TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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不協和音

 ルインをどうするかあーだこーだとルシファーと相談したあと帰ってから翌日。

 

 今日はバジリスクの素材報酬を回収する為に街へと向かおうとした所、朝にエドワード共々ゲストの相手をすることになった。

 

 サンクデルの使者がウチを訪ねて来たのだ。領主軍の兵に扮した使者を、俺とエドワードで出迎える。サンクデルからの使者が来る場合、それは大抵の場合で領主からの依頼を携えている。何せ、ロゼからの連絡や遊びの誘いは手紙を送ってくるか、いきなり本人が来るからだ。朝から来た使者に忙しい事になりそうだと思いつつ屋敷の前から応接室へと案内しようとしたが、使者は片手でやんわりと拒否した。

 

「ありがとうございます。ですがサンクデル様からの連絡を伝えに来ただけですので私も直ぐに戻ります故」

 

「少しぐらい休んでも罰は当たらないと思うけどね……それでサンクデルはなんて?」

 

 エドワードの言葉に背筋を伸ばした使者はサンクデルの言葉を伝えてくる。

 

「―――頼みたい仕事がある、なるべく早く参られよ、と」

 

「サンクデルの言葉、拝承した。僕たちも身支度を整え次第向かうと告げて欲しい」

 

「拝承しました。それでは」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 敬礼してから去る使者の姿を止める。此方の声に使者は脚を止めて振り返り、

 

「どうされました?」

 

「いや……帰りは馬でしょ? どうせなら一緒に領主様のところに行こうよ。馬より早い移動手段を確保してるから」

 

「馬より……ですか?」

 

 その言葉で何かを察したエドワードが視線を露骨に使者から逸らし、俺は口笛を空へと向かって響かせる。完全にペットとして育てる事に決めたロック鳥が厩舎の方からのそのそと歩いて来て、翼を大きく広げながら存在感をアピールする―――その羽の一部は昨晩の馬と熊による襲撃でダメージにならない程度に乱れており、ロック鳥のカーストがあの三匹の中では一番低いという事実を証明していた。

 

 ちなみに馬と熊はロック鳥が便利だからお払い箱という事はなく、並の動物や人よりもなぜか賢い事もあって付近の治安維持を頼んでいる。最近は俺は街で金策、リアは教材とにらめっこする日常が続いている為、その平穏を守る為にも俺が出来なくなったここら辺の治安維持を頼んでいるのだ。でもアイツら野生動物なんだよなぁ……なんか間違った使い方してる気がする。そこまで問題という訳でもないからスルーで良いんだけどね? なんか仕事を与えてないと可哀そうな感じがして……。

 

 それはともかく、ロック鳥を見た使者はやや引き気味だった。とはいえ俺が近づいて撫でる様子を見るとこれに乗るんですか、マジで? みたいな視線を向けてくる。

 

「乗れますよ。ここ数日はこいつに乗って街に出てましたし」

 

「流石の僕もモンスターの背に乗って空を飛ぶなんて経験は初めてだからね。実は結構楽しみにしてるんだ」

 

「成程、これが“宝石”の資質ですか……」

 

 そう言う使者の声は滅茶苦茶震えてた。

 

 

 

 

「―――お前たちついにモンスターに乗って飛んでくるようになったらしいな」

 

「エデンがね、野生のロック鳥を乗りこなすようになったんだ」

 

「アレは野生の馬と熊が勝手に調教して連れて来たので、実質的に俺は何もしてませんよ。勝手にペットになりました」

 

「????」

 

 ロック鳥で屋敷の正面に乗り付けたら軽く騒ぎになったが、その背に乗っているのが俺達だとわかり次第、なんだグランヴィルか……みたいな空気であっさり流されてしまった。現在、応接室でサンクデルと向き合っている間、ロック鳥は中庭の方でロゼの遊び相手をして貰っている。ロック鳥の奇妙な調教手段を聞いたサンクデルは眉間を指で揉みながら頭が痛そうにしている。

 

「ああいう飛行生物を調教して特産化出来たらウチの強みになるかと思ったが……参考にならなそうだなぁ」

 

「まあ、エデンは特別な子だからね。多分この子にしかできない事だからノウハウとか聞き出すだけ無駄だと思うよ」

 

 エドワードの言葉に頷いたサンクデルは眉間をもんでいた指を離し、両手を組んだ。

 

「みたいだな。まあ、それは素直に諦めておこう。いや、とはいえ移動手段が高速化されるのはありがたい話だ。急ぎで仕事を頼みたい所だったからな。恐らくエデンちゃんならもう既に解っていることだろうな」

 

