TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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不協和音 Ⅹ

 それから一度、領主の所まで行くことになった。

 

 サンクデルに報告しなくちゃいけない義務があった。それにエドワードが言うには俺程の奴が何の連絡もなし唐突に足取りを途絶えさせるのも不安の種になるので、しっかりと生存報告を行ってサンクデルに諸々の説明を行ってほしいという事だった。そう言う訳で観測所で軽く休息を入れてから陸路、馬を使ってサンクデルの所まで戻る事となった。無論、俺はロック鳥を使えばすぐに帰る事も出来るが、こっちに来るのにエドワードは馬を使っているし、エドワードをロック鳥に乗せるとなると乗ってきた馬を置いて行く事になる。

 

 なら観測所の人に馬を連れてきてもらうか? というのも筋違いだ。普通に俺がエドワードと一緒にゆっくりとサンクデルの所まで戻れば良いので、丸1日かけて大変だったタウロ山から辺境伯の領主館まで戻る事となった。実際、エドワードには凄い心配をかけてしまった様でしきりに調子や容態を聞かれる。そうやって心配されてしまうと今度からはもう少し気を遣おう……となってしまうので、効果的と言えば効果的だ。

 

 そうやって丸一日の移動を終えてサンクデルの所に到着する。

 

 仕事の度に行くので見慣れた道路を進んで行けば門が見え、そして門の前に立つ門番の姿が見える。エドワードの姿に軽く敬礼を送り、その後ろに座る俺の姿を見て門番が頷いた。

 

「お帰りなさいグランヴィル様。どうやら探し人は見つけられたようですね」

 

「あぁ、探そうと思った時に丁度帰ってくるものだからね、猫みたいな子だよ」

 

 猫じゃなくて龍だが? とエドワードの背で胸を張っていると、門番がで、と言葉を続けてくる。

 

「帰りが遅れた理由は伺っても……?」

 

「雪崩に巻き込まれたそうだよ」

 

「雪崩程度じゃダメージにはならんのですわ」

 

 サムズアップを向けると門番がなんだこいつ……? という感じの視線を向けてくるものの、そういう種族なんだからしゃーないの精神で乗り切る。ただやっぱ、普通の人間からするとどう足掻いても化け物なんだよな、というのを自覚してしまう。そんな風に門を抜けると漸く帰ってきたという感じの実感を得られる。流石に今日はここに泊まってから家に帰りたいな……なんて事を思う。

 

「やっぱり疲れちゃったかい?」

 

「まあ、はい。肉体的にはまだ全然動きますけど。やっぱり1人でずっと暗い所にいるのって精神的に辛いですね」

 

「人は孤独に耐えられるように出来ていないからね。孤独が平気だと思っている人も結局は何かを支えにして孤独に耐えているだけなんだ」

 

「孤独……」

 

 孤独―――何時か来る別れ。俺が本当に龍だとして、この人生が人の生を超えるものだとして―――その時、皆が死んだときに、俺の横にいる存在はいるのだろうか? グランヴィル家が死んでしまった時に残されるものは一体なんなんだろう? 考えたくはない。だけど何時かは考えなくてはならない事なのだろう……何時かは。でも今ではないと思いたい。少なくともその考えは、まだ怖すぎる。

 

「まあ、なるべくリアと一緒にいれば大丈夫だと思います。リアも引っ付いて離れないでしょうし」

 

「じゃあ有言実行しなきゃね」

 

「え?」

 

 エドワードがあっちあっち、と指さした先、そこにはリアの姿があった。彼女の姿自体はそう驚くほどの事ではない。勉強のためにこっちに来る事もあるだろう。問題はふくれっ面のリアが見覚えのある熊の上に乗っている事だろう。いや、乗っているというか両足で立ち上がって腕を組んでいるんだが。そして下の熊もリアと同じように腕を組んで立っている。いや、お前俺の熊じゃん……信じて送り出した俺の熊がリアに調教されてるんだが?

 

 だがこうやって俺がボディーガードに付けていた熊が完全に飼いならされている姿を見たら認めるしかないだろう。ふっ、と軽く声を零してからエドワードの後ろから降りて、両手を広げる。

 

「全ての非を認めよう!! 俺の負けだッ! 来いッッ!」

 

「その意気や良し! 成敗ッ!」

 

「リアー? そんな言葉どこで覚えたかなー?」

 

 エドワードの素朴な疑問を無視して熊の上からリアが跳躍し―――そのまま勢いを付けて俺へと向かって抱き着いてくる。その勢いを殺す様に抱き着かれるままに体を軽くスイングして一回転し、その足を地面につかせる。そうやって捉えた所で正面から向き合い、

