TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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不協和音 Ⅳ

 ―――1日目。

 

 1日目は麓周辺の探索とフィールドワークに出てた所員にいろいろとデータを分けてもらう事で終ってしまった。これが結構やる人達で、ある程度のモンスター相手であれば自衛出来るぐらいの戦闘力を持っている事が地味に面白かった。麓周辺の植生のチェック、モンスターの分布チェック、何か異常な痕跡がないかの確認。これを一定期間ごとに細かくチェックしているらしい。

 

 こういう環境のチェックと記録は、エーテルが環境やモンスターに及ぼす影響を調べる事が出来る為、学問として非常に重要な所だと言われている。特に辺境や秘境での調査活動はかなり重要なデータが取得できるため人気なのだが、金と技能が必要となる割合がかなり重く、送れる人員は少ない。その為、あの観測所に籠っている人達は1人1人がエリートであるという話だった。

 

 彼らに調査内容を聞いたり、探しているだけで1日目は終えた。夜も観測所の空いているベッドを貸して貰えて快適に眠る事が出来た為、比較的に楽しい一日だった。

 

 

 

 

 ―――2日目。

 

 麓から下層へと空路で突入した。途中までロック鳥で近づき、ある程度地面が近づいたところで飛び降りる。ここからはフィールドワークをするにしてもそれなりに準備してからじゃないと辛い領域になってくると言われているが、

 

「まあ、俺には平気かな……ロック! お前は適当に麓で遊んでて良いよ! 必要になったら呼ぶよ!」

 

「きゅぇ―――!」

 

 勢いよく鳴くとロック鳥が麓の方へと去って行く。それを見送りながら麓とはがらっと雰囲気の変わった世界を眺めた。麓はまだ地面が見え、葉を残した木々の姿も見れた。だが下層に入った瞬間足元は薄く積もった雪によって覆われており、山の緩やかな坂道が延々と続いている。木々もここになると枯れたり新たな木が生えるようになる、足元の植物もがらりと変わる。まるで違う場所へと踏み込んだような景色と環境の変化が始まった。

 

「うーん、流石ファンタジー世界。とはいえこれぐらいならまだ余裕だな」

 

 寒くはあるが寒くない。つまり気温としての寒さを認識するが、俺の体にとっては寒くないという事だ。この程度であったら何時も通りの行動がとれるだろう。特に対策らしい対策も必要がない。それを自覚して雪山の下層を歩き出す。とりあえず観測所で貰った地図で幾つかのランドマークを確認してあるから、それを順番に回って行くのが一番だろう。

 

「えーと……洞窟と森があるのか」

 

 どっちも回る必要があるとはいえ、徒歩で回るのは中々面倒だな……と思うのはロック鳥での移動になれてしまったからだろうか? まあ、折角秘境とも言える探索地にやってくる事が出来たのだ。ここはサボる事なくしっかりと仕事をこなそう。エドワードもエドワードで今頃、めんどくさい場所の調査を行っているのだから俺が頑張らないわけがない。

 

「はあ―――息が白くなるの、ブレス吐いているみたいで面白いんだよな」

 

 まあ、人間の体は龍体とは違う構造をしているので、ブレスを吐けないんだが。ブレスを吐くには龍の姿になる必要があるのだが、現状そのなり方が解らない―――というか元への戻り方を忘れてしまった形だ。なれたらなれたでどうしようもねーんだが。それでもちょっと、種族としてのアイデンティティを忘れつつあるところはあるし、変身できた方が良い気がするんだよなあ。まあ、出来ない事はしょうがないで済ませてしまうが。

 

「お、よう。寒いのに良くこんなところで暮らせてるな」

 

 雪原を歩いていると、どこからともなくやって来た小鳥が肩の上に乗ってくる。落ち着いたような様子を見せて肩の上でくつろぐ小鳥の様子にふと笑みを零してしまう。こうなると気づくのだが、どうやら俺―――というか龍は性質的に動物に好かれやすいらしい。その為狩りで困った事はないし、なんか野生動物とは勝手に友好的なエンカウントが取れるし、変な馬と熊は勝手にテイミングされるしで結構便利な生活してる。

 

「あ! しまった、熊を連れて来れば良かった!」

 

 山ってまんま熊のフィールドじゃん。アイツ連れて来れば良かったわと今更後悔する。流石にアイツを今から呼ぶ事は不可能だし失敗したなあ、と額を軽く叩く。ここでなんで野生の熊の力を借りようとしてるんだ? と軽く疑問に思ってしまうと正気に戻ってしまうから、軽く忘れておく。

 

 まあ、それはそれとして。

 

