TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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2章 青年期学費金策編
貧乏零細貴族


 ―――貨幣の話をしよう。

 

 大神の創造したこの世界では貨幣がとある理由から統一されている為、地方や大陸によって異なる貨幣を両替するなどの手間は存在しない。これはある童話、神話、伝承―――というかオラクルで確認したところ事実だって発覚してしまった大昔の出来事に由来する。つまりそれは人類が貨幣という概念を得る前の話、物々交換から次のステップへ、金銭取引の概念を編み出そうとした頃の話だ。人類は新たなシステムとして銅貨、銀貨、金貨を紹介した。

 

 こんな感じに。

 

「かみさまー。これみてー」

 

 商業の神様、ヘレネはこう答えた。

 

「あかん」

 

 そうだよね。銅貨とか銀貨とか、金貨もそうだが偽装しまくりの問題ありまくりだよな。将来的に色んなタイプの金貨や銀貨が出回って経済崩壊するのが見えていたヘレネ神は焦った。そりゃあもう焦ったらしい。焦った結果貨幣制度の導入を教え、そして作り方を伝え、実際に神自身が最初の貨幣を生み落としたらしい。そういう事情があってこの世界では統一貨幣であり、神の名を頂いたヘレネが貨幣として利用されている。地球でも統一貨幣には成功してないんだけどなぁ……。というか電子マネーの登場によって更に貨幣の多様性とレートのあれこれは混沌を極めているので、安定と統一された貨幣という環境だけを見るならこっちの世界のが進んでいるのではないのだろうか?

 

 まあ、何故、この話を持ってくるかと言うと、

 

「―――はい、当グランヴィル家にはリアを学園へ送るお金がありませぇぇええ―――ん!!」

 

 こういう話になってくるわけだ。

 

 グランヴィル家、俺の部屋に俺を除いた二人の姿がある。

 

 1人はグランヴィル家の令嬢であり、俺の主に当たるグローリア―――リアだ。俺よりもおおよそ2,3歳年下の彼女は漸く女としての成長期を迎え始め、体つきがもっと解りやすくしなやかに、くびれが少しずつ出来てくる年頃になってきた。残念ながらその胸は母親の様に育つ気配を見せないが、当の本人はそんな事を気にしない愛らしさが表情に見える銀髪の少女だ。

 

 もう1人はロゼ、長く伸びるウェーブのかかった赤い髪が特徴の領主の娘。勝気な性格がその表情に見える様で、実のところは心を許した相手には優しい少女だ。立場上は敬うべき相手だが、ロゼはそういう立場抜きでいる事を望んでいる。それはリアも同じである為、俺達3人娘は基本的に互いを対等な友人として、姉妹として、家族として扱っている。

 

 なお、ロゼの方は胸が育ちつつあるので、俺達の中で大きく育つ様子を見せないのはリアだけだ。

 

 さて、グランヴィル家の財政状況を口にした所でリアとロゼは揃って首を傾げた。

 

「え、そんなにヤバかった? そんな話聞いた覚えがないんですけど?」

 

「私も、特にお父様とお母さまが資金繰りで苦労してるって話は聞いてないけど……?」

 

「オーケイ、ガールズ。ここで俺の話を聞いてくれ。君ら今何歳?」

 

 2人が顔を見合わせてから口を開く。

 

「12ね」

 

「12だよ」

 

「そうだな、後3年もすれば15になる。そうすればエスデル中央へと向かって学園への入学もするだろう歳になるだろうね。じゃあ、お前らそれいくらぐらいかかるか解る?」

 

 その言葉にリアとロゼは無言になった。やはり、具体的な学費周りは全く把握していなかったらしい。まあ、それもしょうがないだろう。俺だって学生時代に学費のあれこれとか考えた事は全くなかった。そういうのを考え始めたのは正直、大学に行く頃になってからだからあんまり気にする必要もなかった。とはいえ、ここでは俺が管理側に回っている。

 

 昨年、スチュワートがついに退職してしまった。理由は勿論お歳がそろそろ辛い所になってきたからだ。俺もその代わりに働けるレベルにはなったので仕事を引き継いだ形での引退だ。特に問題もなく退職金も出て円満退職だ。そこは何も問題ない。だけど引き継いだ管理業務の中にはそう、グランヴィル家の帳簿管理もあったのだ。そこに学費の積立金ねぇなあ……と思った時にマジで嫌な予感がしたんだわ。

 

 ちなみに街でランチをするなら1食60ヘレネぐらいはする。つまり価値的に10ヘレネで100円するとざっと計算すりゃあ良いのだろう。物価の問題もあるのでこのレートが常に成立する訳じゃないんだが、それでも解りやすいレートは大体こんなもんだろう。

