春風と共に歩む旅人と艦娘の物語   作:Hetzer愛好家

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心を癒すのと息抜きを兼ねて描いてみました。ありそうで無かった作品……なのかな?


ぽよと間宮と提督

「あら? これってピンク色のボール……よね。これは何かしら」

 

プニプニモチモチ。そしてぽよぽよ。そんな手触りのピンクボールを手に持ったところで彼女は仰天する。物体の傍には、ほっかむりのような入れ物と短い棒が落ちている。

 

ボールだと思っていた物体には、しっかりと手足が付いていたのである。手は肌と同じ色であり、可愛らしく小さい。足は赤色で胴体だと思われる部分よりは硬めだ。それでもぽよぽよしているのだが。

 

そして何より、ピンクの物体には目と口があった。スヤスヤと寝ているため瞳は閉じられているが、何となく円らな瞳なのだろうと彼女は思った。口から漏れ出す寝息は鈴の鳴るような透き通った音。暫しの間聞き惚れて、彼女はハッと我を取り戻す。

 

「えっと……生きているなら放っておけないわね。お店に運んじゃいましょうか」

 

赤ん坊を抱っこするかのように、彼女は両手で優しくピンク色の何かを落ちていた荷物らしきもの諸共持ち上げる。持ち上げた瞬間にピンクの物体から漏れた「ぽよっ」という可愛らしい声を聴いてまた立ち止まりそうになるが、今度は頭を振ることで止まることなく自分の店に運び込んだ。

 

──これが、ピンクのぽよぽよと艦娘の出会いであった。

 

「おかわりー!」

「あらあら。これで何杯目かしら?」

「何回でもおかわりしたいぐらいだよ! これ、すっごくおいしいんだ!」

 

その丸っこい手でどうやって扱っているんだと言いたくなるほど器用に箸を操り、次々と出された料理を完食してはおかわりを要求するピンクの物体。既に一航戦の赤い方と同じぐらいの量を食している。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 

「朝ご飯のための食材は足りるかしら」と、食堂を運営している給糧艦間宮は内心で冷や汗を流す。ついでにこの後、消費した食料を購入するために必要になるであろう新規予算にも冷や汗を流した。

 

「ふう……おいしかった! 久しぶりにお腹いっぱいで幸せだよ! ごちそーさまでした!」

「お粗末さまでした。あれだけ食べた後だけど、デザートは食べる?」

「え、おいしいデザートも出るの!? 食べたい食べたい!」

「ふふ、でしたらどうぞ。特性の間宮羊羹を召し上がれ!」

「わーい!」

 

何とも微笑ましい光景である。

 

しかし、間宮はまだ知らない。幸せそうに羊羹を頬張って瞳をキラキラと輝かせているぽよぽよが、実は宇宙を幾度も救ってきた英雄であることを。

 

国の食料と秘宝を盗んだ自称大王。皆の夢を悪夢へと変えた悪魔。堕落した国を征服しようと目論んだ仮面剣士。世を常闇に包み込もうとした暗黒物質たち。

 

果ての先には世界を支配しようとした道化師や全宇宙を支配しようとした虚言師。美に溺れて愛する者すらも分からなくなった悲しき女王蜂。彼の愛する国を機械化して一度は征服した、夢を叶える悪魔のマシン。支配ではなく全てを壊してしまおうと目論んだ破壊神。本当に全宇宙を滅ぼしてしまった最強最悪の敵。

 

どれも全て、彼の手によって文字通り叩き潰されたことを、彼女は知らない。

 

例え全宇宙が破壊され尽くされるような滅びの光からも逃げ切り、敵には絶望を。〝あなた〟には希望を与えた救世主。その名は宇宙の果てにまで広く知られている有名人だ。

 

ピンクのぽよぽよ。

 

またの名を星のカービィ

 

長年暮らしてきた愛する国を離れ、再び旅ガラスに戻った彼が辿り着いた新天地は、艦娘と呼ばれる少女たちが正体不明の侵略者である深海棲艦を根絶するために日々奮闘している世界であった。

 

艦娘。説明すれば長くなるが、大まかに言ってしまえば、人の手で生み出されたボディと艤装に太平洋戦争や第二次大戦で活躍した軍艦の魂を入れて完成する人類の守護者だ。

 

突如として現れた深海棲艦に対抗するために作られた存在であり、あくまでも兵器として軍には見られている。

 

兵器と見られてはいるがしっかりと感情は持っている。嬉しければ笑うし、悲しければしっかりと涙を流す。艦娘を指揮する一部提督からは反感の声が上がっているのだが、艦娘を一人の女性として扱うにはもう少し時間が必要だろう。

 

「ねえ、気分良く食べてくれているところ悪いんだけど……貴方の名前は何かしら? 人間、ではないわよね」

「んぐっ。ゴクッ。そーだよ。僕は人間じゃない。名前はカービィって言うんだ!」

「カービィ? 外国の方なのかしら……」

「僕は旅人だからね! 外国人で間違いないよ!」

 

純真無垢な瞳を向けられて間宮はたじろぐ。しかしカービィはお構いなし。少し間が空けば羊羹を口に放り込んでいる。咀嚼するたびに幸せそうな顔をするので、自然と間宮の心も癒されていく。

 

