「……うん、気絶してるだけだね。艤装は少し修理しないとだけど、夕立ちゃん本人には問題ないよ」
「よ、良かったぁ……手加減がしっかり出来てるか心配だったんだ」
ホッと胸をなで下ろすカービィを見て、工作艦明石は苦笑いする。明石は破損した艤装の修理や軽い怪我の治療といった医者的面や、新しい兵器を開発する技術者的な面を持つ艦娘だ。またの名を鎮守府のドラ○もんである。
夕立の艤装は多少傷ついた程度で収まり、夕立本人には殆ど損害がないという神業をも超えた何かを見せても尚、こんな変わった態度を見せるカービィを明石は気に入った。
「艦娘は人間より遥かに頑丈だから、そう簡単には死なないけどね」
「うーん、そうなの? だとしても、夕立ちゃんの命の危険を顧みない戦い方は変えてほしいなあ……」
明石は首をかしげる。艦娘が人間より頑丈であり、ただ感情を持つだけの兵器であることは周知の事実だ。この鎮守府の提督のように一人の人間扱いする者は少ないし、何より「兵器である」ということは艦娘自身が一番よく知っている。
それを詳しく知らないカービィとはいえ、彼の言い分は明石からすれば理解がし難い物である。すぐ後に彼が告げた、カービィ自身の持論を聞いたことで尚更混乱する。
「僕より間違いなく年下の、それも女の子だけが戦うのはなあ。それどころか、命を落とすことに抵抗がないのも僕は理解できないよ」
「え、待って。カービィちゃんの方が私たちよりも年上なの?!」
「数えるのは止めちゃったけどね。もう250は行ったんじゃないかな。プププランドにやって来るまでも旅をしてたし、そもそも生まれたのが数えるのも嫌になるぐらい昔だし」
正直なところ、彼女が一番驚いたのはカービィが艦娘よりも年上だということだ。ものすごくサラッと明かされたが250である。250である。大切なことなので二回言った。それこそ、江戸幕府が成立して滅亡するぐらいの月日を生きたというのだ。
原理不明な肉体。ブラックホールのような胃袋。多彩なコピー能力。なんだかんだで艦娘を凌駕する戦闘能力。戦闘能力と同じぐらい強い不殺のココロ。そして、膨大な年月を意外と余裕で生きれる生命力。
カービィへの興味は尽きない。
しかし、もっと質問しようとしたところで明石は仕事へ戻ろなければならない時間になってしまった。
「あれ、もうこんな時間だ!? もう行かなくちゃ!」
ガタリと立ち上がる明石。倒れそうになる椅子を押さえつけて物音が鳴らないように直してから、明石は扉へと向かった。
「それじゃあ、私はまだ仕事があるから。夕立ちゃんは貴方が見てくれるかな? 夕立ちゃんが問題なさそうならここを出ても大丈夫だからね」
「分かった、僕に任せてね!」
丸椅子から飛び降りると、カービィは夕立の寝るベッドに飛び移る。まるで重さを感じさせない動きでベッドに音を立てず登ると、カービィは夕立の髪の毛を優しく撫で始めた。
その様子を見た明石は微笑みながら退席する。ちょうど休憩時間だったところに夕立の診察に当たったので、実はほんの少しだが不機嫌になりそうだった明石。しかし、カービィのコロコロと変わる表情を見てからは上機嫌である。
「随分と賑やかなお客さんがやって来たなあ」
明石の呟きは扉の向こうに消えていった。
さて、場面は変わってカービィと夕立に移ろう。数分其処らで夕立が目覚めるわけではないので、明石が去ってから二人の状態は特に変わりない。
強いて言うなら、カービィに撫でられることで時折夕立が微笑むぐらいだろうか。
天真爛漫な表情からはおよそ想像がつかないほど慈愛に満ちた笑みを向け続けたカービィは、そのうち夕立と同じベッドで寝てしまった。
次に彼が目を覚ますと、夕立は先に起きていた。ついさっきとは真逆でカービィのことをジーッと見つめている。
「ん……あ、夕立ちゃん。目が覚めたんだね。良かったあ」
ピョコッと起き上がったカービィを、夕立はクスクスと笑いながら見つめる。ついさっきまで、彼女はカービィの寝顔を堪能してたのである。可愛いのはもちろんだが、どこか凛々しいと感じる寝顔だったと夕立は回想する。
実は、ほんのちょっとだけドキリとしたのは内緒だ。可愛い人が唐突に見せる勇ましい顔が、どこかドキッと感じるのと同じだ。
「夕立、完敗っぽい。戦闘技術はそれなりに自信あったし、戦いに対する心構えもできてるつもりだったぽい。でも、実際は心技体全て負けてたっぽい。でも……」
