TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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学園へ Ⅱ

「やーっと終わったな、検問」

 

「流石にチェックが長かったわね……まあ、場所を考えれば当然なのかもしれないけど」

 

 漸く検問が終わり、門を通る事が出来た。相手が貴族であっても一切の容赦がない検問は、賄賂に屈するとかそう言う事もなしに、真面目に行われていた。それだけでこの都市の衛兵団の質の良さが理解できる。そもそも、大量の貴族の子を預かる様な都市なのだからセキュリティ関係は相当厳しくなっている―――いや、だからこそ入れない人間が周囲に集まってスラム街が形成されたのだろうか? そこら辺はリアやロゼの警護の問題上、後々調べて回る必要があるかもしれない。

 

 そんな事を想いつつ巨大な門を抜けて都市内部へと入る。一度入ってしまえば出入りは比較的に楽になる。ここであった検問は初回と言う事もあったからこその長さだった。そしてそのストレスフルな時間が終われば、晴れて学園都市入りだ。

 

 整えられた道路から広がるのは光を呼び込む様に煌めく都市の姿、多くの学生が都市を歩き回り、そしてそれを相手に商売を行う活気ある商店の姿だ。奥へと続く道が見えるが―――その先はさらに遠くへ、そしてその先に巨大な学園の姿も見える。まだここから学園の入り口までキロ単位で距離があるように見える。それだけこの都市が、そして学園の敷地が広大なのだ。流石エスデル最大の学園にして都市だ。

 

 学園都市エメロード、エメはエメロアから来る知を意味する言葉。ロードとは道、即ち知への道を意味する都市だ。

 

 それはそれとしてこの世界の言語と英語混ざってない? いや、言語のぐちゃぐちゃ具合に関しては今更か、なんて思う部分もある。ドラゴン翻訳って結構適当に仕事してる感じあるしな……。

 

 そんな事を想いつつ、バッグから取り出した地図で現在位置を確認しつつ馬どもに指示を出す。足を組んで手綱を手放しながら地図を見て馬に移動の指示を出す姿は異様すぎて、周りの人達から視線が集まる。だが俺達辺境組からすれば何時も通りの操縦方法なのでまるで気にしない。地図を確認しつつ馬を走らせ、後ろの連中と会話を続ける。

 

「それで最初の向かう先はお父様の用意した家だったかしら?」

 

「えぇ、サンクデル様が私達が暮らせるように手配してくださった住居が用意されてます。鍵は既に受領してあるので後は現地で確認するだけですね……でしたね、エデンさん?」

 

「あぁ、別段俺とリアは寮暮らしでも良かったんだけどな」

 

「でもやっぱり皆一緒が一番楽しいよ」

 

「そうね。どうせなら見慣れた顔で一緒に居られるのが一番よ」

 

 遠く辺境から離れた地、この学園都市エメロードでは生徒たちには寮での生活を提供しているのだが―――それをどうしても気に食わないから家を建てるぜ! って実際にやってしまった馬鹿が過去にはいるらしい。そしてそれが恐らく学園から学園都市への変化の始まりだろう。最初は家が欲しい馬鹿が家を建て、その周囲に別の家が用意され、そしてそこにビジネスをかぎ取った連中が商店を開いた。

 

 そういう事で今では寮生活とは別に住居が都市の方で用意されており、そこで生活する事が出来る。とはいえ、この学園都市で永住するというのは相当難しい話ではあると聞いた。既に入口の検問でかなり時間を食われているからどれだけセキュリティを意識しているのかは理解しているが、その上で各国の貴人が勉学の為に留学する可能性もあるレベルの学園なのだ。ここで働く連中は全員身元のチェックが行われたり、不法に卒業後も居残って生活していないか等の厳しい検査も行われているとか。

 

 まあ、そのチェックを俺達は抜けたので今、こうやって都市内部に居られる。紹介状やら合格通知を見せないと入る事が出来ないというのは相当面倒だ。後は後々役所の方で出入りのためのパス発行を頼まないとならないし、入居手続きもしなくちゃならない。まあ、それに関しては家を確認してからでも遅くはないだろう。というかソッチに関してはクレアがやってくれる事になっている。俺は家の方で模様替えやら持ち込んだ手荷物の整理やらで体力と筋力を使う事の方を担当する事になっている。

 

 だから馬車を目的地へと向けて進める。

 

 賑わいを見せる都市の様子は学園都市と呼ぶわりには普通の都市と変わりないように感じられるものの、これを辺境で自分の知る唯一の都市と比べてしまうと、自分がどれだけ田舎にいたのかを理解させられる。ロゼとリアなんかはずっと窓に張り付いてきゃーきゃー言っているのが解る。そしてそれをクレアが窘めようとしているものの、彼女もちょっと興奮しているのが感じられる。総じて田舎のお上りさん感が抜けきっていないのはしょうがないか。

