TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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新入生 Ⅹ

「解らないなら発想を変えれば良い。聞けばいいんだ! 神に!! という訳でお持ちしましたぁ! ふっふー! シカゴピザでぇす!」

 

 マジで持ってきやがった。最悪普通のピザになると思ってたのに。所でその神様ソ様じゃなかった? 余計な入れ知恵はするんだけど大事な知識はマジで授けてくれねぇなあの女神。そんな事を思いながら運ばれてきたシカゴピザの圧力にアルドは圧倒されていた。魔法を使っているから地球の様にチーズが冷えて固まる様な事はないのが、見えているファンタジー世界らしいアレンジと気遣いだ。チーズは冷えると固まって美味しくないから、魔法で保温してあるこのアレンジは個人的に花丸を与えよう。ヴァーシー君に軽くウィンクを送るとまた心停止した。

 

 アツアツのピザは形状だけ見るとタルトの様に見えるだろうが、その中には大量のチーズが詰まっている―――俺の好みど真ん中なタイプだ。やっぱりソ様普段から俺の事見て把握してるんだなあ、と思いながらアルドと自分の皿を用意し、ナイフで切り込みを入れる。当然のように切った所からチーズが溢れだすので、それを何とか掬いつつ皿の上に2人分並べて配膳する。その圧力を前にアルドはちょっと気圧されていた。

 

「これは……食べると夕食が辛そうだなぁ」

 

「良いんだよ偶には。カロリーも結構やばめだけど。人生、体に良いもんばっかり食ってるとつまんねーぞ? 偶には思いっきり体に悪いジャンクフードを食べて、ジャンクのオイルを体に摂取させるんだ。この明らかにカロリーと油の爆弾としか思えないものを久しぶりに摂取した時の快感は病みつきになるぞぉ。ほれ、どうせ講義はサボらせてんだから食べちゃえ食べちゃえ」

 

「いや、食べるけどね? まさかこんな事になるなんて思わなくて」

 

 そう言っている間に大量のチーズが乗ったピザを手で掴んで口へと運ぶ。そうそう、これだこれ、この味の濃さと強さだ。過剰なチーズと申し訳程度の野菜、それに肉。これでこそアメリカンジャンクって感じだ。別に好きって訳じゃないんだけど、しばらく食べていないと妙に食べたくなる魅力がジャンクフードにはある。解るだろうか? 解らないかな? でもアルドは恐る恐るという様子で俺の真似をし、手でピザを持ち上げる―――その持ち上げ方が非常に慣れてない辺りフォークとナイフで上品に食べる事に慣れているのが見える。

 

 零れそうになっているチーズを零さない様に悪戦苦闘しつつ掬い上げるように、なるべく上品に食べようとして―――口の中にぱくり、とピザに噛みついた。その表情は一気に明るくなる。もぐもぐと口の中にある物が空になるまでちゃんと咀嚼して飲み込んで、

 

「これは……なんというか、非常に冒涜的な味がするね。言葉にはできないけど食べてはいけないけど手が出てしまう、そんな魔性の魅力を持っている」

 

「解る。その魅力が解るなら今日からお前は同志だ。そしてピザを食べて乾いた喉をアップルサイダーで流し込む! 健康には間違いなく悪いしデブの元だけど、このコンボは最強だぞぉ!」

 

 本当ならコーラが欲しいんだけど、やっぱないしな。コーラとピザはデブの神器だ。これを食ってカロリーの消費を怠ると太るんだわ。まあ、この体、黄金比みたいなのを絶対に崩さないからどれだけ食ったところで何の問題もないのだが。とはいえ、あまり不健康な生活を送っているとリアが真似してしまう。彼女が真似しない様に、かっこよく頼れる姉である為にも俺は健康な生活をなるべく心掛けている。

 

 まあ、それはそれとしてピザとサイダーという組み合わせを気に入ったらしいアルドはどことない上品さを所作に見せつつもピザを食べ進める。俺も一緒にシカゴピザの攻略を進める。片手でピザのスライスを持ち上げつつ、話を切り出す。

 

「それで第5王子様が俺に一体何の用なんだ?」

 

「……んむっ。えーと、そうだね。何て言ってしまおうか」

 

 マナーを気にすることなく片肘をテーブルに突き、胸をテーブルに乗せて休ませながらアルドの方へと視線を向けている。俺も何時の間にかこんな事が出来る人間になったな……。

 

「恐らく、君は迂遠な言い方は好まないだろうから、単刀直入に言ってしまおうかな。この学園にいる3年間だけで良いから私に雇われないかな?」

 

「ふーん?」

 

