TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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貧乏零細貴族 Ⅱ

 この辺境は常にモンスター被害で悩まされている。

 

 改めて辺境と言う環境、土地の話をするとなるとまずは()()と言う話を出さなきゃならない。広く、未開拓で、手つかずの土地が多い。それが辺境と言う環境になる。その上で山、森、巨大な湖に岩場の荒れ地という不思議な環境がこの広い土地には存在している。この土地の多様性はとあるファンタジー的な事情を由来として発生しており、ソコソコ珍しい現象でもあるのだが……そこは割愛しよう。重要なのは辺境という土地は誰から見ても豊富な資源の宝庫だと思えば良いだろう。

 

 そして辺境伯であるサンクデルはこの土地の開発と守護を主導している。国境の警備と土地開発、この二つを行う権限を持っているのが辺境伯という役目であり、サンクデルはその為に軍事力と大規模な資金力を保有している。数年前の鉱山での事件を思い出せばわかるが、サンクデルはああいう事件に対処する能力を持っている。グランヴィル―――つまりエドワードへと依頼して直接対処させるのも立派にサンクデルの対処能力の一つだ。こういう手札をサンクデル辺境伯は複数保有している。有事の際に即座に動かせる単独の高戦力ユニット、辺境という土地で育ったモンスターを討伐するにはどうしてもエースが必要なのだ。

 

 だがその全てに常に対処できる訳ではないし、サンクデルのみで対処できる程人間は有能にはなれない。ならどうするのか?

 

 サンクデルはそこを外注する事で解決する策を見出した。

 

 つまり冒険者ギルドと連携する事だ。

 

 辺境という土地が保有するポテンシャルはまさにビッグビジネスを生む。それは当然開発を進めるサンクデルだけではなく、辺境に用事を持つ人々にとってもだ。そしてこれに食い込むのがギルド活動だ。冒険者という何でも屋を運用するギルドが辺境へと来ることには大きな意味がある。

 

 何せ、冒険者の質は基本的に辺境へと行けば行くほど増すからだ。より強いモンスターで溢れ、仕事が増える辺境ではより優秀な人材が求められる。それに比べ中央では冒険者は不要とされ、大規模なクランや継続して仕事を取ってこれるコネを持つ冒険者でもない限り、本当にベビーシッターみたいな仕事やドブ掃除みたいな仕事しか見つけられないからだ。

 

 だから基本的に冒険者という生き物は仕事を求めて辺境へと移動してくる。ギルドの昇級試験やその内容をクリアする上で実のところ、都会よりも辺境の方が達成しやすいというのが事実だからだ。その為、上昇志向のある冒険者や、理解のある頭が良い奴は基本的に辺境へと仕事を求めてやってくる。

 

 サンクデルはこの性質を利用してギルドで自らの持つ問題の幾つかを解決させる事を選んだ。特にモンスターの間引きや“指名手配モンスター”の討伐はギルドに期待される一番大きな仕事だ。サンクデルはこれをギルド側に依頼として常に提示しておく事で自分の軍が本来であればしなければならないモンスターの間引きをギルド側へと外注する事が出来た。ギルド側も領主から報酬を常に得られ、領主との太いパイプを維持する事が出来る。冒険者側もとりあえずは間引き依頼で食いつなぐ事も出来る。

 

 誰にとっても美味しい関係の出来上がりという事だ。

 

 個人的にも良く出来ていると思うこの関係性だが、それでも辺境の開拓が素早く展開されない事には色々と理由がある。

 

 その最たる理由が“手配書モンスター”の存在だ。

 

 辺境が中央と最も違うのは、中央では軍が定期的に周辺地域のモンスターを殲滅している。これは主要街道などの安全性を確保するものであり、その為に出動する軍隊や騎士団で治安の維持も出来るからだ。中央はそこそこ広いが貴族や有力者も多く存在している。その為、中央付近の安全は確保されている。これが主に冒険者の仕事の質が低くなる理由でもある。つまり力さえあれば何とか食いつなげるという仕事が中央では存在しないのだ。