 そう言われて思い浮かべるのは最近の出来事になる。

 

「もしかして変異種の事ですか?」

 

 俺の予測にサンクデルは頷いた。

 

「ギルドの方から報告が上がっていたが……何やら最近変異種や変異モンスターがそこそこおかしな頻度で見かけられるらしいな? 自然現象として何かが発生している場合もあるが、何者かが人為的に物事を進めている可能性もある。ならば早期に調査しておきたい。無論、他にも調査隊は編成する。だが現状、私の手元で自由に動かせ、少人数で調査を行える人員は少ない。私の“宝石”もこの件に関しては動かしている。手遅れになる前に調査し辛い地域を回っておきたい件でな」

 

 やっぱり、その件だった。昨日の今日の話だったのに話を聞くのと判断するのが早い。ファンタジー小説とかだとこの手の判断から実行まで割と時間がかかるんだけどなあ……なんて思ったりもするのだが、良く考えればサンクデル辺境領は国境があるのだ。戦時となれば最前線に出て指揮を執る都合上、常に素早い判断が求められるのだからこの手の判断は早いのかもしれない。

 

 しかし、“宝石”か。確かサンクデルは“宝石”を1つ有しているという話だったか。未だに本物と出会った事はないが、辺境領主クラスとなると1人ぐらい保有できるものなのか? それとも単純にこの人の政治的手腕が凄いのか。そこら辺の細かい判断は俺にはちょっとつかないが……“宝石”の実力に関しては大いに興味がある。果たして今の俺なら“宝石”相手にどこまで食い下がれるのだろうか?

 

「成程……僕もエデンに話だけは聞いてたけどやっぱりサンクデルの目から見ても状況は異常か」

 

「うむ、詳しい事は当事者である其方の娘の方が知っているだろうが―――」

 

 視線が此方へと向けられ、俺は頷く。

 

「昨日は放狼の団のタイタンバジリスク討伐の様子を眺める形になっちゃいましたけど、タイタンが明らかに劣勢になった瞬間乱入する形で青と赤の図鑑で見たことのないバジリスクが出現しましたね。無論、団の方には油断も慢心もありませんでしたよ。確実に勝てる手を取って少しずつ追い詰めていました。だけどそれを超える隠密性で変異種たちは奇襲を仕掛けてきました。まるでタイタンを守るというよりは……」

 

「というよりは……?」

 

 言葉を捻りだす為に首を傾げて考えてみる。なんというか、食欲でも縄張りを守る為でもなく、

 

「……人を襲う為に襲った? そんな感じでしたね。タイタンは縄張りに人が入ってくるまでは完全に無反応でしたからね。アレは純粋に習性とかに従って動いていました。ですが赤青コンビはタイタンがピンチになったら縄張りの外側から飛び込んできましたから、明らかに通常のバジリスクとは違う動きをしていたんですよね。なんというか……タイタンバジリスクよりも賢い感じでした」

 

 まあ、どっちも俺がワンパンで始末したが。デカい硬いは、ぶっちゃけ防御無視して斬撃通せる俺からしたらカモでしかない。大きいから適当に薙ぎ払っても攻撃が当たるし、デバフ系統は龍特有の全門耐性で無効化できるし。だからああいうタイプの生物は正直困る事が何もない。とはいえ、一般的な人類からしたら脅威である事に違いはない。そしてそれが本来の生物におけるセオリーとも言える行動を外れて行動する事もあまり、面白くはない。

 

「ワータイガー、そしてバジリスクの討伐本当に感謝するエデン。君がそうやって討伐を進めるおかげで本来犠牲になる筈の人が犠牲にならず、そして安全が確保できるようになる。その事に関しては言葉を尽くしても伝え足りないだろう。だが辺境領主として君に感謝している事は忘れないで欲しい。そしてその上で、その力を借りたいと思っている。良いかな?」

 

「お任せください、領主様。俺の力であればいかようにも」

 

「リアの学費を稼がないといけないしね?」

 

「エドワード様っ!!」

 

 エドワードの横からの茶々に大人が2人、揃って笑い声を出している。どうやら俺達三人で必死に学費を稼いだり奨学金を狙って勉強している事は大人の間では周知の事実らしく、生暖かい視線が向けられている。居心地の悪さに思わず視線を逸らしてしまうと、サンクデルがもう一度小さく笑い声を零していた。

 

「いやいや、すまない。ロゼやリアちゃん、エデンも見てない間に育ってきていると思ってな……まさか自分の学費の事を考え始めたりするとはな」

 

「そこはね、僕も驚いたよ。家の負担は絶対に嫌だってリアが言うようになってね、僕もエリシアもリアの成長には驚かされたし、そういう事を考えられる娘になったんだと思うとちょっと泣きそうになったよ」

