TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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エデン頑張る

 改めて確認を行うが、

 

 この世界にステータスとか、レベルとか、そういう便利なシステムはない。

 

 これがゲームをベースにした異世界とかだったら、レベルとか経験値とか滅茶苦茶解りやすい強さの基準というものがあったのだろう。だけど此処はそういう解りやすい異世界ファンタジーではない。古き良きと言えるタイプのファンタジー世界だ。レベルはないし、能力は数値化されないし、スキルや習得魔法のリストなんて用意されていない。あるのはこれまでに先人が積み重ねてきた知識と知恵、そしてそれを確かめる感触だけだ。

 

 つまり何を言いたいかとなると、成長は目には見えないという話だ。

 

 行儀作法、言語、文法。ここら辺は凄い楽だった。英語を勉強するように日本語とそれぞれの言葉を結び付けて覚えて行けば簡単に覚える事が出来る。少なくともマナーなんてものは一度見れば大体はメモって反復して直ぐに覚えられるもんだから、苦労はしない。数週間は苦労していたスピーキングも練習を続ければ段々と慣れてくる。

 

 簡単に言ってしまえばここら辺の分野は経験があるからだ。

 

 日本語の勉強、英語の勉強。ここら辺は誰だって学生としての時間を過ごしたことがあるのであれば、問題なく経験する事の一つだろう。つまり学校という経験を経てどうやって学習すれば良いのか、という経験が既に自分にあるという事だ。だから後はその応用だ。言語学習周りは非常に重要な事だからまずは一か月かけて簡単な会話がスムーズに出来るようにし、徹底して読みと書きを叩き込んだ。

 

 こうやって本が読めるようになると、教科書を読めるようになる。そして教科書が読めるようになると、魔力修練が本格化する。

 

 つまり街へのおでかけから1か月経過して少し、漸く魔力という未知の領域に突っ込むトレーニングが出来るようになったのだ。この頃には俺も言葉に詰まる事はなく、普通に喋る事が出来るようになった為、違和感のないコミュニケーションをエドワードと取る事が出来るようになったからだ。

 

 魔力の修練とは恐ろしく地味だが、エドワードとの応答は必要なものだ。だから本格的な修練は言語が流暢になるまで待たれていたが、その縛りもなくなった。さあ、実行しよう!

 

 とはなったが、まあ、そう上手くは行かない。

 

 これが存外、というか滅茶苦茶難しい。魔力を感じる所から始めた魔力修練はまずは自分の魔力を引き出し、コントロールする所から始まる。これが最も基本的な事であり、一番楽な事。だがこれが出来ないともう魔法や魔力に頼る行動は何も出来ないのだ。だからこれが一番最初にやる事。

 

 この次に覚える事は魔力の放出。つまり自分の中から引き出した魔力を任意の物や方向に向かって体から放出するという行いだ。

 

 当然のようにこれが難航した。

 

 同じ時期に魔力修練を始めたグローリアはこれがあっさりとクリア出来た。なんならエドワードから魔力を引き出された後には手から魔力を放って簡単に放出までクリアしている。これをグローリアは息をする様にあっさりとクリアしていたが、俺にはこれがどうしても無理だった。

 

 ―――そもそも魔力を放つってなんだよ!!!

 

 ひたすらこれに尽きた。

 

 魔力は俺達地球人からすれば架空の元素だ。存在しない未知の粒子だ。未知のエネルギーだ。それを体から引き出す感覚はエドワードが教えてくれたからまあ、良いぞ? 体の奥底からぐわーってやる感覚なのだから。じゃあそれを放出するってなんだよ。白と黒のオーラを纏った状態がてっきり放出状態だと思ったが、アレは単純に引き出された魔力が視覚化されているだけらしいのだ。じゃあこれで放出じゃないってなら放出ってなんなんだよ!!