 

「心配させた?」

 

 言葉に、リアは頭を横に振った。

 

「ううん。私のエデンは最強だから心配しない。だけど、今まで一番長かった分寂しかったよ」

 

「時間かけちゃってごめん」

 

「茶番に付き合ってくれたから許してあげる」

 

 我が家のお姫様は慈悲に溢れておられる。そしてどうやら本当に心配なんてしていないらしく、一切傷とかを探す様な様子を見せず驚かされる。ここまで信じられているとこそばゆいというか、恥ずかしいというか……リアの前で、格好の悪い事は出来ないなあ、なんて事を考えてしまう。俺も相当この娘の事大好きだと思っている。大事にしたいし、絶対守らなければならない。とはいえ、今は特に危機があるという訳でもないのだが。とりあえずリアと手を結べば機嫌が一気に良くなるのだが、これから領主の所へと報告と挨拶に向かわなければならない。名残惜しいが手を解きつつ、

 

「それじゃあまた後でね」

 

「うん、後でいっぱい遊ぼうね」

 

「勉強終わったらな」

 

「むえー」

 

 可愛らしい嘆き声を放ちながらしょんぼりとするリアを見送り、エドワードの下へと戻った。既に馬の方は使用人に預けられており、館に入る準備は出来ているようだった。お待たせして申し訳ない……と言うのは、ちょっと違うかもしれない。少しだけ考えてから言葉をエドワードに向けた。

 

「リア、最高ですね」

 

「そう思うだろう? 僕もそう思う。きっと将来は女神に育つに違いない」

 

「間違いない」

 

 エドワードの言葉にうんうんと頷いて同意する。俺達はリアに関してはこの世に現れた女神という事で同意しているのだ。可愛い、綺麗、優しい。これはもう女神なのでは? 信仰するっきゃないね! そんな話をしながらもそろそろ領主のところに顔を出さないと怒られそうなので駆け足で応接室まで向かえば、既にサンクデルの姿がそこにはあった。入室と共に軽く頭を下げるとサンクデルは俺の姿を見て少しだけ驚いたような様子を浮かべ、そして安心した表情を見せる。

 

「おぉ、無事だったかエデン。いや、本当に良かった……君が死んでるかもしれないと思うと本当に怖くてね」

 

「ご心配、ありがとうございますサンクデル様。ですが雪崩では俺に傷をつける事は出来ませんでした」

 

「成程、雪崩じゃ無理と。ん? 雪崩?」

 

「エデンエデン、どうしてそうなったかの説明が全部抜けてるからサンクデルが混乱してるよ」

 

「失礼しました」

 

 だけど雪崩ですらダメージを負わない女、エデンというのはかなり強いイメージあるし良いのでは!? と思う部分はあるんだ。でもその後は迷子になったからやっぱかっこ悪いわ。もうちょっとカッコいいエピソード頑張って今度作ってみよう。リアに胸を張って自慢出来るエピソードが良いなぁ。出来たらそのままロゼを煽れるタイプの奴。

 

「えっと、では1日目からの調査報告を行いましょうか?」

 

「あぁ……ゆっくり頼むよ。あ、いや、今戻った所だろう? 休んだ後でも良いんだぞ?」

 

「いえ、向こうにいる間結局無傷でしたし、精神的に疲弊はしましたけど肉体的には全く」

 

「成程。では今茶を持ってこさせよう。それを飲みつつゆっくり聞かせて貰うとしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 ―――それからサンクデルが使用人に頼んで紅茶を持ってこさせる。エルボナ産のセカンドフラッシュ。無論、この世界にダージリンやアールグレイなんて紅茶の銘柄は存在しない。同じ地名が存在しないのだから当然だ。だけどセカンドフラッシュやファーストフラッシュという概念が存在するのはまた面白い事実でもある。地名は違うし、産地の環境は違うのだろう。だけど口にした紅茶の味は地球で飲んだ事のあるそれに酷似している。異世界だというのに、故郷で飲みなれたあの味がここでも味わえるのはある種の郷愁を感じさせながらも不思議に思うものもある。

 

 それは共通点だ。

 

 この世界、異世界・魔界、そして元の世界・地球。味覚の概念、食文化、人としての思想等。こういう所でどうしようもない類似点を見つけてしまう。そも異世界だと本当に言うのなら、根本からして世界が違うべきなんじゃないのか? そんな事を偶に、考えてしまう事がある。或いは―――あの魔界がここと繋がっている様に、

 

 実は地球も魔界とつながっているんじゃないか? なんて事を考えてしまう事がある。

 

