TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

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犯罪 Ⅴ

「あ、お帰りなさい。お嬢様達とは一緒じゃないのですね」

 

「おー、どうせ俺は必要ないだろうしな。都市部じゃ何も心配する必要ねぇって改めて解ったし、俺はゆっくりさせて貰うわ」

 

 邸宅へ帰宅すると、前庭を箒でクレアが掃き掃除している最中だった。その周囲では猫や犬たちが口に塵取り等を咥えて彼女の掃除を助けていた―――まあ、そういう風に仕込んだのは俺なのだが。このワイルドアニマルズの異様な賢さに最初はクレアも驚いていたが、危険も無ければ頼りになると理解してからはこうやって便利に使っている。暇なときに軽く遊んだりブラッシングしたり餌を与えれば十分満足して働いてくれるお金のかからない労働力なので、人が少ない我が家では非常に重宝している戦力だったりする。

 

 ゲートを飛び越えて帰宅した所、何時も通り俺の登場にテンションを上げた動物たちは一斉に俺に群がってくる。勢いよく飛びついてくる犬の姿をキャッチして頭を撫でて、足元に身を擦り付けてくる猫の首を撫で、飛んできた鳥が休めるように肩を貸してあげる。近づいてきた動物たちを軽く労ってやると、二股の黒猫がやって来て他の動物達を追い払って俺を独占する。相変わらずこいつが街の動物たちのボスらしい。その優雅な姿に軽く笑みを零してからクレアに手を上げ、そのまま玄関を抜ける。

 

「どうしたんですか、少々やる気を失っているかのように見えますが」

 

「この都市の仕組みが思っていたよりも面倒な事に嫌気が差しているだけだよ」

 

 けっ、と声を零しながら玄関を突っ切ったら、そのままリビングへと向かう、転がるようにソファに横になる。そうやって転がったソファの上の、俺の腹に黒猫が乗っかって、体を丸めてしまった。二股の尻尾が不規則に揺れながら俺の体を這っている―――特に悪い感覚ではないのでそのままにしておく。こうやって動物と絡んでいると俺の中にある感情も落ち着いて行くような気がする。或いは、そもそも(おれ)という生き物が人間社会に適していないのだろう。都会とかではなく、辺境レベルの文明ぐらいがちょうどいい塩梅なのかもしれない。というより自然が近くないと駄目なのかも。

 

「はあ、やっぱ貴族ってカスだわ」

 

「主の仕事を完全否定ですね」

 

 掃き掃除をしていたクレアがリビングにやって来ていた。ソファの対面側にある椅子に座ると、此方を眺めてくる。その格好は何時も通りのメイド服だ。見慣れた服装なだけに特に目新しさは感じないのが悲しい話だ。珍しかったメイド服も、見慣れるともう普通の服装でしかない。俺もたまには着てみようかなあ、なんて事は思うが結局のところ、何時ものコート姿が一番動きやすい事もあって結局メイド服を着るに至らない。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

「特にどうしたもこうしたもないよ。都市とスラムの関係を調べて、護衛業に問題が起きないかどうかを確認しただけだよ。調査の結果特に首を突っ込まなければ問題はないって話だけど―――」

 

「だけど?」

 

「貴族ってどいつもこいつも二枚舌であーいやだいやだって感じ」

 

「あぁ、エデンさんもグランヴィルの人間ですからね」

 

 クレアはそう言って苦笑する。グランヴィル家の政治嫌いが相当なものであるのは、既に辺境では知れわたっている。クレアも辺境の逞しい女だ、グランヴィル家の実態をよく理解しているだろう。グランヴィル家の当主エドワードは元宮廷魔術師で、妻のエリシアは元近衛隊出身。双方ともにこの国における最高クラスの人材だった。どの派閥、界隈からしても貴重な人員だったが、政治嫌いの結果貴族としての権利のほぼ全てを放棄し、同期だったサンクデル・ヴェイランに頼って辺境で隠居生活を送っている。その血を継ぐのが我が姫であるグローリア・グランヴィルであり、そして俺はそのグランヴィル家の影響を非常によく受けていた。

 

 いや、というか元々役所仕事とか俺はクッソ嫌いだった。ハンコとか一々めんどくさいんだよ、って役所の人間にキレながら叩きつけたくなる事も何度もあった。だがこれは必要な事だ、必要な事だからしゃーない。そう言い聞かせて我慢してきた。そしてそのストレスから解放された今、利用価値あるから利用させて? って感じに近づいてきた奴がいたらどうなる?

