TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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エデン頑張る Ⅱ

 異世界生活開始から大体半年目。詳細な日時はあまり良く覚えてないので大体半年。だがそれでも半年だ。その大部分はグランヴィル家に世話になっている形だが、俺も大体の常識や作法などを頭に叩き込む事が出来たと自負している。

 

 リスニング、スピーキング、どちらも完璧だ。今では読み書きの勉強もしている。此方は流石に既存言語と言語法則が違うからソコソコ苦戦しているものの、少しずつ成長している。私生活もだいぶ充実してきているんじゃないかなぁ、って思っている。

 

 それに漸く、グランヴィル家に自分の出自を告白出来た。

 

 自分が実は龍だ! って告白したものの、反応は薄い。返ってきたリアクションはたいてい知ってたか、或いはどうでもいいという反応だった。これが他の家や場所だったらまるっきり対応は違ってくるらしいが、エドワードとアンは体の特徴とかから大体察していたらしい。お前ら先にそれを言えよ。

 

 まあ、そんな訳で生活は割と適当にやっているが、習い事に関しては真面目に取り込んでいる。当然ながら俺にサボりや手抜きと言う考えはない。好意に甘えて家に置いて貰っている身だし、今ではグローリアの従者と言う身分に対して疑問も思わない。エドワードに身分を保証される事によってこの国の住人として振舞う事が出来ているのだから、そこは当然だろう。

 

 龍だってことを打ち明けた事で悩みはなくなった。あえて言うなら色々と謎があってそれに頭を悩ませている事だが、頭を捻った程度で答えの出てくる謎でもない。だからそれを抜きにすると俺の悩みは自分の勉強回りの話になり、今一番の悩みはこれ、

 

 ―――信仰に悩んでるという事だ。

 

 というか俺、何を信仰すべきなんだ?

 

 この世界において神を信仰するというのはかなり大きな意味を占める。この世界にやってきてから半年、特に宗派を決める訳でもなく勉強と鍛錬を続けてきたが、そろそろ神様を選ぶべきなんじゃないかと思い始めた。というのもとりあえず神を信仰すればそれだけで魔法を扱えるようになるのだ。それでとりあえず魔法を使うという感覚に慣れてみたらどうだろうか? という話だ。うん、まぁ、なんだ。こんな話が出てくるのは半年たっても何も進歩がないからだ。

 

 もはや自覚している事だが、俺は絶望的に魔法のセンスがないらしい。だから現在の状態からできる事を発展させたいのなら、ひたすら出来る事を繰り返して牛歩の歩みで物事を進めるしかないのだ。それぐらいのレベルで魔法関連は才能がないという評価を押されてしまった。体にある魔法を利用する資質自体はかなり高い。それこそエドワードやグローリアよりも。単純に俺という中身がその素質を台無しにしていたのだ。

 

 魔法を扱うには才能がいる。悲しいが現実だ。

 

 だけど神の魔法は違う。

 

 術も発動も全て詠唱のみで行える。後は魔力を勝手に消費するだけだ。それで魔法が発動できるなら、発動の感覚を体に馴染ませてステップアップできるのでは? という素敵な作戦だった。実際、既にグローリアは信仰を決めて魔法を使っていた。紙式魔法までちゃんと使えるようになっているし、魔法使いとしては完全に先輩になっているグローリア、俺が頭を下げるべきなのでは??

 

 そんな戯言を展開しながらも本日はインナーにホットパンツ姿でグランヴィル家の祭壇部屋までやってきていた。こういう祭壇付きのお部屋、貴族なら部屋単位だが神棚みたいに設置するタイプはどの家庭でも割とあるらしいが……当然、グランヴィル家は貴族で辺境は土地が有り余っている。それを利用しているのでグランヴィル邸は結構広く、祭壇部屋がある。日差しも良く、毎日掃除とお供えが施されている管理の行き届いた部屋だ。

 

 こういう簡易祭壇で祈りを捧げる事でこの世界の人たちは信仰心を満たしているのだ。グランヴィル家の人々も当然、この祭壇を最低1日1回は利用する。

 

 ―――さてはともあれ、

 

「信仰はどうしようかな」

 

