TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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人理教会 Ⅸ

「リア! ロゼ! ちょっと話が纏まったから色々と説明したいんだけどいいかな?」

 

「あら、もういいの? 案外早かったわね」

 

「お帰りー」

 

 リビングに戻ってくるとリアとロゼがティーカップを手にティータイムを楽しんでいた。テーブルを挟む様にソファに座っている姿はどことなく俺を待っている様にも感じられた。ちょっとだけ感じる申し訳なさに頭を掻きながらテーブルの横に立つように移動し腕を組む。心の中で良し、と呟く。今から盛大なネタバレを行う訳だが、今まで積み上げて来たものとかが色々とある。それが一瞬で崩れる可能性もあるから割と心細い……だが何時かはやらなきゃいけない事なのだ。永遠に、それこそリアとロゼが寿命を迎えるまで待つわけにはいかない。

 

 大人しく、幸せな寿命を彼女達が迎えられるとは限らないし。

 

「それで、なんか光ってたり色々としてた感じあるけど……で?」

 

 ロゼが話しやすいように配慮してか、此方の言葉を引き出そうとしてくる。それに心の中で感謝しつつそうだな、と言葉を置いた。

 

「まあ、凄い根本的な話をすると俺にはオラクル能力があって神々と単体で交信できるんだ」

 

「初手のジャブとして中々強いのが来たわね。気分は開幕でパイルドライバーを喰らった気分よ」

 

「ちなみに私は知ってる」

 

 リアにはほぼ何も隠さず全部語っている―――というかグランヴィル家には何も隠さずにいるので、俺が出来る事や俺の背景回りの事は大体全部知っている。知らない事と言えば龍殺しの話辺りぐらいだろう。あの人の事は話題に出すのはなるべく止めているし。というか勘づかれない為になるべく思考の外に追いやっている。

 

「ま、まあ、良いわ。エデンがちょくちょく放ってた気配とかの理解が出来たし。貴女、オラクルしてるならもうちょっと周りの目を気にした方が良いわよ? 本当に親切心だけどそういう能力って冗談抜きで希少だから。単独で神の声を聞けるなんて片手で数えるほどいるかどうかってレベルの筈よ」

 

 ロゼはそう言うと考え込む様に口元に指先を当てる。

 

「でもエデンがそんな技能を持っているとはねぇ。教会からすれば喉から手が出るほど欲しい人材でしょうね。公表すればそれだけで各教会で取り合いになってもおかしくないわ。神の声を安定して聞けるなんて信徒からすれば正しい神の思想を知るための唯一無二の手がかりだし、私達も今神々に教えられた正しい人生を送れているかなんて他に知りようが無いし」

 

「人材じゃないよ」

 

「うん?」

 

「龍材だよ」

 

「……うん?」

 

 ロゼの前で擬態を解く。人の姿をしていた身体が光に包まれ変形する。肌を鱗が覆い、角が伸びる。両手脚はもっと強靭で小さく―――部屋のサイズを考慮して体を小さい姿へと構築し直す。背中からは翼が生え、臀部からは尻尾が生える。服はそのまま取り込む様に変身し、光が収まる頃には俺の姿は慣れた人の姿から白い鱗に黒い線を刻んだ龍の姿へと変貌した。口を開いてあっあっあっ、と人語用の声帯が使える事を確認し、告げた。

 

「俺、実はドラゴンなんだわ」

 

「……うん??」

 

「―――」

 

 急なカミングアウトにロゼは首を傾げ、仕事に集中する事で全部受け流していたクレアの方も動きを完全に停止させていた。俺の本来の姿を見て完全に思考停止に陥っている間に、そしてと情報を叩き込む。

 

「実は俺のママ、ソフィーヤ神なんだ」

 

 ばたんっ、とさっきまで入っていた俺の部屋が開き、ソフィーヤ神が出てくる。

 

『貴方達からすれば始めまして、と言うべきでしょう。人類の母です』

 

「?????」

 

 スペースキャット状態に突入するロゼとクレアを前にソフィーヤ神は俺の所までくると両手で俺を抱き上げる。

 