 

「3年間通うのに必要な学費はまず120万ヘレネだ。これは入学金と毎年進級する時に支払う金額込みでの値段な? だけどこれとは別に寮での部屋代、食事代、服や教科書、雑貨、交友費とかも入ってくると年単位通しで考えれば万単位で金額上がってくな?」

 

「まあ、確かに中央の学院となればそれぐらいにはなるわね」

 

 無論、ここでエドワードとエリシアが娘を送る場所に妥協するつもりはないだろう。1番高い所を軽く見積もっているが、目的はロゼと一緒だ。ロゼは金額を確認して高いけど払えない額ではないと判断する。まあ、辺境伯って相当金があるしこれぐらいは払えて当然だろう。

 

 だがリアの顔が一瞬で青くなった。そうだろう、そうだろう。そうだよなぁ。

 

「ウチに学費を支払える能力なんてありませぇぇぇぇん!!!」

 

「うわあああ―――!!」

 

「そんな大げさな……」

 

 ロゼがはあ、と頬杖を突きながら溜息を吐いた。

 

「どうせ借金するんでしょ? どこの家も良くやっている事よ。確かにグランヴィル家程小さい家となると何らかの担保無しでは借金できないでしょうけど、ウチがそれぐらいなら面倒見れるわよ」

 

「俺も最初はロゼにたかろうと思ったんだよ」

 

「おい」

 

「だけど聞いたんだよ、積み立ててないのにお金、どうするんだって。エドワード様に。返事、何だったと思う?」

 

 ご本人の言葉はこうだ。

 

『え? 家宝とかを質に入れれば……まあ、なんとか。別に』

 

「俺は思ったね。今世紀最大のホラーだって」

 

 その言葉に俺は頭を抱えた。いや、判断としては正しいのかもしれない。だけど家宝を売らないといけないという事はつまり、それだけ生活に困窮しているという事だ。家宝を売らなきゃ学園に送れないのなら、そういう生活が悪いに決まっている。いや、別に田舎のスローライフを責めている訳じゃないのだ。だが実際問題リアに好きにさせる為に一度は中央の学園へと向かわせる……その為に家宝を売るというのは、ちょっとおかしくない? もっと前からお金を溜めようよ!

 

 まあ、家宝とか宝石とかそういうのにあんまり興味とか所有欲のない一家だってのは解ってるけど、それでもポンと売るのは違うだろ。

 

「少なくともまだ入学には3年ある―――それまでにリアの学費を稼ぐ方法だってある筈だ。家宝みたいなもん、絶対に大事だし取っておくべきだと思うし。だからリアの学費を稼ぐべきだと思うんだ」

 

 その言葉にリアは強く頷く。

 

「私も賛成。お父様とお母様がそうやって学費を出してくれるのは嬉しいけど……そうやって物を手放してまで通いたいとは思えないもの。今からならまだ稼いで何とかなるかもしれないし、私は頑張ってみたい」

 

「2人揃ってまた無謀な事を言いだしちゃってまあ……」

 

 俺達の言葉にロゼは呆れた雰囲気を纏いながらも放っておけないなあ、という気配をありありと見せていた。口では文句を言う癖に行動は人一倍素直な所が可愛いんだ、こいつ。猫を相手にしているみたいな感じはある。

 

「という訳でリアの学費と生活費を稼ごう! 目指せ120万! うわ、言葉にした瞬間無理に思えて来たわこれ」

 

「これ、税収とかあるから私は比較的に見知った数字だけど平民からすると夢のまた夢の様な金額なのよね……」

 

「正直頭がくらくらする額だよね。何か月分の生活費になるんだろ?」

 

「ウチ基準で言うなら年単位で遊んで暮らせるだけの値段だよ」

 

 まあ、ウチは月辺りの生活費大体1~2万だしね。街で購入するものと言ったら消耗品程度だし、それ以外の野菜や果物は育てたり採取してきた、肉も俺とアンで狩猟してくるし。必要なものがあれば作るか直すかで再利用すれば良い。貴族とは程遠い生活を送っている気がするが、これが割と最近のグランヴィル家のスタンダードだ。ちなみに野生動物の調教も出来たので最近は割と生活が楽な部分もある。

 

 だが1か月1~2万で過ごせるという事は、大体60か月分―――この金で5年以上は生活出来るという事だ。

 

 相当ヤバイ数字だな? 地球の両親よ、未だに健在かは解らないが学費の件は本当にお世話になりました。

 