犬耳のような癖っ毛が、どんな原理なのかシュンと垂れ下がる。まあ、彼女の渾名は「ぽいぬ」だ。犬っぽくなるのも分かる話である。そんなことを一切知らないカービィですらも犬っぽいと思うぐらいなのだから、もう夕立は犬と人間の融合した何かみたいなものだろう。
落ち込む夕立だが、それ以上にカービィが口にした言葉が耳に残って離れない。
「この戦い、僕はもう続けたくない」
戦いを楽しんでいた夕立からすれば、カービィのこの言葉は不思議以外の何物でもない。
鎮守府内にも不殺を貫きたいと思う艦娘は数こそ少ないが、一応存在している。しかし、そんな思いを密かに抱く艦娘ですらも「戦時中だから」「話が通じないから」という理由で半ば諦めているのが現状だ。
それはカービィも察したのか、夕立が質問をする前に自分で答えを告げた。
「君は。君たちはまだ若い女の子じゃないか」
「へ?」
「君は未来ある若い女の子なのに、命を簡単に捨てるような戦い方をしてるとなれば、止めるのも続行を拒否するのも当然でしょ?」
ぽいぃ……? と首をかしげる夕立。
もっと大層な理由があると思っていただけに拍子抜けした夕立は、カービィに批判の言葉を告げようとして……できなかった。
眩しすぎるぐらいに真っ直ぐで、そしてどこまでも純粋な彼の瞳に射貫かれて、反論ができなかった。
「全ての艦娘が君と同じなのかは知らない。これまで長い年月を戦ったけど、僕は死ぬ気で誰かを守ろうとしたこともないから君の気持ちの大部分も理解ができない。でもね」
ニコリ、と直視も難しいほどの眩しい笑顔でカービィは告げる。
「自分自身の幸せを、もっと追ってみても罰は当たらないんじゃないかな?」
「自分自身の……幸せっぽい?」
まだ理解が追いついていない夕立。それを察したカービィは、優しい表情を崩さずに軽く首……ではなく体を横に振った。
「今は理解しきれなくても構わない」
そんな意思を感じ取ったのか、夕立は相変わらず唸ったままではあるが、一端は考えを切り上げることにした。
非常に長い年月を戦い抜いたカービィも、戦うときは常に知らない誰かの笑顔を守るため、または取り戻すために行動してきた。しかし、その行動の中には「自分の幸福を守る」という理由もしっかりと含まれている。
あるときは自分を含めた「夢」を守るために。またあるときは、色が抜けて食べることができなくなった「リンゴ」のために。盗まれた「ケーキ」のために。彼はついでと言わんばかりに世界を救ってきた。
もちろん、悪を止めるために戦ったこともある。だが、彼の戦闘動機の多くは「自分のため」であったりする。
「自分の幸福以上に大切な物はないよ。君が生きているだけで幸せになれる人だっているんだからね。そう簡単に命を投げ出すのはダメだよ」
「……分かったぽい」
「よし! 良い子だね!」
「わ、わあっ。いきなりワシャワシャしないでほしいっぽい!」
ピョンッと夕立に抱きつき、彼女の髪の毛をワシャワシャと撫で回すカービィ。
口では咎めるような声を出す夕立だが、表情が声とは真逆である。「にへー」と年相応の笑みを浮かべている。
「そーだ。夕立ちゃんの傷は浅いみたいだからもう動けると思うんだけど、何かして遊ぶ? 夕立ちゃんの好きなことで良いよ!」
「え、本当に!? 夕立、いっぱい遊びたいっぽい!」
空気は一転。花が咲いたように笑みを零す夕立と、それを明るい笑顔で見つめるカービィを優しく太陽が照らす。
「鎮守府の裏側に芝生広場があるっぽい! そこでフリスビーを投げて遊ぶっぽい!」
「よーし、それじゃあ早速行こうか!」
「ぽい!」
彼女に尻尾があるのなら、きっとブンブンと激しく振られていたに違いない。その証拠として、犬耳のような癖毛はピコピコと忙しなく動いている。
ベッドから跳ね起き、「フリスビーを取ってくるっぽい!」と告げてから猛ダッシュで部屋を出て行った夕立を見送ると、カービィは誰ともなく言葉を零した。
「……そうだ。それで良いんだよ。そうやって、ただ純真無垢に笑っていれば良いのさ」
戦うのはまだ良い。
でも、死んでしまうのはあまりにも悲しすぎる。
それ以上に、心から笑えなくなったらもっと悲しい。
だから、せめて君たちだけでも。
「この世界に滞在する間だけでも良い。僕が、みんなの笑顔を守らないとね……」
戦士でも旅人でもない。ただ一人の生物として、途方もなく巨大で叶えられそうにない願いを抱く。
……いや、不可能ではないだろう。
彼は、
次回は「カービィと明石」か「カービィと川内」辺りかなあ……()
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