「ちなみに今の人理教会はソ様の言う事を完全に無視して暴走しているから教義は大体間違っているぞ!」

 

『私は一度も龍を殺せとは命じていませんし、このまま龍狩りが続くと世界は緩やかに滅びます』

 

「だから俺は人理教会を乗っ取り、正しい信仰を取り戻すついでにこの世界を征服する事にした!!」

 

 

「??????????」

 

 口を開けて虚空を見つめながらスペースキャット状態のロゼとクレアの顔は完全なあほ面を晒している。脳に叩き込まれる真実と情報の数々に全く処理が追い付いていないが、叩き込まれてくる目の前の神聖な存在は真実としか理解する事が出来ず、2人は言葉を失って背景に宇宙を浮かべる事以外は出来なかった。ただリアは特に気にする事もなく俺を指さし。

 

「姉!」

 

「俺は姉」

 

 それからソフィーヤ神を指さす。

 

「ママ!」

 

『母です』

 

「良し!」

 

 満足げに頷いて納得するリアの姿に、ロゼが再起動を果たした。

 

「良しじゃないでしょうがぁぁ―――!!!!」

 

 この女、ツッコミをする為だけに再起動を果たしたの地味に凄いと思う。

 

 

 

 

 これは実はすごい悩んだ事だ。ロゼとリアに俺の真意を、状況を説明するか否かを。だけど結局のところ、俺はそれを2人に伝える事に決めた。何よりも2人は俺の大事な幼馴染で、家族だ。そして俺が動き出せば真っ先に巻き込まれるのも2人になるだろうと理解しているからだ。だから真っ先に何かを説明するなら、この2人に伝えなくてはならないと思った。巻き込んでしまう事に関しては本当に心苦しいが、それでも説明する他なかった。だから俺はゆっくりと、しかし抜けが無い様に説明する事にした。

 

 俺が龍である事、その意味、魔族がそれを知っている事、人理教会に疑いをかけられている事、そしてアルシエルの行いと歴史の真実を。途中、再び完全なスペースキャット顔に突入してしまったロゼとクレアが再起動するまでまた時間を要したが、それも仕方のない内容だろう。そもそも現行人類の常識を真っ向から否定する内容なのだ。これで頭をおかしくしない方が難しいだろう。

 

 ロゼの精神安定のために一度発狂タイムを入れて、ベランダで好きなだけ暴れてからロゼが戻って来てソファに座った。俺は龍態のままソフィーヤ神の膝の上に乗っかって撫でられている形になり、リアもロゼの横に座っている―――流石に主神格の前ではリアも何時も通りのノリのままではいられないらしい。そこら辺、ソフィーヤ神は心の底から気にしないのだろうが。

 

「なる、ほど。本当に噛み砕けているかどうかはまた別の話ですけど最低限の理解はしました」

 

「俺には敬語必要ないぜ」

 

『私もエデンと同じ扱いで結構です。何と言っても母ですから』

 

「エデンはともかくソフィーヤ神様は無理を言わないでください……!」

 

 無理と言われたソフィーヤ神が落ち込むのをガン無視しつつ、俺は話を再開する事にした。

 

「まあ、そんな訳で最近の状況を色々と考えて自分から何かするべきだと考えたんだよね。少なくとも魔族に正体がバレて、それで教会に異端容疑をかけられた以上もう隠したまま生活し続けるのは無理だと思ってんだよな。だからこっちから世界を変えてやろうって思って」

 

「そこでなんで世界を変えてやろうって考えになるのよ……!」

 

 はあ、と溜息を吐きながらロゼは額に手をやる。未だに全ての情報を呑み込めた訳ではなさそうだが、それでもある程度納得できるラインにまでは落ち着いたらしい。俺はそれを見て首を傾げた。

 

「疑わないん?」

 

「今更の話でしょ。一体何年幼馴染やってると思ってるのよ」

 

『……』

 

 ロゼの返答にソフィーヤ神は笑みを隠し切れずに物凄いにこにこしてる。まあ、俺も実際に凄いにやにやしてるのでソフィーヤ神の事は責められない。母娘揃ってのにやにや攻撃にロゼが一瞬たじろぐが。