 

 これにはエドワードも頭を悩ませた。

 

 何故ならこれは基礎中の基礎で根本的に困る様な所じゃないからだ。

 

 異世界人―――この世界の住人からすればそもそも引き出し、放出し、込める。これは全ての魔法と魔力運用における三大基本コマンドであり、これが出来れば大抵のマジックアイテムと紙式魔法を使用する事が出来るのだ。生まれた時点で魔力を持って生まれ、使う事を前提にして育つ。そういう事からこの世界の住人は本能的に魔力の使い方というものが魂に刻まれているのだ。だけど俺は違う。俺は本質的には日本人だ。まだまだ、日本で生まれ育った時間の方が十数倍も長いだろう。だから感覚的に、そして思考的に日本人であるままだ。つまり考え方の根本がファンタジーのない世界ベースであるという事だ。

 

 魔力を感じる、まだ解る。

 

 魔力に神経通す、解らない。

 

 魔力に神経を通すって何?? 魔力って神経通るの? マジで? 比喩表現? そう……。

 

 ファンタジー要素マジで訳わからねぇ……。アニメやラノベで一瞬で魔法を使いこなす主人公とか、アレ絶対に嘘だろう。俺は絶対にそんな才能とか信じないぞ。突然尻尾や翼が生えても使い方なんて解る訳ないだろ。そういう物凄い単純な理由で、俺は魔法修練の進捗をグローリアにぶち抜かれていた。心の中では自分をグローリアの姉ポジションに置いていただけに、数日でグローリアに進捗を抜かれた際は物凄いショックを受けて軽く倒れてしまった。

 

 だからというか、その分武芸に集中してしまった。此方の方は物凄い楽だった。というか武芸修練というものは9割反復だからだ。武器を握って決められた通りの動きを疲れてへとへとになるまで無限に繰り返す。これをひたすら毎日繰り返し続ける。

 

 逆にグローリアはこっちの方が、武芸全般が苦手だった。魔法の方面は色濃くエドワードの血を継いだが、筋力や体格面ではあまり恵まれなかったのが影響しているのかもしれない。その代わりにガンガンエドワードから魔法方面に才能を伸ばす様に育てられていた。その分開くエリシアとグローリアの時間は俺の武芸の時間へとあてられ、武器を振るう時間が伸びる。

 

 魔法は不思議と未知の塊であるのは確かなのだが、一切進捗がないとなると、やっぱりキツいもんがある。そういう意味でも武芸の時間が増えるのは楽しかった。実際の所、このドラゴンボディで武器を振るうというのは体が即座に反応するのと想像する動きに体がついてくる楽しいのは事実だ。だからというか没頭した。武器を振るう事に。それこそ魔法を忘れるぐらいに。

 

 だというのにもう武芸だけでいいんじゃねと思いつつある時に、ついにそれは成功してしまった。深く考えずに武器を振るっている中で、

 

 武器に魔力を込める事に成功した。それは放出という段階の次に来るはずの事であり、まだまだ俺の未熟な腕で絶対に成功させられるはずのない事だった。

 

 なのになんか気合入れたら出来た。

 

 なんで?

 

 

 

 

「じゃあ、エデン。見せて貰っても良いかな?」

 

「はーい」

 

 握っているバスタードソードに魔力を込める。感覚は完璧に掴んだ。ここまで来るのに数か月かかったが、それでも完璧に出来るようになった。自分の中にある魔力を自覚するのが第一段階になる。それが出来たら今度は、自分の中にある魔力を誘導するラインを作る。底から引っ張り上げるイメージを構築する。魔力を引き出す感覚をそのまま流すんだ。それを手から武器へと集中すれば、

 

 物凄いあっさりと武器への魔力の付与が完了する。白と黒の魔力を纏ったバスタードソードが出来上がる。だが魔力を込めた武器は、その姿が一気に変貌して行く。その変貌は二種類だ。

 

 まず最初の変化は黒い魔力に晒された箇所だ。黒い結晶が覆い始め、黒い結晶に蝕まれながら金属が砕けて行く。

 

 次に見せる変化は白い魔力に晒されている場所だ。こっちは触れるとまるで剥離するように金属が削れ、徐々に消滅して行く。

 

 どちらも見たことのある現象だ。黒と白、それぞれが違う力を持っていて、混ざり合いながらその効果を同時に発揮している。それをエリシアとエドワードが観察しながらメモを取っている。今、目の間でバスタードソードが丸々1つ駄目になってしまったが、それは2人にとってはあまり重要な事ではなかったらしい。それよりも魔力によって引き起こされた現象の方が興味深く、重要な様子だった。何せ、食い入るように駄目になったバスタードソードを見ているのだから。

 

