TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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命の値段

 冬が終わって新たな春がやってくる。

 

 冬ってマジで辛いんだなぁ……ってのを思い知らされる冬だった。減って行く食料を眺めるのは中々心が苦しくなる光景だった。ファンタジー世界の冬を舐めていたと言えばそうなのだが、未だにコンビニとスーパーで簡単に調達出来る日本人の感覚が抜けきって無かったのかもしれない。ともあれ、そんな辛かった冬も終わりを告げて雪が溶けて来た。こうなると漸く引きこもり生活はおさらば、街で新しく食料を買い込みながら軽く春の到来を祝う。

 

 そんな雪解けの季節にエドワードが俺とグローリアを執務室に集めてある事を告げた。

 

「今年はいよいよリアをサンクデルの所へと連れて挨拶に行こうと思うんだ。無論、リアの従者としてエデンもつれて行く予定だから準備しておいてね」

 

「挨拶?」

 

 エドワードの言葉に首を傾げるグローリア。そう言えばサンクデルという領主がこの辺境領の主だったという話は聞いている。グランヴィル家は領主サンクデルの土地に住まわせて貰っている形になっているんだろうか? 腕を組んで頭の中で軽く情報の整理を行っていると、エドワードが話を続けた。

 

「僕はあまりリアを表に出すつもりはない……というか政治とかのごたごたに付き合わせるつもりはないんだよね。だけどサンクデルの所にはリアと同年代の娘がいるからね。お披露目然り、社交界デビュー然り、その前に同年代の子に合わせて社交性を磨きたいって話は分かるんだよね。まあ、リアの友達にもなれるかもしれないし」

 

「友達……!」

 

 俺はどっちかというと家族ポジションだからなあ、と心の中で呟く。まあ、それでも現状は唯一のグローリアの遊び相手で友達とも言えるポジションだ。ちゃんとした友達を俺以外にも作るというのには大いに賛成だ。ここで領主への挨拶のついでに領主の娘にコネクションを作るのは悪くないんじゃないだろうか。それ以上にグローリアの交友関係が広がるのが良いのだが。

 

 とりあえず、

 

「確かサンクデル様は辺境伯でしたよね?」

 

「うん。辺境の守りを担当しているから武力と土地も多く貰っているんだよね。大変な立場にいる人だけど、僕の友人でもあるんだ。サンクデル・ヴェイラン。僕はちょくちょく会いに行ったりするんだけどね。君たちを連れて行くのは初めてになるかな」

 

 我が家の財源でもある。

 

 辺境伯とは辺境、および国境の守りを任せられたために伯爵の中でも特に力と権力を多く与えられた存在で、実質的な立場としては侯爵に近い人物、だったか? 力をそれだけ与えられるという事は国王からの覚えもめでたく信用されている人物である事の証だ。辺境伯の娘ともなれば確実に中央の学園へと向かうだろうし、入学の時期は恐らくグローリアと一緒だろう。

 

 辺境の統治を見ていれば散発的に発生する捨て犬共を抜きにすれば成功していると言えるだろう……統治者としては賢人かも。

 

 いや、やっぱ判別つかないわ。政治良く解んない。俺の生活は良いもんだけど一般では満たされてるのかどうかは話が別だ。

 

「でもエドワード様。俺、連れてっても大丈夫なの?」

 

「あぁ、問題ないよ。これからもリアを支えて貰うからね。何時も君らしくリアを支えてあげて欲しいな」

 

「うっす」

 

 エドワードの言葉に頷くと、わくわくと楽しそうな表情を浮かべたグローリアが俺の手を掴んで引っ張り出す。抵抗するのはたやすいが、自他共に認めるようにグローリアには甘い。だから楽しそうに発進するグローリアの事を止める術なんて俺には存在しない。だからそのままずるずるとグローリアに引きずられる。

 

「さ、何を着て行くか相談しましょエデン! 新しい友達になれるかもしれない人なんだから、精一杯おめかししなきゃ!」

 

「おーい、まだ来月辺りの話だからねー? 今すぐ行くって訳じゃないからねー?」

 

「解ってまーす!」

 

 楽しそうに答えながら引っ張られる中で、エドワードへと視線を向けると宜しくね、と目線を送られた。もしかして俺の事、同年代の大人として見てないか? いや、まあ、中身は間違いなく大人だからその判断は正しいんですけどね。

 

 そのままずるずると引きずるのが辛そうに見えてきたので普通に立ち上がるとグローリアを持ち上げ、そのまま肩車する。おっと、俺の角はハンドルじゃないからあまり強く握らないでくれよ? 何と言ったって頭蓋骨と直結してるからな!

