TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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バウンティーハンターエデン Ⅱ

 扉を開けてギルドへと入る―――相変わらずギルドは薄暗いとか汚いとか、そういうイメージからは程遠い場所になっている。清潔に、綺麗に保たれているギルド内部は誰が来ても良い印象を与えるように明るめの色を選択して塗装されている。観葉植物なんかも置いてあって緑もあり、ココが血なまぐさい仕事を探している人間の巣だとは思いづらいだろう。だが実際のところ、少し奥の方へと視線をむければ休憩用のテーブルでは昼間から酒を飲んでいる姿や、少々物騒な商品を取り扱う商人の姿もある。

 

 そんなギルドの中へと踏み込んだ所でカウンターの方からお、という声がかかった。声に従って奥の方へ視線を向ければ、カウンターの向こう側から眼鏡をかけた青年が片手を振っていた。その耳は人のよりも少しだけ尖っており、よく見れば緑色の髪からは花が生えているのが見える。木々の特徴を備えた種族、森人だ。人よりも遥かに長く生き、そしてゆっくりと成長する賢人の種族。エスデルはそのお国柄、森人の里が複数存在しており、こうやって街中に溶け込んで暮らしているのが比較的よくみられる。これ、実は他国だと相当珍しいらしい。

 

「やあ、エデンちゃん。その様子を見る限りはついに冒険者になる事にしたのかな?」

 

「おっすおっす。とりあえず金策する必要あるからね。ウィローなら解ってると思うけどハンターとバウンティー稼ぎ方面で進めて行こうかなって」

 

 なお森人は習慣的に草花や木々の名前を己に付けるらしい。中々面白い文化をしている。良く考えると種族や地域によって命名法則の違いもあるんだよな。調べてみたら意外と面白いかもしれない。

 

「そうだね……君のその圧縮された生命力と次元違いの肉体の存在強度。それがあれば辺境の生物と言えど、大体どうにかなるだろうしね。私は大歓迎するよ……とはいえ、マスターが話したそうにしているから、話してあげてくれるかな?」

 

 サムズアップでウィローに応えると、カウンターの奥から初老の男性が出てくる。ギルドマスターは軽くウィンクと共に挨拶してくる。

 

「良く来たね、エデン。私としても君の登録を非常に楽しみにしてたよ。領主様からも非常によく働いてくれていると評判を耳にしているからね」

 

 評判とはつまりエドワードと一緒に出ている仕事の事だ。結局のところ、昔あった鉱山亜竜事件の様な討伐依頼を俺は毎度、エドワードと出かけてやるようになったというだけの話で、それをサンクデルもちゃんと把握しているという事だ。まあ、毎回ちゃんと報告しているのだから当然と言えば当然なのだが……その話がギルドマスターに届いていたのはちょっと意外だった。

 

「そんな話ご存じだったんですね」

 

「うむ。強くて将来有望な新人は何時だってどの業界だって欲しいものさ―――特に他の職に流れず土地に根付いて定期的に仕事を処理してくれそうな子はね……!」

 

「最後に本音出たな」

 

 強く拳を握りながら力説するギルドマスターの姿に、呆れの空気が漂う。とはいえ、冒険者は状況や仕事次第では1つの地域に留まらないのが基本だ。その中で俺はグランヴィル家に仕える立場だ。つまり一生をこのヴェイラン辺境領で過ごす事になるだろう。つまり冒険者として登録すればここで定期的に小遣い稼ぎとしてやってくる見通しが出来る。副業として、本業程ではなくても定期的に辺境の凶悪なモンスターを相手にしてくれる人が増えるのはギルドマスターとしては喜ばしい……という事なのだろう。

 

 割と必死なんだなー。なんて事を思ったりする。まあ、今はどうでもいい事だ。いや、関係はあるんだが俺が深く考える様な事ではない。だからギルド側の事情はとりあえず忘れておく。俺にとって今重要なのは冒険者の資格を取得し、そして報奨金や手配書の懸賞金を受け取る事が出来るようになる事だ。

 

「とりあえず、冒険者の登録をお願いします」

 

「うむ、任された―――ウィロー君が」

 

「そこで投げますか? いえ、まあ、仕事だからやりますけど」

 

 ちなみに青年にしか見えないウィローの方がギルドマスターの2倍は生きているらしい。こう見ると初老と青年という関係が一瞬で逆転するのだから、異世界種族問題は面白い。まあ、なにはともあれ、ギルドマスターは挨拶しに来ただけみたいでそのまま後ろへと戻って行く。ギルドマスターが下がった所でカウンター前へと改めて移動し、それではと軽く片手をあげて頼む。

