TS龍娘ダクファン世界転生   作:てんぞー

97 / 140
犯罪 Ⅸ

 男性3人女性5人。それがこのグループの内訳であり、ダンと2人で全員の脈を確認した。だが結果は変わらず、全員が眠るように死んでいた。流石にその光景を見せる訳にも行かず、主たちにはいったん、木の反対側で待機してもらう事になった。その間にこの手の事に覚えのある俺、ダン、楓が調査を進め、ハリアに護衛、クルツに細かいサポートや世話を任せる事にした。死体を男女別で並べた所で一歩離れ、腕を組みながら3人で死体を眺めた。

 

「―――何をどう確認しても死んでいる。脈拍なし、体は冷えている。死亡してからそこそこ時間が経過しているって事の証拠でもある。そしてパッと見た感じ、争った形跡も血の臭いもしない。外傷は見える範囲には見当たらない」

 

「顔に覚えはないが恐らくはエメロードに通っている学生だろうな。見る限りは1年か2年生辺りだろうが……外傷が見えないって辺りが臭いな」

 

「恐らくは毒で御座ろう。問題はなぜ、という話になってしまうが」

 

 楓の言葉に同意するように頷きつつ膝を折り、死体の一つ、女性のものを見分する。まだ世の中に絶望するには早すぎる年齢だし、首筋や顔を見る限りは暴力を受けたような形跡はない。指を握って確認してみれば指先は綺麗で、職人の指の様には見えない。汚れていなければ、ダメージもなく、苦労していない人間の指であるのが解る。掌にもたこがないから武器を握るタイプの人間でもない。靴も少し動きづらいヒールというのがおしゃれした感じがある。流石に見える範囲だとこれぐらいか、と呟き、そのまま見分を進める為に服の中に手を突っ込んだ。

 

「おい」

 

 いきなり服の中に手を突っ込んだ俺に対してダンが声を出すが、

 

「流石に見える範囲だけで何か解る訳でもないし、確認しなきゃならんだろ。何らかの呪術か魔法の痕跡でもあるかもしれないし」

 

「少しは躊躇しろ」

 

 そう言いながらダンも男性の死体のボディチェックに入る。楓はその間周囲の警戒を継続している。実力の近い人間が一緒にいると非常に作業が捗るなあ、と思いながら首、体、胸、背中、腹、腰、陰部、太もも、足と体を上から下まで服を軽く剥きつつ確かめて行く。なるべく死体を傷つけないように、汚さないよう、服を破らない様に気を使わないといけないのが地味に面倒なのかもしれない。何せ、このあと死体を遺族へと引き渡さないといけないのだから。

 

 ともあれ、ボディチェックを素早く済ませたが体に外傷の様な物はやはり、見当たらなかった。その代わりにこの人たちが外傷もなく、穏やかに死んでいるという異様な事実だけが残された。明らかに何かがおかしいのだが、もうちょっと調べないと答えも出てこないのだろう。今度はポケットの中を確認したり、近くにある鞄の中身を確認する。

 

 と、そこでダンが声を上げる。

 

「これを見ろ」

 

 そう言ってダンが引っ張り出したのは白い粉の入った袋だった。

 

「クスリで御座るか」

 

「まあ、このパターンだと毒かクスリってなるけどクスリかあー」

 

 溜息を吐いて頭を抱える。ここでクスリが出てくるなんて考えもしなかった。だが更に荷物を調べてみれば、他には身だしなみを整える様なもんしか出てこない。じゃあなんだ、こいつらここでカクテルパーティーでも開催したかったのか? もうちょっとクローズドな環境でそう言う事しません? 何がとは言わんが、ちょっとこういう場所でおっぱじめるの正気じゃないと思うよ。いや、性癖は人それぞれだとは思うけどさ。それでもやっぱり開いている場所でドラッグ使ったお遊びは絶対に止めた方が良いと思う。

 

「事件性があるかどうかはまだ解らんが……ついにヤクで死人が出たか」

 

「今までは死人が出なかったのか?」

 

「いや、そういう訳ではないが。学生相手にこの手のクスリが売られるという事がほぼなかったというだけだ。だからこそあまりいい顔をされなくても放置されていた筈だ」

 