 

「私のところのロゼもどうやって日々の金銭を得て、どうやって稼いでいるのか。金と経済の重みを真剣に考えるようになってな……無邪気に大人を目指す一歩を踏み出しているようでふと寂しさを覚えるよ」

 

「あの、すいません? この話題俺が居た堪れないので話題、元に戻しませんか? 元に戻しましょうよ。ほら、今大事な話の途中だったじゃないですか。ね? ね?」

 

 事の発端が俺の発言だっただけに二人にこういうリアクションをされると俺も困ってしまう。だから必死に2人に視線で訴えると、こほんという咳払いと共にサンクデルが大きく頷いた。

 

「それもそうだな……それでエドワード、エデン両名共に個別で仕事を与えるから、調査に乗り出して欲しい。無論、拘束される時間分の報酬は出すし、エデンにはこれをギルド経由で依頼として処理しておく事を約束しよう」

 

「俺は構いませんけど……その、支払いの方をそうやって分割しちゃって大丈夫なんですか……?」

 

 俺の言葉にサンクデルが小さく笑った。

 

「学費、稼ぐのだろう?」

 

「エデンが名状し難い表情をしているなぁ」

 

 そうやって態々個別に報酬を用意してくれる領主様、滅茶苦茶優しくて好きだけどそれはそれとして背伸びしている子供にお小遣いをくれる大人を見ているような気分になるのでやや胸がもにょもにょする。いや、実際此方の考え方を物凄く尊重して手伝ってくれているのは事実なんだが。そこまで頑張っているなあ……って感じに見られて手を差し出されると言葉に出来ない恥ずかしさがあるんだ。

 

「お、お任せください。このエデン、体の頑丈さと全てを破壊する力に関しては何者にも負けないものを持っております。学費の為とあれば秘境の1つや2つ、滅ぼしてみせましょう!」

 

「滅ぼさない滅ぼさない」

 

「いやはや、頼りになる娘が増えたものだね、エドワード」

 

 ああ! 何を言っても温かい目を向けられる! 駄目だ、メンタル的に無敵だこのおっさん共!

 

 応接室の椅子の上で体育座りになって体を丸めていると、大人共からまあまあ、と窘められる。

 

「それで仕事の話に戻るがエドワードとエデンにはそれぞれ調査を担当して貰いたい。エドワードがネディング湖と周辺湖畔地帯を、エデンにはタウロ山を頼みたい。特にタウロ山、その頂上付近は専用装備がないと人が入り込む事の出来ない環境だ。そういう場所こそ我々の目が届かなくなる……しっかりと調査を頼みたいんだが良いか?」

 

 領主の言葉に肯定の頷きを返した。

 

「ネディング湖かぁ……あそこは結構厄介なモンスターが多いんだよね。僕も一度帰って準備を整える必要があるかな」

 

 ネディング湖は一種の辺境の秘境の一つであり、濃いエーテルによって通常とは違う植生が成立している探索地の1つだ。貴重な素材が取れる為に高ランク冒険者からはありがたがられる反面、その環境に適応したモンスター達の巣でもある。特に湖が広く、底が見えない程深くなっているという話だ。湖の周りも薄く水が張った緑地が広がっており。その浅い水の中を魚が泳いでたりする面白い地形になっている。まだ行った事はない場所故、その内行ってみたいなあー、なんて思ってたりする。

 

 それと比べるとタウロ山はかなり変わった環境をしている。人が入り込むのに苦労する環境である為、あまり進んで行こうとする人はいない。良質な鉱石が取得できるというメリットが一応の所存在するのだが、それ込みでもタウロ山に向かおうと思う奴が少ないのにはそれなりの理由がある。ちなみに探索地としての推奨難易度は“金属”の中級から上級だったりする。此方は住み着く生物よりも純粋に環境上の問題だ。

 

 ギルドからバジリスクの代金を受け取るのは後日かなぁ、と最優先のタスクを領主の依頼へとシフトする。領主の事だから支払いをケチるという事もないだろうし、そこは安心している。

 

 なので領主の依頼を受け、それを遂行するための準備に入る事にした。

 

 お仕事の時間だ。




 感想評価、ありがとうございます。

 大人からすると子供が背伸びしたがっている様に見える。それそれとして仕事内容を見ている結果、サンクデルからすると半歩大人に踏み込んでいるのがエデンなので、対応もそれ相応になっている。恐らく一番大人としてエデンを見ているのはこの人。グランヴィル家は甘々だし、ギルドはなんか異空間から生えてきたモンスターとして認識している。

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