TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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命の値段 Ⅱ

 馬車に揺られている間、グローリアははしゃぎっぱなしだった。これで到着した時は疲れてなきゃいいんだけどなー。

 

 そう思いながら俺は御者台で御者の真似事をしていた。当然ながら車やバイクの運転が出来てもそんなもの存在―――ああ、いや、帝国や魔界に行けば魔導バイクは存在するらしい。最近拡大中の機工ギルドへ行けば結構高いけどレンタルや購入も可能という噂だが、まあ、こんな辺境にそんなものはない。だから俺達の移動手段は当然ながら馬だ。馬、普通に異世界でも存在するんだよなあ……なんて事を今更考えたりもするが普通の馬だ。

 

 だから乗馬技能は必須技能だ。馬に乗る事が出来なければ1人で遠出する事も、馬車の運転を行う事だって出来ない。だから馬をどうこうする技術はこの世界において必須技能だと言えるだろう。だから俺も当然ながら乗馬技能を教わったし、御者として働けるように軽く教わった。そうすれば街に行くとき俺が代わりにアレコレとやる事が出来るからだ。それでまあ、その結果、

 

 俺は今、フリーハンドで御者台に座っていた。

 

 なんか馬が勝手に指示通り動いてくれる。

 

 それをエドワードは少しだけズレた眼鏡の向こう側から唸りながら眺めている。馬車の中、グローリアと一緒に座りながらもどうしてこんなドライビングテクニックが成立しているんだ? という様子で首を傾げている。成程、エドワードの言いたい事は良く解る。だが俺にも良く解らねぇ。馬が特別利口だって訳でもないんだ。良く人に馴らされているし、戦闘を経験しても逃げ出さないように訓練もされている。だけどそれだけだ。それ以上は特別な要素は特にない馬だ。だけどその馬が今、俺の言葉に従って完全にコントロールされている。

 

 ああ!

 

 どうして?

 

 解らん!

 

 解らんけど、馬には龍には従わなくてはならない動物的本能があるのかもしれない。モンスターが俺がいるとあまり寄ってこないとのと同じような理由なのかもしれない。誰だって全身にミサイルランチャーを装着した人間が街中を歩いていて“やあ、ちょっと道を教えてくれない?”って聞かれたら必死に言われた事やるよね。

 

 もしかしてそういう事??

 

 まあ、そんな訳で乗馬というか命令技能を見事マスターしてしまったリトルドラゴン・俺であった。俺も特に御者で疲れるという事もなく、そもそも疲れる事もない体をしているので気楽にサンクデル辺境伯への道を進んでいた。流石領主の館へと続く道だけあって道路が整備され、モンスターの気配もいつも以上にしない。

 

 もう、モンスターの気配とか語ってる以上一般人には戻れんなこれ……。

 

「アレが領主さまの館」

 

「冬の間は顔を見れなかったけどサンクデル、元気かなぁ」

 

 遠目にだが段々と領主の屋敷が見えて来た。一言で表現すると―――アメリカンだろう。

 

 まあ、アメリカンは言い過ぎか。連中は余っている土地でなるべく大きな家とプールを用意したがるんだが、まあそういう感じの館だと思えば良い。

 

 とにかく土地を使っている。広大な土地を囲む様に壁と大きなゲート。その向こう側にはまた道が続き、きっと屋敷にまで続いているのだろう。今は門が見えて来た段階でまだ屋敷の全体図が見えてこない。ウチと違ってお金があると良いどすなぁ……? という京都ソウルが一瞬宿るも、地球へとお帰りと直ぐにリリースする。まあ、金はあるだけ良いんだが別に沢山あったって心が豊かになる訳じゃないし。

 

 特にこの時代、遺産相続とかで暗殺祭りしてた頃だし。

 

 まあ、そんなウチとは関係ない事は忘れてしまおう。

 

 ともあれ我が家と違ってちゃんと門の前に衛兵がいる様で、馬に減速の指示を出しながら門の前で停止させる。鎧に槍を装着した衛兵たちは一目で鍛えられていると解る―――そう言えば門番って基本的にエリートが任せられるもんだってどっかで聞いた気がする。重要な所程入口の守りが肝心だから強い奴を配置するって。この人たちはどうなんだろうなあ、と思いながらよっこらしょ、っと御者台の上から衛兵を眺める。

 

「此方グランヴィル家です。本日はヴェイラン辺境伯へとエドワード様と息女のグローリア様が挨拶に参りました」

 

「いや、うん、それは良いが……貴殿今馬をどうやって指示を出していた?」

 

「えっ。なんか……こう。ちょっと二本足で立ってみて」

 

「ぶるぅぅ」

 