「実害が出れば話は変わる、か」

 

 今までスラムでのみ蔓延していた薬がついに都市部、それも学生をターゲットにし始めた―――それは明確な都市への侵略と害だ。これを理解すれば流石に騎士団や、犠牲になった貴族たちの遺族が黙ってないだろう。スラムに対する何らかの行動か、或いはペナルティが見られる筈だ。このスラムを守っているのがシェリルの父親だとしたら……フランヴェイユ家にも何らかの被害が及ぶだろう。それともそれ込みでの進出か? いや、エメロードをヤク漬けにした所で得をする様な連中なんてそれこそ売ってる連中だけだ。

 

 基本的にクスリで身を持ち崩して得られるメリットなんてメリットとは言わないんだ。だからこそクスリってのは悪なんだ。

 

「うーん、解らん」

 

「ま、細かい事は拙者らの考える事では御座らん。餅は餅屋に任せるのが世の常、素直に騎士団へとこの案件を引き渡すのが宜しかろう」

 

「だな。素直に主とその警護の事だけを考えれば良いだろう。騎士団を召喚して、引き継がせたら都市へと帰ろう。残念だがしばらくは都市外へのピクニックは禁止になるだろうがな」

 

「ま、しゃーないわな」

 

 溜息を吐く。久しぶりに開けた場所で昼寝でもするチャンスが生まれると思ったのに、まさかの展開によって台無しである。個人的にもちょっと楽しみな部分はあったのでこういう結末を迎えてしまうのは非常に不本意だが安全を考えるとなると仕方のない事でもある。外傷もなし、クスリは見えてる。だから間違いなく死因はそれなんだが、

 

 改めて眠るように死んでいる男女の姿を見て、違和感を覚える。

 

 ……本当にそれだけか? いや、まあ、クスリが原因で心停止となるパターンというのは解る話なんだが、寝ている連中の姿があまりにも綺麗すぎないか? この後お楽しみタイム予定だったとしても身綺麗すぎるというか―――衣服の乱れが薄すぎる。その上で何の痕跡もなく死んでいるのは違和感が強い。とはいえ、状況証拠的にクスリで死んでいるのは間違いないだろう。これ以上調べるには遺族の許可を貰って胃の中を調べるしかないだろうが、恐らくそれは無理だろう。だからこの話はここで終りだ。

 

 これ以上自分の身分で出来る様な事はないし、する必要もない。だからこの事件はここで終わり。

 

 

 

 

 ―――と、そういう風に物事は終わらなかった。

 

「アルド殿下。貴方には殺人、また麻薬をエメロード学園内部で販売した疑いがあります。同行お願いします」

 

 エメロードに帰還し、都市部に入った瞬間待ち構えられた騎士団によって止められた馬車が受けた言葉がそれだった。騎士団がそうやってアルドの前に立ちはだかった瞬間、馬車に乗っていたアルドが顔を顰めた様な気配を見せる。

 

「成程、兄上の仕業だったか……解った、同行しよう。ただし他の方々は通してほしい。私の派閥の人ではないからね」

 

「申し訳ありませんが、他の方々も殿下の疑いを晴らす為にも同行が求められています」

 

 その言葉に、アルドは苦虫をかみつぶしたような溜息を吐くのが聞こえた。それはタイミング的に完璧だった。ピクニックを中断して都市へと戻って来た所、騎士団へと貴族たちの死体発見を報告する前、魔法によって現場の保全を保った程度で離れて戻って来て直ぐの事だった。無論まだ騎士団に事件の事を話せていない状態だ。この状態でアルドを捕まえた場合、まるでアルドが犯人の様に見えるだろう。その上で一緒に居る人間を纏めて捕まえようとするのは不利な証言を封じる為か。

 

 やべぇ、詰むわこれ。

 

 留められているのは先頭のアルドが乗っている馬車で、騎士団の視線や集中は其方へと向いている。此方へも多少の騎士団が向けられ、逃亡を封じているが甘い。俺やダンレベルであれば当然のように逃亡出来る程度の包囲だ。そしてここで誰かが突破しなければたぶん、このまま詰むか? リアとロゼを連れて逃げる程度だったら当然出来るが、その場合間違いなく悪評が付きまとうだろう。