 

 当然、盗賊退治なんかも軍の管轄だ。見つけ次第中央の精鋭たちが抹殺に向かうのだから、冒険者やフリーランスが盗賊や山賊等の賊を相手にするというケースは非常に稀だ。辺境でさえサンクデルがこの手の賊を真っ先に抹殺しに行くのだから、本当に冒険者にこの手の仕事は回ってこない。あるとすれば村が襲われて数時間以内、領主へと報告が届く前にギルドへと依頼として持ち込まれた場合だろう。この時、領主への報告と自分で解決するスピードを天秤にかけたギルド側が緊急依頼として殲滅し処理する。

 

 ともあれ、辺境開拓最大の障害とも言えるこの“手配書モンスター”とは、辺境の特殊な環境ですくすく育ってしまったモンスターの事だ。中央と違ってモンスターを殲滅しきる事が出来ないこの辺境では、モンスター達が殺し合い、食らい合い、自然の中でたくましく成長して行く。その結果、1つの環境の支配者や群れのボス、或いは変異によって特殊な個体などが生み出される事がある。中央と違ってモンスターが生き延びてしまうからこそ発生する問題だ。

 

 この手配書モンスターというのは、恐ろしく強い。即死攻撃や特殊耐性を持つ個体も居るため領主といえど簡単に手を出す事の出来るモンスターじゃない。その為、情報収集を兼ねて領主がギルド側に懸賞金を設定して手配書を出し、冒険者側でそれを処理できる人間を探して挑む。そして一定期間処理する事が出来なければ、領主側は集めた情報を固め、直接処理出来る人間に依頼する事で排除し、土地の安定化を図る。それからすぐに土地の開拓が行えるわけではないが、それでも手配書クラスのモンスターを討伐する事でその土地が更に魔境化する事は抑えられる。

 

 そしてサンクデルが一度に開拓できる土地の範囲は決まっている。現状、手配書モンスターの出現は仕方がないという部分もある。人員や人材が増えればまた話は変わってくるのだが、そういうものは簡単に増えるものでもないだろう。

 

 だから俺はここに目を付けた。

 

 ギルド側で処理しきれなかった手配書モンスター、その処理を行っているのがエドワードだ。それがグランヴィル家の収入の一部となっている。そのほかにもなんか細々とした討伐依頼を任されているらしいが、俺はこれが俺の稼げる道だと思った。

 

「冒険者になって手配書の処理を俺で行う。そしてその金を貯金に回す! これが俺のプランだ!」

 

「うーん……なんかエデン1人に仕事と危険を押し付ける形でなんか私は嫌だな」

 

 俺のプラン、それを説明した所でリアが難色を示した。だがロゼは違った。

 

「でもエデン、ここ数年はエドワード様と一緒にお父様の討伐依頼を処理しているのよね? 毎回無傷で戻ってくるし、実力的にも処理するには十分すぎる能力があるとは思うわ。まあ、リアの言う事は私も解るけどね」

 

「というか俺らが稼げる方法が少なすぎるんだわ! 商売とかなんとかは俺の管轄外だぞ!」

 

「まあ、うん」

 

「正直そこら辺の頭を捻った所エデンには期待できないわよね」

 

「あぁ!? 俺が馬鹿だって言いたいのか!? まあ事実だわ……」

 

「キレるな」

 

 一瞬スンッ……としながら他に色々と考えてみたが、正直どうすれば稼げるかというアイデアが全く浮かんでこなかったのが悪い。結局のところ、物事は一番シンプルに落ち着けるのが良いと思っている。最悪、俺が持っているジッジの遺産から売却用の宝石や宝玉があるからそれを探索地で拾ったと偽って売れば何とかなるだろう。いや、そう言えば出所を確認されるからそういうのは無理か。

 

