今回は大食いで有名な赤城さんとのお話です。
「本日からしばらくの間、この鎮守府に滞在することになったカービィくんだ。みんな仲良くしてやってくれ」
「よろしくね!」
ぽよっ! と片腕を上げる決めポーズをして挨拶をするカービィに、鎮守府に所属する艦娘は既にメロメロである。
所謂「お姉さん」な雰囲気を持つ戦艦や重巡に空母は主に母性がくすぐられ、逆に「学生」だったり「小学生」な見た目が多い軽巡以下は可愛いイヌやネコを見つけたかのような感覚に陥った。
朝食の場での自己紹介になったため、その後の時間はご飯よりもカービィに対する質問攻めとおさわりが大半を占めて中々食事が進まない。
「カービィちゃんこっちおいでー!」
「はーい!」
「ああ、ちょっとズルいわよ! まだ少ししか触ってなかったのに!」
「次! 早く変わってください!」
やんややんや。ぽよぽよ。やんや。ぽよ。鎮守府というのは戦場の最前線に置かれることが多いため、普段はピリッとした空気が場を支配するが殆ど。しかし、カービィ一人やって来ただけでご覧の有様である。
これが、提督がカービィの滞在を許した理由の一つだ。ピリピリした鎮守府内の空気を柔らかくするために、見かけは能天気だと思えるカービィを置いて皆を笑顔にする。そんな目的があった。
もっとも、それはあくまでも理由の一つである。他にも単に彼のことが気に入り、何なら抱き枕にしてみたいという密かな願望だってあるのだ。
と、そんな堅苦しい話しはここまでにしよう。
「あの、貴方が私以上の大食いをしたっていうカービィさんですか?」
「そーだよ?」
「……一航戦の誇り、こんなところで失うわけにはいきません! カービィさん、ここで一つ勝負をしてくれませんか?」
「え、勝負? 何をするの?」
不穏な言葉の響きにカービィは顔を曇らす。しかし、彼に勝負を仕掛けた一航戦の赤い方である赤城はそんなことお構いなしである。容姿は抜群なのだが、それを打ち消す勢いのマイペースな性格は提督の手を焼いている。
「その名も大食い対決です! 鎮守府に滞在するなら、この対決を受けることが私からの条件です!」
「え、大食い対決!? たくさん食べても良いの!?」
……敢えてだが、先に言っておこう。
カービィが居る場で「大食い」や「早食い」と言った類いの言葉を発するのは極力控えるべきである。例えどんなに貯蓄があったとしても、それらはブラックホールのようなカービィの胃袋の中に消えていく。文字通り、きれいさっぱり。
どんなに可愛いからと言って、家庭に一匹カービィがほしいと絶対に考えてはいけない。ハルマゲドンの如く、冷蔵庫の中身全てが食われ尽され、残るのは空となった虚しい冷蔵庫が佇む姿だけである……。
「大食い競争ってことだね! 良いよ、大食いでも早食いでも、なんならグルメレースでも! 僕は何でも受けて立つよ!」
「では間宮さん。よろしくお願いしますね。消費した食材は後で私が買い足しますから」
「え、あ、はい」
言われた通り、間宮は困惑しながらも様々な料理をあっという間に作っては二人が対面で座る机に持っていく。途中からは幼い駆逐艦も運ぶのを手伝うほどの量の料理が完成した。しかも完成した傍からまた新しい料理が完成する。恐るべき腕前だ。
赤城は無心で出された料理を口に運び始めた。一口が人間としては大きいからなのか、次々と皿が綺麗になっては彼女の横に積み上げられていく。
カービィは「いただきまーす!」とわざわざ手を合わせてから食事を始めた。随分と可愛らしく始めた彼であるが、食べる速度は尋常ではない。もはや「吸い込んでいる」と錯覚する速度で皿を重ねていった。
最初こそサラダや味噌汁、白米と言った比較的体に良い料理が出されていたが、気が付けばステーキやらムニエルやらポトフやらと胃袋が膨れる料理だらけになった。それでも二人の食事ペースが一切落ちていないのは流石と言ったところだろうか。