 

 まあ、クレイモアで叩かれても脳震盪にならないレベルで硬いんだが。

 

 それはともあれ操縦者に任せてグローリアの部屋へと向かうと、肩から飛び降りたグローリアが一直線にクローゼットの方へと向かうので、俺はグローリアのベッドの上に座る。女の子らしくぬいぐるみが置いてあるグローリアの部屋は俺のまだ比較的に殺風景な部屋とは違って、彼女のらしさが出ている可愛らしい部屋だ。ぬいぐるみ、1人でいる時間が多かったから昔は集めていたらしい。

 

 今じゃその代わりに俺がいるからあまりぬいぐるみを集める様な事はしない……とは、アンからグローリアの世話を引き継ぐときに教えてもらった事だ。

 

「うーん、やっぱりドレスが良いかしら……」

 

「最初からキメッキメで行くと逆に引かれるよリア」

 

「そう? でも相手は辺境伯の子よ? 名前はえーと……」

 

「ローゼリア、ローゼリア・ヴェイラン。お父さん同様燃えるような赤毛が特徴的な子だって話だね。まあ、それ以上は良く知らないんだけど」

 

 ただ辺境伯の娘というのならそれなりの立場の娘だ。変にプライドの高い娘だった場合もある。そういう娘だった場合、グローリアとの相性は悪いだろう。グローリアは良くも悪くも立場や階級というものに縛られない考えや態度をする。そこら辺の影響はエドワードやエリシアからの物が強いのだろう。そのおかげで俺も敬語とかなしのタメでグローリアと話せている。だけどグローリアはかしこまった態度が必要な相手とはまだ接したことがない。見ている限り、エドワードはそういう切り替えはちゃんとできるタイプの人だ。

 

 だが果たしてグローリアはどうだろうか? 出来るか? このぽわぽわ娘が?

 

 無理だろ……。

 

 まあ、その為の俺という事なんだが。今度街に行ってローゼリアの噂でも調べてくるべきだろうか? いや、直接エドワードに聞いた方が早い気もする。それはそれとしてクローゼットに頭を突っ込んで楽しそうに服選びをしているグローリアの様子を見てどうするべきか、と考える。ファッションセンス云々はぶっちゃけ、自信がない。元男からすると可愛い女の子って何を着ても大体なんでも似合ってるからコメントに困るんだよな……って感じがある。

 

 エドワードもエリシアも楽な格好の方が好きなタイプであまりファッションには拘らないし、アンも動きやすさを重視している。唯一スチュワートだけが執事服で仕事をしているのだが……まあ、ここもファッションとは違うだろう。こういうのはプロフェッショナルに相談するのが一番良さそうなんだよなあ……。

 

「……」

 

 一瞬神様にオラクルして聞き出すのが一番楽なのでは? と考えてしまったが流石にそれは禁じ手だろう……という事でそっと自分の心の中に封印しておく。まあ、それはさておき考えるべきなのはファッションか。まあ、流行がこの辺境ではあまり届かないからそこまで心配する必要もない気はするんだが。とりあえずまあ、どんなにセンスがなくても押さえておくべきポイントはいくつかある。

 

「相当奇抜かフォーマルすぎる格好しなければ大丈夫だと思うよ」

 

「そう? 着飾らないと不敬にならない?」

 

「木っ端の兵士じゃ俺を傷つけられないしへーきへーき」

 

「そういう問題……?」

 

 古強者クラスにでもならないと武器ではまともにダメージが入らないとか断言されちゃったからな、俺。技量が一定以上あって防御を抜く手段がない限りノーダメージらしいので盾としては最高の性能してるんだよな、俺。これ、その為の仕様じゃないと思うんですけど? まあ、また話がズレるから本題に戻るとするか。

 

「じゃあ割と真面目な話をしよう」

 

「珍しい……!」

 

「今本気で珍しいって思いやがったなこいつ……。いや、まあ、人の不快感って基本的に凄い簡単な所から来るんだよリア。とりあえず俺を見てどう思う?」

 

 ベッドから立ち上がり、くるりと一回転。暖かくなってきた事で俺もタートルネックセーターからは卒業。何時も通り動きやすいジーンズと半袖シャツ、後ろはローポニーで纏めようと頑張っているが……髪の毛が湿気を軽く吸っているからか纏めたさきからぼわっと広がっている。右前髪だけ長いのはもはやチャームポイントとして伸ばしているが、簡単に自分の姿を纏めてある。

 

「綺麗で可愛いと思う。もっと可愛いお洋服を着るべきだと思います!」

 

「うん、後半はともかく……綺麗ってどこから来る?」

 