 

 めんどくさい。めんどくささの極みだ。俺は絶対にそういう政治とかに関わりたくはない。

 

「グレートゲームの参加者はグレートゲームの参加者同士で遊んでてくれ」

 

「グレートゲーム?」

 

「マネーゲームの事」

 

「あぁ……ですけど、貴族には責務や守るべき権益や領民がありますからね。その為に政治的に利用するしないが発生するのはしょうがない事ですよ。相手は事情を考慮してくれませんからね」

 

「頼むから考慮してくれ。はあ、まあ、関わらなければいいだけの話なんだけどな、これ」

 

「ふふ……何があったかは解りませんけど、お疲れ様です。しっかりお嬢様方の事を気に揉んでいるんですね」

 

 

「そりゃあな」

 

 そりゃあ、そうさ。ロゼは親友だし、リアは俺の宝だ。俺が一番大事にしているものだって言っても良いだろう。それが苦労しない、苦しまない、嫌な目を見ない様にするのが俺の仕事で義務なのだろうと思ってる。そして単純に義務とかだけではなく、自分の意思でリアをなるべく幸せにしていたいと思っている。そんな彼女に経済戦争や政治闘争は不可能だと思う。いや、()()()()()()()()()()()と解っているのだ。ただ性格的に全く向いていないと言えるだろう。だからリアはこの手の話題に関わらない事がベストだと思っている。

 

 ロゼに関しては次期領主という事もあり、政治から逃げる事は出来ないだろうと諦めている。実際、ロゼはここで自分の事を磨きながらも他の貴族たちとのコネクションの構築に勤しんでいるらしい。もう既にお茶会に誘われているという話は聞いている―――まあ、その場合の護衛はこの俺だ。龍殺しでも来ない限りは何があろうとも大丈夫だ。

 

 龍殺しが来ない限りは。

 

 辺境を出て都会に登ると、人が多いからドラゴンハンターや龍殺しとのエンカウント率が上がる事が実は微妙に恐ろしいかもしれない。

 

 はあ、と溜息を吐く。そのまま目を瞑る。

 

「寝る」

 

「暇なら掃除とか、手伝ってくれても良いんじゃないですか?」

 

「今日は無理」

 

 手をしっしっ、と振ると溜息を吐かれてクレアが去って行く。ちょっとだけ申し訳ない事をしたなあ、なんて事を思いながら寝る為にそのまま意識を落ち着かせてゆく。今日はスラム街を見て回ってからこうやって学園長やこの地の関係などを知る事が出来たが、彼らの完全な意図や意思というものは完全に理外のものだった。というか解りたくすらない。だが俺の予測が正しければ、態々コンタクトしてくれるレベルで俺に話を通したかったのだろう。たったの1度でアプローチを終わらせるとは思えない。きっと、再び俺の前に姿を現すだろう。

 

 その時が来たら……俺も多少は向き合わないとならないのかもしいれない。相手がなんで、俺とのコンタクトを取ろうとしているのかを。ただやっぱり、めんどくささの方が先立つ。こういう連中とは一生付き合いたくないなあ、と思うのが俺の本音だった。

 

 

 

 

「んむ」

 

 体の上に感じる重みで目を覚ましてしまった。その感覚からして結構長く寝ていたようだった。感じる感触は柔らかく、人の温かさを持っている事から大体誰がこんな事をしているのかと理解していた。だから目を開けて真っ先に見えたのがリアの顔だった事に一切の違和感を覚える事はなかった。すぐ前にまで来ているリアの顔は体ごと俺の上にのしかかる形で直ぐ傍にあった。ソファという狭いスペースの上で俺に乗っかっているんだから、当然かなり窮屈になっているが、リアはそういうのを全く気にしない。寧ろ身内相手ならこういう密着を好むタイプだ。目を開いてリアを見ると、リアが密着したまま抱きしめて来た。

 

「ただいま、エデン」

 

「お帰りリア……どうかした?」

 

「ううん、なんかエデンが今日は私成分を必要としてそうだなあ、って」

 

「ありがてぇ、丁度不足してたんだ」

 

 リアを抱き返しながらぎゅー、っとお互いを抱きしめて元気を一気に補充する。寝る前は憂鬱で、寝ている間は悪夢を見て最悪だった気分がこれで一気に晴れる。やはりリア、リアこそが最強。リアは健康に良い。俺の栄養素はリアから摂取されている。

 

 まあ、そんな冗談はともあれ、このまま寝転がっているのもあれだと思いリアを持ち上げてソファに座り直すと、制服姿から私服姿へと戻ったロゼの姿がリビングにやって来ていた。その姿を見てアレ、と声を零す。

 