 実はお勧めの信仰、お勧めの神様というものはリスト化されている。意外とこの世界の神様は多様性に溢れていて、色々と信仰が選べる。生まれから何かに縛られるというのは特にないのだ。そこら辺の宗教の自由、地球よりも100倍凄いと思う。それでもまあ、宗教やってる人間の愚かしさは一切変わらないんだが。あの聖国って所マジで滅んでくれないかなあ。

 

「えーと、お勧めは、っと」

 

 祭壇の前でポケットからメモを取り出す。とりあえず神様が優しく、そして比較的に教義に従いやすい神様はまず、叡智の神エメロアだ。エドワードのおすすめ。知識を求めよ、知識を活用せよ、真実を見る目を養い人よ賢くあれ。シンプルに知識人向けの信仰だ。自分で考える頭をもって、ちゃんと考えて生きて行けと言う教え。恐ろしいぐらいにまともな神様だ。勉強が好き、技能を身に着けるのが好き、そういう人向けの神だ。

 

「とりあえず神様に面接してみるか……」

 

 面接? 面接概念ってあるのか? とりあえずクーリングオフって可能ですかって質問するぐらいなら別に良いよな? 心に余裕が出来ると思考もだいぶ愉快になる。それを今現在進行形で実感している。まあ、これガチモンの不敬罪になりかねない事で、信仰心厚い信者に見られたら殺されかねない所業なのだが、まあ、

 

 なんとなくだが、神本人は全く気にしない感じはする。その程度の些事で心を乱さないというか……良くも悪くも寛容? そんな気がする。あくまでも自分の直感的な判断で、聞いた話ではないのだが。それでもまあ、行けるだろという謎の自信があった。

 

 故にオラクルを試す為にも、祭壇の前で祈るように両手を握り、目を瞑る。

 

 叡智の神へのオラクルを行い目を閉じてその先に広がる暗闇に、光が満ちた。

 

 そして光の中から見たことのある女神の姿が出現した。

 

エデン、愛しいエデン……信仰先を、求めていると聞きました

 

「お、押しが強いなぁ」

 

 迷う事無く目を開けてオラクルを中断する。手汗が酷い。

 

「い、いやぁ、横入はダメでしょ……駄目ですよ神様??」

 

 祭壇へと向かって腕を組んだまま言い聞かせるように言葉を放ってから再びオラクルを行う為に両手を結んで祈るポーズを取るが、目を閉じた向こう側に再びソフィーヤの姿が見えた瞬間にオラクルを中断した。駄目だ、何がどう足掻いてもあの女神が出張ってくるイメージしか湧かない。愛してるじゃねーよ、束縛すると嫌われるパターン知らないんか?

 

 ふぅ、と息を吐きながら天井を見上げる。

 

「やっぱ宗教ってクソなのでは?」

 

 こんな事クソデカボイスで言えるの、恐らくこの世で俺1人だけだろう。信仰ばっちオーケースタンバイしている女神様とか俺知らないぞ? いや、アレはもしかして幻覚だったのかもしれない。でも俺、確かにエメロア神の方にオラクルを試みたよね? おっかしいなあ……。

 

「おーい、エデンー。そろそろオラクルの調子はどうだいー?」

 

 と、そこでソフィーヤ神の事に頭を悩ませていると、エドワードが契約状況の確認にやって来た。これは丁度良い、と手をぽん、と叩きながら説明する事にした。何度もオラクルしても毎回ソフィーヤがインターセプトしてくる事実をエドワードに伝えると、エドワードがうーん、と困った様子で腕を組み始めたのが解った。

 

「普通はオラクル1つでさえ相当難しい事なんだけどねえ。だけどソフィーヤ神がそうやって何度も君の前に現れるって事は相当強い縁が結ばれているのか、或いはどの神からしてもソフィーヤ神が君を優先すべき理由が存在する、という事なんだろうね」

 

「優先すべき理由……?」

 

 エドワードの言葉に首を傾げる。それが今一解らなかった。だからエドワードはそうだね、と言葉を続ける。

 

「ソフィーヤ神は比較的に神としては新しい方なんだよね。何故なら我々人族の神であり、人が作る理の神なんだから。人が生まれた時に生まれた神なんだ。人と共に生まれ、人と共に育った。それがソフィーヤ神なのさ」

 

「そう言えば地上は元々龍族のものだったって話でしたね?」

 