 先天魔法、個人個人で保有する専用の魔法。誰もが持っている物ではなく、貴種であればある程強力だったり珍しい術式が刻まれている。武芸と魔法の教育を担当するグランヴィル夫妻からすれば即戦力間違いなしの先天術式を解析するのは俺という人物を育てる上ではかなり重要な事だった。

 

 だが2人のテンションは割と当人である俺を置いて行くレベルで異様に高かった。

 

「見てくれこの結晶を。見たことのない物質だ……宝石なのか、鉱物なのかさえ判別はつかない。だけどバスタードソードの表面を見ればこの黒い結晶がバスタードソードの金属を喰らいながら成長しているのが解る。この黒い結晶は物質を侵食、或いは同化する性質を兼ね備えているみたいだ……そしてこっちの白い方」

 

 逆側を示す。それは先ほどまで白い魔力が纏われていた箇所だ。

 

「こっちの現象はシンプルだね。浄化属性だ」

 

「浄化属性?」

 

 オウムの様に聞き返すとそうね、とエリシアが補足する。

 

「物質、属性における要素を漂白、希釈する事によって極限まで特性や存在をゼロに近づける事の出来る属性よ」

 

 よくわからん。

 

「……?」

 

「つまり極限まで触れたものを薄める属性だよ」

 

「おー」

 

 何かそう言われると凄そうだなあ、と思うが、大人二人はわくわくした表情とどうしたもんか、という表情が入り混じっているのが解る。何やら扱いあぐねているというのが本音だろうか? 俺も実際の所魔力付与による武器強化は基本技能だと言われ、それを目指してきたのだがその結果がこれだ。武器に魔力を込めると二種類の魔力によって武器そのものが崩壊するという現象に見舞われている。まだ黒い結晶の方は良いが、白い方は武器を破壊してしまう。これじゃあ武器を握る事が出来ない。

 

 とはいえ、この体、マジで強いのだ。

 

 間違って包丁を指に落とした時、傷どころか痛みすらなかったレベルでこの体は頑丈だ。エリシア曰く、相当技量のある戦士が斬る事を意識しないと斬撃でのダメージは通らないという説明だった。根本的な生物としてのスペックが違うというのがこれで良く解るだろう。だから別に武器なんかいらないと言えばいらないのだ。並の武器よりも硬い拳という男のファイナルウェポンがここにはあるのだから。

 

「これは魔法を教えずこの魔力の使い方一本に絞った方が良いね」

 

「完全な形で使いこなせるようになれば他には真似できない強さになるわね」

 

 この夫婦、会話が戦闘力ベースになってない? なんというか、明らかに強くなれるだけなるという感じの思考が根幹にあるというか。強さが必須みたいな考えがある気がする。

 

「怖いなぁ」

 

「怖いねー」

 

 グローリアと横に並んで首を傾げながらねー、と声を揃える。そんなこんなで俺の魔力―――というよりは先天術式に漸く名称が付けられた。

 

 白と黒で能力がまるで反転しながらも存在する事から“二律背反”というシンプルなネーミングが付与された。エドワードもエリシアもこの魔力には物凄い期待を寄せているようで、将来的に使いこなせるようになれば間違いなく世界クラスの達人になれるとか言い出している。正直、そこまで強くなってどうするんだ? って気持ちはなくもない。そもそも魔力修練自体が苦手であまり成果も出ない部分がある。

 

 魔法……魔法ってなんだ……? と首を傾げる事も割とある。武芸というか戦闘訓練が滅茶苦茶楽しくて体を動かすのが楽だから逆に魔法必要ないんじゃね? と思いたくもなる。とはいえ、教えてくれる以上はその期待に応えるのもまた役目。

 

 そういう訳で、魔力修練は魔力の付与が行えるようになってからは更に本格化し始める。エドワード曰く、

 

「君の魔力はかなり特異なものだ。それこそそれが魔法ってレベルのね。魔力そのものが物質化するケースは多々あるけど、それを行うには専用の道具や施設、装置が必要になってくる。自然環境で取れるエーテル結晶はそれこそ魔力の結晶ともまるで違うものだしね。そういう意味では君の魔力はかなりおかしなものなんだ。そしてそれが物質化する以上、それは性質の一つだと捉えても良いだろう」

 

 つまり、物質化は仕様であり、本領ではない。

 

