TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

87 / 140
新入生 Ⅸ

 ―――龍という種族は不思議な生物だ。

 

 カテゴリーで言えば神々に最も近い神聖な生物になる。神々を補佐し、世界を管理する為に生み出された生物である為に、非常に強靭で多機能を備えている。戦闘力なんて所詮は機能のうちの一つでしかない。言語翻訳だって龍に備えられた機能の一つでしかない。何が言いたいかというと、俺にはそれ以外にも多数の機能があり、その一つには嘘を察する事が出来るというものがある。龍はそもそも目が特殊であり、暗視が備わっているから夜は便利に使わせて貰っていたが、それは目に備えられた最低限の機能で、本来は見えない筈のものをも見る事ができる目となっているのだ。

 

 感情を目視する、真偽を目視する。その能力は正直、日常ではほぼ使う事もなく、活躍する事もないだろう。だがこういう時、知らない誰かに話しかけられた時には大いに役立つ。つまり相手が騙しに来ているのかどうかを判断するのが簡単になるという話だ。たとえばルシファーやヴァーシー、あの連中は解りやすく喜びや楽の感情で溢れていて一切嘘をつかない、勢いだけの生き物だ。そこに更に勢いを三乗に重ねるとルインになる。あの連中は本当に人生エンジョイしているのが見ているだけで解る。

 

 じゃあこの少年はどうだ? って話になる。

 

 言動に嘘はない。だが全てを語っている訳でもない。態々貴族でもない一般人に貴族が話しかけてきているのだ、用事があるのは解り切った事だ。だったら場所を変えて話せる所へと向かえば自然と話を聞けるだろうという判断で、少年を連れ出す事にした。

 

 俵担ぎで。

 

「あのぉ、逃げないから降ろしてほしいんだけど……」

 

「嘘は駄目だぞお。あそこで見守りつつも笑顔で送り出す気満々の騎士の所へ逃げるつもりだろ?」

 

「ハリア……!」

 

 図書館を出て少し離れた場所、木の陰に気配を消しながら隠れている騎士らしき男性は良い笑顔を浮かべた状態で敬礼している。そしてそのまま木陰で涼む様に目を瞑る。うむ、見どころのあるサボタージュ姿だ。名のある騎士に違いない。秒で売られた事実にショックを隠せない少年はあー、と声を零す。

 

「えーと、せめて普通に歩かせてくれないかな? こんな姿知り合いに―――」

 

「アルド、様……?」

 

 言った側から図書館へと向かおうとする女子生徒―――先日、食堂で飯をぶっかけられ、そして追撃のツインドリルを喰らった白髪の公爵令嬢シェリルの姿があった。白髪という点では俺と共通点を持っているが、あちらは編みこみつつもストレートで髪を降ろしている辺りが俺との違いだろう。俺は龍殺しに斬り落とされた不揃いな前髪、割と気に入っているから後ろをなるべく纏めるか前髪をチャームポイントにしているんだよね。

 

 それはまあ、ともあれ、

 

「や、やあ、シェリル。元気そうだね……?」

 

「え、あ、はい。はい……?」

 

 首を傾げるシェリルの姿と、ぶらーんとぶら下がる少年・アルドの姿を見た。そう言えばこいつの名前、聞いてなかったなあー、なんて事を思いつつ視線をアルドへと向けた。

 

「ご関係は?」

 

「え、私の婚約者だけど……」

 

「成程、運命共同体。それはつまり共に運命を共にする人。サボタージュするなら一緒にだよね!」

 

「ん??」

 

 とっとことシェリルに近づいてその腰に手を回し、一気に持ち上げて俵担ぎする。これでダブル担ぎだ。右肩に美少年、左肩に美少女。うーん、ドラゴン的に考えて美しいものとか財宝には弱いからこれは良いぞぉ。白髪美少女と金髪少年のセットだ! これは中々希少価値がある。所で15歳って少女とか少年って言える年齢なのだろうか? まあ、ギリ少年少女か。流石に17歳ぐらいになったら俺の中では青年カウントに入るかなあ。

 

 そんなどうでも良い考えをよそに、シェリルも捕獲に成功したので両肩に2人を担いでゆっさゆっさと揺らしつつ学園の入口へと向かって歩き出す。完全に捕獲された猫のように伸びる二人は困惑している様子を見せるものの、抵抗するだけ無駄であるというのをどうやら悟っているらしく大人しく連行される。この様子を見ている限り、どうやら俺レベルの理不尽な存在に絡まれる経験はそこそこあるらしい。なんて不憫な。そんな考えを流しながら“ジュデッカ”へと連れ去る。

 

 

 

 