「んん~! 美味しいね! いくらでも食べられそうだよ!」
「はふはふ、ガツガツ……」
「あれ、苦しそうだけどだいじょーぶ? 無理したらダメだよ?」
「んぐっ。し、心配される必要はありません! 貴方こそ、無理ならリタイアしても良いんですよ?」
「えー、こんな美味しい料理をたくさん食べられるのにリタイアなんて絶対にイヤだよ!」
数にして既に二十人前。時計を見ればまだ数分しか経過していない。この短時間でそれだけの量を食べられる二人を称賛するべきなのか、それらの料理を作り上げた間宮に驚愕するべきなのか。
それにしても、赤城が少し苦しそうな顔をしているのに対してカービィは余裕綽々である。無限許容量を誇るブラックホール胃袋は伊達じゃない。
「あの、すみません……もう食材がないです」
その時である。間宮が申し訳なさそうな顔をして厨房から出て来たのは。
まあ、それも仕方のない事だ。朝食のために消費した食材。そして夜にカービィが食した料理の分。それだけでもバカにならない出費であるのだが、泣きっ面にハチが如く大食い対決まで注文されてしまった。むしろ、よく二十人前(を二人分なので合計四十人前)もこの短時間で作れたなと褒めるべきだろう。
「(た、助かりました……)」
内心で冷や汗を流していた赤城は安堵する。想定を遥かに超えるカービィの食欲には到底勝てないと思い始めていたのである。
一方でまだ余裕なカービィ。少し残念そうではあったが、「食材がないなら仕方がないよね」と言ってから「ごちそーさまでした!」と手を合わせた。
さり気なく零された「まだ余裕です」発言に全員が戦慄する中、カービィは間宮に一つ質問をした。
「ねえねえ、料理で使わなかった部分はある? 例えばキャベツの芯とかニンジンのヘタとか」
「ありますけど……それをどうするんですか?」
所謂「ゴミ」はあるのか? と問うカービィを訝しがる間宮。カービィは「ふふふ」と得意げに笑うと、間宮に耳打ちする。
「ええ!? そ、そんなことができるんですか!?」
「もちろんだよ! そんなわけだから、少し厨房を借りるね」
箸を持って席を立つと、カービィは箸をさも当然かのように口の中へ放り込んだ。そして、これまた当然といった具合に飲み込む。ゴクリと、ごく普通に。それこそ食べ物を飲み込むかのように。
驚いたのはそれを見ていた者だ。何の躊躇いもなく「箸」を飲み込み、しかも平然としているその姿に驚愕しない者は居ない。大食い対決中は静かであった食堂であるが、カービィの行動によって一気に喧しくなった。
だが、驚愕の上へ更に驚愕を重ねるのがカービィである。
ポンッ! とメルヘンチックな効果音と共に、カービィの頭にはシェフ帽が、手には特徴的な形をした大鍋が現れた。
コピー能力〝コック〟の登場である。
「それじゃあ、作って来るね!」
「いやいやいやいや待て待て待て待て!」
真っ先に提督が立ち上がって駆け寄る。これを見て驚かない方がおかしい。箸を食べたと思ったら、今度はシェフ帽と大鍋が現れた。意味が分からない。もう提督の脳内はオーバーヒートを起こす寸前である。
カービィにとってはこれが当然なため、提督がなぜ驚いているのか理解してない。キョトンとした表情である。
「ちょっと色々聞きたいけど、これだけは教えてくれ! 何をしたんだ!?」
「何って、コピー能力を発現しただけだよ?」
「こ、コピー能力? 発現? なんだよそれ。見たことも聞いたこともない言葉だな」
当たり前である。この世界にコピー能力という概念は存在しないのだから。存在している方がおかしいのだが。
「うーん、説明するのは難しいからなあ。とりあえず、これから料理するからその様子を見るのはどうかな?」