 頬杖を立てたままアルドの言葉に適当な相槌を打つ。今更俺がどういう立場で、誰の従者をやっているのかを説明する必要はないだろう。そもそも俺はある程度目立っている。あの食堂の一件から少し時間が経過しているのだ、その間にリアの事もロゼの事も調べられただろうし、その時に俺の事を調べる事も出来ただろう。そうすれば自然とサンクデルの事にだって行きつく筈だ。辺境伯の娘の護衛としてやってきた人物を引き抜こうとする意味を解らない筈がないだろう。

 

 もぐり、とピザを噛み千切りながら話の続きを促す。

 

「無論、引き抜こうと思っている訳じゃない。こう見えて色々と制限のある身でね。王子といっても第5じゃ第1王子や第2、第3ぐらいまでの有力候補と比べると、与えられる力も財産も、そして権力というのも少ないものなんだ。その中でやりたい事をやろうと思ったら、なるべく自分の力で物事を進めようとしなければならない」

 

「成程、で?」

 

 続きを促す。此方の短い言葉にアルドが多少のやりづらさを感じているようだが、それを一切表情に見せない様にしている。そこら辺のポーカーフェイスはちゃんと教育されている、という事なのだろうか。リアはこういう事が苦手なんだよなぁ。そういう所がまた可愛いんだけど。あの子の表情の素直さとかがやっぱり好きなんだよね。

 

「私の敵対派閥がこの都市にはいてね」

 

「第5王子相手に?」

 

「上にいる人間ほど下からの突き上げが恐ろしいものさ。私は正直な話、玉座にそこまでの興味はない。上の兄たちはどれも傑物だ。誰が玉座に座ってもエスデルの未来は悪くないものだと思っている。だから私は正直、シェリルと結婚して適当な領地を貰ってそこで暮らせれば良い……程度の認識なんだけどね」

 

「こわーいこわーいお兄さんたちはそうじゃない、と」

 

「そういう事になるね。相手としては私を失脚させるか悪評を作る事で王子としての価値を無くしたいんだろうね。自分で言うのもアレだけど、そこそこ優秀な自負がある。政治、経済、武芸、魔導、どのジャンルでもいい成績を出せる自信があるし、大体どこでもやっていけるつもりだ」

 

「だけど若くて才能のある人間がそれなりに良くやっていると上は怖い、と」

 

「そういう事になる」

 

 アルドは苦笑する。

 

「本当に玉座には興味はないんだ。だけど才能がある、能力があるというのはそれだけで恐れられるものになる。困った事に兄上たちは優秀だからそれなりに才能のある人間だって理解されているんだよね。敵にはならないかもしれない。()()()()()()()()()()()()()って考えられている」

 

「日和ったと見せかけて裏で誰かと結託している場合もあるし、盤上から弾き出したほうがそら楽だわな」

 

「うん、だから私が個人で動かせる自由な駒が欲しい。あのヴェイラン辺境伯の懐刀でグランヴィル卿が大事に育て上げ、既に実績として辺境の防衛に活躍している“白い顎”のエデンには是非とも力を貸して貰いたいと思っている」

 

 アルドの言葉に思わず表情を顰めてしまった。完全に俺の辺境での立ち回りが耳に入っている。いや、そりゃあサンクデルの所で滅茶苦茶働いているし、サンクデルも俺に実績を与える為に仕事を回してくれている。その分俺も辺境の方では名声を稼いでいる。主に蛮族の対処やモンスターの討伐、指名手配登録される前の大物の抹殺という形で働いたが、知ってるやつは知っているという認識だった。

 

 人狼のオーケストラ以来大きな事件を担当したという事はないが、それでもブロンズへの昇格に文句とかが上がる事は一切ないレベルで名声は稼げていた。だからそれが調べれば中央の人間の耳に届くのは……まあ、不思議ではない。とはいえこうやって把握されているのは、ちょっと居心地が悪い。特に“白い顎”というのは俺の殺し方によってつけられた通り名だからだ。

 

 振るう大剣の残像、軌跡がまるで大きく開かれた顎であり、それを振るう俺の髪色が白い事から白い顎、という名前が取られている。

 

 正直、滅茶苦茶恥ずかしい。ただ言っている側も、名付けている側もこれは割と真面目なのである。そこら辺は時代とか世界観のセンスの違いかなあ……って話になるんだが。

 

 ただ、まあ、と思う。

 

「受けるメリットがない。俺はリアの面倒見るので忙しい。ヴェイラン様にロゼの面倒も見てくれって頼まれている。ここは安全だって解ってるけど、それでも護衛としての本分を疎かにしてまでお前の話を受ける理由がない」