 命令すると馬が後ろ足二本で立ち上がる。数秒間必死な表情で立ち上がり続けると此方をちらちらと見出すので、もういいよと指示を出してあげる。やっとか……みたいな空気を出しながら馬が再び四足歩行に戻る。それを見て衛兵が腕を組みながら首を傾げる。

 

「曲芸師か??」

 

「サーカスでも働けそうとは思いました。それよりもグローリア様が遠足気分でウキウキルンルンなので確認お願いします」

 

「してないっ!!」

 

 後ろからクソデカグローリアボイスが飛んでくるのを無視して、衛兵に確認を任せる。2人いる門番の内もう1人、確認に回らなかった方は首を傾げながら馬の顔を覗き込んでいる。やっぱ不思議? 俺もそう思うわ。

 

「良し、確認取れたぞ。今門を開ける」

 

「ありがとうございます……進めー」

 

「進むのか……」

 

 俺は御者台で腕を組んでふんぞり返っているだけだが、声を受けて馬車が確かに動き出す。それを衛兵たちは不思議そうな表情で眺めている。このファンタジー世界でも相当不思議な光景なんだろうなあ、と思いながら門を抜けた。

 

 そうやって前庭にやってくると流石手入れが行き届いているだけあって見事な前庭が広がっているもんだと思う。具体的にどう、と表現を求められると表現のしように困るのが感性の貧相さを物語ってしまうが、一切不快感のない、自然な庭園が美しく彩られているように見える。馬を屋敷へと向かってとことこと歩かせて、窓からグローリアが庭園を眺められるように軽く時間を作る。

 

 それが終わればさっさと屋敷前に到着する。

 

「グランヴィル様でございますね、馬車をお預かりいたします」

 

「宜しくね」

 

 既に慣れ切った様子でヴェイラン家の者がエドワードに挨拶し、そして俺の代わりに馬車に乗って運んで行く。ちゃんと手綱握っているのを見ると馬ってやっぱフリーハンドで指示を出す生き物じゃなかったんだな……と思う。そんな風に運ばれる馬車をグランヴィル家三人で眺める。

 

「……勝手に行かないね」

 

「行かないね」

 

「行かないねぇ」

 

「あ、あの、当家の者が何か失礼でも……?」

 

「あぁ、うん。何でもないよ。それよりもサンクデルを待たせるのも悪いし案内お願いね」

 

「了承しました」

 

 優雅に一礼する執事らしき人物の姿を見ながらグローリアが手を繋いでくる。どうやらグローリア自身、結構緊張している所があるようだ。俺もグローリアの手を握り返しながら自分の恰好に不備がないかを確認する―――俺は使用人と主を区別する為に別にメイド服でも今回限りは良かったんだが、そういう事を気にする人物ではないという事で普段着を着用してきている。普段着と言っても外出用に用意されたブラウスとロングスカートという基本に戻ったコーデだ。この世界で一番最初に馴染んだコーデなだけあって、これが外出用の女性服としては一番気楽なのだ。

 

 執事が開けて入る屋敷の中は流石領主だけあってロビーの時点でもう広い。ただ使用人としての視線で見せて貰うとこれ、掃除が大変そうだなあ……なんて事を想ってしまう。慣れた様子で先を歩いて行く執事とエドワードを俺とグローリアも追いかける。しかし屋敷は広く、調度品も多く、

 

「お金、ありそうだね」

 

「俺が思っても言わなかった事を……!」

 

「だってウチ、こんなに飾れてないよ?」

 

「リアー? それは地味にボクへのダメージ大きいからねー?」

 

「わーい」

 

「わーいじゃねぇんだよ」

 

「むえむえ」

 

 グローリアの頬を掴んで引っ張ると抗議の声が上がってくるが、日々段々とフリーダムさが増してくるこの娘の事だ。この口を何とかしておかないとその内失言マシンガン化しそうで俺はとてもとても恐ろしい。やっぱトークセンスみたいなもんをちょくちょく仕込む必要あるのかなあ……俺何時の間にか保護者目線になってるじゃんこれ。

 

 グローリアのほっぺをもちもちしつつ進んでいると、応接室にまで案内される。どうやら先方は既に応接室内にいるらしく、室内からは気配がする。

 

 ノック、応答確認、礼儀に則った行動を取りながら扉を開けば、応接室に屋敷の主とその娘の姿があった。

 

「サンクデル」

 

「おぉ、エドワード元気そうじゃないか。また痩せたんじゃないか? ん? 今夜はたっぷりと食って行けよ」

 

「ははは、僕が痩せたんじゃなくて君がまた太ったんだろうに」

 

