TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

7 / 140
グランヴィル家の日常 Ⅳ

 グランヴィル邸から街まではちょっと距離がある。

 

 その為、街に行くときは馬を使わなければならない。そしてグランヴィル家には馬が二頭、馬車と共にある。これは定期的に買い出しに出る為の馬車であり、基本的に自分とグローリア以外は皆、乗り回せるようになっている。今回、買い物の為に街へと行くにあたって、自分とグローリアとエドワード、そしてエリシアが向かう事になった。アンとスチュワートは警備の為にお留守番という事である。初めてグランヴィル邸を出て街へと向かう事にドキドキしつつも、

 

 数時間、馬車に揺られながら街へと向かわないといけない事に、地球では感じない不便さを感じていた。電車か車を使えば十数分で行ける距離なんだろうなあ、というのを馬車の御者台にエドワードと並んで座りながら思っていた。

 

 周りにはのどかな風景が広がっている。どこまでも続いてゆく道と地平線。風は優しく頬を撫でて心地の良い春の風が運ばれてくる―――そして偶に飛び出してくる異形の姿が一瞬で殲滅される。

 

 そう、この世界には幻想生物がいる。ドラゴンがいるなら当然他の怪物だっている。今出現したのは2メートルほどの巨体を持つ蛇だった。だが出現する寸前に放たれた岩の槍によって瞬殺され、骸を晒すだけで終了した。まるで見せしめの様に飾られた蛇の姿に、近くにあった気配は遠のいて行く。

 

「強い……」

 

「魔法の高速起動だね。僕は常に魔法を使えるように生成された魔力を使用可能な状態で待機させてるから、ペーパーなら即時発動できるよ……ってそうだそうだ、この講義はまだしてなかったね」

 

 はっはっは、と笑いながらエドワードが前を向いている。馬車の手綱を握りつつ、それではと言う。

 

「今から魔法の授業、講義の続きをしようかと思うけどどうかな? 道中の良い暇つぶしになると思うんだけど」

 

「お願い、します。楽しみ」

 

「そうかそうか、楽しみなんて言ってくれちゃうか。君みたいに勤勉な子は中々珍しいだけに嬉しいなあ」

 

 まあ、授業となると確かに逃げ出したくなったり眠ったりする奴もいるだろう。俺だって日本の歴史やアメリカの歴史を授業で勉強させられても暇でしょうがないだろうし興味もないだろう。だけどココは異世界だ。俺の知らない歴史と物事が巡っている世界だ。そりゃあ何だって知りたくもなるだろう? 聞く事、知る事、感じる事全てが新鮮なのだ。毎日が楽しくてしょうがないに決まっている。

 

「良し、じゃあ前回は魔力を感じる所だったよね?」

 

「はい」

 

「じゃあその流れで話の続きだ。魔力の総量、つまり上限保有量は決まっていて、そこまで鍛えて伸ばす事は出来るけどそれ以上は伸びなくなる。つまり無限に鍛えるという事は出来ないんだ。魔力の質、量、変換効率。これは明確に才能が出てくる所だ」

 

 あぁ、やっぱりここら辺は才能がものを言うジャンルなんだ。なんか納得する。やっぱ地球でも異世界でも才能がものを言うのは変わりはしないのだろう。

 

「だから上限に行きつくまでは基本的な魔力トレーニング、終わったら精密訓練を続ける事が重要なんだね」

 

 成程成程。じゃあ、やっぱり継続的なトレーニングが重要なのは魔法も武術も勉強も変わりはない、と。じゃあ次は魔法の種類の話が聞きたいので、こっちから話を振ってみる。

 

「魔法、種類ある、言ってた」

 

「あぁ、あるとも! そうだね、こっちの話をしようか」

 

 魔法にはまず3種類ある、とエドワードは言う。

 

「これは前に言った事だね。じゃあ具体的にどういうシステムなのかって話をしようか。まずは最も簡単なタイプ」

 

 そう言ってエドワードは片手で自分の腰を指さす。腰のベルトにはストラップが垂れ下がっており、それは一冊のブックバインダーを装着している。それは所謂魔導書という奴であるのは、既にこの日常で覚えた事だ。ただ一般的な魔導書イメージとはかけ離れた、ルーズリーフを装着する様なブックバインダーである事を上げればファンタジー世界としては異形のジャンルに入ると思う。

 

「まずは紙式、或いはペーパータイプ、魔導書型といわれる魔法だね」

 

 頷く。

 

「最もシンプルでこれは()()()()()()()魔法タイプだ。その結果、無駄をなるべくそぎ落として発動のしやすさと扱いやすさに特化したタイプの魔法だと言っても良い。その代わりに使える魔法の数が制限されている……というよりは実用段階まで開発出来た魔法の数が少なすぎるというべきなのかなあ。それでも一番使用しやすい事から一番利用されてるよ」

