TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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硬貨の重み Ⅳ

「―――準備は良いな狼共! 相手は強敵だ! 一瞬の油断が友を殺す事だと心得て行くぞ!」

 

「おぉぉ―――!」

 

 岩場に響くような声に咆哮が返答する。遠巻きに戦闘グループを眺めつつ、タイタンバジリスク討伐の為に動き出す戦隊を見た。完全に高みの見物を決め込む事にした俺は後学の為にも集団における効率戦闘を勉強させて貰おうと思っていた。だからバッグから自家製のドライフルーツを取り出すと、それを口の中に放り込んでむちゃむっちゃと食べながらロック鳥の口の中にも1個放り込んでやる。それをロック鳥もむっちゃむっちゃと食べる。

 

 イルザの視線が此方へと向いてくるので、軽く手を振って心配は無用とサインを送ればイルザの視線は正面へと向き、戦隊の指示へと戻る。馬車から降りている放狼の団の団員たちが動く。奥へと向かって、盾を持っているグループと魔導書を持っているグループ、パイクなどの長い武器を持っているグループと役割を分担させるように動きを作っているのが見えた。

 

 それを眺めつつ岩場へと進む姿を歩いて追う。まあ、サービスぐらいはしておこうか、という精神から軽く周辺に向けて威圧だけを送っておく。ロック鳥が少しだけ視線を此方へと向けるが首を撫でて宥め、他の野生のモンスターが近寄ってこないようにする。

 

 タイタンバジリスクが登場するまでに下手な雑魚と戦って消耗されてもつまらないし。

 

 俺って慈悲に溢れてるなあ。

 

「おーい」

 

 そうやって動き出す戦士たちの姿を眺めながら歩き出す姿を追っていると、戦隊の後方から此方に手を振って近づいてくる姿が見えた。他の連中と比べれば軽装―――布系の防具を装着して身軽さを優先しているほかに、様々なツールを腰から下げている姿は典型的なスカウト、レンジャーの恰好だ。耳を僅かに尖らせているのはエルフであるのを証明する。森の民であるエルフはレンジャーへの適性が非常に高く、野外環境を歩き回る為のエキスパートだったりする。

 

 そんなエルフのレンジャーは、街の方で見たことのある冒険者だ。

 

「お、クロム」

 

「よ、エデンちゃん」

 

 手を上げて挨拶しつつハイタッチ。冒険者ギルドの知り合いがいるのに驚いたが、

 

「もしかしてガイド?」

 

「あぁ、ここ数日はずっとココと一緒に行動してたんだ。ほら、大所帯だろう? だから馬車が通れてモンスターの襲撃が少ないルートの案内とかで忙しくてな。さっきは紹介に混ざれなくてごめんよ。アイツらも相当命知らずだよな」

 

「俺、見た目だけならこれだしな」

 

「自覚があったのか……!」

 

 驚くな。肌面積が多いのは自覚してるんだよ!

 

 とはいえ、数日前から出払っているならある意味納得だ。彼は俺が冒険者になったというのを知らなかったのだろう、俺がこんな所に来るとは思いもしなかったはずだ。ここに知っている顔がいる事にちょっとだけ安心し、軽く自分の状況を共有する事にした。つまりワータイガーを討伐し、次の賞金を求めてタイタンバジリスクの討伐に来たという事実を。

 

 それを受けてクロムは驚いたような表情を浮かべ、しかし納得するように頷いた。

 

「成程……確かにエデンちゃんなら割と簡単にあのタイタンバジリスクといえど倒せるだろうな。恐らく奴の石化もその体には一切通じないだろうし」

 

 見て俺の実力が解る辺り、このエルフも優秀だ。というか“金属”下位クラスまでくるとそこら辺の見て判断する能力を磨く必要があるらしい。だから俺も胸を張りつつ応える。

 

「全門耐性搭載のハイパー美少女だぞ。崇めろ」

 

「比喩でもなんでもないんだよなぁ」

 

 ロック鳥を引きつれ、クロムと並びながら戦隊を追う。岩場はそこそこ広いが、俺が威圧している関係でモンスターは近づいてこない為全体の動きは非常にスムーズに進んでいる。動きに淀みもなく、軽い軽口が周囲から聞こえてくる。雰囲気は悪くない様だ、良い意味で緊張感がないと言える。どことなく討伐する事に慣れているとも言える。

 

「それで……この連中はどういう連中なの?」

 

「賞金狩りや傭兵をメインにしているクランだよ。対人が主にメインだけどクラン規模拡大に伴ってターゲットを広げたタイプだな。良くある奴だ、食わせる人数が増えればその分収入を増やす必要がある。そうなると細かい依頼をこなしているだけじゃダメだからな。この手の大物討伐は賞金以上に名声を稼げることがメリットだからな」

 

「名声?」

 

 おう、とクロムが答える。

 