 エドワードが太った、というだけあって領主サンクデルは巨漢―――いや、言葉を濁すのは止めよう。端的に言うとサンクデルはデブだった。でっぷりと肥えた体をしているが、相手へと悪印象を与えないように気を使って軽くムスクを使っている他、清潔感に気を使って髪や爪は整えられている。ニキビの様なものも特に見えないし、健康的なデブとでも言えば良いのだろうか? デブに健康もクソもねぇと言われたらそれはそれまでなのだが。

 

 まあ、見た感じ悪い人には見えないデブだった。

 

 デブの時点で人間、大体20点ぐらい減点されるという事さえ忘れれば。

 

「ふーん……」

 

 そんなサンクデルは座っていたソファから立ち上がり、歓迎するようにエドワードと握手を交わす。その次に俺とグローリアへと視線を向けて、握手しようと手を伸ばしてくる。その時同時に聞こえて来た声に少しだけ視線を取られる。サンクデルが座っていた横にはサンクデル同様燃え上がる様な赤い髪をもった少女が座っていた。彼女は此方を値踏みする様な視線を向けているが、

 

「やあ、初めましてだね。この子がグローリアちゃんで、この角の子が君が拾った従者のエデンちゃんだね? エドワードから手紙で色々と話を聞いているよ」

 

「始めましてサンクデル様、グローリア・グランヴィルと申します」

 

「お初目にかかります、領主サンクデル様。自分はグランヴィル家にお仕えするエデンと申します。名前を憶えていただき、ありがとうございます」

 

「ほほう、これはこれは利発そうな子じゃないか。グローリアちゃんもエリシアに良く似て……似て……なあ、エドワード。性格的な部分はエリシアに似てないよね?」

 

「年々似てきてるよ。僕はもう制御はエデンに任せた」

 

 サムズアップと共に敗北宣言をしたエドワードの姿にサンクデルは笑顔のままフリーズし、ゆっくりと此方へと視線を戻すと両手で肩を掴んだ。

 

「大役、任せたよ……!」

 

「え? あ、は、はい」

 

「任せた」

 

 何も理解してない顔でグローリアがそんな事を言う。いや、そうじゃねぇよ。お前が言うんじゃねぇよ。というかエリシア様、昔そんな暴君だったの? 伝説とか残してるタイプなの? 良く結婚できましたね……。いや、でも今のハウスワイフっぷり見ると割と落ち着いて―――いない。全然落ち着いてないじゃん。

 

 拾った子供に殺人術教えて自分で賊を皆殺しにしてるじゃんあの人。何一つ落ち着いてないじゃん。

 

 そっか、アレで落ち着いたのなら全盛期時代は相当やばかったんだろうな……。

 

 それが解るとなると俺も将来的に相当苦労しそうだなあ、とは思う。とはいえ、グローリアと一緒の日常はまるで飽きる様子がないのでそれはそれで振り回されるのが楽しいのかもしれない。

 

「さて、では此方の自己紹介も行おうか。私は領主サンクデル・ヴェイラン。そして此方が……挨拶なさい」

 

「はい、お父様」

 

 それまでは無言を保っていた娘がサンクデルの背後から出てきて、綺麗な挨拶を見せる。緩やかなウェーブのかかったロングヘアーにカジュアルさを重視した頭髪同様赤いドレスはまるで彼女の性格を表す様な恰好だった。一目見れば、彼女がどういう人物か良く解るそんな恰好。

 

「ローゼリア・ヴェイランです。宜しくお願いしますわ」

 

 宜しく、という割にローゼリアの瞳の中に見えるのは闘争心だった。闘争心、競争心、対抗意識、或いは敵意。表面だけは完全に取り繕っているつもりだろうが、幼さゆえに大人たち、無論俺を含めてだが、には隠しきれていない。そのせいか、俺も、エドワードも、サンクデルもどことなく微笑ましい気持ちになっていた。

 

 同年代の友人にして、将来的な学友にローゼリアは最初から対抗心を芽生えさせていたのだ。

 

 これは面白い事になるぞぉ、と何も理解していないグローリアを置き、その場を理解していた全員が思った。

 

 そんな形で、領主への挨拶と屋敷での一晩の滞在が始まった。




 ひえ、物凄い評価が増えてる。皆さん評価本当に毎度毎度ありがとうございます。更新するモチベにもなってるので本当にありがたいです。

 この世界のドラゴンという生き物は大まかに分けて2種類。
 龍と亜竜。龍は神に近い生物で生態系の頂点だった最強種。亜竜はその龍から生まれた眷属に近い生物で、勝手に繁殖した結果野生化して広く広まった。現在龍殺し達がメインで狩っているのが此方で、亜竜=龍という認識が強い。その為、龍の強さは近年では軽んじられる所がある。何故なら亜竜は凶悪だけど人揃えて対策すればどうにかできる範囲ではある。

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