「マジで平和だなおい」

 

 麓にいる時もそうだが、下層から麓に出現するモンスターは多く、そして多い程弱い。数が多いというのは弱さをカバーする為の特徴だ。だから最も餌が豊富で多様性のあるこの下層に出現するモンスター達は弱く、そしてほぼ全てが俺の強さにビビって逃げている。それに恐れず逆に近づいてくるのが野生動物たちの方だ。先ほどまでは小鳥だけだったのに、何時の間にか親鳥の方までやってきて小鳥の隣に止まっている。俺の肩は止まり木じゃないんだけどなあ、と思いつつロック鳥がいなくなった分寂しさはあるので、そのままにしてある。

 

 度々コンパスで方角を確認し、地図と照らし合わせて現在位置を確認する。それでも場所を把握できない場合は軽く跳躍して木の上まで移動し、そこから辺りを見渡す事で自分の場所を確認する。

 

 広大で延々と広がる雪山の地形、歩いていると無限に時間を食われる上に似たような景色が続く。その為時々自分の場所をチェックしない限りはあっさりと遭難してしまう……環境と合わせて考えると本当にこれだけでも過酷な地形だ。

 

 しかもこれだけならファンタジーでもなんでもなく、普通に地球にもある環境なんだから恐ろしい。

 

 アルピニストという連中は、マジですごいわ。俺はこの体じゃなかったら雪山へと行こうなんて発想、絶対出て来ないわ。

 

「洞窟こっちであってるんかなぁ……お前はどう思う? 解らん?」

 

 ちちちち、と鳴き声を零す鳥たちは俺の言葉に応える様に肩から飛び立ち、そのまま前方へと案内するように先導し始めた。ありがたいなあ、と思いつつ異様な動物たちの協力的姿勢には驚かされる部分もある。やっぱり、龍という生物は世界とか自然側の存在なんだなあ、とこういう風に寄ってくる動物たちの事を見ると思ってしまう。今も、鳥に先導されながら歩いていると、山の斜面の方から狼が此方を見ていた。こんな環境で狼にでも遭遇しようなら間違いなく襲われる様な状況なのだろうが、遠巻きに眺めてくる狼たちは襲い掛かってくるような様子を見せず、此方を刺激しないように配慮して遠巻きに眺めるのに留めていた。

 

 ……森の中で昼寝したら、何時の間にか動物たちが群がってそうだなあ。

 

 今度、暇なときにでもやってみるか。

 

 そう思いながら鳥を追いかけつつしばらく歩く―――時間の感覚はこの雪山では薄く、何時間とか何十分とか特に気にしない。だからそれなりに歩いていると、山の斜面に大穴が開いているのが見える。入口は魔導式のたいまつが設置されており、燃料を注げば灯りが灯るようになっている事から既に観測員たちが調査してマーキングしてある場所だと解る。ただそれでも俺にとっては初めて来る場所だ。

 

 正直、ずっとわくわくしている。

 

 小説やゲームで見た未知の秘境を歩き回っているような感覚。これが楽しくなければ、何が楽しいという話なんだ。パソコンも、スマホも、ゲーム機もない。だけどこの世界は未知と浪漫で溢れている。それだけでも冒険する楽しさは格別なのだから。

 

「案内ありがとう」

 

 案内を終えた鳥は心なしか自慢げに胸を張っているような気がする。肩の上に戻ったのを軽く首筋を掻いて労いつつ、そのまま洞窟の中に入って行く。ディメンションバッグの中からランタンを取り出すのももちろん忘れない―――魔導式の道具は、俺とは相性が悪いのだ。魔力を込めるとどうしても浄化か、侵食のどちらかを発生させてしまう。だから人間用の魔道具という奴を俺は使えない。

 

 だから使うのは、魔導式ではない通常のランタンだ。

 

 ランタンの中に火を付けて保護し、それを左手で持ち手を握り、光源とする。魔力を込めれば本来洞窟内部が良く見えるようになるのだろうが、そもそも俺の目は暗視も出来る。だからあまり強い光源は必要ではない。とはいえ、肩に止まっている鳥たちが光源無しでは辛かろうという配慮でランタンを抜いてしまった。無駄な事をしているなあ、と思いつつも洞窟の中へと踏み込む。

 

「えーと……確か奥の方が鏡面張りみたいな空間になっている面白洞窟なんだっけ?」

 

 呟いてみるが当然返答はない。だから答えを求める代わりに奥へと進む。入口から奥までそんなに距離のある洞窟ではなく、複数に分岐する通路も足元が木の板によって補強されている。そうやって整えられた洞窟の奥へと行けば、入口の様に大きく広がった空間へと出る。ただしこちらはそこで行き止まりとなっており、もう奥がない事を証明している。