 その言葉にグローリアは首を傾げ、

 

「清潔にしてる?」

 

「はい、正解」

 

 イエース、と指を鉄砲の形にしてちきちきと指さす。物凄い簡単な話、

 

「人の第一印象は清潔感から来るんだ。綺麗、って感想はどれだけ整えられているか、って所から来るんだね。装飾をほどこせば輝きに埋もれるのも事実なんだけど。だけど人ってのは相手がどれだけ清潔にしているか、汚くないかって事にまず好悪を感じる生き物なんだよね。だから大事なのは清潔感。まずは見た目を綺麗にしましょう、って話なんだけど……これは単純にちゃんと体を洗おうって事じゃないぞ?」

 

「……?」

 

 清潔ってのは爪顔体匂いに気を遣うのとはまた別に、

 

「服はよれてない? 派手過ぎる色で目を刺激しないか? 場所に相応しい姿か? 髪の毛はちゃんと整えてある? そういう身綺麗にしてあるところが評価加点になるんだよね。そして今回は訪問だけど挨拶であってパーティーとかをする訳じゃないからね。あまりにもフォーマルな格好をすると逆に相手に悪い印象を与える」

 

 綺麗にしすぎた、って奴。

 

「ピカピカしすぎると目に悪いって奴だね」

 

「はえー」

 

 俺の呆け方を真似しているのを見ると間違いなく俺の悪影響を受けてるんだよな、グローリア。ちょっと俺、教育に悪いしもうちょっと身の事を気にして欲しいなあ……とは思わなくもない。まあ、アンがそこら辺の行儀に関しては厳しいし、なんとかなるとは思う。だけどあほ面浮かべて呆けてるのは女子としてあんまりよくないぞ。俺は男だから良いんだけど。俺は男だから。魂だけは。

 

 いや、ここ一年で胸が膨らんできたんですよ……。

 

 胸の先端がちょっと出て来たなあ、と思ったら次は周りがちょっと膨らむ。そこから少しずつ膨らんで丸みを帯びると女性的な胸に育つらしい。俺はその成長が早いのか遅いのか良く解らないが、大体15辺りにはもう女性的な胸というのは形が出来上がるらしい。男だった時はそんな仕様も事情も知らないから自分の胸が少しずつ育ってゆく様子にはぶっちゃけ驚かされたり新発見で面白さもあったりするんだが、ブラジャーを新調しなくてはならない事実とかがあるのは中々精神的にヘヴィだ。

 

 しかも事あるごとにグローリアはもっと可愛い下着をお勧めしてくる。やだよ。俺カッコいい系路線で行くと決めてるんだ。目指せおっぱいのあるイケメン。

 

 まあ、それはそれとして、

 

「とりあえず今回は外出用のドレスで大丈夫だと思うよ。無難で間違いのない選択だと思うし。後はそこでなんかワンポイント流行を取り入れるのが良いと思う」

 

 腕を組んでうんうんと唸るグローリアは俺を見ると、

 

「流行! なんか凄くそれっぽい事言ってる!」

 

「リア俺に対して辛辣すぎない??」

 

「とりあえず愛だって言っておけば許されるってお父様が言ってた!」

 

「そっかぁ……」

 

 まあ、許しちゃうんですけどね。やっぱり年下の女の子のじゃれついてくる感じは楽しい。俺もやや精神年齢低下しているのが原因だとは思うんだが。まあ、だから、と言葉を付け加える。

 

「センスの良さってのは場に合わせた格好、相手が好意的に見る恰好ってのを組み合わせた上で良い、って思わせる事が必要だから難しいんだな。だけど不快感を与えないってだけなら清潔にして場に合わせるだけで良いんだなー。ぶっちゃけた話、エドワード様の恰好を見て”あぁ、これぐらいのグレードでいいんだ……”ってのを感覚的に覚えれば良いよ。解る人の模倣をするのが一番楽」

 

「じー」

 

「そこで俺を見るな!! 俺は楽な格好がしたいだけ!」

 

 この娘ったら本当にボケとツッコミのやり取りが板に付いて来て……本当に将来まともな貴族になれるのか? エドワードとエリシアは選択の自由を与える為に中央に一度は行かせるとか言ってるけど、

 

 これ、卒業後は絶対に辺境に逆戻りする奴だろ……。




 未だに毎日評価がコツコツ増えてるようで本当にありがてぇです……。ここまで連日評価が安定して増えてるのは本当に珍しいのでジャンルとしてのパワーを感じている。

 リアから見るエデンは面白いお姉ちゃん。
 エデンから見るリアは可愛い妹。

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