 味わった事のある紅茶の味。だけどその名前も産地も違う。そういう物を味わうと意味もない事を考えてしまう。考えても答えの出ない事だ。だから紅茶と一緒に下らない事を全部飲んで流してしまい、タウロ山での調査をサンクデルに語る事にした。

 

 この1週間と数日の1人での探索経験は非常に貴重なものだった。

 

 初めての1人でのフィールドワーク、普段利用してるロック鳥等の騎乗動物がどれだけ便利なのかというのを自覚させられた。モンスターの強さ別で俺に対するアプローチの変化もまた面白い要素だったと思う。弱いモンスター程俺を恐れて逃げるが、中途半端に力を持つモンスターは逃げるか戦うかの判断を間違えやすく、力のあるモンスターは逆に俺に立ち向かってくる。勝てないと解っていても襲い掛かるのはプライドだろうか? それとも力の差を理解していて絶対に倒さなければならないと思うからだろうか? どっちにしろ、モンスターのより上位の生物に対する反応は面白かった。

 

 そして当然、話のメインは雪崩となるだろう。

 

 モンスター達が自然災害を意図的に引き起こし俺を殺しに来るなんて思いもしなかった。アレ、どうやって引き起こしたのかは割と知りたかったのだが、状況的にそれも不可能だというのは寂しい話だった。

 

 ともあれ、統括すると重用なのはタウロ山という環境は変異を起こす余地のない環境だという事だろう。

 

「少なくとも俺が見た限り、他に新しい方向性へと進化したり変異したりする様な余裕はないですね。上へと行けば行くほど生物に要求される身体と機能のメモリみたいなものが生き残る事に振り分けられる事を強要させられるというか……あの環境にいる生物全てがあの寒冷化するエーテルへと適応した変異モンスターの縄張りみたいなものだと思ってます。ざっくりと色々と狩ってきましたので提出も出来ます」

 

「ではそれは後でウチで引き取ろう」

 

 サンクデルが暗に買い取ってくれると宣言した事実に、心の中で小さくガッツポーズを取る。少なくとも“金属”上位クラスのモンスターで、中々調査に行く事も出来ない環境だ。レアな素材である事を考えれば安くなるという事はないだろう。この手の素材をどういう風に使うか、というのは俺にはちょっと良く解らないが良い値段が付くのはまず間違いがない。最初はリアの学費、どうやって稼ごうかと考えていたものだが……実は結構、暴力メインで行けるのでは? という希望が見えて来た。

 

 まあ、何にせよまずは120万目標だ。そっから中央で遊ぶためのお金や生活費を求めて稼ぐ必要がある。今のうちに貯蓄出来るだけするのが最も賢い選択でもある。俺も初の大仕事を終える事に成功し、紅茶のカップを手にほっと息を吐く。それを横で見ていたエドワードが苦笑した。

 

「お疲れ様エデン。今回は良く頑張ったね……いや、本当に」

 

「まさか雪崩に巻き込まれるとは思いもしなかったな……他の誰かを送っていたら、と思うとぞっとする」

 

「割と白い壁が迫ってくるビジュアルは絶望的でしたね。呑まれた瞬間はあ、終わった。って一瞬思ったんですけど呑み込まれてみたら意外と平気でした」

 

 その言葉にサンクデルがエドワードを見た。

 

「しっかりと手綱を握るんだぞ?」

 

「彼女の手綱はリアとローゼリアちゃんに渡してあるから」

 

「ロゼに手綱を握るように頼むかあ……」

 

 人の事ぼろくそ言うじゃん。領主って意外と俺に対して辛辣だよね。信頼されているのか、それともネタにされているのかまだちょっと判別がつかないが、それでも悪感情がない事は確かだ。その為、割と空気は和やかだ。

 

 俺も一仕事を終え、漸く休める。今夜はここで泊まってリアやロゼと一緒に夜を過ごそう。

 

 そう思っていると、こんこんと焦るように応接室の扉が叩かれた。

 

「サンクデル様、失礼します!」

 

 ノックから返事を待たずに扉が開けられ、酷く焦った様子の使用人が入ってきた。その無作法に一瞬サンクデルは顔を顰めるも、使用人の尋常ではない様子に表情を変えた。

 

「……どうした、申せ」

 

「申し上げます」

 

 使用人は唾を飲み込み、

 

「街が―――」

 

 言葉を喉の奥から引っ張り上げるように、

 

「街が―――燃えています」

 

 その言葉を吐き出した。

 




 感想評価、ありがとうございます。

 いつの間にか総合1万になってました、ありがとうございます。このまま総合2万目指したいですね……。

 という事で、いよいよ金策編のクライマックスフェイズに突入です。

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