 

「うーん?」

 

「そうだね、それだけじゃ解りづらいか。例えばこれ」

 

 氷の槍を空中に生み出す。

 

「これを形成する魔法式は全部で10ページになる。空気中の水分の凝固、その編成、温度の低下、強度の指定、射出速度の指定、加速の付与……これを一つ形成するだけでも色々と式として書き込まないとならない」

 

「そんなに」

 

「こんなに」

 

 魔法って術式を用意すれば後は放つだけのもんだと思っていたが、そういうもんではなかったらしい。これはあれだ、プログラミングの様なものだと思う。魔術という言語を使ったプログラミングなのだろう。細かい所まで設定しないとたぶん、望んだ結果が発揮されないのだろう。

 

「だけど逆に言えば1つ1つが何で構築されているのか理解されている、という事でもある。辞書を用意して1つ1つの式が何を意味するのかを理解してれば、それを維持したり組み替えたりする事で簡単にカスタマイズも出来るって事だ」

 

 そう言って氷の槍は氷の剣へと変形し、それから氷の盾へと変化する。

 

「だから特化魔術師は3~4種類の魔法を変化しやすいように代入する式を描いたページをバインダーにセットして、状況や環境に合わせて魔法式を組み替えながら戦うものさ。面倒に思えるけど、1度現物さえ用意してしまえば魔力を通して術式通りの結果を生んでくれるんだ。どれだけ魔力の質や量が低くてもね」

 

「量産型」

 

「そう、量産型だ。いやあ、難しい事が解るねえ、エデンは」

 

 氷の魔法を解除しながらエドワードに頭を撫でられる。子供扱いされるのは見た目上は仕方がないが、中々恥ずかしいものがある。

 

「これは量産して誰もが使用できる形へと落とし込んだ人の魔法だ。こう言ってしまえば魔法は元々人の物ではないって事が解るかな? そうだ、つまり魔法ってのは元々我々の使っている物ではなく、神々が与えてくださる奇跡だったんだ。それを僕たちが自分で使えるように、使いやすいように開発と解析を行ったんだ」

 

 神々の実在証明―――この世界では行われているのだ。魔法、そして奇跡という形で本当に神々は存在するのだと理解されている。だからこそ神々への信仰心は本物だ。実在すると解る超越存在に対する祈りなのだから。

 

「ただ、まあ、現状人類が開発した段階の魔法って対人特化だったり、生活向けの軽いものだったり、あんまり難しい事は出来ないんだよね。さっき言った通り、今の魔法だけでも10ページ必要なんだ。それを色んなバリエーションで細かく彩ろうとするとページが嵩むからねえー」

 

 難しい所だよね、と笑う。

 

「で、今の話で出て来た神の奇跡……信仰魔法が第二の魔法種類だ」

 

 エドワードが指を突き立てた。

 

「我々の世界には神様がいる。我々を見守ってくださっている。我々を導いてくださっている」

 

 マジでいるんだな、と思ってしまうのは元が日本人だからだろう。首を傾げながらうーん、とどうしても唸ってしまう。だけど魔法ってのは元々神から来ているのか、と納得する事にはしている。

 

「まあ、僕はそこまで敬虔でもないんだけどそれでも叡智の神を信仰しているから、それに即した魔法を使用する事が出来る」

 

「それは、どういう、意味、ですか?」

 

「僕たちは信仰し、仕える神の魔法を使う事が出来るようになるんだ。その神の為に日々努力し、そして供物を捧げ、努力をした対価として神が魔法を借りる事を許可してくれるんだ。例えば僕なんかは叡智の神を信仰しているからね、思考速度を加速させる魔法なんて使えたりするよ。叡智の神は他にも数秒先の未来を予知する魔法とかを使わせてくれたりするねー。まあ、これは高位魔法だけど」

 

「すご」

 

 思考加速や未来予知なんて完全に先ほどまでの魔法とは格が違う。

 

「うん、解る。格が違うんだ。それでも信仰と引き換えに神々はこういう魔法を我々にお与えくださるんだ。その中でも最もシンプルなものを解析して転用したのが僕たちが作ったものなんだ。紛いものだと断言できるし、不格好だとも言える。それに神々の魔法は信仰と該当する魔法の許可さえ取れていれば道具もなく使用する事が可能なんだ……まあ、大半は詠唱動作を必要とするけど。そこが紙式との最大の違いかもしれないね」

 

 人が作った魔法は余り強くなく道具を必要とするが、詠唱を必要としない。

 

 神が与える魔法は強力無比ではあるものの、詠唱を必要とする。

 