「だからそれをコントロールしよう。目指すのは結晶化、具現化の自由コントロール。形状まで含めて自由に形成する事が出来るようになれば、君はもう自前で武器を用意できるから別の武器を持つ必要が無くなるんだ」

 

 二律背反・黒のコントロール。それを行えば好きな形状、好きな種類の武器を生み出す事が出来る。そうすればこれまでみたいに武器に魔力を込めようとして武器を破壊する事もない。経済的にも、利便性的にも非常に解りやすい目標だった。それに黒曜石の様な、アメジストの様な、或いはオブシディアンにも見える様な結晶鉱石で生み出した武器は映える。滅茶苦茶()()って奴だ。それこそ某SNSに投稿できれば万単位で評価される奴。

 

「君の黒は触れる事で相手を浸食する武装になる。武器を形成して戦う事が出来れば、君とマッチングするだけで相手の武器を無力化、破壊する事が出来る。相手が野生生物やモンスターの類なら体の堅牢さで受けようとする存在を浸食して食い荒らす事だってできる。それだけじゃないよ? 形状を変えて罠として活用すれば君が一切触れる事なく相手を自滅に追い込む事だってできる、可能性の塊だよ」

 

「それに白の方だって凄いのよ? これを武器に纏えば相手の防御や付与効果を無効化して直接攻撃を叩き込む事が出来るのよ? どんな加護があろうとも、無敵の肉体でも浄化によって力を漂白させれば一切の関係もなく攻撃を通す事が出来るのよ」

 

「その後に黒の追加効果付きでね」

 

「防御無視からの浸食破壊……えぐっ」

 

 攻撃という面でみれば完成された組み合わせだろう。絶対に防御を許さないセットでも良い。これを同時にブレスとして吐き出せるんだからそりゃあ龍って強いわって思う。俺だけが特殊なのかもしれないが、少なくとも似たような能力を持ったやつが親世代にはいたんだろう、って話にもなる。そういう連中で溢れてたんなら地上の覇権だって易々と握れただろうに。

 

 なんで消えたんだろうか?

 

 ソフィーヤは自ら、とだけ告げて消えてしまったし。

 

「それに浄化による武器の損耗、黒を見ている限り無力化している様に見えるわ」

 

「恐らく元が同じ魔力だから食い合わずに同居が成立しているんだろうね。ただそれ抜きでも使い方次第では凄い強さを発揮できるよ。悔しいけどエデンの魔法習得は諦めて、この魔力のコントロールと習熟だけに集中した方が良いね」

 

「その分私の方で鍛え上げるわ。礼儀作法の方は全く手間がかからないってアンが嘆いていたし、その内もっと時間が増やせそうね、楽しみだわ」

 

 ナチュラルに修行する時間を増やせないか考慮する夫婦にちょっとだけ呆れの溜息を吐きながら頭を振る。

 

「旦那様も、奥様も発想が物騒すぎやしませんか」

 

「だって必要だろう? 保険としても、立場としても、最終手段としても」

 

 そう言ってエドワードはウィンクしてくる。俺が龍だから、自衛の為にも力が必要だと言っているのだろうか? 直接的な言及を避けてくれているのはエドワードなりの配慮と優しさなのだろう。だが実際の所、エドワード自身はほぼ俺が龍だと確信しているだろう。

 

 もう、ここまで聞いたらこの人たちの期待に応える為にも自分が龍の出身だってバラした方がストレスが無いのかもしれない。実際の所、この人達優しいけどちょっと割とかなり頭おかしい所あるから龍だと言った所で全く動じなさそうなんだよな。というか動じるイメージがない。

 

 この数か月ですっかりとこの家に馴染んでしまった……と思いつつ嬉しく思うのは、やっぱり幸せだから、だろうか?

 

 何にせよ、俺が力を必要とするのは事実だ。なら言われた通りに鍛錬と勉強を頑張る事にしよう。今すぐ自分の正体をバラすのはちょっと怖いし……数日ぐらい、覚悟する為に時間を取って、それからお話をしよう。

 

 悪い事にはならないだろうなあ、と思っている。

 

 少なくとも、そう信じられるものがこの家にはある。




 グランヴィル夫妻、ともに育成ゲーに意欲的。才能と未知の塊を見つけると育成が楽しくなってくる。そう、新しいキャラをガチャで引いてしまった時の様に……!

 セイウンスカイ来ないなあ……。

※6/18加筆

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