「えっと、それじゃあカービィさん。何であんなところで寝ていたんですか?」

「うん、ここ数日はずっと歩いていたからね。疲れて倒れるように眠っちゃったんだ。目が覚めたらもっと先まで行こうかなって考えていたよ」

 

彼は「それはさておき」と付け足すと少しの間は此処で休憩しても良いだろうか? と間宮に尋ねた。既に数日は食わず飲まずに歩いていた、という割と驚愕の事実も付け加えて。

 

間宮は少し悩んだ後に、「提督に許可を貰わないといけないから朝まで待ってくれ」と頼むことで彼を納得させた。まあ、どんな条件であってもカービィが却下するという確率は限りなく低いのだが。

 

「分かったよ。じゃあ、僕はまた少し寝るね。外に芝生はある?」

「キッチンの裏口を出ればすぐに芝生広場よ。そこで寝るの?」

「もちろん! 案外どこでも僕は眠れるんだ!」

 

心配という感情を抱かせないカービィの声に、間宮は安心して裏口を案内するのだった。

 

 

裏口から芝生広場に出たカービィは、自分の荷物を枕にして夜空を眺める。

 

二十数年は定住していたプププランドを離れた当初、彼は荷物として大好物のトマトや少しのお金も入っていた。しかし今では荷物がすっかり軽くなり、ほっかむりに入っているのは自身の相棒ぐらいである。この相棒も世間的に見れば英雄であるのは彼のみが知ることだ。

 

そんな相棒──ワープスター──を枕にして空に広がる星を彼は数える。

 

「もう何年旅してるのかなあ。数えても数え切れないや。あの星たちみたいに」

 

時折感じる寂しさと物悲しさを呑み込むと、彼は目を閉じて少しの間念じる。

 

すると、彼の頭にポンッと音を立ててナイトキャップが現れた。

 

「コピー能力〝スリープ〟……」

 

コピー能力。敵や物を吸い込んで飲み込むことで、それらがもつ特性をコピーする、カービィの代名詞ともいえる能力だ。

 

本来なら〝吸い込み〟と〝飲み込み〟を使わなければコピー能力を発現することは出来ない。しかし長年の修練の末、普段こそ隠しているが、任意のタイミングで自由自在に扱えるように進化した。かつてカービィと戦った敵が今の彼を見たとしたら、とんでもない進化を遂げた事でまず戦闘意欲を失うだろう。

 

あっという間に眠りへと誘うコピー能力を使い、彼はここ数日の疲れを存分に癒す。辺りには幸せそうな寝息が響く。

 

そんな彼を包み込むかのように、春風がヒュウッと優しく吹くのだった。

 

───────────────────

 

「へえ、そんな不思議な生物がやって来たのかい?」

「とっても可愛いですよ。身長は20cmぐらいなので結構大きいですけどね。人語を操るペット用のイヌやネコに近いと思いますよ」

「……間宮さんの話が本当なら、赤城や加賀以上に食べる生物が芝生広場で寝ているってことだよね。別に滞在は構わないけど、一目顔を見てみたいな」

 

艦娘が所属する鎮守府。そこの責任者である提督は間宮から聞かされた「不思議なピンクのぽよぽよ」に興味津々である。好奇心が元来強いためなのか、人間ではないのに人語を操る謎の生物に恐怖を一切抱いていない。良くも悪くも肝が据わっているのかもしれない。

 

間宮に案内されて芝生広場に出た提督は、現在芝生の上をコロコロと転がりながら虫たちと戯れるカービィを目にする。

 

てんとう虫やバッタと追いかけっこをしている姿は純真無垢な子供その物である。性格や人柄を何も知らない状態であるが、提督は何となく目の前で可愛らしい笑顔を浮かべる生き物は噓をつかないと思った。

 

「もしもし、ちょっと良いかな?」

「はーい?」

「君かな? 夜中に鎮守府の目の前で倒れていたと言うのは」

「そーだよ。でも、そこのおねーさんが中に運んでくれて、しかも美味しいご飯とデザートをご馳走してくれたから今はこの通り元気だよ!」

 

ぽよぽよ。ぽよぽよ。言葉を発する度に軽く飛び跳ねるので、そんな愛嬌のある音が鳴る。彼の動作は自然と人を笑顔にしていく。

 

すっかり彼を疑うという思考を放棄した提督は、カービィと目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 

「確か君は、しばらくこの鎮守府に滞在して一休みしたいんだったよね?」

「そーだけど……大丈夫? 迷惑にならないようにするから、出来ればお願いしたいな」

「ぷっ、ははは……そんな顔しなくても、俺は最初から君の滞在を許すつもりだよ」

 

優しい手つきでカービィの頭を撫でると、提督は「よいしょっ」と声を出して彼を抱き上げる。

 

「うお、身長の割に重たいな」

「わわっ! 急に持ち上げないでよ!」

「て言うかさわり心地最高だな。永遠にぽよぽよしていられるぞ」

 

ジタバタと暴れて逃げようとするカービィ。ガッチリとホールドしてモチモチぽよぽよする提督。

 

出会ってまだ数十分。しかし仲睦まじい二人の様子は、朝日が優しく照らし付けるまで続くのであった。




設定的にはスタアラ完結後です。「さよならカービィ」の描写をそのまま使ったと言えばお分かり頂けるでしょうか。ちなみにスマブラでの経験の記憶も持っているので、この作品のカービィはもしかしたらどのカービィよりも強いかもです()
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