 

「それじゃあ既に何度か足を運んで話は聞いてますけど、また1から説明お願いしますわ」

 

「そういう所は結構マメというか真面目だよね、君」

 

 元日本人としての気質かなぁ……。

 

 しかしウィローの方も準備だけはしていたのか、数枚の紙と羽ペンを取り出した。

 

「それじゃあこのヴェイラン辺境領でのギルド登録には軽い試験を行わせて貰っているよ。中央ではこういう事をせずに登録料を取っているけど、辺境ではそういう事をやっていると屍が積みあがるからね。命、無駄にしてはいけないし。無駄に死人が出ないように能力があるか確認させて貰っているんだ」

 

「逆に言えば中央ではそこまで人命を重視してない、と」

 

「うん」

 

「断言した……」

 

「いや、だって、うん……ほら、あっちって人が多くて仕事が取り合いになるし、その分暗闘とかスラムでのあれこれとかあるからね?」

 

「ふえぇぇ……」

 

 中央怖いよぉ。でも中央はモンスターとか殲滅されていて辺境と比べるといないって話じゃなかった? 後は賊の類も存在しないとか。となると別方面で命を消費する事があるのか。こういう話、改めて調べておくのが将来的に大事なんだろうなぁ……と思いつつ、ウィローから用紙と羽ペンを受け取り、近くのテーブルに移動する。

 

「テストって訳じゃないけど適性とか見る為のものだから、気軽に書いてね。終わったら教えてね」

 

「はーい」

 

 受け取った用紙をテーブルに置いてからディメンションバッグに手を突っ込んで、そこからファッショングラスを装着してちょっとインテリっぽくなってみる。そのままインク壺に羽ペンを差し込んで書いてある内容を確認してみる。

 

「ほーん……読み書きできるか試して基本的な知識が備わっているか確認する感じか……」

 

 名前、年齢、所属等の簡単な情報の他にはこの土地の名前書ける? 解る? みたいな本当に簡単な事を要求されている。その下にはギルドに所属している場合のリスクの事や義務も書かれている。冒険者として働く場合年間でランクに合わせた一定の額を支払う必要があり、支払えない場合はライセンスを凍結される。支払う額を落とす為にわざと低ランクを維持している奴はギルド側から事情聴取と場合によっては仕事が回されなくなる、と。

 

 意外としっかりと書面で釘を刺してくるんだなぁ、とさらさらっと記入してしまう。確認してみるが特におかしい所があるようには思えないし大丈夫だろう。小さく何か文字が書かれているクソみたいな契約書でもないし。とりあえず読み書きはほぼ完璧に出来ているから、この手のペーパーワークで困る様な事はない。何せ、将来的にリアを支える為にこの手の技能を磨いているのだ。今更間違える事もないだろう。

 

 数枚、全部読み通して記入事項を終えたら纏めて羽ペンと一緒にカウンターのウィローへ渡す。

 

「はい、終わりました」

 

「うん、確かに受け取った。読み書きもしっかり出来ていて偉いね」

 

「しっかりと教えられたからなぁ。まあ、これぐらいなら特に問題は」

 

「エスデルは読み書きができる人間が全体から見て比較的に多い方だけど、それでも読み書きのできない人ってのは結構多いからね。教育そのものはお金かかるし、それが出来ないから暴力を頼りに冒険者になろうって手合いも決して少なくはないんだ」

 

「俺とかそういうタイプだったぜー」

 

 別の方のテーブルから声がする。振り返ると冒険者の一党、その内の1人である斧を横に置いた戦士が手を振っていた。

 

「俺は読みも書きも出来なかったしな。代理で読んでもらって、代筆も頼んだからな。それで終わって冒険者になれたと思ったら読みと書きの必要な事のまた多い事多い事。あの時期程読めない事と文字を書けない事が不便だと思った時はなかったな」

 

 まあ、今は死ぬほど練習してどっちも出来るが、と話を締めくくった。それにウィローは頷いた。

 

「彼みたいなタイプは珍しくないんだ。だからギルドでは最低限の読みと書きが出来るようになるための講習会を行っていてね。冒険者限定だし、参加料金も多少は取るけど……ほら、報酬からその分差っ引けばどうにかなるでしょ? それで他の人から騙されないように自分で読み解く力を身に着けて貰ってるんだよね」

