それとサブタイで分かるように今回は一話完結ではないですし、通常よりも文字数が多めになります。
「ねえねえ、夕立と楽しいパーティーしましょう!」
「パーティー? ご馳走を食べるの?!」
「違う、違うっぽい! そのパーティーじゃないっぽい~!」
マルロクサンマル。現在カービィは白露型の部屋に招かれている。早寝早起きのカービィは、鎮守府内を朝から散歩していると偶然にも白露型四番艦の夕立に出会った。
「折角だから」という強引な理由で引きずられるように部屋へ連れ込まれたカービィは、現在夕立の抱き枕になっている。男からすれば羨ましい。
(作者も羨ましいと思っている)
(え、けしからんだろ?)
ぽよぽよと撫でられたり抱き締められたり。扱いがペットに似ている気もするが……。
まあそれは良い。彼にとって問題なのは、夕立が告げた「楽しいパーティー」についてだ。
「夕立ね。提督さんのためにもっと、もっと強くなりたいの。だから貴方に戦いの稽古をつけてほしいっぽい」
「それを何で僕に? 僕は争い事とは無縁でいるか弱い『そんなことないっぽい』……え?」
「貴方、とっても強いっぽい。みんな言ってないだけで、貴方がこの鎮守府の誰よりも強いのは気が付いてるぽい」
流石に彼を見た瞬間から「カービィは強い」と察せた者は提督を除いて居ないらしい。だが、彼がコックの能力を行使するのを見て何となく察した艦娘は多いようだ。
元よりカービィは長年あちこちを渡り歩いてきた旅人。経験豊富な「大人」と見ている者も多い。経験豊富=戦闘力も高いと考える事もある。彼が「強いのではないか?」と思われるのは案外当然のことだったりする。
しかし、ここで一つ勘違いしてはいけないことがある。それは……。
「うーん……でも、僕は戦うのが嫌いなんだ。これは僕のわがままだけど、出来れば戦うことは避けたいかな……」
カービィは別に戦闘狂ではない、ということだ。必要とあらば全力で歴史の闇に永遠に屠るだけの凄惨な覚悟を常に決めているが、無暗に誰それ構わず戦いを仕掛けるような人物ではない。強者を見つけ次第、戦闘を望む仮面の剣士とは大違いである。
何より、彼は艦娘がどうして戦うのか。そしてどうして力を常に欲しているのかを知らない。ましてやこの世界の状態を知っているはずがない。
そんなカービィが、例え稽古という形であっても戦おうとはしないだろう。
「そんなに力を欲するのは何で? 提督のためってのは分かったけど、それ以外にもあるの?」
というかあってほしい。ひたすらに力と強者を求める戦闘狂ではないはず。そんな願望も込めて、彼は夕立に尋ねる。
「夕立、もっと強くなって提督さんとこの鎮守府を守りたいっぽい。もっともっと強くなって、提督さんを毎日困らせている深海棲艦を絶滅したいっぽい!」
「絶滅……?」
不穏な響きの言葉には敏感なカービィ。深海棲艦という初めて聞くワードにも関心が行くが、それ以上に危うい動機で力を求める夕立を心配する気持ちが膨れ上がった。
この非常に短い時間で、彼は鎮守府に所属する艦娘全員が提督に対して病的なまでの愛情を持っていることを察している。
人を愛することは悪いことではない。しかし、「対象を困らせる悪者を絶滅させる」という危険かつ行き過ぎた感情を持つのは間違っている。カービィはそう思っている。
改心こそしたが、主を慕うがあまり敵対者に異常なまでの殺意を向ける三人の修道女を知っているからなのか、カービィはとあることを決意した。
「……分かった。一回だけなら付き合うよ」
「本当に!? やったぽい!」
「僕は少し準備するから先に行ってくれる? そんなに時間はかからないからね」
表面上は笑顔で、カービィは一度その場を立ち去った。去り際に集合場所を聞いた彼は、提督が借してくれた部屋に大急ぎで向かってとある物を取り出す。
取り出したのは長年連れ添った相棒だ。今は小さく収まっているが、それに構わずカービィは手にして部屋を走り去る。
