TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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グランヴィル家の日常 Ⅱ

「―――さて、エデン。君はかなり頭の良い子だから既に察していると思うけど、実はうちはそこまで裕福じゃないし、余裕もある訳じゃないんだ」

 

「かなしみ」

 

「うん、悲しいけどね」

 

 中庭、動きやすい服に着替えてエドワードと対面している。動きやすい服といっても結局はグローリアの着替えを俺用に手直ししたもので、現在アンが絶賛量産中らしい。つまりこういう事をしないといけない財政力という事なのだ。他の貴族様だったら普通に新しくお買い物してるんだろうなあ……グランヴィルにそんな余裕はないのです。まあ、それでもアンが超絶カリスマメイドで服飾まで出来てしまうのでパパっとサイズ合わせの手直ししてしまうあたりほんとヤバイ。この人でこの家は回ってる感じある。

 

「だから僕としては君にリアの事を任せたいと思ってるんだ。学院の話は既にスチュワートから聞いてるかな? リアを中央に送る時は従者を付けなきゃいけないからね、見栄として。だからアンかスチュワートを送らなきゃいけないんだけど、スチュワートは歳だから長旅は難しいし、アンが抜けられると我が家の管理がね……」

 

「あ、はい」

 

「そういう意味でも君が来てくれたのは本当に助かっているし、ありがたい事なんだ。アンに聞いてるけど既に簡単な雑用から手伝い始めてるんだって?」

 

 エドワードの言葉に頷く。洗濯や掃除、整理ぐらいだったら俺でも出来る。料理は日本でやっていたし、洗濯だって素手でやるにしてもこのどらごんぼでーは実にパワフルなので、体力が必要な力仕事であってもそう簡単にダウンしたりはしない。スケジューリングとタスク管理は学生時代に死ぬほどやって来た事なのでまるで苦労する事もない。現状エドワードの言う通り簡単な仕事を手伝っているだけだが、それでも仕事はさせてもらえるようになっている。

 

「正直な話、僕は君を見た目通りの年齢だとは思ってないよ。多分外見上の変化が緩やかな種族かな……なんて考えてるんだけど、どうかな? 見た目に加えて5~8歳ぐらい加齢しているとみるんだけど? ……あぁ、これはちょっと意地悪な質問だったかな。ごめんごめん」

 

 ぞっとしないんですが?

 

 曖昧な笑みを浮かべて受け流すしかない日本人の気質を許してくれ旦那様。エドワード本人も本当に冗談で口にしただけの様で、深く追求するつもりはないらしい。しかし年齢誤差5~8歳か……まあ、確かに脳味噌割とあっぱらぱーにしてグローリアと遊んだり、女の子のアレコレにドギマギして挙動不審になってるし。最近のお辛いさんはグローリアが一緒に体を洗おうとしてくる事だろうか。アンは奉仕の一貫として覚えるべきだと言ってくるけどいやー、キツイです。

 

 成長したら更にキツイと思います。だったら今のうちに慣れるべきなんだろうけどね? うん……自分の裸を見る事でさえ未だに恥ずかしいんだから察して欲しい。

 

 男だった時は全裸でヘッドスピンとかしてたのになー。

 

「まあ、そんな訳で君をリアの傍におけるだけの人材に育てようって僕とエリシアとは相談して決めててね。君が良いのなら僕らはそういう方針で進めるつもりでいるんだけど―――うん、その目を見れば意欲的だって解るよ。ありがとう、君のおかげで将来的な不安が解消されそうなんだ」

 

 エリシア、とはエドワードの奥さん、つまりこのグランヴィル家の奥方だ。元は国の方でやってた女騎士だったらしいのだが、女騎士なんて生き物ガチで実在したのか? って個人的にはおったまげた。ちなみに俺が知る限り現在は滅茶苦茶優しくて甘いグローリアのママさんなので、元は騎士だと言われても信じられないぐらいには穏やかな人だ。

 

「此方、こそ。拾って、くださり、ありが、とう、ございます」

 

 手を振って大きくジェスチャーを取る。それを見いたエドワードが微笑ましそうにする。

 

「良し、君もやる気があるならとことん教えてあげよう! という訳で今日からはリアを守る為の術を教えて行こうかと思う」

 

「おー! おー……?」

 

 護衛の術、と言われてもちょっと困る。具体的には何を教えてくれるのだろうか? その、エドワードは余り強いようには見えないのだ。なんというか、ちょっと不安になってくる。本当に大丈夫? という疑いの視線を向けるとエドワードが笑った。

 

