃やす事は流石に出来ない……いや、別に可愛い服とか綺麗な服とかが嫌いなわけじゃないんだけど。

 

 感覚的に、人形を飾ってるような感じなんだよな。

 

「ま、とりあえず一番面倒な用事は終わったし、もう心配しなくてもいいよ。これで漸く天想図書館を見に行けるわ」

 

 部屋の窓から外を見れば王都の中央にそびえる天想図書館の姿が見える。雲を突き抜けて伸び続けると言われる塔の頂に到達した者はおらず、そしてその頂点を見た事のある者もいないと言う。だがそこには求められる限りの全ての書物が存在すると言われている。龍の事を調べるのであれば、間違いなくここしかないだろう……何せ、身近で知っている神達は誰も俺に龍の事を教えてくれないのだ。

 

 自分で調べるしかねぇ! となるのも当然の話だ。

 

「あー、そう言えばそんなものもあったわねぇ。正直物騒だし余り興味ないのよね」

 

「はい! 私ありますっ! あるよっ! 登ってみたい!」

 

「天想図書館はグローリア様はおやめになった方が宜しいですよ。あそこは毎年何人もの未帰還者を出しているダンジョンですので」

 

 ぶーたれるリアを前に俺は苦笑する他ない。安全が確保できるなら連れて行きたいところだが、一度も挑戦したことのないダンジョンに連れて行くだけの無謀さは流石に無い。ダンジョンという場所は掛け値無しに危険なのだ。ただでさえ俺を襲撃した奴がまだ発覚しておらず、この王都で野放しになっている状態なのだ。出来る事ならリアをそういう危険な目に遭わせたくはない。

 

「えーと……確か図書館は本を求めるとその本の希少性等に合わせて階層や形を変えて挑戦者に試練を与えるんだっけか?」

 

 俺の言葉にクレアが頷く。

 

「はい、そうです。図書館は求める本を与える場所ではありますが、それを手にするには図書館の与える試練を乗り越える必要があります。希少であればある程図書館の階層は増え、そして課せられる試練も苛烈なものになるそうです。それこそ希少な古書であれば優に100層を超えるのが普通だとか」

 

「その希少性ってのが今一解りづらい単位なんだよな」

 

 珍しいから難易度が上がる、って完全に図書館側の基準なんだよなぁ。一体どういう……というよりは誰の判断によって本の希少度が決定されているのかは気になる所だ。そもそも誰によって図書館が運営されているのか、という事自体まだ解明されていない。ああ、判明したらしたでまた一つの波乱が起こりそうな気もするから別段解明したいって訳でもないんだが。

 

「図書館に関しては俺がまた後日調べてくるよ。それはそれとして、今日はこの後どうする? 予定は何もないけど」

 

「流石に貴女が疲れているだろうし、どっかに出かけるってのはね? 貴女抜きで出かけて気分が悪くなるの私達だし」

 

 ロゼの労る様な言葉に苦笑を零す。別段、そこまで気にする必要はないんだが、そうやって労ってくれるのなら素直に恩恵にあずかろう。力を抜いてソファによりかかればぐりぐりとリアが頭を押し付けてくるのを片手で撫でる。満足げな息を零すリアに小さく笑い声を零しつつロゼを見て、視線を合わせて微笑んだ。

 

 まあ、考えてみればそうだ―――この旅における最大の難所は超えたと言ってもいいんだ。元々この王都滞在は中央でベリアルと会う為のものであり、この後選択に対する答えを出さないといけないという事さえ抜きにすればほぼやるべき事は終わっているのだ。それが一番憂鬱であるとも言えるかもしれないが、それを乗り越えてしまえば残すはただのサマーバケーションだ。

 

 振り返ればスケジュールや事情に追われてばかりの時間だった。だがそれももう終わりだ。これから漸く羽を伸ばして王都を楽しむ事も出来る。確かにショッピングも良いが、王都には大きめのシアターもあって演劇を楽しむ事も出来る。ここは一つ、文化の最先端らしい出し物を楽しむ事も大いにありなのかもしれない。

 

「じゃ、今日はのんびりして……明日は劇場にでもいかない?」

 

「劇場……何か演目やってたっけ?」

 

「“白騎士と黒騎士”って演目が今は人気があるって聞いたわよ。王子とその騎士が大国に攻め込まれて逃げ延びるしかなかったけれど、隣国に逃げて再起を図り、散り散りになった家臣団を集め直して国を取り戻すって話」

 

「結構壮大だな」

 

「確か3部構成だった筈よ」

 

「へぇ」

 

 文化が違うからポップコーン片手に、とは行かないだろうが映画を見るのと同じような感覚では楽しめそうだ。演劇とは言うものの、この世界の演劇と言えば魔法等を演出に使っているから地球の演劇よりも派手で、演出もCGではないリアリティのあるもんだったりする。

 

 ……噂では流血描写も魔法で治療できるからマジで斬ってるところもあるとか。演劇だけじゃないけど、自分の仕事に熱意を詰め込む人間のやる事は偶に頭がおかしく見える。

 

 そんな風にこの一日は終わりを告げて行く。

 

 ベリアル=ギュスターヴとの対面に人理教会の聖騎士との出会い、1日で経験するには中々ヘヴィな内容だったが、喉元を過ぎ去ればその熱も感じられなくなる。後はゆっくりと自分の心を落ち着けながら何をすべきか、どうしたいのかを考える時間だ。

 

 少なくともこの夏いっぱいは時間はある。ベリアルは答えを急ぐつもりもなければ、強制するような様子もなかった。魔族の未来に関わる話はこの星の未来に関わる話でもある。俺が将来どうやって生きて行くのかを考えた上でこの判断はしよう。

 

 ゆっくりとした時間をホテルで過ごしながらそんな事を考えて、翌日の事に胸を躍らせながら眠りにつき、

 

 ―――そして翌日。

 

 気持ちの良い朝、劇場へと向かおうと意気込む中で、プランシーが部屋までやって来た。その様子からもう既に嫌な予感しか感じられなかったが、その予感は見事プランシーの言葉によって証明されてしまった。

 

「申し訳ありません、出来れば今しばらく外出は待ってください……その」

 

 実に困ったような表情でプランシーは言葉を続ける。

 

「エデン様が、龍信者であるという話がどこからか出てきているようで、人理教会の者が今ホテルのロビーにまで来ています」

 

「それは新手のギャグかな」

 

 信者じゃなくてご神体なんですが。




 感想評価、ありがとうございます。

 ポケットマスター・レジェンド アーゼウスを遊んでました。トレーナーにダイレクトアタックするとポケモンがうぃぃーんがしゃん、がしょーんと変形してアーゼウスになるオープンワールドゲームは面白ですね。

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