 5年前、龍の遺跡の事件後の話だ。あの遺跡はもぬけの殻となったが当然領主へと報告され、そしてテンションが天元突破した学者たちが護衛を連れてこの地にやって来た。そのおかげで一時、この辺境はドラゴンフィーバーしてた時期がある。世間一般では龍は悪者扱いされるのが事実なんだが、それでも信長がフリー素材に使われるように龍も割とフリー素材扱いされている。ドラゴン饅頭とかで商売を始める連中、嫌いじゃないよ。

 

 龍の歴史が埋もれる土地! とか売り出しているのも正直頭悪いと思う。お蔭でドラゴンハンターが何人か来てるじゃんここ。まあ、それが人の姿になるなんて全く思わないから連中、街中で俺を見かけても何もしないんだが。

 

 まあ、話を戻そう。

 

「だから俺は近々冒険者の資格を取得して、そのまま探索地での手配討伐を行って懸賞金を集めようかと思う。実は事前にターゲットになりそうな奴を確認してきてるんだ」

 

「手回しが良いわね」

 

 事前に用意していた手配書を近くの棚から回収し、テーブルの上に広げる。広げる手配書は三つだ。

 

「一つ目はアルヴァの岩場に出現するタイタンバジリスク。もう一つはトール街道のワータイガー。最後のがセオ樹海ブラッドマントラップ。ターゲットはこの3体だ」

 

 どれも単体で強く、そして対処法が非常にめんどくさいモンスターの代表格だ。テーブルに並べた手配書をリアとロゼが覗き込み、ロゼが口に手を当てながら呟く。

 

「まあ、よくもこんな極悪な連中の手配書ばかりピックしましたわね……。どれも金属上位相当じゃない」

 

 金属級、とは冒険者ランクにおけるシルバーやゴールド級等を示す階級の事だ。つまりベテランによるパーティー推奨、それも上位となると個人での高戦闘力を望まれるタイプだ。こういう風に金属級上位相当、下位相当でどういう方向性かは見えてくる。金属上位となると既に人への被害は出てるレベルだろう。

 

「タイタンバジリスク、懸賞金8万。ワータイガー、懸賞金10万。ブラッドマントラップは7万……流石にこのクラスの懸賞金はどれもヤバイわね」

 

「でもこれだけの値段がついてて未討伐って事はそれ相応の強さと被害があるって事なんでしょう? やっぱりエデン、これ止めない? 私はこういうのちょっと怖いんだけど」

 

「でーじょーぶ、でーじょーぶ。ぶっちゃけこいつらじゃ俺の(はだ)を傷つける事は出来ないし、タイラーさんから俺の鱗を素材にしたインナー作って貰ったから昔みたいに上半身裸になるって事もなくなったから」

 

 タイラーさん、与えられた素材をどうやら謎の技術というか神の魔法を使って性質を残したまま繊維化して糸にしたり布へと紡ぐ事が出来るらしい。なので俺の生え変わった鱗を提供してみたら絶対に破れないインナーが出来上がったりした。軽い気持ちで提供してみただけに恐ろしい結果になったのは正直怖い。だけどあのおかげで鱗に価値あるんだなー、って思えたりもした。まあ、重要なのはこれで俺が昔みたいに戦闘する度に服をぼろぼろにしてほぼ裸で帰ってくる事を心配しなくていい事だろう。

 

「そういう問題じゃないよ、エデン」

 

 でも俺が提示した根拠にリアが頭を横に振る。

 

「私は単純にエデンが辛い思いをしないかどうかを心配しているの。そりゃあエデンは大丈夫かもしれないよ? だけど私の事でエデンに苦労させてないか、無理をさせてないか、余計な荷物を押し付けてないか……って考えると心が苦しいよ」

 

「うーん」

 

 リアのその言葉に頭を掻く。

 

「いや、まあ、そりゃあ確かにちょっとは痛い目を見るかもしれないし大変かもしれないけど……別にそれが苦しいとかは思ってないぜ? 楽しくて、好きでやっている事だし。リアに心置きなく学生生活をエンジョイして貰いたいと思っているし。だからそう重くとらえる必要はないって」