「ははは、そうだね。見た感じ僕は強そうに見えないけど……こう見えても元宮廷魔術師なんだよ? まあ、だからこんな辺境の土地を貰ってスローライフを楽しんでいられるんだけど」

 

「魔術師」

 

「そう、魔力を使い、魔導を紡ぎ、その法則を以って魔の力を振るう者だよ……気になるでしょ?」

 

 全力で頷く。

 

「良し、良い返事だ。エデンの中にはかなりの魔力が眠っているからね。正直それをそのままにしておくのは勿体ないと思っていたんだ。エデン程の格のある種ならたぶん先天術式の1つか2つはあるだろうし、魔導の道を叩き込むのはちょっとだけ楽しみにしてたんだよねぇ」

 

 ほら、娘にこういう趣味を押し付けるのは余り良くないし、とエドワードは続ける。

 

「でもリアの護衛の為という名目なら好きなだけ教えられるしね!」

 

「必要、です?」

 

「うーん、そうだねぇ」

 

 質問にエドワードは腕を組みながら僅かに考える。

 

「中央は色々とごたごたしててねぇ。今では治安も良いけど昔は顔をきかせてた留学生とかがオラついていた時期もあるからね。それだけじゃなくて学院内って割とクローズドコミュニティ化されてるだろう? だから虐めとかも結構陰湿であったりするんだよねぇ。リアはそういうのを受けるタイプじゃないとは思うけど、それでも親としては腕に覚えのある護衛が近くにいてくれるとね?」

 

 その言葉に頷く。エドワードの気持ちは解らなくもなかった。従者と護衛を同時にこなせるのならそれだけでも得難い人材であろう。そういう意味では俺を育てる事は合理的な判断だろう。それに俺も俺自身、自分を鍛える必要性はどことなく感じていた。何せ、あの龍殺し達は実在する存在なのだ。またのほほんと何もせずに生きていた時、エンカウントしたら即死ルート一直線の場合もあるだろう。

 

 そういう事を考えれば鍛える事はまず間違いなく益になるだろう。

 

 まあ、それ以上にこのファンタジー世界の法則を学べるというのは滅茶苦茶楽しそうで興奮するんだが。だって魔法だぜ? 魔法! 地球には存在しない法則を自在に操るのなんて絶対に楽しいに決まっているじゃないか。それはそれとして良く解らん単語増えたな。

 

「それじゃあまず基礎の基礎の話から始めようか」

 

「うっす!」

 

「まず魔法、魔術、魔導。言い方は自由、名前が微妙に異なるのは個人の趣味や趣向、或いは時代や派閥、形式による違いだね。結局のところ全部ロジックが一緒だと思えば良いよ。名前が違うだけで一緒! 良い?」

 

「うっす」

 

「そしてこれを発動させる為に必要なリソースが魔力」

 

 エドワードの体が淡く青色に光る……目に見えるオーラを纏っているように見える。

 

「これが魔力だ。目に見えるように今纏っている奴だね。基本的には見えない状態にあるし、触れられない状態にある。そして自然の状態で存在している訳じゃない。大気にはエーテルって元素が混ぜられていて」

 

 エドワードが深呼吸して肺に空気を送り込む。

 

「呼吸や食事を通してエーテルを大気から体内へと吸収する。これを体内で個人で使用する為の形へと変換したのが魔力(マナ)だ」

 

「個人、個人、違い?」

 

「お、やっぱり賢いねエデン。そう、魔力は体内で変換されて生み出されるものだから個人個人で微妙に違ってくるんだ。これが放出した際に現れる色の違いだったりするね」

 

 成程。エーテルを体内で個人が魔法転用できる形へと変化したのが魔力。これが魔法のリソースである。

 

「そしてこの魔力だけど、質と量がある。細かい話をすると変換効率もあるね。質が良ければ良い程魔法に対する魔力の使用効率は上がるし、容量が大きければ大きい程大量の魔力を体内で抱える事が出来る。そして変換効率が高ければ高い程ー?」

 

「早く、作る」

 

「はい、正解。これが魔力に関する基礎知識だ。最も基本的だけど、重要な事でもあるから気を付けるんだよ?」

 

 滅茶苦茶メモりたいけど、まだ簡単な範囲なので素直に諦めておく。それはそれとして魔力とかいう単語を口に出されると滅茶苦茶盛り上がるな。漸く異世界転生って感じがしてきた。なお、魔法初体験は喰らう方である。

 

「さて、魔法は大まかにジャンル分け出来て全部で3種類に分けられるんだけど……この話は何時でも出来るし、それよりも先に魔力そのものを感じられるようになった方が楽しいでしょ? だからまずは魔力を感じられるようになる訓練から始めようか」