「やっぱり近隣に迷惑をかけてる大物を討伐するのは数字にはならない名声が稼げるんだよ。アイツは俺達の場所を助けてくれた、って感謝の気持ちとしてな。それは金にならないし、数字で確認する事も出来ない。だけど救われた奴ってのはそれをどこまでも覚えてるもんさ。エデンちゃんはワータイガー狩ったんだろう? ならあの街道の利用者と近隣住民、そして管理者や職業についている奴らは相当感謝している筈だぜ。そうやって名前を覚えられると信用されて名指しで利率の良い仕事が回されるようになるんだわ」

 

「ははぁん、そういう話か」

 

 この傭兵団も恐らくは賞金以上に団の名を売る為に討伐に挑んでいるのだろう。規模が大きくなればなるほどランニングコストが増える、そしてそれを維持するにはそれ相応の仕事が必要だ。そういう仕事は基本的に金のある所に所属するのが一番で、そうする為には名を売る必要がある。辺境での賞金首討伐はそういう名声を稼ぐ為にはちょうど良い相手なのだろう。

 

 まあ、それでも獲物は早い者勝ちだ。俺が他の連中が名声を稼ぐチャンスを奪ってしまった事に関しては一切反省する気はない。

 

「エデンちゃんはワータイガー討伐して次はタイタンバジリスクか……この次はブラッドマントラップ予定?」

 

「うん、高額賞金首を全部やってく予定だった」

 

「そりゃあ残念。確かに高額賞金首は初動が遅いけど、そりゃあどこも情報収集と準備を重ねてるからな。はり出されてから2~3ヵ月経過したら基本的に誰かしら狩りに行くと考えた方がいいぞ」

 

「みたいだなぁ。今回は失敗したなあ……と言っちゃうのは違うか」

 

 まあ、何にせよ目の前の連中はガイド雇って事前に準備をする程度にはガチなんだ。これは狩られたと考えても良いだろう。これでリアの学費を溜めるあてが1つ潰れてしまった。俺ももっと良い依頼を求めて名声を稼いで地道に依頼処理をする必要があるのかなあ、なんて思いつつもタイタンバジリスクの情報を頭の中で流す。

 

 タイタンバジリスクはその名に恥じぬほどの巨体を持ったバジリスク種だ。それこそ俺を背中に乗せて飛べるロック鳥よりも大きく、そしてこの手の生物に関しては珍しく温厚な性格をしているらしい。その代わり自分の縄張りに入った生物に対しては一切の容赦がない。強い石化能力を有しており、体液と吐息が石化を引き起こす効果を持っている他、その視線も石化の魔眼で視界に入れた存在を魔力侵食で石化させる。

 

 ちなみにどれもバジリスクの持つ毒性や呪性による侵食で引き起こされる現象だ。つまりバジリスクの持つ魔力が毒属性と石化属性という色を帯びているのが原因になる。その為、魔力を使って抵抗する事で石化の浸食を防ぐ事が出来るのだが、その為には常に魔力を自分の中に溜め込み続け、消費せずに抵抗用に確保しておく必要がある。こうなると戦闘用に魔力を使用する事が出来なくなるだろう。そして魔力運用出来ない人類ってのは単純なスペックではこの手の生物に敗北している。その為、抵抗に集中するとあっさりとすりつぶされる。

 

 その為タイタンバジリスクとの戦いはそのスペック差と、即死攻撃である石化にどれだけ対処できるかという所に焦点がある。

 

 まあ、俺は何もしないでも抵抗できるからそのまま突っ込んで頭殴って殺すんだが。

 

 これが圧倒的なスペック差から行われる理不尽な戦い方という奴だ。だが今回、それを経験するのは人間側だ。圧倒的なスペックによる理不尽をどうやって対処するか。それがこういう大型モンスターに対する戦闘で最も重要な部分なのだろう。そういう意味ではどういう対処法を持ち出してくるのかは気になっている。

 

 見ている限り、フルアーマー装備に大盾を装備した前衛勢が非常に多く、軽装に槍装備の戦士団がその次に多い。前衛で防御を完全に固めて、隙間から攻撃するというスタイルが見えてる。それがどれだけ通じるかが問題だ。

 

「全隊―――止まれ!」

 

 イルザの声が響く。クロムが横で頷いた。

 

「奴のテリトリー付近だな。あっち側の高台から全体が見下ろせる筈だ。ソッチへと回ろう。俺ももう案内を終わらせて仕事は完了したしな」

 

「オーケイ」

 

 クロムの言葉に頷いて全体が見下ろせる場所へと回り込む様に移動する。石切り場によって中央が沈む様に切り出された盆型の大地の外側、ひときわ高く聳える岩の高台がある。その腹を軽く蹴る事で上へと上がる。飛び上がるロック鳥がそれに追随し、クロムも軽快な動きで上ってくる。まあ、これぐらいは出来るよなと思いつつ上へと到着した所で放狼の団の先の光景を見た。