 

 めんどくさい政治のゲームに自分がまきこまれた事を自覚する。これだから王族なんてブービートラップに絶対に触れたくなかったんだ。関わるだけ人生のロスに繋がっている。入学早々、こんなトラブル経験したい訳じゃないのだから。

 

「―――解った、同行しよう。私のへ疑いが誤りである事はワイズマン卿が明かしてくれるだろう。天に誓い私の発言に偽りがない事を確約しよう」

 

 良く聞こえる声で宣告すると騎士団の担当者が馬車の御者を交代するように指示してくる。それに伴い近くで待機していた騎士団の者が近づいてくる。

 

「申し訳ありませんが、大人しく従ってください……お願いします」

 

 ぎろり、と一度睨んでから御者の座を降りる。それを見た騎士が胸を押さえて息を吐き、手綱を握った。その間に俺は馬車の中へと移動し、リアの隣へと向かうと足を組んで座った。

 

「犯人見つけたら絶対に皆殺しにしてやるからな」

 

「うわ、エデンさん物騒っすね。っすけど、騎士団への暴力は駄目っすよ。どこの子飼いが担当してるのかは解らないっすけど、基本的に騎士団ってのは国家権力っすから。騎士団のどの部署への攻撃も国への反逆罪が適応されちゃうっすからね」

 

「それにアルド様のバックに居られるのはワイズマン卿ですわ。心配しなくてもこのエメロードにおける政治的手腕は最高のものですから、直ぐに疑いを晴らしてくださるでしょう。気にせずにおくのが一番ですわ」

 

「あぁ、やっぱりあの学園長がバックにいるのか」

 

 はあ、とため息を吐くとリアに頭を撫でられ、馬車が騎士団預かりとなって動き出す。向かう先は恐らくエメロード内にある騎士団の拠点だろう。リアに頭を撫でられながら暴力で解決できない出来事が起きてしまうのはどうしてだろうなあ、と溜息を吐いてしまう。

 

「ですがこれは明確な殿下への攻撃ですわね。タイミング的に見ても間違いなく殿下の行動を把握した上での差し金……恐らく学園内に殿下への敵対派閥か間者がいて、それを利用した形ですわね」

 

 ドリルお嬢様がそんな真面目に考察を口にすると違和感すげぇな、と思いながら頷く。だがソフィアは首を傾げる。

 

「えーと、ティーナさん、ティーナさん。アルド殿下は確か第5王子で、玉座からは遠いんでしょ? ならなんでこんな事をするんですかね。ほら、なんというか、アルド殿下の足を引っ張ったり失脚させる事に特に意味があるなんて思えないんですけど?」

 

「それは違いますわ」

 

 ティーナが否定する。

 

「玉座を欲する者からすれば可能性の芽は出来るだけ潰しておきたいのですわ。エスデルは伝統的にそこまで過激ではありませんが、他国で玉座レースともなれば暗殺は基本のデスレースですわよ。失脚程度で済ませるエスデルは本当に平和で、甘いとさえも言われていますわね。まあ、エスデルの王族は昔から善性の強い人物ばかり輩出しているので、処刑や排除までせずとも大人しくしてくれているという部分がありますが」

 

「えぇ……王族こっわ」

 

「というか貴族としては割と普通だと思いますわよ。エスデルはやっぱり教養がある分素直に殺すよりも失脚とかの方を好みますからね。こんな風に罠に嵌められ嵌め返すのが日常だとか。アルド様は……まあ、程々に玉座に近く、程々に才能があって、程々に脅威になるから“まあ、とりあえず弱点作っておくのが丸くない?”みたいなノリで嵌められてる可能性がありますわね」

 

「ふっわふわですね王族ゥ!! それで本当にいいんですか!?」

 

「いや、でも割と敵対しそうだし、脅威になりそうだからゲーム盤から除外するというのは結構アリな手段ですわよ? 私の父上もとりあえず悪人を見たら轢いとけって言ってますし」

 

「チャリ所持前提での話止めません? 誰もがチャリを持ってると思うなよ!」

 