 

 その言葉にアルドは頷いた。

 

「確かに、君の言う通りだ。貴女には貴女の職務の本分があるだろう。だから決して全ての時間を拘束するつもりはないし、本来の護衛業を優先して貰っても構わない。空いている時間で此方を手伝える場合に、この都市で起きる問題に対処して貰いたいんだ」

 

「ほーん?」

 

 この都市での問題、とは面白い仄めかし方をする。アルドは自分の問題とは言わずに、都市の問題と口にした。それはつまりアルドだけではなく、彼の周囲や周辺、ひいては都市にまで影響するかもしれない問題を意味しているのだろう。だがそれこそ俺の管轄外だ。

 

「そういう問題は学園長にでも助けを呼んで貰えば?」

 

「―――その学園長が君をお勧めしたと言ったら?」

 

「……んー?」

 

 一瞬黙ってしまったのを声を零す事で誤魔化したが、リアクションを見抜かれてしまったかもしれない。学園長、学園長……確かワイズマン。数百年を生きる森人だったか? ギルドでのウィローやジャスミン等、森人とは何かと縁がある。そういえば自然寄りの化身種族だし、そういう意味では相性の良い種族なのかもしれない。適当な事を考えると頭の中に余裕が出来る。良し、と思考を流しつつ時間を取らずにリアクションを返す。

 

「俺は会った事すらないんだけどなあ」

 

「本当かい? だがワイズマンはこの学園で助けを求めるなら君が一番適任だと評価していたよ。だからこうやって君と会う事にしたんだ」

 

 こんにゃろ、ワイズマンに言われなきゃ俺に感謝しに会う事もなかったな。まあ、態々感謝されに来てもそれで? ってなるのは当然っちゃ当然なので別に良いんだが……それはそれとして、ワイズマンがなぜ俺の名を上げたかというのはちょっと気になる話でもある。長生きだし龍の事を知ってる? 理解されてる? いや、それにしては若すぎるか。いや、そういう意味じゃ龍殺しの野郎も見た目だけはだいぶ若かった。

 

 んー、駄目だ。

 

 情報が足りない。

 

「魅力を感じないなあ」

 

 結論、魅力を感じない。別に受ける必要性は感じない。お金には今困ってないし、仕事だって別に今進めなくても辺境に戻れば数年でランクは上がって行くだろう。今ここでこの第5王子の話に乗る必要性が俺には感じられなかった。ただやはり、ワイズマンがなんで俺の名前を出したか、というのは気になる。

 

「その場合はこれを出せば頷くだろうと言われているけど―――どうかな」

 

 そう言ってアルドは小型のディメンションバッグから一冊の古い本を取り出した。あまり興味もなくその本へと視線を向けたが、そのタイトルを見た瞬間凍り付く。

 

 《龍と大地》、それが本のタイトルだった。

 

 図書館には存在しない本だった。

 

 そうか、ここでか。このタイミングでか。俺が図書館で龍に関する書籍を探したこのタイミングでそんなもんを取り出してくるのか。俺が図書館へと行くタイミングを解っていた? それは予知能力か? それとも俺が龍だと解っていて用意したものなのか? 何にしろ、この反応はそのワイズマンという男が俺の正体に感づいているという事を示すのだろう。

 

「こほん……その、出来たら威圧感を抑えて欲しいかな。その瞳孔も戻して貰えると助かる」

 

「ん? あぁ、悪い」

 

 本に手を伸ばそうとするとそれをアルドが下げた。

 

「悪いけどこれはワイズマンから預かっているだけのものなんだ。だが取引に応じるなら他の書籍と一緒に渡しても良いと言われている。私にその価値は測れないけど、貴女にはどうやら、凄く価値のある物らしいからね」

 

「綺麗な顔をして厭らしい事をするじゃんかよー」

 

 でも綺麗事ばかりを抜かして助けを求めるよりは俺、ずっと好きだよ。人間らしくて逆に信じられる。綺麗な事ばかり言っているタイプはやっぱり人間感が薄くて好きになれない―――まあ、この場合リアは完全に別枠で語っているのだが。

 

「まあ、私も守りたいものがあるからね。吊り下げられる餌があるなら吊り下げるさ」

 

「へぇ、ほーん、ふーん」

 

 見た目だけは綺麗な王子様。こうやって話していると印象はだいぶ変わってくる。彼の話を聞いてさて、と胸の中で呟く。

 

 受けるか、受けないか。

 

 俺の判断は―――。




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 ソ様「あー、じれったい! 私神託でレシピ伝えてきます!」

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