 

「……ま、まあ、解ったわ。解りたくはないけど凡その流れは理解したわ。ソフィーヤ様もエデンを支持する……という事なのでしょうか?」

 

『私は長い事、後悔して生きてきました。人の子の世を眺め、そして少しずつそれが淀んで行く姿を。あの時、確かに出来た筈の事を恐れ、ずっと逃げ続けてきました。ですがこの子に言われ、私も己の過ちを正すべきだと考えました』

 

 とはいえ、とソフィーヤ神は付け加える。

 

『私が地上で力を明確に行使することは出来ません。私がその様な事をすれば……他の神々も同じように自重しなくなるでしょう』

 

「自重しなくなる……」

 

 脳裏に浮かび上がる笑い声をあげる神々の幻影。スパチャが欲しいか? くれてやろう! 我自らな! とかいうノリで絶対に現れるであろう一部の神々。永劫ブラック企業冥府の川に就職しているオフを永遠に貰えず他の神々を恨めしい目で見るであろう神の姿。確かにソフィーヤ神という一番地上に干渉しない神が地上に積極的な干渉を見せるようになれば、他の神々も黙ってはいないだろう。今の時代自重されている祝福とかいう名のスパチャが注がれて神代クラスの英雄とか英傑とかがぞろぞろと出てくる可能性がある。

 

 やだなぁ……。

 

『私が出来る限度は声を届ける程度でしょう』

 

「それだけでも十分だよ。ソ様の声さえ届ける事が出来ればそれで人理教会の動きは止められるし……まあ、そのほかの魔族と人類の問題は俺が解決手段を見出さないといけないんだけどね」

 

 これがまた難しい。魔族と人間の間にある意識の差、そして思想の違い。既に起こされてしまった事への償いと賠償。その全てを解決しない限りはこの世は良くならないのだから。そしてこの世と付き合って行く以上、俺はその問題に対して正面から向き合っていかなければならない。きっと、1年や2年どころではなく、10年や20年ですら解決するか解らない問題なのだ。

 

「だけど目をそらして先延ばしにする事は出来ない事だろう」

 

 結局のところ、俺の意思はそういう所で固まっていた。誰かがやらなくてはならない。だったら俺がやろう、そういう話だ。

 

「……」

 

 ロゼは俺と神の話を受けて互いに視線を合わせるとはあ、と溜息を吐いた。

 

「リアはこの話、どこまで知ってた?」

 

「私はエデンの正体回りだけかなー」

 

「つまりリアにも隠してた、って事ね」

 

 リアとロゼから向けられる視線にササッと顔を背けて虚空を見ながら口笛を吹く事で誤魔化そうとするが、視線が突き刺さってくる。それを咎めはしないが、ソフィーヤ神は頭を撫でて此方に対応を促してくる。そこにちょっとした居心地の良さと悪さを同時に感じて、ソフィーヤ神の膝から降りて横に座り人の姿へと戻る。

 

 膝を抱えるようにソファの上に座り、指先をつんつんと突き合わせる。

 

「いや、だって事情とか知ったら巻き込んじゃいそうだし」

 

「もう遅いわよ」

 

「ほんとごめん」

 

「もっと早く言ってくれればよかったのに」

 

「俺も覚悟が出来たり全部把握できたのは最近だし……」

 

 いや、まあ、うん。

 

「ごめん、迷惑をかける」

 

 やるって決めた。決めた以上はもう、俺の周囲も無関係ではいられないだろう。それが踏み出すという事の恐怖でもある。だから謝る、ごめんと。巻き込む事は確定してしまった。もはや逃れる事は出来ないだろう。この巡る因果と因縁、古代から続くそれはもはや俺を逃してはくれないだろう。だから向き合う必要がある。だからこれから巻き込んでしまう事を謝ると、リアとロゼは視線を合わせて小さく笑った。

 

「世界征服ね……始めるならまずは国内を抑える必要があるわね。ソフィーヤ様という正当性を乗せているエデンだったら多分教会を制圧するのはそう難しくはないわ。奉じる神々は別でも世界を支える神格であるソフィーヤ様の前では他の信徒も平伏するしかないでしょうし」