「流石にシェリルを捕まえた時には肝が冷えたよ」

 

「流石に無関係の奴を連れて行くのはどうかと思ってな。リリースしてやったけど……お前のしたい話って婚約者には言えない事なのか?」

 

 学園を離れて少し、ジュデッカへの道を進みながらもアルドと並んで歩く。シェリルは校門を出たあたりで解放してきた。流石にノリでずっと付き合わせるのはまずいと思うし。それを言っちゃ講義をサボタージュさせてるのも割とアレなのだが、それはそれ。俺をそもそも誘ってきたのはこっちの少年なんだから俺は悪くない。あんな風に俺に話しかけて去らないのだから、当然何らかの誘いがあると見るのは当然だろう。

 

 まあ、その結果アルドとジュデッカへと向かっている最中なのだが。学園を出て人通りが増えた所で、アルドは少し素直になった。人が完全に制限される個室でもない限りは、人気の少ない場所よりも人通りの多い場所の方が密談には向いてたりする。だから改めて聞く。

 

「で、俺に何の用事? ただ感謝する為に図書館で話しかけて来た訳じゃないんだろ?」

 

「解るかい?」

 

(わか)らいでか」

 

 そこそこ人生経験と対人経験あるから、腹芸はちょっとぐらい出来るぞ。まあ、本格的な政治闘争とかはマジ無理というかジャンル外なので勘弁だが。それはそれとしてリアの代わりにあらゆる分野で補佐する為に色々と技能は伸ばしてある。前世からの技能や技術もそのまま受け継いでいる結果、ある種の万能人間である自負はある。だから15の少年の腹芸程度であれば見抜けるのも当然の話だろう。こっちはその2倍以上生きてるし。

 

 ポケットに両手を突っ込んだ状態で先導するように歩く。一歩だけ前に出る形。一応50歩程離れた場所から護衛が追跡してるのを感知している。あの時は笑顔で見送った癖にその実は護衛しているんだから油断できねーわ。気配の消し方が騎士じゃなくて暗殺者のそれなのが更に質が悪い。ただ俺が何度か意識を向けている辺り、自分の隠形が破られているという自覚があちらにはあるだろう。すまないが、こっちはそこら辺の知覚能力が地上生物超越してるんだわ。がっはっはっはっは!

 

「で、お名前は?」

 

「アルドバート・ランディル・エスデル、この国第5王子だよ」

 

「マジか、拝んで良い? ムーンウォークしながらやるから」

 

「ちょっと見てみたい気もするけどうーん、止めて欲しいかなぁ」

 

 記憶にあるスターを真似してちょっとその場でムーンウォークしてみるとアルドが小さく笑い声を零す。

 

「そのまま拝まれたくないかなぁ……うん、そこまで普通のリアクション? を返されるとは思わなかったけど」

 

「所作の気品と護衛の質、後は勘で大体解るかな。ただ、まあ、平民の大半は王族の概念を理解していても感謝もクソも難しい話だと思うけどね」

 

「そうなのかい?」

 

「世界が違いすぎるからな」

 

 そもそも一体どれぐらいの平民が王族の顔を知っているのだろうか? 恐らくそんなには居ないはずだ。基本的に政治の中枢は国の中心に集中しているが、多くの人は中央に行く機会もなく一生を終えるだろう。そして王族も、態々平民の為に国の隅々まで顔を見せる為に巡幸する訳じゃない。つまり王族の統治に感謝しつつもその顔を知る事無く一生を終える奴ってのは意外と多いって話だ。

 

 それが世界が違いすぎる、或いは遠すぎると言う意味。写真や本の発達に伴い顔写真が出回る事で漸く認知が上がるだろうか? 地方でちゃんと王族の顔を認識してるの役人ぐらいじゃないかなあ……あぁ、でもこの世界の技術的にもうちょい認知度高いかもしれない。

 

「まあ……アルドさまにおかれましては、もし私めの態度が不敬だと仰せであれば、すぐにも改めますが―――」

 

「いや、止めて欲しい。私も私で肩書に縛られない生活には憧れていたんだ。折角私を雑に扱ってくれそうな人に出会えたんだ、この雑さをなるべく噛みしめたい」

 

 そう言われると本当に王子様の相手をしているようで面白い。学園に通う王子様、実在したんだなぁ……という妙な感慨が胸に湧いてきた。まあ、エンカウントできたからどうだって話なんだが。

 

 と、話している間にジュデッカに到着してしまった。意外と早かったな、と思ってしまうのはこのインテリとの話し合いが結構楽しかったからかもしれない。教養のある人間はレスポンスが早く、話し合うと楽しいのが困る。ジュデッカの前で足を止めて親指でここ、と示すとアルドが店の看板へと視線を向けた。