「そう、そうなんだ。君が知っての通り、元々この世界に先に住人として生み出されたのは龍族だったんだよ。我々人類はその後追いでしかないんだよ。面白い事に我々純人種よりも遥かに優秀で強かった、神に最も近いと言われた種族である龍はその後人類によって駆逐されている……そう、君を除いてね。或いは君みたいにまだどこかに生き残りがいるかもしれない」

 

 生き残り……はないだろう。俺が最後の龍の子と言われていたし。アレ、あれは龍殺しの発言だっけ? ちょっと記憶が曖昧だが俺が最後の1人だというのは事実である筈だ。少なくともソフィーヤのリアクションはそういうものだった。

 

 ともあれ、俺が最後かどうかは今は重要ではない。

 

「重要なのは龍族の駆逐を主導したのはソフィーヤ神だと言われている事だ。実際、かの女神から与えられた神託によって人類は覇権を得るに至ったとされている。龍との戦い方、倒し方、その鱗を裂く方法……事実、それらの知識が与えられなかったら人類は龍を相手にする事なんて出来なかっただろうね」

 

 だから、と断言する。

 

「ソフィーヤ神が龍を倒す為の啓示を与えたのは事実だ」

 

「うーん、だったら今の俺が見るソフィーヤとは全くキャラが違うというか……なんというか、そんな憎しみとか全く感じませんよ? 別に威厳がないとかは言いませんけど。それでもやっぱり龍を憎んでいると言われると首を傾げるレベルですよ……?」

 

 少なくともソフィーヤは憎しみなんてものを抱いていないのは事実だ。寧ろ全力で俺の事を案じている様にさえ感じる。独占欲とかそういうものではなく、純然たる善意しかソフィーヤの行動にはなかった。……その結果行動がなんかズレている辺り、天然と言うかなんというか。やっぱ人と人間では感覚がズレているのか。

 

「そうだね、君がそう言うなら間違いなくそうなんだろうけど……」

 

 エドワードは腕を組みながら指を顎に添え、考えるように頭を傾けた。

 

「いや、これが人間であれば過去を悔いた結果、とか言えるんだけど……神々の精神性は人に似ているようで、全く違う構造をしているとも言える。実際、どういう風な精神的構造をしているかは不明なんだ。だから神々がどうして、という事に対しての答えは難しいんだ。ただ確実に言える事は龍殺し、ドラゴンハンターたちにソフィーヤ神が告げているようであれば、既にどうにもならないレベルの人たちが此処を襲っているよ」

 

「そんなに」

 

 そうだねぇ、とエドワードは思い出す様に目を瞑る。

 

「僕が知っているドラゴンハンターは、ナイフで亜龍の鱗を魚の鱗落としみたいに剥ぐし、別の奴は噛みつかれた状態で亜龍の首を引きちぎってたよ―――宗教戦士って怖いね」

 

 滅茶苦茶強く頷く。俺が知っている龍殺しも、俺の鱗を切り裂いて痕になるレベルの斬撃を残しているのだから、今更ながらアイツらやばいんだなあ、と思う。何せこの家にある武器を叩きつける程度じゃ傷さえ出来ないのに、傷が残るレベルの攻撃を行えてるんだから。人類の上限付近の方だったのかなあ、アレ……。

 

「それじゃあ話をソフィーヤと龍の関係へと戻そうか。僕はね、君に対するソフィーヤ神の態度が過去にあった龍の絶滅と人類の台頭に対する答えになると思っているんだよね……とはいえ、ここらへんは本当に資料が少ないんだけどね」

 

 ただ発覚している事実はあると言う。

 

「まず龍が悪であると断定された事。龍を倒す為の術が与えられたこと。そして人よりも優れている種であるはずの龍がそのまま駆逐された事だね」

 

「なんで龍を絶滅させられたんでしょう? なんというか……俺の勝手な考えですけど」

 

 魔力を身に纏う。

 

「こういう力があって、空からブレスを吐けば人類、簡単に勝てません? いや、簡単とはいかないでしょうけども。それでも人類の殲滅の方が早くないですか?」

 

「それなんだよねえ。君のスペックを肌で感じた辺り、間違いなく成長すれば人類にそこまで手間取るとは思えないんだよね……それが大きな謎なんだよ。どうやって、人類は龍に勝利した? 何故勝利できたか、って事だよね」