集合にしていされた場所は、普段から艦娘が使用している演習場だ。実戦形式の訓練から基礎訓練まで何でもござれの優秀な場所である。人が出払ってしまえば、ではあるが本気と本気の力のぶつけ合いも可能だ。
「夕立ちゃん、お待たせ」
タイミング良くワープスターが巨大化。等倍の大きさに戻る。それに乗り込むと、カービィは演習場に足を踏み入れた。
夕立は既に準備運動込みで何時でも動ける状態だ。カービィが演習場に入ってきたのを見て目をキラキラさせる。カービィも微笑んではいる。が、どこか目は寂しげ。本当に僅かな変化なので気がつける者はいなかったが。
「それじゃあ始めるぽい! ルールは先に気絶した方が負け! あとは命を奪うのは当然だけど禁止っぽい!」
「分かったよ。あ、戦い方に指定はある? 剣を使うのは禁止だよ! みたいな」
「特にないっぽい! 強いて頼むなら、貴方の本気を是非とも見せてほしいっぽい!」
コクリ。静かに、しかし力強くカービィは頷いてニッコリと笑った。
軽く彼が目を閉じ、ほんの少しだけ念じればコピー能力は発動する。前回は箸を飲むことでシェフ帽が出現したが、今回は別のコピー能力だ。
黄緑色の三角帽子。帽子のてっぺんには黄色い球体。手には一振りの剣。
「コピー能力〝ソード〟。今回はこれで行くよ!」
「わあ、剣士さんっぽい!? すっごくカッコ可愛いっぽい~!」
「可愛いだけじゃないよ! あまり油断していると、すぐに終わっちゃうからね?」
あくまでも彼はニコニコしている。だが、戦闘経験を重ねた者には、カービィの姿は「ピンクの悪魔」に見えるだろう。何十年と戦い続けた戦士の威圧感は半端ではない。
夕立の戦闘経験はカービィほどではないがそれなりに長い。前世も含めれば結構な長さになる。
その夕立が、今ではこうして額に脂汗をかいている。リアルソロモンの悪夢を巻き起こした、あの歴戦の駆逐艦夕立が、だ。
「……楽しめそうっぽい!」
ほんわかとした空気が一瞬で重苦しくなる。ギラリと犬歯を剥き、獰猛な笑みを浮かべる夕立の姿は正しく「狂犬」だ。恐ろしい。
しかし、見る者が見ればそれ以上に恐ろしいのはカービィの方だ。審判を任された艦娘は今にも泣きそうな顔になっている。
「さあ、素敵なパーティーを始めましょう?」
ドパアン! ドパアン! ドパアン!
機関最大戦速。動き出すと同時に、夕立は「まずは小手調べ」と言わんばかりに牽制射撃をする。牽制、と言っても狙いは恐ろしいぐらいに正確だ。回避行動をしなければ急所に命中するだろう。
セオリー通りならば、牽制射撃であっても食らわないように回避行動を選択するだろう。しかし、カービィがセオリー通りに動くと思ったら大間違いだ。
「スカイエナジーソード!」
頭上に掲げた剣から光が迸る。と、思えばすぐに三日月型のビームが剣から発射された。
飛来した砲弾を難なく撃ち落とすという神業をいとも簡単にやってのけると、間髪入れることなく剣を振り回し、マシンガンのように通常のソードビームが発射。様々な軌道を描くように飛ばす。
夕立は回避を選択することはなく、そのまま真っ直ぐ突っ切るようにダッシュする。自分に被弾しそうなソードビームだけ主砲で薙ぎ払うことで隙を最小限に減らし、追撃を躱す形を咄嗟に取るのは歴戦の駆逐艦がなせる技と言える。
「あっはははは、やっぱり強いっぽい! でも、これは躱せるかしらっ!」
ぽいぽいっと空中に何かを投げると、彼女はそれを機関砲で正確に撃ち抜いていく。
不思議な顔をするカービィだったが、すぐに嫌な予感がしてその場を全速力で移動する。ワープスターが音を立ててその場を立ち去ると同時に、辺り一帯は爆発に包まれた。
夕立が投げつけたのは、本来なら潜水艦への攻撃に使う兵装の爆雷である。しかし、通常の砲撃だけでは勝てないと察した夕立は目眩まし兼牽制として爆雷を投げつけ、それを機関砲で撃ち抜いたというわけだ。
ちなみにワープスターが浮いているので魚雷攻撃は通用しない。それでも夕立は、この爆雷の爆発に紛れて魚雷を数発忍ばせている。
確かに魚雷は直接命中はしない。だが、それは何もしなかった場合だ。
「そこっぽい!」
ドガアン! ザパア!