「俺、そんなに寝てた?」

 

「結構ぐーすか寝てたわよ。何時も通り夢見は良さそうだったけど」

 

 部屋着のラフな格好のロゼがそんな事を言うもんだから、流石に失敗したなあ、と頭を掻く。本当なら迎えに行くべき立場なのだから、こうやって既に家で寛いでいる時に起きるのは大失敗だ。だというのに、すっぽりと俺の股の間に収まるように座り込んだリアはくすりと笑う。

 

「偶には良いんじゃないかな? エデンだって別に完璧じゃないって事なんだし」

 

「ま、失敗とかしてる方が可愛げがあるのは事実よね。だからクレアも起こさなかったみたいだし」

 

「面目ねぇ。次からは寝すぎないようにするわ」

 

 俺もちょっと今のはどうかと思ったし反省しよう。そう思ってむむむ、と唸っているとリアがそれよりも、と声を作った。

 

「実は私達、ピクニックに誘われたの。街の外になるんだけどピクニックに丁度いい丘があるんだって。多少モンスターが出る場所だから護衛は必要なんだけど、晴れた日にはエメロードが一望できる事もあって良い景色なんだって」

 

「というわけで1週間後ぐらいになるけど、エデンには私達と一緒にピクニックに行ってもらうわよ。十歌も一緒だからたぶん楓も来るわよ」

 

「オーケー、オーケー。って事は昼食も用意しなきゃならんって事か」

 

「うん、でもそっちはクレアに頼んであるから大丈夫よ。クレアは本職の料理人をそろそろ雇いたいとか言ってるけど私達は割とクレアの料理好きなんだよね」

 

「そうそう、家庭的なタイプというか……馴染みのある味が一番よね」

 

 ルシファーかルイン辺り、頼んだら出張してくれねぇかなあ……流石に無理か。俺のコネで誰か引っ張ろうとすると天上にいるソ様か、この世の地獄みたいなバーで地獄の化身やってるフレンドに頼るしかない。そしてアイツらは絶対に一般受けするジャンルではないのだ。そりゃあ俺だってグランヴィルの人々にあの魔界人共を見せる訳ないだろ。

 

 少しずつ意識が覚醒してきた。股の間に収まっているリアを後ろから抱きしめながらうーむ、と唸る。

 

「ピクニックか。他の護衛との兼ね合いがめんどくさそう」

 

「仕事でしょ、頑張って。でも、まあ、正直エデン1人いればなんとかなりそうって気はするわね」

 

「俺がいるとモンスター近寄らんしな」

 

「辺境とは違ってモンスターが出現しないから驚いたよね」

 

 中央では騎士団や軍による定期的なモンスターの殲滅作戦が遂行されている。辺境では冒険者たちの仕事だったが、この中央では人手が足りている。その為殲滅や討伐系の仕事は基本的に冒険者には存在せず、人員が有り余っている中央の軍人たちが処理している。そのおかげで中央では商人たちが安全に街道を行き来する事が出来るし、モンスター達も変異や成長の可能性を見せる間もなく死亡するのだ。

 

 そして僅かに残り、或いは再発するモンスター達は―――弱い。

 

 競い合う敵や環境が存在せず、エーテルの濃度も薄い。だから強いモンスターが発生しない。だから中央にいるモンスターは何をどう足掻いても弱いものばかりであり、俺の気配を感じ取った瞬間大半のモンスターは逃げ出し、隠れてしまう。

 

 残りは存在に耐えきれなくて気絶する。割とマジで。生物としての次元の違いというのはマジであるものだ。

 

「まあ、ピクニックな。解った解った。忘れずに準備しておくよ。後でメモっておくかぁー」

 

 欠伸を漏らしながら背筋を伸ばし、リアを片腕で抱えながら立ち上がる。まだ軽く頭の中に眠気が残っている感じがする。リアをソファの上へと投げ捨てるともう一度背筋をしっかりと伸ばしてからコートを脱ぎ捨てながらシャツに手をかけて脱ぎ始め、リビングの外へと向かう。

 

「眠気覚ましに湯を浴びてくる」

 

「はいはい。でも歩きながら脱ぐのは正直どうかと思うわよ」

 

 まあ、お前らなら何度も見られてるしな……という話になるので特に気にする事はない。もう一度欠伸を噛み殺し、目じりに溜まった涙をぬぐいながら脱衣所へと向かう。こういう時は一度湯を浴びて頭をさっぱりさせるのが一番だ。




 感想評価、ありがとうございます。

 この後エデンちゃんのサービスタイムが始まるけど全年齢なのでダメです。

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