「ちなみに詠唱というのはこれから魔法を利用しますって神に対する借用の祝詞でもあってね、これをカットするというのは無理なんだ」

 

「神様、ケチ」

 

「はははは、かもしれないねぇ」

 

「教会で絶対にそう言っちゃ駄目よエデンちゃん? 神官たちはそこら辺割と厳しいから」

 

「はーい」

 

 馬車の方からそっとたしなめる様な声が飛んでくる。そっか、信仰がガチな世界観だから日本のファッション信仰とか宗教ごちゃ混ぜ感は割とアウトなのか。そこら辺は意識しておかないと失言がありそうだ。

 

「エデンも魔法を学ぶ上でどの神を信仰するのか、考えておくべきかもしれないね。僕自身は叡智の神を推すけどね。低位で使用できる思考加速や閃きの補助は戦闘・生活どちらでも大変便利な魔法だからね。それに叡智の神様も結構いい加減だから変に干渉する様な事をしてこないのも好意的だよ」

 

「干渉、する?」

 

 うーん、とエドワードが首を傾げた。

 

「割と神々はそこら辺あんまり干渉してこないんだよね。敬虔な信徒の言葉に応えてアドバイスを送ったり、自らの教義に不義を働いた者に神罰を落としたりはするんだけど。基本的に神々は下界の物事には干渉してこないよ」

 

 あぁ、でもあれだけは違ったな……と言葉がエドワードから出た。

 

「龍」

 

 びくりい。

 

「龍を絶やせ。それが人と理の神から来た神託だったね」

 

「龍を絶やせ」

 

 エドワードがその言葉に頷く。その視線は真っすぐ、道路の先を見据えている。

 

「龍を討て。邪悪にして傲慢なる種族をこの地上から絶やせ。彼らが成した悪逆を赦すな。この地は人の物であると証明せよ。人よ、我が子らよ、我が愛しき者達よ、龍を絶やせ。この世から一匹残らず絶やせ、それが人の生きる術である……ってね」

 

 エドワードの言葉を聞いて、ゾッとした。背筋に冷や水をぶち込まれたかのような感覚だった。エドワードの語った言葉はまるでそれが義務であるように感じられた。そうであるように、そうする必要があるように、と。エドワード自身の感情ではなく、その言葉からは神自身の意思を強く感じられた。絶対に殺さねばならぬという殺意を。その言葉を聞いて、増々自分が龍であると絶対に明かしてはならないように感じた。

 

 いや、感じたのではない。確信したのだ。

 

 俺は、生まれた存在がパブリックエネミーだ。

 

「ま、大本営発表だけどね。でも託宣を下した人理教会は今では聖国を持つし、人の生存権と未来を獲得する為の活動と言えば間違いなく成果も出ている。その言葉がどこまで本当かは他の神々が黙して語らないから解らないけど―――少なくとも、それは正しい行いだと思われていたね。まあ、僕はこういう怖いのあまり好きじゃないんだけどね」

 

「なんか、ちょっと、恐ろしいです」

 

「そうだね。神程の力と影響力のある存在が絶やせと言ってきたんだ。それはもはや命令でもあるからね……人と神は寄り添い生きて行くものだと思ってたけど、こと人理の神に限っては別かもしれないねぇ。あのお方は積極的に人が優位に立つ為の言葉を送ってくれるからね。だから人気なんだけど、っと。結構話し込んでたからもう街が見えて来たね」

 

 エドワードの言う通り、相当話し込んでいたみたいで、気づけば街の姿が遠くに見えて来た。神々が……いや、何故人理の神がそこまでして龍を憎んだのだろうか? それはきっと、神自身に聞かない限りは答えが出て来ないのだろうとは思うが、背筋に感じた恐怖を一生忘れないようにしようと思えた。

 

「さて、第三の魔法である先天魔法、或いは先天術式はまた帰り道にでも話そうかな」

 

「旦那様、旦那様」

 

「うん? どうしたんだい?」

 

「神様、名前、ある?」

 

「あるよ、勿論。あぁ、そう言えば名前の方を語ってなかったね。叡智の神の名はエメロアで」

 

 そして、

 

「人理の神の名はソフィーヤだよ」

 

「ソフィーヤ……」

 

 きっと恐ろしい女神であるに違いない。その名を忘れないようにしながら街へ、俺のブラジャーを買いに行く。

 

 あぁ、そうだ。

 

 俺のブラジャーとか買いに来たんじゃん……。




 当然ファンタジー世界なので神様はいるし、実在する超越存在なので信仰心もガチという奴。日本と同じ感覚で茶化すと唐突に腹切りを強要させられる。怖いね。

 Sionさんから支援絵でエデンちゃんの姿をいただきました!
 
【挿絵表示】

 
 とてもキュート! ありがとうございます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。