 

「国内を抑えるならまずはバックを用意する必要があるんじゃないかなぁ。学園長とかたぶんエデンのバックに立候補してくれる気がするんだよね。後はアルド王子の派閥が味方欲しがってたし、それを利用するのもいいかも。お父様に話してみれば昔の同僚に声をかけて貰えるかも」

 

「なら私もお父様を説得して辺境をこっちの派閥に組み込んでみようかしら……元々辺境の地は後々私が統治するんだし、今から私が動いておけば将来の予行演習にもなるだろうし丁度いいわね」

 

「え、あ、いや―――」

 

 ちょっと待って、と言おうとしてリアとロゼの表情に微笑が浮かんでいるのが見える。その表情に思わず言葉を失いそうになるが。

 

「待って待って待って、2人とも別に何かして欲しいって訳じゃなくてさ」

 

「何を言ってるのよ。巻き込まれるのが解ってるならこっちから乗るわよ」

 

「そうそう、遠慮する必要なんてないよ。私達、家族なんだから」

 

「水臭いのよ、ただ待って守られていろ、なんて。これまでずっと頑張って来たんじゃない……そんな辛い事ばかりを私の親友に押し付け続ける世界なんてこっちから願い下げだわ。いいじゃない世界征服、夢もやりがいもあって」

 

 やる気満々と言う様子のリアとロゼの様子に俺は黙って頭を掻くしかなかった。恥ずかしさと嬉しさと、そして申し訳なさに頭が上がらない。それを少し離れていた位置で眺めていたクレアが言葉を挟み込んでくる。

 

「宜しいのですか、お嬢様。問題はそう簡単なものではありませんよ」

 

「馬鹿ね、だからこそ。実利面から見てもエデンの話に乗る意味はあるわ。もし、今の混沌としている国内の現状をエデンが取りまとめるなら、エデンはこの国内で唯一無二、神をバックに持ったトップになるわ。その正当性はどの勢力であろうと絶対に覆せない強みよ。治安が乱れ、本当は何が正しいのか見えなくなってきた今だからこそ最も輝くカードになるわ……その、物凄い不敬な言い方になってしまいますが……」

 

 恐る恐ると言う様子でソフィーヤ神へと視線が向けられるが、ソフィーヤ神は微笑みながら頭を横に振る。

 

『構いません……いえ、言い方が違いますね。いい加減どうにかするべき事なのでしょう。私の名を貸す程度でどうとでもなるなら、そうするべきでしょう。少なくともエデンだけなら……私は自分の名がどう使われようとも気にする事はありません』

 

 成程、とロゼが頷く―――恐らく、ここで一番政治的な判断力と能力に優れているのはロゼだ。俺なんかよりも立派に政治関連の教育を受け、将来的にそれを戦う立場に立つための準備をしているのだ。俺よりもちゃんと判断する事が出来るだろうから、ソフィーヤ神の名を正当性を持って使う事が出来るというカードの意味を理解しているのだろう。その表情はどことなく楽しそうに見える。

 

 そんな楽しそうなロゼの表情を見てリアが頷く。

 

「うん、始めよう。世界征服」

 

「俺の世界征服」

 

「私達の、でしょう。1人じゃないんだから」

 

 幼馴染3人、顔を見合わせて微笑み、小さく笑い声を零す。計画しているのは子供がする悪戯とは比べ物にならない程恐ろしい事だ。それでも悪戯を計画する時の様な楽しさが不思議と湧き上がってくる。この世界を変えてやろうという気持ちが満ちる。そしてきっと、俺達3人ならやってやれない事もないという思いがある。

 

 ある意味で、

 

 ここが、きっと、俺の人生における物語の―――本当のスタート地点なのだろう。




 感想評価、ありがとうございます。

 幼馴染+1ゴッドで始める世界征服。

 ここがこの物語における本当のスタート地点とも言えるもんです。と言う訳で次回から王都で出来る事を、王都にいる間に。

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