 

「おぉー……」

 

 それでもその空間にあった景色は、圧巻の言葉に尽きるものだった。

 

 ランタンの光を吸い込んで反射するのは鏡のように綺麗に磨かれた氷の空間だ。左右天井、足元を除いた空間が氷が傷一つなく張られている。その一つ一つが澄んでいるようで、視線を向ければ鏡のように映した景色を見せている。或いはそれは氷の反対側に眠っている銀色の鉱石と合わせて発生している不思議な空間なのかもしれないが、周りを見渡すと反射されて映る俺の姿がどこからでも見れた。

 

 ランタンの僅かな灯りだろうと吸い込んで反射し、それが部屋全体を明るく照らしていた。

 

 天然のミラーハウスの様な景色だが、美しさが違う。自然によって生み出されたその姿は人工物にはない美が備わっている。自然の気まぐれによってのみ成立する景色、それはそこまで踏み込む事の出来る者にしか見る事の出来ない不思議な光景でもあるのだ。そう、ここはまだ準備を整えれば誰でも来れる場所なのだ。

 

 じゃあ人が入って来れない場所はどうなんだろう?

 

 頂上は一体どういう景色が待っているのだろうか?

 

 そうやってまだ見ぬ未知を、そして冒険の事を思うと自分がわくわくしているのが解ってしまう。人間の頃にはなかったことだと思う。女の子の―――龍の体になってから様々なものに対する反応が変わってきた。例えば甘いものが前よりも好きになったとか、食欲が前よりあるとか、可愛い服を着る事にあまり抵抗感が無かったりとか。その中でも最も違うのは自然や環境に対する感じ方なのかもしれない。

 

 こうやって自然の中を歩いている事に心地よさと開放感を覚える。

 

 まるでこの雄大で自由な場所こそが自分の居場所の様な、そんな感覚だ。

 

 とはいえ、俺は人として生きているのだからそれは不可能なのだが。生きている以上はどうしても社会に適合しなくちゃいけない。とはいえ、俺の一生はなるべくこの優しく楽しい、辺境での生活が一番だと思っているが。

 

「……そういや観測員の人に良いもん預かってたな」

 

 ディメンションバッグから機械を取り出す。観測員から預かった機械はなんとカメラだ。ただし、当然性能は地球の奴よりも数段下がるし、写真にするにはそこそこ苦労するらしい。それでも魔界産のカメラを帝国が買い取り、研究、そして廉価版として生み出したのがこのカメラだ。廉価といってもソコソコ値の張る高級品らしいが、俺が普段は行けない所まで行くからという事で貸してくれたものだ。

 

 フィルムも値の張るものなので無駄に写真は取りたくはないが……少し離れて入口から鏡面洞窟を撮る。

 

「これで良し! ここにも異常はなさそうだし、次は森の方へと向かってみるか」

 

 ここはまだエーテル濃度がそこまで濃くない範囲だ。その為、育っている植物も北国で見る様なタイプの、そこそこ多い種類の奴ばかりだ。中層まで行けば不思議な形状の植物も増えて来るらしいが、ここはまだ見慣れた景色になっている。

 

 洞窟をでて、まだ自分の足跡が雪の中に残っているのを見て小さく笑い声を零す。こうやって白銀の世界、誰もいないところに自分だけの足跡を残して冒険するのがたまらなく楽しい。

 

「今度来るときはリアを……あ、いや、リアはこういうの体力的に無理だな」

 

 エデンー! おんぶー! とか言って背中にしがみつく未来が見える。今も頑張って勉強しているであろう主にして妹分の存在を思って微笑み、気合を入れた。彼女が頑張っているのだから絶対に負けてられない。

 

「うっし、次だ次。今日で下層を終えて明日から中層に行くぞー」

 

 目標を口にして気合を入れつつ歩き出す。

 

 白い世界に足跡を残して、今は誰もいない道を進む。




 感想評価、ありがとうございます。

 狼が毒を盛られたのが1日目。そしてタウロ山の調査が5日予定。いやあ、5日後が楽しみですね……。エデンちゃんも調査を楽しそうにしてるのが可愛いですね……楽しい5日間を過ごしてくれよ。

 HITSUJIさんが支援絵を描いてくれました!
 
【挿絵表示】

 ロック鳥の背に乗って広大な辺境の地の空を自由に行くエデンちゃん!
 
【挿絵表示】

 ファンタジー感の強い服装で冒険者なエデンちゃんをありがとうございます! やっぱその露出はやばいと思う!

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