「……そうしよう」
それ以上は何も言わず、黙って二人は厨房に入っていく。二人が厨房に入ったのを見届けた艦娘たちであるが、野次馬をしたい欲が働いて後から厨房に入っていった。
カービィは大鍋を火にかけると、いつの間にか入っていた水が沸騰するのを待ってから料理の残りカスなり料理に必要のないゴミなりを鍋に放り入れ始めた。
魚の骨。肉の筋。野菜や果物の皮や種。ヘタ。芯。とにかく使わないので捨てる予定であった物は全て鍋に入った。
それだけでも十二分に信じられない光景であるが、驚くべき光景はその次にあった。
どこから取り出したのか分からないお玉で鍋をかき混ぜながらマジックのように現れた調味料を足していき、数十秒もすれば完成だ。めちゃくちゃ短いが、本当にこれで完成である。
手を止めたカービィに話しかけようとする提督だが、喉まで出かかった言葉を彼は飲み込む。その理由は……。
「お。おいおい。何だこれは」
大鍋から無数の料理がぴょんぴょんと飛び出してきたからである。しかも、ご丁寧に皿に盛りつけられて美味しそうな状態で。
出来立てだからなのか、湯気と共に美味しそうな匂いが辺りに充満する。一目見ただけでは、捨てる予定であったゴミから生まれたとは夢にも思わないだろう。
「はい、完成だよ!」
「え、これで完成なのか? 料理を始めてから数十秒な気がするんだけど、本当にこれで完成?」
「うん! ほら、食べてみて!」
カービィが手に取ったのは寿司である。マグロがシャリの上にちょこんと乗っている、見た目は普通のタイプの寿司だ。ご丁寧に醤油もある。鍋から生まれたとはとても思えない。
鍋に放り込んでいた物が訳ありなだけに、提督は少しの間躊躇う。しかし、カービィの作った物なら大丈夫だろうという謎の安心感から覚悟を決めると、寿司を一貫手掴みして口に含んだ。
「あ、普通に美味しいな」
「でしょ?」
原材料からは想像もつかないほど、普通にポピュラーなマグロ寿司の味がした。流石に一流板前の握った物には劣るが、この超短時間で生まれたにしては美味しすぎるぐらいだ。
「この鍋に入れて煮込んだ食材は、体に影響のある毒素だけを抜かれるんだよ。それにこの調味料を使えば『マズい』と思う味にはならないからね。安心して良いよ」
「骨や皮からどうやってこんな料理が生まれるのかは謎だが……うん、これは良いな。食材を無駄にしないで済むじゃないか。戦時中付き物の糧食問題も解決できそうだ」
環境保全に役立つ。さらに捨てるのが面倒くさい生ゴミも減らせる。そう思った提督は感心するのだった。
ちなみに、かなりの量生まれた料理群は当面の艦娘たちの昼食とおやつ、そして夕食になった。家庭的なその味にホッとした気分になる艦娘が続出したのはまた別のお話である。
*コックの大鍋と調味料について
→コックってよく考えたらチート能力なんですよね。有機物でも無機物でも大鍋に放り込んでグツグツ煮込み、調味料をパパっと入れてお玉で混ぜれば美味しい料理の完成です。今作でのコックはそんな「何気にエグい力」を出来る限り説明しようとした結果、かなりのとんでも設定が生まれました。
*なぜに赤城さん?
→カービィは大食い。赤城さんも大食いです。さらに見た目は可憐か可愛いかのどちらかでとても大食いには見えません。このように、なるべくメインとなる登場人物とカービィに接点がある人物を選んでいます。カービィにコピー能力があることを考えれば組み合わせの幅はかなり広いです。
(赤城さんを知らないなら立ち絵を調べましょう。めっちゃ綺麗です)
余談ですが、私はちょっとした時間に見れる物語として3000~4000文字ぐらいで描いています。それに加えてなるべく一つの話で完結できるようにしています。完結しない場合は最初に予告しますのでご安心ください。