 まあ、それはさておき。これは相当大きな数字で簡単に稼げる額ではない。ぶっちゃけ俺が体を売った所でアレ、そんな金にならないから到底学費を稼げる金額に届く訳じゃないんだよなぁ……と思うと金を稼ぐというのは存外難しい。まあ、元から体を売るつもりは欠片もないのだが。いや、生え変わった鱗を売るのはアリかもしれない。タイラーに素材として渡してみたら滅茶苦茶喜んでいたし。そういや俺は龍だから体が物凄い価値のある素材なのかもしれない。別の意味で体売っちゃうか? いや、それは滅茶苦茶怒られるパターンだな。

 

 主にソフィーヤに。

 

 あの神、多分やる気になれば夢にぐらいは出てくるだろう。

 

 さて、思考をそろそろ戻そう。

 

「この金額をどうやって稼ぐか……って話になるけど……俺は一応ちょっとした案を考えてるけど、2人はなんかアイデアない?」

 

「私はちょっと直ぐには思いつかないかなぁ……お金を稼ぐ、っていきなり言われても何がお金になるんだろうって疑問もあるからな」

 

 リアは駄目だなぁ、と溜息を吐く。まあ、グランヴィル家はお金とは縁遠い生活を送っている所だ、こういう考えに疎くても仕方はないだろう。なら本命のロゼはどうかと言うと、うーんと唸りながら腕を組んでいる。

 

「そうねぇ……。お金を稼ぐ、というだけなら複数手段を思いつくわ。作業員を募集している現場は結構あるし、手伝いや人材を求めている職場だって知っているし。ただこういうタイプの仕事って結局は長期で働いてコツコツお金を貯める生活の為の職だからあんまり払いが大きいとは言えないのよね」

 

「まあな。手に職付けるって結局は安定を求める為の動きだしな」

 

「そうね」

 

 安定を求めて就職―――正規雇用。まあ、このルートはまず外れる。大金を扱う事がまずないからだ。逆に言えば安定性を欠いた所にこそハイリターンが待っている。それを成してこそ大金は得られる。だから安定を捨てる事から考えなきゃいけない。米転がしなんて事、現実で早々できる事でもないし、やれる事でもないだろう。この世界、ガチの取引は商業の神に誓って行われるらしいし。

 

「商会とかを立てて経済に食い込むって手段もあるけど売り込むものもないのよねぇ」

 

「文化テロは大体魔界連中がやってるしな」

 

「楽しそうだよね、魔族の人たち」

 

 3人揃って知っている魔族を思い浮かべる。街でギターを片手にストリートで演奏している売れないミュージシャン。何が面白いって使ってるの魔導式のアンプとエレキギターで完全に文化も文明も無視してロックを鳴らしている事だ。まだブルースもジャズも生まれていない世界にいきなりロックを持ち込むんじゃないよ馬鹿。

 

 ちなみに人気はそこそこ。

 

 こういう事を平気にやってくる連中なのでマヨネーズとか、そういうおなじみで良く見られるとりあえず開発してみる系の異世界あるあるは全滅している。

 

 全滅している。

 

 製本技術が普通に流出して世界を回っているので、文化汚染の具合は実はかなり深刻だったりする。考えれば考える程深みに落ちて行く文化と文明の関係性、それを破壊しつくしたのは異世界からの訪問者!

 

 完全に全方位テロなんだよなぁ。武力を一切行使しないだけマシなんだが。でも俺が最強チート成り上がりする隙間が潰されたんだが? まあ、元からやる気一切ないが。

 

 ともあれ、商会立ち上げ案は無理なのでなし。

 

「まあ、小遣い稼ぎ程度にはなるけど3年もやればそれなりの金額になるだろうし、リアにはウチで働いてもらうって手もあるけど……それとは別にエデンには案があるんでしょ? そろそろ聞かせてくれないかしら? ……まあ、大体予測はつくけど」

 

「え、ほんと? 全く解らないんだけど……」

 

 リアの言葉にロゼが複雑そうな表情を浮かべる。

 

「まあ……うん、エデンにしかできないというか。エデンだからこそ可能というか……ココが辺境だからまあ、可能というか……あんまり考えたくないんだけど……」

 

 ロゼのすぐれない表情に向かってデデン、と満面の笑みで応える。

 

「はい! 俺、エデンはこの度、冒険者に成ろうかと思っていまぁす!!」

 

 目指せ! 成り上がり冒険者!

 

 ―――目標まで後120万ヘレネ……!




 感想評価、ありがとうございます。

 思春期学費稼ぎ編開始で御座います。幼年期と比べて成長したので見える世界も、移動できる範囲も増えて、エデンの活動範囲が前よりも大きく広がった世界で学費を稼げ!

 なお間に合わなくてもエドワードが普通に家宝を売って学生編に入るだけなので実質的なデメリットはなし。

 でもこういうくだらない事に奔走するのが思春期の青春という奴では?

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