 

「ミュージックバー・ジュデッカ? 聞かない名前だね」

 

「演奏とお酒と軽食を提供する知り合いの店だよ。本当なら未成年はお断りだけど……今日は王子様にルールを破る楽しさを覚えて貰おうか」

 

 がおー、と茶化す様に脅かすと、口元を軽く隠す様な上品さでアルドが笑う。

 

「それはそれは中々魅力的な話だ。これでは私が(りゅう)の道に進んでしまいそうだ」

 

 うーん、この返し方。好き。

 

 ベルの鳴る扉を開けて店内に入ると、見慣れた薄暗さと閑古鳥が鳴く店内が視界いっぱいに広がる。僅かに効いている冷房のおかげで店内は外よりも涼しく過ごしやすく、そして何時も通りの3人組の姿が見える。一番最初に反応するのがカウンターにいるヴァーシー君であり、俺を見ると。

 

「え、え、えで、エデンさんが俺を見ている……! うっ」

 

 そのまま胸を押さえてカウンターに頭を叩きつけてから床に倒れた。その姿を素早くルインが追う様にカウンター内部へと飛び込んでヴァーシーを抱え、

 

「し、心不全! 心不全ですよこれ! 待って! 店内で死者が出たら営業禁止になっちゃうから! 残されるの私からルシファーへの借金だけですから!」

 

「お前にそれ以外のものがあったのか……あぁ、いらっしゃいマイフレンド今日は」

 

 残されたルシファーが俺が連れて来た人物を見たので、その姿に頷きを返す。

 

「客を連れて来たからなんか良い感じの曲とジャンクフード宜しく」

 

 俺のその言葉に、店内の連中が劇的に反応した。ルシファーはこれまで見た事がないレベルで目を輝かせ、ルインはヴァーシーに飯を作らせようと心臓を殴打し始める。そしてヴァーシーは拳を喰らうたびにびくんびくんと跳ね始める。アレ、トドメじゃねぇかなあ……という疑問を静かに呑み込んで視線をアルドへと向けた。

 

「まあ、貸し切りみたいなもんだから好きな席を選んでよ」

 

「中々頭のおか―――ユニークな友人関係だね?」

 

「言葉を誤魔化しきれてないんだなあ、これが。ヴァーシー君ー、ピザたべたーい。シカゴピザ作れるー?」

 

「何かは知らないけど作る! 作れます! 作るぞおお―――!! 愛と! 悲しみと! 希望と絶望を込めて俺、ピザに命を注ぎます……!」

 

 俺の声に反応して蘇ったヴァーシーがモンスターも料理も一緒だ! とか叫びながら厨房へと突っ込んでいった。心配そうについて行くルインが厨房から蹴り出される。ルシファーはその間にもステージへと上がり、分身していた。サックス担当、ドラム担当、ピアノ担当、ベース担当、ギター担当……そんな風に楽器別に分身する事で1人でバンドを成立させていた。

 

 その様子を見てアルドが一言。

 

「これが魔界かぁ。私が王に就任したら国交を閉ざそうかなぁ」

 

 そうもなるかあ、と思いながら苦笑する。とはいえルシファーの方は本気で演奏をする気満々だ。良い笑顔で演奏道具のチューニングを終わらせると軽く慣らしに入り、そこから演奏を始める。と言っても騒々しいタイプの音楽ではなく、ベースの音を引き出す様な静かで、骨に響くようなビートだ。

 

 滅茶苦茶調子良さそうだなアイツ……人生最高の輝きを見せてる気がする。こんなところで良いのかお前……?

 

 まあ、ええか。

 

 アルドがまだ遠慮しているようなので近くのクッション席まで姿を引っ張って押し込み、その対面側に足を組む様に座る。コートも脱いじゃってそれを横に置いて、リラックス出来る状態に自分を置く。

 

「アルド君はお酒大丈夫?」

 

「昼間からは遠慮したいかな」

 

「そうかそうか……まあ、流石にここじゃ自重するか。ピザなら……まあ、あるもんだとアップルサイダーが一番か。じゃあアップルサイダー2本宜しくルイン」

 

「はーい、少々お待ちくださーい」

 

 オーナー自ら働いている姿見ると泣けてくるな。肉体労働以外に適性ないけどアイツ。

 

 サイダーが運ばれるのを待ちながら向き合い、俺達は漸くまともな話が出来そうだった。




 感想評価、ありがとうございます。

 学園ものに身分を隠した王族がいるのは基本基本。だけどシェリルちゃんのラック値は大体D-です。婚約者になれた事で人生の運を使い切った疑惑ある。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。