「あ、こら! そこ引っ張るの止めなさい! ドリルが……私のドリルが第二段階へと変形してしまうでしょ!」

 

「え、なにそれこわい」

 

 ティーナのドリルを引っ張っていたソフィアが一瞬で馬車の反対側へと逃亡し、俺の背後に隠れた。そのドリルに第二形態があるとか別に知りたくなかったなあ……なんて思いながらため息を吐く。ティーナの言う事が本当なら、たぶんアルドに対する攻撃は周辺にいる自分達にも及ぶのだろう。アルドに協力するものはこうなるぞ、という軽い見せしめにするつもりなのかもしれない。それに巻き込まれる側はたまったもんじゃない。

 

 はあ、と溜息を吐いて馬車の外へと視線を巡らせる。騎士団の監視の下詰所へと向かうが……ここからは尋問が始まるんだなあ、と思うと憂鬱だ。巻き込まれたリアとロゼをどうやって助けるか、リカバリーを図るのか。その事を考えないといけないと思うとひたすら頭が痛くなりそうだ。

 

「エデン、大丈夫? 私は別にそこまで気にしてないよ? 別に変な疑いをかけられた所で実家に帰るだけだし」

 

「私には致命傷なんですのよねぇ」

 

「はいはーい! 私のキャリアが死ぬと実家で待ってる家族が飢えまーす! はーい! はーいい!」

 

「まあ、旦那様はそこまで気にしないでしょうけど……いや、あの方の事だから王城まで殴り込みに行きそうだな普通に……」

 

「やべーなこのドリル一族」

 

 もしや相当レベルの高い狂人なのでは? そう思い首を傾げてから笑い声をリアに聞かせ、笑みを見せる。何にせよ露骨に滅入っている姿をこの娘に見せたら心配されてしまう。そこに気を遣わなければならないだろう。

 

 ……とりあえず、この後どういう対応が来るかでここでの動きが変わってくる。

 

 最悪、抜け出して辺境に援軍を呼ぶ。サンクデルなら恐らくこの問題に対処するだけのパワーがあるだろう。

 

 今はとりあえず見る事に徹する以外の選択肢が俺達にはなかった。

 

 嵌められた時点で既に後手に回っていたからだ。

 

 政治の世界、その魔物は関わりがある、それだけを理由に理不尽に喰らいに来ている。どれだけの武力があろうとも、この分野で求められる力とは違う―――そういうものを理解させられた。

 

 憂鬱を振り払うように何とか何時も通りを演じていると、馬車はやがて目的地である騎士団の本部までやってくる。ここからめんどくさい尋問が始まるんだろうなあ、と思っていると、

 

「―――さて、諸君。君たちは一体誰の許可を得てこんな事をしているのかな? ん? まさか、騎士団であるからと言って問答無用で拘束する権限があるとでも思うのかね?」

 

 声が馬車の外に響いた。驚くような表情を貴族たちが浮かべる。俺の知らない声だが、強い神秘の籠った気配は感じられた。馬車の窓、その外へと視線を向け、正面、馬車の進路をふさぐ様に立つ存在を見た。

 

 それはローブを纏った1人の老いた森人の姿であり、その場の騎士団の誰よりも強い気配を持つ人物。

 

 即ちこの都市の長ワイズマン、アルドの後援者である学園長その人だった。

 

「さて、私の可愛い生徒たちを解放して貰おうか―――ああ、言いたい事があるなら無論、受け付けるとも。数百年積み重ねて来た私の弁論に勝てると思うのならね」

 

 一番会いたくない人物が、最も頼りになるタイミングで出て来た。そう、いっそ美しい程のタイミングで。

 

 それを俺はどうしようもなく嫌だなあ、と思ってしまった。




 感想評価、ありがとうございます。

 当然だけどアルド、シェリル、そしてドリルも政治的な判断が出来るように育てられてます。なので政治的判断が出来る筈です。穴があるのは単純に作者のミスだよ。

 政治はね、複雑だからなるべく書きたくない上に描写すると無限に沼になるんだ。出来るだけ政治パートとかはぱっぱと済ませたいね……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。