 

 俺はそう、新宿のラッシュアワー経験してるから……。あの足の踏み場もなく、人でごった返してぎゅうぎゅう詰めになった道路。満員電車で乗り込もうとしてタックルをかますクソおっさん。今思うと物凄い懐かしい記憶ばかりだ。今の日本と言うか地球、どうなっているんだろうか? あの頃連載していた漫画とかアニメの続き、ちょっと気になる所があるが、まあ、ぶっちゃけ漫画やアニメよりも今の生活の方がファンタジーだ。お蔭でこっちの生活のが楽しいからあまり気にならない。

 

 ふと、昔を思い出した時だけだ。気になるのは。

 

 それ以上に両親とか友人とか、ソッチが気になるが。

 

 まあ、心配したところでマジでどうしようもないので心配するだけ無駄だと理解してるのだが。

 

「しかし賑やかだな……確か冒険者ギルドもあった筈だしな」

 

「1つの都市で学園に必要な供給を満たそうとした結果出来上がったという話ですからね。主要な利用者が貴族や貴人なので金も良く落とします。その結果発展や投資が凄い勢いで進んでいるのでしょう。そういう意味ではここで店舗を構える許可を得られた人たちは幸運ですね」

 

「そうじゃないのが外に、と」

 

「たぶん。それでも強制退去や撤去されてない理由が良く解りませんが」

 

 やっぱ政治的アレコレとかあるんかなあ、とは思う。政治の話とか経済の話、理解はできるが面倒だからあんまり好きじゃない部類だ。そういうのは楽しいと思っている連中にぶん投げれば良いんだし。

 

 それはそれとして、入口から商業区を抜けて居住区へとやってきた。そして辿り着いたこれから数年間、我が家として活躍するであろう邸宅であった。そう、邸宅。流石辺境伯閣下、お金を大量に持っておいでである。邸宅としか表現できないであろう大きさの家は4人で暮らす前提込みでギリギリサイズを落としたと言えるサイズだった。というよりグランヴィル家邸宅に近いサイズだ。前庭、裏庭も込みで立派な門までついている。それを見た瞬間、恐らく俺とクレアは同じことを考えただろう。

 

 ―――そ、掃除が大変そう。

 

 その内捕まえた動物に掃除でも仕込むか。そんな事を心の中で決意しつつ馬車を一旦門の前で止める。門を確認すればやはり鍵が付いている。

 

「クレア?」

 

「少々お待ちを」

 

 馬車から先に降りたクレアが門へと向かおうとし―――一緒にロゼとリアが降りて来る。実のところ、全員着替えなどの荷物は俺のディメンションバッグに限界まで詰め込まれているので、このお嬢様方は完全にフリーハンドで移動できるのだ。俺、便利に使われてるなあ、なんて思いながら門を開けた瞬間前庭へと飛び込んで行く2人の姿を見た。しばらくクレアと一緒に邸宅の入り口まで走って行く2人を見て、

 

「庭の手入れ大変そうだな」

 

「これは流石に業者を呼ばないと厳しそうですね……エデンさん、分身とか出来ません?」

 

「流石に無理かなあ……」

 

 熊はグランヴィル家の庭の手入れを教えたら出来るようになってたし多分仕込めば行けると思うんだよな……。だが流石に学園都市にロック鳥一家や熊一家を連れ込むのはちょっとヤバイかなあ、と思って自重したのだ。考えてみれば当然の事だよな。

 

 クレアがお嬢様方を追って邸宅の入口へと向かう中、門を抜けて中に入った俺の方はと言えば、馬車をどっかに留めないとならない。軽く周辺を見渡せば、邸宅の横へと繋がる道が見える。あっちかなあ、と馬を進ませてみればすぐに厩舎などの姿が見えてくる。流石辺境伯様、ここまで全部用意してくれるのね。ロゼの為だと思えばきっと本人としては安いのだろうが……これ、全部メンテとかで面倒を見るの俺とクレアなんだと思うとちょっと嫌気が差してくる。

 

 まあ、学費自体はリアが頑張っている間は無料だ。後は生活費回り、家賃とかはロゼと共同生活をするから無料だし、食費は折半だ。サンクデルのお蔭で此方での生活が色々と楽になっている分、持っている金と仕送りで賢くやりくりしてくれ、という事なのだろう。俺もリアの為にと頑張って稼いだ貯金がある。これを使っていけばここでの生活もだいぶ楽になるだろうとは思っている……あの時した苦労は決して無駄ではなかったと思っている。