 

 ぽんぽん、とリアの頭を撫でると本当に? と首を傾げて覗き込んでくるのでもうちょっと頭を撫でる事にする。目を細めて撫でるのを受け入れてるのでこれで誤魔化せる気がする。

 

「まあ、それで良いなら私としてもそれで良いけど……倒せるの?」

 

「俺は即死攻撃持ちやぞ」

 

「愚問だったわね……」

 

 防御力と即死攻撃で無理矢理ダメージを押し通してダメージレースに勝てばいいんだ。少なくとも龍殺しが出て来ない限りは俺、誰が相手だろうと即死させる自信はある。まあ、そこら辺戦術をきっちり理解しているエリシアは最近の鍛錬、手合わせする度に防御を抜いてくる上にヒット&アウェイで絶対に能力の干渉範囲に入らないように立ち回ってくるので一向に勝てないのだが。

 

 あの人妻もしかして俺と鍛錬するようになってから増々強くなってない???

 

 一介の人妻に許される戦闘力じゃないだろアレ。最近素の技量のみで鱗を突破し始めてるのマジで怖いんだぞ。

 

「しかし手配書を目的とするとやっぱりランクとかは無視する方向性?」

 

「まあ、3年の間にブロンズまで目指せるなら目指すけどメインは手配書狩りかなぁ。一番実入りが良いし。狩れそうな獲物がない時は間引きに回りつつ金策方法を探す感じで」

 

 とはいえ手配書モンスターは年中出現している訳ではない。この3体を纏めて狩れば合計で25万ヘレネ、1年の学費が40万だと考えるとたった3体で半年分の学費を稼げることになる。だけどそれだけの値段が付けられるという事はそれだけの危険性があるという意味でもあるし、これだけの値段がつくには相応の被害が出る必要がある。

 

 そう簡単に出てくるような連中ではないのだ。

 

 たとえばワータイガー。人肉の味を覚えた虎人に良く似たモンスター。その姿から虎人に姿を誤解され、其方へ風評被害が流れている。街道に出没しては旅人等を襲撃し、人を喰らう。その怒りを買って虎人達が連名で依頼している。街道に出没し、少数の人間の時しか出現しないという悪知恵を働かせている事から集団で討伐する事は不可能なのが非常に厄介だ。中々足跡を掴ませない知性を持った相手であるのと、街道に出没するという危険性によって高額が付けられている。虎人達からは完全無欠にぶち殺してくれというラブコールが向けられている。まあ、姿似てるししゃーないわな……。

 

 こんな風にそれ相応の被害や危険度の確認がされて初めて手配される。

 

 こういう指名手配がかかったモンスターを専門に討伐依頼を進める冒険者を“バウンティーハンター”と呼ぶらしいが、俺が目指すのはそれだ。

 

「今一不安を感じるけど……短期で一気に収入を得るという意味ではある意味理にかなった話ではあるのよね。……本当に大丈夫かしら?」

 

「大丈夫大丈夫、俺を信じろって」

 

 そう言って胸を張ってから数秒、沈黙してみてからぼそっと口に出す。

 

「……なんかこれ発言と根拠のなさがそのまま行方不明になって苗床にされる初心者冒険者のそれだよな……」

 

「エデン―――!!」

 

「うわっ!」

 

「きゃっ、ちょっと! エデンも余計な事を言わないでよ!!」

 

 テーブルを超えて抱き着いてきたリアをよしよし、としながら宥める。今のは俺の発言が悪かったが。とはいえこれぐらいごり押ししないと3年間で120万稼ぐのは相当難しい。

 

 だからやるぞ。

 

 俺はやるぞ!




 感想評価、ありがとうございます。

 あまり深く考えていないけど勢い9割のエデン。
 身内に対して駄々甘で簡単に押し切られるリア。
 頭は良いし時間を与えれば解決できそうだけど身内の押しには弱いロゼ。

 経験も知恵も足りない三人娘でこの章は提供されます。

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