TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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エデン頑張る Ⅶ

 この世界は俺が思っている以上に厳しい。

 

 賊―――いや、この場合この世界での言葉を借りて”捨て犬”と呼ぼう。連中が来るのも襲い掛かってくるのも別に初めての事じゃないらしい。グランヴィル家は貴族家でありながら政治に関わらず、無駄な装飾をする事もなく生きている。理想的な田舎のスローライフを送っているグランヴィル家はそれこそ余裕があると対外的には思われがちだ。だが実際のところはそこまで大きな余裕がある訳ではなく、ある程度自給自足しつつ狩猟なんかもして食事を賄っているし、それでは足りないからエドワードやエリシアが領主に仕事を貰いに行っている。

 

 俺は目撃してしまったから改めて教えられたのだが、この仕事の内容は主に危険生物の駆除や賊の退治などが含まれているらしい。エドワードとエリシアの戦闘力は中央から見てもかなり高く、その戦力を遊ばせているような余裕が辺境にはない。だから義務を全て捨て去ったスローライフを営んでいる夫婦を仕事、依頼という形で利用しているのだ。

 

 だから実際の所、こういう風にグランヴィル家のありもしない富を求めて、そして生活の為にグランヴィル夫妻は人を殺していた。

 

 俺とグローリアの生活というものはそういう連中の犠牲の上で成り立っているものだった。

 

 それを自覚すると自分がどれだけ恵まれていたのか、という事を自覚する。

 

 エリシアも、エドワードも、俺を拾った所で保護する義務なんて無かった。だというのに拾って、飯を与え、衣服を与え、治療して、そして育ててくれている。ただの食い詰めと同じ扱いでもこの世界の基準からすれば問題なかったのだ。それを知ってしまうと、今までの様にただただ漠然と生きてい行く事は不誠実の様に思えた。俺もまた、もっと良くこの世界を知って、もっと何が出来るのかを考えた方が良いんじゃないだろうか? なんて事を考え始めた。

 

 地球人としてではなく、この世界の住人であるエデンとして俺が出来る事は何か。

 

 それをもうちょっと良く考えよう。そう思わせられる冬だった。だけどこの体はまだ子供だ。剣は握れるけどまともに人へと向けられるとは思えないし、モンスターへと向けて振るうのだってまだ躊躇するだろう。だからとりあえず今準備が出来る事は家の中のお手伝いと、

 

 もう少しだけ、この世界に関して真面目に考えてみる事だった。だから捨て犬を処理してから数日後、

 

 俺はエドワードの許可を得て書斎で本を漁ってた。

 

 

 

 

 冬は何時も大体タートルネックセーターにジーンズという格好をしている。そんな恰好で書斎の床に座り込みながら幾つかの本を重ねるように並べ、持ち込んだクッションの上に座りながら色んな本のタイトルを漁っていた。冬になると外で遊べなくなったり、鍛錬する時間が必然的に減る為、1回1回の授業の密度が上がって行くのだ。その結果、読みと書きに関しては割と良く出来るようになったと思っている。一番は座学担当のスチュワートに色々と教えてもらう事なのだが、冬の間は老骨を無理矢理働かせるのは可哀そうだという理由で俺はなるべく頼らない様にしていた。

 

 ともあれ、まずは基本的な世界構造や知識、どうしてこういう文化や文明が成り立ったのか。そういう事から自分の知識を補完するのが、世界や生き方を知る上では重要なんじゃないか、と思った。まあ、此処には多分に俺の趣味が入っている事も否めない。それでも宗教と神学は歴史と文化の発展を知る上では最も重要なジャンルだと思っている。

 

 人は未知を恐れ、そして解明できない事をオカルティズムに繋げる。

 

 超自然的な法則と現象が未知と結びついているのだと口にする事で、理解できる範疇に物事を落とそうとするのだ。そうする事で恐怖を和らげ、いずれ制圧できるものとして扱うのだ。だがこの世界は神々が存在する世界だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 

 オカルティズムが世界的真実、そんな世界になりえるのがこの世界なのだから、歴史を調べるとは神話を調べるという事でもある。だから歴史書と、神学の参考書を並べてその内容を確認していた。ちなみに最初はグローリアも一緒に見るとか言っていたが、秒で飽きて逃亡した。歴史とか調べるの俺は面白いと思うんだけどなあ……。だって皆、日本の戦国時代とか武将は大好きだし、海外で言えばスペインの建築文化が南北からの侵略によって文化が入り混じった結果だとか見てるだけでも面白くない? 解らないかなぁ、これ……。

 

「うーん、創世神話か……やっぱり普通にあるな」

 

 当然ながら神々が実在する世界なのだ。創世神話も神々が伝えた結果残されているのだろう。歴史書と比べても内容は同じだ。

 

 そしてその内容はこうだ。

 

 かつて虚無の海があった。

 