 

「おぉー」

 

 いきなり実践に入るのはちょっと怖いが、それでも魔法を使える可能性がある事を考えると興奮してくる。近づいてくるエドワードはいいかい、と言葉を置く。

 

「魔力を自覚して引き出すという行いは結構な時間のかかる修行なんだけど……僕の様に術に精通した魔術師がいるなら、魔力を引き出して貰ってその感覚を掴むという方が遥かに安全で早いんだよね」

 

「安全?」

 

「うん。自分で瞑想したりする場合はまず自分の中にある魔力を知覚する事から始めなきゃいけないんだけど……正直、これがかなりハードル高い。一度感覚を掴めばそう難しい事でもないんだけどね、その初回のハードルが高いんだ。それに初めて魔力の栓を開ける時、それで暴走する子も世の中にはいてね」

 

 エドワードが苦笑する。

 

「伝統も悪くはないけど、やっぱり安全性を考慮して師に引き出してもらうのが一番安全だよ。だからエデンの魔力もそうやって知覚させようと思うんだ……いいかな?」

 

「お願い、します」

 

「良し、任された。それじゃあ手を貸して」

 

 頷きながら手を前に差し出すと、エドワードが片膝をつきながら視線を合わせ、手を取ってくれる。そしてエドワードが行くよ、と声をかけると何かが体を駆け巡るのを感じた。最初に感じたのは静電気が手に刺さる様な感覚だった。だがそれは指先から掌に広がると、手首を通って神経を通じるように全身を駆け巡った。これまで稼働してこなかった、機能してなかったシステムの電源を入れる様な感覚。

 

 それからじんわりと、自分の体の底から何かが溢れだしてくるのを感じる。

 

「ほら、出て来た」

 

 白いオーラが淡く体から立ち上る。目に見えるようにゆらりと光るこれが魔力。体内の奥底から暖かさと一緒に湧き上がってくるのが解る。湧き上がってくるその色は髪と一緒で白と黒が入り混じっている……どうやらこの龍の身にとっては、白と黒という相反する色は重要な要素なのかもしれない。

 

「さて、手を離すよ? ……さて、どうだい」

 

「おぉ……」

 

 エドワードが手を離す。だが魔力を体から出すという感覚には掴めて来た。この、五感とも違う第六の感覚とでも表現すべきものを感じ取っていた。これが魔法を掴むという感覚、これが魔力をコントロールするという感覚。エドワードによって補佐された事もあってスムーズに自分の魔力をコントロールする事が出来た。一旦放出している魔力を弱めたり、それを少し強めたりしてコントロールしてみる。

 

 それを見てエドワードが手を叩く。

 

「うん、上手上手。魔法のコントロールとは魔力のコントロールだ。魔法を使いたいのなら魔力をコントロールできるようにならないと。それも精密に、繊細に。魔術師としての優秀さはどれだけ魔法を精密にコントロールできるか、という所で見れると僕は思っている。だから僕が君に教えるのは魔法の便利な使い方、魔力のコントロール方法、そして自分なりの魔法の使い方の開発になる。それ以外にも学院で教える様な魔法の事はバンバン教えて行くよ」

 

「はい!」

 

 魔法を使えるとなるとかなりテンション上がってくるなあ、と思って魔力のコントロールをちょっと実験してみる。俺の魔力には白と黒、二色の部分がある。それをぞれ集中させてみたらなんか違う効果が出て来ないだろうか?

 

 ……って、良く考えたら俺が吐いたブレスも白と黒の二色だったな。

 

 あの時は黒い結晶が凝固して装備品とかを砕いていた。となると黒い部分には結晶化する様な力があるのだろうか?

 

 ちょっと、試してみようか。

 

 そう思って黒い部分だけを集中して圧縮してみようとするが―――駄目だ。まだ良く解らない。どうやれば魔力の中の一部分だけに意識を集中させるとか、効果を発揮させる方法とか。そういうスキルツリーがまだ自分の中で開拓されていないのだ。

 

 今あるのは魔法スキルツリーの中でも一番最初の魔力解放という項目だけなのだろう。

 

 俺は今、魔法の道の入口に立ったのだ!

 

 とはいえ、これも将来的にはグローリアの従者として中央の学院へと行く為だ。

 

 なんか、将来の形が見えて来たなあ、と思った。




 当然最強種なのでスペックが元から強い。才能も素質も肉体依存である部分は最強種としてのデザインがあるので魔法関係もまあ、滅茶苦茶強い。少なくとも純人類よりは。

 それはそれとして、皆さんの評価のおかげで日刊4位にランクイン出来てました、ありがとうございます。

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