「うわあっ!?」
これまた神業。魚雷を主砲で正確に撃ち抜き、起爆させることで発生する水飛沫で攻撃を行う。常識に囚われない戦い方をする夕立だからこその奇襲攻撃だ。
移動先を読んで置かれた魚雷が起こす水飛沫によってあたふたするカービィを見逃さず、夕立はすかさず主砲と機関砲で本命の攻撃を仕掛ける。
一発でも直撃したら助かるかは怪しい。そう直感的に察したカービィの表情が一層引き締まる。多少の水飛沫は回避せずに突っ込み、致命傷になりそうな攻撃だけを弾き飛ばして回避。遠距離戦を避けるためにも少しずつ距離を詰めていく。
「っ、スピニングソード! ドリルスラッシュ! ……あぶなかったぁ」
「ふふ、流石っぽい。砲弾を打ち落とすなんて初めて見たっぽい!」
「僕だって初めて見たよ。こんな破天荒な戦いをするなんてね」
「でも」と一言置くと、カービィはワープスターを動かしてあっという間に距離を詰めた。
「この距離ならどうかな? この剣の本領はここからだよ!」
今度は交戦距離ヒトマル以内の超接近戦である。
ガキッ! ガキン!
「っと……そう簡単にはやらせないよ!」
更に距離を詰めて主砲に斬りつけることで主力攻撃手段を封じ、クルクルとワープスターを旋回することで力を分散させてパワーのハンデを埋めるカービィに、夕立もギラリと犬歯を輝かせる。
と、膠着に思えたこの状況を打破するため。カービィはグルリと剣を回して夕立の主砲をはね除ける。そして、
「切り上げスラッシュ!」
一気に斬り、更に上昇した。不意の動きに反応しきれなかった夕立は何とか主砲で防御するが、それでも軽く後ろに飛ばされる。
上昇の頂点に達したカービィは、体を一回転させて「空を蹴る」。さっきとは真逆の軌道を描いて繰り出される剣技は、咄嗟に身を捩ることで辛うじて回避した夕立が戦慄する破壊力を持つ一撃となった。
「……メテオエンド」
水面が割れ、激烈という言葉でも足りない暴風が吹き荒れる。風によって巻き上げられた海水が壁のようにそそり立つ姿を見た夕立はタラリと冷や汗を流した。
もちろん、カービィが繰り出した剣技に対して流した冷や汗もある。だがそれ以上に、技を終えた直後のカービィが発していた殺気が恐ろしかったのだ。あれだけ天真爛漫な姿を見ていただけに、ショックも大きい。
もっとも、そこまでの殺気をカービィが発したのは余裕がなかったからだ。単に無力化するだけならここまでの殺気は出さないし、格下相手ならもっと表情に余裕が生まれる。
それほどにまで、夕立は強いのである。
「あ、危なかったぽい。一発でも受けたら負けちゃいそうっぽい……」
「次は外さないよ。もう、終わりにする。この戦い、僕はもう続けたくない」
最初と同じように剣が発光する。敵意のない人と長くは戦いたくない。無駄な争いは極力避けたい。そんな彼の願いを悟ったかのように剣は輝きを増していく。
戦うことの虚しさを知っているからこその彼の言動。しかし、愛によって暴走している彼女には訳が分からなかった。
夕立は楽しかった。久しぶりに現れた強敵と戦えて楽しかった。力を欲するために戦い続けた夕立は、彼女自身も気がつかないうちにバトルジャンキーへと変えてしまっていた。
可愛らしい語尾と見た目からはまるで想像もできない夕立の内面。それを何となく察したカービィの顔には、少しだけ悲しいといった笑みが浮かんでいた。
「うん、分からなよね。僕の言いたいこと。それに思ってること。でも、それでも良いよ。僕の考えはとても甘いものだし、戦うことが好きな夕立ちゃんには理解できないと思うよ」
「……ごめんなさいっぽい」
「ううん。夕立ちゃんは悪くないよ。でも、いつか分かってくれると嬉しいな」
ジャキッと剣の切っ先を後ろに向くように構えると、カービィの顔からは悲しみの笑顔が消えた。代わりに現れたのはキリッとした真面目な表情。
夕立がゾクッと寒気を感じた時には、もうカービィは動き始めていた。
キラキラと星が煌めく。水飛沫が宙を舞う。全速力で接近を開始したワープスターは、瞬きを一つした瞬間にはもう目の前にカービィの顔があった。
「ぽいっ!?」
「行くよ、回転斬り!!」
剣を水平に構え、突進しながらも回転して激突する。コピー能力ソード最強の必殺技「回転斬り」だ。本来の技と違った点と言えば、刃ではなく剣の腹を夕立にぶつけたことだろうか。
斬るのではない。回転によって捕らえた対象を振り回し、三半規管を狂わせて気絶まで追い込むというある意味で神業である。
「ええええーい!」
最後に一振り。強烈な高速回転によって生まれた遠心力によって夕立は吹き飛ばされた。
「……ごめんね」
気絶して水面に叩き付けられる夕立を助けるためにワープスターを動かすカービィは、誰にも聞こえない声でぼそりと呟いた……。
最初はビームで描いてたけど行き詰ったという裏話ありです()
シリアスなカービィちゃん多めなのはご了承ください……。