 時は流れる事もなく、何も存在しない無に満たされた海より名もなき創世の大神はその身を持ち上げた。虚無に浮かぶ大神はその両手で虚無の底を掬い上げ、原初の泥を持ち上げた。そして原初の泥を通して大神に仕える神々を生み出した。大神はこれにより最も古き神々を生み出し、古き神々に命じた。

 

 満ちよ、満ちよ、満ちよ。この寂しき世界を満たせ。

 

 大神は古き神々にそう命令を下すと己の身を横たえ、虚無に浮かぶ島となり、そしてその姿を広大な大地へと変えた。大神は生物の生きる事の出来る星へと己の姿を変貌させた。これにより虚無の海は大神の大地によって満たされた。そして古き神々は大神の言葉に従い、大神の体に住まう命を生み出した。

 

 それが原初の住人達であり、生物たちだった。木々を、魚を、獣をこの大地に生み出した。そして最後に、大神の大地にそこで繁栄する為の住人たちが生み出された。

 

 旧神達に生み出された世界の覇者、それが龍族である。

 

「これが龍の起源かぁ」

 

 呟きながら自分の角を軽く掻いて、続きを確認する。

 

 龍という種族は一番最初の住人として、この世界を統べる存在として生み出された。龍は強く、雄々しく、そして強力無比だった。あらゆる面に於いて生物として優れている龍たちは支配者という概念に相応しい力を持っていた。最も神に近い種族、それが龍という種族であった。大神の大地に生み出された龍たちは瞬く間に世界を掌握し、そして穏やかに生み出された世界を生きる事となった。

 

 だが大神は旧神達の仕事に満足する事無く、新たな神々を生み出した。新しき神々、今の時代を生きる神々達の事である。

 

 大神は新たな神々に命じた、多様性を生み出せ、と。この世界をもっと満たせと。

 

 そうして新たな神々は龍と共に生きて行けるような生物をこの世界に新たに生み出した。

 

 まず最初に生み出されたのが純人であった。そこから多様性を生み出す為に獣人が、昆虫人が、海を満たす為に魚人が生み出され多様な種族が大地を満たし始めた。大神が望んだ通りに虚無しか存在しなかった海には大地が生まれ、そしてその大地は様々な種族と命によって満たされ始めていた。始まりの虚無にあった静寂は人の営みと暖かさで満ち、これに大神は大いに満たされた。

 

「龍が先に生まれ、後から人が生まれた、と。というか今の神々と古い神々が別々に区別されているって事は……」

 

 なんとなーく、この先の展開に予想がつくなー、なんて想いながら本を読み続ける。

 

 だが大神の言葉に旧神達は嫉妬した。誰よりも何よりも世界を開き、そして満たすための礎を生み出した創作物達はお褒めの言葉を貰えなかった。その事実に旧神達は憤慨し、そして嫉妬したのだ。旧神達はこれにより新しき神々との対立の道を選び、旧神達は龍を己の兵として神々との戦いに使用した。

 

 ……そこからは大体知っている通りの流れだった。

 

 龍はそれによって悪に認定され、新しき神々―――つまりソフィーヤ神やエメロア神等の現在信仰を集めている神々が古き神々との戦争に勝利したのだ。その結果龍族は絶滅し、古き神々は死滅するか封印されたらしい。現在は新しき神々が勝利したことで覇権を握り、人類の時代がやってきている……という事だ。

 

「成程なあ、これがこの世界の歴史って事か」

 

 歴史書、神話を確認しても若干言葉遣いが変わるだけで書いてある内容はどちらも共通だ。大神の名前を語る事は不敬であり、それをどの本も書いていない事が非常に気になるが……それはそれとして大体納得の行く理由だった。

 

 旧神達の兵として運用された龍たちは相当暴れまわったらしい。そしてそれが生み出した混沌や破壊をソフィーヤ神達が抑え、人類に討伐方法を教え、そして討滅したのだ。その後で人類が再興する為に環境を再生し、必要な技術を伝え、今も見守っているんだ。

 

 そりゃあ龍族が悪役になるわ。

 

 最後の1匹まで駆逐してやる……! とか思う様な龍殺しが出来るし、ドラゴンスレイヤーなんて職業まで生まれてくる訳だ。現代の地球人的価値観で言えば、龍はテロリストに近いだろう。それもフル武装で街1つふっ飛ばすだけの火力を持つ。そしてかつて多くの国と大地を焼いてきたのだ。そりゃあどの国だって敵認定するし、ぶっ殺そうと躍起になるだろう。この認識を世界規模で改めるのなんてもはや不可能だろう。

 

 なにせ、神話とは歴史で、イコール真実だ。神が証人として歴史を語っている以上はこれを塗り替える方法がないのだ。その中で無条件で俺を信じて育ててくれている、保護しているグランヴィル家はマジでなんなんだって話になるのだが。その好意はマジでありがたいのだが。それはそれとして不安を覚えなくもない。

 

 とはいえ、

 

「龍が何故邪悪扱いされるのかはこれでよーく解った。俺絶対にこれを人に伝えない様にしなきゃな……」

 