 

「おら、お前ら今日からここがお前らの住処だぞー」

 

「ひーん」

 

「ぶるるっ」

 

 ジーク1世とジーク2世とこいつらは適当に名付けておこう。1世と2世を厩舎に入れつつ、馬車を置ける場所を確認する。本来であれば馬を使って細かく調整する所なんだろうが、そもそも俺が馬車を持ち上げられるので細かい車庫入れするのに馬が必要じゃない。馬車から連中が外れたところで馬車を両手で持ち上げ、それを置く形で車庫入れ完了する。その様子をずっと見ていた1世と2世はパネェっす姉御! と嘶いている気がする。

 

 まあ、ドラゴンだしね? これぐらいはね?

 

 とりあえずこの邸宅にも車庫と厩舎があるのを覚えておき、前の方に戻ってから扉へと向かえば、既にリアとロゼが突撃した後らしく、扉は開けっ放しになっていた。

 

「おー、調度品の類は既に置いてあるか」

 

「サンクデル様が家具もある程度は既に運び込んでおいたそうです。少なくとも部屋の寂しさを考えなければこのまま暮らせますね」

 

「まあ、誰かを呼んだ時に品位を疑われるからある程度は飾らないとな。そこら辺のセンス、頼んでも?」

 

「えぇ、そこは私が担当しましょう。それでは私は役所へと向かってきます。地図とか借りますね」

 

「あいよ」

 

 バッグから役所で必要になる諸々や地図を手渡し、代わりに鍵をクレアから受け取る。クレアが役所へと向かうのを見送りながらふぅ、と軽く息を吐き出す。邸内の気配を軽く探ればリアとロゼがばらばらに走り回っているのを感じられる。こういう時の連中は本当に活きが良いというか……やっぱりまだ少女なんだなあ、と思わせられる。とりあえずディメンションバッグから荷造りして纏めた荷物をロビーに出しつつ、息を吸い込んで軽く声を張る。

 

「おーい! どの部屋が良いかは決めたかー? 荷物を出すぞー!」

 

「あー! 待って待って待って! 私この部屋が良い! エデンは隣の部屋ね!」

 

「私はこっちよこっち! 私はこっちの部屋ね!」

 

 そうやって騒いでいる少女たちの様子に苦笑を零す。この様子ならホームシックとかの心配は必要なさそうだ。とりあえず数日は荷ほどきや部屋の整理、後は調度品の購入とか必要となるだろう。新学期開始まではまだ1か月近くあるから余裕をもって準備を整えられるだろう。

 

 と、そうだった。学園の方へと入学のための挨拶に行かないといけなかった筈だ。特にリアは今年度の特待生の1人で、待遇が他の生徒とは違うのだからそこにも気を使わないとならない。

 

「後はリアとロゼの制服、教科書はカリキュラムに合わせてだっけ? 授業選択は初日の1週間前までは受け付けているから一応気を付けて、と……」

 

 これまでの生活、グランヴィル家での仕事は確かに家事とかがメインだった。そして割と暇な時間に自分のやりたい事をやる感じだったが、ここに来て一気に貴族の使用人、或いは従者と言う立場に求められる事が広がった気がする。こういう細かい事を細々と処理するの、俺のタイプじゃないと思うんだけどなー、なんて思っちゃったりもする。

 

「エデン! こっちこっち!」

 

 そう言って階段を降りて来たリアは俺の手を掴むと上へと向かおうと手を引っ張ってくる。それに釣られる様に上へと、カーペットの敷かれた階段を上がり2階の私室がある廊下へと向かう。既にロゼも其方の方で部屋の物色をしており、満面の笑みで自分の縄張りを主張していた。

 

 そうやって笑い合う少女たちの姿を見て、2人の姿を一気に抱き寄せて肩に担ぎ、1階へと連れ去る。

 

「オラ! さっさと荷ほどきやるぞ馬鹿!」

 

「もうちょっと探索させてよー!」

 

「みたーい!」

 

「駄目だ駄目だ! いっぱいあるんだから早めに始めないと終わらないぞ! さっさと部屋を決めて終わらせるぞ!」

 

 ぷえー、と気の抜けた反対の声を無視しながら2人をロビーで降ろす。

 

 中々愉快な日常が始まりそうな、そんな予感でこの地は溢れていた。




 感想評価、ありがとうございます。

 一種のシェアハウスだけど家元地位もヴェイラン家のものでござい。護衛戦力? 騎士団付けるよりもエデンがいる方が遥かに安全なので。エデンがロゼの近くで活躍すればするほど名声はヴェイラン家にも入るので実はこの采配、サンクデル閣下は全面的ににっこり。

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