 

「ぼろい商売だなぁ」

 

「人聞きが悪いなぁ……事実だけど」

 

 文字を読めない、書けないという事は誰かに代筆を頼んでもらったり、口頭説明を必要とするという事だ。書面で書いてある事を理解できないから嘘を信じさせられ、不当な契約を結んでしまうなんて事だってある。それを防ぐにはやはり文字の読み書きを覚えるのが一番だ。だが当然のように教育とは金のかかる事だ。実際今、リアの年間40万の学費を稼ぐ所なのだ。これは国家最高クラスの学園に通う為の金額だが、それでも平民から見ても普通の学校や教育というのはかなりの金食い虫だ。それをある程度簡易化し、払えるレベルにまで下げているギルドの努力は中々のものかもしれない。

 

 まあ、俺はしっかりとそこら辺は叩き込まれているのでどうでも良いだろう。

 

「さ、これが終わったら次は実力テストかな……正直やる必要はないと思うけど形式的にね」

 

「うっすうっす。よろしくお願いしやっす」

 

 苦笑するウィローが席から立ち上がるとカウンターの向こう側から此方へとやってきて、ギルドの横の扉を示す。

 

「あっちからギルド裏手の訓練場へと行けるからそっちでちょっとした実力テストをするよ」

 

「うっす」

 

 ウィローに追従するようにギルドの裏手へと向かって移動する。ギルドのロビー以外には行った事がないので、実は訓練施設を利用するのはこれが初めてだったりする。まあ、この街もそうだが辺境は土地が有り余っているのだ。ギルドの裏手に訓練施設を用意するぐらいは何て事はないのだろう。ギルド横の扉を抜けて通路に入り、そのまま裏手へと回るように訓練場へと出ると―――後ろからぞろぞろと先輩方が付いてくるのが見えた。

 

 足を止めて振り返りつつ、

 

「あのさあ」

 

「いや、だって気になるじゃん……」

 

「見たくない? 俺は見たい」

 

「新人ちゃんの良い所見てみたいなあ!!」

 

「出来る事ならパンチラしてくれないかなあ、って」

 

「ふんっ」

 

 迂闊な発言をした結果、約一名女性陣からリンチを喰らい始めたが俺の知る事ではないのでとりあえず無視する。その間にもウィローは先に進んでいた。

 

 ギルドの訓練場は石壁に囲まれた広いスペースだった。足元は踏みやすく、力の入りやすい土になっており、練習台や目標としての役割を果たす為の木人が並べられているスペースなどがある。その中央へと移動したウィローは魔力を練り上げると手を軽く地面へと向かってかざし、魔法を行使した。

 

 次の瞬間、大地を突き破って木が生えた。ただし真っすぐではなくうねる様に、からみあうように形を形成する木は2メートルほどの高さまで成長し、その形を人に似た形へと作り替わった。巨大な腕と両足、そして太い胴。頭らしき部分からは大きな花を生やしたウッドゴーレムの誕生だった。

 

 ウッドゴーレムから数歩離れると、手に絡みつく様に生やした蔦をウッドゴーレムへと繋げ、その操作を行う。両足を大地から引き抜く様に持ち上げ、両腕を素早く振るうように動かし、そして軽くジャンプする。軽快な動きを見せるウッドゴーレムの姿は重量を持ちながらも従来のゴーレムが持つ鈍重なイメージを払拭する軽さを見せている。

 

「良し、こんなもんかな。この子は”金属”の下位相当はあるから簡単にはやられないと思うよ」

 

 そう言うとウッドゴーレムが腕を持ち上げて枝の指を握りしめるように拳を作ってファイティングポーズを取る。パンクラチオンを思わせる様な構えで素早く何度かシャドーを行い、此方の参戦を促す。

 

「無論、君ならこれぐらいは一切障害として見ないとは思うけどね」

 

「言うなぁ」

 

 とはいえ、期待されるとそれを超えたくなるのが俺という生き物。

 

 冒険者加入テスト……という名の軽い茶番(パフォーマンス)をこなす為に、俺も戦闘準備に入る事にした。




 感想評価、ありがとうございます。

 実は謎の料理人がグランヴィル家に存在したことを感想で指摘されて初めて思い出しましたが、修正しようと話を遡ったら悲しいぐらい出番がないというか最初にぽろって言って以来存在が忘れられていたので存在が抹消されました。キャラの出し過ぎには皆、注意しよう。

 次回、エデンちゃんの戦闘スタイル。

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