 少なくとも龍に対して初見で良い印象を持っている人類なんていないだろこれ。いやあ、冗談きついっすわ……。

 

 まあ、でも良い所は龍の人化が一切語られていない事だろう。龍は龍の姿のままらしく、人の姿になる様な話は調べている限りはなかった。つまり誰も龍が人の姿をしている、とは思わないのだろう。つまり俺もある程度鱗を隠さなくてもよさそうという感じはするが……まあ、やっぱり安全を取って鱗は隠したほうが良いだろう。

 

 少なくとも角を持つ種族というのはそこそこいるから珍しくはない様だ。

 

 有角族なんて角だけを生やした種族があれば、獣人の中でも牛ベースの獣人は角と尻尾を生やしているし。探せば角を生やしている種族はそれなりにいるらしい。もっとカオスな特徴を持っている種族を探せばやっぱり魔族に行きつくのだが。この連中は魔界と呼ばれる異世界出身の種族らしいが。

 

「あぁ、そうだ。魔界に関しても調べるか……」

 

 魔族、魔界という話は聞くが具体的にどういう場所なのかは知らないんだよな。そう思いつつ魔界に関する資料を書斎で探る、あっさりと見つける。

 

 魔界。大神の世界とはまた別の異世界。次元の壁を隔てて存在している完全なる別世界。世界を支配するのは魔神と呼ばれる神々であり、大神の世界よりも遥かに濃いエーテルが大気に満ちている影響で魔族たちは魔力、身体能力共に非常に高い能力を持っている。またそのエーテル密度の影響で肉体が若干変容している。その為、身体的特徴にバラつきが多く、此方の世界の住人が魔界へと赴くとエーテルの濃さに溺れる。

 

 魔法効果が密度によって増幅されやすく、魔法制御が更に困難になる。その為、属性が増幅されて簡単に自然災害が発生する。何もない陸地で津波が発生するケースさえも存在し、魔界の大地は未開拓地が多い。その為最上級のエクスプローラーは魔界へと未知を求めて旅立つ事も少なくはない。

 

 魔神たちは我々の世界の神々とは違って統治にも支配にも信仰にも興味はなく、気づけば街中を歩いている姿さえも目撃できる。此方の世界と繋がったのも原因は魔神にあるらしく、その時の言動はこうと記録されている。

 

「おいすー。遊びに来たよー」

 

「もう読むの止めようこれ! うん!」

 

 神様ならもっと神様らしくやってくれねぇかなぁ……。ソフィーヤ神がどれだけ神様っぽかったのかを嫌な所で再確認してしまった。というか言動の記録取られてるじゃんこいつ……。というかマジでおいすーとか言ったのか? 言ってしまったのか? マジかこいつ……。

 

 しかしこれで侵略する気ゼロ、余っている土地に国を作って観光しに来ていると言われると魔界と大神の世界での大きな違いを感じる。なんというか……魔界さん、実は凄い文明進んでない? って感じがする。まあ、それでも聖国に喧嘩を売られて年中ドンパチしているらしいが。良くもまあ、飽きないもんだ。

 

「ふぅー。ちょっと疲れたな」

 

 本を下ろして両手を後ろに回して寄りかかりつつ、軽く先ほどまで調べた事を思い返す。

 

 根本的な部分で龍は悪として認知されている。神話を読む限りはそれは仕方のない事に思える。だけどソフィーヤ神の対応と姿を見ている限り、この神話は完全には正しくはないように思えた。少なくとも大神が新しい神々を産む所までは間違いなく正しいのだろうとは思う。

 

 だが戦争を始めた理由……そこら辺から事実が異なりそうだと思える。

 

「……ん? 異世界?」

 

 そこまで考えた所でふと、頭にノイズが混じる。先ほどまで魔界の事を読んでいたせいかもしれない。

 

 虚無から何か生まれるなんて到底思えないし……実は大神、異世界産だったりしない? 魔界とはまた別の所での。

 

 そして異世界って概念があるなら、地球ももしかして異世界として存在しない……?

 

「う―――ん……」

 

 悩ましい。色々と考えが上がっては証拠がない、確証がない、妄想だろうと否定する。結局のところこの狭い書斎の中での情報だけだと把握できる物事の上限がある。こうなるとやっぱり、もっと詳細な情報が欲しくなる。それが把握できるのは中央の天想図書館になるのだろう。

 

 ……或いはエドワードが柔軟に俺を受け入れてくれたのも、図書館で何か俺の知らない事を知ってたからか?

 

「なんか無駄に考えこんじゃうな」

 

 悪い癖だとは解ってるんだけどなー。

 

 とはいえ、知れる事を増やすのは決して悪い事ではない。そう思いながらこの冬はもうちょっと勉学に集中しようと思った。

 

 真面目に、真摯に。自分の出来る事に向き合おう。




 魔神「旅行に来ました」

 帰ってくれ魔界案件。なお、当然ながら此方の神々は滅茶苦茶困惑してた模様。

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