 

 龍の悪評は凄い。神からのバッシングを受けたのだから。だがそれは偽りの様にも、真実の様にも感じられる。物凄く真実が解りづらい所にある。ただ事実として、かつて龍は人を襲い、喰らい、そしてこの大地を荒らしていたという歴史が人々の記憶に残されている。それが真実であるかどうかは重要ではない。人々が龍を恐怖と荒厄の象徴として認識している事が問題なのだ。

 

 結局のところ、ソフィーヤと龍の関係性を探るのは難しい。

 

「でも実際どうなんでしょ。ソフィーヤ、龍を絶滅させたことを後悔してるのかな」

 

「僕にはそこは解らないかな、流石に。神の心を測る事は人の身ではあまりにも畏れ多いんだよ、エデン。君は、特殊だからね。きっと君だけはたとえ神の心を測ろうとも、神罰を受ける事はないんじゃないかな」

 

 どうだろうなあ、と呟く。でもソフィーヤを見て以来、どうして俺は殺されるかもしれない未来に怯えているのだろうか、という事を悩む時間が少し増えた。神と人の関係、そして神と龍の関係。その事に答えは出ない。頭を悩ませるように首を傾げると、エドワードはま、と言葉を置いた。

 

「考えていてもしょうがない事はしょうがない事さ。それよりも時間もちょっと経ったし、そろそろソフィーヤ神以外にもオラクルが届く事を確かめてみたらどうだいエデン?」

 

「あ、そうですね。やってみます」

 

 そろそろソフィーヤもブロッキング止めてるだろう……。そんな考えを確かめる為にもう両手を使うのもめんどくさくなったので、目を瞑って静かにソフィーヤ、まだいるか? と祈りっぽい感じの感情を捧げてみる。

 

エデン……私はいつでも待っています……

 

「あ、ソフィーヤ様」

 

待っています……

 

 エコーを残して消えるのちょっと芸術点高いな……。だがオラクルは再びソフィーヤに接続された。いや、だが今回はソフィーヤの方から姿を消したのだ。今度こそ別の神に繋がるかもしれない。なんか神様ガチャを回しているようで物凄い申し訳ない気分になってきたけど。

 

「またソフィーヤ様でしたけど、今回はなんか帰っていきました」

 

「う、うーん? 本当に解らないなあ、これ……」

 

 ここまでぞんざいに扱われても一切怒らない神の懐の広さにも個人的には割とびっくりなのだが……マジで神罰落ちない? セーフなの?

 

 だけど、そうか。

 

 神は確かに人とは違うんだ。

 

 彼らは悠久の時を不変のまま生き続けている。教え、導く相手がそのあと天寿を全うする姿も、最悪な死を迎える結末も何度も見ているのだ。そんな人生を永劫生き続けているのだ……精神構造が人と同じでは耐えられないだろう。

 

 だからと言って、それが答えになるという訳でもないが。

 

「エデンはソフィーヤ神じゃダメなのかい? ここまで熱烈にアピールされるのは中々ない事だし、ソフィーヤ神の魔導はどれも使いやすいものばかりだよ?」

 

 人の理を司るソフィーヤ神の魔法は結界による領域の保護や、味方を強化する魔法等汎用性の高いもので構築されている。実際の所、選択肢としては無しという訳じゃないのだろうが、俺はエドワードの言葉に頭を横に振る。

 

「他に選択肢がないから、流されて、とかで物事を選ぶとろくなものにならないって思ってるので……こう」

 

 手をぶんぶんと動かす。

 

「自分がする選択肢に対して真摯でありたいなぁ、って」

 

 だから便利だから、とかで神様を選びたくない。

 

「心の底から賛同して、教えに従える神様が良いって思ってます。うん」

 

 その言葉にエドワードが目を細め、笑みを浮かべて頷く。

 

「うん、それは良い考えだと思うよ……君が、納得行くまで考えてみると良いさ」

 

 まあ、

 

「……それを神々が考慮してくれるかどうかは別だけど」

 

「それ」

 

 それなんだよなあ……。




 信仰選びと神と龍。

 てんぞーの脳内ではエデン応援団扇を両手に装備したソフィーヤ神がエデンを推してる姿がなぜか見えた。

 ※6/19修正しました。

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