 

 石切り場の中央には巨大なトカゲの姿があった。バジリスクと言えば作品によって姿が変わってくるモンスターの代表格だが、この世界におけるバジリスクは四足歩行のトカゲ型のモンスターで、強い石化能力を持つ個体の事を示す。亜竜ジャンルに分類されるかもしれない話もあったが、翼がない事、そして何より俺が同族や同胞に感じる様なシンパシーを持たない事からバジリスクが決して竜種ではない事が解る。

 

 件のタイタンバジリスクはその中でもタイタンの名を冠するように巨大であり、軽く見ただけでも10メートル級の巨体を保有していた。全身を灰色に染めたバジリスクは全身を鱗と岩の様な甲殻に覆われ、近くの石の塊に噛みついては咀嚼している。のんびりしているように見えるが、その視線はぎりぎり縄張りの外側にいる戦隊へと向けられている。

 

「見えるか、アレ? バジリスクの石化毒は人体には通じるが衣類等の無生物に対しては無効なんだ。だからバジリスクに石化された連中は全員服や装備はそのまま、肉体だけ石化するんだわ」

 

 タイタンバジリスクの周辺へと視線を向ければ服や防具を装着した石像がいくつもあるのが見える。それを爪でバジリスクが砕くと、周辺の石と一緒に噛みついて、口の中で咀嚼して呑み込む―――まるでポテトチップスを食っているデブの様な動き方がちょっと可愛く思えた。が、やっている事は石化した人間をゆっくりと時間をかけて食い殺しているという事実に変わりは無い。

 

「逆に言うと完全に密封された装備の中に居れば石化はしない、と」

 

「魔眼に抵抗する必要はあるけどな。その魔眼も射程は精々30メートルだ。そんな長距離にまで及ばない」

 

「成程な」

 

 フルアーマーと大盾の騎士装備の様なフロントガードは恐らく、バジリスクの石化攻撃を受け止める為の盾だ。

 

「第一戦隊を前に、第二戦隊中段へ! 第三戦隊は展開しつつ魔眼の射程外で待機! 常に動けるように意識を集中させろ! 作戦行動に入るぞ!」

 

「おぉ、動きがきびきびしてる。流石プロだな」

 

「アレでもシルバー相当の団らしいからな。そりゃあちゃんとしてるだろう。少なくとも中核メンバーは全員個人でシルバーを獲得できてる筈だ。問題があるとすれば最近の拡張に伴って新人が増えた事だが……ま、お手並み拝見だな」

 

 クロムの話を横で聞いているとロック鳥はどうやら戦闘に興味はないらしく、肩を突いてドライフルーツを催促してくる。あの謎生物2頭よりは可愛げあるよなこいつ……連れ帰ってペットにしてやろうかと悩みつつドライフルーツを渡し、クロムと自分の分も出す。

 

「どぞ」

 

「サンキュ。帰ったらギルドで煽ろ」

 

 それだけで煽れるのぉ??

 

 クロムの発言に首を傾げているとイルザの号令の下、全体が動き出した。アーマーが戦列を組んで前に出る―――縄張りに踏み込んだ瞬間それまでは穏やかに石像を貪っていたタイタンバジリスクが起き上がり、岩場に反響する様な声量で咆哮した。至近距離で聞いてしまえばそれこそ鼓膜が吹っ飛びそうな声量を前に、一切怯む事なく第一戦隊が前に出た。最初はゆっくりと、少しだけスピードを上げ、

 

 盾を前に、縄張りに踏み込んで数歩―――加速した。

 

「おぉぉぉぉぉ…!」

 

 石化の王の言葉に応える様に戦隊から咆哮が返った。全身を隠す様な大盾を前に、盾と盾の間に隙間を作らない様に列を作った第一戦隊は盾の壁を形成して真正面、起き上がって動き出したバジリスクの正面へ、

 

 速度を乗せて衝突した。

 

 轟音、そして衝撃。

 

 石切り場に金属の反響音が響く。だが戦列は崩れず、バジリスクも後退しない。戦隊がバジリスクと衝突し、向けられる視線に耐えながらその動きを正面から封じる。無言、高台から俺はそれを眺めている。

 

 ―――放狼の団によるタイタンバジリスク討滅戦が開始された。




 感想評価、ありがとうございます。

 シルバー級、金属中位ともなると装備にも金がかかって専用対策や対策装備が用意できるレベルになってくる。ゴールド辺りから貴族のお抱え所属とかに慣れるので、この団はその一歩手前って所。名声を稼いでお抱えになれば正規雇用なので食うのに困らなくなるというメリットがある。

 その為名声目的で賞金首を狩ろうとして、賞金額に貢献してしまう冒険者ってのは割と多い。

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